(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674874
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷を用いたエッチング方法
(51)【国際特許分類】
B05D 3/10 20060101AFI20200323BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20200323BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20200323BHJP
C23F 1/00 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
B05D3/10 C
B05D1/26 Z
B05D5/12 B
C23F1/00 101
【請求項の数】20
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-179670(P2016-179670)
(22)【出願日】2016年9月14日
(65)【公開番号】特開2017-64701(P2017-64701A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2019年9月6日
(31)【優先権主張番号】14/867,730
(32)【優先日】2015年9月28日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス・アール・ラーソン
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・ジェイ・フォルキンス
(72)【発明者】
【氏名】チュ−ヘン・リウ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイン・エイ・ブチャー
(72)【発明者】
【氏名】マンダキニ・カナンゴ
(72)【発明者】
【氏名】サントク・バデシャ
【審査官】
伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−047402(JP,A)
【文献】
特表2015−501541(JP,A)
【文献】
特開2007−107103(JP,A)
【文献】
特開2006−057148(JP,A)
【文献】
特開2001−185526(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/018691(WO,A1)
【文献】
特表2013−525946(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0008787(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00− 7/26
C23F 1/00− 1/46
H01L 21/3213,
21/768,
27/28,
51/05−51/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性膜にパターン形成するプロセスであって、このプロセスは、
基材表面に堆積した前記導電性膜を含む前記基材を提供することと、
前記導電性膜を親水性プライマー層でコーティングすることと、
インクジェットプリンタからエッチング剤の液滴を前記プライマー層に画像状のパターンに放出することと、
前記プライマー層に放出した前記エッチング剤を、前記プライマー層を通過させて前記導電性膜に浸透させることと、
前記エッチング剤が浸透した前記導電性膜の領域を化学変換して、前記エッチング剤が浸透していない前記導電性膜の領域より導電性の低いパターンを形成して、前記導電性膜にパターン形成することと、
前記基材から前記プライマー層を除去することと
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記導電性膜が疎水性である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記導電性膜が有機膜である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記有機膜が、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン;ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレン、ポリフルオレン、ポリイソチアナフタレン、ポリイソナフトチオフェン、ポリジアセチレン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリアセン、ポリチアジル、ポリ(エチレンビニレン)、ポリパラフェニレン、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリ(チエニレンビニレン)およびポリフェニレンスルフィドからなる群から選択される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記有機膜が、ポリチオフェン、ポリビチオフェン、ポリイソチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリイソナフトチオフェン、ポリドデシルチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)またはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT−PSS)からなる群から選択される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項6】
前記導電性膜が、金属および導電性非金属からなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記プライマー層でコーティングすることは、
ワックス状デンプンと、
液体担体と
を含む成分から作られる濡れたコーティング組成物を前記基材に堆積させることと、
濡れたコーティング組成物を乾燥させ、前記プライマー層を作製することと
をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記濡れたコーティング組成物は、スプレーコーティング、ロールコーティング、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スタンプ印刷、ダイ押出コーティング、フレキソコーティングおよびグラビアコーティング、および/またはブレードコーティング技術からなる群から選択されるコーティング技術によって塗布される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ワックス状デンプンは、ワックス状トウモロコシデンプン、ワックス状コメデンプン、ワックス状キャッサバデンプン、ワックス状ジャガイモデンプン、ワックス状コムギデンプンおよびワックス状オオムギデンプンからなる群から選択される少なくとも1つのデンプンを含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
前記濡れたコーティング組成物は、さらに、少なくとも1つの吸湿性材料を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項11】
前記少なくとも1つの吸湿性材料は、グリセロール、ソルビトール、グリコール、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記濡れたコーティング組成物は、さらに、少なくとも1つの界面活性剤を含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項13】
前記少なくとも1つの界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記濡れたコーティング組成物は、さらに、少なくとも1つの界面活性剤を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項15】
前記濡れたコーティング組成物は、さらに、ポリビニルアルコール、ビニルアルコールとアルケンモノマーとのコポリマー、ポリ(アクリル酸)−ポリ(ビニルアルコール)コポリマー、ポリビニルアルコール−アクリル酸−メタクリル酸メチルコポリマー、およびポリ(ビニルアルコール−コ−アスパラギン酸)コポリマーからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項16】
前記液体担体は水系担体である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項17】
前記エッチング剤は、前記導電性膜の一部を、前記導電性膜よりも導電性が低い材料に変換する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項18】
前記エッチング剤が、少なくとも1つの酸化剤を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項19】
前記少なくとも1つの酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液および過酸化水素溶液からなる群から選択される、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記エッチング剤は、前記導電性膜の一部を除去し、導電性パターンを形成する、請求項1に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に、インクジェットプリンタを用いたエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機導電性膜、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(「PEDOT」)(有機導電体)は、エッチング剤、例えば、次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いた処理によって非導電性にすることができる。有機導電性膜にパターン形成するための既知のプロセスとしては、導電性膜の上にマスクを形成し、その後、マスクが形成された導電性膜をエッチング剤の浴に浸漬し、有機導電体の露出した領域が非導電性領域に変換され、それによって、非導電性領域によって分割された導電性領域の望ましいパターンを形成することを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
マスク層の選択的な堆積のためにインクジェット印刷技術を使用することも当該技術分野で周知である。例えば、エッチングマスクを生成するために、インクジェット印刷技術によって堆積したインクの選択的な堆積が用いられてきた。しかし、エッチングマスクの使用は、一般的に、このマスクの除去を含む。マスクのパターン形成および除去は、エッチングプロセスをさらに複雑にし、時間を消費し、および/または高価にする場合がある。
【0004】
画像状のエッチングを達成するために、エッチングされる膜に直接エッチング溶液を選択的に与える技術も当該技術分野で知られている。このような技術によって、このプロセスはエッチングマスクを使用しなくてよい。しかし、このようなプロセスの問題点は、望ましい画質が実現されない場合があることである。
【0005】
インクジェットプリンタによるエッチング剤の選択的な堆積を伴うプロセスのための改良された画質を与える技術は、当該技術分野で歓迎される工程の進歩であろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態は、導電性膜にパターン形成するプロセスに関する。このプロセスは、基材表面に堆積した導電性膜を含む基材を提供することを含む。導電性膜を親水性プライマー層でコーティングする。インクジェットプリンタからエッチング剤の液滴をプライマー層に画像状のパターンに放出し、導電性膜にパターン形成する。基材からプライマー層を除去する。
【0007】
本開示の犠牲コーティング組成物は、以下の1つ以上の利点を与えることができる:水相エッチング剤によって導電層表面を濡らすことができるプロセス;マスクを用いずに導電性層をエッチングすることができるプロセス;犠牲親水性プライマー層を用いない同じプロセスと比較して、犠牲親水性プライマー層を使用し、改良されたエッチングパターンの品質を与えるプロセス。
【0008】
上の一般的な記載および以下の詳細な記載の両方が例示的であり、単なる説明であり、特許請求の範囲に記載されるような本教示を制限するものではないことを理解すべきである。
【0009】
添付の図面は、本明細書の一部に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、本教示の実施形態を示し、本記載と共に、本教示の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、本開示の実施形態にかかる導電性膜にパターン形成するプロセスを示す。
【
図1B】
図1Bは、本開示の実施形態にかかる導電性膜にパターン形成するプロセスを示す。
【
図1C】
図1Cは、本開示の実施形態にかかる導電性膜にパターン形成するプロセスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面のいくつかの詳細は単純化されており、厳格な構造の正確さ、詳細および縮尺を維持するのではなく、実施形態を理解しやすくするように描かれることを注記すべきである。
【0012】
本教示の実施形態について詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。図面において、全体で同一の要素を示すために同じ参照番号を使用した。以下の記載では、その一部を形成する添付の図面を参照し、本教示を実施し得る特定の例示的な実施形態を説明することによって示される。従って、以下の記載は、単なる例示である。
【0013】
本明細書で使用する場合、「親水性」という用語は、水分子を引き寄せる任意の組成物または化合物を指す。本明細書で使用する場合、親水性組成物という言及は、親水性薬剤を保有する液体担体を指す。液体担体の例としては、限定されないが、分散物、懸濁物または溶液を保有する液体、例えば、水またはアルコールが挙げられる。
【0014】
本明細書で使用する場合、乾燥した層または乾燥したコーティングとの言及は、液体担体のすべてまたはかなりの部分が乾燥プロセスによって組成物から除去された後の親水性化合物の配置を指す。以下にさらに詳細に記載するように、間接的なインクジェットプリンタは、親水性組成物の層を塗布するために液体担体(例えば、水)を用い、中間転写体表面に親水性組成物の層を形成する。液体担体を、親水性組成物を画像受け入れ表面に運び、画像受け入れ表面に親水性組成物の均一な層を形成する機構として用いる。
【0015】
図1A〜
図1Cを参照すると、本開示の一実施形態は、導電性膜10にパターン形成するプロセスに関する。このプロセスは、表面に配置された導電性膜10を有する基材12を与えることを含む。導電性膜10を親水性プライマー層14でコーティングする。インクジェットプリンタ(図示せず)からエッチング剤16の液滴をプライマー層14に画像状のパターンに放出する。この液滴は、プライマー層14を通って拡散するか、または他の方法で染み込み、導電性膜10中にパターン18を形成することができる。次いで、基材12からプライマー層14を除去し、パターン形成された導電性膜10Aを残す。ある実施形態において、以下にさらに詳細に記載されるように、パターン形成された電気絶縁性膜10Bも、基材12の上に残すことができる。
【0016】
導電性膜10は、任意の適切な導電性材料を含んでいてもよい。一実施形態において、導電性膜は、有機膜である。一例として、適切な有機材料は、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン;ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレン、ポリフルオレン、ポリビチオフェン、ポリイソチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリイソチアナフテン、ポリイソナフトチオフェン、ポリジアセチレン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリアセン、ポリチアジル、ポリ(エチレンビニレン)、ポリパラフェニレン、ポリドデシルチオフェン、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリ(チエニレンビニレン)、ポリフェニレンスルフィド、またはこのような膜の導電性誘導体からなる群から選択することができる。一実施形態において、ポリチオフェン、例えば、ポリチオフェン、ポリビチオフェン、ポリイソチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリイソナフトチオフェン、ポリドデシルチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)またはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT−PSS)が使用される。導電性を高めるために、有機導電体膜がドープされてもよく、ドープされなくてもよい。適切なドーピング剤は、当該技術分野で知られており、例えば、米国特許出願公開第2012/0273454号に開示されているものがある。
【0017】
エッチングすることが可能な任意の他の種類の導電性膜を使用することもできる。一実施形態において、導電性膜10は、金属、例えば、銅、アルミニウム、チタン、タングステンなど;および導電性非金属(例えば、金属元素と非金属元素の化合物)、例えば、導電性金属酸化物からなる群から選択され、その一例は、インジウムスズ酸化物、金属窒化物および金属ケイ化物、例えば、ケイ化アルミニウム、ケイ化銅、ケイ化チタンなどである。一実施形態において、導電性膜10は、疎水性である。
【0018】
一実施形態において、プライマー層14でコーティングすることは、基材12の上に濡れた犠牲コーティング組成物を堆積させることを含んでいてもよい。堆積後、濡れたコーティング組成物を乾燥させ、プライマー層14を作製する。濡れた犠牲コーティング組成物は、乾燥させて層14を形成させたとき、エッチングパターンを維持するのに役立つように水相エッチング剤によってプライマー層14の表面を濡らすことができる任意の組成物であってもよい。例えば、プライマー層14は、望ましいエッチングパターンになるように表面の所定の位置にエッチング溶液を捕捉するのに役立ってもよい。
【0019】
濡れた犠牲コーティング組成物は、例えば、ワックス状デンプンと、少なくとも1つの吸湿性材料と、少なくとも1つの界面活性剤と、液体担体とを含む成分を混合することによって製造することができる。代替的な実施形態において、濡れた犠牲コーティングは、ワックス状デンプンと、吸湿性材料と、液体担体とを含むが、界面活性剤を含まない。さらに別の実施形態において、濡れた犠牲コーティングは、ワックス状デンプンと、液体担体とを含むが、吸湿性材料または界面活性剤を含まない。別の実施形態において、濡れた犠牲コーティングは、ワックス状デンプンと、界面活性剤と、液体担体とを含むが、吸湿性材料を含まない。
【0020】
一実施形態において、本開示の犠牲コーティング組成物に使用されるワックス状デンプンは、ワックス状トウモロコシデンプンであってもよい。例えば、ワックス状トウモロコシデンプンは、カチオン性ワックス状トウモロコシデンプンまたは非カチオン性ワックス状トウモロコシデンプンであってもよい。カチオン性デンプンの例としては、例えば、Guiqin Song等の名で2014年3月19日に出願され、名称が「WETTING ENHANCEMENT COATING ON INTERMEDIATE TRANSFER MEMBER(ITM) FOR AQUEOUS INKJET INTERMEDIATE TRANSFER ARCHITECTURE.」の米国特許出願第14/219,125号に記載されるような、酸処理されたワックス状トウモロコシデンプンが挙げられる。適切な非カチオン性ワックス状トウモロコシデンプンとしては、Cargill,Inc.からCALIBER(登録商標)180として入手可能な酸解重合されたワックス状デンプンが挙げられる。ワックス状デンプンは、ワックス状トウモロコシデンプン以外の任意の他の種類のワックス状デンプンであってもよく、例えば、ワックス状コメデンプン、ワックス状キャッサバデンプン、ワックス状ジャガイモデンプン、ワックス状コムギデンプンおよびワックス状オオムギデンプンであってもよい。少なくとも1つのワックス状デンプン、例えば、ワックス状トウモロコシデンプンの約25℃での粘度は、デンプン固形物含有量が約4%で約1000cps未満、例えば、約700cps未満、または500cps未満であってもよい。
【0021】
本明細書に開示される特定の実施形態において、少なくとも1つのワックス状デンプンは、糊化していてもよい。デンプンの糊化は、水および熱の存在下、デンプン分子の分子間結合を破壊し、水素結合部位(ヒドロキシル水素および酸素)に水をもっと係合させるプロセスである。従って、水の存在下、少なくとも1つのワックス状デンプンを加熱すると、デンプン顆粒が不可逆的に溶解する。例えば、脱イオン水と、望ましい量のデンプン(例えば、スラリーの合計重量を基準として固形デンプン含有量が約1重量%〜約30重量%)とを混合することによって、ワックス状デンプンスラリーを調製することができる。デンプンスラリーを、バッチプロセスまたはジェットクッカーのいずれかで糊化し、または調理する。バッチプロセスのために、デンプンスラリーを、例えば、約93℃〜約98℃の温度まで加熱し、この温度に約15分〜約60分維持してもよい。
【0022】
ワックス状デンプンは、任意の適切な量で使用することができる。一実施形態において、本開示の濡れた犠牲コーティング中のデンプンの重量%は、濡れた犠牲コーティング組成物の合計重量を基準として約0.5重量%〜約10重量%、例えば、約1重量%〜8重量%、または約2重量%〜約6重量%の範囲である。
【0023】
ポリビニルアルコール(PVOH)およびそのコポリマーは、場合により、本開示の犠牲コーティング中のバインダーの一部として、デンプンと共に含まれる。一実施形態において、ワックス状デンプンと、少なくとも1つのPVOHおよび/またはPVOHコポリマーは、それぞれ、約2:1〜約20:1、例えば、約3:1〜約16:1、または約4:1の範囲の重量比である。
【0024】
PVOHおよびそのコポリマーは、(i)ポリビニルアルコールおよび(ii)ビニルアルコールとアルケンモノマーとのコポリマーからなる群から選択することができる。一実施形態において、少なくとも1つのポリマーは、ポリビニルアルコールである。一実施形態において、少なくとも1つのポリマーは、ポリビニルアルコールとアルケンモノマーとのコポリマーである。適切なポリビニルアルコールコポリマーの例としては、ポリ(ビニルアルコール−コ−エチレン)が挙げられる。一実施形態において、ポリ(ビニルアルコール−コ−エチレン)は、エチレン含有量が約5モル%〜約30モル%の範囲である。ポリビニルコポリマーの他の例としては、ポリ(アクリル酸)−ポリ(ビニルアルコール)コポリマー、ポリビニルアルコール−アクリル酸−メタクリル酸メチルコポリマーおよびポリ(ビニルアルコール−コ−アスパラギン酸)コポリマーが挙げられる。市販のPVOHの他の例は、SELVOL(商標)PVOH 825であり、テキサス州ダラスのSekisui Specialty Chemicalsから入手可能である。
【0025】
PVOHは、例えば、部分的に加水分解した形態(87%〜89%)、中程度に加水分解した形態(91%〜95%)、完全に加水分解した形態(98〜98.8%)から、高度に加水分解した形態(99.3%を超える)までのポリ酢酸ビニルの加水分解によって製造可能であることがよく知られている。一実施形態において、本開示の組成物に使用されるポリビニルアルコールは、加水分解度が、少なくとも約95%、またはもっと高く、または少なくとも約98%、または少なくとも約99.3%、またはもっと高くてもよい。
【0026】
ポリビニルアルコールまたはそのコポリマーは、任意の適切な分子量を有していてもよい。一実施形態において、重量平均分子量は、約85,000〜約186,000、例えば、約90,000〜約180,000、または約100,000〜約170,000、または約120,000〜約150,000の範囲である。比較的高分子量のPVOHを使用することで、デンプンと合わせたときに、強い薄い膜を作製することができる。PVOHの保持量は、50%以下である。高分子量PVOHの保持量がこれより高いと、粘度が顕著に増加し、コーティングに問題が生じる場合がある。
【0027】
一実施形態において、ポリビニルアルコールは、プライマー層14を作製するために適切な粘度を有していてもよい。例えば、約4重量%のポリビニルアルコールの脱イオン水溶液は、温度20℃で、その粘度が、少なくとも20センチポイズ(「cps」)、例えば、25、26または30cpsまたはもっと高くてもよく、ここで、ポリビニルアルコールの重量%は、ポリビニルアルコールと水の合計重量に対するものである。
【0028】
ポリビニルアルコールは、親水性ポリマーであり、良好な水保持特性を有する。親水性ポリマーとして、ポリビニルアルコールから作られるコーティング膜も、良好な水保持特性を有し、エッチング剤をプライマー層14の上に広げるときに役立つだろう。その優れた強度のため、ポリビニルアルコールを配合したコーティングは、合計固形分保持量を顕著に減らすことができるだろう。これにより、コーティング膜の特性を顕著に改良しつつ、実質的な費用削減となるだろう。ポリビニルアルコールおよびデンプンに由来する犠牲コーティング組成物は、他の既知の犠牲コーティング組成物と比較して、改良された機械特性を有し、改良された印刷実施能を有するだろう。さらに、ポリビニルアルコールおよびデンプンは、両方とも環境に優しいと考えられる。
【0029】
デンプンおよび任意要素のポリビニルアルコールを含有するコーティングの化学構造は、プライマー層14の濡れ能および剥離特徴を微細に調整するように合わせることができる。このことは、コーティング組成物中の1つ以上の吸湿性材料および1つ以上の界面活性剤を使用することによって達成することができる。
【0030】
本明細書に開示される犠牲コーティング組成物に、任意の適切な吸湿性材料を使用してもよい。吸湿性材料は、その周囲から水を吸収することができる物質、例えば、保水剤を含んでいてもよい。一実施形態において、吸湿性材料は、可塑剤としても官能化された化合物であってもよい。一実施形態において、少なくとも1つの吸湿性材料は、グリセロール、ソルビトールまたはグリコール、例えば、ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物からなる群から選択される。1種類の吸湿性材料を使用してもよい。または、複数の吸湿性材料、例えば、2種類、3種類またはそれより多い吸湿性材料を使用してもよい。
【0031】
任意の適切な界面活性剤を使用してもよい。適切な界面活性剤の例としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、およびこれらの混合物(例えば、アニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤)が挙げられる。非イオン性界面活性剤は、HLB値が約4〜約14の範囲であってもよい。1種類の界面活性剤を使用してもよい。または、複数の界面活性剤、例えば、2種類、3種類またはそれより多い界面活性剤を使用してもよい。例えば、値が約4〜8の低HLBの非イオン性界面活性剤と、値が約10〜約14の高HLBの非イオン性界面活性剤との混合物は、良好な濡れ性能を示す。一実施形態において、少なくとも1つの界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウムである。
【0032】
本開示の濡れた組成物は、液体担体を含む。液体担体は、水系担体であってもよく、例えば、少なくとも50重量%の水、例えば、90重量%または95重量%、またはもっと多くの水、例えば、100重量%の水を含む担体であってもよい。水系担体系の一部として含まれてもよい他の成分としては、有機溶媒、例えば、ケトンが挙げられる。ケトン溶媒の一例は、2−ピロリジノンであり、グリセロールの保持量のいくらかを置き換えることができる可能性がある。2−ピロリジノンに加え、またはこれに代えて使用することができる他の有機溶媒としては、テルピネオール;ジメチルスルホキシド;N−メチルピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン;1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ピリミジノン;ジメチルプロピレン尿素;イソプロパノール、MEK(メチルエチルケトン)およびこれらの混合物が挙げられる。有機溶媒は、半乾燥した犠牲層の膜形成特性を高め、乾燥特徴を制御し、濡れ特性を制御するといった利点を有するだろう。一実施形態において、水系担体は、100%の水である。
【0033】
上述の成分に加え、混合物は、他の成分、例えば、殺生物剤を含んでいてもよい。殺生物剤の例としては、任意の適切な濃度、例えば、約0.1重量%〜約2重量%のACTICIDES(登録商標)CT、ACTICIDES(登録商標)LA 1209およびACTICIDES(登録商標)MBSが挙げられる。
【0034】
プライマー層14の成分を任意の適切な様式で混合し、導電性膜10をコーティングすることができる組成物を作製してもよい。成分を任意の適切な量で混合してもよい。例えば、ワックス状デンプンを、コーティング混合物の合計重量を基準として約0.5〜約10重量%、または約2〜約8重量%、または約5〜約7重量%の量で加えてもよい。任意要素のポリビニルアルコールまたはビニルアルコールコポリマーを、コーティング混合物の合計重量を基準として約0〜約5重量%、または約0.5〜約4重量%、または約1〜約3重量%の量で加えてもよい。界面活性剤は、コーティング混合物の合計重量を基準として、約0.01〜約4重量%、または約0.05〜約2重量%、または約0.08〜約1重量%の量で存在していてもよい。吸湿性材料は、コーティング混合物の合計重量を基準として、約0.5〜約30重量%、または約2〜約25重量%、または約4〜約20重量%、または約10〜約15重量%の量で存在していてもよい。
【0035】
本開示の濡れたコーティング組成物は、他の適切な成分を任意の望ましい量で含んでいてもよい。または、本開示に明示的に引用していない成分が、本明細書に開示される濡れたコーティング組成物から限定および/または除外されてもよい。従って、ワックス状デンプン、液体溶媒(例えば、水または他の溶媒)の量および濡れたコーティング組成物の一部として含まれる本明細書に明示的に引用されている任意要素のいずれかの成分(例えば、ポリビニルアルコールまたはビニルアルコールコポリマー、界面活性剤、吸湿性材料および/または殺生物剤)の量は、本開示の濡れた組成物中に使用される合計成分の90重量%〜100重量%まで、例えば、95重量%〜100重量%、または98重量%〜100重量%、または99重量%〜100重量%、または100重量%加えられてもよい。
【0036】
本開示の犠牲コーティング組成物を使用し、表面に導電性膜10が配置された任意の適切な基材の上にプライマー層14を作製することができる。最初に、犠牲コーティング組成物を導電性膜10に塗布し、半分乾燥させるか、または乾燥させ、プライマー層14を作製する。この層14は、通常は表面自由エネルギーが低い材料(例えば、疎水性膜)である導電性膜10よりも高い表面エネルギーを有し、および/または親水性を高くすることができる。
【0037】
限定されないが、ロールコーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スタンプ印刷、ダイ押出コーティング、フレキソコーティングおよびグラビアコーティングおよび/またはブレード技術を含む任意の適切なコーティング方法を使用し、導電性膜10に犠牲コーティング組成物を塗布することができる。いくつかの実施形態において、アニロックスローラを用いることによって、液体犠牲コーティング組成物で導電性膜10をコーティングすることができる。一実施形態において、スプレーコーティングに使用可能な空気噴霧デバイス(例えば、エアブラシまたは自動化された空気/液体噴霧器)を用いることによって、液体犠牲コーティング組成物で導電性膜10をコーティングすることができる。別の例において、プログラミング可能なディスペンサを使用し、コーティング材料を塗布してフローコーティングを行うことができる。アニロックスローラ、空気噴霧デバイスおよびプログラミング可能なディスペンサをコーティングに使用することは、当該技術分野でよく知られている。
【0038】
犠牲コーティング組成物の乾燥または硬化のプロセスは、使用する材料またはプロセスに依存して、適切な温度まで加熱することを含んでいてもよい。例えば、濡れたコーティングを、約30℃〜約200℃の範囲の温度まで約0.01秒〜約100秒、または約0.1秒〜約60秒加熱してもよい。また、乾燥プロセス中に空気流の速度を調節し、低温での乾燥を促進してもよい。いくつかの実施形態において、乾燥および硬化のプロセスの後、プライマー層14は、約0.02マイクロメートル〜約10マイクロメートル、または約0.02マイクロメートル〜約5マイクロメートル、または約0.05マイクロメートル〜約1マイクロメートルの厚みを有していてもよい。一実施形態において、プライマー層14は、導電性膜10の主表面のすべてまたは一部を覆っていてもよい。
【0039】
上述のデンプンに由来するプライマーの代わりに、またはこれに加え、他の適切な親水性プライマー材料を使用してもよい。代替的な親水性プライマー材料の例としては、界面活性剤に由来する親水性ゾル−ゲルコーティングが挙げられ、例えば、Sol−Gel Technologies For Glass Producers and Users、Michel Aegerter等編集、Springer Science、2004、pp.187−194という本に記載される。本開示を与えられる当業者によって理解されるような、さらなる他の親水性材料を使用してもよい。
【0040】
親水性プライマー層14で導電性膜10をコーティングした後、エッチング剤16をプライマー層14に画像状のパターンに放出し、導電性膜10をエッチングする。「エッチングする」または「エッチング」という用語は、材料を除去して望ましいパターンを作製すること、および導電性パターンを生成するように、導電性材料に電気絶縁性の領域を残すのに効果的な、導電性材料の領域を化学変換し、導電性の低いパターンを作製すること(この化学変換は、導電性表面からの材料の除去を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい)を含むように、本明細書では広く定義される。エッチング剤という用語は、本明細書で定義されるエッチングという用語のようにエッチングすることができる化学組成物であると本明細書では定義される。
【0041】
従って、一実施形態において、エッチング剤は、例えば、酸化または窒化によって、導電性膜10の一部を顕著に導電性が低いパターン10Bに変換する。この導電性が低いパターンは、導電性膜10とは異なる材料(例えば、導電性材料の酸化された材料または窒化された材料)を含み、この材料は、導電性膜よりも顕著に導電性が低い。例えば、導電性が低い膜は、電気絶縁性であってもよい。導電性が低いパターン10Bは、導電性領域10Aの間に所望の程度の電気絶縁度を与えるように、導電性膜10の厚み方向に十分に広がっていてもよい。例えば、導電性が低いパターン10Bは、導電性膜10の厚み全体に広がっていてもよい。
【0042】
導電性膜10を導電性が低い材料に変換するための任意の適切なエッチング剤を使用してもよい。例えば、導電性膜10が、PEDOTまたはPEDOT−PSSのような有機導電体、または本明細書に記載する他のいずれかの有機導電性膜である場合、適切なエッチング剤は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液および過酸化水素溶液からなる群から選択される1つ以上の酸化剤を含んでいてもよい。
【0043】
代替的な実施形態において、エッチング剤は、導電性膜10の一部10Bを除去し、導電性パターン10Aを生成する。このプロセスに任意の適切なエッチング剤を使用してもよい。使用するエッチング剤の種類は、除去される材料の種類など、種々の因子に依存するだろう。一例として、エッチング剤は、特に、塩酸(HCl)、臭化水素(HBr)、ヨウ化水素(HI)、硫酸(H
2SO
4)、硝酸(HNO
3)、フッ化水素酸(HF)およびリン酸(H
3PO
4)からなる群から選択される少なくとも1つの酸を含んでいてもよい。任意の他の適切なエッチング剤を使用し、導電層の選択的な領域を除去し、望ましい導電性パターンを作製することができる。エッチング剤の種々の例は、当該技術分野でよく知られており、例えば、米国特許第5,593,601号および第6,534,416号に記載されるものがある。
【実施例】
【0044】
(実施例1:犠牲プライマー層を用いたエッチング)
濡れたプライマー層を、PEDOT導電性膜の上に堆積させ、乾燥させる。プライマー層は、ワックス状デンプンとグリセロールの水溶液から作製した。次亜塩素酸ナトリウムエッチング剤の液滴を、乾燥したプライマー層の上に堆積させ、所定時間放置した。プライマー層は、エッチング溶液が球状になるという問題もなく、エッチング溶液の液滴を受け入れることが観察された。次いで、プライマー層は、水で洗浄することによって簡単に除去され、PEDOT膜を試験した。このエッチング溶液は、エッチング剤が塗布された領域でPEDOT膜を非導電性にするのに効果的であることがわかった。
【0045】
(実施例2:犠牲プライマー層を用いないエッチング)
同じエッチング溶液を、プライマー層を含まないPEDOT導電性膜の上に堆積させた。このエッチング溶液は、PEDOT導電性膜の上で球状を示すことが観察された。このエッチング剤の球状化は、一部には、エッチング剤が堆積した導電性膜の表面特徴に起因すると思われ、潜在的に、エッチング中の望ましいパターンを維持するように、エッチング剤が表面を適切に濡らさないだろう。
【0046】
本開示の広い範囲を記載する数値範囲およびパラメータは概算値であるが、具体例に記載する数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、任意の数値は、それぞれの試験測定で見出される標準偏差から必然的に得られる特定の誤差を本質的に含む。さらに、本明細書に開示するすべての範囲は、その範囲に包含される任意の部分範囲およびあらゆる部分範囲を包含することが理解されるべきである。
【0047】
本教示を1つ以上の実施の観点で示してきたが、添付の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなく、示されている実施例に対し、変更および/または改変を行ってもよい。それに加え、本教示の具体的な特徴が、いくつかの実施例の1つのみに関して開示されていてもよいが、このような特徴を、所望なように、任意の所与の機能または具体的な機能に有利な他の実施例の1つ以上の他の特徴と組み合わせてもよい。さらに、「〜を含む(including)」、「含む(include)」、「〜を有する(having)」、「有する(has)」、「伴う(with)」という用語またはこれらの変形語をいずれかの詳細な記載および特許請求の範囲に使用する程度まで、このような用語は、「〜を含む(comprising)」という語句と同様の様式で包括的であることを意図している。さらに、本明細書の記載および特許請求の範囲では、「約」という語句は、変更によって、示されている実施形態に対するプロセスまたは構造と不整合がない限り、列挙した値をある程度変えてもよいことを示す。最終的に、「例示的な」は、理想的であると暗示されているのではなく、その記載が実施例として使用されることを示す。