特許第6674881号(P6674881)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 石福金属興業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6674881-イリジウム合金ルツボ 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674881
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】イリジウム合金ルツボ
(51)【国際特許分類】
   C22C 5/04 20060101AFI20200323BHJP
   F27B 14/10 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   C22C5/04
   F27B14/10
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-198607(P2016-198607)
(22)【出願日】2016年10月7日
(65)【公開番号】特開2018-59165(P2018-59165A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】今井 庸介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】増田 幸夫
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−290739(JP,A)
【文献】 特開平10−259435(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1820398(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/04
F27B 14/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ptが0.3〜3mass%、Wが0.01〜0.2mass%、残部がIrおよび不可避不純物からなるイリジウム合金からなるルツボ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イリジウム合金ルツボに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イリジウム製のルツボは、サファイア単結晶、タンタル酸リチウム単結晶等を製作するのに用いられる。タンタル酸リチウム単結晶はレーザー媒質、圧電素子、表面弾性波素子等に利用される。
【0003】
合金化によりイリジウムの物理的および機械的特性を改良する技術が種々開示されている。
【0004】
特許文献1には、Irに、Rh又はPtを0.5〜40wt%添加したIr合金により、高温強度が高く、1400℃〜2200℃でも使用できる単結晶育成用のIr合金製るつぼが提供できることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、IrにW、Zr、Rh、Pt等を添加した合金により、イリジウムの物理的および機械的特性が改良されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−290739
【特許文献2】特表2005−533924
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タンタル酸リチウム単結晶の作製方法として、Irルツボ中に入れた原料を加熱溶融させ、タンタル酸リチウム種結晶を溶融面に接触させ、回転させながら引き上げ製作する方法がある。タンタル酸リチウム単結晶を引き上げた後の残渣が残ったIrルツボは、冷却された後新たなタンタル酸リチウム原料が足され、再びタンタル酸リチウム単結晶の引き上げ製作がなされる。しかしながら、タンタル酸リチウムの熱膨張係数がIrルツボの熱膨張係数より大きいため、単結晶育成後の残渣が冷却時に凝固し膨張、または残渣が加熱されて膨張し残渣に接するIrルツボは洋梨の形状のように変形してしまう。変形してしまうと、Irルツボを加熱する炉体と干渉してしまい、Irルツボの炉体への取付け、取出しに支障をきたすという課題が存在していた。
【0008】
本発明の目的は、単なる高温強度を高めるのではなく、高温下での塑性変形がしにくく、かつ、Ptの使用量を抑えて安価に製造できるIr合金を有するルツボを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、Ptが0.3〜3mass%、Wが0.01〜0.2mass%、残部がIrおよび不可避不純物からなるイリジウム合金からなるルツボである。
【0010】
高温下での塑性変形のしにくさの指標として0.2%耐力がある。本発明は、高温使用時の0.2%耐力を向上させ、ルツボの変形を抑制するものである。
【0011】
Ptの含有量が0.3mass%を下回ると、高温における0.2%耐力の増加が不十分である。一方、Ptの含有量が3mass%を超えると、曲げ加工の難度があがるとともに、価格が高価になる。Wの含有量が0.01mass%を下回ると、Ptを添加していった際の高温における0.2%耐力の増加率が小さくなる。一方、Wの含有量が0.2mass%を超えると、合金を突合せ溶接した場合、溶接後の凝固時にビード近傍にクラックが発生し、溶接性が悪化する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従うと、高温下での塑性変形がしにくく、かつ、Ptの使用量を抑えて安価に製造できるIr合金を有するルツボを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Pt濃度、W濃度と高温0.2%耐力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の具体的実施態様としては、Ptが0.3〜3mass%、Wが0.01〜0.2mass%、残部がIrおよび不可避不純物からなるイリジウム合金からなるルツボが挙げられる。
【0015】
合金の弾性限界を高めると塑性変形の抑制が可能となる。そこで、高温における0.2%耐力(以下、高温0.2%耐力という。)を指標として、高温下での塑性変形のしにくさを検討した。
【0016】
IrにPtを添加すると高温0.2%耐力が大きくなる。Wをさらに添加すると、Pt単独添加の場合に比べて、同一Pt濃度における高温の0.2%耐力がより大きくなる。(高温0.2%耐力の増加率が大きくなる。)したがって、Ptが少ない領域で十分な高温0.2%耐力の値が得られ、Ptの使用量を抑えることができる。
【0017】
ルツボの形状は、原料を入れる口を有するつぼ状であれば良いが、円筒側面を有する胴部と底部を備えた形状を有していることが好ましい。また、円筒側面に溶接部を備えるとともに、胴部と底部との間に溶接部を有することが好ましい。
【0018】
本発明において、Ptの含有量は0.5〜2mass%、Wの含有量は0.01〜0.05mass%がより望ましい。
【0019】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0020】
表1に、実施例1〜4、比較例1〜3の各試料の成分組成を示す。
表1の実施例1〜4、比較例1〜3に示す各成分組成のIr合金を、アーク溶解にてインゴットを作製後、熱間鍛造にて成形、熱間圧延にてt1.0mmの板を作製した。
【0021】
【表1】
【0022】
表1の結果から分かるように、実施例1〜4は比較例1と比べて高温0.2%耐力が20%以上大きくなった。
【0023】
高温下での各サンプルの強度を調べるため高温引張試験を行った。試験片は、作製した板から平行部が20mm、幅が1mmになるようワイヤー放電にて切出した。
0.2%耐力は、クロスヘッドの移動距離から算出した。
試験条件は、
試験温度:1400℃、
試験雰囲気:大気、
クロスヘッドスピード:5mm/min、
とした。
【0024】
高温引張試験の結果を表1に示す。また、図1にPt濃度、W濃度と高温0.2%耐力との関係を示す。図1に示す結果は表1に対応している。
【0025】
比較例1は、Irであり、その高温0.2%耐力は40(MPa)である。
【0026】
図1に示す結果から分かるように、IrにPtを添加すると、Pt添加量に比例して高温0.2%耐力が大きくなる。IrにPtを3.0mass%添加した比較例2の高温0.2%耐力は63(MPa)、IrにPtを5.0mass%添加した比較例3の高温0.2%耐力は87(MPa)である。
【0027】
Ir−Pt合金にWを0.03〜0.04mass%添加したものが実施例1、2、3、4である。図1より、Ir−Pt合金にWを添加すると、高温0.2%耐力がさらに大きくなることがわかる。すなわち、Ptに加えてWを添加すると、Pt単独添加の場合に比べて、同一Pt濃度における高温の0.2%耐力がより大きくなる。具体的には、図1において、Pt濃度を横軸に採った場合に、Ptに加えてWを添加すると、高温0.2%耐力の増加率が大きくなる。
【0028】
次に、各サンプルの加工性を調べるため、曲げ試験を行った。試験片は、作製した板からt1.0×w10×L100になるようワイヤー放電にて切出した。試験片は、1000℃以上で熱処理し歪みを除去したものを使用した。試験は、室温で行った。試験条件は、直径100mmの金型に試験片を沿わせる形の曲げを行い、曲げ加工のしやすさを評価した。実施例1〜実施例4、比較例2では、純Ir(比較例1)と同等の加工性を示した。一方、Pt濃度が5.0%である比較例3では、実施例1〜実施例4、比較例2に比べて加工しにくかった。
【0029】
次に、各サンプルの溶接性を調べるため、溶接試験を行った。具体的には、同じ組成の板同士を突合せ溶接して結果を評価した。
【0030】
その結果、実施例1〜4、比較例1〜3は溶接後のクラックは無く特に問題はなかった。すなわち、問題なく溶接できた。
【0031】
次に、実施例1〜4よりもIrへのWの添加濃度を増したサンプルの溶接性を評価した。サンプルは、組成Ir−0.1W(mass%)のサンプル(参考例1)、およびIr−0.3W(mass%)のサンプル(参考例2)を用いた。
【0032】
参考例1の試験片同士を突合せ溶接した結果、問題なく溶接できた。一方、参考例2の試験片同士を突合せ溶接した結果、溶接後の凝固時にビード近傍にクラックが発生し、溶接性が悪化していることが分かった。
【0033】
次にルツボに加工できるかを確認した。具体的には、Ir−1.0Pt−0.035W(mass%)の組成のIr合金を用いて、t2.5mm×φ150mm×L150mmの円筒形ルツボを作製した。作製方法としては、先ず、厚さ2.5mmのIr合金板を、φ150mm×L147.5mmの円筒状に曲げ加工した。次に、曲げ加工されたIr合金板の端部同士を溶接して円筒を作製して胴部とした。次に底部用に、Ir合金板をφ150mmに切出した。次に、胴部と底部を溶接してルツボを完成させた。
【0034】
曲げ加工時にクラックの発生はなく問題なく円筒形への加工ができた。円筒の突合せ部を溶接した際も溶接後に外観観察した結果、クラック等の欠陥は見られなかった。また円筒部と底部を溶接したが溶接部にクラック等の欠陥は見られず、Irで作製した場合と差はなくルツボが作製できた。このようにして、高温下での塑性変形がしにくく、かつ、Ptの使用量を抑えて安価に製造できるIr合金を有するルツボを作製することができた。
図1