特許第6674888号(P6674888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ネオトープ バイオサイエンシーズ リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許6674888-タウ免疫療法 図000021
  • 特許6674888-タウ免疫療法 図000022
  • 特許6674888-タウ免疫療法 図000023
  • 特許6674888-タウ免疫療法 図000024
  • 特許6674888-タウ免疫療法 図000025
  • 特許6674888-タウ免疫療法 図000026
  • 特許6674888-タウ免疫療法 図000027
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674888
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】タウ免疫療法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20200323BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20200323BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20200323BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20200323BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20200323BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20200323BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20200323BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20200323BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   C07K16/18ZNA
   C07K16/46
   C12P21/08
   C12P21/02 C
   C12N15/13
   A61K39/395 N
   A61P25/28
   A61P25/00
   A61K45/00
【請求項の数】16
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2016-501731(P2016-501731)
(86)(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公表番号】特表2016-512551(P2016-512551A)
(43)【公表日】2016年4月28日
(86)【国際出願番号】US2014025044
(87)【国際公開番号】WO2014165271
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2017年3月3日
(31)【優先権主張番号】61/780,624
(32)【優先日】2013年3月13日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/800,382
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513250798
【氏名又は名称】プロセナ バイオサイエンシーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ゾイバート,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ドラン サード,フィリップ ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ユエ
(72)【発明者】
【氏名】バーバー,ロビン
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/049570(WO,A1)
【文献】 特表2015−530971(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/007839(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/154321(WO,A1)
【文献】 特表2012−500020(JP,A)
【文献】 特表2011−501655(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0042359(US,A1)
【文献】 特表2010−511388(JP,A)
【文献】 特表2009−506790(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/028810(WO,A1)
【文献】 Neurology,1995年,Vol.45, No.4,p.788-793
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/18−16/46
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のヒトタウに結合するヒト化、キメラまたはベニヤ抗体である、モノクローナル抗体であって、配列番号17のCDR−L1、配列番号18のCDR−L2、配列番号19のCDR−L3、並びに配列番号11または配列番号24のCDR−H1、配列番号12のCDR−H2、および配列番号13のCDR−H3を有する、モノクローナル抗体。
【請求項2】
配列番号15と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する成熟重鎖可変領域および配列番号22と少なくとも90%同一である成熟軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
位置H13、H48およびH91が、それぞれK、MおよびFによって占有され、位置L1、L4、L36およびL43が、それぞれN、L、FおよびSによって占有されている、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
配列番号15と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する成熟重鎖可変領域および配列番号22と少なくとも95%同一である成熟軽鎖可変領域を含む、請求項2または3に記載の抗体。
【請求項5】
前記成熟重鎖可変領域が重鎖定常領域に融合され、前記成熟軽鎖可変領域が軽鎖定常領域に融合されている、請求項2〜4のいずれかに記載の抗体。
【請求項6】
前記重鎖定常領域が、天然のヒト定常領域と比較してFcγ受容体への結合が低減した前記天然のヒト定常領域の変異型である、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
前記重鎖定常領域がIgG1アイソタイプである、請求項5または6に記載の抗体。
【請求項8】
前記成熟重鎖可変領域が配列番号15と少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を有し、前記成熟軽鎖可変領域が配列番号22と少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を有する、請求項2〜7のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項9】
前記成熟重鎖可変領域が配列番号25によりコードされ、前記成熟軽鎖可変領域が配列番号27によりコードされる、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
請求項2〜9のいずれか1項に記載の抗体の前記重鎖および/または軽鎖をコードする核酸を含むポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項12】
タウと関連する疾患の治療法または効果的な予防法に用いるための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体を含む医薬組成物。
【請求項13】
前記疾患が神経疾患である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記疾患がアルツハイマー病である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項8に記載の抗体の重鎖可変領域をコードする、配列番号25のヌクレオチド配列を有するセグメントを含核酸と組合せた、請求項8に記載の抗体の軽鎖可変領域をコードする、配列番号27のヌクレオチド配列を有するセグメントを含む核酸
【請求項16】
前記抗体の重鎖が、C末端リジンを省くことができるという条件で配列番号29の配列を有するヒトIgG1定常ドメインを含み、前記抗体の軽鎖が、配列番号32の配列を有するヒトκ定常領域を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年3月13日出願の非仮出願第61/780,624号および2013年3月15日出願の同第61/800,382号であり、それぞれ、全ての目的のためにその全体が参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
タウは、リン酸化型で存在し得る周知のヒトタンパク質である(例えば、Goedert,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:4051−4055(1988);Goedert,EMBO J.8:393−399(1989);Lee,Neuron 2:1615−1624(1989);Goedert,Neuron 3:519−526(1989);Andreadis,Biochemistry 31:10626−10633(1992)を参照されたい)。タウは、特に中枢神経系における微小管の安定化に関与すると報告されている。総タウ(t−タウ、すなわち、リン酸化型および非リン酸化型)ならびにリン酸化タウ(phospho−tau)(p−タウ、すなわち、リン酸化されたタウ)は、神経損傷および神経変性に応答して脳によって放出され、一般集団と比べて、アルツハイマー病患者のCSFにおいてレベルが増加していることが報告されている(Jack et al.,Lancet Neurol 9:119−28(2010))。
【0003】
タウは、神経原線維変化の主要な構成要素であり、プラークと共にアルツハイマー病の特徴的な特徴である。凝集体は、80nmの定期的な周期で螺旋状に巻かれたペアで生じる直径10nmの異常な線維で構成されている。神経原線維変化内のタウは、分子上の特定の部位に付着したリン酸基で異常にリン酸化(高リン酸化)されている。アルツハイマー病における神経原線維変化の深刻な関与は、嗅内皮質層IIニューロン、海馬のCA1および海馬台領域、扁桃体、ならびに新皮質のより深い層(層III、V、および表面のVI)に見られる。高リン酸化タウはまた、微小管アセンブリーを妨害することが報告されており、これは神経回路網の破壊を促進し得る。
【0004】
タウ封入体は、アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、進行性核上性麻痺およびピック病を含むいくつかの神経変性疾患の決定的な神経病理の一部である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、タウへの結合についてモノクローナル抗体16B5と競合するモノクローナル抗体を提供する。いくつかの抗体は、ヒト化抗体、キメラ抗体、ベニヤ(veneered)抗体またはヒト抗体である。いくつかの抗体は、ヒトIgGアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、またはIgG4)の抗体である。いくつかのそのような抗体は、配列番号29の配列を有するヒトIgG1定常領域を有する。いくつかの抗体は、配列番号32の配列を有するヒトκ定常領域を有する。いくつかの抗体は、定常領域内に少なくとも1つの変異を有する。
【0006】
抗体のいくつかは、モノクローナル抗体16B5のヒト化型、キメラ型またはベニヤ型である。いくつかの抗体は、モノクローナル抗体16B5のカバットによって定義されるような3つの軽鎖CDRおよびカバットによって定義されるような3つの重鎖CDRを有する。いくつかの抗体は、リン酸化型および非リン酸化型でタウに結合する。
【0007】
本発明はさらに、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基24〜46内のエピトープに特異的に結合するモノクローナル抗体を提供する。いくつかのそのような抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、またはベニヤ抗体である。いくつかの抗体は、配列番号1の残基25〜44内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体は、配列番号1の残基30〜39内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体は、リン酸化型および非リン酸化型でタウに結合する。
【0008】
本発明はさらに、配列番号15と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%)同一であるアミノ酸配列を有する成熟重鎖可変領域および配列番号22と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%)同一である成熟軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗体を提供する。特定の実施形態において、モノクローナル抗体は、配列番号15の3つのカバットCDRおよび配列番号22の3つカバットCDRを含む。いくつかの抗体において、成熟重鎖可変領域は配列番号15と命名されたアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域は、配列番号21、22、または23と命名されたアミノ酸配列を有する。
【0009】
いくつかの抗体において、位置H13、H48およびH91の少なくとも1つは、それぞれK、M、およびFによって占有され、位置L1、L4、L36およびL43の少なくとも1つは、それぞれN、L、FおよびSによって占有されている。いくつかの抗体において、位置H13、H48およびH91は、それぞれK、M、およびFにより占有され、位置L1、L4、L36およびL43の少なくとも2つは、それぞれN、L、FおよびSによって占有されている。いくつかの抗体において、位置H13、H48およびH91は、それぞれK、M、およびFにより占有され、位置L1、L4、L36およびL43の少なくとも3つは、それぞれN、L、FおよびSによって占有されている。いくつかの抗体において、位置H13、H48およびH91は、それぞれK、MおよびFによって占有され、位置L1、L4、L36およびL43は、それぞれN、L、FおよびSによって占有されている。
【0010】
いくつかの抗体において、成熟重鎖可変領域は重鎖定常領域に融合され、成熟軽鎖可変領域は軽鎖定常領域に融合されている。いくつかの抗体において、重鎖定常領域は、天然のヒト定常領域と比較して、Fcγ受容体への結合が低減した天然のヒト定常領域の変異型である。いくつかの抗体において、重鎖定常領域はIgG1アイソタイプのものである。
【0011】
いくつかの抗体において、それぞれ配列番号15および22由来の成熟重鎖可変領域および成熟軽鎖可変領域のCDR内の違いは、位置H60〜H65の中に存在する。
【0012】
抗体は、Fab断片などのインタクトな抗体または断片であり得る。
【0013】
モノクローナル抗体またはその断片のいずれも、細胞傷害剤または細胞増殖抑制剤にコンジュゲートさせることができる。
【0014】
本発明はさらに、抗体をヒト化する方法を提供する。いくつかの方法は、マウス抗体の重鎖および軽鎖の可変領域の配列を決定することと、マウス抗体重鎖のCDRを含むヒト化重鎖をコードする核酸およびマウス抗体軽鎖のCDRを含むヒト化軽鎖をコードする核酸を合成することと、ヒト化抗体を産生するために宿主細胞内で核酸を発現させることと、を含み、その際、マウス抗体は16B5である。
【0015】
本発明はさらに、ヒト化抗体、キメラ抗体またはベニヤ抗体を産生する方法を提供する。いくつかの方法は、細胞が抗体を分泌するように、抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸で形質転換された細胞を培養することと、細胞培地から抗体を精製することと、を含み、その際、抗体は16B5のヒト化型、キメラ型またはベニヤ型である。
【0016】
本発明はさらに、ヒト化抗体、キメラ抗体またはベニヤ抗体を産生する細胞株を産生する方法を提供する。いくつかの方法は、抗体の重鎖および軽鎖ならびに選択マーカーをコードするベクターを細胞に導入することと、コピー数が増加したベクターを有する細胞について選択する条件下で細胞を増殖させることと、選択細胞から単一細胞を単離することと、抗体の収量に基づいて選択した単一細胞からクローニングした細胞を保存することと、を含み、その際、抗体は16B5のヒト化型、キメラ型またはベニヤ型である。
【0017】
本発明はさらに、本明細書に開示される全ての抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0018】
本発明はさらに、配列番号10の配列を有する重鎖可変領域をコードするセグメントを含む核酸を提供する。
【0019】
本発明はさらに、配列番号15の配列を有する重鎖可変領域をコードするセグメントを含む核酸を提供する。いくつかの核酸において、セグメントは配列番号25のヌクレオチド配列を有する。いくつかの核酸はさらに、C末端リジンを省くことができるという条件で、例えば、配列番号29の配列を有するIgG1定常領域、必要に応じて、ヒトIgG1の定常領域をコードするセグメントを含む。いくつかの核酸において、IgG1定常領域をコードするセグメントは、配列番号30のヌクレオチド配列を有する。いくつかのそのような核酸はさらに、重鎖可変領域およびIgG1定常領域をコードするセグメントを連結するイントロンを含む。例えば、イントロンは、配列番号31で見られるイントロンの配列を有し得る。したがって、イントロンおよびIgG1定常領域をコードするセグメントは、配列番号31のヌクレオチド配列を有し得る。
【0020】
本発明はさらに、配列番号16の配列を有する軽鎖可変領域をコードするセグメントを含む核酸を提供する。
【0021】
本発明はさらに、配列番号21、22、または23の配列を有する軽鎖可変領域をコードするセグメントを含む核酸を提供する。いくつかの核酸において、軽鎖可変領域をコードするセグメントは、配列番号26、27または28の配列を有する。いくつかのこのような核酸は、さらに、κ定常領域をコードするセグメントを含む。κ定常領域はヒトκ定常領域であり得、配列番号32の配列を有し得る。必要に応じて、κ定常領域をコードする核酸は、配列番号33の配列を有する。いくつかのそのような核酸は、さらに、κ定常領域をコードするセグメントに軽鎖可変領域をコードするセグメントを連結するイントロンを含む。例えば、イントロンは、配列番号34に見られるイントロンの配列を有し得る。したがって、イントロンおよびκ定常領域をコードするセグメントは、配列番号34のヌクレオチド配列を有し得る。
【0022】
上記の抗体のいずれも、配列番号29の配列を有するヒトIgG1定常領域および/または配列番号32の配列を有するヒトκ定常領域を含む軽鎖を含むことができる。
【0023】
本発明はさらに、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基24〜46内にタウの3〜10個の連続残基を含むタウの単離断片を提供する。いくつかの断片は、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基30〜39内にタウの3〜10個の連続残基を含む。いくつかの断片は、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基33〜37を含む。一部の断片は、必要に応じて、スペーサーを介して、この断片に対する抗体を生じさせるのに役立つ担体分子に連結される。いくつかの断片は、ヒトへの投与に許容可能なアジュバントを含む医薬組成物の一部である。
【0024】
本発明はさらに、アルツハイマー病の治療法または効果的な予防法を提供する。いくつかの方法は、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基24〜46内のエピトープに特異的に結合する抗体、またはそのような抗体を誘導する薬剤を有効投与計画で、アルツハイマー病を有するまたはアルツハイマー病のリスクのある患者に投与し、それによってこの疾患を治療または効果的に予防することを含む。好ましくは、この抗体は本明細書に記載の抗体である。いくつかの方法において、抗体を誘導する薬剤は、配列番号1の残基24〜46内にタウの3〜10個の連続残基を含むタウの断片である。いくつかの方法において、患者はApoE4保因者である。
【0025】
本発明はさらに、タウと関連する疾患の治療法または効果的な予防法を提供する。いくつかの方法は、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基24〜46内のエピトープに特異的に結合する抗体、またはそのような抗体を誘導する薬剤を有効投与計画で、疾患を有するまたは疾患のリスクのある患者に投与し、それによってその疾患を治療または効果的に予防することを含む。好ましくは、この抗体は、本明細書に記載の抗体(例えば、ヒト化16B5抗体)である。いくつかの方法において、抗体を誘導する薬剤は、配列番号1の残基24〜46内にタウの3〜10個の連続残基を含むタウの断片である。いくつかの方法において、この疾患は神経疾患である。
【0026】
本発明はさらに、タウの異常な伝達を減少させる方法を提供する。いくつかの方法は、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基24〜46内のエピトープに特異的に結合する抗体、またはそのような抗体を誘導する薬剤を有効投与計画で、タウの異常な伝達と関連する疾患を有するまたはその疾患のリスクのある患者に投与し、それによってその疾患を治療または効果的に予防することを含む。好ましくは、この抗体は、本明細書に記載の抗体(例えば、ヒト化16B5抗体)である。いくつかの方法において、抗体を誘導する薬剤は、配列番号1の残基24〜46内にタウの3〜10個の連続残基を含むタウの断片である。
【0027】
本発明はさらに、タウの食作用を誘導する方法を提供する。いくつかの方法は、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基24〜46内のエピトープに特異的に結合する抗体、またはそのような抗体を誘導する薬剤を有効投与計画で、タウの蓄積と関連する疾患を有するまたはその疾患のリスクのある患者に投与することを含む。好ましくは、この抗体は、本明細書に記載の抗体(例えば、ヒト化16B5抗体)である。いくつかの方法において、抗体を誘導する薬剤は、配列番号1の残基24〜46内にタウの3〜10個の連続残基を含むタウの断片である。いくつかの方法において、この疾患は神経疾患である。
【0028】
本発明はさらに、タウの凝集または沈着を抑制する方法を提供する。特定の実施形態において、本方法は、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基24〜46内のエピトープに特異的に結合する抗体、またはそのような抗体を誘導する薬剤を有効投与計画で、タウの凝集または沈着と関連する疾患を有するまたはその疾患のリスクのある患者に投与することを含む。好ましくは、この抗体は、本明細書に記載の抗体(例えば、ヒト化16B5抗体)である。いくつかの方法において、抗体を誘導する薬剤は、配列番号1の残基24〜46内にタウの3〜10個の連続残基を含むタウの断片である。いくつかの方法において、この疾患は神経疾患である。
【0029】
本発明はさらに、タウの凝集体の形成を抑制する方法を提供する。いくつかの方法は、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基24〜46内のエピトープに特異的に結合する抗体、またはそのような抗体を誘導する薬剤を有効投与計画で、タウの凝集体の形成と関連する疾患を有するまたはその疾患のリスクのある患者に投与することを含む。好ましくは、この抗体は、本明細書に記載の抗体(例えば、ヒト化16B5抗体)である。いくつかの方法において、抗体を誘導する薬剤は、配列番号1の残基24〜46内にタウの3〜10個の連続残基を含むタウの断片である。いくつかの方法において、この疾患は神経疾患である。
【0030】
本発明はさらに、アルツハイマー病に対する活性剤をスクリーニングする方法を提供する。いくつかの方法は、タウ導入遺伝子を発現するトランスジェニック動物に薬剤を投与することと、薬剤がアルツハイマー病の少なくとも1つの徴候もしくは症状を抑制または遅延するかどうかを判定することと、を含み、その際、薬剤は、配列番号1(Swiss−Prot番号P10636−8)の残基24〜46内のエピトープに特異的に結合する抗体、またはそのような抗体を誘導する薬剤である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】16B5モノクローナル抗体が結合するエピトープ(複数可)をマッピングするために設計した実験の結果を示す。全長タウまたはタウの欠失変異体(Δ5−24またはΔ25〜44)を含むウェスタンブロットを16B5抗体(左パネル)またはタウ46抗体(右パネル)で染色した。タウ46抗体は、タウのC末端エピトープに結合する。
図2】16B5モノクローナル抗体が結合するエピトープ(複数可)をマッピングするために設計した実験の結果を示す。全長タウまたはタウの欠失変異体を含むウェスタンブロットを16B5抗体(左パネル)またはタウ46抗体(右パネル)で染色した。16B5抗体で染色したブロットのより長い露光を左下のパネルに示す。この実験で分析したタウの欠失変異体には、Δ25〜44、Δ5−24、Δ23−32、Δ30−39、およびΔ37−46が含まれる。
図3】16B5モノクローナル抗体が結合するエピトープ(複数可)をマッピングするために設計したアラニンスキャニング実験の結果を示す。野生型タウ(WT)またはタウのアラニン点変異体を含むウェスタンブロットを、16B5抗体(左パネル)またはタウ46抗体(右パネル)で染色した。この実験で分析したタウのアラニン変異体には、T30A、M31A、H32A、Q33A、D34A、Q35A、E36A、G37A、D38A、T39A、D40A、A41L、およびG42Aが含まれる。
図4】ヒトタウ.P301Lタンパク質を発現するトランスジェニックマウスの脳幹のサルコシル不溶性画分に検出されたタウタンパク質の相対量を示す。マウスに、16B5抗体または非免疫IgG1アイソタイプ対照の6F10抗体のいずれかで受動免疫した。試料を、ウェスタンブロット法、抗体染色、および結果として生じるシグナルの定量によって分析した。タウを検出するために使用した抗体には、抗リン酸化タウ特異的抗体(AT8、左上のパネル;AT100、左下のパネル;または1F5、右上のパネル)、およびパンタウ抗体(HT7、右下のパネル)が含まれた。
図5】ヒトタウ.P301Lタンパク質を発現するトランスジェニックマウスの全脳幹ホモジネート中で検出された総タウ蛋白質に対するリン酸化タウの比率(左パネル)および総タウの正規化した量(右パネル)を示す。マウスに、16B5抗体または非免疫IgG1アイソタイプ対照の6F10抗体のいずれかで受動免疫した。試料を、ウェスタンブロット法、抗体染色、結果として生じるシグナルの定量によって分析した。AT8抗体を用いてリン酸化タウを検出し、HT7抗体を用いて総タウを検出した。抗GAPDH抗体を用いて、対照6F10抗体で治療したマウスにおいて検出されたタウの量に対して、16B5抗体で治療したマウスにおいて検出されたタウの量を正規化した。
図6】ヒトタウ.P301Lタンパク質を発現するトランスジェニックマウスの、AT8抗リン酸化タウ抗体を用いて免疫組織化学染色した小脳核の切片を示す。マウスに、16B5抗体(左パネル)または非免疫IgG1アイソタイプ対照の6F10抗体(右パネル)のいずれかで受動免疫した。16B5または6F10抗体で受動免疫したマウスの小脳の挿入核、前方および後方部、アネックス外側小脳核(annex lateral cerebellar nucleus(IntA/P/LAT))ならびに視床下核アネックス不確帯(subthalamic nucleus annex zona incerta(STH/ZI))におけるAT8抗体で検出したタウ染色の量の定量化を上部の棒グラフのパネルに示す。16B5または6F10抗体で受動免疫したマウスのIntA/P/LATおよびSTH/ZI切片にAT100抗リン酸化タウ抗体を用いて検出したリン酸化タウ染色の量の定量化を、下の棒グラフのパネルに示す。統計的有意性を、スチューデントt検定、p<0.05を用いて評価した。
図7】キメラ16B5抗体およびヒト化16B5抗体(H1L2およびH1L3バージョン)で得られたタウ免疫沈降の結果を示す。アルツハイマー病患者から得られた死後前頭皮質試料の可溶性画分および不溶性画分の両方からタウを免疫沈降した。ブロットした免疫沈降物中のタウ存在を、ポリクローナル抗タウ抗体(タウpAb)を用いて検出した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義
モノクローナル抗体および他の治療剤は、典型的には、単離された形態で提供される。これは、薬剤が通常、干渉タンパク質およびその製造または精製から生じる他の汚染物質に対して少なくとも50%w/wの純度であることを意味するが、その薬剤が、過剰の薬学的に許容される担体(複数可)またはその使用を容易にすることが意図される他のビヒクルと組み合わされる可能性を排除しない。時には、モノクローナル抗体(または他の治療薬)は、干渉タンパク質および製造または精製から生じる他の汚染物質に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または99%w/wの純度である。
【0033】
本発明の抗体は、典型的には少なくとも10、10、10、10、または1010−1の会合定数でその指定された標的に結合する。このような結合は、それが大きさにおいて検出可能なほど高く、かつ少なくとも1つの無関係な標的に生じる非特異的結合と区別できるという点で特異的結合である。特異的結合は、特定の官能基または特定の空間的フィット(例えば、ロックおよびキータイプ)との間の結合の形成の結果であり得るが、非特異的結合は、通常、ファンデルワールス力の結果である。しかし、特異的結合は、必ずしもモノクローナル抗体が唯一の標的に結合することを意味するものではない。
【0034】
基本的な抗体構造単位は、サブユニットの四量体である。各四量体はポリペプチド鎖の2つの同一の対を含み、各対は1つの「軽」鎖(約25kDa)および1つの「重」鎖(約50〜70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識に関与する約100〜110個以上のアミノ酸の可変領域を含む。切断可能なシグナルペプチドに連結されたこの可変領域が、最初に発現される。シグナルペプチドを含まない可変領域は、しばしば成熟可変領域と呼ばれる。したがって、例えば、軽鎖の成熟可変領域は、軽鎖シグナルペプチドを含まない軽鎖可変領域を意味する。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能に関与する定常領域を規定する。定常領域は、CH1領域、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域のいずれかまたは全てを含み得る。
【0035】
軽鎖は、κまたはλのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンとして分類され、それぞれIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEとして抗体のアイソタイプを規定する。軽鎖および重鎖内で、可変領域および定常領域は、約12個以上のアミノ酸の「J」領域によって連結されており、重鎖はまた、約10個以上のアミノ酸の「D」領域を含む(一般に、基礎免疫学(Paul,W.(編)、第2版、Raven Press、ニューヨーク、1989)の7章を参照されたい(全ての目的のためにその全体が参照により組み込まれる))。
【0036】
各軽鎖/重鎖対の成熟可変領域は、抗体結合部位を形成する。したがって、インタクトな抗体は2つの結合部位を有する。二官能性または二重特異性抗体を除いて、2つの結合部位は同一である。鎖の全ては、相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる、3つの超可変領域によって連結された比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般構造を示す。各対の2つの鎖のCDRはフレームワーク領域によって整列し、特異的エピトープへの結合を可能にする。N末端からC末端まで、軽鎖および重鎖の両方は、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、カバットの免疫学的に重要なタンパク質の配列(Kabat,Sequences of Proteins of Immunological Interest)(国立衛生研究所、メリーランド州ベセスダ、1987年および1991年)、またはChothia & Lesk,J.Mol.Biol.196:901−917(1987);Chothia et al.,Nature 342:878−883(1989)の定義に従う。カバットはまた、異なる重鎖間または異なる軽鎖間の対応する残基に同じ番号が割り当てられる、広く使用されている番号付け規則(カバット番号付け)を提供する。
【0037】
「抗体」という用語は、インタクトな抗体およびその結合断片を含む。典型的には、断片は、標的への特異的結合のために誘導されたインタクトな抗体と競合する。断片は、別々の重鎖、軽鎖Fab、Fab’、F(ab’)、F(ab)c、Fvおよび単一ドメイン抗体を含む。単一(可変)ドメイン抗体は、従来の抗体のVLパートナーから分離されたVH領域(またはその逆)(Ward et al.,1989,Nature 341:544−546)ならびにVH領域がVL領域と結合していないラクダ科または軟骨魚類(例えば、テンジクザメ)などの種の(時にはVHHとして知られる)VH領域を含む(例えば、WO9404678を参照されたい)。1つの鎖がその天然のパートナーから分離された単一ドメイン抗体は、時にはDabとして知られておりラクダ科または軟骨魚類からの単一ドメイン抗体は、時にはナノボディとして知られる。定常領域または定常領域の部分は、単一ドメイン抗体中に存在してもまたはしなくてもよい。例えば、ラクダ科由来の天然単一可変領域の抗体は、VHH可変領域、ならびにCH2およびCH3定常領域を含む。単一ドメイン抗体は、従来の抗体と類似の方法によってヒト化の対象となり得る。Dabタイプの抗体は、通常、ヒト由来の抗体から得られる。ナノボディタイプの抗体はラクダ科またはサメ由来のものであり、ヒト化の対象となり得る。断片は、組換えDNA技術によって、またはインタクトな免疫グロブリンの酵素的または化学的分離により生成できる。用語「抗体」はまた、二重特異性抗体も含む。二重特異性または二機能性抗体は、2つの異なる重鎖/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である(例えば、Songsivilai and Lachmann,Clin.Exp.Immunol.,79:315−321(1990);Kostelny et al.,J.Immunol.,148:1547−53(1992)を参照されたい)。
【0038】
用語「エピトープ」は、抗体が結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、連続アミノ酸または1つもしくは複数のタンパク質の三次フォールディングによって近接して並べられた非連続アミノ酸から形成され得る。連続アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒に曝露されても保持されるが、三次フォールディングによって形成されたエピトープは、典型的には変性溶媒での処理で失われる。エピトープは、典型的には、独特の空間的コンフォメーションにおいて少なくとも3個以上、通常は少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープがタンパク質中のアミノ酸残基の範囲内(例えば、タウの残基25〜44内)にあると言われるとき、その範囲はその境界を定義する残基を含む。範囲内の特定の残基はエピトープに寄与するが、その他は寄与しない場合がある。エピトープを形成する残基は、互いに連続してもまたはしなくてもよい。同様に、抗体が、アミノ酸の特定の範囲内に見出されるエピトープに結合する場合、抗体は範囲内の全てのアミノ酸残基と接触する必要はなく、抗体と接触するエピトープの残基は、互いに隣接していてもまたはしていなくてもよい。エピトープの空間的高次構造を決定する方法には、例えば、x線結晶学および2次元核磁気共鳴が含まれる。例えば、Glenn E.Morris(編)(1996)の分子生物学の方法(Methods in Molecular Biology)の66巻の中のエピトープマッピングプロトコル(Epitope Mapping Protocols)を参照されたい。
【0039】
同じまたは重複するエピトープを認識する抗体は、標的抗原に対して他方の抗体の結合と競合する一方の抗体の能力を示す簡単な免疫アッセイで同定できる。抗体のエピトープはまた、接触残基を同定するために、その抗原に結合した抗体のX線結晶学によって定義することもできる。あるいは、一方の抗体の結合を低減または排除する抗原内の全てのアミノ酸変異が、他方の結合を低減または排除する場合は、2つの抗体は同じエピトープを有する。一方の抗体の結合を低減または排除するいくつかのアミノ酸変異が、他方抗体の結合を低減または排除する場合は、2つの抗体は重複するエピトープを有する。本発明は、16B5と競合するか、かつ/または16B5と同じタウ上のエピトープに結合する抗体を含む。
【0040】
抗体間の競合は、試験抗体が共通抗原への参照抗体(例えば、16B5)の特異的結合を抑制するアッセイによって決定される(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.50:1495,1990)。競合結合アッセイで測定した時、過剰(例えば、少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍または100倍)の試験抗体が参照抗体の結合を少なくとも50%、好ましくは75%、90%または99%阻害する場合、試験抗体は参照抗体と競合する。競合アッセイによって同定される抗体(競合抗体)には、立体障害が起こるために、参照抗体と同じエピトープに結合する抗体および参照抗体が結合するエピトープに十分近位にある隣接エピトープに結合する抗体が含まれる。
【0041】
「患者」という用語は、予防的治療または治療的治療のいずれかを受けるヒトおよび他の哺乳動物被験体を含む。
【0042】
アミノ酸置換を保存的または非保存的アミノ酸置換として分類する目的のために、アミノ酸は次のようにグループ化される:グループI(疎水性側鎖):met、ala、val、leu、ile;グループII(中性親水性側鎖):cys、ser、thr;グループIII(酸性側鎖):asp、glu;グループIV(塩基性側鎖):asn、gln、his、lys、arg;グループV(鎖の配向に影響を与える残基):gly、pro;グループVI族(芳香族側鎖):trp、tyr、phe。保存的置換は、同じクラスのアミノ酸間の置換を含む。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスのメンバーと交換することである。
【0043】
パーセント配列同一性は、カバット番号付け慣例により最大限整列させた抗体配列を用いて決定される。整列後、対象抗体領域(例えば、重鎖または軽鎖の全体の成熟可変領域)を参照抗体の同じ領域と比較する場合、対象抗体領域と参照抗体領域の間のパーセント配列同一性は、対象抗体領域と参照抗体領域の両方において同じアミノ酸が占有する位置の数を、整列させた2つの領域の位置の総数(ギャップはカウントしない)で割り、100を乗じてパーセンテージに変換したものである。
【0044】
用語「アジュバント」は、抗原と共に投与した場合、抗原に対する免疫応答を増大および/または再指示するが、単独で投与した場合には、抗原に対する免疫応答を生じさせない化合物を指す。アジュバントは、リンパ球動員、Bおよび/またはT細胞の刺激、ならびにマクロファージの刺激を含むいくつかのメカニズムによって免疫応答を増強できる。
【0045】
疾患を有する患者集団の脳内においてタウのレベルが増加するか、タウ沈着もしくは封入体が増加するか、脳内にタウの凝集体が存在するか、脳内のタウのリン酸化(タウ1分子あたりリン酸基の平均数)が増加するか、または神経疾患を有することが知られていない対象集団と比較して、タウの細胞間もしくは細胞内伝達が異常である場合に、疾患はタウと関連する。タウ遺伝子の変異型を有する患者が、野生型(ヒト集団において最も頻繁に発生する型)のタウ遺伝子を有する患者と比較して、疾患を発症するリスクが増加している場合に、疾患はタウとも関連する。
【0046】
対象が、リスクファクターを有する個体をリスクファクターがない個体よりも疾患を発症するリスクを統計的に有意に高い位置に置く少なくとも1つの既知のリスクファクター(例えば、遺伝的、生化学的、家族歴、状況暴露)を有する場合に、個人は疾患のリスクが高い。
【0047】
用語「症状」は、患者が気付くような歩調の変化などの疾患の主観的証拠を指す。「徴候」は、医師が認めるような疾患の客観的証拠を指す。
【0048】
統計的有意性とは、p<0.05を意味する。
【0049】
詳細説明
I.概要
本発明は、タウに結合する抗体を提供する。いくつかの抗体は、配列番号1の残基23〜46内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体は、リン酸化状態に関わりなくタウに結合する。本発明のいくつかの抗体は、タウに関連する病状およびタウに関連する徴候の悪化を抑制するかまたは遅らせるのに役立つ。機構を理解することは本発明の実施に必要ではないが、他のメカニズムの中で、非毒性高次構造を安定化するか、または病原性タウ形態の細胞間もしくは細胞内伝達を抑制することによって、毒性の低下がタウの抗体誘発性食作用の結果として生じ、タウが分子間もしくは分子内凝集するのを抑制するか、または他の分子に結合するのを抑制し得る。このような抗体を誘導する本発明の抗体または薬剤は、アルツハイマー病およびタウと関連する他の疾患の治療法または効果的な予防法において使用できる。
【0050】
II.タウ
文脈から特に明らかな場合を除き、タウへの言及は、翻訳後修飾(例えば、リン酸化、糖化、またはアセチル化)が存在するか否かにかかわらず、全てのアイソフォームを含むヒトのタウの天然型を意味する。ヒトの脳にはタウの6つの主要なアイソフォーム(スプライスバリアント)が生じる。これらの変異型の最長のものは、最初のメチオニン残基が切断された441個のアミノ酸を有する。残基は、441アイソフォームに従って番号が付けられている。したがって、例えば、位置404でのリン酸化への言及は、441アイソフォームの位置404、または441アイソフォームと最大限整列させた場合には任意の他のアイソフォームの対応する位置を意味する。アイソフォームのアミノ酸配列およびスイスプロット番号を以下に示す。
P10636−8(配列番号1)
【化1】
【0051】
タウへの言及は、Swiss−Proデータベースおよびその順列に列挙されている約30個の既知の天然の変化、ならびに認知症、ピック病、核上性麻痺などのタウ病理と関連する変異を含む(例えば、Swiss−ProデータベースおよびPoorkaj,et al.Ann Neurol.43:815−825(1998)を参照されたい)。441アイソフォームにより番号付けられたタウ変異のいくつかの例としては、アミノ酸残基257におけるリジンからスレオニンへの変異(K257T)、アミノ酸位置260におけるイソロイシンからバリンへの変異(I260V)、アミノ酸位置272におけるグリシンからバリンへの変異(G272V)、アミノ酸位置279におけるアスパラギンからリジンへの変異(N279K)、アミノ酸位置296におけるアスパラギンからヒスチジンへの変異(N296H)、アミノ酸位置301におけるプロリンからセリンへの変異(P301S)、アミノ酸位置303におけるグリシンからバリンへの変異(G303V)、位置305におけるセリンからアスパラギンへの変異(S305N)、アミノ酸位置335におけるグリシンからセリンへの変異(G335S)、位置337におけるバリンからメチオニンへの変異(V337M)、位置342におけるグルタミン酸からバリンへの変異(E342V)、アミノ酸位置369におけるリジンからイソロイシンへの変異(K369I)、アミノ酸位置389におけるグリシンからアルギニンへの変異(G389R)、位置406におけるアルギニンからトリプトファンへの変異(R406W)が挙げられる。
【0052】
タウは、アミノ酸位置18、29、97、310、および394におけるチロシン、アミノ酸位置184、185、198、199、202、208、214、235、237、238、262、293、324、356、396、400、404、409、412、413、および422におけるセリン、ならびにアミノ酸位置175、181、205、212、217、231、および403におけるスレオニンを含む1個または複数個のアミノ酸残基においてリン酸化できる。
【0053】
III.抗体
A.結合特異性および機能特性
本発明は、タウに結合する抗体を提供する。いくつかの抗体は、配列番号1の残基23〜46内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体は、配列番号1の残基25〜44内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体は、配列番号1の28〜41内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体、配列番号1の残基30〜39内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体は、配列番号1の残基30〜36内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体は、配列番号1の残基33〜39内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体は、配列番号1の残基33〜36内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体は、配列番号1の残基28〜30、28〜31、28〜32、28〜33、28〜34、28〜35、28〜36、28〜37、28〜38、28〜39、28〜40、28〜41、29〜31、29〜32、29〜33、29〜34、29〜35、29〜36、29〜37、29〜38、29〜39、29〜40、29〜41、30〜32、30〜33、30〜34、30〜35、30〜36、30〜37、30〜38、30〜39、30〜40、30〜41、31〜33、31〜34、31〜35、31〜36、31〜37、31〜38、31〜39、31〜40、31〜41、32〜34、32〜35、32〜36、32〜37、32〜38、32〜39、32〜40、32〜41、33〜35、33〜36、33〜37、33〜38、33〜39、33〜40、33〜41、34〜36、34〜37、34〜38、34〜39、34〜40、34〜41、35〜37、35〜38、35〜39、35〜40、35〜41、36〜38、36〜39、36〜40、36〜41を含むエピトープに特異的に結合する。いくつかの抗体はリン酸化状態に関係なくタウに結合する。いくつかの抗体は、リン酸化の影響を受けやすい残基を含まないエピトープに結合する。これらの抗体は、天然源から精製するかまたは組換え発現させたタウポリペプチドで免疫することにより取得できる。抗体は、非リン酸化型のタウ、およびリン酸化を受けやすい1つもしくは複数の残基がリン酸化された形態のタウへの結合ついてスクリーニングできる。このような抗体は、好ましくは、区別できない親和性で結合するか、または非リン酸化タウと比較してリン酸化タウに少なくとも1.5倍、2倍または3倍の係数の範囲内で結合する(すなわち、「汎特異的である」)。16B5は、汎特異的モノクローナル抗体の一例である。本発明はまた、例えば、16B5のエピトープなどの上記の抗体のいずれかと同じエピトープに結合する。また、例えば、16B5と競合するものなどの上記の抗体のいずれかとタウへの結合について競合する抗体も含まれる。
【0054】
上記の抗体は、配列番号1の残基23〜46、25〜44、28〜30、28〜31、28〜32、28〜33、28〜34、28〜35、28〜36、28〜37、28〜38、28〜39、28〜40、28〜41、29〜31、29〜32、29〜33、29〜34、29〜35、29〜36、29〜37、29〜38、29〜39、29〜40、29〜41、30〜32、30〜33、30〜34、30〜35、30〜36、30〜37、30〜38、30〜39、30〜40、30〜41、31〜33、31〜34、31〜35、31〜36、31〜37、31〜38、31〜39、31〜40、31〜41、32〜34、32〜35、32〜36、32〜37、32〜38、32〜39、32〜40、32〜41、33〜35、33〜36、33〜37、33〜38、33〜39、33〜40、33〜41、34〜36、34〜37、34〜38、34〜39、34〜40、34〜41、35〜37、35〜38、35〜39、35〜40、35〜41、36〜38、36〜39、36〜40、36〜41を含むペプチドで免疫するか、または、このような残基を含む全長タウポリペプチドまたはその断片で免疫し、このような残基を含むペプチドへの特異的結合についてスクリーニングすることによって新たに作製できる。このようなペプチドは、好ましくは、ペプチドに対する抗体応答の誘発を促進する異種コンジュゲート分子に結合している。結合は、直接的に、またはスペーサーペプチドもしくはスペーサーアミノ酸を介して行うことができる。遊離SH基が担体分子の結合を促進するため、システインは、スペーサーアミノ酸として使用される。グリシンとペプチドとの間のシステイン残基の有無に関わらず、ポリグリシンリンカー(例えば、2〜6グリシン)も使用できる。担体分子は、ペプチドに対する抗体応答の誘発を促進するT細胞エピトープを提供するのに役立つ。いくつかの担体は、特に、一般的に使用されているキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、オボアルブミンおよびウシ血清アルブミン(BSA)である。ペプチドスペーサーは、固相ペプチド合成の一部として、ペプチド免疫原に付加できる。担体は、典型的には、化学的架橋によって付加される。使用できる化学架橋剤のいくつかの例としては、クロス−N−マレイミド−6−アミノカプロイルエステルまたはm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)が挙げられる(例えば、Harlow,E.らの抗体:実験室マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual)、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー、1988;Sinigaglia et al.,Nature,336:778−780(1988);Chicz et al.,J.Exp.Med.,178:27−47(1993);Hammer et al.,Cell 74:197−203(1993);Falk K.et al.,Immunogenetics,39:230−242(1994);WO98/23635;およびSouthwood et al.J.Immunology,160:3363−3373(1998)。担体およびスペーサーが存在する場合は、免疫原のいずれかの端部に取り付けることができる。
【0055】
任意のスペーサーおよび担体を有するペプチドを用いて、以下により詳細に記載するように、実験動物またはB細胞を免疫することができる。ハイブリドーマ上清は、配列番号1の残基24〜46、25〜44、28〜30、28〜31、28〜32、28〜33、28〜34、28〜35、28〜36、28〜37、28〜38、28〜39、28〜40、28〜41、29〜31、29〜32、29〜33、29〜34、29〜35、29〜36、29〜37、29〜38、29〜39、29〜40、29〜41、30〜32、30〜33、30〜34、30〜35、30〜36、30〜37、30〜38、30〜39、30〜40、30〜41、31〜33、31〜34、31〜35、31〜36、31〜37、31〜38、31〜39、31〜40、31〜41、32〜34、32〜35、32〜36、32〜37、32〜38、32〜39、32〜40、32〜41、33〜35、33〜36、33〜37、33〜38、33〜39、33〜40、33〜41、34〜36、34〜37、34〜38、34〜39、34〜40、34〜41、35〜37、35〜38、35〜39、35〜40、35〜41、36〜38、36〜39、36〜40、36〜41を含む1つもしくは複数のペプチドおよび/または、例えば、リン酸化型で位置404を有するタウの全長アイソフォームなどのタウのリン酸化型および非リン酸化型に結合する能力について試験され得る。ペプチドは、スクリーニングアッセイを容易にするために、担体または他のタグに結合させることができる。この場合には、タウペプチドよりもむしろスペーサーまたは担体に特異的な抗体を除去するために、担体またはタグは、免疫化のために使用されるスペーサーおよび担体分子の組み合わせよりも優先的に異なる。タウのアイソフォームの全てを使用できる。
【0056】
選択されたマウス抗体(例えば、16B5)の結合特異性を有する抗体はまた、ファージディスプレイ法の変形を用いて産生できる。WinterのWO92/20791を参照されたい。この方法は、ヒト抗体を産生するのに特に適している。この方法では、選択されたマウス抗体の重鎖または軽鎖可変領域のいずれかが出発材料として使用される。例えば、軽鎖可変領域を出発物質として選択した場合、ファージライブラリーは、メンバーが同じ軽鎖可変領域(すなわち、マウス出発物質)および異なる重鎖可変領域を提示するように構成されている。重鎖可変領域は、例えば、再配列ヒト重鎖可変領域のライブラリーから得ることができる。所望の標的(例えば、タウペプチド)に強い特異的結合を示すファージ(例えば、少なくとも10および好ましくは少なくとも10−1)が選択される。その後、このファージ由来の重鎖可変領域は、さらなるファージライブラリーを構築するための出発物質として役立つ。このライブラリーでは、各ファージは、同じ重鎖可変領域(すなわち、第一のディスプレイライブラリーから同定された領域)および異なる軽鎖可変領域を提示する。軽鎖可変領域は、例えば、再配列ヒト可変軽鎖領域のライブラリーから取得できる。ここでも、所望の標的に対して強力な特異的結合を示すファージが選択される。得られた抗体は、通常、マウス出発物質と同一または類似のエピトープ特異性を有する。
【0057】
他の抗体は、16B5などの代表的な抗体の重鎖および軽鎖をコードするcDNAの変異誘発によって取得できる。成熟重鎖および/または軽鎖可変領域のアミノ酸配列において16B5と少なくとも90%、95%または99%同一であり、その機能特性を保持するモノクローナル抗体、および/または少数の機能的に重要でないアミノ酸置換(例えば、保存的置換)、欠失、もしくは挿入によってそれぞれの抗体とは異なるモノクローナル抗体も本発明に含まれる。カバットによって定義されるような、16B5の対応するCDRと90%、95%、99%または100%同一である少なくとも1つ、好ましくは全6つのCDR(複数可)を有するモノクローナル抗体も含まれる。
【0058】
B.非ヒト抗体
免疫原に対する他の非ヒトモノクローナル抗体、例えば、マウス、モルモット、霊長類、ウサギまたはラットの産生は、例えば、上記のように免疫原で動物を免疫することによって行うことができる。Harlow & Lane、抗体、実験室マニュアル(CSHP NY、1988)(全ての目的のために参照により組み込まれる)を参照されたい。このような免疫原は、ペプチド合成または組換え発現によって、天然源から取得できる。
【0059】
必要に応じて、免疫原はアジュバントと共に投与できる。アジュバントのいくつかの種類は、以下に記載されるように使用できる。完全フロイントアジュバントに続く不完全アジュバントは、実験動物の免疫化に好ましい。ウサギまたはモルモットは、典型的には、ポリクローナル抗体を作製するために使用される。マウスは、典型的には、モノクローナル抗体を作製するために使用される。抗体は、特異的結合についてスクリーニングされ、必要に応じて、抗体はさらに、タウの特定の領域への結合についてスクリーニングされる。このようなスクリーニングは、タウの欠失変異体のコレクションへの抗体の結合を決定し、どの欠失変異体が抗体に結合するかを決定することによって達成できる。結合は、例えば、ウェスタンブロット、FACS(商標)またはELISAにより評価できる。
【0060】
C.ヒト化抗体
ヒト化抗体は遺伝子操作された抗体であり、非ヒト「ドナー」抗体(例えば、16B5)のCDRがヒト「アクセプター」抗体配列に接合されている(例えば、Queenの米国特許第5,530,101号および同第5,585,089号;Winterの米国特許第5,225,539号、Carterの米国特許第6,407,213号、Adairの米国特許第5,859,205号、同第6,881,557号、Footeの米国特許第6,881,557号を参照されたい)。アクセプター抗体の配列は、例えば、成熟ヒト抗体配列、そのような配列の複合体、ヒト抗体配列のコンセンサス配列、または生殖系列領域の配列であり得る。したがって、ヒト化抗体は、完全にもしくは実質的にドナー抗体由来の一部または全てのCDR、存在する場合には、完全にもしくは実質的にヒト抗体配列由来の可変領域フレームワーク配列および定常領域を有する抗体である。同様に、ヒト化重鎖は、完全にもしくは実質的にドナー抗体重鎖由来の少なくとも1つ、2つ、通常は全3つCDR、存在する場合には、実質的にヒト重鎖可変領域フレームワークおよび定常領域配列由来の重鎖可変領域フレームワーク配列および重鎖定常領域を有する。同様に、ヒト化軽鎖は、完全にもしくは実質的にドナー抗体軽鎖由来の少なくとも1つ、2つ、通常は全3つCDR、存在する場合には、実質的にヒト軽鎖可変領域フレームワークおよび定常領域配列由来の軽鎖可変領域フレームワーク配列および軽鎖定常領域を有する。ナノボディおよびdAb以外に、ヒト化抗体は、ヒト化重鎖およびヒト化軽鎖を含む。ヒト化抗体中のCDRは、(カバットの定義により)対応する残基の少なくとも85%、90%、95%、または100%がそれぞれのCDR間で同一である場合に、実質的に非ヒト抗体中の対応するCDRに由来する。抗体鎖の可変領域フレームワーク配列または抗体鎖の定常領域は、カバットによって定義される対応する残基の少なくとも85、90、95または100%が同一である場合に、それぞれ実質的にヒト可変領域フレームワーク配列またはヒト定常領域に由来する。
【0061】
ヒト化抗体は、マウス抗体由来の(好ましくはカバットによって定義されるような)全6つのCDRを包含する場合が多いが、マウス抗体由来の全てのCDR未満(例えば、少なくとも3、4、または5個のCDR)でも作製できる(例えば、Pascalis et al.,J.Immunol.169:3076,2002;Vajdos et al.,Journal of Molecular Biology,320:415−428,2002;Iwahashi et al.,Mol.Immunol.36:1079−1091,1999;Tamura et al,Journal of Immunology,164:1432−1441,2000)。
【0062】
いくつかの抗体において、CDRの一部のみ、すなわち、SDRと呼ばれる結合に必要なCDR残基のサブセットは、ヒト化抗体において結合を保持するために必要とされる。抗原に接触せず、SDR中に存在しないCDR残基は、以前の研究に基づいて(例えば、CDR H2中の残基H60〜H65は必要とされない場合が多い)、コチア超可変ループ(Chothia,J.Mol.Biol.196:901,1987)の外側にあるカバットCDRの領域から分子モデリングおよび/もしくは経験的に、またはGonzales et al.,Mol.Immunol.41:863,2004に記載のとおりに同定することができる。このようなヒト化抗体において、1個または複数個のドナーCDR残基が存在しないか、またはドナーCDR全体が除去されている位置において、その位置を占めるアミノ酸は、アクセプター抗体配列中の(カバット番号付けによる)対応する位置を占めるアミノ酸であり得る。含めるCDR中のドナーアミノ酸のためのアクセプターのこのような置換の数は、競合する考慮事項のバランスを反映している。このような置換は、潜在的に、ヒト化抗体中のマウスアミノ酸の数を減少させ、結果として潜在的な免疫原性を減少させる点で都合がよい。しかし、置換はまた親和性の変化を引き起こし得、親和性の有意な減少が好ましくは回避される。CDR内の置換の位置および置換するアミノ酸も経験的に選択できる。
【0063】
ヒトアクセプター抗体配列は、ヒトアクセプター配列の可変領域フレームワークとドナー抗体鎖の対応する可変領域フレームワークとの間に高度な配列同一性(例えば、65〜85%の同一性)を提供するために、必要に応じて、多くの既知のヒト抗体配列の中から選択できる。
【0064】
ヒト可変領域フレームワーク残基の特定のアミノ酸は、CDR立体構造および/または抗原への結合に対するそれらの可能性のある影響に基づく置換について選択できる。このような可能性のある影響の研究は、モデリング、特定の位置でのアミノ酸の特徴の検査、または特定のアミノ酸の置換もしくは変異誘発の効果の経験的観察によるものである。
【0065】
例えば、アミノ酸がマウス可変領域フレームワーク残基と選択したヒト可変領域フレームワーク残基との間で異なる場合、ヒトフレームワークアミノ酸は、マウス抗体の等価のフレームワークアミノ酸によって置換でき、その際、アミノ酸が、
(1)非共有結合で直接抗原と結合する、
(2)CDR領域に隣接している、
(3)そうでなければ、CDR領域と相互作用する(例えば、CDR領域の約6Å内である)、(例えば、相同な既知免疫グロブリン鎖の解析された構造上で軽鎖または重鎖をモデリングすることにより識別される)、かつ
(4)VL−VH界面に関与する残基である、
ことは合理的に予想される。
【0066】
Queenの米国特許第5,530,101号によって定義されるとおり、クラス(1)〜(3)のフレームワーク残基は、交互にカノニカルおよびバーニア(vernier)残基と呼ばれることもある。CDRループの立体構造を決定するドナーCDRループのカノニカルクラスを定義するフレームワーク残基は、カノニカル残基と呼ばれることもある(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196,901−917(1987),Thornton & Martin J.Mol.Biol.,263,800−815,1996)。抗原に対する抗体の適合を微調整する役割を果たす抗原結合ループの立体構造を支持するフレームワーク残基の層は、バーニア残基と呼ばれることもある(Foote & Winter,1992,J Mol Bio.224,487−499)。置換の他の候補は、潜在的なグリコシル化部位を作り出す残基である。置換の他の候補は、ヒト免疫グロブリンにとってその位置に珍しいアクセプターヒトフレームワークアミノ酸である。これらのアミノ酸は、マウスドナー抗体の等価位置のアミノ酸またはより典型的なヒト免疫グロブリンの等価位置のアミノ酸で置換できる。置換の他の候補は、ヒト免疫グロブリンにとってその位置に珍しいアクセプターヒトフレームワークアミノ酸である。
【0067】
本発明は、マウス16B5抗体のヒト化型を提供する。マウス抗体は、配列番号10および16をそれぞれ含むアミノ酸配列を有する成熟重鎖および軽鎖の可変領域を含む。本発明は、1つの代表的なヒト化成熟重鎖可変領域(H1)および3つの代表的なヒト化成熟軽鎖可変領域(L1、L2およびL3)を提供する。H1L2変異型は、キメラ16B5と同じまたはより良好な親和性および7個の復帰突然変異を有する。H1L1およびH1L3は、キメラ16B5と同様の親和性および6個の復帰突然変異を有する。
【0068】
本発明は、ヒト化成熟重鎖可変領域が配列番号15と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を示し、ヒト化成熟軽鎖成熟可変領域が配列番号22と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を示すH1L2ヒト化16B5抗体の変異型を提供する。好ましくは、このような抗体において、H1L2内の復帰突然変異の一部または全てが保持される。すなわち、少なくとも1、2、または3個の位置において、位置H13はKが占有し、位置H48はMが占有し、かつ位置H91はFが占有している。好ましくは、少なくとも1、2、3または4個の全ての位置において、位置L1はNが占有し、位置L4はLが占有し、位置L36はFが占有し、かつ位置L43はSが占有している。このようなヒト化抗体のCDR領域は、好ましくは、H1L2のCDR領域と同一または実質的に同一であり、マウスドナー抗体のものと同じである。CDR領域は、任意の従来の定義(例えば、コチア)によって定義できるが、好ましくはカバットによって定義されるようなものである。
【0069】
16B5変異型における追加の変化の1つの可能性は、可変領域フレームワークにおける追加の復帰突然変異である。ヒト化mAb中のCDRと接触しないフレームワーク残基の多くは、ドナーマウスmAbまたは他のマウスもしくはヒトの抗体の対応する位置のアミノ酸の置換に順応でき、さらに多くの潜在的なCDR接触残基もまた置換の影響を受けやすいか、またはCDR内のアミノ酸でさえ、例えば、可変領域フレームワークを提供するために使用されるヒトアクセプター配列の対応する位置に見られる残基で変更されてもよい。さらに、例えば、重鎖および/または軽鎖について、別のヒトアクセプター配列が使用できる。異なるアクセプター配列が使用される場合、対応するドナーおよびアクセプター残基はすでに復帰突然変異を含まない同じものであるため、上記で推奨する復帰突然変異のうちの1つまたは複数は実行されなくてもよい。例えば、位置H13がすでにKによって占有されている重鎖アクセプター配列を用いる場合、復帰突然変異は必要ではない。
【0070】
本発明はまた、成熟軽鎖および重鎖可変領域が、ヒト化16B5 H1L1抗体の成熟軽鎖および重鎖可変領域(それぞれ配列番号21および15)またはヒト化16B5 H1L3抗体(それぞれ配列番号23および15)と少なくとも90、95、96、97、98または99%の配列同一性を示すヒト化抗体も含む。
【0071】
D.キメラ抗体およびベニヤ抗体
本発明はさらに、非ヒト抗体、特に、16B5抗体のキメラおよびベニヤ型を提供する。
【0072】
キメラ抗体は、非ヒト抗体(例えば、マウス)の軽鎖および重鎖の成熟可変領域をヒト軽鎖および重鎖定常領域と組み合わせた抗体である。このような抗体は、実質的にまたは完全にマウス抗体の結合特異性を保持し、ヒト配列の約2/3である。
【0073】
ベニヤ抗体は、CDRのいくつかおよび通常は全てならびに非ヒト抗体の非ヒト可変領域フレームワーク残基の一部を保持しているが、B−細胞エピトープまたはT−細胞エピトープ、例えば、露出した残基(Padlan,Mol.Immunol.28:489,1991)に寄与し得る他の可変領域フレームワーク残基がヒト抗体配列の対応する位置の残基と置換されているヒト化抗体の一種である。その結果、CDRが完全にまたは実質的に非ヒト抗体に由来し、非ヒト抗体の可変領域フレームワークが置換によってよりヒト様に作られた抗体が得られる。16B5抗体のいずれかのベニヤ型は本発明に含まれる。
【0074】
E.ヒト抗体
タウに対するヒト抗体は、以下に記載の様々な技術によって提供される。ヒト抗体を産生するための方法には、Oestberg et al.,Hybridoma 2:361−367(1983);Oestbergの米国特許第4,634,664号、およびEnglemanらの米国特許第4,634,666号のトリオーマ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子を含むトランスジェニックマウスの使用(例えば、LonbergらのWO93/12227(1993);米国特許第5,877,397号、同第5,874,299号、同第5,814,318号、同第5,789,650号、同第5,770,429号、同第5,661,016号、同第5,633,425号、同第5,625,126号、同第5,569,825号、同第5,545,806号、Nature 148,1547−1553(1994),Nature Biotechnology 14,826(1996),Kucherlapati、WO91/10741(1991)を参照されたい)ならびにファージディスプレイ法(例えば、DowerらのWO91/17271およびMcCaffertyらのWO92/01047、米国特許第5,877,218号、同第5,871,907号、同第5,858,657号、同第5,837,242号、同第5,733,743号および同第5,565,332号を参照されたい)が含まれる。
【0075】
F.定常領域の選択
キメラ抗体、(ベニヤ抗体を含む)ヒト化抗体、またはヒト抗体の重鎖および軽鎖の可変領域は、ヒト定常領域の少なくとも一部に連結できる。定常領域の選択は、ある程度、抗体依存性補体および/または細胞媒介性細胞傷害が所望されるか否かに依存する。例えば、ヒトアイソタイプのIgG1およびIgG3は補体媒介細胞傷害を有するが、ヒトアイソタイプIgG2およびIgG4は、補体媒介細胞傷害をほとんどまたは全く有していない。軽鎖定常領域は、ラムダまたはカッパであり得る。抗体は、2つの軽鎖および2つの重鎖を含む四量体として、別々の重鎖、軽鎖として、Fab、Fab'、F(ab’)2、およびFvとして、または重鎖および軽鎖の可変領域がスペーサーを介して連結されている一本鎖抗体として発現させることができる。
【0076】
ヒト定常領域は、異なる個人間でアロタイプ変異およびイソアロタイプ変異を示す。すなわち、定常領域は、1つまたは複数の多型位置で別々の個人において異なり得る。イソアロタイプは、イソアロタイプを認識する血清が1つまたは複数の他のアイソタイプの非多型領域に結合する点で、アロタイプとは異なる。ヒト定常領域への言及は、任意の天然のアロタイプもしくは天然のアロタイプ中の多型位置を占める残基の任意の順列または以下に記載のエフェクター機能を減少または増加させるための最大で3、5もしくは10個の置換を有する定常領域を含む。
【0077】
重鎖のC末端リジンなどの軽鎖および/または重鎖のアミノ末端またはカルボキシ末端における1つまたはいくつかのアミノ酸は、分子の一部または全てを欠損していても、または誘導体化されていてもよい。置換は、補体媒介性細胞傷害もしくはADCCなどのエフェクター機能を低減または増加させるために(例えば、Winterらの米国特許第5,624,821号、Tsoらの米国特許第5,834,597号、およびLazar et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:4005,2006を参照されたい)、またはヒトにおける半減期を延長するために定常領域で行われ得る(例えば、Hinton et al.,J.Biol.Chem.279:6213,2004を参照されたい)。抗体の半減期を増加させるための代表的な置換には、位置250におけるGlnおよび/または位置428におけるLeuが含まれる(定常領域のEUナンバリングがこの段落で使用される)。位置234、235、236および/もしくは237のいずれかまたは全ての置換は、Fcγ受容体、特に、FcγRI受容体の親和性を低下させる(例えば、米国特許第6,624,821号を参照されたい)。ヒトIgG1の位置234、235および237でのアラニン置換は、エフェクター機能を低下させるのに好ましい。必要に応じて、ヒトIgG2中の234、236および/または237はアラニンと置換され、位置235はグルタミンと置換されている(例えば、米国特許第5,624,821号を参照されたい)。
【0078】
G.組換え抗体の発現
キメラ抗体、(ベニヤを含む)ヒト化抗体およびヒト抗体は、典型的には、組換え発現によって産生される。抗体をコードする核酸は、所望の細胞型(例えば、CHOまたはSp2/0)での発現のためにコドン最適化できる。本明細書に開示されるヒト化16B5重鎖および軽鎖の可変領域をコードする核酸は、例えば、(Hu16B5 H1をコードする)配列番号25、(Hu16B5 L1をコードする)配列番号26、(Hu16B5 L2をコードする)配列番号27、または(Hu16B5 L3をコードする)配列番号28を含むかまたはそれらからなる配列を有する。配列番号10および16などのシグナルペプチドを含む可変領域については、核酸は、シグナルペプチドの有無にかかわらず、可変領域をコードすることができる。重鎖および軽鎖をコードする核酸セグメントは、同一の連続した核酸分子上または別々の分子上に存在できる。重鎖および軽鎖は、同一のベクターまたは異なるベクターから発現させることができる。核酸は、典型的には、単離された形態で提供される。
【0079】
ヒト化16B5重鎖可変領域をコードする核酸は、例えば、配列番号30の配列を有する、ヒトIgG1定常領域をコードする核酸セグメントに連結できる。このような核酸はまた、重鎖可変領域をコードするセグメントとIgG1定常領域をコードするセグメントの間、すなわち、定常領域をコードするセグメントの5’側に位置するイントロンも含むことができる。ヒトIgG1定常領域をコードし、その5’末端にマウスイントロンを有する代表的な核酸配列を配列番号31に示す。
【0080】
ヒト化16B5軽鎖可変領域をコードする核酸は、例えば、配列番号33の配列を有するヒトκ定常領域をコードする核酸セグメントに連結できる。このような核酸はまた、軽鎖可変領域をコードするセグメントとκ定常領域をコードするセグメントの間(すなわち、κ定常領域の5’側)にイントロンを含むこともできる。ヒトκ定常領域をコードし、その5’末端にヒトイントロンを有する代表的な核酸配列を配列番号34に示す。
【0081】
組換えポリヌクレオチド構築物は、典型的には、天然に関連するまたは異種のプロモーター領域を含む抗体鎖のコード配列に作動可能に連結された発現制御配列を含む。好ましくは、発現制御配列は、真核生物宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトすることができるベクター中の真核生物プロモーター系である。ベクターが適切な宿主に組み込まれた後、宿主は、ヌクレオチド配列の高レベル発現、ならびに交差反応抗体の収集および精製に適する条件下で維持される。抗体鎖をコードするベクター(複数可)はまた、抗体鎖をコードする核酸のコピー数の増幅を可能にするために、ジヒドロ葉酸還元酵素またはグルタミン合成酵素などの選択可能な遺伝子を含むこともできる。
【0082】
大腸菌は、抗体、特に、抗体断片を発現させるのに特に有用な原核生物宿主である。酵母などの微生物も発現に有用である。サッカロミセス属は、必要に応じて、発現制御配列、複製起点、および終止配列などを有する適切なベクターを有する好ましい酵母宿主である。代表的なプロモーターには、3−ホスホグリセリン酸キナーゼおよび他の糖分解酵素が含まれる。誘導性酵母プロモーターには、とりわけ、アルコール脱水素酵素、イソチトクロームC、およびマルトースおよびガラクトース利用に関与する酵素のプロモーターが含まれる。
【0083】
哺乳動物細胞は、免疫グロブリンまたはその断片をコードするヌクレオチドセグメントを発現するための好ましい宿主である。Winnacker、遺伝子からクローンへ(From Genes to Clones(VCH出版社、ニューヨーク、1987))を参照されたい。インタクトな異種タンパク質を分泌することができるいくつかの適切な宿主細胞株は、当技術分野において開発されており、CHO細胞株、様々なCOS細胞株、HeLa細胞、HEK293細胞、L細胞、ならびにSP2/0およびNS0を含む非抗体産生骨髄腫を含む。好ましくは、細胞は非ヒトである。これらの細胞用の発現ベクターは、複製起点、プロモーター、エンハンサーなどの発現制御配列(Queen et al.,Immunol.Rev.89:49(1986))、ならびにリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列などの必要な情報処理部位を含むことができる。好ましい発現制御配列は、内因性遺伝子、サイトメガロウイルス、SV40、アデノウイルス、およびウシパピローマウイルスなどに由来するプロモーターである。Co et al.,J.Immunol.148:1149(1992)を参照されたい。
【0084】
細胞培養物中に抗体の重鎖および軽鎖をコードするベクター(複数可)を導入し、無血清培地中で成長生産性および製品品質について細胞プールをスクリーニングできる。その後、トップの産生細胞プールをFACSベースの単一細胞クローニングに供し、モノクローナル株を作製できる。7.5g/L超の培養物の製品力価に相当する、一日あたり細胞あたり50pgまたは100pgを上回る比生産性が好ましい。単一細胞クローンが産生する抗体はまた、濁度、濾過特性、PAGE、IEF、UVスキャン、HP−SEC、炭水化物−オリゴ糖マッピング、質量分析、およびELISAまたはBiacore社などの結合アッセイについて試験され得る。その後、選択されたクローンは、複数のバイアルに入れ、後の使用のために凍結保存され得る。
【0085】
発現させると、抗体は、プロテインA捕捉、カラムクロマトグラフィー(例えば、疎水性相互作用またはイオン交換)、およびウイルス不活性化のための低pHなどを含む、当技術分野の標準的な手順に従って精製できる(一般に、Scopes,Protein PurificaTion(Springer−Verlag,NY,1982)を参照されたい)。
【0086】
コドン最適化、プロモーターの選択、転写要素、およびターミネーター、無血清の単一細胞クローニング、細胞バンク、コピー数の増幅のための選択マーカーの使用、CHOターミネーター、無血清単一細胞クローニング、タンパク質力価の改善を含む抗体の商業生産のための方法論を用いることができる(例えば、米国特許第5,786,464号、同第6,114,148号、同第6,063,598号、同第7,569,339号、WO2004/050884、WO2008/012142、WO2008/012142、WO2005/019442、WO2008/107388、およびWO2009/027471、ならびに米国特許第5,888,809号を参照されたい)。
【0087】
IV.能動免疫原
能動免疫に使用される薬剤は、上記の受動免疫に関連して説明した同じ種類の抗体を患者に誘導するのに役立つ。能動免疫に使用される薬剤は、実験動物内でモノクローナル抗体を生成するために使用される同じ種類の免疫原、例えば、配列番号1の残基23〜46、25〜44、28〜41または30〜39に対応するタウの領域由来の3〜15もしくは3〜12もしくは5〜12、または5〜8個の連続アミノ酸のペプチド、例えば、配列番号1の残基28〜30、28〜31、28〜32、28〜33、28〜34、28〜35、28〜36、28〜37、28〜38、28〜39、28〜40、28〜41、29〜31、29〜32、29〜33、29〜34、29〜35、29〜36、29〜37、29〜38、29〜39、29〜40、29〜41、30〜32、30〜33、30〜34、30〜35、30〜36、30〜37、30〜38、30〜39、30〜40、30〜41、31〜33、31〜34、31〜35、31〜36、31〜37、31〜38、31〜39、31〜40、31〜41、32〜34、32〜35、32〜36、32〜37、32〜38、32〜39、32〜40、32〜41、33〜35、33〜36、33〜37、33〜38、33〜39、33〜40、33〜41、34〜36、34〜37、34〜38、34〜39、34〜40、34〜41、35〜37、35〜38、35〜39、35〜40、35〜41、36〜38、36〜39、36〜40、36〜41を含むペプチドであり得る。16B5と同じまたは重複するエピトープに結合する抗体を誘導するために、これらの抗体のエピトープ特異性を(例えば、タウにわたる一連の重複ペプチドへの結合を試験することによって)マッピングできる。その後、エピトープからなるかまたはそれを含むもしくは重複するタウの断片を免疫原として使用できる。このような断片は、典型的には、リン酸化されていない形態で使用される。
【0088】
異種担体およびアジュバントは、用いる場合、モノクローナル抗体を生成するために使用されるものと同じであってもよいが、ヒトにおける使用のためにより良い医薬適合性について選択されてもよい。適切な担体には、血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、免疫グロブリン分子、サイログロブリン、オボアルブミン、破傷風トキソイド、またはジフテリア(例えば、CRM197)、大腸菌、コレラ、もしくはH.ピロリなどの他の病原性細菌由来のトキソイド、または弱毒化毒素誘導体が含まれる。T細胞エピトープも好適な担体分子である。一部のコンジュゲートは、免疫刺激性ポリマー分子(例えば、トリパルミトイル−S−グリセリンシステイン(PamCys)、マンナン(マンノースポリマー)、またはグルカン(aβ1→2ポリマー))、サイトカイン(例えば、IL−1、IL−1αおよびIL−1βペプチド、IL−2、γ−INF、IL−10、GM−CSF)、およびケモカイン(例えば、MIP1−αおよびMIP1−β、ならびにRANTES)に本発明の薬剤を連結することにより形成できる。免疫原は、スペーサーアミノ酸(例えば、gly−gly)の有無に関わらず担体に連結してもよい。さらなる担体にはウイルス様粒子が含まれる。偽ビリオンまたはウイルス由来粒子とも呼ばれるウイルス様粒子(VLP)は、複数コピーのウイルスキャプシドおよび/または定義される球対称のVLP内でインビボで自己集合可能なエンベロープタンパク質で構成されるサブユニット構造を示す(Powilleit,et al.,(2007)PLoS ONE 2(5):e415.)。もう1つの方法として、ペプチド免疫原を、パンDRエピトープ(「PADRE」)などのMHCクラスII分子の大部分に結合可能な少なくとも1つの人工T細胞エピトープに連結できる。PADREは、米国特許第5,736,142号、WO95/07707、およびAlexander J et al,Immunity,1:751−761(1994)に記載されている。能動免疫原は、複数コピーの免疫原および/またはその担体が単一共有結合分子として提示される多量体形態で存在できる。
【0089】
断片は、薬学的に許容できるアジュバントと共に投与される場合が多い。アジュバントは、ペプチドが単独で使用された場合の状況に比べて、誘導された抗体の力価および/または誘導された抗体の結合親和性を増加させる。様々なアジュバントは、免疫応答を誘発するためにタウの免疫原性断片と組み合わせて使用できる。好ましいアジュバントは、応答の質的な形態に影響を与える免疫原の立体構造変化を引き起こすことなく、免疫原に対する固有の応答を増大させる。好ましいアジュバントには、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、3De−O−アシル化モノホスホリル脂質A(MPL(商標))(GB2220211(RIBI ImmunoChem Research社、モンタナ州ハミルトン、現在はコリキサの一部を参照されたい)が含まれる。Stimulon(商標)QS−21は、南米で見つかったキラヤ・サポナリア・モリナの樹皮から単離されるトリテルペングリコシドすなわちサポニンである(Kensilら、ワクチンデザイン(Vaccine Design):サブユニットおよびアジュバントアプローチ(The Subunit and Adjuvant Approach(Powell & Newman(編)、ニューヨーク州プレナム・プレス、1995);米国特許第5,057,540号)、(Aquila BioPharmaceuticals社、マサチューセッツ州フレーミングハム;現在はAntigenics社、ニューヨーク州ニューヨークを参照されたい)。他のアジュバントは、場合により、モノホスホリル脂質Aなどの免疫刺激剤(Stoute et al.,N.Engl.J.Med.336,86−91(1997))と組み合わせた(スクアレンまたはピーナッツ油などの)水中油型エマルジョン、プルロニックポリマー、および死滅させたマイコバクテリアである。リビアジュバントは、水中油型エマルジョンである。リビは、Tween80を含む生理食塩水で乳化した代謝可能な油(スクアレン)を含む。リビはまた、免疫賦活剤として機能する精製されたマイコバクテリア生成物および細菌モノホスホリル脂質Aも含む。別のアジュバントはCpG(WO98/40100)である。アジュバントは、活性剤と共に治療組成物の成分として投与されるか、または別々に治療薬の投与前、それと同時、もしくはその後に投与され得る。
【0090】
タウに対する抗体を誘導するタウの天然断片の類似体も使用できる。例えば、1つもしくは複数または全てのL−アミノ酸は、そのようなペプチド中のD−アミノ酸と置換できる。また、アミノ酸の順序は逆にすることができる(レトロペプチド)。必要に応じて、ペプチドは、逆の順序で全てのD−アミノ酸を含む(レトロインベルソペプチド)。ペプチドおよび他の化合物は、タウペプチドと顕著なアミノ酸配列類似性を必ずしも有する必要はないが、それにもかかわらず、タウペプチドの模倣体として機能し、同様の免疫応答を誘発する。上記のようにタウのモノクローナル抗体に対する抗イディオタイプ抗体も使用できる。このような抗Id抗体は、抗原を模倣し、それに対する免疫応答をもたらす(最も重要な免疫学(Essential Immunology)、Roit(編)、Blackwell Scientific出版社、カリフォルニア州パロアルト、第6版、181ページを参照されたい)。
【0091】
ペプチド(および必要に応じてペプチドに融合された担体)はまた、ペプチドをコードする核酸の形態で投与して、患者の体内で発現させることができる。免疫原をコードする核酸セグメントは、典型的には、患者の意図する標的細胞内でDNAセグメントの発現を可能にするプロモーターおよびエンハンサーなどの調節エレメントに連結されている。免疫応答の誘導に望ましいような、血液細胞中での発現には、軽鎖または重鎖免疫グロブリン遺伝子のプロモーターおよびエンハンサーエレメントまたはCMV主要最初期プロモーターおよびエンハンサーが発現を指示するのに適している。連結された調節エレメントおよびコード配列は、ベクターにクローニングされる場合が多い。抗体はまた、抗体の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸の形態で投与できる。重鎖および軽鎖の両方が存在する場合、鎖は好ましくは、一本鎖抗体として連結される。受動的投与のための抗体はまた、例えば、ペプチド免疫原で治療した患者の血清からアフィニティークロマトグラフィーにより調製できる。
【0092】
DNAは裸の形態で(すなわち、コロイド状またはカプセル化材料なしで)送達できる。あるいは、レトロウイルス系(例えば、Lawrie and Tumin,Cur.Opin.Genet.Develop.3,102−109(1993)参照);アデノウイルスベクター(例えば、Bett et al,J.Virol.67,5911(1993)参照);アデノ随伴ウイルスベクター(例えば、Zhou et al.,J.Exp.Med.179,1867(1994)参照);ワクシニアウイルスおよびトリのポックスウイルスを含むポックスファミリーのウイルスベクター、シンドビスおよびセムリキ森林ウイルス由来のものなどのアルファウイルス属のウイルスベクター(例えば、Dubensky et al.,J.Virol.70,508−519(1996)参照)、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(米国特許第5,643,576号参照)および水疱性口内炎ウイルスなどのラブドウイルス(WO96/34625参照)ならびにパピローマウイルス(Ohe et al.,Human Gene Therapy 6,325−333(1995);WooらのWO94/12629およびかけるXiao & Brandsma,Nucleic Acids.Res.24,2630−2622(1996))を含むいくつかのウイルスベクター系が使用できる。
【0093】
免疫原をコードするDNA、またはそれを含有するベクターは、リポソームにパッケージすることができる。適切な脂質および関連類似体は、米国特許第5,208,036号、同第5,264,618号、同第5,279,833号および同第5,283,185号によって記載されている。免疫原をコードするベクターおよびDNAはまた、微粒子担体に吸着または結合させることもでき、その例として、ポリメチルメタクリレートポリマーおよびポリラクチドならびにポリ(ラクチド−コ−グリコリド)が挙げられる(例えば、McGee et al.,J.Micro Encap.1996を参照されたい)。
【0094】
V.スクリーニング法
上記のように、抗体は、最初に意図した結合特異性についてスクリーニングされ得る。能動免疫原は、同様に、そのような結合特異性を有する抗体を誘導する能力についてスクリーニングされ得る。この場合、能動免疫原を用いて実験動物を免疫し、得られた血清を適切な結合特異性について試験する。
【0095】
その後、所望の結合特異性を有する抗体は、細胞および動物モデルで試験できる。このようなスクリーニングに使用される細胞は、優先的に神経細胞である。神経芽腫細胞が、必要に応じて、タウ病理と関連する変異と共にタウの4リピートドメインでトランスフェクトされたタウ病理の細胞モデルが報告されている(例えば、デルタK280)、Khlistunova,Current Alzheimer Research 4,544−546(2007)。別のモデルでは、タウは、ドキシサイクリンを添加することにより神経芽細胞腫N2a細胞株において誘導される。この細胞モデルは、可溶性または凝集状態で細胞に対するタウの毒性、タウ遺伝子発現のスイッチをオンにした後のタウ凝集体の外観、再び遺伝子発現のスイッチをオフにした後のタウ凝集体の溶解、ならびにタウ凝集体の形成抑制またはそれらを脱凝集させることにおける抗体の効率を研究するのを可能する。
【0096】
抗体または能動免疫原はまた、タウと関連する疾患のトランスジェニック動物モデルにおいてスクリーニングできる。このようなトランスジェニック動物は、タウ導入遺伝子(例えば、ヒトアイソフォームのいずれか)および必要に応じて、とりわけタウ、アポE、プレセニリンまたはα−シヌクレインをリン酸化するキナーゼなどのヒトAPP導入遺伝子を含み得る。このようなトランスジェニック動物は、タウと関連する疾患の少なくとも1つの徴候または症状を発症するように治療されている。
【0097】
代表的なトランスジェニック動物は、マウスのK3株である(Itner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 105(41):15997−6002(2008))。これらのマウスは、K369I変異(この変異はピック病と関連している)およびThy1.2プロモーターを有するヒトタウ導入遺伝子を有する。このモデルは、神経変性、運動障害ならびに求心性繊維および小脳顆粒細胞の変性の迅速な経過を示す。別の代表的な動物は、マウスのpR5株である。これらのマウスは、P301L変異(この変異は前頭側頭型認知症と関連している)およびThy1.2プロモーターを有するヒトタウ導入遺伝子を有する(Taconic,Germantown,N.Y.,Lewis,et al.,Nat Genet.25:402−405(2000))。これらのマウスは、神経変性のより緩やかな経過を有する。このマウスは、いくつかの脳領域および脊髄における神経原線維変化を発症し、これは本明細書にその全体が参照により組み込まれる。これは、凝集体の発症の結果を研究するため、かつこれらの凝集体の生成を抑制することができる治療法をスクリーニングするための優れたモデルである。これらの動物の別の利点は、病変の比較的早期発症である。ホモ接合系統では、タウ病理と関連する行動異常は、少なくとも、早ければ3ヶ月目に観察できるが、これらの動物は少なくとも生後8ヶ月まで比較的健康を維持する。つまり、8ヶ月の時点で、これらの動物は歩き回り、それら自体で摂食し、治療効果の監視を可能にするのに十分なほど行動タスクを実行できる。6〜13ヶ月間、これらのマウスをAI wI KLH−PHF−1で能動免疫すると、約1,000の力価を生じさせ、未治療の対照マウスと比較して神経原線維変化はほとんど少なく、pSer422も、体重減少も低下した。
【0098】
抗体または活性剤の活性は、総タウまたはリン酸化タウの量の減少、Αβのアミロイド沈着物などの他の病理学的特徴の減少、および抑制もしくは遅延または行動障害を含む様々な基準によって評価できる。能動免疫原はまた、血清中の抗体の誘導について試験され得る。受動と能動の両方の免疫原は、トランスジェニック動物の血液脳関門から脳内への抗体の通過について試験され得る。抗体または抗体を誘発する断片はまた、天然または誘導を介してタウを特徴とする疾患の症状を発症する非ヒト霊長類において試験され得る。抗体または活性剤の試験は、通常、抗体または活性剤が存在しない(例えば、ビヒクルで置き換えられる)ことを除いて並列に行われる対照実験と同時に実行される。その後、試験中の抗体または活性剤に起因する疾患の徴候または症状の減少、遅延または抑制が対照と比較して評価され得る。
【0099】
VI.治療に適する患者
神経原線維変化の存在は、アルツハイマー病、ダウン症候群、軽度認知障害、脳炎後のパーキンソニズム、外傷後の認知症もしくはパンチドランカー、C型ニーマン・ピック病、核上性麻痺、前頭側頭型認知症、前頭側頭葉変性症、筋萎縮性側索硬化症/グアムのパーキンソン認知症症候群、およびPSP進行性核上性麻痺を含むいくつかの疾患において見出されている。本投与計画はまた、これらの疾患のいずれかの治療または予防にも使用できる。神経疾患および病状とタウの間の広範囲に及ぶ関係のために、本投与計画は、神経疾患のない個人の平均値と比較して、(例えば、CSF内の)タウもしくはリン酸化タウのレベルの上昇を示す任意の対象の治療または予防に使用できる。本投与計画は、神経疾患と関連するタウの変異を有する個人における神経疾患の治療または予防にも使用できる。本方法は、アルツハイマー病、および特に患者における治療または予防に特に適している。
【0100】
治療に適する患者は、疾患のリスクはあるが、症状を示さない個人および現在症状を示す患者を含む。疾患のリスクのある患者には、疾患の既知の遺伝的リスクを有する患者が含まれる。このような個人には、この疾患を経験している親類を有する患者、およびそのリスクが遺伝子マーカーまたは生化学的マーカーの分析によって決定される患者が含まれる。リスクの遺伝子マーカーには、上述したものなどのタウの変異、ならびに神経疾患と関連する他の遺伝子の変異が含まれる。例えば、ホモ接合型はもちろんだがヘテロ接合型のApoE4対立遺伝子は、アルツハイマー病のリスクと関連している。アルツハイマー病のリスクの他のマーカーは、APP遺伝子の変異、特に717位での変異を含み、位置670および671での変異はそれぞれハーディ変異およびスウェーデン変異と呼ばれ、プレセニリン遺伝子のPS1およびPS2の変異は、AD、高コレステロール血症またはアテローム性動脈硬化症の家族歴に関係する。現在アルツハイマー病に罹患している個人は、特徴的な認知症、および上述の危険因子の存在から、PETイメージングによって認識できる。さらに、いくつかの診断テストは、ADを有する個人を同定するために利用可能である。これらには、CSFタウまたはリン酸化タウおよびΑβ42レベルの測定が含まれる。タウまたはリン酸化タウのレベルの上昇およびΑβ42レベルの低下は、ADの存在を意味する。いくつかの変異はパーキンソン病と関連する。Ala30ProもしくはAla53、またはロイシンリッチリピートキナーゼのPARK8などの他の遺伝子の変異は、パーキンソン病と関連する。個人はまた、DSM IV TRの基準によって、上述の神経疾患のいずれかを用いて診断され得る。
【0101】
無症状の患者では、治療は全ての年齢(例えば、10、20、30)で開始できる。しかし、通常、患者が40、50、60または70歳に達するまでは治療を開始する必要はない。治療は、典型的には、ある期間にわたって複数回投与を必要とする。治療は、経時的に抗体レベルをアッセイすることにより監視できる。応答が低下した場合は、追加免疫用量が示される。潜在的なダウン症候群患者の場合には、母親に治療薬を投与することによって治療を出生前に開始するか、または出生直後に開始できる。
【0102】
VII.医薬組成物および治療法
予防的適用では、抗体もしくは抗体を誘導するための薬剤またはその医薬組成物は、疾患(例えば、アルツハイマー病)の影響を受けやすい患者、またはそうでなければ疾患のリスクのある患者に、疾患のリスクを低減する、疾患の重症度を軽減する、または疾患の少なくとも1つの徴候もしくは症状の発症を遅延させるのに有効な投与計画(投与の用量、頻度および経路)で投与される。特に、投与計画は、好ましくは脳内でタウもしくはリン酸化タウおよびそれから形成される対のフィラメントを抑制もしくは遅延させるか、かつ/またはその毒性作用を抑制もしくは遅延させるか、かつ/または行動障害の発症を抑制もしくは遅延させるのに有効である。治療用途では、抗体または抗体を誘発する薬剤は、疾患の少なくとも1つの徴候または症状の改善または少なくともさらなる悪化を抑制するのに効果的な投与計画(投与の用量、頻度および経路)で疾患(例えば、アルツハイマー病)の疑いのある患者、または既に疾患に罹患している患者に投与される。特に、この投与計画は、好ましくは、タウ、リン酸化タウ、もしくはそれから形成される対のフィラメントのレベルのさらなる上昇、関連する毒性および/または行動障害を低減または少なくとも抑制するのに効果的である。
【0103】
個々の治療された患者が、本発明の方法によって治療されない同等の患者の対照集団における平均的な治療成績よりも良好な治療成績を達成した場合、または比較臨床試験(例えば、フェーズII、フェーズII/IIIまたはフェーズIII試験)で、対照患者に対する治療患者のより良好な治療成績がp<0.05または0.01、あるいはさらに0.001のレベルで示される場合には、投与計画は治療的または予防的に有効であると考えられる。
【0104】
投与手段、標的部位、患者の生理的状態などの多くの異なる要因、患者がApoE保因者であるか否か、患者がヒトまたは動物であるか否か、他の薬剤が投与されるか、治療が予防的または治療的であるか否かに応じて、有効用量は変化する。
【0105】
抗体のための代表的な用量範囲は、患者の体重1kgあたり約0.01〜5mg/kgであり、より一般的には0.1〜3mg/kgまたは0.15〜2mg/kgまたは0.15〜1.5mg/kgである。抗体は、このような用量で毎日、代替日に、毎週、隔週、毎月、四半期ごと、または実証的分析によって決定された任意の他のスケジュールに従って投与できる。代表的な治療は、長期間にわたって、例えば、少なくとも6ヶ月間、複数回投与での投与を必要とする。さらなる代表的な投与計画は、2週間に1回ごと、または月に1回、または3〜6ヶ月に1回の投与を必要とする。
【0106】
能動投与のための薬剤の量は、患者あたり0.1〜500μgで、より一般的にはヒトへの投与のための注射あたり1〜100または1〜10μgと変化する。注射のタイミングは、1日に1回から1年に1回、数年に1回と著しく変化し得る。典型的な投与計画は、免疫化に続いて6週間間隔または2ヶ月などの時間間隔でのブースター注射からなる。別の投与計画は、免疫化に続いて1、2および12ヶ月後のブースター注射からなる。別の投与計画は、生きている間、2ヶ月ごとの注射を伴う。あるいは、免疫応答の監視によって示されるように、ブースター注射は不定期になり得る。
【0107】
抗体または抗体を誘導するための薬剤は、好ましくは末梢経路(すなわち、投与または誘導される抗体が血液脳関門を通過し、脳内の意図された部位に到達する経路)を介して投与される。投与経路には、局所、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、鼻腔内または筋肉内投与が含まれる。好ましい抗体の投与経路は、静脈内および皮下経路である。能動免疫に好ましい経路は、皮下および筋肉内経路である。この種の注射は、最も典型的には、腕または脚の筋肉に行われる。いくつかの方法では、薬剤は、沈着物が蓄積した特定の組織に直接注射、例えば、頭蓋内注射される。
【0108】
非経口投与のための医薬組成物は、好ましくは無菌であり、実質的に等張で、GMP条件下で製造される。医薬組成物は、(すなわち、単回投与のための用量)単位剤形で提供され得る。医薬組成物は、1つまたは複数の生理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または補助剤を用いて製剤化できる。製剤は、選択された投与経路に依存する。注射のために、抗体は、水溶液で、好ましくは、(注射部位での不快感を軽減するために)ハンクス液、リンゲル液、もしくは生理食塩水または酢酸緩衝液などの生理的に適合性のある緩衝液で製剤化ができる。溶液は、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤化剤を含有できる。あるいは、抗体は、使用前に適切なビヒクル、例えば、無菌で発熱物質を含まない水で構成するために凍結乾燥形態であり得る。
【0109】
本投与計画は、治療される疾患の治療または予防に有効な別の薬剤と組み合わせて投与され得る。例えば、アルツハイマー病の場合、本投与計画は、Αβ(WO/2000/072880)、コリンエステラーゼ阻害剤もしくはメマンチンに対する免疫療法と組み合わせることができ、またはパーキンソン病の免疫療法の場合には、α−シヌクレイン(WO/2008/103472)、レボドパ、ドーパミン作動薬、COMT阻害剤、MAO−B阻害剤、アマンタジン、もしくは抗コリン薬に対する免疫療法と組み合わせることができる。
【0110】
VIII.インビボイメージング、診断方法、および最適化免疫療法
本発明は、患者におけるタウタンパク質沈着物(例えば、神経原線維変化およびタウ封入体)をインビボイメージングする方法を提供する。本方法は、タウに結合する抗体(例えば、マウス、ヒト化、キメラまたはベニヤ16B5抗体)などの薬剤を患者に投与し、その後、タウに結合した薬剤を検出することによって動作する。アミノ酸24〜46内のタウのエピトープに結合する抗体が好ましい。いくつかの方法において、抗体は、アミノ酸25〜44内またはアミノ酸30〜39内のエピトープに結合する。投与した抗体の除去反応は、Fabなどの全長の定常領域を欠く抗体断片を使用することによって回避または低減することができる。いくつかの方法において、同一の抗体は、治療および診断試薬の両方として機能し得る。
【0111】
診断試薬は、患者の体内への静脈内注射によって、または頭蓋内注射によるかもしくは、頭蓋骨に穴を穿孔することによって脳に直接投与できる。試薬の投与量は、治療方法の場合と同じ範囲内である必要がある。典型的には、試薬は標識されるが、いくつかの方法では、タウに対する親和性を有する一次試薬は標識されず、二次標識剤を一次試薬に結合させるために使用される。標識の選択は検出の手段に依存する。例えば、蛍光標識は光学的検出に適する。常磁性標識の使用は、外科的介入なしに断層撮影検出に適する。放射性標識はまた、PETまたはSPECTを用いて検出できる。
【0112】
タウタンパク質沈着物のインビボイメージングの方法は、アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、進行性核上性麻痺およびピック病、またはそのような疾患に対する感受性などのタウオパチーを診断するのに、またはその診断を確認するのに有用である。例えば、本方法は、認知症の症状を示す患者に使用できる。患者に異常な神経原線維変化がある場合、その患者は、アルツハイマー病を罹患している可能性がある。もう1つの方法として、患者に異常なタウ封入体がある場合には、封入体の位置に応じて、その患者は前頭側頭葉変性症を患っている可能性がある。本方法はまた、無症状の患者にも使用できる。異常なタウタンパク質沈着物の存在は、将来、症候性疾患に罹りやすいことを示す。本方法はまた、以前にタウ関連疾患と診断された患者における疾患の進行および/または治療に対する応答を監視するのに有用である。
【0113】
診断は、標識された遺伝子座の数、サイズ、および/または強度を対応するベースライン値と比較することによって行われ得る。ベースライン値は、病気でない個人の集団における平均レベルを表し得る。ベースライン値はまた、同じ患者で決定された以前のレベルを表し得る。例えば、患者のベースライン値は、タウ免疫療法治療を開始する前に決定することができ、その後、測定値とベースライン値を比較する。ベースラインに対する値の減少は、治療への好応答を示す。
【0114】
一部の患者では、タウオパチーの診断は、PETスキャンを実行することによって支援され得る。PETスキャンは、例えば、従来のPET撮像装置および補助装置を用いて実行され得る。スキャンは、典型的には、タウタンパク質沈着物と関連することが一般に知られている脳の1つまたは複数の領域、および沈着物がたとえあったとしても、一般に、対照としての役割を果たすために存在する1つまたは複数の領域を含む。
【0115】
PETスキャンで検出したシグナルは、多次元画像として表すことができる。多次元画像は、二次元では脳の断面を表し、三次元では三次元脳を表すか、または四次元では三次元脳の経時的変化を表し得る。カラースケールは、異なる色を用いて行うことができ、異なる標識量および検出される推定タウタンパク質沈着物を示す。スキャンの結果はまた、検出される標識の量および結果的にタウタンパク質沈着物の量と関連する数で数値的に提示できる。特定のタウオパチー(例えば、アルツハイマー病)について、沈着物と関連することが知られている脳の領域に存在する標識は、前者の領域内における沈着物の程度を表す比率を提供するために、沈着物と関連することが知られていない領域内に存在する標識と比較できる。同じ放射性標識リガンドについては、このような比率は、タウタンパク質沈着物の比較可能な尺度および異なる患者間でのその変化をもたらす。
【0116】
いくつかの方法において、PETスキャンは、MRIまたはCATスキャンと同時に、またはMRIまたはCATスキャンと同じ患者の訪問で実行される。MRIまたはCATスキャンは、PETスキャンよりも脳のより解剖学的な詳細を提供する。しかし、PETスキャンからの画像は、脳内の解剖学的構造に対するPETリガンドおよび推定タウ沈着物の位置をより正確に示すMRIまたはCATスキャン画像上に重ね合わせることができる。一部の機械は、スキャンの間に患者が位置を変えることなく患者のPETスキャンとMRIまたはCATスキャンの両方を実行し、画像の重ね合わせを容易にすることできる。
【0117】
適切なPETリガンドは、本発明の抗体(例えば、マウス、ヒト化、キメラまたはベニヤ16B5抗体)の放射性標識抗体を含む。使用される放射性同位体は、例えば、C11、N13、O15、F18、またはI123であり得る。PETリガンドを投与し、スキャンを実行する間隔は、PETリガンド、特に脳への取り込み速度および除去速度、ならびにその放射性標識物の半減期に依存し得る。
【0118】
PETスキャンはまた、無症状の患者または軽度認知障害の症状を有するが、タウオパチーと診断されておらず、タウオパチーを発症するリスクが高い患者で予防措置として実施することもできる。無症状の患者では、スキャンは、家族歴、遺伝的もしくは生化学的危険因子または熟年のためにタウオパチーのリスクが高いと考えられる個人に特に有用である。予防的スキャンは、例えば、45〜75歳の年齢の患者で開始できる。一部の患者では、最初のスキャンは50歳で行われる。
【0119】
予防的スキャンは、例えば、6ヶ月〜10年、好ましくは、1〜5年の間隔で行われ得る。一部の患者では、予防的スキャンが毎年行われる。予防的措置として行われるPETスキャンが異常に高いレベルのタウタンパク質沈着物を示す場合、免疫療法が開始され、その後、PETスキャンが、タウオパチーと診断された患者と同様に行われ得る。予防措置として行われるPETスキャンが正常レベル内にあるタウタンパク質沈着物のレベルを示す場合、さらにPETスキャンが、前述のように、6ヶ月〜10年、好ましくは、1〜5年の間隔で、またはタウオパチーもしくは軽度認知障害の徴候および症状の出現に応答して行われ得る。上記の正常レベルのタウタンパク質沈着物が検出される場合および検出された時に、予防的スキャンとタウ指向免疫療法の投与を組み合わせることによって、タウタンパク質沈着物のレベルは正常レベルまで低下するかもしくはそれにより近いレベルになるか、または少なくともさらに増加するのを妨げることができ、患者は、予防的スキャンおよびタウ指向免疫療法を受けていない場合よりも長い期間(例えば、少なくとも5、10、15もしくは20年、または患者の残りの人生の間)、タウオパチーのない状態のままであり得る。
【0120】
正常レベルのタウタンパク質沈着物は、特定のタウオパチー(例えば、アルツハイマー病)と診断されておらず、このような疾患を発症するリスクが高いとみなされていない一般集団の個人の代表的な試料(例えば、年齢が50歳未満の無病の個人の代表的な試料)の脳内における神経原線維変化またはタウ封入体の量によって決定され得る。もう1つの方法として、タウタンパク質沈着物が生じることが知られている脳の領域における、本発明の方法によるPETシグナルが、このような沈着物が普通では生じることが知られている脳の領域からのシグナルと(測定の精度内で)異なっていない場合には、正常なレベルは個々の患者で認識され得る。個人におけるレベルの上昇は、正常レベルとの比較(例えば、外部の平均と標準偏差の分散)によってまたは、単に、沈着物と関連することが知られていない領域と比較したタウタンパク質沈着物と関連する脳の領域における実験誤差を超えて上昇したシグナルから認識され得る。個人および集団におけるタウタンパク質沈着物のレベルを比較する目的で、タウタンパク質沈着物は、好ましくは、脳の同じ領域(複数可)において決定されるべきであり、これらの領域は、特定のタウオパチー(例えば、アルツハイマー病)と関連するタウタンパク質沈着物が形成することが知られている少なくとも1つの領域を含む。タウタンパク質沈着物のレベルが上昇した患者は、免疫療法を開始するための候補である。
【0121】
免疫療法を開始した後のタウタンパク質沈着物のレベルの低下は、最初に、治療が所望の効果を有していることを示すものとして見ることができる。観察された減少は、例えば、ベースライン値の1〜100%、1〜50%、または1〜25%の範囲内であり得る。このような効果は、沈着物を形成することが知られている脳の1つまたは複数の領域で測定できるか、またはそのような領域の平均値から測定できる。治療の総合効果は、そうでなければ、普通の治療されていない患者で生じるタウタンパク質沈着物の増加にベースラインに対する減少率を加えることによって概算できる。
【0122】
タウタンパク質沈着物のほぼ一定のレベルでの維持またはタウタンパク質沈着物が少しでも増加することは、準最適な応答ではあるが、治療への応答の指標となり得る。このような応答は、免疫療法がタウタンパク質沈着物のさらなる増加を抑制する効果を有するか否かを決定するために、治療を受けていない特定のタウオパチー(例えば、アルツハイマー病)を有する患者におけるタウタンパク質沈着物のレベルの時間経過と比較できる。
【0123】
タウタンパク質沈着物の変化の監視により、治療に応答して免疫療法または他の治療の投与計画の調整が可能になる。PET監視は、治療に対する応答の性質および程度の指標を提供する。その後、治療の調整を行うべきか否かを判断することができ、必要であれば、治療はPET監視に応じて調整できる。したがって、他のバイオマーカー、MRIまたは認知の測定が検出可能なほど応答する前に、PET監視によって、タウ指向免疫療法または他の治療の投与計画の調整が可能になる。著しい変化は、ベースに対する治療後のパラメータの値を比較することで、治療が有益な効果をもたらしたかまたはもたらしていないという証拠が得られることを意味する。場合によって、患者自身におけるパラメータの値の変化から、治療が有益な効果をもたらしたかまたはもたらしていないという証拠が得られる。他の例では、もしあれば、患者における値の変化が、もしあれば、免疫療法を受けていない患者の代表的な対照集団における値の変化と比較される。特定の患者の応答と対照患者の正常な応答の差異(例えば、平均値プラス標準偏差の分散)はまた、免疫療法の投与計画が患者において有益な効果を達成しているかまたはしていないかという証拠を提供することができる。
【0124】
一部の患者では、監視によって、タウタンパク質沈着物の検出可能な低下が示されるが、タウタンパク質沈着物のレベルは正常を上回ったままである。このような患者では、許容できない副作用がない場合、そのままの投与頻度および/もしくは用量で、または最大推奨用量でない場合は、投与頻度および/もしくは用量を増加させて、治療の投与計画を継続することができる。
【0125】
監視によって、患者におけるタウタンパク質沈着物のレベルが正常またはほぼ正常まで低下したことが示される場合は、免疫療法の投与計画は、誘導の投与計画(すなわち、タウタンパク質沈着物のレベルを低下させる計画)から維持の投与計画(すなわち、ほぼ一定のレベルでタウタンパク質沈着物を維持する計画)に調整できる。このような投与計画は、免疫療法の用量および/または投与頻度を減少させることによって影響され得る。
【0126】
他の患者では、監視は、免疫療法がいくつかの有益な効果ではあるが準最適な効果を有していることを示し得る。最適な効果は、治療の開始後の所定の時点で免疫療法を受けているタウオパチー患者の代表的な試料が経験する(タウタンパク質沈着物が形成することが知られているその全脳もしくは代表的な領域(複数可)にわたって測定または計算された)タウタンパク質沈着物の変化の上半分または四分位内のタウタンパク質沈着物のレベルの減少率として定義され得る。タウタンパク質沈着物が少し低下した患者、またはタウタンパク質沈着物が一定のままの患者、または増加するが、免疫療法の非存在下で(例えば、免疫療法を投与されていない患者の対照群から推測した時に)予想される値よりも低い程度までの増加である患者は、陽性ではあるが準最適な反応を経験する患者として分類され得る。このような患者には、必要に応じて、薬剤の用量および/または投与頻度を増加させる投与計画の調整が施され得る。
【0127】
一部の患者では、タウタンパク質沈着物は、免疫療法を受けていない患者におけるタウ沈着と同様にまたはそれを上回って増加し得る。このような増加が、18ヶ月または2年などの期間にわたって継続する場合は、薬剤の頻度または用量が増加した後であっても、必要に応じて、他の治療を優先して免疫療法が中断され得る。
【0128】
タウオパチーの診断、監視、および治療の調整についての前述の説明は、主にPETスキャンを使用することに焦点を置いてきた。しかし、本発明のタウ抗体(例えば、マウス、ヒト化、キメラもしくはベニヤ16B5抗体)の使用の影響を受けやすいタウタンパク質沈着物の視覚化および/または測定ための任意の他の技術が、このような方法を実行するためのPETスキャンの代わりに使用できる。
【0129】
実施例
実施例1.抗体16B5の作製
リン酸化されているタウまたはされていないタウを認識するパン抗体16B5を精製したタウに対して作製し、ELISAアッセイでの高い親和性捕捉特性に基づいて選択した。
【0130】
実施例2.抗体16B5のクローニングおよび配列決定
RNAを、トリゾールLS(Invitrogen社)を用いて、16B5抗体を発現するペレット化細胞から抽出した。RNA濃度を、Quant−ITキット(Invitrogen社)を用いて測定した。
【0131】
5’−RACEを利用して、Smart RACEキット(Clontech社)を用いてIgGのmRNAの5’末端を増幅した。約1μgのRNAをRT反応に使用し、Smart RACEキットのユニバーサルプライマーおよびExonBIOで設計した遺伝子特異的プライマー(GSP)を用いて、cDNAプールをさらに増幅した。
【0132】
プライマー配列:
ユニバーサルプライマー:CTAATACGACTCACTATAGGGC(配列番号7)
GSP:
IgG1およびIgG2a:CTC AAT TTT CTT GTC CAC CTT GGT GC(配列番号8)
IgG2b:CTC AAG TTT TTT GTC CAC CGT GGT GC(配列番号9)
【0133】
PCR産物をゲル生成し、pSUPER−ブラントベクター(Adexon社、www.adexonbiotech.com)にクローニングした。重鎖については、15個のコロニーをミニプレップし、配列決定した。軽鎖については、コロニーPCRを行い、内因性の異常な軽鎖を区別し、コロニーPCRから増幅されなかった唯一のクローンの配列決定を行った。配列決定の結果は、NTIベクター上で分析した。アダプターおよびGSPのプライマー配列をマップ上にマークした。アダプターとGSP配列の間の領域は、リーダー、シグナルペプチドおよびV−領域、ならびに定常領域の一部を含むIgG重鎖配列である。ORFをマップ上にマークした。
【0134】
実施例3.抗体16B5のエピトープマッピング
ペプチド断片分析によるエピトープの同定
N末端インサートを含まず、4つの微小管結合リピートおよびP301L変異(rタウ)を含むヒトのタウ配列を大腸菌内で発現させ、精製した。タウのこの形態は、タウの最長のアイソフォームに基づく番号付け規則を使用してP301Lに相当する)243位のロイシンがプロリンに置き換わった配列番号3の配列を有する。200μgのタウの酵素消化を次の4つの異なるプロテアーゼのいずれかを用いて行った:(アルギニンおよびリジンのカルボキシル末端で切断する)トリプシン、(チロシン、トリプトファン、フェニルアラニンおよびロイシンのカルボキシル末端で主として切断する)キモトリプシン、(リジンのカルボキシル末端で切断する)LysC、または(グルタミン酸残基およびまれにアスパラギン残基の後ろで切断する)Gluc。全てのプロテアーゼをThermo Scientific社から入手し、消化を37℃で16時間行った。得られたペプチド断片を10μgの16B5と共にインキュベートし、プロテインG磁気ビーズ(NEB)を用いて沈殿させた。沈殿物を完全に300mMのNaClおよび0.5%NP−40を含有するPBS中で洗浄し、次いで、100mMグリシン中1MのNaCl(pH2.8)で溶出した。溶出物を真空乾燥し、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)に再懸濁した。再懸濁した溶出液を4.6×50mmのC18カラム上にロードし、その後、0.075%TFAとアセトニトリルの直線勾配を用いてHPLC(Agilent1260インフィニティ・システム)により分画した。ピーク画分を収集し、乾燥させ、蒸留水に再懸濁した。ペプチドの質量および同一性を、MALDI−TOF/TOFによって決定した。配列番号1の残基25〜44に対応するピークは、LysCのMSスペクトルで同定された。残基配列1の番号25〜44および24〜44に対応するピークを、トリプシンのMSスペクトルで同定した。キモトリプシンおよびGluC消化物からのシグナルが得られなかったことは、いくつかのエピトープが、配列番号1の残基29および/または配列番号1の残基37を含むことができることを示唆する。
【0135】
変異分析によるエピトープの同定
(上述の)ペプチド断片分析によって決定された結果を用いて、rタウの欠失変異誘発を標準的な分子生物学的方法を用いる全プラスミドの増幅により行った。タンパク質を少量の細菌培養物中で発現させ、浄化した細菌溶解物の等容量を電気泳動し、ブロットし、16B5抗体で染色した。試料のローディングの対照には、タウのC末端領域(C末端エピトープ)に特異性を有する抗体のタウ46を用いて、重複ブロットを染色した。両方の抗体を0.2μg/mlの濃度で使用した。Licorオデッセイ蛍光スキャナーを用いて画像を取得した。タウの次の欠失変異体を作製し、このようにして分析した:Δ5−24、Δ23−32、Δ25−44、Δ30−39、およびΔ37−46。図1および図2に示すように、タウのΔ25−44およびΔ30−39欠失変異体は16B5抗体により検出されず、16B5によって認識されるエピトープがそれらの残基内にある証拠が得られた。タウのΔ37−46欠失変異体は16B5でごくわずかに検出可能であり、37−46内の残基のいくつか(例えば、残基37)が16B5のタウへの結合において役割を果たし得るという証拠が得られた。16B5抗体は、タウのΔ23−32欠失変異体をΔ5−24欠失変異体より少ない程度、かつΔ25−44およびΔ30−39欠失変異体よりも多い程度に染色し、16B5がまた、残基33〜36、30〜36、33〜37、30〜37または33〜39を含むペプチドに結合することができるという証拠が得られた。全体として、タウ欠失変異体から得られたデータは、16B5により認識されるエピトープが配列番号1の残基23〜32の一部または全部および配列番号1の残基37〜46の一部または全部を含み得ることを示唆する。例えば、16B5は、配列番号1の残基32〜38または28〜41内のエピトープを認識できる。
【0136】
アラニンスキャニングによるエピトープの同定
次に、残基30〜42に及ぶタウの領域内の単一残基を、PCR変異誘発を用いてアラニン変異させた。変異したタンパク質を発現させ、上記のように溶解物を電気泳動によって分離し、16B5抗体またはタウ46抗体のいずれかを用いてブロットした。この分析の結果を図3に示す。T30A、M31A、H32A、Q33A、D34A、Q35A、E36A、G37A、D38A、T39A、D40A、A41L、およびG42Aを含む分析した特定の点変異体をブロット上に列挙する。特に関心のある残基を各ブロット上にボックスで囲んである。16B5の検出可能な結合は、Q33Aタウ変異によって完全に除去され、G37Aタウ変異によって実質的に減少し、残基33およびより少ない程度の残基37が16B5によって認識されるエピトープの重要な構成要素であり得る証拠が得られた。他の残基は、ビアコア分析において16B5によって認識されるエピトープの重要な構成要素であり得る。
【0137】
実施例4.タウオパチーのhタウ.P301Lトランスジェニックマウスモデルにおける受動免疫
免疫
FVB/N遺伝的バックグラウンドの3ヶ月齢のhタウ.P301L−Tgの雌マウスをこの研究に使用した。10mg/kgの試験抗体および対照抗体の投与を、週に一度、腹腔内に行った。治療期間は約5ヶ月であった。23回の注射の後、マウスを屠殺して本研究を終えた。本研究で投与した試験抗体および対照抗体を表1に記載する。
【0138】
【表1】
【0139】
時期尚早の死は、トランスジェニックマウスのタウオパチーのモデルで観察された表現型である。本研究で用いた特定のモデルは、発症の変動が高いが、6ヶ月の年齢で高リン酸化タウを発現する。このマウスはまた、後肢がクラスピング(clasping)のような運動欠陥を患い、全般的な移動性が低減し、8〜11ヶ月の年齢で早期に死亡する(reMYND未発表データ、Terwel et al.,2005)。クラスピング表現型および体重減少の存在によって特徴付けられる末期の疾患症状を呈するマウスを屠殺した。予想外に高い数のマウスが、これらの症状の存在なしに早期に死亡した。そのような場合の死の原因は、後期タウオパチーまたは試験抗体とは無関係であると考えられ、その代わりに近交系FVB/Nバックグラウンドと関連すると考えられる。
【0140】
表2は、本研究の過程における全てのマウスの全生存期間の概要を示す。
【0141】
【表2】
【0142】
屠殺後、マウスを解剖し、ポッター型メカニカルホモジナイザー(VOS 14 S40、速度750rpm、VWR)を用いて、20mMトリス−塩酸(pH8.1);150mMのNaCl;1mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA、Merck社);1mMのエチレングリコール四酢酸(EGTA、Sigma−Aldrich社);5mMのピロリン酸ナトリウム(Sigma社);30mMのフッ化ナトリウム(Sigma−Aldrich社);1mMのPMSF(Sigma社);2mMのバナジン酸ナトリウム(Sigma社);10mMの1,10−オルト−フェナントロリン一水和物(Sigma−Aldrich社);5μg/mlの大豆トリプシンインヒビター;5μg/mlのペプスタチン;およびプロテイナーゼインヒビターのカクテル(CPI、Roche Diagnostics GmbH社、ドイツ)を含む10重量体積の氷冷トリスプロテイナーゼ−ホスファターゼ−阻害剤の緩衝液(TPPI−緩衝液)中で脳幹および中脳をホモジナイズした。それぞれ140μlおよび100μlの脳幹および中脳ホモジネート(TotH)の固定体積(総容積の約半分)を4℃で60分間、136000×gで遠心分離(TLA−55ローター、OptimaTMTLX超遠心機、Beckman Coulter社)し、トリス可溶性画分(SF)を作製し、全ホモジネートの残りを−80℃で保存した。遠心分離機ホルダの数(N=12)が限られているため、試料を無作為化して、遠心分離を均等にし、異なる治療群を異なる遠心分離セッションにわたって分割した。
【0143】
上清(S1、「可溶性画分」または「SF」とも呼ばれる)を、ペレット(P1)から分離し、等分して、−80℃で保存した。P1ペレットを10重量体積の高塩溶液(0.85MのNaCl含有TPPI緩衝液)に可溶化し、4℃で30分間、20000×gで遠心分離した。得られた高塩ペレット(P2)を−80℃で保存した。上清(S2)を10%サルコシルの10分の1の1%サルコシルに入れ、トップオーバートップロータリータンブラー(top−over−top rotary tumbler)で60分間室温でインキュベートし、その後、4℃で60分間、136000×gで遠心分離した。サルコシル可溶性上清(S3)を−80℃で保存し、サルコシル不溶性ペレット(P3、「不溶性画分」または「IF」とも呼ばれる)を、30μlのTPPI緩衝液に再懸濁し、分注した。上記の分画プロトコルによって作製した全ホモジネート(TotH)、トリス可溶性(SF)、およびサルコシル不溶性(IF)の脳幹画分を、その後のポリアクリルアミドゲル電気泳動およびウェスタンブロッティング分析に使用した。
【0144】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびウェスタンブロッティング
従来のSDS−PAGEおよびウェスタンブロッティングの適用のために、試料を変性させ、10分間95℃でインキュベートすることによって還元し、7.5%のTris−HClゲル(Criterion XTプレキャストゲル、26ウェルコーム、15μl、1.0mm;Biorad社)上で分離した。PVDF−膜(iBlot(商標)ゲルトランスファースタック(Gel Transfer Stack)、PVDF、レギュラー、Invitrogen社)を乾燥電気泳動転写(dry electrotransfer(iBlot(商標)Invitrogen社))した後、膜を30分間、0.4%PFA中で洗浄し、その後、トリス緩衝食塩水で洗浄した。次に、膜を5%(w/v)脱脂粉乳および0.1%(v/v)Tween−20を含有するトリス緩衝生理食塩水(TBS、pH7.6)中で1時間インキュベートした。ブロットを、表3に示した作業濃度で、様々な抗タウ一次抗体と一晩インキュベートした。洗浄し、抗マウスまたは抗ウサギHRP結合二次抗体(ヤギ抗マウスまたはヤギ抗ウサギIgG、DAKO)とインキュベートした後に、ブロットをECL検出システム(スーパーシグナルウェストフェムト最大感度基質(SuperSignal West Femto Maximum Sensitivity Substrate)、製品番号34096、Thermo Scientific社)で発色させた。異なる露光時間で画像をデジタル記録(VisionWorks Acquisition、UVP)し、専用ソフトウェア(VisionWorks Analysis、UVP)をブロットの分析のために使用した。比較のために、インターゲルリファレンスゲルの泳動を行い、比較のために4画分のアリコートを各ゲル上で移動させた。検出のために使用した抗タウ一次モノクローナル抗体には、AT100(リン酸化タウ、Thermo Scientific社、希釈1:250)、AT8(リン酸化タウ、Thermo Scientific社、希釈1:500)、HT7(パンタウ、Pierce社、希釈1:1000)、および1F5(試験施設には知られていないエピトープ、Neotope、希釈3:500)が含まれていた。ブロットを、ローディングコントロールとして抗GAPDHで再プローブした(Abcam9485;希釈1:2500)。パンタウ抗体は、リン酸化タウに特異的ではない。
【0145】
【表3】
【0146】
図4に示すように、6F10対照抗体で治療した動物と比較して、タウの量の統計的に有意な減少が、16B5抗体で治療した動物からサルコシル不溶性脳幹画分で観察された。統計的有意性を、スチューデントt検定、p<0.05を用いて評価した。この減少は、リン酸化タウ特異的抗体(AT8、左上のパネル;AT100、左下のパネル;1F5、右上のパネル)およびパン−タウ抗体(HT7、右下のパネル)の両方で観察された。全ホモジネートのウェスタンブロットはまた、リン酸特異的抗体で検出した場合、6F10抗体で治療した対照動物と比較して16B5治療動物における総タウに対するリン酸化タウの比率の有意な低下を示した。(HT7パンタウ抗体で検出されたシグナルで割ったAT8抗リン酸化タウ抗体で検出されたシグナルを示す)図5の左パネルを参照されたい。対照的に、6F10抗体で治療した対照動物と比較して16B5で治療した動物の全ホモジネートにおけるGAPDHレベルに対する総タウの比率において有意な変化はなかった。(GAPDH抗体で検出されたシグナルで割ったHT7パンタウ抗体で検出されたシグナルを示す)図5の右パネルを参照されたい。これらのデータは、ホモジネート中の総タウではないリン酸化タウのレベルが低下したという証拠を提供する。
【0147】
組織学的分析
視床下核アネックス不確帯(STH/ZI)および小脳の挿入核、前方および後方部、アネックス外側小脳核(IntA/P/LAT)において、抗リン酸化タウ抗体を用いた免疫組織化学的分析を行った。矢状ビブラトーム切片(40μm)を0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS中で、使用するまで4℃で保存した。示したブレグマで、マウスあたり8つの切片をmAbのAT8、AT100または1F5でフリーフローティング染色した。切片を、以下の表4に記載の示した抗体での染色のために選択した。特定の染色のために選択した全ての動物の切片を、染色および盲検定量化のために無作為化した。
【0148】
フリーフローティング切片を、Netwells(商標)中でインキュベートした。次いで、切片をPBSで2回洗浄し、PBSおよびメタノール(1:1)中の1.5%過酸化水素で20分間インキュベートし、内因性ペルオキシダーゼ活性を除去した。0.1%トリトンX100を含むPBS(PBST)で切片を3回洗浄した後、切片をPBST中10%ウシ胎児血清(FCS)中で30分間ブロックし、その後、10%FCSを有するPBST中、それぞれ0.4μg/mlおよび0.05μg/mlの濃度を使用して一次抗体AT8、AT100(Thermo scientific社)と一晩インキュベートした。洗浄後、切片をヤギ抗マウスペルオキシダーゼ標識(GAMPO)二次抗体(DAKO社、PBST中1/500、10%FCS)でインキュベートし、シグナルを3,3’−ジアミノベンジジン四塩酸塩(DAB、10mlあたり3μlのHを有する10mlのTris−HClあたり1錠)で発色させた。切片をマイヤーのヘマトキシリンで対比染色し、エタノールおよびキシレン(Merck Eurolab)中で5ステップ(50、70、95および2×100%)で脱水し、Depex(Depexマウンティング溶剤(Depex mounting medium)、BDH Laboratory)にマウントした。
【0149】
【表4】
【0150】
カラービューIIオリンパスカメラを装備したオリンパスBX41顕微鏡を用いて画像を取得し、AnalySIS Five−Cell^Dソフトウェアを用いてコンピュータで分析した。顕微鏡のための光強度およびコンデンサーの設定は、画像取得プロセス中一定に維持した。全ての取得画像を同じコンピュータサブルーチンに供し、調査者の偏見を最小限にした。解析の間中、密度スライス閾値化を均一に適用した。
【0151】
以下に定義するような関心領域を、染色シグナル(複数可)の自動定量化のために選択した。視床下核および不確帯を、それぞれ大脳脚により腹側に、および白質によって背側に、かつ細胞密度の違いに基づいて区切った(矢状小脳切片、ブレグマ1,32−1,92)。小脳の挿入核、前方および後方部分、ならびに横小脳核を、白質および細胞密度の変化ならびに第三脳室によって区切った(矢状小脳切片、LATについてはブレグマ1,92−2,64およびIntA/Pについては0,84−1,8)。それぞれの染色について、マウスあたりSTH/ZIを含む6個の脳切片およびIntA/P/LATを含む16個の切片を分析に含めた。
【0152】
図6に示すように、16B5抗体で治療した動物の小脳核および視床下部領域で検出されたリン酸化タウの量は、6F10抗体で治療した対照動物の同じ構造で検出されたリン酸化タウの量と比較して有意に減少した。統計的有意性をスチューデントt検定、p<0.05を用いて評価した。
【0153】
実施例5.16B5のヒト化
配列解析により、16B5抗体が、マウスカバットサブグループ1に属し、ヒトカバットサブグループ4に対応する配列番号16の配列を有する可変カッパ(Vk)ドメインを有することが示される。カバットCDRに下線が引いてある。16B5抗体の可変重鎖(Vh)ドメインは、マウスカバットサブグループ2bに属し、ヒトカバットサブグループ1に対応する配列番号10の配列を有する(Kabat et al.(1991)、免疫学的に興味のあるタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)、第5版、NIH公開番号91−3242)。カバットCDRに下線が引いてある。
【0154】
16B5Vkドメインは、17残基のCDR−L1配列(KSSQSLLNSRTRKNYLA、配列番号17)、7残基のCDR−L2配列(WASTRES、配列番号18)、および8残基のCDR−L3(KQSYTLRT、配列番号19)を含む。CDR−L1配列はカノニカルクラス3に属し、CDR−L2およびCDR−L3配列はクラス1に属する(Martin & Thornton (1996),J.Mol.Biol.263:800−15)。
【0155】
16B5 Vhドメインは、カバット番号付けに基づいて5残基のCDR−H1配列(YHGMD、配列番号11)またはカバットおよびコチア番号付けに基づいて10残基のCDR−H1配列(GYPFTYHGMD、配列番号24)、17残基のCDR−H2配列(WINTYSGVPTYADDFKG、配列番号12)、および8残基のCDR−H3配列(RRDFTMDF、配列番号13)を含む。CDR−H1配列は、カノニカルクラス1に属し、CDR−H2配列はクラス2に属する(Martin & Thornton(1996),J.Mol.Biol.263:800−15)。CDR−H3配列はカノニカルクラスを有していないが、おそらく、白井ら((1999),FEBS Lett.455:188−97)の規則に従ってねじれベースを有している。
【0156】
VkおよびVhドメイン間の界面における残基は、マウスのこれらの位置にとって通常の残基である。
【0157】
16B5抗体の大まかな構造モデルを提供する構造を見つけるために、PDBデータベース中のタンパク質配列上で検索を行った(Deshpande et al.(2011),J.Virol.85:1820−33)。抗コレラ毒素抗体Fab断片Te33(pdbコード1ZEA_H)の構造を、VLのために1.78Aの分解能で使用した。これは、ループについて16B5と同じカノニカル構造を保持していた。Dsbb−Fab複合体(pdbコード2ZUQ_B)でのFab結晶構造を用いて、16B5のVHドメインをモデル化した。これは、3.3Aの分解能で解析すると、CDR−H1およびCDR−H2について同じカノニカル構造を含み、またねじれベースを有する同じ長さのCDR−H3を含んでいた。バイオルミネート(BioLuminate)プログラムを用いて、16B5 Fvの大まかな構造をモデル化した。
【0158】
CDR“X”ed 16B5 Fv配列を用いたNCBIの非冗長タンパク質配列データベースの検索により、マウスCDRを移植するのに適切するヒトフレームワークの選択が可能になった。Vkについては、NCBIアクセッションコードACJ71718.proを有するヒトκ軽鎖を選択した(配列番号20)。このヒトκ軽鎖配列は、CDR−L2およびL3について同じカノニカルクラスを有する。Vhについては、ヒトIg重鎖BAC02002.1を選択した(配列番号14)。これは16B5 CDR−H1およびH2のカノニカル形を共有し、H3は予測されるねじれベースと共に8残基長である。
【0159】
ヒト化重鎖および軽鎖の設計ならびにこれらのヒトフレームワークに基づく復帰突然変異を、それぞれ表5および表6に示す。
【0160】
配列番号15の配列を有するヒト化16B5可変重鎖(H1)を設計した。この設計は、3つの復帰突然変異:R13K、V48M、およびY98Fを含む。ヒトにおいてRよりも高頻度であるため、13位にはKを選択した。ヒトにおいてVよりも高頻度であるため、48位にはMを選択した。界面に位置しており、マウス残基を保持することが望ましい
ので、位置98にはFを選択した。
【0161】
3つのヒト化16B5可変軽鎖配列を設計した:
バージョン1(L1)は、配列番号21の配列を有し、3つの復帰突然変異のDIN、M4L、およびY36Fを含む。HCDR2のN61と潜在的な水素結合を形成するため、1位にNを選択した。LCDR3のK96、Q97およびS98と接触するので、4位にLを選択した。これは界面の残基のF104とも接触する。Fはできないが、YがHCDR3のD106と水素結合できるので、36位にFを選択した。水素結合は、HCDR3機能に影響を与える可能性がある余分な相互作用を構成し、したがって、好ましくは回避される。
【0162】
バージョン2(L2)は、配列番号22の配列を有し、4つの復帰突然変異のD1N、M4L、Y36F、およびP43Sを含む。D1N、M4L、およびY36Fの論理的根拠はバージョン1と同じである。SはVH中のQ110と水素結合を形成し、HCDR3に近いので、43位にはSを選択した。
【0163】
バージョン3(L3)は、配列番号23の配列を有し、3つの復帰突然変異のM4L、Y36F、およびP43Sを含む。これらの変異の各々についての理論的根拠は、バージョン1および2と同様である。
【0164】
【表5】
【0165】
【表6】
【0166】
実施例6.ヒト化16B5抗体のタウ親和性
H1L1またはH1L2設計を有するヒト化16B5抗体についての結合データを以下の表7に示す。比較のために、キメラ16B5についての結合データも示す。ビアコア装置を用いてデータが得られた。バージョンH1L2は、キメラ16B5のものと本質的に同じである最も強い親和性を有すると結論付けられた。ヒト化16B5バージョンH1L1およびH1L3も十分な親和性を有していた。
【0167】
ビアコアT200(GE Lifesciences社)を用いて表面プラズモン共鳴測定を行った。全ての実験を、抗マウスまたは抗ヒト捕捉抗体をアミン結合することにより調製したCM5センサーチップ上で、30μl/分で10mM HEPES pH7.4、150mMのNaCl、0.05%のTween−20の移動相を用いて行った。16B5(キメラ型またはヒト化型)を固定した捕捉抗体に結合させ、精製した様々な濃度の組換えhタウ.P301Lを、逐次反復で抗体複合体に適用した。反復ステップは、高塩または低pHの再生ステップで分離した。抗体と抗原の異なる調製物を用いて実験を繰り返した。分析は、搭載されているビアコアソフトウェアを用いて行った。
【0168】
【表7】
【0169】
実施例7.タウのヒト化16B5抗体との免疫沈降検出
6のBraakスコアを有するアルツハイマー病患者の前頭皮質の死後試料を、次の順序で、可溶化力を増加させる緩衝液で連続的に抽出した:(i)高塩緩衝液(20mMのトリス、5mMのEDTA、1mMのDTT、10%スクロース、7500mMのNaCl pH7.4)、(ii)トリトン緩衝液(20mMのトリス、5mMのEDTA、1mMのDTT、10%スクロース、1%のトリトンX100、500mMのNaCl pH7.4)、(iii)サルコシル緩衝液(10mMのトリス、5mMのEDTA、1mMのDTT、10%スクロース、500mMのNaCl、1%サルコシル、pH7.4)。
【0170】
各試料について、高塩可溶性画分200マイクログラム、またはサルコシル不溶性画分20マイクログラムを、400マイクロリットルの免疫沈降緩衝液(10mMのトリス、150mMのNaCl、0.5%のトリトンX100、1mMのEGTA、1mMのEDTA、pH7.4)に希釈した。試料を、プロテインG磁気ビーズ(New England Biolabs社)でプレクリアし、抗体5マイクログラムを各チューブに添加した。使用した抗体には次のものが含まれる:1)対照としてのマウスの非免疫IgG抗体(mIgG);2)対照としてのヒト非免疫IgG抗体(hIgG);3)キメラ16B5抗体(Chi16B5);4)ヒト化16B5、バージョンH1L2(h16B6−H1L2);およびヒト化16B5、バージョンH1L3(h16B6−H1L3)。プレクリア溶解物および抗体を4℃で2時間インキュベートした。抗体/抗原複合体を、プロテインG磁気ビーズを用いて沈殿させ、沈殿物をPBS/350mMのNaClで十分に洗浄した。Laemmli緩衝液を用いて溶出した後、溶出液をSDS−PAGEによって分離し、ポリクローナル抗タウ抗体(DAKO社)を用いてブロットした。
【0171】
図7に示すように、キメラ16B5およびヒト化16B5 H1L2およびH1L3は、アルツハイマー脳からの可溶性画分と不溶性画分の両方でタウを認識した。
【0172】
実施例8.アルツハイマー病の脳におけるマウスおよびヒト化16B5タウ抗体の免疫組織化学的特性
マウスモノクローナル抗タウ抗体16B5ならびにその2つのヒト化変異型であるh16B5−H1L2およびh16B5−N1Dを、アルツハイマー病のドナーおよび非罹患高齢者対照からのヒト脳皮質の新鮮凍結切片上で免疫組織化学的試験も行った。
【0173】
方法:
ヒト脳組織
前頭皮質を、サン衛生研究所(Sun Health Research Institute)から入手した。症例には、アルツハイマー病と診断され、死後の神経病理学的評価で確認された6人の患者(平均年齢86.8±0.40SEM)、および3人の非罹患高齢者対照(平均年齢77±9.7SEM)が含まれた。症例の人口統計学データを以下の表8に記載する。免疫組織化学を、スライドにマウントし、軽くアセトン固定した10μmの凍結切片上で行った。
【0174】
【表8】
【0175】
免疫組織化学
免疫ペルオキシダーゼ法は、ヤギ抗マウス免疫グロブリンにコンジュゲートしたペルオキシダーゼ標識ポリマー(EnVision+システムHRP標識ポリマー;Dako K4001)または直接ビオチン化したヒト化抗体用のベクターABC増幅システム(ABC Elite Standard;PK−6100;Vector Laboratories)のいずれかからなる主要な検出システムであった。染色をDAB色原体(液体DAB+基質色素原システム;Dako K3468)を用いて可視化し、茶色の堆積物が生成した。
【0176】
陰性対照は、IgGアイソタイプ対照抗体を用いるか、または一次抗体を省略して隣接切片上で全免疫組織化学的手順を実行することからなっていた。
【0177】
免疫蛍光標識
二重免疫蛍光染色を行い、抗体のマウス変異型およびヒト化変異型、様々なリン酸化エピトープを認識する他のタウ抗体と、アミロイドベータの関係を決定した。組織切片を、ビオチン化またはFITCタグ付きヒト化16B5変異型(1μg/mL)およびマウス抗体(モノクローナル16B5(1μg/mL)、AT8(1:1000)、AT100(1:1000)、または3D6(μg/mL)のいずれか)を含む抗体カクテルで並行して染色した。マウス抗体は、488または635フルオロフォア(Invitrogen社)にコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体で検出した。ビオチニル化ヒト化抗体は、ストレプトアビジン635で検出した。
【0178】
プレ吸収
標的抗原に対する抗体の特異性を評価するために、1μg/mLの16B5抗体を4℃で一晩、50μg/mLの精製ヒトP301Lタウまたは野生型シヌクレイン(無関係なタンパク質)でプレ吸収した。次いで、これらの抗体を組織に適用し、上記のように免疫組織化学手順を行った。
【0179】
画像解析
スライドをオリンパスBX61顕微鏡、オリンパスNanozoomer 2.0HT、またはライカSPEスペクトル共焦点システムのいずれかを用いて画像化した。画像は、TIFFファイルとして収集した。
【0180】
結果
以下の表9に示すように、マウスモノクローナル抗体16B5および両方のヒト化変異型は、アルツハイマー病の組織上で応答性を示し、神経網スレッドを顕著に、神経原線維変化(主に球形)およびいくつかのタウ陽性老人斑をある程度染色した。ほとんどの16B5AD−線維性病変は灰白質に限られていたが、ある程度の応答性が白質でも検出された。対照的に、非疾患対照組織は、拡散背景(diffuse background)応答性を示したが、AD組織で検出される病状については陰性であった。
【0181】
二重標識実験を、16B5のマウスモノクローナルバージョンならびに(1)両方のヒト化変異型、(2)様々なリン酸化エピトープにてタウを認識する抗体、および(3)ベータアミロイドを用いて行い、抗体変異型によって認識される病変をさらに特徴付けた。
【0182】
h16B5−H1L2とh16B5−N1Dの両方は、AD−原線維病理学的構造において高度な合同を有するモノクローナル16B5抗体と共局在化した。h16B5−H1L2はまた、セリン202およびトレオニン205(AT8)、セリン212およびトレオニン214(AT100)、およびセリン396(組織内独自の抗体、20H1)を含む様々なリン酸化タウエピトープに免疫応答性であることが示された病理も検出した。最後に、N末端アミノ酸配列(3D6;aa1−5)を認識するアミロイドβ抗体と16B5で二重標識すると、アミロイド斑上にΑβ構造と16B5免疫応答性構造の間にほとんど共局在性がないことが示された。
【0183】
16B5の免疫応答性を、十分に特徴付けられた市販のモノクローナル抗タウ抗体(Dako社)と比較した場合、両方ともタウ陽性老人斑、神経網スレッド、および神経原線維変化を含む原線維AD病理を染色した。
【0184】
抗体の特異性は、精製した組換えP301Lタウでのプレ吸収により評価した。16B5をP301Lタウでプレ吸収させた時に、染色の減少が観察されたが、抗体を同じモル濃度で無関係なタンパク質(野生型シヌクレイン)でプレ吸収させた時には、染色は影響を受けなかった。
【0185】
IgGアイソタイプ対照抗体と一次抗体の省略セクションの両方は、試験した全ての組織全体の染色について陰性であった。
【0186】
【表9】
【0187】
引用した(GenBank受入番号、およびUniProtKB/Swiss−Prot受入番号などを含む)全ての刊行物、特許および特許出願は、各個々の刊行物、特許および特許出願が全ての目的のためにその全体が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示される場合と同程度に、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。GenBankおよびUniProtKB/Swiss−Protの受入番号などに関連する配列中でいかなる差異が発生した場合にも、本出願は、実際の出願日を意味する本出願の有効出願日以後か、または関連する受入番号を開示する優先権出願の日付より早くに引用された受入番号と関連する配列を指す。本発明の任意の特徴、工程、要素、実施形態、または態様は、特に具体的に示されない限り、任意の他のものと組み合わせて使用できる。本発明は、明確さおよび理解の目的のために例示および実施例によっていくらか詳細に説明してきたが、特定の変更および改変が、添付の特許請求の範囲内で実施され得ることは明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]