特許第6674941号(P6674941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6674941-洗出し工法 図000024
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674941
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】洗出し工法
(51)【国際特許分類】
   B28B 11/08 20060101AFI20200323BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20200323BHJP
   E04F 15/08 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   B28B11/08
   C04B28/08
   E04F15/08 E
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-243054(P2017-243054)
(22)【出願日】2017年12月19日
(65)【公開番号】特開2019-107832(P2019-107832A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年7月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596059772
【氏名又は名称】株式会社フッコー
(74)【代理人】
【識別番号】100080654
【弁理士】
【氏名又は名称】土橋 博司
(72)【発明者】
【氏名】杉山 光明
(72)【発明者】
【氏名】杉山 成明
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−133156(JP,A)
【文献】 特開平08−118322(JP,A)
【文献】 伊代田岳史,高炉スラグ微粉末を大量使用したコンクリート,コンクリート工学,日本,コンクリート学会,2014年 5月,Vol.52,No.5,pp.409-414
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 11/08
C04B 28/08
E04F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
玉石または砕石をアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントと高炉スラグを混合した結合剤にて適度に硬化させ、玉石または砕石の表面を洗い出す洗出し工法であって、前記アルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントと高炉スラグを混合した結合剤は、前記アルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントと高炉スラグの配合割合を1:0.42〜9.00の範囲で調節することによって洗出し工程のタイミングを変えることができるようにしたことを特徴とする洗出し工法。
【請求項2】
前記玉石または砕石をアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントと高炉スラグを混合した結合剤にて適度に硬化させるに際し、該硬化速度を前記高炉スラグの粒度(比表面積)差を用いてコントロールすることを特徴とする請求項1に記載の洗出し工法。
【請求項3】
前記玉石または砕石の表面を洗い出す深度は、前記高炉スラグのアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントよりも遅い硬化速度に応じて調節することができるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の洗出し工法。
【請求項4】
玉石または砕石をアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントと高炉スラグを混合した結合剤にて適度に硬化させ、玉石または砕石の表面を洗い出した上、その表面にオーバーコート剤を塗布して最終仕上げすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の洗出し工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉石、砕石を使って床、壁を仕上げる洗出し工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本ではセメント(アルミナセメントを含む)を硬化剤とし玉石、砕石を使って床、壁を仕上げる洗出し仕上げが昔からある。
従来の洗出し仕上げ工法においては、細かい人工石や天然石をモルタルに埋め込んだあと、洗い出して石を浮き出させて作る洗い出し床が得られ、石の散布量や散布の方法、石の種類によって様々な表現が出来る。例えば、散布する石にピンク系を入れると洋風な感じになったり、床面にステンレスで見切りを入れて施工すると波浪状の模様が出来る。また、ウエーブさせたラインごとに色見を替えると更に面白いデザインになる。
【0003】
しかしこのような洗出し仕上げには、セメントの硬化状態を判断して玉石、砕石等の上部を洗うため、洗うタイミングが大変難しい。夏は気温が高くセメントが早く乾燥するため洗う時期を逸したり、冬は気温が低くセメントの乾燥が遅いため早く洗い過ぎ、石が取れ過ぎてしまったりする。したがって、美しい仕上げを望むには、体験を重ねた熟練工が必要になる。それを整理すると以下のようになる。
1.セメントの硬化時間は季節の気温、湿度、風(空気の流れ)等で常に違う。
2.硬化のタイミングを測って洗い出す仕上げは時期の判断が難しい。
3.部分的にムラ乾きがあると均一に洗えない。
4.熟練工が必要となる。
5.石表面の洗い出す深度は硬化状況により調節が難しい。
【0004】
そこで従来、特開平7−206496号公報(特許文献1参照)のグルコン酸やその塩類のようなオキシカルボン酸類と、サッカロースのような糖類とを重量比で5:95〜95:5の範囲で混合した凝結遅延剤や、特開2006−290664号公報(特許文献2参照)のポリビニルアルコールを凝結遅延剤として用い、任意に凝結時間を制御することが試みられてきた。
ちなみに、高炉スラグはアルカリに反応してセメントと同等以上の強度になることが知られている。しかし、徐々に反応してある程度の強度になるには7日から2週間程度の時間が掛かるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−206496号公報
【特許文献2】特開2006−290664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは先行技術の前記問題点を解決するため鋭意研究してきた結果、アルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントへの高炉スラグの配合割合を調節しながら玉石、砕石を入れて硬化させると、アルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントは迅速に硬化する一方、高炉スラグはアルカリ及び湿気に反応して徐々に固まってゆく。そのため、双方がうまく配分された配合物は施工後の翌日に洗っても高炉スラグ側が完全に固まっていないため容易に玉石、砕石の表皮を洗い出すことができることが判明した。
また、高炉スラグ側は徐々に硬化するため、翌々日はおろか、3日、4日後でも洗い出すことができたのである。
【0007】
したがってこの発明は、高炉スラグのすぐには固まらない特性を利用してアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントに配合することにより、玉石、砕石を入れて硬化させると玉石、砕石の表皮を容易に洗い出すことができる洗出し工法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明の洗出し工法は、玉石または砕石をアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントへ高炉スラグを混合した結合剤にて適度に硬化させ、玉石または砕石の表面を洗い出すことを特徴とするものである。
なお、最適の組合せはアルミナセメントと高炉スラグの混合である。
【0009】
本発明の洗出し工法において、前記アルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントに高炉スラグを混合した結合剤は、前記アルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントに高炉スラグの配合割合を1:0.42〜9.00の範囲で調節することによって洗出し工程のタイミングを変えることができるようにしたことをも特徴とするものである。
【0010】
本発明の洗出し工法において、前記玉石または砕石の表面を洗い出す深度は、前記高炉スラグのアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントよりも遅い硬化速度に応じて調節することができるようにしたことをも特徴とするものである。
【0011】
本発明の洗出し工法において、前記玉石または砕石をアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントと高炉スラグを混合した結合剤にて適度に硬化させるに際し、該硬化速度を前記高炉スラグの粒度(比表面積)差を用いてコントロールすることをも特徴とするものである。
【0012】
本発明の洗出し工法はまた、玉石または砕石をアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントと高炉スラグを混合した結合剤にて適度に硬化させ、玉石または砕石の表面を洗い出した上、その表面にオーバーコート剤を塗布して最終仕上げすることをも特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明の洗出し工法において利用する配合物は、アルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントに添加する高炉スラグが、硬化に時間がかかることを利用するものである。すなわち、アルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントと高炉スラグを容易に洗える配合にしておくのである。
通常、非常に気温の高い季節では、アルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントが急結してしまって洗うタイミングを逃してしまうことがあるが、この本発明の洗出し工法において利用する配合物によれば翌々日はおろか、3日、4日後でも洗い出すことができ、前述の問題を容易に解決できる。
他方、非常に寒い場所においては逆にアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントの硬化が遅く、硬度が充分になっているかどうかのタイミングの選定が非常に難しいが、高炉スラグを配合しておけばアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントをしっかり硬化させてから洗えば良いので非常に作業がしやすくなった。
【0014】
これをまとめると以下のようになる。
1)通常、翌日洗えばよいため、洗出し作業において微妙なタイミングの選定は必要なくなり、熟練工でなくても仕上げが可能になった。
2)また翌日洗えばよくなったため、微妙なタイミングの必要がなくなり、だれでも前記玉石または砕石の表面を統麗に洗い出すことができるようになった。
3)前記玉石または砕石の表面を洗い出す深度は、配合物の内部の高炉スラグが完全に硬化していないため、十分にコントロールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の洗出し工法の実施の形態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1はこの発明の洗出し工法の1実施例を示す概略斜視図である。
すなわち、既存の下地である土間コンクリート11上に、40mm〜50mm程度の下塗り層12を形成する。
なお、土間コンクリート11の厚みが十分に確保されていれば、下塗り層12を省くことができる。
【0017】
本発明において使用する砕石、砂(珪砂)、玉砂利の予備寸法について説明しておく。なお、砕石、玉砂利、砂等は、何ら本項に記載されている品種に限定されるものではない。
<砕石>
砕石の「号」は、数字が大きくなると、反比例して粒の大きさが小さくなるので、下記の表1に示すようになっている。
<砂(珪砂)>
珪砂の「号」も、数字が大きくなると、反比例して砂粒の大きさが小さくなるので、下記の表1に示すようになっている。
<玉砂利>
また、玉砂利に使われる「分」という大きさ表記には尺貫法が使われており、下記の表1に示すようになっている。
【0018】
【表1】
【0019】
次に、本実施例の洗出し工法において実現する前記下塗り層12の配合例を表2に示す。
【0020】
【表2】
【0021】
前記実施例において高炉スラグは、気中の水分(湿気)で、徐々(常温で1〜3ヶ月)に硬化する性質があり、気中の水分(湿気)がアルカリ性を帯びていれば、硬化反応(反応速度)は促進される。
従って、水に浸してアルカリ性を呈する物質のアルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントが存在すれば、高炉スラグの硬化は促進される。
(参考)
アルミナセメントの水溶液 pH=11〜12
普通ポルトランドセメントの水溶液 pH=13〜14
高炉スラグの水溶液 pH=8〜9
アンモニア水溶液 pH=9〜10
水酸化カルシウム飽和水溶液 pH=13〜14
【0022】
前記下塗り層12の上にはさらに仕上げ層13を形成する。
ちなみに、前記仕上げ層13には既知の顔料を添加することで着色することができる。
前記仕上げ層13の配合例を表3および表4に示す。
【0023】
【表3】
【0024】
【表4】
【0025】
前記仕上げ層13の比較例を表5に示す。
【0026】
【表5】
【0027】
以下に本発明の洗出し工法の特徴とする点について説明する。
a)下塗り層と仕上げ層のセメント系水硬性反応成分であれば、下塗り層と仕上げ層が一体化し、50〜70mmの層が形成でき割れ浮きの不具合が改善する。
セメント系下地層であって厚み並びに強度が確保される場合は、十分な水打ちをすることで仕上げ層との一体化が可能となるので、この場合は下塗り層を省くことができる。
b)普通ポルトランドセメントでなくアルミナセメントを使用すると、1〜2時間程度で下塗り層上の歩行(作業)が可能となり、更に仕上げ層の玉砂利の固定が30分〜1時間で完了するため、早い時期に洗い作業可能となり玉砂利の飛びもない。
c)水硬性反応が穏やかに進む高炉スラグの作用によって、仕上げ層の表面硬化が遅延し、洗い出し作業が8時間以上においても可能となる。
d)上記のことから、土間コンクリート(既存下地)が歩行可能であれば、朝から着手すれば下塗り層から仕上げ層の工程が当日中(一日)で完了する。
e)洗出しのタイミングは、作業可能な時間が長いため現場に付ききりならず、工程時間の自由度が高くなる。
f)水硬反応成分で形成されるため、完成後の粉っぽさが何時までも続く、特に高炉スラグの硬化速度の遅い性質を利用しているので、従来品より長く続く傾向がある。
この現象は、オーバーコート剤14を塗布することで解決できる。
【0028】
このオーバーコート剤14の実施例を表6に、比較例を表7に示す。
【0029】
【表6】
【0030】
【表7】
【0031】
<オーバーコート剤の説明>
1)主成分
珪酸ナトリウム
2)効果
・珪酸ナトリウムを水に溶かすとpH11〜12のアルカリ性水溶液となるので、硬化の遅い高炉スラグの硬化速度を促進させる。
・珪酸ナトリウムは水に溶解すると珪酸イオンとナトリウムイオンに電離し、電離した珪酸イオンはカルシウムやアルミニウム等の多価金属イオンと結合して高分子化してセメント系水硬反応固化体の強度を上げる作用がある。
・珪酸ナトリウムを単純に水に溶解しただけでは、濃度が増すごとに粘度が上昇し、含浸性が劣ってしまう。
また、水を溶媒とするため液体の界面張力が高く含浸し難い。
上記を改善するためにシリコン系の界面張力調整剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製 シリコン系界面張力調整剤)を添加することにより、含浸性を向上させている。
・少量(内割で5%以内)であれば、既知の顔料を添加することができ、仕上げ層13への後着色が可能である。
【0032】
前記下塗り層12の評価1〜3を表8〜10に示す。
【0033】
【表8】
【0034】
【表9】
【0035】
【表10】
【0036】
前記仕上げ層13の評価1(作業性)を表11に示す。
【0037】
【表11】
【0038】
また前記仕上げ層13の評価2(温度10〜20℃における洗出しのタイミングと洗出し可能な期間)を表12〜表14に示す。
【0039】
【表12】
【0040】
【表13】
【0041】
【表14】
【0042】
前記仕上げ層13の比較例の評価(温度10〜20℃における洗出しのタイミングと洗出し可能な期間)を表15に示す。
【0043】
【表15】
【0044】
また前記仕上げ層13の評価2(温度20〜30℃における洗出しのタイミングと洗出し可能な期間)を表16〜表18に示す。
【0045】
【表16】
【0046】
【表17】
【0047】
【表18】
【0048】
前記仕上げ層13の比較例の評価(温度20〜30℃における洗出しのタイミングと洗出し可能な期間)を表19に示す。
【0049】
【表19】
【0050】
前記オーバーコート剤14の実施例および比較例の評価を表20に示す。
【0051】
【表20】
【0052】
今回、高炉スラグとしてセラメント(株式会社デイ・シイの登録商標)40A(粒径=40μm)とセラメント5A(粒径=5μm)を使用した実施例のみ挙げているが、市場では粒径として40、20、10、5μm(JIS規格では比表面積による区分で4種類)の高炉スラグがある。そして高炉スラグの反応は、粒径が小さくなる(比表面積が大きくなる)にしたがって活性化し硬化速度が速くなる。
もちろん、速くなると言ってもアルカリ性を帯びない水硬反応はアルミナセメントや普通ポルトランドセメンの反応ほど速くなることはない。
そうであれば、硬化速度をコントロールするファクターとして、高炉スラグの粒度(比表面積)差を用いることができるのである。
【0053】
高炉スラグのJIS A 6206規格では、粒径での区分でなく比表面積で下記のように区分している。
本件に記載しているセラメント(高炉スラグ)の品種とJISの区分の関係は下記になる。
高炉スラグ微粉末 3000
高炉スラグ微粉末 4000 セラメント40A(粒径≒40μm)実施例に記載
高炉スラグ微粉末 6000 セラメント20A(粒径≒20μm)
高炉スラグ微粉末 8000 セラメント10A(粒径≒10μm)
規格外 セラメント 5A(粒径≒ 5μm)実施例に記載
なお、セラメント40A、20A、10Aは、JIS規格相当品である。
【0054】
前記硬化速度をコントロールするファクターとして高炉スラグの粒度(比表面積)差を用いた場合について表21に示す。
【0055】
【表21】
【0056】
なお、本発明において説明したように、アルミナセメントまたは普通ポルトランドセメントへ高炉スラグを混合することは可能であるが、その耐久性や作業性等においてアルミナセメントへ高炉スラグを混合することが好ましいことはいうまでもない。
実施例の、強度と洗い出し方法、洗い出しのタイミングでの評価は、アルミナセメントと普通ポルトランドセメントの差を踏まえて作成した。
【0057】
最後に、従来の普通セメントを用いた洗出し仕上げと、本実施例の洗出し工法において実現する洗出し仕上げとの違いをアルミナセメントと普通ポルトランドセメントの差を踏まえて作成したものを表22に示す。
【0058】
【表22】
【産業上の利用可能性】
【0059】
前記においては本発明の洗出し工法を土間コンクリート上に適用した例について説明したが、その他の床面や歩道等の道路、あるいは擁壁などの壁面その他の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0060】
11 土間コンクリート
12 下塗り層
13 仕上げ層
14 オーバーコート剤
図1