(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6674998
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】コイルばねを利用したロックタイプ双方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/10 20060101AFI20200323BHJP
F16D 41/20 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
F16D41/10
F16D41/20 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-240824(P2018-240824)
(22)【出願日】2018年12月25日
【審査請求日】2019年9月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】松岡 高広
【審査官】
中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−092801(JP,A)
【文献】
特開2014−029164(JP,A)
【文献】
特開2016−020722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00−47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材を備え、前記入力部材からの正・逆方向の回転は前記出力部材に伝達されると共に、前記出力部材からの前記入力部材への回転の伝達は、前記出力部材を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
前記入力部材と組み合わされて閉塞された収容空間を画成する固定のフランジと、前記収容空間内において前記フランジに固定された軸状の内輪と、前記内輪に装着されたコイルばねとを備え、
前記入力部材は入力端板と、前記入力端板の周縁から延びる筒壁とを有し、前記筒壁と前記フランジとは係合手段によって軸方向に係合され、前記入力部材は前記フランジに対して回転可能であり、
前記係合手段は、前記筒壁の先端部において周方向に連続して延在する環状被係合爪と、前記フランジにおいて周方向に間隔をおいて配置された複数個の係合爪とから構成され、
前記コイルばねは、線材を巻回して形成され、軸方向の両端には外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、内周面は前記内輪の外周面と接触し、
前記入力部材及び出力部材には軸方向に延びる入力係止片及び出力係止片が夫々形成され、前記入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され、
前記2個の間隙の夫々には、前記コイルばねの両端のフック部が挿入され、
前記入力部材が回転したときは、前記入力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、前記コイルばねと共に前記出力部材を回転させ、前記出力部材に回転力を加えたときは、前記出力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、前記出力部材が回転不能となる、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項2】
前記係合爪の基端部の径方向外側及び内側には夫々前記基端部に隣接して貫通穴部が形成されており、前記基端部は薄肉片状にせしめられている、請求項1に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項3】
共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材を備え、前記入力部材からの正・逆方向の回転は前記出力部材に伝達されると共に、前記出力部材からの前記入力部材への回転の伝達は、前記出力部材を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
前記入力部材と組み合わされて閉塞された収容空間を画成する固定のフランジと、前記収容空間内において前記フランジに固定された軸状の内輪と、前記内輪に装着されたコイルばねとを備え、
前記入力部材は入力端板と、前記入力端板の周縁から延びる筒壁とを有し、前記筒壁と前記フランジとは係合手段によって軸方向に係合され、前記入力部材は前記フランジに対して回転可能であり、
前記係合手段は、前記筒壁の先端部において周方向に間隔をおいて配置された複数個の被係合爪と、前記フランジにおいて周方向に連続して延在する環状係合爪とから構成され、
前記コイルばねは、線材を巻回して形成され、軸方向の両端には外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、内周面は前記内輪の外周面と接触し、
前記入力部材及び出力部材には軸方向に延びる入力係止片及び出力係止片が夫々形成され、前記入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され、
前記2個の間隙の夫々には、前記コイルばねの両端のフック部が挿入され、
前記入力部材が回転したときは、前記入力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、前記コイルばねと共に前記出力部材を回転させ、前記出力部材に回転力を加えたときは、前記出力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、前記出力部材が回転不能となる、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項4】
前記フランジには前記筒壁の先端部が嵌り込む環状溝が設けられ、該係合爪は前記溝の外周縁に沿って配置されている、請求項1乃至3のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項5】
前記入力係止片は前記筒壁の内周面に固着されている、請求項1乃至4のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項6】
前記入力係止片及び出力係止片は共に断面円弧状であって、1個ずつ形成されている、請求項1乃至5のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材と出力部材との間の動力伝達状態を変更するクラッチ装置、特に、入力部材(駆動側)からの正・逆回転の動力を伝達するとともに、出力部材(従動側)からの動力伝達は出力部材を回転不能として遮断する、コイルばねを用いたロックタイプ双方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
モーターなどの駆動源から作業機器等を駆動する動力伝達系、例えば、モーターにより物品を上下に移送する昇降装置では、物品が所定の位置に達したとき、モーターを停止すると物品が自動的にその位置を保持する作動が求められる場合がある。そのため、入力部材と出力部材を備えたロックタイプの双方向クラッチを用いて、入力部材を正・逆回転可能なモーターに連結するとともに、出力部材の回転により物品を昇降させる装置が知られている。
【0003】
ロックタイプの双方向クラッチは、例えば、複写機のフィニッシャーにおいて、用紙を載せた用紙テーブルを移送する昇降装置、あるいは、建築物の窓のブラインドを昇降する昇降装置にも適用される。そして、これを利用すると簡易な装置による自動的な動力伝達の制御が可能となって、例えば、ブレーキ機構を設けて電気的に制御する場合のような、電力等の使用が不必要となるとともに、出力部材側から不測の逆入力があった場合に、駆動源のモーターを保護することも可能となる。
【0004】
従来のロックタイプ双方向クラッチとして、例えば本出願人の創案に係る特許文献1に記載されたクラッチが公知であり、これについて
図12を参照して説明する。
図12のクラッチは、断面円形の内部空間が設けられた固定のハウジングHと、ハウジングHの内側に設置され共通の回転軸を中心として回転可能な入力軸I及び出力軸Eと、ハウジングHに固着された円筒軸状の内輪Nと、内輪Nの外周面に装着される1個のコイルばねSとを備えている。ハウジングHは端板Pと端板Pの周縁から軸方向に延びる筒壁Cとを備え、筒壁Cの自由端縁部にシールド板Sが圧入されることで内側に内部空間が画成されている。入力軸I及び出力軸Eには、軸方向に延びる断面円弧状の入力係止片IE及び出力係止片OEが夫々形成されている。入力軸Iと出力軸Eとは、相互に対向すると共に、入力係止片IEと出力係止片OEとが周方向に2個の間隙が存在するようにして組み合わされている。コイルばねSは線材を巻回して形成され、軸方向両端には外方に曲げられたフック部Fが周方向の異なる位置に形成されている。コイルばねSの内周面は内輪Nの外周面と接触している。フック部Fの各々は入力係止片IEと出力係止片OEとによって画成される上記2個の間隙の各々に挿入されている。
【0005】
入力軸Iが回転すると、その回転方向に応じ、入力係止片IEがコイルばねSの2個のフック部Fのいずれか(回転方向の前方にあるフック部F)に当接してこれを押す。この際には、押す力はばねの緩め方向(コイルばねSと内輪Nとの間の摩擦力が減少する方向)に作用する。そして、入力係止片IEによる上記押す力によって、コイルばねSの内輪Nに対する締め付け力が所定程度緩められると、入力係止片IEはコイルばねSと共に内輪Nに対して幾分回転し、フック部Fが出力係止片OEと当接する。このとき、出力軸Eは自由に回転可能であるため、結果として、入力係止片IEは、コイルばねS、及び出力係止片OEと一体となってハウジングH及び内輪Nに対して回転する。即ち、入力軸Iの回転は、出力軸Eに伝達される。
一方、出力軸Eが回転しようとした際には、その回転方向に応じ、出力係止片OEがコイルばねSの2個のフック部Fのいずれか(回転方向の前方にあるフック部F)に当接してこれを押す。この際には、押す力はばねの締め方向(コイルばねSと内輪Nとの間の摩擦力が増大する方向)に作用し、また、コイルばねSが装着された内輪NはハウジングHに固定されているため、出力係止片OEが回転することはない。即ち、出力軸Eの回転は入力軸Iに伝達されず遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5993512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のロックタイプ双方向クラッチは、部品点数が少なく且つコンパクトであって製造工程も容易であるが、未だ十分なものではなく、更なる製造コストの低減及びコンパクト化が要求されている。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、より製造コストが安価であって且つコンパクトな新規且つ改良されたロックタイプ双方向クラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、入力部材が入力端板と、入力端板の周縁から延びる筒壁とを備え、筒壁と固定のフランジとが係合手段によって軸方向に係合され、入力部材はフランジに対して回転可能となるようにすることによって、上記主たる技術的課題を達成することを見出した。
【0010】
即ち、本発明
の第一の局面によれば、上記主たる技術的課題を達成するロックタイプ双方向クラッチとして、共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材を備え、前記入力部材からの正・逆方向の回転は前記出力部材に伝達されると共に、前記出力部材からの前記入力部材への回転の伝達は、前記出力部材を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
前記入力部材と組み合わされて閉塞された収容空間を画成する固定のフランジと、前記収容空間内において前記フランジに固定された軸状の内輪と、前記内輪に装着されたコイルばねとを備え、
前記入力部材は入力端板と、前記入力端板の周縁から延びる筒壁とを有し、前記筒壁と前記フランジとは係合手段によって軸方向に係合され、前記入力部材は前記フランジに対して回転可能であり、
前記係合手段は、前記筒壁の先端部において周方向に連続して延在する環状被係合爪と、前記フランジにおいて周方向に間隔をおいて配置された複数個の係合爪とから構成され、
前記コイルばねは、線材を巻回して形成され、軸方向の両端には外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、内周面は前記内輪の外周面と接触し、
前記入力部材及び出力部材には軸方向に延びる入力係止片及び出力係止片が夫々形成され、前記入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され、
前記2個の間隙の夫々には、前記コイルばねの両端のフック部が挿入され、
前記入力部材が回転したときは、前記入力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、前記コイルばねと共に前記出力部材を回転させ、前記出力部材に回転力を加えたときは、前記出力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、前記出力部材が回転不能となる、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチが提供される。
本発明の第一の局面にあっては、前記係合爪の基端部の径方向外側及び内側には夫々前記基端部に隣接して貫通穴部が形成されており、前記基端部は薄肉片状にせしめられているのがよい。
【0011】
本発明の第二の局面によれば、共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材を備え、前記入力部材からの正・逆方向の回転は前記出力部材に伝達されると共に、前記出力部材からの前記入力部材への回転の伝達は、前記出力部材を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
前記入力部材と組み合わされて閉塞された収容空間を画成する固定のフランジと、前記収容空間内において前記フランジに固定された軸状の内輪と、前記内輪に装着されたコイルばねとを備え、
前記入力部材は入力端板と、前記入力端板の周縁から延びる筒壁とを有し、前記筒壁と前記フランジとは係合手段によって軸方向に係合され、前記入力部材は前記フランジに対して回転可能であり、
前記係合手段は、前記筒壁の先端部において周方向に間隔をおいて配置された複数個の被係合爪と、前記フランジにおいて周方向に連続して延在する環状係合爪とから構成され、
前記コイルばねは、線材を巻回して形成され、軸方向の両端には外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、内周面は前記内輪の外周面と接触し、
前記入力部材及び出力部材には軸方向に延びる入力係止片及び出力係止片が夫々形成され、前記入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され、
前記2個の間隙の夫々には、前記コイルばねの両端のフック部が挿入され、
前記入力部材が回転したときは、前記入力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、前記コイルばねと共に前記出力部材を回転させ、前記出力部材に回転力を加えたときは、前記出力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、前記出力部材が回転不能となる、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチが提供される。
本発明の第一の局面及び第二の局面にあっては、前記フランジには前記筒壁の先端部が嵌り込む環状溝が設けられ、該係合爪は前記溝の外周縁に沿って配置されているのがよい。
好ましくは、前記入力係止片は前記筒壁の内周面に固着されている。好適には、前記入力係止片及び出力係止片は共に断面円弧状であって、1個ずつ形成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のロックタイプ双方向クラッチにおいては、入力部材は入力端板と、入力端板の周縁から延びる筒壁とを有し、筒壁とフランジとは係合手段によって軸方向に係合され、入力部材はフランジに対して回転可能な状態で組み合わされる。それ故に、本発明のロックタイプ双方向クラッチにあっては、従来はハウジングとシールド板によって画成されていた収容空間を、入力部材と固定のフランジによって画成することが可能となり、実質的にシールド板を省略することが可能となる。これにより、本発明のロックタイプ双方向クラッチにあっては、部品点数の削減によって製造コストが低減されると共に、省略されたシールド板の厚み分だけ軸方向にコンパクトにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従って構成されたロックタイプ双方向クラッチの好適実施形態を示す図。
【
図3】
図1に示す双方向クラッチの入力部材の単品図。
【
図4】
図1に示す双方向クラッチの出力部材の単品図。
【
図5】
図1に示す双方向クラッチのフランジの単品図。
【
図7】
図1に示す双方向クラッチのコイルばねの単品図。
【
図8】
図1に示す双方向クラッチのフランジの第1変形例を示す図。
【
図9】
図1に示す双方向クラッチのフランジの第2変形例を示す図。
【
図10】
図1に示す双方向クラッチにおいて入力部材を回転させた際の作動を説明する図。
【
図11】
図1に示す双方向クラッチにおいて出力部材を回転させようとした際の作動を説明する図。
【
図12】コイルばねを用いた従来のロックタイプ双方向クラッチの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明に従って構成されたロックタイプ双方向クラッチの好適実施形態について、更に詳述する。
【0015】
図1及び
図2を参照して説明すると、本発明に従って構成された、全体を番号2で示すロックタイプ双方向クラッチは、入力部材4と、出力部材6と、固定のフランジ8と、内輪10と、コイルばね12とを備えている。
図1の断面図においては、容易に理解できるよう、入力部材4については右下方向へのハッチングを、出力部材6については左下方向へのハッチングを、内輪10については薄墨を夫々付して示している(
図10及び
図11についても同様)。
【0016】
主に
図3を参照して説明すると、入力部材4は合成樹脂製であって、円板形状の入力端板14と、この入力端板14の周縁から軸方向に延びる筒壁16とを有したカップ状部材である。入力端板14の中央には、筒壁16と平行に軸方向に延びる円筒壁18が形成されている。円筒壁18の基端部の内側には、軸方向に貫通した非円形穴20が形成されている。入力部材4には更に、軸方向に延びる入力係止片22も形成されている。図示の実施形態においては、入力係止片22は筒壁16の内周面に固着されている。入力係止片22は断面円弧状であって周方向に150度の角度範囲に亘って延在し、その周方向両端面は径方向に直線状に延びている。入力係止片22は軸方向に見て筒壁16の基端からその先端部まで延在している。筒壁16の外周面の先端部には、径方向外方に向かって突出し且つ周方向に連続して延在する環状被係合爪24が形成されている。
【0017】
主に
図4を参照して説明すると、出力部材6は合成樹脂製であって、円環形状の出力端板26を備えている。出力端板26の片側面には、その内周縁部から軸方向片側に向かって延びる中空の軸部材27が固着されている。軸部材27は、大径円筒状の基端部28と、中径円筒形状の中間部30と、小径円筒形状部材の外周面の一部が切り欠かれた先端部32とを備えている。基端部28、中間部30、及び先端部32は同心状に軸方向に
直列に配置されており、基端部28と中間部30との接続部、中間部30と先端部32との接続部には夫々、軸方向に対して実質上垂直な円環形状の第一の肩面34、第二の肩面36が形成されている。出力端板26の片側面には更に、軸部材27の付け根部分を囲繞する環状溝40も形成されている。出力端板26の他側面の外周縁部には、軸方向他側に僅かに突出した円環形状の突条41が形成されている。出力部材6には更に、軸方向に延びる出力係止片42も形成されている。図示の実施形態においては、出力係止片42は断面円弧状であって周方向に170度の角度範囲に亘って延在し、出力端板26の外周面に固着されている。出力係止片42の基端と出力端板26の端面(但し突条41を除く)とは軸方向に見て整合している。出力係止片42の周方向両端面は、径方向内側端部を除いて径方向に直線状に延びており、径方向内側端部はコイルばね12の後述するフック部の基端部の形状と対応する弧状となっている。
【0018】
主に
図5を参照して説明すると、フランジ8は合成樹脂製の円板形状部材であって、その外径は入力端板14の外径よりも大きい(
図1も参照されたい)。中央には正6角形状の係止開口44が形成され、外周縁部には周方向に等角度間隔をおいて3個の取付穴46が形成されている。片側面の中央には、略円形の凹所48が形成されている。凹所48の径方向中間位置には、係止開口44を囲繞して軸方向に幾分延びる円筒壁50が形成され、この円筒壁50と凹所48の外周縁との間には環状溝52が設けられている。円筒壁50の延出端面の径方向中間部には、係止開口44を囲繞して軸方向に更に僅かに突出する円筒形状の突出壁54も形成されている。ここで、フランジ8には周方向に間隔をおいて配置された複数個の係合爪56が形成されている。図示の実施形態においては、係合爪56は溝52の外周縁に沿って3個、等角度間隔をおいて配置されており、いずれも径方向内側に突出している。係合爪56の基端部58の径方向外側及び内側には夫々基端部58に隣接して貫通穴部60が形成されており、基端部58は薄肉片状となっている。貫通穴部60の断面形状は何れも略矩形であって、これらは基端部58と共にその両端部と隣接する部分も薄肉片状となっている。
【0019】
主に
図6を参照して説明すると、内輪10は金属製の軸状部材であって、正六角形の板状である係止突部62と、係止突部62の軸方向他端における外周縁から径方向外方に延出して外周が円形である環状の外側肩壁64と、この外側肩壁64の外周縁から軸方向他側に延出する筒壁66とを備えている。係止突部62の中央には円形の貫通穴が形成されており、筒壁66の内側に連通している。内輪10の内側の軸方向他端部には内径が最も大きい第一の部分68が、軸方向中間部には第一の部分68よりも内径が小さい第二の部分70が、軸方向片端部には第二の部分70よりも内径が小さい第三の部分72が設けられており、第一の部分68と第二の部分70との間、第二の部分70と第三の部分72との間には夫々、軸方向に対して実質上垂直な円環形状の第一の内側肩壁面74、第二の内側肩壁面76が形成されている。内輪10は、コイルばね12が装着された状態で、係止突部62をフランジ8の係止開口44に嵌入することでフランジ8に固定される。コイルばね12は、
図7に示すとおり、線材を巻回して形成され、軸方向の両端には外方に曲げられたフック部78が周方向の異なる位置に形成されている。図示の実施形態においては、コイルばね12が自然状態、つまり
図7に示す状態、にあっては両フック部78の周方向間隔は略80度であるが、コイルばね12が内輪10の外周面に装着されると
図1のB−B断面図に示すとおり両フック部78の周方向間隔は略180度になる。
【0020】
次に、主に
図1を参照して、上記構成部品の組み合わせについて説明する。
出力部材6とフランジ8に固定された内輪10とは、出力部材6の軸部材27が内輪10の内側に嵌入されることで組み合わされる。このとき、軸部材27の基端部28の外周面と内輪10の第一の部分68の内周面とが、軸部材27の中間部30の外周面と内輪10の第二の部分70の内周面とが、夫々径方向において対向して当接すると共に、軸部材27の第一の肩壁34と内輪10の第一の内側肩壁面74とが、軸部材27の第二の肩壁36と内輪10の第二の内側肩壁面76とが、夫々軸方向において対向して当接した状態で組み合わされる(
図4及び
図6も併せて参照されたい)。
【0021】
次いで、入力部材4とフランジ8とが組み合わされる。入力部材4とフランジ8とを組み合わせる際には、入力部材4の被係合爪24とフランジ8の係合爪56とを軸方向に整合した状態で、入力部材4をフランジ8に対して軸方向に強制する。これにより、被係合爪24が係合爪56を弾性的に乗り越えてこれに係合される。この際、図示の実施形態においては、係合爪56の基端部58の径方向外側及び内側には夫々基端部58に隣接して貫通穴部60が形成されており、基端部58は薄肉片状にせしめられている。そのため、基端部58は径方向に対して可撓性を有し、被係合爪24は容易に係合爪56を乗り越えてこれによって係合されることとなる。入力部材4とフランジ8とが組み合わされると、入力部材4の内側に閉塞された収容空間が画成され、この収容空間にコイルばね12が装着された内輪10が配置されることとなる。そして、入力部材4とフランジ8とが組み合わされた状態にあっては、筒壁16の先端部は環状溝52に嵌り込み、入力部材4はフランジ8に対して回転可能となる。このとき、入力部材4と出力部材6とは、
図1のB−B断面図に示すとおり、入力係止片22及び出力係止片42は、周方向に2個の間隙82が存在するよう、組み合わされて設置され、2個の間隙82の夫々には、コイルばね12の両端のフック部78が挿入される。更に、入力端板14と出力端板26に形成された突条41とが接触し、円筒壁18の外周面と基端部28の内周面とが径方向において対向して当接すると共に、円筒壁18の延出端面と中間部30の基端面とが軸方向において対向して当接する(
図3及び
図4も併せて参照されたい)。
【0022】
本発明のロックタイプ双方向クラッチにおいては、入力部材4は入力端板14と、入力端板14の周縁から延びる筒壁16とを有し、筒壁16とフランジ8とは係合手段(被係合爪24と係合爪56との係合)によって軸方向に係合され、入力部材4はフランジ8に対して回転可能な状態で組み合わされる。それ故に、本発明のロックタイプ双方向クラッチにあっては、従来はハウジングとシールド板によって画成されていた収容空間を、入力部材4と固定のフランジ8によって画成することが可能となり、実質的にシールド板を省略することが可能となる。これにより、本発明のロックタイプ双方向クラッチにあっては、部品点数の削減によって製造コストが低減されると共に、省略されたシールド板の厚み分だけ軸方向にコンパクトにすることが可能となる。
【0023】
図1に示すとおりに組み合わされたロックタイプ双方向クラッチ2は、フランジ8の取付穴46にボルトを挿通して図示しない被装着部材に固定される。ここで、本発明に従って構成されるロックタイプ双方向クラッチの上記被装着部材への固定方法は、フランジに形成された取付穴にボルトを挿通することに限定されない。例えば、
図8において番号8aで示されるフランジのように、外周にスプライン46aを設けると共に、被装着部材の所定位置に上記スプライン46aと対応するスプラインを設け、フランジ8aと被装着部材とをスプライン嵌合により固定してもよい。また、
図9において番号8bで示されるフランジのように、外周に周方向に間隔をおいて複数個の凹部46bを設けると共に、被装着部材の所定位置に上記凹部46aと対応する凸部を設け、フランジ8bと被装着部材とを凹部46bと凸部との嵌合により固定してもよい。
【0024】
続いて、
図1に示す双方向クラッチの作動について
図10及び
図11を参照して説明する。
図10の中央の縦断面図の矢印に示すように、入力部材4が、例えば、駆動源のモーターにより回転軸oの周りを反時計方向(軸方向の左方から見て)に回転すると、入力部材4に形成された入力係止片22も回転軸oの周りを同方向に回転する。回転軸o周りに回転した入力係止片22は、コイルばね12の夫々の軸方向の一方の端部、即ち回転方向前方にあるコイルばね12のフック部78(B−B断面図において上側に示されるフック部78)に当接し、フック部78をばねの緩み方向に押して内輪10に対するコイルばね12の締付力を弱める。さらに、入力係止片22は、夫々のフック部78を介して出力係止片42を押し、コイルばね12の内輪10に対する締付力を弱めながら出力係止片42をコイルばね12と共に回転させる。
【0025】
入力部材4が時計方向に回転すると、入力係止片22は、コイルばね12の軸方向の他方の端部にあるフック部78(B−B断面図において下側に示されるフック部78)に当接して、これを時計方向に押す。その力の方向は、やはり内輪10に対するコイルばね12の締付力を弱める方向であって、上述の場合と同じく、入力係止片22は、出力係止片42をコイルばね12と共に時計方向に回転させる。このように、本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、入力部材4が正・逆方向に回転すると、出力部材6が同一方向に等速で回転し、動力伝達が行われる。このとき、図示の実施形態においては、出力部材6と内輪10とは、基端部28の外周面と第一の部分68の内周面とが、中間部30の外周面と第二の部分70の内周面とが、夫々径方向において対向して当接すると共に、第一の肩壁34と第一の内側肩壁面74とが、第二の肩壁36と第二の内側肩壁面76とが、夫々軸方向において対向して当接した状態で組み合わされているため、出力部材6は内輪10によってラジアル方向及びスラスト方向に軸受されることとなり、出力部材6の回転が安定する。更に、入力部材4と出力部材6とは、入力端板14と出力端板26とが面接触し、円筒壁18の外周面と基端部28の内周面とが径方向において対向して当接すると共に、円筒壁18の延出端面と中間部30の基端面とが軸方向において対向して当接した状態で組み合わされているため、入力部材4は出力部材6によってラジアル方向及びスラスト方向に軸受されることとなり、入力部材4の回転も安定する。従って、回転の伝達中における入力軸2及び出力軸3の芯ぶれや振動が防止される。
【0026】
一方、
図11の中央の縦断面図における矢印に示すように、出力部材6側からの回転トルクにより、出力部材6を回転軸oの周りに反時計方向(軸方向の右方から見て)に回転させようとしても、出力係止片42がコイルばね12のフック部78(B−B断面図の上側に示されるフック部78)をばねの締め方向に押して、内輪10に対するコイルばね12の締め付け力を強めるため、出力係止片42は内輪10に対して回転しない。この点は、出力部材6を時計方向(軸方向の右方から見て)に回転させようとした場合も同様である(このときは、出力係止片42がB−B断面図の下側のフック部78と当接)。従って、出力部材6からの入力部材4への回転の伝達は、出力部材6が回転不能となり遮断される。
【0027】
以上詳述したように、本発明は、固定のフランジとこれに対して回転可能な入力部材とを組み合わせて画成される収容空間にコイルばねが装着された内輪を固定し、入力軸の回転時には、入力係止片がコイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、コイルばねと共に出力軸を回転させる一方、出力軸を回転させようとしても、出力係止片がコイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、出力軸を回転不能にする、簡易なロックタイプ双方向クラッチを構成するものである。上記の実施形態においては、入力部材に形成された被係合爪が環状であって、
フランジに形成された係合爪は周方向に間隔をおいて複数設けられていたが、これに替えて、上記被係合爪を周方向に間隔をおいて複数設けると共に、上記係合爪を環状にしてもよい。また、上記実施形態においては、入力係止片及び出力係止片は共に軸方向に延びる断面円弧状部材であって1個ずつ設けられていたが、これに替えて、入力係止片及び出力係止片の夫々を、周方向に間隔をおいて配置され軸方向に延びる一対の棒状部材から構成されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0028】
2:ロックタイプ双方向クラッチ
4:入力部材
6:出力部材
8:フランジ
10:内輪
12:コイルばね
14:入力端板
16:筒壁
24:被係合爪(係合手段)
26:出力端板
42:出力係止片
52:環状溝
56:係合爪(係合手段)
58:基端部
60:貫通穴部
78:フック部
【要約】 (修正有)
【課題】製造コストが安価であって且つコンパクトなロックタイプ双方向クラッチを提供すること。
【解決手段】入力部材4が入力端板と、入力端板の周縁から延びる筒壁16とを備え、筒壁16と固定のフランジ8とが係合手段24、56によって軸方向に係合され、入力部材4はフランジ8に対して回転可能となるようにする。
【選択図】
図1