(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675169
(24)【登録日】2020年3月12日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】圧力容器の密封構造
(51)【国際特許分類】
F17C 13/04 20060101AFI20200323BHJP
【FI】
F17C13/04 301Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-204568(P2015-204568)
(22)【出願日】2015年10月16日
(65)【公開番号】特開2017-75671(P2017-75671A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】市川 景将
【審査官】
矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−256151(JP,A)
【文献】
特開2007−146946(JP,A)
【文献】
特開平10−068467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00−13/12
F16J 12/00−13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器本体の一端から突出し、合成樹脂ライナーとこの合成樹脂ライナーの軸方向外側に位置する金属製の口金部とを有する筒状ハウジングと、
前記筒状ハウジングに挿入され、軸方向内側で外周面が小径となる小径部を有する挿入部材と、
前記筒状ハウジングの内面と前記挿入部材の小径部との間に介在する密封装置と、
を備え、前記筒状ハウジングの内圧の高まりによって前記密封装置に押されて拡径する前記口金部の内面の拡径変形量よりも前記合成樹脂性ライナーの内面の拡径変形量の方が大きい圧力容器の密封構造において、
前記密封装置は、
前記口金部の内面に当接可能な第一のバックアップリングと、
この第一のバックアップリングより軸方向内側に配置されて前記合成樹脂ライナーの内面に当接可能な第二のバックアップリングと、
この第二のバックアップリングより軸方向内側に配置されて前記合成樹脂ライナーの内面と前記挿入部材の小径部に密接されるゴム状弾性体からなるシールリングとを備え、
前記第一のバックアップリングと前記第二のバックアップリングとは軸方向外側へ向けて大径になるテーパ面同士で当接し、
前記第一のバックアップリングの外周面の軸方向内側の端部が、前記合成樹脂ライナーの内周に位置する
ことを特徴とする圧力容器の密封構造。
【請求項2】
前記第二のバックアップリングをその中心軸線を通る平面で切断した断面形状が前記第一のバックアップリングとの当接部を斜辺とする略直角三角形をなすことを特徴とする請求項1に記載の圧力容器の密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高圧のガスを貯蔵する圧力容器の筒状ハウジングとこれに挿入状態に取り付けられる挿入部材との間を密封するための密封構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素燃料自動車の開発においては、このような水素燃料自動車に搭載されて圧縮水素ガスを貯蔵する高圧水素用の圧力容器(タンク)の開発は重要である。この種の高圧水素用圧力容器としては、近年、軽量化を図るために、鋼製などの圧力容器に代わり、合成樹脂ライナーを繊維強化プラスチックで覆ったプラスチック複合容器が使用されている。
【0003】
そして通常、このようなプラスチック複合容器からなる圧力容器は、その一端から外側へ突出した筒状ハウジングが、合成樹脂ライナーと、これに一体に設けられた金属製の口金部からなり、この筒状ハウジングには圧縮水素ガス等を封入あるいは排出するためのバルブがねじ込みにより取り付けられており、筒状ハウジングとバルブとの間は、Oリングなどのシールリングによって密封されている(例えば下記の特許文献1参照)。
【0004】
図4は、この種の圧力容器の筒状ハウジングとバルブとの間を密封するための、従来技術による圧力容器の密封構造の一例を、筒状ハウジングの一部と共に示すもので、参照符号201は圧力容器の筒状ハウジング200における合成樹脂ライナー、参照符号202は筒状ハウジング200における軸方向外側に位置して合成樹脂ライナー201に設けられた金属製の口金部、参照符号300は筒状ハウジング200の内周に挿入状態に取り付けられたバルブ、参照符号100は密封装置である。密封装置100は、筒状ハウジング200の内面とバルブ300との間に適宜圧縮状態で介装されることによって、圧力容器に封入された圧縮水素ガス等の漏出を防止するゴム状弾性体製のOリングからなるシールリング101と、このシールリング101を大気側から支承して大気側へのはみ出しを防止する合成樹脂製のバックアップリング102からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−102614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、圧力容器の筒状ハウジング200における合成樹脂ライナー201と口金部202の境界200aが、図示のようにバックアップリング102の外周側に位置するような場合、圧力容器に封入された圧縮水素ガス等の圧力Pが高圧になると、
図5に示すように、金属製の口金部202に比較して合成樹脂ライナー201の拡径変形が大きくなり、このため合成樹脂ライナー201の内周面と口金部202の内周面との境界に段差を生じて、バックアップリング102の外周面と合成樹脂ライナー201の内周面との間に隙間δを生じる懸念がある。そしてこのような隙間δは、シールリング101の一部101aがはみ出して損傷したり、バックアップリング102の一部102aが筒状ハウジング200の段差との接触部102bで過大な変形力を受けて損傷したりする原因となり得るものである。
【0007】
圧力容器の筒状ハウジングにおける口金部と合成樹脂ライナーとの変形量の差による隙間の発生に起因するシールリングの損傷を防止するこ
と。
【課題を解決するための手段】
【0008】
圧力容器本体の一端から突出し
、合成樹脂ライナーとこの合成樹脂ライナーの軸方向外側に位置する金属製の口金部とを有する筒状ハウジング
と、前記筒状ハウジングに挿入
され、軸方向内側
で外周面が小径となる
小径部を有する挿入部材と、前記筒状ハウジングの内面と前記挿入部材の小径部との間に介在する密封装置と、を備え、前記筒状ハウジングの内圧の高まりによって前記密封装置に押されて拡径する前記口金部の内面の拡径変形量よりも前記合成樹脂性ライナーの内面の拡径変形量の方が大きい圧力容器の密封構造において、前記密封装置は、前記口金部の内面に当接可能な第一のバックアップリングと、この第一のバックアップリングより軸方向内側に配置され
て前記合成樹脂ライナーの内面に当接可能な第二のバックアップリングと、この第二のバックアップリングより軸方向内側に配置され
て前記合成樹脂ライナーの内面と前記挿入部材の小径部に密接されるゴム状弾性体からなるシールリング
とを備え、前記第一のバックアップリングと前記第二のバックアップリング
とは軸方向外側へ向けて大径になるテーパ面同士で当接し、前記第一のバックアップリングの外周面の軸方向内側の端部が、前記合成樹脂ライナーの内周に位置する
。
【発明の効果】
【0010】
流体の圧力によって圧力容器の筒状ハウジングにおける合成樹脂ライナーの拡径変形が口金部の拡径変形より大きくなっても、第一のバックアップリングと第二のバックアップリングは、圧力容器本体と反対側へ向けて大径になるテーパ面同士で互いに滑り、第二のバックアップリングは合成樹脂ライナーの拡径変形に追随して外径側へ変位するので、第二のバックアップリングと合成樹脂ライナーとの間にシールリングのはみ出しが可能な隙間は発生せず、シールリングのはみ出しによる損傷
を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
圧力容器の密封構造
の実施の形態を、中心軸線Oを通る平面で切断して示す要部断面図である。
【
図2】
圧力容器の密封構造
の実施の形態における密封装置を、中心軸線Oを通る平面で切断して示す未装着状態の断面図である。
【
図3】
圧力容器の密封構造
の実施の形態における高圧時の動作状態を、中心軸線Oを通る平面で切断して示す要部断面図である。
【
図4】従来の技術に係る圧力容器の密封構造の一例を、中心軸線Oを通る平面で切断して示す部分断面図である。
【
図5】従来の技術に係る圧力容器の密封構造の一例における高圧時の動作状態を、中心軸線Oを通る平面で切断して示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
圧力容器の密封構造の好ましい実施の形態について、
図1〜
図3を参照しながら説明する。
【0013】
まず
図1において、参照符号2は例えば水素燃料自動車に搭載されて圧縮水素ガスを貯蔵する圧力容器の筒状ハウジングであり、図中右側に存在する圧力容器本体(不図示)から図中左側へ向けて突出するように延びている。すなわち筒状ハウジング2における図中右側は圧力容器本体の内部空間Sに連通している。
【0014】
筒状ハウジング2は、圧力容器本体から延びて外周が不図示の繊維強化プラスチック層で覆われた合成樹脂ライナー21と、この合成樹脂ライナー21及び繊維強化プラスチック層に一体的に結合された金属製の口金部22からなり、筒状ハウジング2の内面は、圧力容器本体側(内部空間S側)の合成樹脂ライナー21の内面21a及びその軸方向外側に位置する口金部22の内面22aで構成される。なお、ここでいう「軸方向」とは、円筒状である筒状ハウジング2あるいは環状である後述の第一のバックアップリング11、第二のバックアップリング12及びシールリング13の中心軸線Oと平行な方向のことである。
【0015】
筒状ハウジング2には、圧力容器本体の内部空間Sに圧縮水素ガス等を封入あるいは排出するためのバルブ3が挿入状態に取り付けられている
。バルブ3
は挿入部材に相当す
る。
【0016】
バルブ3の外周面には、圧力容器本体側(内部空間S側)が小径となる環状段差部31が形成されており、この環状段差部31は、筒状ハウジング2へのバルブ3の取付状態において口金部22側の内周に位置している。
【0017】
筒状ハウジング2の内面とバルブ3の小径部32(環状段差部31よりも内部空間S側の小径部32)との間には、密封装置1が介装されている。この密封装置1は、外周面が筒状ハウジング2の内面に当接可能な第一のバックアップリング11と、この第一のバックアップリング11より軸方向内側(内部空間S側)に配置され外周面が筒状ハウジング2の内面に当接可能な第二のバックアップリング12と、この第二のバックアップリング12より軸方向内側(内部空間S側)に配置されて筒状ハウジング2の内面とバルブ3の小径部32の外周面32aに密接されるシールリング13を備える。
【0018】
密封装置1における第一のバックアップリング11は、シールリング13よりも剛性の大きい硬質の合成樹脂、好ましくはナイロンからなるものであって、
図2にも示すように、第二のバックアップリング12との対向面(軸方向内側を向いた面)が軸方向外側(第二のバックアップリング12と反対側)へ向けて大径になるテーパ面11aをなし、その反対側の、軸方向外側の端面11bが中心軸線Oと直交する平面状に形成され、外周面11c及び内周面11dが円筒面状に形成され、すなわち中心軸線Oを通る平面で切断した断面形状(図示の断面形状)が台形をなすものである。
【0019】
そして、第一のバックアップリング11の端面11bがバルブ3の環状段差部31に当接した状態では、この第一のバックアップリング11の外周面11cにおける軸方向内側すなわち第二のバックアップリング12側の端部が、筒状ハウジング2の内面における合成樹脂ライナー21の内面21aの内周に位置するように、第一のバックアップリング11の外周面11cの軸方向長さが設定されている。
【0020】
密封装置1における第二のバックアップリング12は第一のバックアップリング11と同じくナイロン等の合成樹脂からなるものであって、
図2にも示すように、第一のバックアップリング11との対向面(軸方向外側を向いた面)が第一のバックアップリング11のテーパ面11aと対応するテーパ面、すなわち軸方向外側(第一のバックアップリング11側)へ向けて大径になるテーパ面12aをなし、その反対側の、シールリング13と対向する端面(軸方向内側の端面)12bが中心軸線Oと直交する平面状に形成され、外周面12cが円筒面状に形成され、中心軸線Oを通る平面で切断した断面形状(図示の断面形状)が、第一のバックアップリング11との当接部(テーパ面12a)を斜辺とする略直角三角形をなすものである。
【0021】
そして先に説明したように、第一のバックアップリング11の外周面11cにおける第二のバックアップリング12側の端部が、筒状ハウジング2の内面における合成樹脂ライナー21の内面21aの内周側の位置に達することから、第二のバックアップリング12は、筒状ハウジング2の内面における合成樹脂ライナー21の内面21aの内周側に配置されている。
【0022】
密封装置1におけるシールリング13はゴム状弾性体(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるものであって、
図2に示すように、中心軸線Oを通る平面で切断した断面形状(図示の断面形状)が円形の、いわゆるOリングからなる。そしてこのシールリング13は、
図1に示すように、筒状ハウジング2における合成樹脂ライナー21とバルブ3の小径部32との間に径方向に適宜圧縮された状態で介装され、合成樹脂ライナー21の内面21a及びバルブ3の小径部32の外周面32aに密接することによって、圧力容器本体の内部空間Sからの圧縮水素ガスの漏れを防止するものである。
【0023】
上述の構成を備える圧力容器の密封構造によれば、
図1に示す装着状態において、圧力容器本体の内部空間S内に封入された圧縮水素ガス等の圧力Pを受けて、相対的に低圧である軸方向外側へ向けて変位しようとするシールリング13は、第二のバックアップリング12及び第一のバックアップリング11を介してバルブ3の環状段差部31に支承される。
【0024】
このため、圧力Pによりシールリング13に与えられる軸方向圧縮に対する応力は、径方向の拡張力として、すなわち合成樹脂ライナー21の内面21a及びバルブ3の小径部32の外周面32aへの密接力として作用するので、圧力Pが高いほど合成樹脂ライナー21の内面21a及びバルブ3の小径部32の外周面32aへのシールリング13の面圧も高くなるセルフシール機能によって、優れた密封機能を奏する。
【0025】
ここで、圧力容器本体の内部空間Sからの圧縮水素ガスの高い圧力Pによって、筒状ハウジング2における合成樹脂ライナー21の拡径変形量が口金部22の拡径変形量より大きくなると、これによって、
図3に示すように、筒状ハウジング2の内面には合成樹脂ライナー21の内面21aが口金部22の内面22aより大径となる段差2aを生じる。
【0026】
しかしこのとき、第二のバックアップリング12は、圧縮水素ガスの圧力Pによるシールリング13の軸方向押圧力Fを受けることによって、テーパ面12aが第一のバックアップリング11のテーパ面11aに対して外径側へ滑る。そして、第一のバックアップリング11と第二のバックアップリング12の境界が合成樹脂ライナー21の内面21aの内周に位置していることから、第二のバックアップリング12は、合成樹脂ライナー21の拡径変形に追随して外径側へ変位する。このため、第二のバックアップリング12の外周面12cと合成樹脂ライナー21の内面21aとの間にシールリング13のはみ出しが可能な隙間は発生せず、シールリング13の外径部の損傷を有効に防止することができる。
【0027】
一方、第一のバックアップリング11は、その端面11bがバルブ3の環状段差部31に当接することによって支承されると共に、第二のバックアップリング12を介して軸方向押圧力Fを受けることによって、テーパ面11aが第二のバックアップリング12のテーパ面12aに対して内径側へ滑り、第一のバックアップリング11の内周面11dがバルブ3の小径部32の外周面32aと当接する。このため、第一のバックアップリング11の内周面11dとバルブ3の小径部32の外周面32aとの間にシールリング13のはみ出しが可能な隙間は発生せず、シールリング13の内径部の損傷を有効に防止することができる。
【0028】
また、第二のバックアップリング12の断面形状が略直角三角形をなすものであって、内径部12dが鋭角をなしているため、外径側への第一のバックアップリング11の変位によって、シールリング13が圧接される第二のバックアップリング12の端面12bと第一のバックアップリング11のテーパ面11aの内径部との間に、シールリング13のはみ出しが可能な段差を生じることもない。
【0029】
さらに、第一のバックアップリング11は、上述のように内径側へ変位することから、その外径部は、筒状ハウジング2の内面における合成樹脂ライナー21と口金部22との段差2aに圧接することはなく、したがって第一のバックアップリング11が筒状ハウジング2の段差2aとの接触部を起点とする損傷を受けることもない。
【符号の説明】
【0030】
1 密封装置
11 第一のバックアップリング
11a テーパ面
12 第二のバックアップリング
12a テーパ面
13 シールリング
2 筒状ハウジング
21 合成樹脂ライナー
22 口金部
3 バルブ(挿入部材)
31 環状段差部
32 小径部
S 内部空間