特許第6675175号(P6675175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675175
(24)【登録日】2020年3月12日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】火災抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A62C 3/04 20060101AFI20200323BHJP
   A62D 1/00 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   A62C3/04
   A62D1/00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-220922(P2015-220922)
(22)【出願日】2015年11月11日
(65)【公開番号】特開2017-86519(P2017-86519A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002169
【氏名又は名称】彩雲国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】村田 眞志
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−190313(JP,A)
【文献】 特開2014−014401(JP,A)
【文献】 特開2010−119961(JP,A)
【文献】 特開平06−296707(JP,A)
【文献】 特開2002−102377(JP,A)
【文献】 特開平04−242667(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0076531(US,A1)
【文献】 実開昭58−061795(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A62C 2/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁に囲まれた可燃物堆積所内の火災を抑制する方法であって、
前記可燃物堆積所内の可燃堆積物の上方から、ジェルと、不燃材又は難燃剤と、水溶性の無機物とを含むシール剤(但し、該不燃材又は難燃剤及び該水溶性の無機物が揺変剤であるものを除く)を放出し、前記可燃堆積物の表面全体を覆う遮断シール層を形成し、
火災熱を受けると、前記ジェルの水分が蒸発し、更に火災熱により加熱されると、前記水溶性の無機物が発泡し、それによって、前記不燃材又は難燃剤を含有する泡が生成し、該泡によって、前記可燃堆積物表面を覆うことを特徴とする火災抑制方法。
【請求項2】
前記ジェルは、チキソトロピー性のある物質であることを特徴とする請求項1記載の火災抑制方法。
【請求項3】
前記可燃物堆積所の底部側から水蒸気を噴射することを特徴とする請求項1又は2記載の火災抑制方法。
【請求項4】
前記可燃物堆積所の底部側から消火ガスを放射することを特徴とする請求項1又は2記載の火災抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、周壁に囲まれた可燃物堆積所内で発生する火災の抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ごみなどの可燃物は、可燃物集積所、例えば、ごみ回収工場などのピット、に集められ、焼却処理等が行われるが、集積されたごみの中にライターや花火用火薬などが混入していると、火花が発生し、ピット内で火災が発生することがある。また、ごみの酸化、発熱、蓄熱、温度上昇、発火の過程を経て、ピット内で火災が発生することがある。
【0003】
前記火災が発生した場合には、前記ピット内の可燃堆積物の上方から、水又は泡等の水系消火剤又はガス消火剤を放射することにより、火災の抑制及び消火を行っている。
【0004】
ところが、前記水系消火剤及びガス系消火剤は、前記可燃堆積物の上層部側には到達することができるが、その深層部(中層部及び下層部)にまで浸み込むことが困難である。そのため、深層部に火源が存在する場合には、火災の抑制消火は困難になる。
【0005】
そこで、前記問題を解決するため、ピット内に消火用泡を放出して可燃堆積物の表面を消火用泡で覆うとともに、ピットの周壁から不活性ガスを放出することにより、前記可燃堆積物の表面火災及び深層部火災を抑制消火する方法、がある(たとえば、特許文献1、参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−190313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来例では、可燃堆積物の表面を覆う消火用泡は、経時的に、及び可燃物の燃焼による加熱により消泡してしまうので、1回の放出でシール状態を維持することは困難である。そのため、完全に前記可燃堆積物と空気との遮断ができないので、窒息効果による可燃堆積物の表面火災及び深層部火災の抑制消火を行うことができない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、火災、特に、深層部火災、を抑制消火できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、周壁に囲まれた可燃物堆積所内の火災を抑制する方法であって、前記可燃物堆積所内の可燃堆積物の上方から、ジェルと、不燃材又は難燃剤と、水溶性の無機物とを含むシール剤(但し、該不燃材又は難燃剤及び該水溶性の無機物が揺変剤であるものを除く)を放出し、前記可燃堆積物の表面全体を覆う遮断シール層を形成し、火災熱を受けると、前記ジェルの水分が蒸発し、更に火災熱により加熱されると、前記水溶性の無機物が発泡し、それによって、前記不燃材又は難燃剤を含有する泡が生成し、該泡によって、前記可燃堆積物表面を覆うことを特徴とする。
【0010】
この発明の前記ジェルは、チキソトロピー性のある物質であることを特徴とする。この発明は、前記可燃物堆積所の底部側から水蒸気を噴射することを特徴とする。この発明は、前記可燃物堆積所の底部側から消火ガスを放射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、前述のように構成したので、次のような顕著な効果を得ることができる。
(1)前記可燃物堆積所内の可燃堆積物の表面全体を、ジェルと、不燃材又は難燃剤と、水溶性の無機物(ケイ酸ナトリウムなど)とを含む遮断シール層により覆うことにより、シール状態を維持することができるので、可燃堆積物と空気との接触を遮断することができる。
【0012】
(2)前記ジェルは、可燃堆積物の表面に放射されると、該可燃堆積物の内部に浸み込むことなく、ほぼ全てが可燃堆積物表面に付着するので、効率的に、前記表面全体を前記ジェル(遮断シール層)で覆うことができる。
【0013】
(3)前記ジェルが高温の火災熱を受けると、水分が蒸発し、更に加熱されると、水溶性の無機物(ケイ酸ナトリウムなど)が発泡する。この泡には、不燃材又は難燃剤が含まれているので、不燃の固体で前記堆積物表面を覆うことになる。これにより、上方からの可燃堆積物の燃焼のための空気の供給を抑制し、加えて、燃焼時の有炎燃焼を防止し、周囲への延焼の抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の第1実施形態を示す縦断面図である。
図2】この発明の第2実施形態を示す縦断面図である。
図3】この発明の第3実施形態を示す縦断面図である。
図4】この発明の第4実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の第1実施形態を図1により説明する。耐火性の周壁1に囲まれた可燃物堆積所、例えば、ピット3内には、可燃堆積物5が収容されているが、前記可燃堆積物5は、複数の可燃物5aがピット3内に投入され、堆積したものである。この可燃堆積物5の内部には発火源7が存在している。前記ピット3の近傍には、噴射ノズル9が配置されており、この噴射ノズル9は溶液タンク10に接続されている。
【0016】
この溶液タンク10には、シール層形成剤(シール剤の一例)が収容されているが、このシール層形成剤は、延焼防止ジェル(ジェルの一例)と、不燃材又は難燃剤と、ケイ酸ナトリウム(水溶性の無機物の一例)と、を含んでいる。前記延焼防止ジェルとして、例えば、ベントナイト等を含有し、高い粘性と膨潤性とチキソトロピー性を備えた物質、が用いられ、又、不燃材又は難燃剤として、例えば、パーライト(膨張真珠岩)、バーミキュライト(膨張蛭石)、が用いられる。水溶性の無機物は、ケイ酸ナトリウムに限らず、例えば塩化ナトリウムなど、その他の水溶性の無機物であってもよい。
【0017】
次に、本実施形態の作動について説明する。ピット3内で火災が発生した場合には、作業員11が噴射ノズル9を握り、ピット3の可燃堆積物5に向かってシール層形成剤を噴射(放射)する。そうすると、該シール層形成剤は、可燃堆積物5の内部に浸み込むことなく、その表面上を移動しながら該表面全体に均等に付着し、遮断シール層13を形成する。前記シール層形成剤は、チキソトロピー性を有するので、放出時には粘度が低下して流動化し、スムーズに放出されるが、可燃堆積物5に到着後は、粘度が回復して固化状態なる。
【0018】
前記遮断シール層13のシール層形成剤(延焼防止ジェル)は、高温の可燃物5aにより加熱され、ジェルの水分が蒸発し、更に加熱されると、ケイ酸ナトリウムが発泡する。この泡には不燃材又は難燃剤が含まれているので、不燃の固体で可燃堆積物5の表面全体を覆うことになる。そのため、上方からの可燃堆積物5の燃焼の為の空気Aの供給は制御(遮断)されるとともに、燃焼時の有炎燃焼を防止し、延焼の抑制が可能になる。又、遮断シール層13は、不燃の固体なので、前記効果を長時間継続させることができる。これにより、火災、特に、深層部火災を抑制・消火することができる。
【0019】
なお、シール層形成剤として、延焼防止ジェルとケイ酸ナトリウムだけを用いても、不燃材又は難燃剤を加えたときほどの固体のボリュームは得られないが、可燃堆積物5の表面全体を遮断シール層13で覆うことができる。又、前記シール層形成剤として、延焼防止ジェルと不燃材又は難燃剤だけを用いても、前記ジェルが蒸発した時に、不燃材又は難燃剤だけとなることから、ケイ酸ナトリウムを加えたときほどの遮断性は得られないが、可燃堆積物5の表面全体を遮断シール層13で覆うことができる。
【0020】
更に、ケイ酸ナトリウム溶液と不燃材又は難燃剤だけを用いても、延焼防止ジェルを加えたときほどの流動性は得られないことから、噴射ノズル9などからの放射性や、不燃材又は難燃剤の分散性は劣るが、可燃堆積物5の表面全体を遮断シール層13で覆うことができる。
【0021】
本発明の第2実施形態を図2により説明するが、図1と同一図面符号は、その名称も機能も同一である。本件実施形態と第1実施形態との相違点は、次の通りである。
(1)ピット3の底部3aには、載置網15により仕切られたノズル収容室17が設けられていること。この載置網15は、噴霧ノズル19が可燃物5aに接触するのを防止する。
【0022】
(2)該ノズル収容室17内には、上向きの噴霧ノズル19が、底部3aに沿って所定間隔をおいて配設されていること。
(3)前記噴霧ノズル19は、ボイラー室などの水蒸気供給源(図示省略)に連結されていること。
【0023】
本実施形態では、ピット3内の火災が発生した場合には、前記実施形態の要領で遮断シール層13を形成して可燃堆積物5の表面全体を覆い空気Aを遮断するとともに、噴霧ノズル19から水蒸気(スチーム)を噴射し、可燃堆積物5の底層側から水蒸気Sを送り込む。そうすると、前記水蒸気Sは、可燃物5a間の隙間を縫いながら上昇し可燃物5aに付着するので、可燃堆積物5内部への水蒸気Sの蓄積による冷却・窒息効果を発揮することができる。即ち、水蒸気Sは、可燃堆積物5(可燃物5a)の隙間に充満することによる窒息効果と、100℃未満の可燃堆積物5(可燃物5a)に付着して結露することによる冷却効果を発揮することができる。これにより、火災、特に、深層部火災を抑制・消火することができる。
【0024】
この発明の第3実施形態を図3により説明するが、図1と同一図面符号は、その名称も機能も同一である。本件実施形態と第1実施形態との相違点は、次の通りである。
(1)ピット3の底部3aには、載置網15により仕切られたノズル収容室17が設けられていること。この載置網15は、ガスノズル20が可燃物5aに接触するのを防止する。
(2)該ノズル収容室17内には、上向きのガスノズル20が、底部3aに沿って所定間隔をおいて配設されていること。
【0025】
(3)前記ガスノズル20は、ガスタンク(図示省略)に連結されていること。このガスタンクには、空気より重い不活性ガス(消火ガスの一例)、例えば、CO、Nなどの不活性ガスが充填されている。
(4)シール層形成剤は、天井面などに配設されたスプリンクラヘッド21から放出されること。
【0026】
この実施形態では、ピット3内に火災が発生した場合には、前記実施形態の要領で遮断シール層13を形成して可燃堆積物5の表面全体を覆い空気Aを遮断するとともに、ガスノズル20から不活性ガスGを噴射し、可燃堆積物5の底層側から前記不活性ガスGを送り込む。そうすると、前記不活性ガスGは、可燃物5a間の隙間を縫いながら堆積しつつ上昇するので、可燃堆積物5内部への不活性ガスGの蓄積による窒息効果を高めることができる。これにより、火災、特に、深層部火災を抑制・消火することができる。
【0027】
この発明の第4実施形態を図4により説明するが、図3と同一図面符号は、その名称も機能も同一である。本件実施形態と第3実施形態との相違点は、ピット3の底部3aのみならず、前記底部3a側の周壁1にもガスノズル23を配設したことである。これにより、第3の実施形態と同様の効果を奏することができる。なお、ガスノズル23は、底部3a側の周壁1に限らず、それより上側の周壁1(可燃物5aが堆積している周壁1)に配設してもよい。この場合、ノズル収容室も周壁1の側面に設けてもよい。
【0028】
前記第3及び第4の実施形態において、消火ガスの一例として、空気より重い不活性ガスを用いて説明したが、ハロゲン化ガスなどのその他の消火ガスであってもよい。また、可燃堆積物5の表面全体を遮断シール層13で覆うことから、必ずしも、空気よりも重い消火ガスでなくともよい。
【0029】
前記全ての実施形態において、噴射ノズル9又はスプリンクラヘッド21からシール層形成剤を放出するものとして説明したが、噴射ノズル9又はスプリンクラヘッド21、それ以外の放出手段のいずれか一つ、又はいずれかの組み合わせから、シール層形成剤を放出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 周壁、3 ピット、5 可燃堆積物、5a 可燃物、9 噴射ノズル、13 遮断シール層、19 噴霧ノズル、20 ガスノズル、23 ガスノズル、G ガス、S 水蒸気
図1
図2
図3
図4