(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記泡消火薬剤は、フッ素系界面活性剤を主成分とする水成膜泡消火薬剤であって、泡安定剤として水溶性高分子を含む水成膜泡消火薬剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高膨張泡消火設備。
前記泡水溶液を放射ノズルから放射し、その放射した前記泡水溶液を発泡網に衝突させて空気を混入して発泡させる泡発生機を備えるものであり、その泡発生機が前記泡水溶液に設置空間中の空気を混入させるインサイドエア式の設備であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の高膨張泡消火設備。
【背景技術】
【0002】
高膨張泡消火設備は、放射ノズルから泡水溶液を放射し、それを発泡用の網に衝突させ、空気を巻き込ませることにより高倍率で発泡し、その泡で火源を埋め尽くして窒息消火を行うものである。油火災に有効であることから、一般に、石油タンクのピット、石油コンビナートのカルバート、船室、船倉等、油火災の発生する可能性のあるところに設けられている。
【0003】
ここで、高膨張泡消火設備とは、泡水溶液と生成された泡の体積比を示す発泡倍率が80〜1000倍程度(1000倍を超える場合もある)の泡を発泡して消火するものを指す。
【0004】
この種の高膨張泡消火設備としては、発泡時、室外の空気を吸引する方式(「アウトサイドエア式」という)のものが一般的に用いられているが、アウトサイドエア式のものの場合、室外の空気を吸引できるようにするために建屋にダクトを貫設したり、隔壁に穴を開けて泡の発生機(発泡機)部分を配設したりする必要があるので、コストが嵩む等の問題があることから、泡を放出する区画内の空気を吸引する方式(「インサイドエア式」という)のものも用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、インサイドエア式のものは、アウトサイドエア式のものに比べ、発泡倍率が著しく低下する。その主な原因は、火災により室内に発生する「煙」を発泡の際に吸引することにある。そこで、本発明者は、先に、煙を吸引しても所望の高い発泡倍率が得られるようにするために、発泡に用いる泡水溶液の動的表面張力に着目し、その動的表面張力を液温が20±1℃の条件下で最大泡圧法によりライフタイム100msecで測定された場合に25mN/m以下の値とする技術を提案している(特許文献2参照)。この技術によれば、確かに、煙を吸引しても所望の高い発泡倍率が得られるようにすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、可燃性液体類には、石油等の非水溶性の燃料の他にアルコール類等の水溶性の燃料がある。高膨張泡消火設備は、油火災、すなわち石油等の非水溶性の燃料による火災に対しては、煙を吸引しない場合はもちろん、煙を吸引する場合でも、発泡に用いる泡水溶液の動的表面張力を液温が20±1℃の条件下で最大泡圧法によりライフタイム100msecで測定された場合に25mN/m以下の値とすれば、所望の高い発泡倍率が得られるようにすることができ、良好な消火性能を得ることができる。そこで、高膨張泡消火設備を水溶性の燃料による火災を消火するものとして用いることが考えられる。
【0008】
しかしながら、高膨張泡は、火源である水溶性の燃料に溶け易く、付着後すぐに消泡し易いため、火源を埋め尽くすのに時間が掛かると考えられる。すなわち、高膨張泡消火設備を水溶性の燃料による火災を消火するのに用いる場合、消火するのに時間を要し、消火性能は低くなると考えられる。
【0009】
この発明は、上記の事情に鑑み、煙を吸引したとしても、所望の発泡倍率を得つつ、非水溶性の燃料による火災に対しても、水溶性の燃料による火災に対しても、良好な消火性能を得ることのできる高膨張泡消火設備を提供することを目的とする。また、そのようにすることのできる高膨張泡消火設備の発泡方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、組成中に泡安定剤を含み、液温が20±1℃の条件下の動粘度が25〜50mm
2/secの泡消火薬剤の水溶液である泡水溶液であって、液温が20℃±1℃の条件下で最大泡圧法によりライフタイム100msecで測定される動的表面張力が25〜32mN/mの泡水溶液を使用して、
発泡倍率が330倍以上の高膨張泡を発泡可能としつつ、水溶性の燃料による火災に対する消火性能を向上させたことを特徴とする高膨張泡消火設備である。
【0011】
また、この発明は、前記動粘度が25〜35mm
2/secであり、前記動的表面張力が25〜30mN/mであることを特徴とする高膨張泡消火設備である。
【0012】
また、この発明は、前記泡消火薬剤は、フッ素系界面活性剤を主成分とする水成膜泡消火薬剤であって、泡安定剤として水溶性高分子を含む水成膜泡消火薬剤であることを特徴とする高膨張泡消火設備である。
【0013】
また、この発明は、前記泡水溶液を放射ノズルから放射し、その放射した前記泡水溶液を発泡網に衝突させて空気を混入して発泡させる泡発生機を備えるものであり、その泡発生機が前記泡水溶液に設置空間中の空気を混入させるインサイドエア式の設備であることを特徴とする高膨張泡消火設備である。
【0014】
また、この発明は、泡消火薬剤と水とを混合して泡水溶液を調整し、その泡水溶液を使用して高膨張泡を発泡する高膨張泡消火設備の発泡方法において、前記泡水溶液を調整する工程として、組成中に泡安定剤を含み、液温が20±1℃の条件下の動粘度が25〜50mm
2/secである泡消火薬剤と水とを混合し、液温が20℃±1℃の条件下で最大泡圧法によりライフタイム100msecで測定される動的表面張力が25〜32mN/mである泡水溶液を調整する工程を含むことを特徴とする高膨張泡消火設備の発泡方法である。
【0015】
また、この発明は、前記泡消火薬剤は、フッ素系界面活性剤を主成分とする水成膜泡消火薬剤であって、泡安定剤として水溶性高分子を含む水成膜泡消火薬剤であることを特徴とする高膨張泡消火設備の発泡方法である。
【0016】
ここで、この発明において、前記泡安定剤として使用する水溶性高分子としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩等のアルギン酸誘導体、ポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸類、ポリビニルアルコール、メチルセルロース類、キサンタンガム等のヘテロ多糖類等を用いることができ、それらを単独で用いることもできるし、複数を併用することもできる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、組成中に泡安定剤を含み、液温が20±1℃の条件下の動粘度が25〜50mm
2/secの泡消火薬剤の水溶液である泡水溶液であって、液温が20℃±1℃の条件下で最大泡圧法によりライフタイム100msecで測定される動的表面張力が25〜32mN/mの泡水溶液を使用するものであることにより、後記の実験結果に示す通り、煙を吸引していても、発泡倍率が330倍以上の高膨張泡を発泡することができ、非水溶性の燃料による火災に対する消火性能を良好に維持しつつ、水溶性の燃料による火災に対する消火性能を向上させることができる。
【0018】
したがって、この発明によれば、煙を吸引しても、所望の発泡倍率を得つつ、非水溶性の燃料による火災に対しても、水溶性の燃料による火災に対しても、良好な消火性能を得ることのできる高膨張泡消火設備を提供することができる。また、そのようにすることのできる高膨張泡消火設備の発泡方法を提供することができる。
【0019】
また、この発明によれば、泡消火薬剤の動粘度が25〜35mm
2/secであり、泡水溶液の動的表面張力が25〜30mN/mであることにより、非水溶性の燃料による火災に対しても、水溶性の燃料による火災に対しても、より良好な消火性能を得ることができる。
【0020】
また、この発明によれば、泡消火薬剤が、フッ素系界面活性剤を主成分とする水成膜泡消火薬剤であり、泡安定剤として水溶性高分子を含むものであることにより、泡消火薬剤の動粘度を前記の所定範囲内にあるものに容易に調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
先ず、この発明を適用する高膨張泡消火設備のシステム構成の一例を
図1を参照しつつ説明する。なお、図示の例は、発泡時、泡を放出する区画内の空気を吸引するインサイドエア式のものを示しているが、この発明は、室外の空気を吸引するアウトサイドエア式のものに適用することも可能である。
【0023】
高膨張泡消火設備1は、
図1に示したように、泡発生機2と、泡発生機2と泡水溶液供給管3を介して接続され、泡消火薬剤と水とを混合して生成した泡水溶液を泡発生機2に供給する混合器4と、混合器4と泡消火薬剤供給管5を介して接続され、泡消火薬剤を混合器4に供給する泡消火薬剤タンク6と、混合器4と水供給管7を介して接続され、水を混合器4に供給する水タンク8と、水供給管7の途中に設けられ、水タンク8内の水を混合器4に圧送すると共に、混合器4が生成する泡水溶液を泡発生機2に圧送するポンプ9と、ポンプ9と信号線10を介して接続されたポンプ制御盤11(火災感知器等の火災感知手段に接続される)等を備えている。
【0024】
また、泡発生機2は、箱状の筐体2aと、筺体2aの内部に設けられ、泡水溶液供給管3から供給される泡水溶液を放射する放射ノズル2bと、筺体2aの後端側に設けられ、ノズル2bが泡水溶液を放出する際に空気を吸引する吸気口2cと、筺体2bの前端側に設けられ、ノズル2bから放射される泡水溶液が吸気口2cから吸気される空気と共に衝突し、それにより高発泡の泡を発泡して前方に放出する発泡網2d等を備えている。
【0025】
この発明は、例えば前記のように構成される高膨張泡消火設備1により高膨張の泡を発泡するのに用いることのできるものである。
【0026】
発明者は、前記の通り、先に、煙を吸引しても所望の高い発泡倍率が得られるようにするために、発泡に用いる泡水溶液の動的表面張力に着目し、その動的表面張力を液温が20±1℃の条件下で最大泡圧法によりライフタイム100msecで測定された場合に25mN/m以下の値とする技術を提案している。これは、煙に対する耐久性を向上させて発泡倍率の低下を起き難くするには泡成膜時の界面活性剤密度を高くすることが有効であり、その界面活性剤密度は動的表面張力が低いほど高くなるとの考えに基づくものであり、煙吸引時に所望の倍率以上の発泡倍率が得られる泡水溶液の動的表面張力の値の範囲を実験により見出したことに基づくものである。
【0027】
新たに、発明者は、水溶性の燃料による火災に対する消火性能を向上させるために、泡水溶液の動的表面張力に加えて、泡消火薬剤の原液段階の動粘度に着目した。これは、次のような考えに基づくものである。
【0028】
有煙状態において高膨張泡の発泡倍率低下を抑制するためには、先に提案した技術によれば、泡膜表面のフッ素系界面活性剤密度を高くすることが必要となる。これは、高膨張泡を生成する泡水溶液中のフッ素系界面活性剤濃度を高くすることと同じ意味であり、そのためには泡水溶液を調製するための泡消火薬剤に含有するフッ素系界面活性剤濃度を高くする必要がある。一方、アルコール類等の水溶性燃料火災に対する高膨張泡の消火性能を向上させるには、泡消火薬剤に泡安定剤として水溶性高分子を配合することにより水溶性燃料の液面に接触した際に消泡し難くすることが有効であることが知られている。この水溶性高分子としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩等のアルギン酸誘導体、ポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸類、ポリビニルアルコール、メチルセルロース類、キサンタンガム等のヘテロ多糖類等が挙げられ、これらを単独で用いても複数を併用しても良い。これら水溶性高分子を含有した泡は、アルコール等の水溶性燃料に接触するとゲル化して消泡し難くなると言われている。この水溶性燃料に対する難消泡性を向上させるには、泡安定剤として含有する水溶性高分子濃度を高くする方が良い。しかし、この泡安定剤を高濃度で配合した泡消火薬剤は、フッ素系界面活性剤が析出するなどして高濃度で含有することが難しくなる。その結果、有煙状態での発泡倍率の低下につながる。反対に、有煙状態での発泡性能を重視してフッ素系界面活性剤を高濃度で配合したい場合は、泡安定剤の濃度を低く抑えなければならないため水溶性燃料に対する消火性能はあまり向上しない。したがって、有煙状態での発泡性能の確保と水溶性燃料火災に対する消火性能の確保を両立させるには、泡消火薬剤に含有するフッ素系界面活性剤と泡安定剤の濃度のバランスが重要となる。有煙状態での発泡性能を確保するためのフッ素系界面活性剤の適正な含有量は、それを配合した泡消火薬剤の水溶液の動的表面張力により決めることができる。一方、泡安定剤の含有量は、配合する濃度の増加に伴い泡消火薬剤の粘度も増大するため、配合した泡消火薬剤の動粘度を指標として調整することができる。つまり、泡水溶液の動的表面張力と泡消火薬剤(泡原液)の動粘度の双方を特定の範囲で調整することで、有煙状態での発泡性能と水溶性燃料に対する消火性能を両立させることができるわけである。
【0029】
ここで、この発明において、動粘度とは、「キャノンフェンスケ法」により測定された値である。
【0030】
「キャノンフェンスケ法」とは、具体的には、「JIS K 2283」に規定されているガラス管式粘度計を用いた動粘度測定法の一種で、測定対象が泡消火薬剤である場合、日本消防検定協会の「泡消火薬剤の検定細則」に記載されている方法、条件により測定を行う。
【0031】
また、この発明において、動的表面張力とは、「最大泡圧法」(「バブルプレッシャー法」ともいう)により測定された値である。なお、動的表面張力の測定方法には、最大泡圧法の他にも滴下容量法など種々の方法があるが、測定対象が泡水溶液である場合、適応時間範囲や再現性などの点で最大泡圧法が最適である。
【0032】
「最大泡圧法」とは、具体的には、測定対象が泡水溶液である場合、泡水溶液中に差し込んだプローブ(細い管)の先から圧縮空気を使って気泡を押し出し、プローブの根元に設けられる圧力センサにより気泡の生成に伴うプローブ内の内圧の変化を検出する。そして、気泡の生成に伴ってプローブ内の圧力は上昇するが、最初の内圧をP0、最大の内圧をPmaxとすると、ヤング・ラプラスの式より、泡水溶液の表面張力γは、γ=(Pmax−P0)r/2で表すことができる(式中rはプローブ孔の半径を示す)。このように気泡生成に伴う圧力変化から表面張力を算出するのが最大泡圧法である。なお、気泡が生成され始めて(P0)から内圧が最大(Pmax)になるまでの時間を「ライフタイム」という。このライフタイムを変化させることにより、色々な時間域での表面張力を測定することができる。
【0033】
[実験例]
実験の条件は次の通りである。
・泡消火薬剤は、試料として、組成中に泡安定剤として水溶性高分子を含み、フッ素系の界面活性剤を主成分とする泡水成膜消火薬剤の同種のものを3つ(実施例A乃至C)と、泡安定剤を含まず、フッ素系界面活性剤を主成分とする泡消火薬剤を1つ(比較例D)と、組成中に泡安定剤として水溶性高分子を含み、フッ素系の界面活性剤を主成分とする泡水成膜消火薬剤であり、前記の実施例A乃至Cのものと同系統のものではあるが、それらとは別種のものを1つ(比較例E)を使用した。
・泡発生機は、
図1に示したようなタイプのものを使用した。
・泡放出条件は、0.49MPa−40L/minとした。
・泡放出区画は、♯10の金網により4m×4m×1m高の区画とした。なお、実験No.9及び10では、泡漏れ防止のためのべニア板張りとした。
・火災モデルは、1m
2火皿火炎(1m×1m×0.2m深さ)とし、その火皿を泡放出区画の中央床面に設置した。燃料は、ヘプタン(非水溶性燃料)、エタノール(水溶性燃料)、アセトン(水溶性燃料)の各20Lとした。ただし、ヘプタンの場合のみ、敷水40Lとした。
・有煙条件は、煙発生源をゴムタイヤの燻焼とし、煙濃度を15〜25%/m(減光式煙濃度計により測定)の範囲とした。
・発泡倍率の測定は、火災モデルのない状態において、上記の放出条件及び有煙条件の下、放出区画に泡を放出して冠泡するまでの時間又は一定時間放出した泡の容積から発泡倍率を算出した。
・消火時間の測定は、火災モデルへの着火から1分後に泡放出を開始し、泡放出の開始から火災モデルの火炎が見えなくなるまでの時間を計測し、それを消火時間とした。
【0034】
実験の結果は次の表の通りである。なお、表中、泡原液の動粘度は、前記の通り、前記のキャノンフェンスケ法により液温20±1℃の条件下で測定した値であり、水溶液の動的表面張力は、前記の通り、最大泡圧法により液温20±1℃の条件下で測定したライフタイム100msecにおける値である(測定器は、協和界面科学株式会社製のBP−D5を使用した)。また、発泡倍率は、上記の有煙条件下(ゴムタイヤの燻焼煙、煙濃度15〜25%/m)の値である。
【0036】
表1において、実施例A乃至Cの泡消火薬剤は、組成中に泡安定剤を含んでおり、動粘度が高く調整されている。すなわち、実施例Aの原液段階の動粘度は50mm
2/secであり、実施例Bの動粘度は35mm
2/secであり、実施例Cの原液段階の動粘度は25mm
2/secである。比較例Dの泡消火薬剤は、泡安定剤を含んでおらず、そのため動粘度が前記の実施例A乃至Cよりも低くなっている。すなわち、比較例Dの動粘度は20mm
2/secである。比較例Eの泡消火薬剤は、泡安定剤を含んでおり、動粘度が前記の実施例A乃至Cよりも高く調整されている。すなわち、比較例Eの動粘度は55mm
2/secである。これら試料の泡水溶液の段階における動的表面張力は、原液段階の動粘度が同じでも、希釈濃度を変えることにより変えることができる。実施例Aについては1例の結果しか示していないが、実施例B、C及び比較例Eについては異なる動的表面張力のものを2例ずつ結果を示しており、比較例Dについては3例の結果を示している(各希釈濃度は表中に示した通り。何れも体積パーセント)。つまり、表1は、原液段階の動粘度を異にする5例の泡消火薬剤の試料から用意した動的表面張力を異にする10例の泡水溶液を使用した場合の結果をNo.1乃至10として示している。
【0037】
表1に示されている通り、泡安定剤を含まず、原液段階の動粘度が低い20mm
2/secの比較例Dの場合、水溶液段階の動的表面張力が20〜24mN/mであるNo.6乃至8の3例あるが、発泡倍率は最低でも390倍であり、何れも良好な発泡倍率が得られており、ヘプタンに対する消火時間は最長でも29秒であり、何れもヘプタンに対しては良好な消火性能が得られている。しかしながら、エタノールに対する消火時間は最短でも123秒であり、アセトンに対する消火時間は最短でも118秒である。すなわち、エタノールとアセトンに対する消火性能が著しく低くなっており、非水溶性の燃料であるヘプタンに対する消火性能は良好である一方、水溶性の燃料であるエタノールやアセトンに対する消火性能が著しく低くなっている。これに対し、泡安定剤を含み、原液段階の動粘度がより高い25〜50mm
2/secである実施例A乃至Cの場合、水溶液段階の動的表面張力がより高い25〜32mN/mであるNo.1乃至5の5例あるが、発泡倍率は最低でも330倍であり、何れも良好な発泡倍率が得られている。さらに、ヘプタンに対する消火時間は最長でも31秒であり、エタノールに対する消火時間は最長でも31秒であり、アセトンに対する消火時間は最長でも30秒である。すなわち、比較例DのNo.6乃至8の例に比べ、何れも、ヘプタンに対する消火性能は同程度の良好なものでありつつ、エタノールとアセトンに対する消火性能は格段に向上しており、非水溶性の燃料であるヘプタンに対しても、水溶性の燃料であるエタノールやアセトンに対しても、良好な消火性能が得られている。そして、安定剤を含み、原液段階の動粘度がさらにより高い55mm
2/secの比較例Eの場合、水溶液段階の動的表面張力が35〜38mN/mであるNo.9乃至10の2例あるが、実施例A乃至Cに比べて泡安定剤を多く含むためフッ素系界面活性剤の配合濃度が低くなり、発泡倍率は最高でも150倍であり、何れも、実施例A乃至CのNo.1乃至5の例に比べ、発泡倍率が著しく低くなっている。また、ヘプタンに対する消火時間が最短でも97秒であり、エタノールに対する消火時間が最短でも89秒であり、アセトンに対する消火時間が最短でも85秒であり、何れに対しても消火性能が著しく低下している。
【0038】
要するに、実験の結果は、組成中に泡安定剤を含み、液温が20±1℃の条件下でキャノンフェンスケ法により測定される原液段階の動粘度が25〜50mm
2/secの範囲内のものである泡消火薬剤を水で希釈した泡水溶液であって、液温が20℃±1℃の条件下で最大泡圧法によりライフタイム100msecで測定される動的表面張力が25〜32mN/mの範囲内のものである泡水溶液を使用することにより、例えば
図1に示したような高膨張泡消火設備1において、煙吸引時でも所望の330倍の発泡倍率以上で発泡をすることができると共に、水溶性の燃料による火災に対する消火性能を向上させることができ、煙吸引時でも、所望の発泡倍率を得つつ、非水溶性の燃料による火災と水溶性の燃料による火災の何れに対しても、良好な消火性能が得られることを示している。
【0039】
なお、泡水溶液に対する泡消火薬剤の濃度(希釈濃度)を高くして、動的表面張力を25mN/m未満とすることも考えられるが、煙中での発泡倍率が飽和して、それ以上泡消火薬剤濃度を高くしても発泡倍率は増大しなくなる。泡消火薬剤濃度が増加するのに伴って、設備として貯蔵する泡消火薬剤量が増加し、設備のコストも増大していくので、動的表面張力を25mN/m未満とする泡消火薬剤濃度では、設備コストの増大に見合うだけの発泡倍率増大効果が得られない。これらのことから、本発明の高膨張泡消火設備に使用する実用上有効な泡水溶液は、液温20℃±1℃で測定されるライフタイム100msecにおける動的表面張力が25〜32mN/mの範囲内のものであることが好ましい。
【0040】
ここで、実験の結果において、良好な結果が得られているNo.1乃至5の例(実施例A乃至C)は、泡消火薬剤としては、何れも、泡安定剤として水溶性高分子を含み、フッ素系の界面活性剤を主成分とする泡水成膜消火薬剤である。すなわち、実験の結果は、泡消火薬剤としては、泡安定剤として水溶性高分子を含み、フッ素系の界面活性剤を主成分とする泡水成膜消火薬剤を使用するのが好ましいことを示している。
【0041】
また、良好な結果が得られているNo.1乃至5の例において、原液段階の動粘度の値と水溶液段階の動的表面張力の値の上限はNo.1の例の値であるが、No.2の例の方が発泡倍率も消火時間もより良好な結果が得られており、上限の値はNo.2の例のものとするのがより好ましいことを示している。すなわち、実験の結果は、泡消火薬剤の動粘度の範囲は25〜35mm
2/secとし、泡水溶液の動的表面張力は25〜30mN/mとするのがより好ましいことを示している。
【0042】
さらに、原液段階の動粘度が25mm
2/secであり、水溶液段階の動的表面張力が25mN/mである泡水溶液を使用したNo.5の例の場合において、最高の発泡倍率が得られており、また、何れの火災に対しても最短の消火時間が得られている。すなわち、実験の結果は、泡消火薬剤の動粘度は25mm
2/sec程度とするのがさらに好ましいことを示しており、泡水溶液の動的表面張力は25mN/m程度とするのがさらに好ましいことを示している。
【0043】
次に、
図1に示した高膨張泡消火設備1を使用する場合を例に、前記のように調整される泡消火薬剤の泡水溶液により高膨張泡を発泡する際の動作について説明する。
【0044】
高膨張泡消火設備1において、泡消火薬剤タンク6には、組成中に泡安定剤を含み、液温が20±1℃の条件下でキャノンフェンスケ法により測定される動粘度が25〜50mm
2/secの範囲内のものとなるように調整された泡消火薬剤が貯蔵されている。混合器4は、泡消火薬剤タンク6から供給される泡消火薬剤と水タンク8から供給される水とを混合して泡水溶液を生成するが、所定の濃度で希釈することにより、液温が20℃±1℃の条件下で最大泡圧法によりライフタイム100msecで測定される動的表面張力が25〜32mN/mの範囲内のものとなるように泡水溶液を調整する。そのように調整された泡水溶液は混合器4から泡発生機2に供給される。泡発生機2は、混合器から供給される泡水溶液をノズル2bから放射し、吸気口2cから空気と共に発泡網2dに衝突させ、空気を混入して高い発泡倍率で発泡させる。
【0045】
高膨張泡消火設備1は、インサイドエア式のものであり、発泡の際に煙を吸引する可能性のあるものであるが、前記のように調整される泡水溶液を使用して発泡することとすれば、煙を吸引したとしても、所望の発泡倍率を得つつ、非水溶性の燃料による火災と水溶性の燃料による火災の何れに対しても、良好な消火性能を得ることができる。
【0046】
以上、この発明の高膨張泡消火設備及びその発泡方法の実施形態を説明したが、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。