(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
呼吸リハビリテーションの効果を確認するテストとして、時間内歩行試験及びシャトルウォーキングテストなどがある。
【0003】
時間内歩行試験は、被検者に例えば30mの距離を一定時間に可能な限り往復歩行させ、このときの、歩行距離、ボルグスケール(最大呼吸困難感又は主観的運動強度と呼ばれる被検者の息苦しさ及び下肢の疲労の指標)、SpO
2(動脈血酸素飽和度)、脈拍数を測定する。
【0004】
シャトルウォーキングテストは、被検者に、例えば10mのコースの両端に置かれたコーンの間を往復歩行させる。被検者は、スピーカから出力される発信音に合わせて歩行する。この発信音の間隔は、歩行スピードが例えば10m/minずつ増加するように、1分毎に短くされる。このときの、歩行距離、ボルグスケール、SpO
2、脈拍を測定する。シャトルウォーキングテストは、被検者がペースについていけなくなったときや、呼吸困難などの臨床症状が出現したときに中止される。なお、コーンの間隔や、歩行スピードの変化量、変化間隔は、これに限らず適宜変更される。
【0005】
このような呼吸リハビリテーションの効果確認テストに、パルスオキシメータが用いられる。パルスオキシメータは、被検者の所定の生体部位に装着され、当該生体部位に向けて光を出力し、生体部位を透過又は反射した光の光量変化をパルス信号として測定することで、SpO
2を求める。また、パルスオキシメータは、一般に、SpO
2に加えて、脈拍も測定できるようになっている(例えば特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の歩行試験では、歩数や歩行距離、歩行速度、ボルグスケールと、SpO
2及び脈拍とを、関連付けて時系列で表示及び記録するようになっている。
【0009】
しかしながら、患者が行った運動と、SpO
2及び脈拍とを十分に配慮した表示及び記録がなされているとは言えず、この結果、運動とSpO
2及び脈拍との関係を的確に把握することは困難であった。
【0010】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、運動とSpO
2及び脈拍数との関係を的確に把握することができる生体活動表示装置、生体活動表示方法及び歩行試験システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の生体活動表示装置の一つの態様は、
被検者のSpO
2を取得するSpO
2取得部と、
前記被検者の運動強度を取得する運動強度取得部と、
前記SpO
2を、そのSpO
2の測定時点である第1の時点から当該第1の時点よりも過去の第2の時点までの期間内の最大の運動強度と共に表示する表示部と、
を具備
し、
前記第1の時点から前記第2の時点までの前記期間は、運動による影響がSpO2に現れ得る期間である。
【0012】
本発明の生体活動表示方法の一つの態様は、
SpO
2の測定時点である第1の時点から当該第1の時点よりも過去の第2の時点までの期間内の最大の運動強度を算出し、
前記測定時点の前記SpO
2の数値と、前記期間内の前記最大の運動強度の数値とを、同一画面に表示
し、
前記第1の時点から前記第2の時点までの前記期間は、運動による影響がSpO2に現れ得る期間である。
【0013】
本発明の歩行試験システムの一つの態様は、
被検者のSpO
2を測定するパルスオキシメータと、
測定された前記SpO
2及び前記被検者が行った運動の運動強度を入力し、前記SpO
2を、そのSpO
2の測定時点である第1の時点から当該第1の時点よりも過去の第2の時点までの期間内の最大の運動強度と共に表示する端末と、
を具備
し、
前記第1の時点から前記第2の時点までの前記期間は、運動による影響がSpO2に現れ得る期間である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、運動とSpO
2及び脈拍数との関係を的確に把握することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
<構成>
図1は、本発明の生体活動表示装置を適用した歩行試験システムの全体構成を示す概略図である。
【0018】
歩行試験システム1は、パルスオキシメータ100と、タブレット端末200とから構成されている。パルスオキシメータ100とタブレット端末200は、互いに無線通信可能な機能を有する。本実施の形態の場合には、パルスオキシメータ100とタブレット端末200はBluetooth(登録商標)規格に準拠した近距離通信が可能とされている。パルスオキシメータ100は、測定データを無線によりタブレット端末200に送信する。タブレット端末200は、パルスオキシメータ100から受信した測定データを収集して測定結果を表示するとともに、歩行試験レポートを作成する。
【0019】
パルスオキシメータ100は、本体部110と、プローブ部120とを有する。本体部110とプローブ部120とはケーブル130を介して接続されている。本体部110は図示しないベルトを用いて被検者の手首付近に装着可能とされており、プローブ部120は被検者の指に装着可能とされている。
【0020】
図2は、パルスオキシメータ100の要部構成を示すブロック図である。パルスオキシメータ100のプローブ部120には、発光部121及び受光部122が設けられている。発光部121は、動脈血酸素飽和度の変化に対する感度が高い赤色光(例えば、波長660[nm])で発光する第1の発光ダイオードと、動脈血酸素飽和度による影響が少ない赤外光(例えば、波長940[nm])で発光する第2の発光ダイオードと、から構成されている。受光部122は、フォトダイオードにより構成されており、指を透過した発光部121の光を検出する。なお、受光部122を、指からの光の透過経路ではなく、指からの光の反射経路に配置し、受光部122によって指からの反射光を検出するようにしてもよい。
【0021】
本体部110は、プローブ部120によって得られた検出光に基づいて、被検者のSpO
2及び脈拍を求める。具体的に説明する。発光回路111は、発光部121の第1の発光ダイオード及び第2の発光ダイオードを所定の間隔で交互に発光させる。そのときの指からの透過光又は反射光が受光部122によって検出され、光電変換されて受光回路112に入力される。受光回路112は、プローブ部120の受光部122から入力された電流信号を電圧信号に変換する。また、受光回路112は、変換した電圧信号を、上述した赤色光及び赤外光の波長に対応する各成分に分離して2つの観測信号を復調する。また、受光回路112は、復調した観測信号に対して増幅やアナログディジタル変換などの処理を施し、処理後の観測信号をCPU113に出力する。
【0022】
CPU113は、所定のプログラムを実行することで、観測信号からSpO
2及び脈拍を算出する。この算出方法については、例えば特許文献1にも記載されているように既知の技術なので、ここでの説明は省略する。また、CPU113は、パルスオキシメータ100の各部の制御を行う。具体的には、CPU113は、操作部117から入力される操作信号に基づいて、各種の設定を行う。また、CPU113は、発光回路111の動作制御、表示部115の表示制御、通信部116の通信制御などを行う。
【0023】
かかる構成に加えて、パルスオキシメータ100の本体部110には、加速度センサ118が設けられている。CPU113は、加速度センサ118の出力に基づいて、被検者の歩数を算出する。
【0024】
パルスオキシメータ100は、測定したSpO
2、脈拍及び歩数を、通信部116によってタブレット端末200にリアルタイムで送信する。
【0025】
図3に示すように、タブレット端末200は、タッチパネル付き液晶表示器からなる表示部210を有すると共に、パルスオキシメータ100から送信された測定データを無線受信する通信部211を有する。通信部211は、被検者のSpO
2を取得するSpO
2取得部、及び、被検者の脈拍を取得する脈拍取得部としての機能を有する。タブレット端末200は、パルスオキシメータ100から受信した情報のうち、歩数を歩行速度算出部212に入力する。
【0026】
歩行速度算出部212は、入力した歩数と、歩幅とから、被検者の歩行速度を算出する。具体的には、歩行速度算出部212は、次式により歩行速度を算出する。
歩行速度[m/min]=歩幅[m]×ピッチ[歩/min] ……… (1)
【0027】
ここで、記憶部214には、ユーザによって予め被検者の氏名とともに、被検者の身長、年齢が記憶されており、歩行速度算出部212は、被検者の身長及び年齢から被検者の歩幅を推定により求め、その歩幅を用いて(1)式を実行することで被検者の歩行速度を算出するようになっている。歩幅は、例えば以下の式により求める。
歩幅=身長×0.37 ……… (2)
なお、歩幅は(2)式以外の式を用いて求めてもよい。また、歩幅は高齢になるほど短くなる傾向にあることを考慮して、年齢によって歩幅を補正してもよい。
【0028】
運動強度算出部213は、歩行速度算出部212によって求められた歩行速度を用いて、運動強度を算出する。本実施の形態の場合、運動強度算出部213は、次式により運動強度(METs(Metabolic Equivalents))を算出する。因みに、(3)式はアメリカスポーツ医学会より提唱されているMETs計算式である。
METs=(3.5+歩行速度×歩行速度に応じた係数)÷3.5 ……… (3)
【0029】
なお、本発明は運動強度をどのような式によって求めるかに限定されるものではなく、運動強度算出部213は(3)式以外の式を用いて運動強度を算出してもよい。
【0030】
CPU215は、記憶部214に格納された歩行試験を行うためのアプリケーションプログラムに従って、表示部210への測定結果の表示及びレポートの作成を行うようになっている。
【0031】
なお、本実施の形態では、歩数をパルスオキシメータ100の加速度センサ118により取得したが、例えば、タブレット端末200に、医療従事者によって目視にてカウントされた歩数を入力するモードを設けることにより歩数を取得するようにしてもよい。
【0032】
<測定結果の表示>
次に、本実施の形態による測定結果の表示について説明する。
【0033】
本実施の形態の場合、歩行試験の測定結果の表示及び歩行試験レポートの作成は、タブレット端末200によって行われる。つまり、タブレット端末200は、歩行試験を行うためのアプリケーションソフトウェアに従って、パルスオキシステムメータ100からの測定データの受信、表示部210への測定結果の表示及びレポートの作成を行うようになっている。
【0034】
図4は、本実施の形態による、測定結果の表示の原理を説明するための図である。
図4AはSpO
2の変化の様子を示し、
図4Bは運動強度(METs)の変化の様子を示し、
図4Cは本実施の形態による表示例を示す。
図4A、
図4B、
図4Cは時間軸を合わせて示されている。
【0035】
本発明の発明者らは、以下の2つの点に着目して本発明に至った。
【0036】
着目点1)
図4A及び
図4Bから分かるように、SpO
2を測定する部位にもよるが、指でSpO
2を測定した場合には、運動による影響がSpO
2に現れるのは、その運動が行われてから10〜30秒後である場合が多い。このような遅延が起こる要因については、例えば非特許文献1に記載されている。
【0037】
着目点2) SpO
2の値は、強度の高い運動に支配される傾向にある。
【0038】
これらを考慮して、本発明では、現時点のSpO
2の値と、現時点の運動強度とを表示するのではなく、現時点のSpO
2の値と、現時点から過去のある時点までの所定期間内での運動強度の最大値とを表示する。これにより、現時点のSpO
2の値と、その値に支配的な影響を及ぼした運動強度とを同時に表示させることができるので、医療従事者又はユーザはSpO
2の値と運動強度との因果関係を正しく認識できるようになる。
【0040】
時点t−0において得られたSpO
2及び脈拍数はそれぞれ85%、80bpmであり、運動強度は1.5METsである。その10秒前の時点t−1において得られたSpO
2及び脈拍数はそれぞれ90%、90bpmであり、運動強度は1.5METsである。その10秒前の時点t−2において得られたSpO
2及び脈拍数はそれぞれ97%、100bpmであり、運動強度は4.0METsである。その20秒前の時点t−4において得られたSpO
2及び脈拍数はそれぞれ97%、65bpmであり、運動強度は1.5METsである。さらに、時点t−0の10秒後において得られたSpO
2及び脈拍数はそれぞれ97%、65bpmであり、運動強度は1.5METsである。
【0041】
本実施の形態による表示画像の例は、
図4Cに示されている。タブレット端末200の表示部210には、順次、画像F1、F2、F3、F4、F5が表示される。時点t−4では画像F1が表示され、時点t−2では画像F2が表示され、時点t−1では画像F3が表示され、時点t−0では画像F4が表示され、時点t+1では画像F5が表示される。
【0042】
各画像F1〜F5には、測定時点のSpO
2及び脈拍数の値と、その測定時点から過去のある時点までの所定期間内での運動強度の最大値とが表示される。例えば時点t−0の表示画像F4では、測定時点のSpO
2及び脈拍数「85%、80bpm」と共に過去30秒間での最大運動強度「4.0METs」が表示されている。同様に、時点t−1の表示画像F3では、測定時点のSpO
2及び脈拍数「85%、80bpm」と共に過去30秒間での最大運動強度「4.0METs」が表示されている。
【0043】
このように本実施の形態の表示では、SpO
2及び脈拍数の表示値は随時更新されるが、運動強度の表示値は過去30秒間の最大運動強度に固定される。
【0044】
以上説明したように、本実施の形態によれば、SpO
2及び脈拍数を、そのSpO
2及び脈拍数の測定時点である第1の時点から当該第1の時点よりも過去の第2の時点までの期間内の最大の運動強度と共に表示するようにしたことにより、現時点のSpO
2の値と、その値に支配的な影響を及ぼした運動強度とを同時に表示させることができるので、医療従事者又はユーザは、SpO
2の低下がみられたときの、SpO
2の値と運動強度との因果関係を正しく認識できるようになる。
【0045】
なお上述の実施の形態では、SpO
2及び脈拍数の数値と共に、そのSpO
2及び脈拍数を測定した時点から過去30秒以内の最大運動強度を表示する場合について述べたが、これに限らず、SpO
2及び脈拍数と共に表示する最大運動強度は、表示するSpO
2及び脈拍数を測定した時点から過去10秒以上の期間内の最大運動強度とすればよい。
【0046】
また表示するSpO
2及び脈拍数を測定した時点から過去の所定期間内の最大運動強度は除外するようにしてもよい。これにより、未だSpO
2及び脈拍数に影響を及ぼしていない運動強度がSpO
2及び脈拍数と一緒に表示されることを防止できる。例えば、
図4の時点t−2の画像F2は、最大運動強度として「4.0METs」が表示されているが、この時点t−2のSpO
2及び脈拍数「97%、100bpm」にはこの最大運動強度「4.0METs」の運動の影響が未だ現れていないと考えられる。よって、SpO
2及び脈拍数に影響が現れない直近期間の最大運動強度を除外すれば、SpO
2の値と運動強度との因果関係をより正しく認識できるようになる。
【0047】
また上述の実施の形態では、タブレット端末200が本発明による生体活動表示装置として機能する場合について述べたが、パルスオキシメータ100を本発明による生体活動表示装置として機能させることもできる。つまり、歩行速度算出部212、運動強度算出部213及び記憶部214をパルスオキシメータ100に設けて、パルスオキシメータ100の表示部115に、上述の実施の形態の同様の表示を行わせればよい。
【0048】
また上述の実施の形態では、本発明を歩行試験システム1に適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば携帯タイプの活動量計などに適用してもよい。
【0049】
さらに上述の実施の形態では、最大運動強度と一緒にSpO
2及び脈拍数を表示した場合について述べたが、脈拍数は表示せずに、最大運動強度と一緒にSpO
2を表示させた場合でも上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0050】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することの無い範囲で、様々な形で実施することができる。