(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガス通路内が全て空気の状態で前記ガスノズルからガスを送り込んだ場合に、点火下限ガス濃度の混合ガスが前記第1炎口に到達した時点で、前記第2炎口から出るガスのガス濃度がリフト下限ガス濃度以上になるように、前記入口部から前記第1炎口までの通路長と前記入口部から前記第2炎口までの通路長との差を設定した
ことを特徴とする請求項1に記載のパイロットバーナ。
【背景技術】
【0002】
バーナを点火する場合、通常は、燃焼ガスの供給開始と同時に、あるいは燃焼ガスの供給開始よりも先に、イグナイタ電極からの放電を開始させる。これは、混合ガスが先行した場合に生じる爆発着火を防ぐためである。また、確実な着火を得るために、イグナイタ電極からの放電は着火後もある程度の時間継続される(ポストイグニッション)。
【0003】
バーナが正常に点火したか否かは、一般に、フレームロッド電極と炎検出回路を用いて確認する。フレームロッド電極は、その先端が検出対象の炎の中に位置するように配置される。炎検出回路は、フレームロッド電極とバーナとの間に電圧を印加し、そのとき検出される電流の状況によって炎の有無を検出する。その原理は、炎がないときはフレームロッド電極とバーナとの間には空気があって高抵抗であるが、着火すると炎の中にイオンが存在するため抵抗値が下がって電流が流れる、というものである。
【0004】
多数の炎口を備える通常のバーナの場合、イグナイタ電極はバーナの一端側に設けられ、すべての炎口に着火したことを確認するためにフレームロッド電極はバーナの他端側に設けられる。そのため、イグナイタ電極からの放電がフレームロッド電極に飛ぶことはない。
【0005】
パイロットバーナの場合、通常、炎口が少なく、イグナイタ電極とフレームロッド電極の距離は近くなる。しかし、イグナイタ電極からの放電がフレームロッド電極に飛ばないように、イグナイタ電極とフレームロッド電極との間の距離は、イグナイタ電極からパイロットバーナが有するターゲット電極(放電の到達位置)までの距離よりも長く設定される。
【0006】
図12は、パイロットバーナ111とイグナイタ電極112とフレームロッド電極113の配置例を示している。パイロットバーナ111が有するターゲット電極114のほぼ真上にイグナイタ電極112の先端が位置し、フレームロッド電極113は、パイロットバーナ111で燃焼ガスが燃焼した際に生じる炎の中に先端が位置するように配置されている。イグナイタ電極112の先端からターゲット電極114までの距離L1(たとえば4mm)に比べて、イグナイタ電極112の先端からフレームロッド電極113までの距離L2(たとえば12mm)は長く設定されている。
【0007】
パイロットバーナ111に点火するときにも、前述の爆発着火を防止して確実な着火を得るために、通常は、燃焼ガスの供給開始(ガスコック117を開く)と同時にあるいは燃焼ガスの供給開始よりも先にイグナイタ駆動回路115を駆動してイグナイタ電極112からの放電を開始させ、かつ、フレームロッド電極113と炎検出回路116によって炎を検出した後も、しばらく(たとえば、5〜7秒)の間、イグナイタ電極112からの放電を継続させてポストイグニッションを行う、といった流れで点火動作が行われる。前述したように、L2>L1に設定されているので、イグナイタ電極112からの放電は、通常、パイロットバーナ111のターゲット電極114に向かい、フレームロッド電極113に飛ぶことはない。
【0008】
なお、下記特許文献1には、ミス着火が何度も生じた後の着火が爆発着火になることを防止するために、ミス着火のために未燃焼となっている生ガスの放出時間を積算し、該積算値が閾値を超えた場合は、所定の点火禁止時間が経過するまで点火動作を禁止するガス燃焼装置が開示されている。また、下記特許文献2には、ガスが炎口部へ均一に流れるように炎口部の下方に多数の開口を有する整流板を設けたバーナユニットが開示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
パイロットバーナ111の燃焼を停止した後は、ガスコック117から先のガス管路118の中やパイロットバーナの内部にあった燃焼ガスが時間の経過に伴って次第に空気に置換される。そのため、燃焼停止から長い時間の経過後にパイロットバーナ111を点火するときは、ガスコック117を開いてからしばらくはパイロットバーナ111の炎口から出るガス濃度が非常に薄くなり、その後、過渡的に本来のガス濃度に至るように変化する。
【0011】
前述したようにパイロットバーナ11を点火するときは、ガスの供給開始と同時にもしくはガスの供給開始に先立ってイグナイタ電極112からの放電を開始させるので、ガス濃度が薄い状態で点火して炎が現れることがある。ガス濃度が薄いときに生じる炎は、
図12に示すように、パイロットバーナ111の炎口から炎の根本が浮き上がった状態(リフティング状態)になる。
【0012】
このようなリフティングした炎が存在する状態で、確実な着火を得るためにイグナイタ電極112からの放電を継続させるポストイグニッションが行われると、炎口から浮き上がった部分は、イオンが存在する炎の中に比べて電気抵抗が大きいので、イグナイタ電極112とターゲット電極114との間の電気抵抗がイグナイタ電極112とフレームロッド電極113との間の電気抵抗より大きくなり、イグナイタ電極112からの放電がフレームロッド電極113に飛んでしまう。その結果、炎検出回路116に高電圧が加わって、内部の素子、特に、トランジスタ等が破壊されることがある。
【0013】
特許文献1の技術は、ミス着火を繰り返した後の爆発着火を防止するものであり、上記の問題に対応することはできない。また、特許文献2に開示の整流板は、ガスが均一に炎口に流れるようにするものであるから、リフティングが生じるような場合には、薄いガス濃度の混合ガスがパイロットバーナ111の炎口全体に均一に流れるように作用する。そのため、炎がリフティングするような状態で点火したときは、パイロットバーナ111の全体で炎のリフティングが生じてしまい、上記の問題は解決されない。
【0014】
本発明は、上記の問題を解決するために成されたものであり、イグナイタ電極からフレームロッド電極への誤放電を防止することのできるパイロットバーナおよびガス燃焼装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
【0016】
[1]ガスノズルが挿入され、前記ガスノズルからのガスと空気が流入する入口部と、
複数の炎口が配列された出口部と、
前記入口部から前記出口部に至るガス通路と、
前記出口部に配列された複数の炎口のうちの第1炎口の近傍に設けられ、イグナイタ電極からの放電を受けるターゲット電極と、
を有し、炎を検出するためのフレームロッド電極が、前記出口部に配列された複数の炎口のうちの第2炎口の近傍に設置されるパイロットバーナであって、
前記入口部から流入したガスが遠回りをして前記第1炎口に向かうように前記ガス通路の内部に仕切り壁を設けて、前記入口部から前記第1炎口までの通路長が前記入口部から前記第2炎口までの通路長より所定以上長くなるようにした、
ことを特徴とするパイロットバーナ。
【0017】
上記発明では、入口部から流入したガスが遠回りをしてターゲット電極の近傍の第1炎口に向かうようにガス通路の内部に仕切り壁を設けて、入口部から第1炎口までの通路長が入口部からフレームロッド電極の近傍の第2炎口6までの通路長より所定以上長くなるようにする。これにより、第1炎口で薄いガスが点火したとき、第2炎口には既に濃いガスが到達するようになり、第2炎口で炎がリフトせず、フレームロッド電極への誤放電が防止される。
【0018】
[2]前記ガス通路内が全て空気の状態で前記ガスノズルからガスを送り込んだ場合に、点火下限ガス濃度の混合ガスが前記第1炎口に到達した時点で、前記第2炎口から出るガスのガス濃度がリフト下限ガス濃度以上になるように、前記入口部から前記第1炎口までの通路長と前記入口部から前記第2炎口までの通路長との差を設定した
ことを特徴とする[1]に記載のパイロットバーナ。
【0019】
上記発明では、点火下限ガス濃度の混合ガスが第1炎口に到達した時点で、第2炎口から出るガスのガス濃度がリフト下限ガス濃度以上になるようにされる。
【0020】
[3]前記第2炎口は、前記出口部に配列された複数の炎口のうち前記入口部に最も近い炎口であり、
前記第1炎口は、前記第2炎口に隣接する炎口であり、
前記仕切り壁は、前記ガス通路内で前記第1炎口と前記第2炎口を仕切ると共に、前記入口部から流入したガスが前記第2炎口の反対側から前記第1炎口に至るように形成されている
ことを特徴とする[1]または[2]に記載のパイロットバーナ。
【0021】
上記発明では、第1炎口と第2炎口は隣接しているので火移りが容易でありながら、仕切り壁の存在により、入口部から第1炎口までの通路長を入口部から第2炎口までの通路長に比べて大幅に長くすることができる。
【0022】
[4]メインバーナと、
前記メインバーナを点火するための[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のパイロットバーナと、
前記パイロットバーナを点火するためのイグナイタ電極と、
前記イグナイタ電極と前記ターゲット電極との間に高電圧を印加して放電を発生させるイグナイタ駆動回路と、
前記イグナイタ電極までの距離が前記イグナイタ電極と前記ターゲット電極との間の距離よりも長くなりかつ先端が前記第2炎口に生じる炎の中に位置するように配置されたフレームロッド電極と、
前記フレームロッド電極と前記パイロットバーナとの間に電圧を印加し、そのときの通電状況によって前記炎を検出する炎検出回路と、
を有する
ことを特徴とするガス燃焼装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るパイロットバーナおよびガス燃焼装置によれば、イグナイタ電極からフレームロッド電極への誤放電を防いで、炎検出回路の破損を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施の形態に係るガス燃焼装置10であってパイロットバーナ11の点火に関連する部分を示す図である。ここでは、ガス燃焼装置10は、バランス型風呂釜とする。ガス燃焼装置10は、図示省略のメインバーナを備え、該メインバーナを点火するためのパイロットバーナ(口火バーナ)11を有している。パイロットバーナ11は、メインバーナの近傍に配置されている。
【0027】
パイロットバーナ11は複数(少数)の炎口を備えており、略中央の炎口の部分から上方に突出するよういターゲット電極14が設けてある。ターゲット電極14の真上には、イグナイタ電極12の先端が配置される。イグナイタ電極12の先端は、イグナイタ電極12の真下の炎口で燃焼ガスが燃焼した際に生じる炎の中に位置する高さにされている。
【0028】
また、パイロットバーナ11の一方の端部の炎口の真上には、フレームロッド電極13の先端が位置している。フレームロッド電極13も、該フレームロッド電極13の真下の炎口で燃焼ガスが燃焼した際に生じる炎の中に先端が位置するように配置されている。
【0029】
イグナイタ電極12の先端からターゲット電極14の先端までの距離L1に比べて、イグナイタ電極12の先端からフレームロッド電極13までの距離L2は長く設定されている。たとえば、L1は4mm、L2は12mmとされており、大きな差を有する。
【0030】
イグナイタ駆動回路15は、イグナイタ電極12とパイロットバーナ11のターゲット電極14との間に高電圧(たとえば、12〜15KV)を印加して、イグナイタ電極12の先端からターゲット電極14へ向かう放電を生じさせる機能を果たす。
【0031】
炎検出回路16は、フレームロッド電極13とパイロットバーナ11との間に電圧(たとえば、100〜200V)を印加し、そのとき検出される電流の状況によって炎の有無を検出する。すなわち、未着火で炎がないときはフレームロッド電極12とパイロットバーナ11との間は空気があって高抵抗なので、炎検出回路16によってフレームロッド電極13とパイロットバーナ11との間に電圧を印加してもその間に電流は流れない。一方、着火すると炎の中にイオンが存在するため、フレームロッド電極12とパイロットバーナ11との間の抵抗が下がり電流が流れる。炎検出回路16は、電圧を印加した際の電流の状況に基づいてパイロットバーナ11での炎の有無(着火しているか否か)を検出する。
【0032】
ガスコック17の入側にはガス供給源から燃焼ガスが供給されている。ガスコック17の出側にはガス管路18の一端が接続されている。ガス管路18の他端はガスノズル19になっており、パイロットバーナ11のガス流入口(入口部61、
図6参照)の中に挿入されている。ガスコック17は、ガスコック17より下流のパイロットバーナ11側に、燃焼ガスを供給するか遮断するかを切り替える。
【0033】
ガス管路18の先端のガスノズル19から射出された燃焼ガスと、該ガスノズルの周囲から流入する空気(1次空気)は、パイロットバーナ11内部のガス通路63を流れる間に混合され、混合ガスとなって、パイロットバーナ11の炎口から流出する。このとき、炎口の周囲の空気(2次空気)がさらに混合されて燃焼する(
図6参照)。
【0034】
制御回路21はイグナイタ駆動回路15の駆動を制御したり、炎検出回路16の検出値からパイロットバーナ11の着火状況を判定したりする。制御回路21、イグナイタ駆動回路15、炎検出回路16の電源は電池25(ここでは3Vを給電する)である。電池25から制御回路21、イグナイタ駆動回路15、炎検出回路16への給電はガス燃焼装置10の動作中だけ行われ、消火後は各部への給電が切断される。
【0035】
制御回路21には、器具栓つまみ24の位置に応じてオンオフする2個のスイッチ22が接続されており、ユーザが器具栓つまみ24を回して点火の操作を行った否か等を2個のスイッチ22のオンオフ状態の組み合わせによって検出する。
【0036】
器具栓つまみ24は、「止」、「口火」、「燃焼」の3つの位置に回動させることができる。「止」から「口火」の位置へ回すときは押し込みながら器具栓つまみ24を回し、「口火」と「燃焼」の間および「口火」から「止」の位置へ回すときは、押し込まずに離した状態で器具栓つまみ24を回すようになっている。
【0037】
ガス燃焼装置10におけるパイロットバーナ11の点火、メインバーナの燃焼、消火等の操作方法は以下の通りである。
【0038】
器具栓つまみ24を押し込みながら「止」から「口火」の位置に回すと、手動ガスコック17が開き、制御回路21がイグナイタ駆動回路15を駆動し、パイロットバーナ11が点火する。パイロットバーナ11が点火したことを制御回路21が判定して「点火」のランプを点灯させる。使用者がランプの点灯を確認したら器具栓つまみ24の押し込みを止める。器具栓つまみ24を「口火」の位置にしておけば、そのままパイロットバーナ11の口火が維持される。ガスコック17は手動なので、使用者の意図で開閉され、制御回路21は開閉に関与しない。
【0039】
器具栓つまみ24を「口火」から「燃焼」の位置にまわすと、メインバーナに燃焼ガスが供給され、パイロットバーナ11の口火から火移りしてメインバーナが点火する。器具栓つまみ24を「燃焼」から「口火」の位置に戻すとメインバーナが消火する。器具栓つまみ24を「口火」から「止」の位置に回すと、ガスコック17が閉じてパイロットバーナ11が消火する。
【0040】
なお、ガス燃焼装置10は、浴室内に設置されるバランス型の風呂釜などであり、通常の給湯器のように、バーナに向けて送風する燃焼ファンを備えていない。バランス型風呂釜は、燃焼の熱によって発生する自然ドラフト力を利用して給排気を行う。バランス型風呂釜に接続される専用給排気筒は、給排気口を近接させ、給気側に風が当たった場合には排気口にも同じ力を受けることで給排気がバランスし、前記自然ドラフト力のわずかな差圧のみで給排気が行われる。すなわち、給排気用の送風ファンを持たなくても、燃焼が出来る構造になっている。浴室内に設置するので、感電防止のために商用100Vを使用せずに、乾電池25の電力を使用している。
【0041】
図2は、イグナイタ駆動回路15の詳細を示す回路図である。イグナイタ駆動回路15は、電池25から供給されるDC3Vを、コンバータトランス31でAC100〜200Vに変換し、さらに、昇圧トランス32で、12〜15KVの昇圧し、該高電圧をイグナイタ電極12とパイロットバーナ11との間に印加する。イグナイタ駆動回路15は、スイッチ33が閉じて電池25から給電されると放電動作を行い、スイッチ33が開いて電池25からの給電がとまると放電動作を止めるようになっている。制御回路21は、スイッチ33の開閉を制御することで、イグナイタ駆動回路15を駆動するか否かを制御する。
【0042】
図3は、炎検出回路16の詳細の一例を示す回路図である。炎検出回路16は、電池25から供給されるDC3Vを、トランジスタ41でスイッチングしかつトランス42で100〜200Vに昇圧してフレームロッド電極13とパイロットバーナ11との間に印加する。さらに、フレームロッド電極13とパイロットバーナ11との間に流れる電流を電流検出回路43で検出し、その検出結果を制御回路21に出力する。
【0043】
イグナイタ駆動回路15を駆動してイグナイタ電極12から放電させているときに、炎がリフティングすると、イグナイタ電極12からの放電がフレームロッド電極13に飛ぶ現象が生じ得る。フレームロッド電極13に侵入した放電エネルギーは、炎検出回路16のトランス42の二次側から一次側へ誘導される。トランス42の一次側にはトランジスタ41が接続されているので、侵入してきた放電エネルギーが該トランジスタ41のコレクタ部分に電圧となって表れる。
【0044】
その際に発生する電圧は、トランジスタ41の絶対最大定格電圧(たとえば50V)を超える。イグナイタ電極12からフレームロッド電極13への放電により炎検出回路16内に放電エネルギーが繰り返し侵入すると、そのたびにトランジスタ41のコレクタに絶対最大定格を超える電圧が印加され、トランジスタ41の劣化が進行し、やがてトランジスタ41が破損し、炎の検知が出来なくなる。
【0045】
実際にパイロットバーナ11にリフト気味の炎がある状態でイグナイタ駆動回路15を駆動して放電させ、そのとき炎検出回路16のトランジスタ41のコレクタ部分に発生する電圧を測定したところ、約100Vであった。これはトランジスタ41の絶対最大定格電圧である50Vの2倍であり、該電圧を確認した直後にトランジスタ41は破損した。
【0046】
ところで、パイロットバーナ11の炎口から炎がリフティングするかどうかは、炎口から出る混合ガスのガス濃度に依存する。
【0047】
たとえば、ガス燃焼装置10を設置して最初に点火するときは、ガスコック17から下流の部分はすべて空気になっている。また、前回の燃焼停止から長時間が経過すると、パイロットバーナ11の内部およびガス管路18内の燃焼ガスがほとんど空気に置換されてしまう。このような状態でガスコック17を開くと、しばらくはパイロットバーナ11の炎口から出る混合ガスの濃度が非常に薄くなり、その後、過渡的にガス濃度が増して、正常な燃焼が得られる本来のガス濃度に達する。そして、ガス濃度が薄い状態でイグナイタ電極12から放電させると、点火した当初は炎がリフティングし、前述したようにトランジスタ41の破損に繋がる。
【0048】
本発明のガス燃焼装置10は、パイロットバーナ11の内部構造に改良を加えることで上記の問題を解決した。以下その点について説明する。
【0049】
図4は、本発明の実施の形態に係るパイロットバーナ11の外観を示す斜視図である。
図5はパイロットバーナ11の分解斜視図である。
図6は、パイロットバーナ11の内部構造を示す説明図である。
【0050】
図5に示すように、パイロットバーナ11は、ガス通路や炎口になる部分をプレス加工で凹ませた2枚の金属板51、52を、凹部の内面が向き合うようにして、かつその間に、ターゲット電極14および後述する仕切り壁64の機能を果たす金属片53を挟み込んで張り合わせて構成される。
【0051】
図6に示すように、パイロットバーナ11は、ガスノズル19が挿入され、ガスノズル19からのガスと空気が流入する入口部61と、複数の炎口が配列された出口部62と、入口部61から出口部62に至るガス通路63と、ターゲット電極14と、ガス通路63の内部を仕切る仕切り壁64を備えて構成される。ターゲット電極14は、出口部62が有する複数の炎口のうちの第1炎口65の近くに設けられている。また、出口部62が有する複数の炎口のうちの第2炎口66の真上にフレームロッド電極13が配置される。
【0052】
第2炎口66は、出口部62に配列された複数の炎口のうち、入口部61までの通路長が最も近い炎口である。第1炎口65は、第2炎口66に隣接する炎口である。仕切り壁64は、ガス通路63内で第1炎口65と第2炎口66を仕切ると共に、入口部61から流入したガスが遠回りをして、第2炎口66の反対側から第1炎口65に到達するように形成される。具体的には、仕切り壁64は、第2炎口66と第1炎口65との境界部から下方に少し延びた後、第2炎口66と反対側に曲がって第1炎口65下方を取り囲むように延設された略L字状の部材である。
【0053】
仕切り壁64は、入口部61から流入したガスが遠回りをして第1炎口65に向かうようにガスを案内し、入口部61から第1炎口65までの通路長(ガスの移動距離)を、入口部11から第2炎口66までの通路長より増加させて所定以上長くする役割を果たす。パイロットバーナ11では、入口部61から第2炎口66までの通路長は最短のL3であり、入口部61から第1炎口65までの通路長は、仕切り壁64の存在によりガスが遠回りをするため、最長のL4となっている。L4は、入口部61から直線距離で最も遠い第3炎口67までの通路長L5よりも長くなっている。
【0054】
ここで、本発明の実施の形態に係るパイロットバーナ11における仕切り壁64の作用を、仕切り壁64を備えていない従来のパイロットバーナと対比して説明する。
【0055】
図7は、仕切り壁64を備えていない従来のパイロットバーナ131の一例を示している。パイロットバーナ131は、本実施の形態に係るパイロットバーナ11から仕切り壁64を取り去ったものであり、その他の構成は本実施の形態に係るパイロットバーナ11と同一である。
図7では、本実施の形態に係るパイロットバーナ11と同一箇所に同一の符号を付してある。
【0056】
図8は、従来のパイロットバーナ131を点火する際の第1炎口65におけるガス濃度の変化を示している。縦軸はガス濃度、横軸はガスノズル19からガスが流入し始めてからの時間である。初期状態は、パイロットバーナ131の内部がすべて空気で満たされているものとする。
【0057】
ガスノズル19から入口部61内へガスを送り込み始めると、第1炎口65でのガス濃度は時間の経過とともに次第に上昇する。当初は、第1炎口65におけるガス濃度が点火下限ガス濃度より低いため、イグナイタ電極12から放電があっても点火しない。この期間を不点火ゾーンとする。
【0058】
やがて、第1炎口65におけるガス濃度が点火下限ガス濃度を超えると着火するが、そのときのガス濃度はまだ低いため、炎のリフティングが生じる。点火からしばらくすると、第1炎口65におけるガス濃度がリフト下限ガス濃度を超えるようになり、炎のリフティングが生じなくなる。ガス濃度が点火下限ガス濃度を超えてからリフト下限ガス濃度未満にある期間をリフト火炎ゾーン、ガス濃度がリフト下限ガス濃度以上になった後を安全火炎ゾーンとする。
【0059】
従来のパイロットバーナ131では、入口部61から第2炎口66までの通路長L3と、入口部61から第1炎口65までの通路長L6(
図7参照)の差がほとんどないので、第2炎口66におけるガス濃度の変化は、
図8に示した第1炎口65におけるガス濃度の変化とほぼ同じになる。そのため、イグナイタ電極12からの放電を受けて第1炎口65でガスが点火したら、すぐに第2炎口66から出るガスに火移りし、第1炎口65の炎と第2炎口66の炎が共にリフティングした状態になる。このような状態になる結果、点火後も継続されるポストイグニッション中に、イグナイタ電極12からの放電がフレームロッド電極13に飛んでしまい、炎検出回路16の素子(特に、
図3のトランジスタ41)がダメージを受けてしまう。
【0060】
図9は、仕切り壁64を有する本実施の形態に係るパイロットバーナ11におけるガス濃度の変化を示している。縦軸はガス濃度、横軸はガスノズル19からガスが流入し始めてからの時間である。初期状態は、パイロットバーナ11の内部がすべて空気で満たされているものとする。図中の実線のグラフは第2炎口66でのガス濃度の変化を示し、一点破線のグラフは第1炎口65でのガス濃度の変化を示している。
【0061】
本実施の形態に係るパイロットバーナ11では、入口部61から第1炎口65に至るガスは、仕切り壁64の存在により遠回りをするので、従来のパイロットバーナ131に比べて点火のタイミングが遅れる。そのため、第1炎口65から出るガスの濃度が火下限ガス濃度を超えて第1炎口65でガスが点火した時には、第2炎口66から出るガスの濃度が既にリフト下限濃度を超えた状態になる。よって、イグナイタ電極12からの放電を受けて第1炎口65でガスが点火したとき、第1炎口65の炎はリフティングするが、この炎から火移りして直ぐに燃え始める第2炎口66の炎はリフティングしない。その結果、ポストイグニッションによるイグナイタ電極12からの放電は、炎を通じて第2炎口66の近くのパイロットバーナ11の金属部分に飛ぶようになり、フレームロッド電極13に飛ぶ事態が回避される。
【0062】
パイロットバーナ11では、仕切り壁64を設けたことで、パイロットバーナ11のガス通路63内が全て空気の状態でガスノズル19からガスを送り込んだ場合に、第1炎口65から出るガスのガス濃度が点火下限ガス濃度に到達した時点で、第2炎口66から出るガスのガス濃度が既にリフト下限ガス濃度以上になるように、入口部61から第1炎口65までの通路長L3と入口部11から第2炎口66までの通路長L4との差が生じている。
【0063】
なお、パイロットバーナ11が有する仕切り壁64は、入口部61から第1炎口65に至るガスを遠回りさせて、入口部61から第1炎口65までの通路長を拡大するものであり、ガスの流れが均一になるように、ガスの流れに抵抗を与えて整流するものではない。
【0064】
仕切り壁64の形成方法を例示する。従来のパイロットバーナ131においては、ターゲット電極を形成するために
図10(a)に示すような金属片56を、同図(b)に示すように、ガス通路や炎口になる部分をプレス加工で凹ませた2枚の金属板51、52の間に挟み込んでいた。
【0065】
そこで、この金属片56を、
図5に示す金属片53に置き換えれば、仕切り壁64をパイロットバーナ11の中に取り付けることができる。
図11は、ターゲット電極14と仕切り壁64の機能を備えた金属片53の構成例を示す。仕切り壁64を形成すべき範囲に対応して従来の金属片56の下部を拡張したベース板53aの両側に、仕切り壁64の形状を成した金属製の縁片53bをそれぞれ接合して金属片53を形成する。この金属片53を、ガス通路や炎口になる部分をプレス加工で凹ませた2枚の金属板51、52の間に挟み込むと、縁片53bの部分が、2枚の金属板51、52の内側に当接してガス通路63を仕切る仕切り壁64となる。
【0066】
上記のような方法で仕切り壁64を設ければ、従来のパイロットバーナ131と同様の金属板51、52を流用して本実施の形態に係るパイロットバーナ11を製作することができ、ガス通路63や炎口になる部分にさらに仕切り壁64になる部分をプレス加工で凹ませた金属板を新たに製作する必要がなく、改良のための費用を少なく抑えることができる。
【0067】
このように実施の形態に係るパイロットバーナ11およびガス燃焼装置10によれば、パイロットバーナ11の内部構造を改良することで、ポストイグニッション中に炎のリフティングが生じて、イグナイタ電極12からの放電がフレームロッド電極13に飛んで炎検出回路16を損傷する現象を回避することができる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は実施の形態に示したものに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0069】
実施の形態では、ガス燃焼装置10は、バランス型の風呂釜として説明したが、これに限定されない。パイロットバーナ11を有するガス燃焼装置であればよい。また、パイロットバーナ11の形状や仕切り壁64の形状は、実施の形態で例示したものに限定されない。たとえば、入口部61から第1炎口65に向かうガスが、ジグザグに進んで遠回りするような仕切り壁を設けてもかまわない。