特許第6675551号(P6675551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6675551-撥水膜付き基材の製造方法及び製造装置 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675551
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】撥水膜付き基材の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20200323BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   C09K3/18 104
   C23C16/42
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-224216(P2015-224216)
(22)【出願日】2015年11月16日
(65)【公開番号】特開2017-88811(P2017-88811A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敦司
(72)【発明者】
【氏名】長谷 要
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 永宏
(72)【発明者】
【氏名】上野 智永
(72)【発明者】
【氏名】ブラテスク マリア
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−012285(JP,A)
【文献】 特開2014−173150(JP,A)
【文献】 特開2008−306182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
B32B 1/00− 43/00
C23C16/00− 16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスのプラズマ中に置かれた基材に対し撥水膜材料が導入されることで、プラズマ化学気相成長法により前記基材の表面に撥水膜を形成する方法であって、
前記撥水膜材料は有機シランであり、
前記不活性ガスは、高周波電源により前記プラズマとなり、
前記高周波電源は、平行平板型の電極対により前記不活性ガスに作用し、
前記電極対は、電極の直径の5分の1以上離れており、
前記電極対に対し、正極から負極へのバイアス電場が付与される
ことを特徴とする撥水膜付き基材の製造方法。
【請求項2】
前記有機シランは、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルジシロキサン、若しくはトリメチルメトキシシラン、又はこれらの組合せである
ことを特徴とする請求項1に記載の撥水膜付き基材の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリウムガス、若しくはキセノンガス、又はこれらの組合せである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の撥水膜付き基材の製造方法。
【請求項4】
更に、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、若しくは水素ガス、又はこれらの組合せである反応制御ガスが導入される
ことを特徴とする請求項1ないしは請求項3の何れかに記載の撥水膜付き基材の製造方法。
【請求項5】
内部に基材が配置されるチャンバと、
前記チャンバ内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入手段と、
平行平板型の電極対を介して前記不活性ガスに高周波を作用させることで前記不活性ガスをプラズマ化させるプラズマ化手段と、
前記チャンバ内に有機シランを導入する材料導入手段と、
前記電極対に対し、正極から負極へのバイアス電場を形成するバイアス付与手段と、
を備えており、
前記電極対は、電極の直径の5分の1以上離れている
ことを特徴とする撥水膜付き基材の製造装置。
【請求項6】
前記有機シランは、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルジシロキサン、若しくはトリメチルメトキシシラン、又はこれらの組合せである
ことを特徴とする請求項5に記載の撥水膜付き基材の製造装置。
【請求項7】
前記不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリウムガス、若しくはキセノンガス、又はこれらの組合せである
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の撥水膜付き基材の製造装置。
【請求項8】
更に、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、若しくは水素ガス、又はこれらの組合せである反応制御ガスを導入する反応制御ガス導入手段を備えている
ことを特徴とする請求項5ないしは請求項7の何れかに記載の撥水膜付き基材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズや自動車部品や建築資材等の基材の表面に対し撥水性を有する膜である撥水膜が付与された撥水膜付き基材、並びにその製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水膜付き基材の製造方法として、下記特許文献1に記載の方法が知られている。この方法では、当該文献の[0028]に記載されているように、有機ケイ素化合物を、平均粒径が10nm(ナノメートル)〜2000nmの超微粒子の形態のシリカ化合物として、基材上に堆積させる。かかる堆積には、プラズマを用いた化学気相成長法(プラズマCVD法)が用いられ、プラズマの発生では、有機ケイ素化合物の堆積の場合、膜をなるべく平滑にするために従来採用されていたマイクロ波プラズマ(特に周波数2.45GHz(ギガヘルツ)のマイクロ波プラズマ)がそのまま用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−152389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、マイクロ波プラズマが用いられるため、プラズマの発生にコストや時間がかかるし、プラズマを発生するためのアンテナが大きくなって撥水膜の製造装置が大きくなってしまうし、アンテナが大きい割に照射面積が小さくてプラズマを広範囲で均一に行き渡らせ難く、基材(に形成される撥水膜)がせいぜい100mm(ミリメートル)四方の小さなものとなってしまう。又、超微粒子の形態のシリカ化合物が基材上に堆積されることで基材に凹凸のある撥水膜を形成して撥水性を付与することができるが、超微粒子が多数重畳して堆積する構造であるが故に当該構造の長期的な維持に課題が存在するものと考えられ、撥水膜の耐久性に向上の余地があるものとなっている。
【0005】
本発明の主な目的は、撥水性とその耐久性に優れた撥水膜が付与された比較的に大きな撥水膜付き基材を、製造装置のコンパクト化が可能な状態で製造可能である撥水膜付き基材の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、撥水膜付き基材の製造方法にあって、不活性ガスのプラズマ中に置かれた基材に対し撥水膜材料が導入されることで、プラズマ化学気相成長法により前記基材の表面に撥水膜を形成する方法であって、前記撥水膜材料は有機シランであり、前記不活性ガスは、高周波電源により前記プラズマとなり、前記高周波電源は、平行平板型の電極対により前記不活性ガスに作用し、前記電極対は、電極の直径の5分の1以上離れており、前記電極対に対し、正極から負極へのバイアス電場が付与されることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、上記発明にあって、前記有機シランは、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルジシロキサン、若しくはトリメチルメトキシシラン、又はこれらの組合せであることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、上記発明にあって、前記不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリウムガス、若しくはキセノンガス、又はこれらの組合せであることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、上記発明にあって、更に、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、若しくは水素ガス、又はこれらの組合せである反応制御ガスが導入されることを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するため、請求項5に記載の発明は、撥水膜付き基材の製造装置にあって、内部に基材が配置されるチャンバと、前記チャンバ内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入手段と、平行平板型の電極対を介して前記不活性ガスに高周波を作用させることで前記不活性ガスをプラズマ化させるプラズマ化手段と、前記チャンバ内に有機シランを導入する材料導入手段と、前記電極対に対し、正極から負極へのバイアス電場を形成するバイアス付与手段と、を備えており、前記電極対は、電極の直径の5分の1以上離れていることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、上記発明にあって、前記有機シランは、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルジシロキサン、若しくはトリメチルメトキシシラン、又はこれらの組合せであることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、上記発明にあって、前記不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリウムガス、若しくはキセノンガス、又はこれらの組合せであることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、上記発明にあって、更に、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、若しくは水素ガス、又はこれらの組合せである反応制御ガスを導入する反応制御ガス導入手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、撥水性とその耐久性に優れた撥水膜が付与された比較的に大きな撥水膜付き基材を、製造装置のコンパクト化が可能な状態で製造可能である撥水膜付き基材の製造方法及び製造装置を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る撥水膜付き基材の製造装置の模式的な縦断面図である。
図2】本発明に係る撥水膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施の形態の例が、適宜図面に基づいて説明される。なお、本発明の実施の形態は、これらの例に限定されない。
【0012】
本発明に係る撥水膜付き基材は、所定の撥水膜用蒸着材料が基材に対して蒸着されることで製造される。撥水膜用蒸着材料は、有機シランであり、例えばヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルメトキシシラン、テトラメチルジシロキサン、テトラメチルシラン、あるいはこれらの組合せが挙げられる。特に、これらの内の前三者あるいはそれらの組合せが、後述する撥水膜(撥水構造)をより容易に形成可能であることから好ましい。
【0013】
基材は、表面に撥水性を付与したいものであれば何れのものでも良く、例えば、眼鏡(サングラスを含む)やカメラや望遠鏡や双眼鏡等のレンズやフィルタ、建物や車等のガラス、建物の外壁、製品の外枠、車載用や姿見用の鏡、各種のカバーが挙げられる。ここで、カメラは、スチルカメラであってもビデオカメラであっても良いし、監視用であっても、車載用(バックモニタ用を始めとする視覚確保用や運転支援システムにおける画像認識用)であっても、ナイトビジョン(暗視)用であっても、これらの組合せ等の複数の用途を有するものであっても良い。
【0014】
基材に対する撥水膜の蒸着は、成膜後の撥水性や密着性(耐久性)を良好にしながらより広範囲で成膜する観点から、有機シランの蒸着であっても高周波(RF)を用いたプラズマCVD法により行われる。RFの周波数は、マイクロ波の周波数より小さく、およそ300MHz(メガヘルツ)以下であり、又およそ10kHz(キロヘルツ)以上であるが、規制の関係から、RF周波数として13.56MHzが一般に選択される。尚、RFには超短波(VHF;およそ30MHz以上300MHz以下)が含まれるが、これが除かれても良いし、VHFのみとされても良いし、その他の一部の波長領域とされても良い。又、基材と撥水膜は直接接触していても良いし、間に1又は複数の中間膜が配置されていても良い。更に、撥水膜の上(空気側)に1又は複数の表面膜が配置されていても良い。
【0015】
図1は、かような蒸着により撥水膜付き基材を製造する製造装置1を示す、模式的な中央縦断面図である。製造装置1は、チャンバ部2と、ガス導入手段4と、プラズマ化手段6と、冷却水導入手段8と、排気手段10と、接地手段12と、バイアス付与手段14を備えている。
【0016】
チャンバ部2は、チャンバ20と、チャンバ20内の上面円形の台22と、台22の上方に配置された傘24と、台22の上面の周囲に配置された環状のシャワー板26と、シャワー板26ないし台22上部の下方に配置された環状の排気補正板28を備えている。台22には、基材としての基板Bが載置され得る。尚、チャンバ20内の圧力を検知する、図示しない圧力センサが配置されている。
【0017】
ガス導入手段4は、ガスライン30を介して傘24に接続されたマスフロー制御部32及び蒸着材料導入手段34を備えている。マスフロー制御部32は、マスフロー制御ボックス36と、弁38と、不活性ガスとしてのアルゴン(Ar)ガスのタンクや、反応制御ガスとしての炭酸(CO)ガスのタンクを有しており、不活性ガス導入手段や反応制御ガス導入手段としての役割を担っている。材料導入手段34は、蒸着材料ケース40と、ニードルバルブ42と、ストッパー44を備えている。傘24の下部には、下方の台22の上面全体へ向けて開放された開口部46と、電極48が配置されている。開口部46は、ガスライン30とつながっている。電極48は正極であり、又台22の上面には電極(負極)が配置されており、これらは平行に配置されて平行平板型の電極対となっている。尚、Arガスは導入されなくても良いし、Arガスに代えて、あるいはArガスと共に、ヘリウムガスやキセノンガス、又はこれらの組合せが導入されるようにしても良い。又、COガスは導入されなくても良いし、COガスに代えて、又はCOガスと共に、窒素(N)ガス、酸素(O)ガス、水素(H)ガス、あるいはこれらの組合せが導入されても良い。更に、不活性ガス導入手段と反応制御ガス導入手段は、互いに独立した手段とされても良い。
【0018】
プラズマ化手段6は、電線50を介して傘24に接続されたRFプラズマ電源52を有している。RFプラズマ電源52は、周波数が13.56MHzであるRFを傘24の電極48に付与可能である。プラズマ化手段6(特にRFプラズマ電源52)は、マイクロ波に係るものに比べコンパクトであり、又電極48を介してガスをプラズマ化させるためのエネルギーが比較的に少なくて済み、更にプラズマが十分に行き渡る範囲をより広くすることができ、RFを用いたプラズマ化手段6により、電極48が比較的に広く形成され得、成膜可能な基板Bの大きさがより広くなる。加えて、電極48(正極)の台22上面(負極)に対する距離は、従来電場の強さや基板Bへの作用の直接性に鑑みて、なるべく近いもの(電極の直径の5分の1未満)とされていたところ、製造装置1では電極48の直径の4分の1程度と離されている。尚、電極48と台22上面は平行である(平行平板型電極)。
【0019】
冷却水導入手段8は、冷却水Cをチャンバ20や傘24に導入する冷却水管54を備えている。尚、ガスライン30や電線50、冷却水管18を覆う電磁波シールド56が配置されている。
【0020】
排気手段10は、バタフライ弁60を有する排気管62と、排気管62を介してチャンバ20に接続されたMBP(メカニカルブースターポンプ)64及びRP(ロータリーポンプ)66を有している。接地手段12は、台22に対し電線70を介して接続された接地電極72を備えている。バイアス付与手段14は、チョークコイル80を有する電線82と、電線82を介して台22に接続された直流のバイアス電源84を備えている。尚、電線70,82やチョークコイル80を覆う電磁波シールド86が配置されている。
【0021】
次いで、製造装置1の動作例(製造装置1による製造方法の例)が説明される。尚、製造装置1は、図示しない制御手段(例えば一又は複数のコンピュータ)を有しており、当該制御手段によって製造装置1(の各種部分)の作動が制御される。
【0022】
まず、洗浄した基材Bがチャンバ20内の台22の上(中央)に載せられ、蒸着材料ケース40にヘキサメチルジシランがセットされる。次に、バタフライ弁60が開放された状態でMBP64及びRP66が作動され、チャンバ20内が5Pa(パスカル)程度となるまで減圧(真空引き)される。続いて、マスフロー制御ボックス36によりArガスがガスライン30を規定流量(25sccm(standard cubic centimeter per minute))で導入され、排気量が一定にされつつ、バタフライ弁60が絞られてチャンバ20内が85Paになるように調整される。
【0023】
更に、マスフロー制御ボックス36により、Arガスが成膜時の到達圧力(100Pa)までガスライン30を介してチャンバ20内に導入され、又成膜に係る反応調整のためにCOガスが同様に25Pa導入される。チャンバ20内の圧力が安定したら、交流のRFプラズマ電源52(100W(ワット))と、直流のバイアス電源84(100W)が作動される。RFプラズマ電源52の作動により、傘24の電極48を通じてチャンバ20内のガスがプラズマ化する。又、バイアス電源84の作動により、傘24の電極48から台22にかけて模式的な電気力線が下向きとなる電場Eが発生する。ここで、交流のRFプラズマ電源52の作動が阻害されないようにするため、チョークコイル80により、バイアス電源84による電流が、RFプラズマ電源52の周期に同調して断続的に遮断される。即ち、RFプラズマ電源52による電場の向きが下方である時に合わせてバイアス電源84による電圧が印加されて同方向の電場Eが生じるようにされ、RFプラズマ電源52による電場の向きがバイアス電源84による電場Eの方向と逆となり得るタイミングではバイアス電源84による電流が遮断されてバイアス電源84による電場Eが生じないようにされる。尚、直流のバイアス電源84は、RFプラズマ電源52によるRFと同じ周波数のパルス波とみることもできる。
【0024】
そして、材料導入手段34のストッパー44が開放され、ニードルバルブ42によって蒸着材料ケース40内のヘキサメチルジシランがガスライン30を介してチャンバ20内に30Pa導入される。ヘキサメチルジシランは、まず傘24の開口部46の全体に亘って均等に下方に流れ(矢印G1)、プラズマの作用を受けつつ台22により広がり(矢印G2)、基板Bの上面においてプラズマ重合反応により徐々に膜と成る(プラズマCVD)。当該膜は、かような蒸着環境(チャンバ20内の状況)により、微細な粒が1〜3層程度重なった状態で形成され、基板Bの面の各部分における粒の有無や重畳数の相違により凹凸構造を有するように形成される。又、各種のガスや成膜に用いられなかったヘキサメチルジシランは、シャワー板26を通じて台22の下部の周囲に入り(矢印G3)、排気補正板28によって流れを調整されながら排気手段10に向かい排気される(矢印G4)。
【0025】
ヘキサメチルジシランは所定時間だけ供給された後ストッパー44により供給を停止され、プラズマCVDによる成膜が完成時の膜厚に応じて所定時間だけ行われる。その後、バイアス電源84及びRFプラズマ電源52が停止され、各種ガスの供給が停止される。そして、特定時間だけ排気手段10を作動させてチャンバ20内の排気を行った後、チャンバ20内が大気圧に戻され、チャンバ20の図示しない扉から凹凸構造の膜の付いた基板Bが回収される。
【0026】
又、製造装置1には、図示しない表面処理装置(表面処理手段)が付加されても良い。表面処理装置は、コーティング装置(コーティング手段)、あるいはコーティング装置とエッチング装置(エッチング手段)を有する。エッチング装置を有する場合、凹凸撥水膜付きの基板Bはエッチング装置に投入され、その後コーティング装置に投入される。尚、撥水膜には、凹凸撥水膜と、凹凸撥水膜にコーティング(表面撥水膜)の施されたものが含まれる。
【0027】
エッチング装置は、基材の凹凸撥水膜をエッチング可能であれば何れのものでも良いが、チャンバ内に導入されたOガスに対してRFプラズマ電源を作用させることにより発生したプラズマ(酸素プラズマ)に所定時間晒してエッチングするものが好ましい。例えば、凹凸撥水膜付きの基板Bがエッチング装置のチャンバ内に投入され、Oガス60Paが導入され、RFプラズマ電源200Wによりプラズマ化され、酸素プラズマに40秒晒される。
【0028】
コーティング装置は、凹凸撥水膜の凹凸表面に沿った状態で平滑な表面撥水膜をコーティングする。コーティング装置は、凹凸撥水膜付きの基材を撥水剤(溶液)に浸漬するもの(ディップ)であっても良いし、凹凸撥水膜の中央に撥水剤(溶液)を載せた状態で基材が回転されるようにして撥水剤が広がるようにするもの(スピンコート)であっても良い。撥水剤(コーティング剤)は、撥水性を有するものであれば何れのものであっても良いが、好ましくは有機シラン、特に有機フッ素シランであり、より好ましくは、特開2004−145283号公報に記載のパーフルオロポリアルキレンエーテル変性シランである。コーティング装置は、更に加熱手段(乾燥手段)を備えても良い。又、コーティング装置は、更に撥水膜付き基材の洗浄手段を備えても良い。
【実施例】
【0029】
本発明に属する実施例が以下に示される。但し、実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。尚、本発明の捉え方によって、下記の実施例の一部が、実質的には本発明に属さない比較例となり得る。
【0030】
≪実施例1−1〜1−2≫
実施例1−1として、上述した製造装置1(表面処理装置なし)の動作例(数値の示された具体例)の通りに凹凸撥水膜付き基板Bが作成された。又、実施例1−2として、上述した製造装置1(エッチング装置及びコーティング装置あり)の動作例の通りに撥水膜付き基板Bが作成された。実施例1,2の基板Bは、何れも度数−3.00D(ディオプター)、アッベ数40のポリウレタン系樹脂製のプラスチック眼鏡レンズ(直径75mm、屈折率1.60)であり、撥水膜蒸着前において表面にオルガノポリシロキサン系のハードコート(膜厚およそ2.0マイクロメートル)が付与されている。実施例2における撥水剤は、パーフルオロポリアルキレンエーテル変性シラン(信越化学工業株式会社製KY−130)であり、コーティングは室温下でのディップ法により、撥水剤溶液の溶媒はフッ素系溶剤(ハイドロフルオロエーテル混合物;3M社製HFE7200)であり、その濃度は0.10重量%であり、凹凸撥水膜付き基板Bの全体浸漬状態からの引上げ速度は毎分200mmである。又、実施例2において、コーティング後に、撥水膜付き基板Bが、100℃の乾燥チャンバ内に30分間入れられて加熱(乾燥やコーティング剤に係る化学修飾)され、更に洗浄剤(メタノール)によって洗浄された。
【0031】
実施例1−1,1−2の撥水膜付き基板Bについて、それぞれ紫外可視分光光度計によって、視感度透過率が測定された。又、撥水膜の撥水性と撥油性に関し、撥水膜上に純水やオレイン酸(何れも2マイクロリットル)を滴下し、接触角計によってそれぞれの接触角が計測された。各測定結果に関する表1が次に示される。
【0032】
【表1】
【0033】
表1によれば、実施例1−1,1−2の視感度透過率は順に84.4%,85.6%であり、眼鏡レンズとして十分に使用可能なものとなっている。実施例1の視感度透過率より実施例2の視感度透過率が高い理由としては、エッチングにより凹凸撥水膜の膜厚が僅かに減少したことや、エッチングないしコーティングにより表面が整えられたことが考えられる。
【0034】
又、実施例1−1,1−2の純水接触角は順に133.2°,132.5°であり、極めて高い撥水性を示している。一般に、純水接触角がおよそ118°以上となる状態を超撥水と称しており、実施例1−1,1−2は何れも超撥水性を呈している。実施例1−1,1−2では、撥水面に付着した水は球状になり、基板Bが傾いていれば流れていく。
【0035】
他方、実施例1−1,1−2の油接触角は順に44.3°,72.7°であり、何れも高い撥油性を示しており、特に実施例2は極めて高い撥油性を呈している。かような撥油性により、撥水性と相まって、基板Bに汚れが付着したとしても、軽く拭き取るか水で流すだけで容易に除去することができる。
【0036】
更に、実施例1−1の基板Bに形成された凹凸撥水膜について、走査型電子顕微鏡(SEM)で取得した画像が、図2に示される。当該凹凸撥水膜は、平均直径200nm程度でその前後20nm内に直径がほぼ(9割以上)収まる粒の群(集合体)となっている。又、全体の膜厚が約600nmである。よって、基板Bの表面において、粒が載っていない部分と、1個載っている部分と、2個重なって載っている部分と、3個重なって載っている部分と、これらの何れかの中間状態となっている部分とが混在しているような構造となっている。粒の重畳高さの相違する部分の間隔は、平均粒径の1〜5倍程度である。かような構造は、上記した先行技術文献(特許文献1)の図1,2A〜2D,6〜8,9A〜9Bに示された微細凹凸構造と異なり、全体膜厚(平均膜厚)が比較的に薄く、粒の重畳数も比較的に少ないために、優れた撥水性(撥油性)を呈しながら、十分な耐久性をも備えることとなり、例えば日常的に繰り返される拭き取りに対しても剥がれを殆ど生じないものとしたり(耐摩耗性の向上)、硬い物に接触しても構造を維持したり(表面硬度の向上)することができる。尚、基板Bの保護やより良好な撥水性の付与の観点から、基板Bの表面において粒が載っていない部分は存在しないことが好ましい。
【0037】
又、部分的に粒が4個あるいはそれ以上載っていても良いが、大部分(過半)の面積において粒が4個以上載るようになると、粒間の結合が比較的に弱くなって耐久性に劣ることとなる。従って、撥水膜の平均膜厚は、粒が3個以下で重畳した場合を考慮して、平均粒径の3倍以下であることが好ましい。他方、凹凸構造の維持や優れた撥水性の観点から、撥水膜の平均膜厚は、平均粒径の2倍以上であることが好ましい。そして、粒の大きさ(平均粒径)は、10nm未満となると粒の群として形成することが困難であることから10nm以上であることが好ましく、1000nmを超えると比較的に弱い粒間の結合となって耐久性に劣ることから1000nm以下であることが好ましい。
【0038】
かような凹凸構造は、製造装置1(製造方法)の各種の特徴により、容易に形成される。即ち、プラズマ電源がRFプラズマを発生させるため、マイクロ波プラズマに比べ、粒を大きくすることができ、又蒸着材料の架橋化をより促進して耐久性を向上することができる。更に、電極48(正極)や台22上面(負極)は平行平板型であり、これらの距離は電極の直径の5分の1以上(約4分の1)であるため、撥水膜が平坦に成り難く、10nm以上1000nm以下の粒が成長するようになる。電極間距離は、電極の直径の5分の1以上であれば、蒸着材料が粒として形成され易くなるが、大きすぎるとプラズマを発生するための電力が多大なものとなり、この観点からは電極の直径の2分の1以下であることが好ましい。
【0039】
又、不活性ガスであるArガスが導入され高周波によりプラズマ化されるため、凹凸撥水膜の薄膜化が促進される。更に、COガスの導入により、触媒として蒸着材料の架橋化が促進され、粒間の結合力が高められて、凹凸撥水膜の耐久性が向上する(反応制御ガス)。かような触媒(反応制御)作用は、Nガス、Oガス、Hガス、あるいはこれらの組合せによってもなされる。加えて、バイアス付与手段14により、電極間において同一方向の電場E(バイアス電場)が形成されるため、凹凸構造であっても撥水膜の密度が高まり、撥水膜がより一層硬質化して撥水膜の耐久性が向上する。
【0040】
≪実施例2−1〜2−8≫
実施例1−1と同様の凹凸撥水膜のみの撥水膜が、その粒の平均の直径(平均粒径)が様々なものとなる状態で8種類作成された(実施例2−1〜2−8;平均粒径100〜600nm)。Arガスの導入圧は100Paであって流量は平均粒径に応じ15sccm以上45sccm以下の範囲における所定値であり、COガスの導入圧は25Paであり、ヘキサメチルジシランの導入圧は平均粒径に応じ30Pa以上120Pa以下の範囲における所定値である。又、RFプラズマ電源52の出力は平均粒径に応じ60W以上100W以下の範囲における所定値であり、成膜時間(蒸着材料の導入時間)は平均粒径に応じ6分間以上18分以下の範囲における所定値である。次の表2に、実施例2−1〜2−8に係る平均粒径と純水接触角と透過率(可視域)の関係が示される。
【0041】
【表2】
【0042】
表2によれば、大局的には、平均粒径が大きいほど、接触角が増大して撥水性が高まり、透過率が低減してレンズとしては比較的に見難いものとなる。かような平均粒径の範囲では、平均粒径が大きいほど水が入り込めないこと、又平均粒径が大きいほど粒に散乱され易いことによるものと考えられる。加えて、平均粒径が大きいほど、各粒間や粒と基板間の密着性がより良いものとなり、耐久性が向上する。そして、平均粒径が50ナノメートル以上200ナノメートル以下であれば、優れた撥水性を呈しながら、眼鏡等のレンズにおいて十分な視感度透過率(およそ80%以上)を確保することができる。尚、接触角は、実施例2−1で最小値となり、実施例2−4で最大値となり、実施例2−6で小さい極大値となり、実施例2−8で最大値に近い極大値となっているが、これは接触角測定の際に滴下する純水の量(表面張力)と、その量(表面張力)に対する凹凸構造の大きさ(凸部と凸部の間隔)に関係しているものと考えられる。見方によっては、実施例2−4は優れた撥水性と良好な透過率の両立が顕著に図れている。
【0043】
≪実施例3−1〜3−7≫
電極間距離を可変とした製造装置1において、実施例1−1と同様の凹凸撥水膜のみの撥水膜が、電極間距離を様々なものとした状態で7種類作成された(実施例3−1〜3−7;電極間距離30〜85mm)。Arガスの導入圧は100Paであって流量は電極間距離に応じ15sccm以上45sccm以下の範囲における所定値であり、COガスの導入圧は25Paであり、ヘキサメチルジシランの導入圧は60Paである。又、RFプラズマ電源52の出力は60Wであり、成膜時間は6分間であり、電極の直径は200mmである。次の表3に、実施例3−1〜3−7に係る電極間距離と純水接触角と透過率(可視域)の関係が示される。
【0044】
【表3】
【0045】
表3によれば、大局的には、電極間距離が大きいほど、接触角が増大して撥水性が高まり、透過率が低減してレンズとしては比較的に見難いものとなる。そして、実施例3−1(電極間距離が電極直径の15%)では、超撥水の基準である純水接触角118°に遠く及ばない。これに対し、実施例3−2〜3−7(電極間距離が電極直径の20〜42.5%)では、超撥水に迫っておりあるいは超撥水を呈している(純水接触角が110°以上である)。よって、電極間距離が電極直径の5分の1以上とされる(粒の成長を促して優れた撥水性を付与する)発明からすれば、実施例3−1はこの発明に属さない比較例となる。尚、超撥水状態に近接している(純水接触角が116°以上である)実施例3−3の電極間距離以上とする(電極間距離が電極直径の4分の1以上とする)ことがより好ましく、超撥水となっている実施例3−4の電極間距離以上とする(電極間距離が電極直径の100分の55以上とする)ことが更に好ましい。
【0046】
≪実施例4−1〜4−4≫
実施例3−4(凹凸撥水膜の純水接触角約120°)に対して、実施例1−2と同様に有機シランのコーティングが施されるようにし、凹凸撥水膜の上に表面撥水膜が配置されるようにした。コーティングにおける撥水剤溶液の濃度が変えられることで(0.01〜1.00重量%)、4種類作成された(実施例4−1〜4−4)。次の表4に、実施例4−1〜4−4に係る電極間距離と純水接触角とオレイン酸接触角と外観の関係が示される。ここで、外観の欄において、洗浄剤における洗浄後の目視の観察で成膜斑が認められる場合に「×」が示され、斑が認められず均一な外観となっている場合に「○」が示される。
【0047】
【表4】
【0048】
表4によれば、実施例4−1では、撥水剤溶液の濃度が薄すぎて純水接触角やオレイン酸接触角が比較的に小さく、撥水性や撥油性が比較的に劣る。他方、実施例4−4では、撥水剤溶液の濃度が濃すぎて斑が発生してしまっており、純水接触角やオレイン酸接触角(撥水性や撥油性)は実施例4−2,4−3に比べて低下している。撥水性や撥油性の低下は、コーティングによって凹凸構造を均してしまうことによるものと考えられる。よって、実施例4−2,4−3が、好ましい撥水剤溶液の濃度によって表面撥水膜を配置されたものと言える。
【符号の説明】
【0049】
1・・製造装置、6・・プラズマ化手段、14・・バイアス付与手段、20・・チャンバ、22・・台、32・・マスフロー制御部(不活性ガス導入手段,反応制御ガス導入手段)、34・・材料導入手段、48・・電極、B・・基板(撥水膜付き基材)。
図1
図2