(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6675555
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】Pt合金パイプの製造方法
(51)【国際特許分類】
B23P 15/00 20060101AFI20200323BHJP
A61M 25/098 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
B23P15/00 Z
A61M25/098
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-195714(P2019-195714)
(22)【出願日】2019年10月28日
【審査請求日】2019年10月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】福原 幹推
(72)【発明者】
【氏名】谷田部 志春
(72)【発明者】
【氏名】細谷 公崇
(72)【発明者】
【氏名】長本 真明
【審査官】
山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−50658(JP,A)
【文献】
特開平5−31632(JP,A)
【文献】
特開平3−258209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 13/00−15/52,
A61F 2/82−2/97,
A61M 25/00−29/04,35/00−36/08,
37/00,99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pt合金板をロールで丸め側面部を突合せ溶接してPt合金パイプを作製する造管工程と、
前記Pt合金パイプの内側に前記合金パイプの2倍以上の硬さを有する芯金線を挿入して前記芯金線を変形させないで伸管することと、前記Pt合金パイプ外面に複数ロールで複数方向から圧力を加えてから前記芯金線を引き抜くことを2回以上繰り返す伸管工程と、
前記伸管されたPt合金パイプを所定の長さにする切断工程と、
切断した前記Pt合金パイプの研磨工程と、
を含むことを特徴とするPt合金パイプの製造方法。
【請求項2】
前記伸管工程における2回目以降の伸管時のPt合金パイプの内径と前記芯金線の外径の寸法差は、前回の伸管時の前記寸法差に対して小さいことを特徴とする請求項1に記載のPt合金パイプの製造方法。
【請求項3】
前記伸管工程において、最終回数の伸管後に芯金線を除去せず芯金線を入れたままとするとともに、
前記研磨工程の後でその芯金線を化学的に溶解する除去工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のPt合金パイプの製造方法。
【請求項4】
前記Pt合金パイプは医療用であることを特徴とする、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のPt合金パイプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pt合金パイプの製造方法に係り、特に寸法精度の高いPt合金パイプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Pt合金パイプは、例えば、医療用、例えば、カテーテルの先端部などの造影標識として使用される。
【0003】
特許文献1には、貴金属パイプ内にCuパイプを嵌入し、所要の外径、内径に伸管加工してクラッドパイプとなし、このクラッドパイプの外周を所要の形状に加工し、所要の長さに切り落とし、Cuパイプを薬品で除去することを特徴とする薄肉貴金属パイプの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、伸管加工により作製した薄肉厚の貴金属パイプ素管に、この貴金属パイプ素管の内径寸法以下の径による芯金線を挿入(嵌入)してダイス加工等によって密着させ、熱処理と伸線加工を繰り返して所望形状および寸法のクラッド線を作製し、切断機により所望長さに切断し、その後に芯金線を薬品で除去することにより0.07mm以下の肉厚とすることを特徴とする微小薄肉貴金属パイプの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−31632号公報
【特許文献2】特開2009−050658号公報
【特許文献3】特開2001−293511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、Auパイプ内にCuパイプを嵌入、これを伸管加工して、次いでこのクラッドパイプ8の外周をバイトにより所要の形状に切削加工して薄肉部分を形成し、然る後切断し、この成形パイプを10%硝酸液に30分間浸漬して内側のCuを溶解除去して薄肉貴金属パイプ部品を得ている。この方法では、バイトにより所要の形状に切削加工して薄肉部分を形成する工程が必要とされる。また、芯金線が柔らかいCuパイプであるので、出来上がる貴金パイプの内周の真円度も確保できないおそれがあった。
【0007】
特許文献2の方法では、PtWパイプ素管とNiFe芯金線を複合クラッド線とし、伸線および焼鈍を繰り返し、切断、芯金線を塩酸により除去し微小薄肉パイプを得ている。この方法では、クラッド界面の状況に応じて、完成したパイプの内面が粗面化したり、芯金線の成分がパイプ内面に入り込んでしまって除去できなくなるという問題があった。
【0008】
特許文献3には、マンドレルミル(延伸圧延機)を用いて、継目無鋼管が圧延されることが開示されている。具体的には、マンドレルミルの各孔型ロール対に、内部に芯金線が送入された中空の素管を順次送ることにより、各孔型ロール対と芯金線とによって、複数本の同じ仕様の鋼管を圧延される。その際、各芯金線は、繰り返し使用されるために不均一に摩耗するとともに、圧延時の素管からの熱伝導や孔型ロールによる圧下に伴う加工熱等により、発熱して不均一に熱膨張する。このために、各芯金線それぞれの摩耗や熱膨張等に起因して継目無鋼管の肉厚等の中心軸方向への変動が生じることが記載されている。
【0009】
上記のように、継目無鋼管では、管の内部に芯金線を入れ伸管する際、同じ芯金線を繰り返し使用すると芯金線が摩耗し、形状が一部変化してしまうことがあることや、摩耗した芯金線の一部がパイプ内面に入り込んでしまうと除去できなくなることがあるといった問題があった。したがって、鋼管の製造を基準としたパイプの内部に芯金線を入れ伸管する金属管の製造方法は、寸法精度や異物に対する要求が厳しく、例えば直径5mm以下の細い、医療用PtIr合金パイプの製造には、そのまま適用することが困難であった。
【0010】
そこで、本発明は、寸法精度が高く、パイプ内面に異物が入り込まず、且つ細いPt合金パイプを容易に製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、Pt合金パイプの内側にビッカース硬さが2倍以上の芯金線を入れ、その芯金線を変形させないで伸管することと、および、Pt合金パイプ外面に複数ロールで複数方向から圧力を加えてから芯金線を引き抜くことを寸法の異なる芯金線を用意して、繰り返すことで、上記の目的(寸法精度が高く、パイプ内面に異物が入り込まず、且つ細いPt合金パイプを容易に製造することのできる)を達成できることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0012】
本発明は、
Pt合金板をロールで丸め側面部を突合せ溶接してPt合金パイプを作製する造管工程と、
前記Pt合金パイプの内側に前記合金パイプの2倍以上の硬さを有する芯金線を挿入して前記芯金線を変形させないで伸管することと、前記Pt合金パイプ外面に複数ロールで複数方向から圧力を加えてから前記芯金線を引き抜くことを2回以上繰り返す伸管工程と、
前記伸管されたPt合金パイプを所定の長さにする切断工程と、
切断した前記Pt合金パイプの研磨工程と、
を含むことを特徴とするPt合金パイプの製造方法である。
【0013】
上記構成において、
前記伸管工程におけるn回目(nは2以上の整数)の伸管時のPt合金パイプの内径と前記芯金線の外径の寸法差は、n−1回目の伸管時の前記寸法差に対して小さくなるようにしてもよい。
【0014】
上記構成において、
前記伸管工程において、最終回数の伸管後に芯金線を除去せず芯金線を入れたままとするとともに、
前記研磨工程の後でその芯金線を化学的に溶解する除去工程をさらに含むようにしてもよい。
【0015】
上記Pt合金パイプは医療用として用いても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、寸法精度が高く、パイプ内面に異物が入り込まず、且つ細いPt合金パイプを容易に製造することのできる方法を提供することができる。
【0017】
以下、本発明のPt合金パイプの製造方法についてさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
〈造管工程〉
造管工程では、Pt合金板をロールで丸め側面部(両サイドの端面)を突合せ溶接し、Pt合金パイプを作製する。パイプ製造装置でPt合金板が造管される。
【0019】
Pt合金としては、PtIr合金、PtRh合金等のPt合金を用いることができる。例えば、所定寸法のPtIr合金板を用意する。Irを5〜30mass%含むPtIr合金を使用することができる。
【0020】
合金板の板厚・板幅は製作したいパイプの直径、肉厚を基に適宜選択する。たとえば、外径φ3.0mm、肉厚0.15mmのパイプを得たい場合は、厚み0.15mm、幅9.1mmのPt合金板を用意する。
【0021】
以下の説明では、PtIr合金板を例に説明する。PtIr合金板は、例えば左方向からパイプ製造装置に移送され、先ず複数セットの上下ロール、サイドロールに通されて平板の状態から少しずつ丸められ、次いで複数セットのフィンロールに通されて側面部が突合せられた管状に成形される。
【0022】
次にPtIrの管状成形体はその突合せられた側面部がTIG溶接等の手段で溶融されてスクイズロールに通される。スクイズロールは管状成形体に側圧を加え、加熱溶融状態にある側面部同士を所定の溶融層幅になるように調整される。
【0023】
〈熱処理工程〉
造管されたPtIr合金パイプは必要に応じて、900〜1100℃で熱処理する熱処理工程を行う。具体的には、水素ガスと窒素ガスの混合雰囲気で、例えば1000℃で熱処理する。熱処理工程により、加工歪が低減され、溶接部とそれ以外の組織が均一化される。
【0024】
〈伸管工程〉
伸管工程では、PtIr合金パイプの内側に合金パイプの2倍以上のビッカース硬さを有する芯金線を挿入して前記芯金線を変形させないで伸管することと、PtIr合金パイプ外面に複数ロールで複数方向から圧力を加えてから芯金線を引き抜くことを交互に繰り返す。
【0025】
芯金線のビッカース硬さは、Pt合金パイプの材料の2倍以上のビッカース硬さを持つものであればよい。このようにPt合金と芯金線を選択することで、芯金線を変形させないでPt合金を伸管することができ、Pt合金の管の寸法精度を高めることができる。例えば、90wt%PtIr合金のビッカース硬さは、126〜182であった。そこで2倍以上のビッカース硬さを持つ芯金線を用いる。例えば、SKH51を用いる。そのビッカース硬さは、約700であり、パイプである90wt%PtIr合金のビッカース硬さの3倍以上である。
【0026】
先ず、PtIr合金パイプにSKH51心金線を挿入する。ここで、PtIr合金パイプの内径とSKH51心金線の外径との差({パイプ内径}−{芯金線の外径})を、例えば0.2〜0.6mmに設定する。心金線が挿入されたPtIr合金パイプは、所定寸法のダイスにより伸管される。伸管は、ドロー伸線機で行うことができる。ドロー伸線機では、固定したダイスにSKH51心金線が挿入されたPtIr合金パイプを通し、パイプの一端を定速度で掃引(ドロー)することで、PtIr合金パイプが伸管される。このとき、心金線の外径はPtIr合金パイプの内形より僅かに小さく設定され({パイプ内径}−{芯金線の外径}=0.2〜0.6mm)ており、芯金線が変形されない状態で伸管される。
【0027】
次に、異なる角度に配置されて積層された複数のローラーダイスセット(「異角度積層ローラーダイスセット」という)の中にPtIr合金パイプを通し、PtIr合金パイプの外側に複数角度方向から順次圧力を加える。そのようにすることで、PtIr合金パイプから心金線が抜きやすくなる。その後芯金線を引き抜く。
【0028】
以上の伸管・引き抜きの工程を繰り返す。2回目の伸管時のSKH51芯金線の外径は1回目の伸管時のSKH51芯金線の外径よりも小さくする。また、伸管工程における2回目以降の伸管時のPtIr合金パイプの内径と前記芯金線の外径の寸法差は、その伸管の前の回数の伸管時の前記寸法差に対して小さくなるようにする。すなわち、2回目の伸管、3回目の伸管となるにしたがって、PtIr合金パイプの内径と芯金線の外径の寸法差を徐々に小さくする。
【0029】
上記伸管工程の結果、直径約0.5〜5mm、肉厚約0.025〜0.2mmのPtIr合金パイプを得ることができる。しかし、限定されるものでないが、別の態様として、直径約0.5〜3mm、肉厚約0.025〜0.1mmのPtIr合金パイプであることができる。
【0030】
このように、PtIr合金パイプの内側に合金パイプの2倍以上の硬さを有する芯金線を入れることで、芯金線の摩耗や変形が起こらず、芯金線のPtIr合金パイプ内面への入り込みがなくなる。芯金線を変形させないで複数回加工することで高寸法精度の内径及び外径が得られる。
【0031】
〈切断工程〉
切断工程では、PtIr合金パイプを例えばワイヤーソーにて所定の寸法に切断する。具体的には、表面に研磨材が付着されたワイヤーソーを複数配置し、平行に複数個配置されたPtIr合金パイプの複数箇所を同時に切断して、複数の切断されたPtIr合金パイプを得る。
【0032】
〈研磨工程〉
研磨工程では、切断したPtIr合金パイプを研磨する。具体的には、バレル研磨機の中に多数個のPtIr合金パイプを入れるとともに、研磨材とコンパウンドと水とを入れ、その状態で容器を所定時間(例えば30分〜60分)回転させることでPtIr合金パイプの研磨を行う。
【0033】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、伸管工程において、最終回数の伸管後に芯金線を除去せず前記芯金線を入れたままとするとともに、研磨工程の後で芯金線を化学的に溶解する除去工程をさらに備える。最終回の伸管工程後のPtIr合金パイプと心金線の密着の程度は、第1の実施形態の場合と同様の状態(複数のローラーダイスセットを使用して芯金線を抜くことができる状態)であり、熱処理を行ってPtIr合金パイプと心金線の拡散層を形成させていない。その状態にて、研磨工程の後で芯金線を化学的に溶解する方法を採用している。したがって、完成したパイプの内面が粗面化したり、芯金線の成分がパイプ内面に入り込んでしまって除去できなくなるという問題は発生しない。
【0034】
〈除去工程〉
芯金線を入れたまま切断工程で切断され研磨工程で研磨されたPtIr合金パイプは、除去工程にて、芯金線が化学的に溶解、除去される。除去工程では、例えば、50%硝酸水溶液に浸漬させ、芯金線を溶解除去し、水洗する。
【0035】
第2の実施形態では、芯金線を変形させないで複数回加工することに加え、最終回数の伸管工程、切断工程および研磨工程の後に心金線の除去工程を設けることで、高寸法精度の内径及び外径が得られる。
【0036】
次に実施例により、本発明のPtIr合金パイプの製造方法についてさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
t0.15mm×
w9.1mm×
l1,500mmの90wt%PtIr板材をロール丸め加工とフィンロールで側面部を突合せた後、突合せ部のTIG溶接を連続的に行うパイプ製造機で外径φ3.0mmのパイプを作製した。
【0038】
次に外径φ2.30mm、硬さ700のSKH51芯金線を入れ、ドロー伸線機で外径φ2.5mmにダイス加工した(芯金線の変形なし)後、「異角度積層ローラーダイスセット」で8方向から圧力を加え、パイプ内面と芯金線外面を剥がし、芯金線を引き抜いた。上記加工を4回繰り返して外径φ2.00mmのパイプを得た。芯金線は最後に引抜いた。この際のパイプ外径、パイプ内径、芯金線外径、{パイプ内径}−{芯金線の外径}、減面率(パイプ断面積の減少率)を表1に示す。
【0039】
次に長さ2mmに切断し、バレル研磨機で切断部のバリ取りとPtIr合金パイプ外面の表面磨きを行った。作製したPtIr合金パイプは、外径と内径が全て±1%以下の寸法公差で、内面への芯金線成分の入り込みはなかった。なお、上記伸管工程で芯金線の外径の変化は認められなかった。
【0040】
【0041】
(実施例2)
表1の3回の伸管は、実施例と同じである。4回目の伸管後に芯金線を除去せず芯金線を入れたままとするとともに、研磨工程の後で芯金線を化学的に溶解する除去工程をさらに備える。
【0042】
4回目の伸管では、ドロー伸線機で外径φ2.00mmに加工した。芯金線は入れたままで伸管工程を終えた。この際のパイプ外径,パイプ内径,芯金線外径,{PtIrパイプ内径}−{芯金線外径},減面率は表1と同じである。
【0043】
次に長さ2mmに切断し、研磨機で切断部のバリ取りとPtIrパイプ外面の表面磨きを行った後、50%硝酸水溶液に浸漬させ、芯金線を溶解除去し、水洗し実施例1の90wt%PtIr細管を作製した。作製したPtIrパイプは、外径と内径が全て±1%以下の寸法公差で、内面への芯金線成分の入り込みはなかった。なお、上記伸管工程で芯金線の外径の変化は認められなかった。
【要約】
【課題】寸法精度が高く、パイプ内面に異物が入り込まず、且つ細いPt合金パイプを容易に製造することのできる方法を提供する。
【解決手段】Pt合金板をロールで丸め側面部を突合せ溶接してPt合金パイプを作製する造管工程と、前記Pt合金パイプの内側に前記合金パイプの2倍以上の硬さを有する芯金線を挿入して前記芯金線を変形させないで伸管することと、前記Pt合金パイプ外面に複数ロールで複数方向から圧力を加えてから前記芯金線を引き抜くことを2回以上繰り返す伸管工程と、前記伸管されたPt合金パイプを所定の長さにする切断工程と、切断した前記Pt合金パイプの研磨工程と、を含むPt合金パイプの製造方法。
【選択図】なし