特許第6675563号(P6675563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675563
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】芳香族化合物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07D 519/00 20060101AFI20200323BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20200323BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20200323BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20200323BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20200323BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   C07D519/00CSP
   H01L29/78 618B
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 250H
   H01L29/28 310J
   H01L31/04 154C
   H01L31/04 154B
【請求項の数】11
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2016-137822(P2016-137822)
(22)【出願日】2016年7月12日
(65)【公開番号】特開2018-8887(P2018-8887A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155516
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 亜子佳
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 正浩
(72)【発明者】
【氏名】金 志勲
(72)【発明者】
【氏名】瀧宮 和男
(72)【発明者】
【氏名】中村 博
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/178415(WO,A1)
【文献】 特開2015−087501(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/029843(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102010018982(DE,A1)
【文献】 特表2013−508311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/16
C07D 519/00
C07F 7/10
H01L 29/786
H01L 51/05
H01L 51/30
H01L 51/40
H01L 51/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、オクチル基または2−エチルへキシル基を表し、m2又は4であり、mが2の場合、Aは直接結合または下記式(a)若しくは(b)
【化2】
で表される2価の連結基を表し、mがの場合、Aは下記式(e)
【化3】
で表される4価の連結基を表し、複数存在するは互いに同じでも異なっていてもよく、複数存在するは互いに同じでも異なっていてもよい。)
で表される芳香族化合物。
【請求項2】
mが2であり、Aが直接結合である請求項1に記載の芳香族化合物。
【請求項3】
mが2であり、Aが上記式(a)または(b)で表される2価の連結基である請求項1に記載の芳香族化合物。
【請求項4】
mが4であり、Aが上記式(e)で表される4価の連結基である請求項1に記載の芳香族化合物。
【請求項5】
及びRが同一のオクチル基または2−エチルへキシル基である請求項1乃至のいずれか一項に記載の芳香族化合物。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の芳香族化合物を含有する有機半導体材料。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の芳香族化合物と、有機溶媒とを含む薄膜形成用組成物。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の芳香族化合物を含む有機薄膜。
【請求項9】
請求項に記載の有機薄膜を含有する有機半導体デバイス。
【請求項10】
有機光電変換素子である請求項に記載の有機半導体デバイス。
【請求項11】
有機薄膜トランジスタである請求項に記載の有機半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な芳香族化合物及びその用途に関する。更に詳しくは、本発明は、有機半導体等として利用可能である新規なナフト[2,3−b]チオフェンジイミド誘導体、並びに、それを利用した有機半導体材料、薄膜形成用組成物、有機薄膜、及び有機半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ナフタレンジイミド(以下、「NDI」とも記載する)は、電子不足(アクセプタ性、もしくはn型半導体性)の有機半導体骨格として広く用いられている骨格である。NDIはその共役を拡張することにより様々な材料展開が可能であり、NDI骨格を単結合で連結し、オリゴマーやポリマーの共役系に組み込んだ化合物を用いて作製したn型半導体、p型半導体、両性半導体が報告されている。
【0003】
近年では、NDI骨格に直接、芳香環を縮合したπ拡張NDI誘導体も検討されており、特許文献1及び非特許文献1乃至5では、芳香環としてベンゼン環、インドール環、ジシアノ置換チオフェン環、チアゾール環、ピラジン環などをNDI骨格に直接縮合した化合物が合成され、低分子有機半導体として検討されている。しかしながら、これらの化合物は、平面性の低下や共役の拡張に難があり、結果としてこれらの化合物を用いた有機半導体デバイスは十分な性能を得ることができない。
【0004】
特許文献2では、NDIのナフタレン骨格の両側にチオフェン環を拡張した化合物が検討されているが、これらの化合物は高分子化に適した骨格であり、例示された低分子化合物の半導体特性は未だ不十分である。
【0005】
また特許文献3では、NDIのナフタレン骨格の片側にベンゾチオフェン骨格を拡張した化合物が報告されているが、電子写真感光体の結晶化抑制剤としての利用のみ記載されており、半導体特性については何ら明記されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願公開第101885732号公報
【特許文献2】国際公開第2014/178415号
【特許文献3】特許第5887323号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chemical Communications,2011,47,p.10112−10114
【非特許文献2】Chemical Communications,2011,47,p.11504−11506
【非特許文献3】Chemistry of Materials,2011,23(5),p.1204−1215
【非特許文献4】Journal of Materials Chemistry C,2013,1,p.1087−1092
【非特許文献5】Organic & Biomolecular Chemistry,2012,10,p.6455−6468
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れたキャリア移動度を示す半導体としての特性を有する、新規芳香族化合物、それを含有する有機半導体材料及び薄膜形成用組成物、並びに該化合物を含む有機薄膜及びそれを含有する有機半導体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、新規芳香族化合物の開発に成功し、当該新規芳香族化合物が優れたキャリア移動度を示す半導体としての特性を有することを見出し、該化合物を含有する有機半導体材料及び薄膜形成用組成物、並びに該化合物を含む有機薄膜及びそれを含有する有機半導体デバイスを提供することが可能となり、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
[1]下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1乃至30の飽和炭化水素基、炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基、アリール基またはスチリル基を表し、上記の炭素数1乃至30の飽和炭化水素基、炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基、アリール基及びスチリル基は、置換基を有していてもよく、mは1乃至6の整数を表し、mが1の場合、Aは水素原子、ハロゲン原子、炭化水素3置換シリル基、アリール基またはヘテロアリール基を表し、mが2の場合、Aは直接結合または芳香環若しくは複素環を有する2価の連結基を表し、mが3乃至6の場合、Aは芳香環または複素環を有する3乃至6価の連結基を表し、R1が複数存在する場合、それら複数のR1は互いに同じでも異なっていてもよく、R2が複数存在する場合、それら複数のR2は互いに同じでも異なっていてもよい。)で表される芳香族化合物、
[2]mが2であり、Aが直接結合である前項[1]に記載の芳香族化合物、
[3]mが2であり、Aが芳香環または複素環を有する2価の連結基である前項[1]に記載の芳香族化合物、
[4]mが3であり、Aが芳香環または複素環を有する3価の連結基である前項[1]に記載の芳香族化合物、
[5]mが4であり、Aが芳香環または複素環を有する4価の連結基である前項[1]に記載の芳香族化合物、
[6]mが6であり、Aが芳香環または複素環を有する6価の連結基である前項[1]に記載の芳香族化合物、
[7]R1及びR2が同一の炭素数1乃至30のアルキル基である前項[1]乃至[6]のいずれか一項に記載の芳香族化合物、
[8]R1及びR2が同一の炭素数6乃至12のアリール基である前項[1]乃至[6]のいずれか一項に記載の芳香族化合物、
[9]前項[1]乃至[8]のいずれか一項に記載の芳香族化合物を含有する有機半導体材料、
[10]前項[1]乃至[8]のいずれか一項に記載の芳香族化合物と、有機溶媒とを含む薄膜形成用組成物、
[11]前項[1]乃至[8]のいずれか一項に記載の芳香族化合物を含む有機薄膜、
[12]前項[11]に記載の有機薄膜を含有する有機半導体デバイス、
[13]有機光電変換素子である前項[12]に記載の有機半導体デバイス、
[14]有機薄膜トランジスタである前項[12]に記載の有機半導体デバイス、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一般式(1)で表される新規な芳香族化合物を含む有機薄膜を有機半導体デバイスの半導体層に用いることにより、従来の有機半導体材料を用いたものと比較して高い光電変換性能やキャリア移動度など優れた半導体特性を有する有機半導体デバイスを提供することができる。さらに、本発明の芳香族化合物のうちでmが1でAがハロゲン原子や炭化水素3置換シリル基であるものは、NDI骨格の一方にのみチオフェン環を縮合した化合物であり、かつチオフェン環のα位に反応性置換基を持つため、様々な多価連結基に結合させて本発明の芳香族化合物のうちでmが2以上のものを製造するエンドキャップとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(a)〜図1(f)は、本発明の有機半導体デバイスの一つである有機薄膜トランジスタの一態様を示す概略図である。
図2図2は、本発明の有機半導体デバイスの一つである有機光電変換素子の一態様を示す概略図である。
図3図3は、本発明の式(23)で表される芳香族化合物を用いた実施例16で得られた有機薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性(伝達特性)を示すものである。
図4図4は、実施例17で得られた本発明の有機光電変換素子における電流密度−電圧特性を示すグラフである。
図5図5は、実施例18で得られた本発明の有機光電変換素子における電流密度−電圧特性を示すグラフである。
図6図6は、実施例19で得られた本発明の有機光電変換素子における電流密度−電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔芳香族化合物〕
本発明の芳香族化合物は前記一般式(1)で表される構造を有する。
一般式(1)中、R1及びR2は水素原子、炭素数1乃至30の飽和炭化水素基(アルキル基又はシクロアルキル基)、炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基(フルオロアルキル基又はフルオロシクロアルキル基)、アリール基またはスチリル基を表す。R1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基、炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基、アリール基及びスチリル基は、置換基を有していてもよい。また、R1とR2は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。R1が複数存在する場合(mが2以上である場合)、それら複数のR1は互いに同じでも異なっていてもよく、R2が複数存在する場合(mが2以上である場合)、それら複数のR2は互いに同じでも異なっていてもよい。
【0014】
1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基は、炭素数が1乃至30であれば直鎖状、分岐鎖状又は環状の何れにも限定されないが、それぞれ独立に直鎖状又は分岐鎖状の飽和炭化水素基、すなわちアルキル基であることが好ましい。上記飽和炭化水素基は、直鎖状の場合、炭素数1乃至16であることが好ましく、炭素数1乃至12であることがより好ましく、より具体的にはメチル基、エチル基、ヘキシル基、オクチル基、デカニル基又はウンデカニル基等であることが好ましい。上記飽和炭化水素基は、分岐鎖状の場合、炭素数6乃至30であることが好ましく、炭素数8乃至24であることがより好ましく、より具体的には2−エチルへキシル基、3−エチルヘプチル基、4−エチルオクチル基、2−ブチルオクチル基、3−ブチルノニル基、4−ブチルデシル基、2−ヘキシルデシル基、3−オクチルウンデシル基、4−オクチルドデシル基、2−オクチルドデシル基、2−デシルテトラデシル基又は1−ヘキシルへプチル基等であることが好ましい。上記飽和炭化水素基は、環状の飽和炭化水素基(シクロアルキル基)である場合、炭素数5乃至10であることが好ましく、炭素数5又は6であることがより好ましく、より具体的にはシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボニル基、ビシクロ[2,2,2]オクチル基又はアダマンチル基等であることが好ましく、シクロペンチル基又はシクロヘキシル基であることがより好ましい。尚、一般式(1)で表される芳香族化合物を有機溶媒に溶解させて用いる場合は、上記飽和炭化水素基は分岐鎖状の飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0015】
1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基は特に限定されないが、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アミノ基、シアノ基等が挙げられる。R1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有する置換基の数や置換基の置換位置は特に限定されない。
【0016】
1及びR2が表す炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基とは、炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置き換えられた置換基である。
1及びR2が表す炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基は、炭素数が1乃至30であれば直鎖状、分岐鎖状又は環状の何れにも限定されず、直鎖状、分岐鎖状及び環状それぞれの場合の好ましい炭素数は、上記したR1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基における好ましい炭素数と同じである。
1及びR2が表す炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基が有していてもよい置換基としては、R1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基と同じものが挙げられ、置換基の数や置換基の置換位置も炭素数1乃至30の飽和炭化水素基の場合と同様、特に限定されない。
【0017】
1及びR2が表すアリール基の炭素数は6乃至12であることが好ましい。R1及びR2が表すアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基などが挙げられ、フェニル基であることが好ましい。
1及びR2が表すアリール基が有していてもよい置換基としては、上述の炭素数1乃至30の飽和炭化水素基のほか、R1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基と同じものが挙げられ、置換基の数や置換基の置換位置も、炭素数1乃至30の飽和炭化水素基の場合と同様、特に限定されないが、飽和炭化水素基であることが好ましい。即ち、R1及びR2が表すアリール基としては、アリール基又は飽和炭化水素置換アリール基(アルキルアリール基又はシクロアルキルアリール基)が好ましく、フェニル基又は飽和炭化水素置換フェニル基(アルキルフェニル基又はシクロアルキルフェニル基)がより好ましい。
【0018】
1及びR2が表すスチリル基が有していてもよい置換基としては、上述の炭素数1乃至30の飽和炭化水素基のほか、R1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基と同じものが挙げられ、置換基の数や置換基の置換位置も、炭素数1乃至30の飽和炭化水素基の場合と同様、特に限定されないが、飽和炭化水素基であることが好ましい。即ち、R1及びR2が表すスチリル基としては、スチリル基又は飽和炭化水素置換フェニル基(アルキルスチリル基又はシクロアルキルスチリル基)が好ましい。
【0019】
一般式(1)におけるR1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1乃至30の飽和炭化水素基であることが好ましく、それぞれ独立に炭素数1乃至16の直鎖状の飽和炭化水素基又は炭素数6乃至30の分岐鎖状の飽和炭化水素基であることがより好ましく、それぞれ独立に炭素数1乃至12の直鎖状の飽和炭化水素基又は炭素数8乃至24の分岐鎖状の飽和炭化水素基であることが更に好ましく、両者が同一の炭素数1乃至12の直鎖状の飽和炭化水素基又は炭素数8乃至24の分岐鎖状の飽和炭化水素基であることが特に好ましい。また、一般式(1)におけるR1及びR2は、同一の炭素数1乃至30のアルキル基又は炭素数6乃至12のアリール基であることが好ましい。
【0020】
一般式(1)中、mは1乃至6の整数を表し、mが1の場合、Aは水素原子、ハロゲン原子、炭化水素3置換シリル基(3つの炭化水素基で置換されたシリル基、例えばトリアルキルシリル基)、アリール基またはヘテロアリール基を表し、mが2の場合、Aは直接結合または芳香環若しくは複素環を有する2価の連結基を表し、mが3乃至6の場合、Aは芳香環または複素環を有する3乃至6価の連結基を表す。
mが1の場合にAが表すハロゲン原子の具体例としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、mが1の場合にAが表すハロゲン原子は臭素原子又はヨウ素原子であることが好ましい。一般式(1)におけるAがハロゲン原子である芳香族化合物は、後述する連結基と成り得る部分構造を有する化合物と反応し得る芳香族化合物である。
【0021】
mが1の場合にAが表す炭化水素3置換シリル基が有する炭化水素基としては、好ましくは飽和炭化水素基であり、飽和炭化水素基としては、通常、炭素数1乃至10の飽和炭化水素基であり、好ましくは炭素数1乃至6の飽和炭化水素基である。mが1の場合にAが表す炭化水素3置換シリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基などが挙げられる。
【0022】
mが1の場合にAが表すアリール基としては、R1及びR2が表すアリール基と同じものが挙げられる。
【0023】
mが1の場合にAが表すヘテロアリール基とは、環構造中に硫黄原子、酸素原子及び窒素原子等のヘテロ原子を少なくとも1つ含むアリール基であり、その具体例としてはピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、ピラニル基、ピリドニル基、インドレニル基、イミダゾリル基、カルバゾリル基、チエニル基、ジチエニル基、ターチエニル基、ベンゾチエニル基、チエノチエニル基、フリル基、ベンゾフリル基、アントラキノリル基、オキサゾリル基及びチアゾリル基等が挙げられる。
【0024】
mが2の場合で、かつAが直接結合である化合物とは、下記一般式(2)で表される化合物である。尚、一般式(2)におけるR1及びR2は、一般式(1)におけるR1及びR2と同じ意味を表し、それぞれ複数存在する。
【0025】
【化2】
【0026】
mが2乃至6でありAが直接結合でない場合にAが表す芳香環または複素環を有する連結基の価数は、mが表す整数に対応する。即ちmが2の場合、Aが表す芳香環または複素環を有する連結基の価数は2価であり、mが3の場合、Aが表す芳香環または複素環を有する連結基の価数は3価であり、mが4の場合、Aが表す芳香環または複素環を有する連結基の価数は4価であり、mが5の場合、Aが表す芳香環または複素環を有する連結基の価数は5価であり、mが6の場合、Aが表す芳香環または複素環を有する連結基の価数は6価である。mは2、3、4又は6であることが好ましく、したがって連結基の価数は2、3、4又は6であることが好ましい。
【0027】
以下に2、3、4及び6価の連結基の具体例を記載する。
2価の連結基としては、例えば以下に具体例を記載する2価のアリール基及び2価のヘテロアリール基が挙げられる。これらの2価の連結基は、R1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基の例として挙げた種々の置換基等の置換基を有していてもよい。
【0028】
【化3】
【0029】
【化4】
【0030】
【化5】
【0031】
【化6】
【0032】
【化7】
【0033】
【化8】
【0034】
【化9】
【0035】
A2−11、A2−18、A2−19、A2−23、A2−29、A2−30、A2−31、A2−32、A2−46、A2−47、A2−48、A2−49、A2−50、2−51、A2−56、A2−58、A2−59の式中、Rは、水素原子、炭素数1乃至30の飽和炭化水素基、炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素、アリール基またはスチリル基を表す。Rが表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基、炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基、アリール基及びスチリル基は、置換基を有していてもよい。上記式中にRが2つ存在する場合、2つのRは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0036】
Rが表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基は、炭素数が1乃至30であれば直鎖状、分岐鎖状又は環状の何れにも限定されないが、それぞれ独立に直鎖状又は分岐鎖状の飽和炭化水素基、すなわちアルキル基であることが好ましい。上記飽和炭化水素基は、直鎖状の場合、炭素数1乃至16であることが好ましく、炭素数1乃至12であることがより好ましく、より具体的にはメチル基、エチル基、ヘキシル基、オクチル基、デカニル基又はウンデカニル基等であることが好ましい。上記飽和炭化水素基は、分岐鎖状の場合、炭素数6乃至30であることが好ましく、炭素数8乃至24であることがより好ましく、より具体的には2−エチルへキシル基、3−エチルヘプチル基、4−エチルオクチル基、2−ブチルオクチル基、3−ブチルノニル基、4−ブチルデシル基、2−ヘキシルデシル基、3−オクチルウンデシル基、4−オクチルドデシル基、2−オクチルドデシル基、2−デシルテトラデシル基又は1−ヘキシルへプチル基等であることが好ましい。上記飽和炭化水素基は、環状の飽和炭化水素基である場合、炭素数5乃至10であることが好ましく、炭素数5又は6であることがより好ましく、より具体的にはシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボニル基、ビシクロ[2,2,2]オクチル基又はアダマンチル基等であることが好ましく、シクロペンチル基又はシクロヘキシル基であることがより好ましい。尚、一般式(1)で表される芳香族化合物を有機溶媒に溶解させて用いる場合は、上記飽和炭化水素基は分岐鎖状の飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0037】
Rが表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基は特に限定されないが、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アミノ基、シアノ基等が挙げられる。Rが表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有する置換基の数や置換基の置換位置は特に限定されない。
【0038】
Rが表す炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基とは、炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置き換えられた置換基である。
Rが表す炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基は、炭素数が1乃至30であれば直鎖状、分岐鎖状又は環状の何れにも限定されず、直鎖状、分岐鎖状及び環状それぞれの場合の好ましい炭素数は、上記したRが表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基における好ましい炭素数と同じである。
Rが表す炭素数1乃至30のフルオロ飽和炭化水素基が有していてもよい置換基としては、Rが表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基と同じものが挙げられ、置換基の数や置換基の置換位置も炭素数1乃至30の飽和炭化水素基の場合と同様、特に限定されない。
【0039】
Rが表すアリール基の炭素数は6乃至12であることが好ましい。Rが表すアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基などが挙げられ、フェニル基であることが好ましい。
Rが表すアリール基が有していてもよい置換基としては、上述の炭素数1乃至30の飽和炭化水素基のほか、Rが表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基と同じものが挙げられ、置換基の数や置換基の置換位置も、炭素数1乃至30の飽和炭化水素基の場合と同様、特に限定されないが、飽和炭化水素基であることが好ましい。即ち、Rが表すアリール基としては、アリール基又は飽和炭化水素置換アリール基が好ましく、フェニル基又は飽和炭化水素置換フェニル基がより好ましい。
【0040】
Rが表すスチリル基が有していてもよい置換基としては、上述の炭素数1乃至30の飽和炭化水素基のほか、Rが表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基と同じものが挙げられ、置換基の数や置換基の置換位置も、炭素数1乃至30の飽和炭化水素基の場合と同様、特に限定されないが、飽和炭化水素基であることが好ましい。即ち、Rが表すスチリル基としては、スチリル基又は飽和炭化水素置換フェニル基が好ましい。
【0041】
Rは、炭素数1乃至30の飽和炭化水素基であることが好ましく、炭素数1乃至16の直鎖状の飽和炭化水素基又は炭素数6乃至30の分岐鎖状の飽和炭化水素基であることがより好ましく、炭素数1乃至12の直鎖状の飽和炭化水素基又は炭素数8乃至24の分岐鎖状の飽和炭化水素基であることが更に好ましい。上記式中にRが2つ存在する場合、2つのRが同一の炭素数1乃至12の直鎖状の飽和炭化水素基又は炭素数8乃至24の分岐鎖状の飽和炭化水素基であることが特に好ましい。また、上記式中にRが2つ存在する場合、2つのRは、同一の炭素数1乃至30のアルキル基又は炭素数6乃至12のアリール基であることが好ましい。
【0042】
3価の連結基としては例えば以下の連結基が挙げられる。これらの3価の連結基は、R1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基の例として挙げた種々の置換基等の置換基を有していてもよい。
【0043】
【化10】
【0044】
4価の連結基としては例えば以下の連結基が挙げられる。これらの4価の連結基は、R1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基の例として挙げた種々の置換基等の置換基を有していてもよい。
【0045】
【化11】
【0046】
6価の連結基としては以下の連結基があげられる。これらの6価の連結基は、R1及びR2が表す炭素数1乃至30の飽和炭化水素基が有していてもよい置換基の例として挙げた種々の置換基等の置換基を有していてもよい。
【0047】
【化12】
【0048】
尚、本発明においては、例えば上記3価の連結基の有する三つの連結手の中の一つに一般式(1)中括弧内に示される部分構造以外の構造を有する置換基が結合してなる連結基は、Aが表す2価の連結基の範疇に含まれる。上記4乃至6価の連結基についても同様である。
【0049】
上記の連結基の具体例の中でも、2価の連結基としてはA2−1、A2−2、A2−6、A2−7、A2−8、A2−10、A2−11、A2−12、A2−13、A2−15、A2−18、A2−25、A2−26、A2−27、A2−33、A2−35、A2−36、A2−37、A2−44、A2−45、A2−46、A2−47、A2−52、A2−57、A2−58、A2−59が好ましく、3価の連結基としてはA3−1、A3―3、A3−5、A3−7が好ましく、4価の連結基としてはA4−2、A4−3、A4−5、A4−6、A4−7、A4−9、A4−10、A4−13が好ましく、6価の連結基としてはA6−1が好ましく、A2−1、A2−7、A2−11、A2−13、A2−18、A2−24、A2−25、A2−27、A2−35、A2−36、A2−37、A2−44、A2−57、A2−58、A2−59、A3−1、A3−5、A3−7、A4−2、A4−6、A4−9、A4−13、A6−1がより好ましい。
尚、mが2乃至6でありAが直接結合でない場合にAが表す芳香環または複素環を有する2乃至6価の連結基の範疇には、上記具体例の連結基だけではなく、例えば上記具体例の連結基における芳香環または複素環に更にアルキレン基等の置換基が結合した連結基等のような、芳香環または複素環に置換基が結合した連結基も含まれる。
【0050】
一般式(1)で表される芳香族化合物は、例えば特許文献2等に記載の公知の方法に基づいて、以下の反応式に示すフローで合成することができる。尚、以下の反応式中のR1、R2、A及びmは、一般式(1)におけるR1、R2、A及びmと同じ意味を表す。
【0051】
【化13】
【0052】
上記反応式の反応(I)は、一般式(3)で表される化合物を硫化物塩と反応させることにより行うことができる。これにより、環化反応が起こり、一般式(3)で表される化合物におけるナフタレン環の片側にチオフェン環が縮合して、一般式(4)で表される化合物が得られる。上記硫化物塩として、金属硫化物を用いることが好ましく、アルカリ金属硫化物を用いることがより好ましい。上記アルカリ金属硫化物として、例えば、硫化ナトリウム・9水和物、硫化ナトリウム・5水和物、硫化ナトリウム無水物、水硫化ナトリウム水和物などが挙げられる。なお、一般式(3)で表される化合物におけるトリメチルシリル基(TMS)は、他の炭化水素3置換シリル基、例えば、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基などに変更してもよい。
【0053】
上記反応式の反応(II)は、一般式(4)で表される化合物を臭化剤と反応させることにより行うことができる。上記臭化剤としては、例えば臭素が用いられる。臭化剤に代えて他のハロゲン化剤、例えば、ヨウ素又は一塩化ヨウ素などのヨウ化剤を用いることもでき、その場合には、一般式(5)で表される化合物におけるブロモ基をヨード基に置き換えたものが生成物として得られる。
【0054】
上記反応式の反応(III)は、一般式(5)で表される化合物を、パラジウム触媒(例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム)等の遷移金属触媒の存在下で、下記式
A(X)m
(式中、Xは、トリアルキルスズ基(例えば、トリメチルスズ基)、ボロン酸基、ボロン酸エステル基(例えば、ボロン酸ピナコールエステル基)等の金属含有基を表す)
で表される有機金属化合物とカップリング反応させることにより行うことができる。
【0055】
上記反応式の脱シリル化反応(IV)は、一般式(4)で表される化合物を、酸、塩基、或いはフッ化物と反応させることにより行うことができる。上記フッ化物としては、例えばテトラ−n−ブチルアンモニウムフルオリド等のが用いられる。
【0056】
上記反応式の反応(V)は、一般式(5)で表される化合物を、パラジウム触媒(例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム)等の遷移金属触媒と、ビス(トリメチルすず)等のようなトリアルキルスズ化剤との存在下で反応させることにより行うことができる。
【0057】
前記したmが1であってAがハロゲン原子である一般式(1)で表される芳香族化合物と、mが1であってAがアリール基又はヘテロアリール基である一般式(1)で表される芳香族化合物とを鈴木カップリングさせることにより、mが2であってAが2価のアリール基又は2価のヘテロアリール基である一般式(1)で表される芳香族化合物を得ることもできる。ハロゲン原子と反応し得るアリール基及びヘテロアリールの具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、ベンゾピレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、ピラニル基、ピリドニル基、インドレニル基、イミダゾリル基、カルバゾリル基、チエニル基、ジチエニル基、ターチエニル基、ベンゾチエニル基、チエノチエニル基、フリル基、ベンゾフリル基、アントラキノリル基、オキサゾリル基及びチアゾリル基などが挙げられ、フェニル基、ビフェニル基、フェナンスリル基、チオニル基、ジチエニル基、フルオレニル基又はピラジル基が好ましい。これらは、飽和炭化水素基等の上記の置換基を有していてもよい。
【0058】
一般式(1)で表される芳香族化合物の精製方法は、特に限定されず、再結晶、カラムグロマトグラフィー、及び真空昇華精製等の公知の方法が採用できる。また必要に応じてこれらの方法を組み合わせることができる。
【0059】
〔有機半導体材料〕
本発明の有機半導体材料は、一般式(1)で表される芳香族化合物を含有するものである。本発明の有機半導体材料は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子、有機太陽電池素子、有機光電変換素子及び有機薄膜トランジスタ等の有機半導体デバイスのような有機エレクトロニクスデバイスの有機薄膜の材料として好適に用いられる。
【0060】
〔薄膜形成用組成物〕
本発明の薄膜形成用組成物は、一般式(1)で表される芳香族化合物と、有機溶媒とを含むものであり、通常、一般式(1)で表される芳香族化合物又はそれを含む有機半導体材料を有機溶媒に溶解または分散したものである。有機溶媒として、単一の有機溶媒を使用することも、複数の有機溶媒を混合して使用することもできる。
【0061】
薄膜形成用組成物における一般式(1)で表される芳香族化合物の含有量は、有機溶媒の種類や作成する薄膜の膜厚により異なるが、有機溶媒100質量部に対して、通常0.1〜5質量部であり、0.3〜5質量部が好ましい。また、本発明の薄膜形成用組成物は、上記の溶媒に一般式(1)で表される芳香族化合物が溶解又は分散していれば構わないが、均一な溶液として一般式(1)で表される芳香族化合物が溶解していることが好ましい。
【0062】
薄膜形成用組成物に用いられる有機溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン等のハロゲン系有機溶媒も使用できるが、非ハロゲン系有機溶媒が好ましい。非ハロゲン系有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール、ブトキシベンゼンなどのエーテル類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル、炭酸ジエチルなどのエステル類;ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、デカリンなどの炭化水素類などが好ましく用いられる。
【0063】
本発明の薄膜形成用組成物は、上記の一般式(1)で表される芳香族化合物及び有機溶媒以外に、有機半導体デバイスの特性を改善する目的、または必要とされる吸収帯や他の特性を付与する目的等の目的のために、必要に応じて他の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、上記の一般式(1)で表される芳香族化合物の、半導体としての機能を阻害しないものであれば特に制限はない。他の添加剤として、例えば、他の構造を有する半導体性材料、絶縁性材料のほか、レオロジーの制御するための界面活性剤、増粘剤、キャリア注入やキャリア量を調整するためのドーパントなどが挙げられる。これらは組成物としての安定性を阻害しない限り、高分子であっても低分子であってもよい。これら添加剤の含有量は、その目的により異なるため一概には言えないが、一般式(1)で表される芳香族化合物の含有量よりも少ない方が好ましい。
【0064】
〔有機薄膜〕
次に本発明の有機薄膜について説明する。本発明の一般式(1)で表される芳香族化合物を含む有機半導体材料を用いて有機薄膜を作製することができる。本発明の有機薄膜は一般式(1)の芳香族化合物を少なくとも1種類含有した有機薄膜であり、本発明の一般式(1)で表される芳香族化合物を複数種類含有する有機薄膜であっても、本発明の一般式(1)で表される芳香族化合物と他の機能性の材料との混合物からなる有機薄膜であってもよい。上記機能性の材料としては、低分子あるいは高分子のp型、n型、又はアンバイポーラーの半導体、絶縁性高分子、ドーピング剤などがその例として挙げられるが、有機薄膜やそれを用いた有機半導体デバイスの用途に合わせて適宜選択される。該有機薄膜の膜厚は、その用途によって異なるが、通常1nm〜10μmであり、好ましくは5nm〜3μmであり、より好ましくは10nm〜1μmである。
【0065】
有機薄膜の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法などのドライプロセスや種々の溶液プロセスなどが挙げられ、一般式(1)の溶解性、昇華性等の物性により適宜選択される。溶液プロセスとしては、例えば、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、バーコート法、ダイコート法、スリットコート法、ペン法、カーテンコート法、フレキソ印刷、凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、平板印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。上記溶液プロセスには、本発明の薄膜形成用組成物において一般式(1)で表される芳香族化合物が溶解しているものを用いることができる。ドライプロセスで有機薄膜を形成する場合、抵抗加熱法による蒸着法、溶液プロセスでは、スピンコート法、ダイコート法、スリットコート法、オフセット印刷法、又はインクジェット法で有機薄膜を形成することが好ましく、溶液プロセスで有機薄膜を形成する場合、上記の種々の溶液プロセスで塗布又は印刷した後、有機溶媒を蒸発させて有機薄膜を形成することが好ましい。
【0066】
有機薄膜の形成時における被成膜面(有機薄膜が形成される表面)の表面エネルギーや温度などの種々の環境は安定した薄膜形成には重要であり、これらにより有機薄膜の状態及び有機半導体デバイスの特性が変化する場合がある。例えば、被成膜面の表面エネルギーが不適切な場合、基板表面等の被成膜面でのハジキ等の欠陥が生じ連続膜が形成できない等の不具合が生じる。また、有機薄膜の形成時の温度または有機溶媒等の乾燥温度、薄膜形成後の後処理(熱処理)温度等により、薄膜形成時に生じた有機薄膜中の歪みが緩和されること、ピンホール等が低減されること、有機薄膜中の配列・配向が制御できる等の理由により、有機薄膜を用いた有機半導体デバイスの特性の向上や安定化を図ることができる。当該熱処理は有機薄膜を形成した後に基板を加熱することによって行う。熱処理の温度は特に制限は無いが通常、室温から200℃程度で、好ましくは40〜150℃、さらに好ましくは50〜120℃である。この時の熱処理時間については特に制限は無いが通常10秒から24時間、好ましくは30秒から3時間程度である。その時の雰囲気は大気中でもよいが、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下でもよい。その他、溶媒蒸気による有機薄膜の形状のコントロールなどが可能である。
【0067】
〔有機半導体デバイス〕
次に、本発明の有機半導体デバイスについて説明する。本発明の有機半導体デバイスは、上述した一般式(1)で表される芳香族化合物を少なくとも1種類含む有機薄膜を有機半導体層として含むデバイスである。上記有機半導体デバイスとして、例えば、有機薄膜トランジスタ、有機EL素子(例えばカラー有機ELデバイス)、有機光電変換素子、ダイオード、コンデンサ等、種々のデバイスが挙げられる。
【0068】
本発明の有機半導体デバイスは、一般式(1)で表される芳香族化合物を有機半導体材料として用いているため、比較的低温プロセスで製造することができる。従って、高温にさらされる条件下では使用できなかったプラスチック板、プラスチックフィルム等、フレキシブルな材質の基板を、有機半導体デバイスを構成する基板として用いることができる。その結果、軽量で柔軟性に優れた壊れにくい有機半導体デバイスの製造が可能になる。
【0069】
〔有機薄膜トランジスタ〕
次に、本発明の有機半導体デバイスの一形態としての有機薄膜トランジスタについて説明する。有機薄膜トランジスタは、有機薄膜からなる半導体層に接して2つの電極(ソース電極及びドレイン電極)があり、その電極間に流れる電流を、ゲート電極と呼ばれるもう一つの電極に印加する電圧で制御するものである。
【0070】
一般に、有機薄膜トランジスタとしては、ゲート電極が絶縁膜で絶縁されている構造(Metal−Insulator−Semiconductor;MIS構造)がよく用いられる。MIS構造のうちで絶縁膜に金属酸化膜を用いるものはMOS(Metal−Oxide−Semiconductor)構造と呼ばれる。薄膜トランジスタの他の構造としては、半導体薄膜に対してショットキー障壁を介してゲート電極が形成されている構造(すなわちMES構造)もあるが、有機薄膜トランジスタの場合、MIS構造がよく用いられる。
【0071】
以下、図1に示す有機薄膜トランジスタのいくつかの態様例を用いて有機薄膜トランジスタについてより詳細に説明するが、本発明はこれらの構造には限定されない。
【0072】
図1(a)〜(f)に示す各態様例の有機薄膜トランジスタ10A乃至10Fは、ソース電極1、半導体層2、ドレイン電極3、絶縁体層4、及びゲート電極5を備えており、有機薄膜トランジスタ10A乃至10D及び10Fは、基板6をさらに備えている。尚、各層や電極の配置は、有機薄膜トランジスタの用途により適宜選択できる。有機薄膜トランジスタ10A〜D及び10Fは、基板6と平行な方向に電流が流れるので、横型トランジスタと呼ばれる。有機薄膜トランジスタ10Aは、基板6上にゲート電極5を設け、ゲート電極5上に絶縁体層4を介してソース電極1及びドレイン電極3を設け、さらにその上に半導体層2を形成しており、ボトムコンタクトボトムゲート構造と呼ばれる。有機薄膜トランジスタ10Bは、基板6上にゲート電極5を設け、ゲート電極5上に絶縁体層4を介して半導体層2を設け、さらにその上にソース電極1及びドレイン電極3を形成しており、トップコンタクトボトムゲート構造と呼ばれる。また、有機薄膜トランジスタ10Cは、基板6上に半導体層2を設け、半導体層2上にソース電極1及びドレイン電極3を設け、さらにその上に絶縁体層4を介してゲート電極5を形成しており、トップコンタクトトップゲート構造と呼ばれている。有機薄膜トランジスタ10Dは、基板6上にゲート電極5を設け、ゲート電極5上に絶縁体層4を介してソース電極1を設け、さらにその上に半導体層2を形成し、半導体層2の上にドレイン電極3を形成しており、トップ&ボトムコンタクトボトムゲート型トランジスタと呼ばれる構造である。有機薄膜トランジスタ10Fは、基板6上にソース電極1及びドレイン電極3を設け、さらにその上に半導体層2を設け、半導体層2の上に絶縁体層4を介してゲート電極5を形成しており、ボトムコンタクトトップゲート構造である。
【0073】
有機薄膜トランジスタ10Eは、縦型の構造をもつトランジスタ、すなわち静電誘導トランジスタ(SIT)である。このSITは、電流の流れが平面状に広がるので一度に大量のキャリア8が移動できる。また、SITは、ソース電極1とドレイン電極3とが縦に配されているので、電極間距離を小さくできるため、応答が高速である。従って、SITは、大電流を流す、高速のスイッチングを行うなどの用途に好ましく適用できる。なお図1(e)には、基板を記載していないが、通常の場合、図1(e)中のソース電極1又はドレイン電極3の外側には基板が設けられる。本発明の有機薄膜は、図1中の半導体層2として利用することができる。
【0074】
〔有機光電変換素子〕
次に、本発明の有機半導体デバイスの他の一形態としての有機光電変換素子について説明する。有機光電変換素子は、上部電極及び下部電極である、対向する二つの電極間に、有機薄膜からなる光電変換膜を光電変換部として配置した素子であって、一方または両方の電極上方から光が光電変換部に入射されるものである。該光電変換部は、入射光量に応じて電子及び正孔を発生するものである。有機光電変換素子としては、光電変換部で発生した電子及び正孔を輸送し、電極で採集することにより起電力として利用する太陽電池素子や、半導体により前記光電変換部の電荷に応じた信号を読み出し、光電変換部の吸収波長に応じた入射光量を上記信号が示すことを利用して撮像を実現する撮像素子などがその例として挙げられる。
【0075】
図2に有機光電変換素子の態様例を示す。
図2の態様例の有機光電変換素子は、基板15と、基板15上に形成された下部電極14と、下部電極14上に形成された光電変換部13と、光電変換部13上に形成された上部電極12と、上部電極12上に形成された絶縁部11とを備えている。有機光電変換素子への入射光は、有機光電変換素子における光電変換部13以外の構成要素が光電変換部13の吸収波長の光を極度に邪魔しないものであれば、有機光電変換素子の上方及び下方のいずれの方向からの入射光でもよい。光電変換部13は、光電変換層、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層などの複数の層からなることが多いが、これに限定されるものではない。光電変換部13を構成する光電変換層、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層などの層としては、p型有機半導体からなる薄膜、n型有機半導体からなる薄膜、又はそれら有機半導体の混合薄膜(バルクヘテロ構造)が用いられ、各々、単一もしくは複数の薄膜で形成される。本発明の有機薄膜は主に図2中の光電変換部13として利用することができる。
【実施例】
【0076】
以下、一般式(1)で表される芳香族化合物を合成した実施例等により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
以下の実施例の操作において、不活性ガス下の反応や測定には無水蒸留した溶媒を用い、その他の反応や操作においては市販の一級または特級の溶媒を用いた。また、試薬は、必要な場合には無水蒸留等で精製した上で反応に用い、その他は市販の一級または特級の試薬をそのまま反応に用いた。
【0077】
以下の実施例で合成された芳香族化合物のプロトン核磁気共鳴スペクトル(以下、「1H−NMR」という)の測定は、核磁気共鳴装置(型式「LAMBDA 400」、日本電子株式会社製)を用いて化学シフトσの値(ppm)等を測定することにより行った。
【0078】
〔実施例1〕(下記式(11)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
窒素雰囲気下、内容量1Lのナスフラスコに、N,N’−ジオクチル−2−[2−(トリメチルシリル)エチニル]−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(4mmol)、硫化ナトリウム9水和物(24mmol)、酢酸(8mL)、及び2−メトキシエタノール(400mL)を加え、60℃で12時間攪拌した。室温まで冷却した反応液を水(400mL)に注ぎ入れ、析出した固体を濾取した。濾取した固体を水で洗浄し、さらにメタノールで洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製することにより、下記式(11)で表される芳香族化合物を橙色固体として得た。
【0079】
【化14】
【0080】
式(11)で表される芳香族化合物は、収率65%で得られた。
式(11)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=8.93(s,1H),8.63(s,2H),4.23−4.17(m,4H),1.80−1.72(m,4H),1.47−1.24(m,20H),0.89−0.86(m,6H),0.54(s,9H)
【0081】
〔実施例2〕(下記式(12)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
N,N’−ジオクチル−2−[2−(トリメチルシリル)エチニル]−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(4mmol)の代わりにN,N’−ビス(2−エチルへキシル)−2−[2−(トリメチルシリル)エチニル]−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(4mmol)を用いた以外は実施例1と同様の処理を行うことにより、下記式(12)で表される芳香族化合物を得た。
【0082】
【化15】
【0083】
式(12)で表される芳香族化合物は、収率56%で得られた。
式(12)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=8.95(s,1H),8.67(s,2H),4.22−4.10(m,4H),2.04−1.92(m,2H),1.43−1.24 (m,16H),0.96−0.86(m,12H),0.54(s,9H)
【0084】
〔実施例3〕(下記式(13)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
窒素雰囲気下、内容量300mLのナスフラスコに、実施例1で得られた式(11)で表される芳香族化合物(1.6mmol)、酢酸(1.2mL)、及びテトラヒドロフラン(120mL)を加え、0℃に冷却した。反応液にテトラ−n−ブチルアンモニウムフルオリド(約1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液、16mL)を加え、室温まで昇温し3時間撹拌した。反応液をメタノール(120mL)で希釈し、析出した固体を濾取した。濾取した固体をメタノールで洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、下記式(13)で表される芳香族化合物を橙色固体として得た。
【0085】
【化16】
【0086】
式(13)で表される芳香族化合物は、収率90%で得られた。
式(13)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=8.96(d,1H),8.84(s,2H),8.16(d,1H)4.29−4.24(m,4H),1.82−1.75(m,4H),1.48−1.29(m,20H),0.89−0.86(m,6H)
【0087】
〔実施例4〕(下記式(14)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
窒素雰囲気下、内容量100mLのナスフラスコに、実施例1で得られた式(11)で表される芳香族化合物(1.6mmol)、臭素(0.4mL)、及びジクロロメタン(40mL)を加え、40℃で15時間撹拌した。反応液に亜硫酸水素ナトリウム水溶液を加え、有機層をジクロロメタンで抽出した。抽出した有機層を蒸留乾固した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、下記式(14)で表される芳香族化合物を橙色固体として得た。
【0088】
【化17】
【0089】
式(14)で表される芳香族化合物は、収率76%で得られた。
式(14)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=8.64(s,2H),8.58(s,1H),4.15−4.10(m,4H),1.77−1.69(m,4H),1.46−1.28(m,20H),0.89−0.86(m,6H)
【0090】
〔実施例5〕(下記式(15)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
実施例1で得られた式(11)で表される芳香族化合物の代わりに実施例2で得られた式(12)で表される芳香族化合物を用いた以外は実施例4と同様の処理を行うことにより、下記式(15)で表される芳香族化合物を得た。
【0091】
【化18】
【0092】
式(15)で表される芳香族化合物は、収率64%で得られた。
式(15)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=8.88(s,2H),8.78(s,1H),4.22−4.11(m,4H),2.02−1.90(m,2H),1.43−1.31(m,16H),0.97−0.87(m,12H)
【0093】
〔実施例6〕(下記式(16)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
窒素雰囲気下、内容量50mLのナスフラスコに、実施例5で得られた式(15)で表される芳香族化合物(0.18mmol)、1,3,5−トリス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ベンゼン(21mg)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(8mg)、炭酸ナトリウム水溶液(2mol/L、0.75mL)、及び1,4−ジオキサン(10mL)を加え撹拌し、36時間加熱還流させた。室温まで冷却した反応液を水(100mL)に注ぎ入れ、析出した固体を濾取した。濾取した固体を水、メタノールで洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製することにより、下記式(16)で表される芳香族化合物を橙色固体として得た。
【0094】
【化19】
【0095】
式(16)で表される芳香族化合物は、収率58%で得られた。
式(16)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=9.22(s,3H),8.57(d,3H),8.53(d,3H),8.35(s,3H),4.34−4.17(m,12H),2.19−2.07(m,6H),1.48−1.29(m,48H),1.00−0.83(m,36H)
【0096】
〔実施例7〕(下記式(17)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
実施例5で得られた式(15)で表される芳香族化合物の代わりに実施例4で得られた式(14)で表される芳香族化合物を用い、1,3,5−トリス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ベンゼン(21mg)の代わりにN,N’−ビス(3−デシルペンタデシル)−2,6−ビス(トリメチルスタニル)ナフト[2,3−b:6,7−b’]ジチオフェン−4,5,9,10−ジイミド(120mg)を用いた以外は実施例6と同様の処理を行うことにより、下記式(17)で表される芳香族化合物を得た。
【0097】
【化20】
【0098】
式(17)で表される芳香族化合物は、収率76%で得られた。
式(17)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=9.40(s,2H),9.30(s,2H),8.41(s,4H),4.64(t,J=7.2Hz,4H),4.37−4.32(m,8H),2.13(brs,4H),1.97(m,4H),1.79−1.02(m,124H),0.86(t,J=7.2Hz,12H),0.78(m,12H)
【0099】
〔実施例8〕(下記式(18)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
実施例4で得られた式(14)で表される芳香族化合物の代わりに実施例5で得られた式(15)で表される芳香族化合物を用いた以外は実施例7と同様の処理を行うことにより、下記式(18)で表される芳香族化合物を得た。
【0100】
【化21】
【0101】
式(18)で表される芳香族化合物は、収率52%で得られた。
式(18)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=9.39(s,2H),9.33(s,2H),8.45(s,4H),4.60(t,J=7.2Hz,4H),4.35−4.29(m,8H),2.17(brs,4H),2.09(q,J=7.2Hz,4H),1.74−0.97(m,124H),0.88(t,J=7.2Hz,12H),0.77(t,J=7.2Hz,12H)
【0102】
〔実施例9〕(下記式(19)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
1,3,5−トリス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ベンゼン(21mg)の代わりに2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジ−n−オクチルフルオレン(58mg)を用いた以外は実施例6と同様の処理を行うことにより、下記式(19)で表される芳香族化合物を得た。
【0103】
【化22】
【0104】
式(19)で表される芳香族化合物は、収率56%で得られた。
式(19)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=9.29(s,2H),8.82−8.77(dd,4H),8.11(d,2H),7.99(s,2H),7.91(d,2H),4.34−4.17(m,8H),2.23(m,4H),2.06(d、4H)、1.54−1.43(m、30H)、1.22−1.05(m、24H),0.97(t、12H),0.89(t、12H),0.71(m、8H)
【0105】
〔実施例10〕(下記式(20)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
1,3,5−トリス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ベンゼン(21mg)の代わりに9−(9−ヘプタデカニル)−2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)カルバゾール(59mg)を用いた以外は実施例6と同様の処理を行うことにより、下記式(20)で表される芳香族化合物を得た。
【0106】
【化23】
【0107】
式(20)で表される芳香族化合物は、収率42%で得られた。
式(20)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=9.28(s,2H),8.81−8.76(m,4H),8.21−7.94(m,6H),4.81(m、1H)4.26(m,8H),2.52(m,2H),2.31−2.01(m、6H)、1.53−1.34(m,32H),1.22−1.05(m、24H),0.97−0.89(m、28H),0.89(m,6H)
【0108】
〔実施例11〕(下記式(21)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
1,3,5−トリス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ベンゼン(21mg)の代わりに2,2’,7,7’−テトラキス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9’−スピロビ[9H−フルオレン](36mg)を用いた以外は実施例6と同様の処理を行うことにより、下記式(21)で表される芳香族化合物を得た。
【0109】
【化24】
【0110】
式(21)で表される芳香族化合物は、収率59%で得られた。
式(21)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=9.15−9.10(m、4H)、8.74−8.71(m、8H)、8.30−7.98(m、12H)、7.47−7.38(m、2H)、4.16(m、16H)、1.96(m、8H)、1.53−1.25(m、64H)、0.91−0.82(m、48H)
【0111】
〔実施例12〕(下記式(22)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
窒素雰囲気下、内容量50mLのナスフラスコに、実施例4で得られた式(14)で表される芳香族化合物(0.15mmol)、ビス(トリメチルすず)(26mg)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(18mg)、及びトルエン(20mL)を加え105℃に加熱し10時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、析出した固体を濾取した。濾取した固体をo−ジクロロベンゼンより再結晶することにより、下記式(22)で表される芳香族化合物を赤色固体として得た。
【0112】
【化25】
【0113】
式(22)で表される芳香族化合物は、収率73%で得られた。
式(22)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,o−ジクロロベンゼン−d4)δ=9.53(s,2H),8.65(s,4H),4.34−4.17(m,8H),1.97−1.94(m,8H),1.57−1.30(m,40H),1.00−0.88(m,12H)
【0114】
〔実施例13〕(下記式(23)で表される本発明の芳香族化合物の合成)
実施例4で得られた式(14)で表される芳香族化合物の代わりに実施例5で得られた式(15)で表される芳香族化合物を用いた以外は実施例12と同様の処理を行うことにより、下記式(23)で表される芳香族化合物を得た。
【0115】
【化26】
【0116】
式(23)で表される芳香族化合物は、収率74%で得られた。
式(23)で表される芳香族化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定結果は以下のとおりであった。
1H−NMR(400MHz,o−ジクロロベンゼン−d4)δ=9.51(s,2H),8.64(s,4H),4.35−4.25(m,8H),2.19−2.12(m,4H),1.54−1.32(m,32H),1.02−0.86(m,24H)
【0117】
〔実施例14〕(有機薄膜トランジスタの作製)
本実施例では、図1(b)に示すトップコンタクトボトムゲート構造の有機薄膜トランジスタを作製した。まず、実施例7で得られた式(17)で表される芳香族化合物の1,2,4−トリクロロベンゼン溶液を用い、SiO2熱酸化膜(絶縁体層4)付きnドープシリコンウェハー(ゲート電極5及び基板6)に対し、スピンコート法により有機薄膜(半導体層2)をSiO2熱酸化膜上に作製した。
【0118】
次に、前記で得られた有機薄膜上にシャドウマスクを用いてAuを真空蒸着することにより、ソース電極1及びドレイン電極3を作製した。こうして得られた有機薄膜トランジスタのチャネルサイズは、チャネル長40μm、チャネル幅1.5mmであった。
【0119】
〔実施例15〕(有機薄膜トランジスタの作製)
式(17)で表される芳香族化合物の代わりに実施例12で得られた式(22)で表される芳香族化合物を用いた以外は実施例14と同様の処理を行うことにより、有機薄膜トランジスタを得た。
【0120】
〔実施例16〕(有機薄膜トランジスタの作製)
式(17)で表される芳香族化合物の代わりに実施例13で得られた式(23)で表される芳香族化合物を用いた以外は実施例14と同様の処理を行うことにより、有機薄膜トランジスタを得た。
【0121】
〔有機薄膜トランジスタの特性評価〕
有機薄膜トランジスタの性能は、ゲート電極5に電位をかけた状態でソース電極1とドレイン電極3との間に電位をかけた時にソース電極1とドレイン電極3との間に流れた電流値(ソース・ドレイン電流値)に依存する。この電流値を測定することでトランジスタの特性であるキャリア移動度を決めることができる。キャリア移動度は、絶縁体層4としてのSiO2熱酸化膜にゲート電界を印加した結果、半導体層2中に生じるキャリア種の電気的特性を表現する下記式(a)から算出することができる。
Id=Z×μ×Ci(Vg−Vt)2/2L・・・(a)
ここで、Idは飽和したソース・ドレイン電流値(A)、Zはチャネル幅(m)、Ciは絶縁体層4の電気容量(F)、Vgはゲート電位(V)、Vtはしきい電位(V)、Lはチャネル長(m)であり、μは決定するキャリア移動度(cm2/Vs)である。Ciは用いたSiO2熱酸化膜の誘電率、Z及びLは有機薄膜トランジスタのデバイス構造により決まり、Id及びVgは有機薄膜トランジスタの電流値の測定時に決まり、VtはId及びVgから求めることができる。式(a)に各値を代入することで、それぞれのゲート電位でのキャリア移動度を算出することができる。有機薄膜トランジスタの特性評価は、ケースレーインスツルメンツ社(Keithley Instruments, Inc.)製の4200型半導体パラメータアナライザを用いて、ソース電極1とドレイン電極3との間にドレイン電圧Vd=40Vをかけて行った。
【0122】
上記実施例14〜16で得られた有機薄膜トランジスタの特性を上記の方法で評価した。図3は式(23)で表される芳香族化合物を用いた実施例16で得られた有機薄膜トランジスタの伝達特性を示したものであり、表1は実施例14〜16で得られた有機薄膜トランジスタの特性評価結果を示したものである。
【0123】
【表1】
【0124】
〔実施例17〕(有機薄膜太陽電池素子の作製及び特性評価)
実施例9で得られた式(19)で表される芳香族化合物を用いて、図2に示す有機光電変換素子から絶縁部11を省いた構造の有機光電変換素子の一形態である有機薄膜太陽電池素子を作製した。具体的には、まず、負極としてのITO膜(下部電極14)がパターンニングされたガラス基板(基板15)を用意した。このガラス基板を十分に洗浄した後、ガラス基板にUVオゾン処理を施した。次に、ITO膜が設けられた側のガラス基板の表面に、0.5Mの酢酸亜鉛(II)二水和物とエタノールアミンとを2−メトキシエタノールに溶解した溶液を、3000rpmで30秒間のスピンコーティングにより塗布した。得られたガラス基板を200℃で30分間加熱することにより、電子輸送層あるいは電子取出層としてのZnO膜(光電変換部13の一部)を形成した。
【0125】
ZnO膜が成膜されたガラス基板をグローブボックス内に持ち込み、実施例9で得られた式(19)で表される芳香族化合物及び下記式(24)で表される化合物の両者を1:1の質量比で含むクロロベンゼン溶液を用いて、スピンコートによりZnO膜の表面に厚さ100nmの光電変換層(光活性層)(光電変換部13の他の一部)を形成した。その後、光電変換層の表面に、正孔輸送層あるいは正孔取出層としてのMoO3膜(光電変換部13のさらに他の一部)を成膜した。MoO3膜の厚さは7.5nmとした。続いて、MoO3膜の表面にAgを抵抗加熱型真空蒸着法により成膜し、正極としてのAg膜(上部電極12)を形成した。Ag膜の厚さは100nmとした。以上の工程により、本発明の有機光電変換素子(1)が得られた。有機光電変換素子(1)の大きさは、4mm角とした。
【0126】
【化27】
【0127】
ソーラシミュレータ(型式:XES−40S1、株式会社三永電機製作所製、AM1.5Gフィルター、放射照度100mW/cm2)を用いて、上記で得られた有機光電変換素子(1)に一定の光を照射し、発生する電流及び電圧を測定した。測定結果を図4に示した。図4の結果から、短絡電流密度Jsc(mA/cm2)、開放電圧Voc(V)、形状因子FFを得た。また、Jsc、Voc、及びFFから、下記式(b)に基づいて光電変換効率ηを算出した。得られた結果を表2に示した。
η=(Jsc×Voc×FF)/100・・・(b)
【0128】
〔実施例18〕(有機薄膜太陽電池素子の作製及び特性評価)
実施例9で得られた式(19)で表される芳香族化合物の代わりに実施例11で得られた式(21)で表される芳香族化合物を用い、光電変換層の厚さを100nmとした以外は実施例17と同様にして、本発明の有機光電変換素子(2)を作製した。得られた有機光電変換素子(2)について、実施例17と同様にして電流密度−電圧特性を測定した。測定結果を図5に示した。図5の結果から、Jsc、Voc、FF及びηを得た。得られた結果を表2に示した。
【0129】
〔実施例19〕(有機薄膜太陽電池素子の作製及び特性評価)
式(24)で表される化合物の代わりに下記式(25)で表される化合物を用い、クロロベンゼン溶液中の質量比を式(21)で表される芳香族化合物:式(25)で表される化合物=4:5とした以外は実施例18と同様にして、本発明の有機光電変換素子(3)を作製した。得られた有機光電変換素子(3)について、実施例18と同様にして電流密度−電圧特性を測定した。測定結果を図6に示した。図6の結果から、Jsc、Voc、FF及びηを得た。得られた結果を表2に示した。
【0130】
【化28】
【0131】
【表2】
【0132】
以上より、本発明の一般式(1)で表される芳香族化合物を含む有機薄膜を用いた有機半導体デバイスは、有機薄膜トランジスタ及び有機光電変換素子において優れた特性を有していることがわかった。このように本発明により高性能な有機半導体デバイスを作製することができ、これにより使用できるプロセスやアプリケーションの幅が拡がるなど工業的な価値が高いことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の芳香族化合物は、それを含む有機薄膜がN型トランジスタ特性及び光電変換特性に優れた性能を有しており、有機薄膜トランジスタとしての、メモリー回路デバイス、信号ドライバー回路デバイス、信号処理回路デバイスなどのデジタルデバイスへの応用、有機光電変換素子としての、有機太陽電池素子、有機撮像素子、光センサーやフォトンカウンター等のデバイスやそれらを利用した太陽電池、カメラ、ビデオカメラ、赤外線カメラ等のデバイスへの応用が期待される。
【符号の説明】
【0134】
1 ソース電極
2 半導体層
3 ドレイン電極
4 絶縁体層
5 ゲート電極
6 基板
7 保護層
11 絶縁部
12 上部電極
13 光電変換部
14 下部電極
15 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6