特許第6675612号(P6675612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675612
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】生分解性繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20200323BHJP
   D02J 1/22 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   D01F6/62 305Z
   D02J1/22 JZBP
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-55761(P2017-55761)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-159142(P2018-159142A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 稔久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀之
(72)【発明者】
【氏名】シティ サラ
(72)【発明者】
【氏名】福田 竜司
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/038373(WO,A1)
【文献】 特開2003−328230(JP,A)
【文献】 特開2003−328231(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133231(WO,A1)
【文献】 特開2002−371431(JP,A)
【文献】 特開2012−046831(JP,A)
【文献】 特開平05−321025(JP,A)
【文献】 特開平06−264305(JP,A)
【文献】 特開平06−264306(JP,A)
【文献】 特開平08−158158(JP,A)
【文献】 特許第3519480(JP,B2)
【文献】 特開平10−060099(JP,A)
【文献】 特開平03−051338(JP,A)
【文献】 特開2001−181928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/62
D01F 6/84
D02J 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性繊維の製造方法であって、
ポリヒドロキシアルカノエートを溶融押出してポリヒドロキシアルカノエート繊維を形成する第一工程と、
前記ポリヒドロキシアルカノエート繊維を、当該ポリヒドロキシアルカノエートのガラス転移温度+10℃以下の温度に急冷する第二工程と、
前記ポリヒドロキシアルカノエート繊維を、当該ポリヒドロキシアルカノエートのガラス転移温度+20℃以下の温度で保持する第三工程と、
前記ポリヒドロキシアルカノエート繊維にせん断応力を与えながら、室温環境下で当該繊維を連続的に延伸して、前記生分解性繊維を得る第四工程と、を含む、製造方法。
【請求項2】
第一工程において、溶融押出を145℃〜200℃で行なう、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第三工程において保持する時間が6時間〜120時間である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
第四工程において前記ポリヒドロキシアルカノエート繊維の引き取り速度が0.3m/分〜5m/分である、請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリヒドロキシアルカノエートがポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)である、請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート(以下、「PHA」と略記することがある)を原料とした生分解性繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック廃棄物が、生態系への影響、燃焼時の有害ガス発生、大量の燃焼熱量による地球温暖化等、地球環境に大きな負荷を与える原因になっていることが懸念されており、これを解決できるプラスチックとして、生分解性プラスチックの開発が盛んになっている。
【0003】
なかでも、植物由来の生分解性プラスチックは、これを燃焼させた際に出る二酸化炭素がもともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しないとされている。このことをカーボンニュートラルと称し、二酸化炭素の削減目標値を課したパリ協定の下、重要視され、植物由来の生分解性プラスチックの積極的な使用が望まれている。
【0004】
最近、生分解性およびカーボンニュートラルの観点から、植物由来の生分解性プラスチックとして脂肪族ポリエステルが注目されている。なかでも、PHA、特に、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合体、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)共重合体、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合体(以下、PHBHと略記する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合体等が注目されている。
【0005】
これらPHAの中でも、ポリ−3−ヒドロキシブチレートなどを繊維化する検討が進められてきたが、一般的な繊維と比較して市場の要求を満たすような機械的物性値を有するものは得られていなかった。また、PHAの中でも、特にPHBHは結晶化が遅いため、通常の溶融紡糸による繊維化が難しく、繊維の長さ方向における繊維形状が不安定で、不均一になる問題があった。
【0006】
特許文献1では、PHAを溶融押出機から押し出した直後にPHAのガラス転移温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、次いで該繊維をガラス転移温度+15℃以下に放置して結晶化繊維を作製し、該結晶化繊維を延伸し、さらに緊張熱処理して繊維の機械物性を向上させる方法が開示されている。
【0007】
特許文献2では、PHAを溶融押出機から押し出した直後にポリマーのガラス転移温度+15℃以下に急速に冷却、固化して非晶質の繊維を作製し、次いで該繊維をガラス転移温度+20℃以下で冷延伸し、さらに緊張熱処理して繊維の機械物性を向上させる方法が開示されており、特許文献3では、前記の冷延伸後に、ガラス転移温度以上でさらに延伸し、次いで、緊張熱処理する方法が開示されている。
【0008】
特許文献4では、PHAをガラス転移温度以上70℃以下で繊維化した後、延伸、及び熱処理する方法が開示されている。
【0009】
これら特許文献1〜4では、延伸の方法として、延伸機などに固定して延伸する方法と、巻き取りローラーなどで巻き取りながら延伸する方法が開示されている。
【0010】
特許文献5では、PHAを溶融押出機から押し出した直後にポリマーのガラス転移温度以下に急速に冷却し、次いで、ガラス転移温度以上の温度の湯浴槽を通過させて速やかに部分的な結晶化を促進し、ついで延伸し、その後、熱処理する方法が開示されている。
【0011】
特許文献6では、糸状体に張力を付与し、糸状体の直径が実質的に変化しない温度から糸状体にネッキングが生じる温度に昇温させることにより、糸状体をネッキング延伸して紡糸する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2006/038373号
【特許文献2】特開2003−328230号公報
【特許文献3】特開2003−328231号公報
【特許文献4】国際公開第2012/133231号
【特許文献5】特開2002−371431号公報
【特許文献6】特開2012−046831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1〜4に記載された上述の方法によると、PHBHのような結晶化が遅いポリマーでも紡糸が可能となり、独特の性質をもつ繊維を得ることができる。しかしながら、結晶化繊維を延伸機などに固定して延伸する方法では、得られる繊維の長さが延伸機のサイズに限定され、連続的に長繊維を取得することができない。また、巻き取りローラーなどで巻き取りながら延伸する方法では、繊維の長さ方向で繊維形状が不均一になり、これにより、延伸工程中ローラー間で結晶化繊維の延伸の起点が移動し、繊維の太さが不均一になったり、場合によっては延伸中に繊維の破断が生じることとなり、工業的な連続生産への適用に難点があった。
【0014】
また、特許文献5に記載された上述の方法では、溶融押出した直後にガラス転移温度以下に急冷後、直ちに湯浴槽で昇温するため、冷却と昇温を繰り返すための設備が必要となる。さらに延伸工程は最大結晶化温度±20℃前後で行うため、熱風で温度調節して延伸することが必要となり、総体として、使用エネルギー量の増加や無駄が非常に多い。この方法において仮に延伸工程を室温付近で行なった場合、紡糸が安定せず、連続的に紡糸できない。
【0015】
さらに、特許文献6に記載された上述の方法にてPHAを延伸紡糸すると、昇温によって繊維が溶融状態となり、延伸時の張力により繊維が破断してしまい、繊維を取得できないことがある。
【0016】
本発明は、上記現状に鑑み、溶融押出により形成されたPHA繊維の連続的な延伸において、使用エネルギーを抑制しながら、PHA繊維の長さ方向に繊維形状が安定し、かつ光沢を有するPHA繊維を連続的に製造できる方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行い、PHA繊維の連続的な延伸工程においてPHA繊維にせん断応力を与えながら延伸を行なうことで、室温環境での延伸工程において当該工程が安定し、PHA繊維の長さ方向に繊維形状が均一で、かつ光沢を有するPHA繊維が連続的に得られることを見出し、本発明に至った。 すなわち本発明は、生分解性繊維の製造方法であって、ポリヒドロキシアルカノエートを溶融押出してポリヒドロキシアルカノエート繊維を形成する第一工程と、前記ポリヒドロキシアルカノエート繊維を、当該ポリヒドロキシアルカノエートのガラス転移温度+10℃以下の温度に急冷する第二工程と、前記ポリヒドロキシアルカノエート繊維を、当該ポリヒドロキシアルカノエートのガラス転移温度+20℃以下の温度で保持する第三工程と、前記ポリヒドロキシアルカノエート繊維にせん断応力を与えながら、室温環境下で当該繊維を連続的に延伸して、前記生分解性繊維を得る第四工程と、を含む、製造方法に関する。
【0018】
第一工程において、溶融押出を145℃〜200℃で行なうことが好ましく、第三工程において保持する時間が6時間〜120時間であることが好ましい。また、第四工程において、前記せん断応力を与えるための荷重が0.5N〜5Nの範囲にあることが好ましく、第四工程において前記ポリヒドロキシアルカノエート繊維の引き取り速度が0.3m/分〜5m/分であることが好ましい。さらに、前記ポリヒドロキシアルカノエートはポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶融押出により形成されたPHA繊維の連続的な延伸において、PHA繊維の長さ方向に繊維形状が安定し、かつ光沢を有するPHA繊維を連続的に製造することができる。本発明により製造されたPHA繊維は、長さ方向における繊維形状及び繊維径に変動が無く均一であり、そのため、引張強度などの物性も長さ方向でバラツキがなく、均一性が高くなる利点がある。また、本発明の方法によると、溶融押出後に、繊維を加熱する工程が不要であるため、PHA繊維の製造において使用エネルギーを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の製造方法における溶融押出工程および急冷工程の一態様を示す概念図である。
図2】本発明の製造方法における延伸工程の一態様を示す概念図である。
図3】本発明の製造方法においてPHA繊維に荷重を加える方向の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明は、PHA〔ポリヒドロキシアルカノエート〕を主体とする生分解性繊維の製造方法に関する。本発明で用いられるPHAとは、ヒドロキシアルカン酸をモノマーとするポリエステルであるが、特に、式(1):[−CHR−CH−CO−O−](式中、RはC2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を含む脂肪族ポリエステルが好ましい。
【0023】
本発明におけるPHAの具体例としては、例えば、PHB〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、又はポリ3−ヒドロキシ酪酸〕、PHBH〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、又はポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−3−ヒドロキシヘキサン酸)〕、PHBV〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、又はポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−3−ヒドロキシ吉草酸)〕、P3HB4HB〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)、又はポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−4−ヒドロキシ酪酸)〕、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)、又はポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。これらのなかでも、工業的に生産が容易であるものとして、PHB、PHBH、PHBV、P3HB4HBが挙げられる。本発明においては、冷却保持工程で延伸に安定な結晶を生成するための結晶化速度の観点から、PHAとしてPHBHを用いることが好ましい。
【0024】
PHAは、柔軟性と強度の観点から、3−ヒドロキシブチレート単位を含むものが好ましい。なかでも、柔軟性と強度のバランスの観点から、PHAに含まれる3−ヒドロキシブチレート単位の平均組成比が80モル%〜99モル%を示すものがより好ましく、85モル%〜97モル%を示すものがさらに好ましい。3−ヒドロキシブチレート単位の平均組成比が80モル%未満であると剛性が不足する傾向があり、99モル%より多いと柔軟性が不足する傾向がある。
【0025】
本発明において、PHAは1種類のみを単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。また、PHAとしてPHBH等の共重合体を使用する場合には、3−ヒドロキシブチレート単位等のモノマー単位の平均組成比が異なる2種類以上の共重合体を混合して使用することもできる。 本発明で使用するPHAの分子量は、最終物のPHA繊維が目的とする用途で、実質的に十分な物性を示すものであればよく、特に限定されない。しかし、分子量が低いとPHA繊維の強度が低下する傾向があり、逆に高いと加工性が低下し、繊維化が困難になる場合があるので、それらを勘案して分子量を決定すればよい。この観点から、本発明で使用するPHAの重量平均分子量の範囲は、50,000〜3,000,000が好ましく、100,000〜1,500,000がより好ましい。なお、ここでの重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0026】
本発明で用いられるPHAの160℃、5kg荷重で測定したメルトフローレートは0.1〜100であることが好ましく、1〜50であることがより好ましく、10〜40であることがさらに好ましい。メルトフローレートが低すぎると、溶融樹脂の流動性が不十分となり、また、高すぎると流動性が高くなりすぎ、いずれにおいても繊維を引き取ることが難しくなる。
【0027】
本発明で使用するPHAのガラス転移温度は特に限定されないが、−30〜10℃が好ましい。本発明において、ガラス転移温度は、示差走査熱量分析で10℃/minの昇温速度にて測定される。
【0028】
PHAを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、PHA産生能を有する微生物によりPHAを産生させる方法が挙げられる。そのような微生物としては特に限定されないが、例えば、PHB生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumの他、カプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)等が挙げられる。また、3−ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、PHBVおよびPHBH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が挙げられる。特に、PHBH生産菌としては、PHBHの生産性を上げるためにPHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP−6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bacteriol.,179,p4821−4830(1997))が挙げられる。
【0029】
これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHAを蓄積させ、そのPHAを回収することでPHAを製造することができる。用いる微生物にあわせて、基質の種類を含む培養条件を最適化することができる。また、上掲した微生物以外にも、生産したいPHAに合わせて、各種PHA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み替え微生物を培養してPHAを製造することもできる。
【0030】
本発明において生分解性繊維を製造するにあたっては、PHAのみを溶融押出してもよいし、PHAに、PHA以外のポリマー成分や、各種添加剤を配合したものを溶融押出してもよい。これらの成分の添加量は、PHA繊維の特性を損なわない範囲であれば特に限定されない。
【0031】
PHA以外のポリマー成分としては、生分解性を有するポリマー成分が好ましく、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、未変性デンプン、変性デンプン、酢酸セルロース、キトサン等が挙げられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これら他のポリマー成分を配合する場合には、その配合量は、PHA100重量部に対し他のポリマー成分0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、より好ましくは1〜10重量部程度であればよい。
【0032】
本発明で使用できる添加剤としては特に限定されないが、例えば、可塑剤、滑剤、無機充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料などの着色剤、帯電防止剤、結晶化速度を調整するための核剤等が挙げられる。
【0033】
上記の滑剤としては特に限定されないが、例えば、ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどのアルキレン脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、酸化ポリエステルワックス、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノラウレートなどのグリセリンモノ脂肪酸エステル、コハク酸飽和脂肪酸モノグリセライドなどの有機酸モノグリセライド、ソルビタンベヘネート、ソルビタンステアレート、ソルビタンラウレートなどのソルビタン脂肪酸エステル、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンラウレート、テトラグリセリンステアレート、テトラグリセリンラウレート、デカグリセリンステアレート、デカグリセリンラウレートなどのポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアリルステアレートなどの高級アルコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。上記滑剤の中でも、入手のし易さや効果の高さの点で、脂肪酸アミド、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
【0034】
上記の可塑剤としては特に限定されないが、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエートなどの変性グリセリン系化合物、ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸エステル系化合物、ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレートなどのポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸2−エチルヘキシル、セバシン酸系モノエステルなどが挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。上記可塑剤の中でも、入手のし易さや効果の高さの点で、変性グリセリン系化合物、ポリエーテルエステル系化合物が好ましい。
【0035】
上記の無機充填剤としては特に限定されないが、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク、クレー、合成珪素、カーボンブラック、硫酸バリウム、マイカ、ガラス繊維、ウィスカー、炭素繊維、炭酸マグネシウム、ガラス粉末、金属粉末、カオリン、グラファイト、二硫化モリブデン、酸化亜鉛などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を含有することができる。上記無機充填剤の中でも、効果の高さの点で、酸化チタン、炭酸カルシウムが好ましい。
【0036】
上記の核剤としては特に限定されないが、例えば、窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、金属リン酸塩などの無機物、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、アラビトールのような天然物由来の糖アルコール化合物、ペンタエリスリトール、ポリビニルアルコール、キチン、キトサン、ポリエチレンオキシド、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルセバケートのようなジカルボン酸誘導体、インジゴ、キナクリドン、キナクリドンマゼンタのようなC=OとNH、SおよびOから選ばれる官能基を分子内に有する環状化合物、ビスベンジリデンソルビトールやビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトールのようなソルビトール系誘導体、ピリジン、トリアジン、イミダゾールのような窒素含有ヘテロ芳香族核を含む化合物、リン酸エステル化合物、高級脂肪酸のビスアミド、高級脂肪酸の金属塩、分岐状ポリ乳酸、低分子量ポリ3−ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。上記核剤の中でも、結晶化速度の改善効果や生分解性繊維に混合する観点から、ペンタエリスリトール、糖アルコール化合物、ポリビニルアルコール、キチン、キトサンが好ましく、なかでも、ペンタエリスリトールが好ましい。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。 本発明の生分解性繊維の製造方法は、少なくとも第一工程(溶融押出工程)、第二工程(急冷工程)、第三工程(冷却保持工程)、及び第四工程(延伸工程)を、この順で含み、これにより、PHAから、延伸された生分解性繊維を連続的に製造する。
【0037】
まず第一工程では、溶融押出機を用いてポリヒドロキシアルカノエートを連続的に溶融押出して溶融状態のポリヒドロキシアルカノエート繊維(以下、溶融フィラメントともいう)を形成する。溶融押出機としては、溶融紡糸方法において通常使用される一般的な装置を用いることができる。溶融押出機のシリンダー温度及びダイ出口温度に関しては、使用するPHAの分子量やモノマー組成に応じてPHAの溶融粘度が適度に保たれるように調節すればよい。溶融押出機から押し出される溶融フィラメントの溶融粘度は、繊維の巻き取りに適した張力が保持され、かつ冷却及び結晶固化が可能な範囲に収めることが好ましい。
【0038】
第一工程における溶融押出時の温度については、溶融フィラメントの溶融粘度の観点から調節すればよく、特に限定されないが、好ましくは、145℃〜200℃であり、より好ましくは、150℃〜190℃である。ここで、溶融押出時の温度とは、溶融押出機のシリンダー温度及びダイ出口温度の双方を含む。溶融押出時の温度が145℃より低いと、溶融フィラメント中に融解していない成分が存在するために紡糸が不安定になる場合がある。一方、200℃より高いと、樹脂の熱分解が起き易くなるので、紡糸が安定せず、また、得られる繊維の物性が損なわれる場合がある。
【0039】
次に第二工程では、第一工程で押し出された溶融フィラメントを、溶融押出機のダイ出口の外側に設けられた繊維冷却ゾーンにおいて急冷する。この工程において、溶融フィラメントは、溶融押出時の温度未満の温度であって、使用しているPHAのガラス転移温度+10℃以下の温度に急冷される。好ましくは、PHAのガラス転移温度+5℃以下の温度に、より好ましくは、PHAのガラス転移温度以下の温度に急冷される。急冷温度の下限値は特に限定されないが、ガラス転移温度−40℃以上であることが好ましい。この工程により、溶融フィラメントの表面が固化される。
【0040】
溶融フィラメントを急冷する方法としては、例えば、冷却筒などの中に溶融フィラメントを導いて冷空気で冷却する方法や、溶融フィラメントを冷媒中に浸漬する方法等が挙げられる。より具体的には、冷媒中に巻き取りロールを設置しておき、その冷媒中で前記巻き取りロールに溶融フィラメントを巻き取ることで、溶融フィラメントを急冷する方法が挙げられる。
【0041】
図1は本発明の溶融押出工程及び急冷工程の一形態を示す概念図である。この図では、溶融押出装置3のダイ出口から押し出した溶融フィラメント1を冷媒2中に導いて急冷し、冷媒2中に設置した巻き取りロール4に巻き取っている。
【0042】
次いで、第三工程では、第二工程で急冷したPHA繊維を、PHAのガラス転移温度+20℃以下という低温で、一定時間、冷却保持する。冷却保持する際の温度は、PHAのガラス転移温度+10℃以下が好ましく、PHAのガラス転移温度+5℃以下がより好ましく、PHAのガラス転移温度以下がさらに好ましい。冷却保持の温度の下限値は特に限定されないが、ガラス転移温度−40℃以上であることが好ましい。また、冷却保持の温度は、第二工程の急冷工程における温度と同じであってもよいし、異なる温度であってもよい。この工程により、PHAの結晶化が進行し、次の延伸工程を安定して実施することができる。この冷却保持工程は、第二工程の繊維冷却ゾーンで実施してもよいし、第二工程の繊維冷却ゾーンとは異なる冷却保持ゾーンにおいて実施してもよい。
【0043】
冷却保持を継続する時間は、次の延伸工程が安定して行なえるようPHAの結晶化が十分に進行するような時間であればよいが、具体的には、6時間〜120時間が好ましく、12時間〜72時間がより好ましい。保持時間が6時間より短い場合は、PHAの結晶化が十分に進行せず、その後の延伸が安定しない場合がある。一方、120時間を超えて保持しても、冷却保持工程により得られる効果が頭打ちになる。
【0044】
冷却保持工程は、PHA繊維をロールに巻き取った状態で行なってもよいし、巻き取らずに例えばロール間で保持した状態で行なってもよい。しかし、工程の簡便さの観点から、第二工程でPHA繊維を巻き取りロールに巻き取った状態のまま、第二工程で使用した冷媒中で保持して実施することが好ましい。
【0045】
第四工程は、第三工程で冷却保持した後のPHA繊維を、連続的に延伸して、目的の生分解性繊維を得る工程である。連続延伸は室温環境下で行なう。具体的には、第三工程で冷却保持してあるPHA繊維を、室温環境下に設置してある引き取りロールに連続的に引き取りながら延伸を行なってもよいし、第三工程で冷却保持したPHA繊維を一旦、室温環境に取り出してから、延伸を行なってもよい。工程の簡便さから、冷媒中で巻き取りロールに巻き取られた状態にあるPHA繊維を、室温環境下の引き取りロールに連続的に引き取りながら延伸を行なうことが好ましい。
【0046】
ここで、室温環境とは、屋内における通常の温度範囲にあることをいい、例えば0℃以上40℃以下、好ましくは10℃以上30℃以下である。本発明は延伸工程を室温環境下で行い、延伸時にPHA繊維を加熱する必要がない。本発明によると、溶融押出後に、繊維を加熱する工程が不要であるため、PHA繊維の製造において使用エネルギーを抑制することができる。
【0047】
本発明の延伸工程では、PHA繊維に荷重をかけることでPHA繊維にせん断応力を与えながら連続的な延伸を行なう。PHA繊維にせん断応力を与えながら延伸をすることで、PHA繊維にズリ変形が加えられ、PHAの配向結晶化が生じて、連続的に安定して延伸を実施することができ、より長いPHA繊維を製造することが可能となる。しかも、得られるPHA繊維は、繊維の長さ方向に繊維形状及び繊維径が均一であり、光沢を有するという利点がある。
【0048】
本発明において、PHA繊維を延伸するための張力を付与する方法としては特に限定されず、適宜選択可能であるが、例えば、引き取り速度を調整可能な引き取りロールを用いてPHA繊維を引き取ることによる張力付与方法、巻き取り機による張力付与方法、無端ベルトにより引き取ることによる張力付与方法などが挙げられる。これらの中でも、安定した張力を付与できる点で、引き取りロールによる張力付与方法が好ましい。この際、延伸は、PHA繊維にせん断応力を与えつつ、引き取りロールにPHA繊維を引き取ることで実施するが、PHA繊維を延伸するための張力は、PHA繊維にせん断応力を与える(前記荷重をかける)点から、引き取られる点までの間で付与されることになる。
【0049】
PHA繊維にせん断応力を付与する方法としては、せん断応力を与える点を起点としてPHA繊維が延伸され、PHAの配向結晶化が生じる方法であれば特に限定されないが、例えば、ばねの反発力、錘による重力、ねじなどによる締め付け、空気圧、水圧、油圧などによる圧縮力などを用いて、PHA繊維の延伸方向とは異なる方向に、せん断応力を付与する方法が挙げられる。せん断応力を与えるためPHA繊維に荷重をかける方向としては、PHA繊維の延伸方向に対して傾斜する方向又は垂直な方向が好ましく、繊維の延伸方向に対して垂直な方向がより好ましい。
【0050】
図2は、本発明の延伸工程の一形態を示す概念図である。この図では、冷媒2中で巻き取りロール4に巻き取られた状態にあるPHA繊維を、室温環境下に設置した引き取りロール5で連続的に引き取っている。両ロール間で室温環境下にばね6を設置し、上方から荷重をかけたばね6により繊維の上方から繊維に荷重をかけることで、引き取れつつある繊維にせん断応力を与えている。繊維にせん断応力を与える点7から、引き取りロール5に引き取られる点8までの間で、繊維に張力が付与され、繊維が延伸されることになる。
【0051】
図3は、繊維に荷重をかける方向の概念図である。この図では繊維の断面を示しており、紙面に垂直方向が繊維の流れ方向(延伸方向)である。荷重をかける方向は限定されず、例えば、図3上図のように、繊維の延伸方向に対して直交する1本の線上から対向するように荷重を加えてもよいし、直交する複数の線上から、荷重を加えてもよい。
【0052】
延伸工程でせん断応力を与えるためのPHA繊維にかける荷重としては、目的とするPHA繊維が得られる荷重であれば特に限定されないが、0.5N〜5Nの範囲にある荷重が好ましく、1N〜3Nの範囲にある荷重がより好ましい。荷重が0.5Nより低い場合は本発明の延伸工程により達成される効果が不十分となる場合があり、5Nより高い場合は、PHA繊維が延伸中に破断することがあり、繊維を安定して得られなくなる場合がある。
【0053】
延伸工程において、引き取りロールによるPHA繊維の引き取り速度は、目的とする繊維が得られる速度であれば限定されないが、0.3m/分〜5m/分であることが好ましく、0.5m/分〜3m/分であることがより好ましい。引き取り速度が0.3m/分より低い場合は、延伸は可能であるが、工業的に生産効率が悪く、5m/分より高くなると、PHA繊維が延伸中に破断することがあり、繊維を安定して得られなくなる場合がある。
【0054】
本発明の延伸工程では、PHA繊維に対してせん断応力が与えられ、そこを起点としてPHA繊維に張力が付与されて、PHA繊維の延伸が行なわれる。この点で、単に2つのロール間のPHA繊維に張力をかけて延伸を行なう従来の延伸とは相違する。PHA繊維にせん断応力を与えた後に、実質的に延伸することにより、PHA繊維中のPHA分子鎖が均一に配向結晶化して、繊維の長さ方向に繊維形状及び繊維径が均一で、光沢を有するPHA繊維を得ることができる。
【0055】
本発明の延伸工程で達成されるPHA繊維の延伸倍率は特に限定されないが、例えば、1.1倍から20倍が好ましく、さらに好ましくは1.5倍から10倍が好ましい。延伸倍率は引き取りロールによる引き取り速度で制御することができる。また、本発明により、繊維長が10m以上のPHA繊維を、破断させずに、連続的に製造することができる。
【0056】
本発明により得られる生分解性繊維は、公知の繊維と同様、農業、漁業、林業、衣料、非衣料繊維製品(例えばカーテン、絨毯、鞄など)、衛生品、園芸、自動車部材、建材、医療、食品産業、その他の分野において好適に使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0058】
各実施例及び比較例では以下の方法により各評価を行なった。
【0059】
(連続延伸性)
連続延伸性は、繊維を連続的に延伸できるか否かを以下の基準に基づき評価した。
○:繊維長が10m以上の繊維を連続延伸できる。
△:繊維長が1m以上の繊維を連続延伸できるが、繊維長10m以下で破断する。
×:繊維長が1m以上の繊維を連続延伸できない(引き取りロールに引き取ることができない)。
【0060】
(繊維光沢)
繊維光沢は、延伸工程後の繊維に光沢があるかどうかを目視で観察して、以下の基準に基づき評価した。
○:光沢が見られる。
×:光沢が見られない。
【0061】
(繊維の均一性)
繊維の均一性は、延伸工程後の繊維の外観を、繊維の長さ方向における繊維径または繊維形状の変動の観点で目視で観察して、以下の基準に基づき評価した。
○:繊維の長さ方向に繊維径および繊維形状が均一である。
△:繊維の長さ方向に繊維径は均一であるが、繊維形状にムラがある。
×:繊維の長さ方向に繊維径にムラがあり、繊維形状も不均一である。
【0062】
<製造例1>PHBHの製造
培養生産にはKNK−005株(米国特許第7384766号明細書を参照)を用いた。
【0063】
種母培地の組成は1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4、(pH6.8)とした。
【0064】
前培養培地の組成は1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、1.29w/v% (NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの。)、とした。炭素源としてはパーム油を10g/Lの濃度で一括添加した。
【0065】
PHBH生産培地の組成は0.385w/v% Na2HPO4・12H2O、0.067w/v% KH2PO4、0.291w/v% (NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの。)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0066】
まず、KNK−005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0067】
次に、前培養液を、6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−1000型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源としてパーム油を使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0068】
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHBHを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHBHをろ別後、50℃で3時間真空乾燥し、PHBHを得た。
【0069】
得られたPHBHの3HH組成は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥PHBH20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHBH分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μLを注入した。温度条件は、初発温度100℃から200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200℃から290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)のモノマー比率が5.4モル%のPHBHであった。GPCで測定した重量平均分子量Mwは35万であり、融点は141℃、ガラス転移温度は0℃であった。
【0070】
(実施例1)
図1に示すように、丸型押出ノズルを備えた溶融押出装置3を用いて、溶融紡糸温度を190℃として、製造例1で得られたPHBHを繊維状に連続的に溶融押出した。押し出された繊維1を、氷水で0℃に保持した冷媒2中で、巻き取りロール4に巻き取って急冷を行い、非晶質繊維を得た。巻き取りロールに巻き取られた非晶質繊維を、当該冷媒中で、0℃で24時間保持し、結晶化を進行させ、結晶化繊維を得た。
【0071】
次いで、図2に示すように、得られた結晶化繊維11を、室温環境下(冷媒2外)に設置してある引き取りロール5に連続的に引き取りながら延伸を行った。引き取りロール5による繊維の引き取り速度は1m/minに設定した。また、巻き取りロール4と引き取りロール5との間で室温環境下に、結晶化繊維にせん断応力を与えるばね6を設置した。このばね6の上方から荷重をかけて、2Nの荷重を繊維に与えた。このばねによりせん断応力を与える点7を起点とし、引き取りロール5による引き取り点を終点として、繊維の延伸を行なった。以上の延伸によりPHA繊維を得た。繊維の延伸倍率は9倍であった。
【0072】
(実施例2)
延伸工程における荷重を1Nに変更した以外は実施例1と同様にしてPHA繊維を得た。
【0073】
(実施例3)
保持工程における保持時間を12時間に変更し、延伸工程における引き取り速度を2m/minに変更した以外は実施例2と同様にしてPHA繊維を得た。
【0074】
(実施例4)
急冷工程及び保持工程における冷媒の温度を−10℃に変更し、保持工程における保持時間を72時間に変更した以外は実施例1と同様にしてPHA繊維を得た。
【0075】
(比較例1)
急冷工程における冷媒の温度を20℃に変更した以外は実施例1と同様にしてPHA繊維を得た。
【0076】
(比較例2)
保持工程を行なわなかった以外は実施例1と同様にしてPHA繊維を得た。
【0077】
(比較例3)
保持工程における冷媒の温度を30℃に変更した以外は実施例1と同様にしてPHA繊維を得た。
【0078】
(比較例4)
保持工程における冷媒の温度を80℃に変更した以外は実施例1と同様にしてPHA繊維を得た。
【0079】
(比較例5)
延伸工程において、荷重を与えず、引き取り速度を2m/minに変更した以外は実施例1と同様にしてPHA繊維を得た。
【0080】
各実施例及び比較例で得られたPHA繊維を、上述の方法により評価し、その結果を表1に示した。
【0081】
【表1】
【符号の説明】
【0082】
1 繊維
2 冷媒
3 溶融押出装置
4 巻き取りロール
5 引き取りロール
6.ばね
7.せん断応力を与える点
11 結晶化繊維
図1
図2
図3