特許第6675650号(P6675650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6675650塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材用繊維シートならびにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675650
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材用繊維シートならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/40 20060101AFI20200323BHJP
   D21H 17/36 20060101ALI20200323BHJP
   D21H 17/37 20060101ALI20200323BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20200323BHJP
   D21H 19/24 20060101ALI20200323BHJP
   D21H 19/22 20060101ALI20200323BHJP
   E04C 2/24 20060101ALI20200323BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20200323BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20200323BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   D21H13/40
   D21H17/36
   D21H17/37
   D21H19/20 C
   D21H19/24 B
   D21H19/22
   E04C2/24 R
   B05D1/28
   B05D7/00 F
   B05D7/24 301F
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-139822(P2018-139822)
(22)【出願日】2018年7月9日
(65)【公開番号】特開2019-15016(P2019-15016A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2018年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2017-144913(P2017-144913)
(32)【優先日】2017年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104009
【氏名又は名称】オリベスト株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白波瀬 克広
(72)【発明者】
【氏名】徳山 隆晃
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−046485(JP,A)
【文献】 特開昭55−016901(JP,A)
【文献】 実開昭62−114100(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00−16/00
19/00−23/18
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
E04C2/00−2/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも無機繊維およびバインダーからなる無機繊維紙であって、前記バインダーがアクリル酸エステル系合成樹脂とポリビニルアルコール樹脂との混合物であり、アクリル酸エステル系合成樹脂とポリビニルアルコール樹脂の混合比が固形分(乾燥質量)比で50/50〜20/80である前記無機繊維紙に、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂又はアクリル樹脂の水系合成樹脂エマルジョンのうち、1種以上のものを塗工してなる繊維シートであり、且つ塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材であることを特徴とする繊維シート。
【請求項2】
無機繊維紙の片面又は両面に、前記水系合成樹脂エマルジョンが、固形分量(乾燥質量)として5g/m以上塗工されたことを特徴とする請求項1に記載の繊維シート。
【請求項3】
無機繊維紙の坪量が20g/m以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の繊維シート。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の繊維シートにおいて、無機繊維紙が無機繊維およびバインダーの他、有機繊維として木材パルプおよびポリステル系合成繊維が配合されてなる繊維シート。
【請求項5】
無機繊維とバインダーからなる無機繊維紙であって、バインダーがアクリル酸エステル系合成樹脂とポリビニルアルコール樹脂との混合物であり、アクリル酸エステル系合成樹脂とポリビニルアルコール樹脂の混合比が固形分(乾燥質量)比で50/50〜20/80である前記無機繊維紙を抄紙法により準備する工程と、準備された前記無機繊維紙にウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂又はアクリル樹脂の水系合成樹脂エマルジョンのうち、1種以上のものを塗工する工程を含む、塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材である繊維シートの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の繊維シートの製造方法において、前記水系合成樹脂エマルジョンの塗工手段がキスコート塗工方法又はマングルコート塗工方法であることを特徴とする繊維シートの製造方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の繊維シートの製造方法において、無機繊維紙が抄紙法により準備されたものであり、さらにオンラインにて水系合成樹脂エマルジョンが塗工されることを特徴とする繊維シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙法により製造される無機繊維紙に塩化ビニル樹脂との接着性が良好な水系合成樹脂エマルジョンを塗工することで、非発泡塩化ビニルゾルを使用すること無く、塩化ビニル樹脂シートと熱圧着加工して製造される塩化ビニル製建材の中間補強材(内材)として有用な繊維シートに関する。
【従来技術】
【0002】
建材等に多く使用されている無機繊維紙は、加工時に塩化ビニルゾルを含浸又は塗工加工され、主に中間補強材(内材)として利用されている。(例えば、特許文献1参照)含浸又は塗工された塩化ビニルゾルはゲル化され、一つのシートとなる。このシートに、熱及び圧力を加えることで塩化ビニル樹脂シートと接着が可能となり、同時に無機繊維紙(特にガラス繊維紙)の持つ寸法安定性も与える。
【0003】
しかし、塩化ビニルゾルに含まれる可塑剤の移行(ブリード現象)により、接着される塩化ビニル樹脂シートを通して建材表面に浸出し、建材表面を変色させたり、建材を施工するために使用される接着剤の性能(接着性能)を低下させる等の問題が発生している。
【0004】
近年、可塑剤についてもブリード現象が発生しにくいものが開発・使用されているが、同現象は依然として発生しているのが現状である。
【0005】
更に、塩化ビニルゾルを含浸又は塗工する際、その粘度にもよるが少量の塩化ビニルを含浸又は塗工することは比較的困難である。塩化ビニルゾルを調合する際に、可塑剤の割合を高くして粘度を下げれば、少量の含浸又は塗工は可能であるが、ブリード現象が一層発生しやすくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−8038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抄紙法により製造される無機繊維紙に塩化ビニル樹脂と接着性が良好な水系合成樹脂エマルジョンを塗工することで、ブリード現象の原因である可塑剤を含む非発泡塩化ビニルゾルを使用することなく、熱圧着させることで塩化ビニル樹脂シートと接着可能な、ブリード現象の発生しない塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材(内材)用繊維シートを提供することを課題とする。また、塩化ビニルゾルでは困難であった少量の塗工にて塩化ビニル樹脂シートと熱圧着加工可能であるため、塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材(内材)としてさらに有用な繊維シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
繊維シートが、少なくとも無機繊維およびバインダーからなる無機繊維紙に、塩化ビニル樹脂との接着性の良い水系合成樹脂エマルジョンを塗工してなり、且つ塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材であることを特徴とする。(本発明1)好ましくは、水系合成樹脂エマルジョンが、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂又はアクリル樹脂の水系合成樹脂エマルジョンのうち、1種以上のものからなることを特徴とする本発明1に記載の繊維シート(本発明2)であり、無機繊維紙の片面又は両面に塩化ビニル樹脂との接着性が良い水系合成樹脂エマルジョンが、固形分量(乾燥質量)として5g/m以上塗工されたことを特徴とする本発明1又は本発明2に記載の繊維シートである。(本発明3)無機繊維紙の坪量が20g/m以上であることを特徴とする本発明1から本発明3の何れか1項に記載の繊維シート(本発明4)であり、本発明1から本発明4の何れか1項に記載の繊維シートにおいて、無機繊維紙に、有機繊維として木材パルプやポリエステル繊維が配合されてなる繊維シートである。(本発明5)本発明1から本発明5の何れか1項に記載の繊維シートにおいて、繊維シートの無機繊維紙に使用するバインダーが疎水性を有する樹脂と親水性を有する樹脂の混合物であり、疎水性を有する樹脂と親水性を有する樹脂の混合比が固形分(乾燥質量)比で50/50〜20/80であることを特徴とする繊維シート(本発明6)である。また、本発明の繊維シートの製造方法において、無機繊維とバインダーからなる無機繊維紙を抄造法により準備する工程と、準備された無機繊維紙に塩化ビニル樹脂との接着性が良い水系合成樹脂エマルジョンを塗工する工程とを含む、塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材である繊維シートの製造方法である。(本発明7)本発明7に記載の繊維シートの製造方法において、水系合成樹脂エマルジョンの塗工手段がキスコート塗工方法又はマングルコート塗工方法であることを特徴とする繊維シートの製造方法(本発明8)であり、さらに、本発明8に記載の繊維シートの製造方法において、無機繊維紙が抄紙法により準備されたものであり、さらにオンラインにて水系合成樹脂エマルジョンが塗工されることを特徴とする繊維シートの製造方法である(本発明9)。本発明7から本発明9の何れか1項に記載の繊維シートの製造方法において、繊維シートの無機繊維紙に使用するバインダーが疎水性を有する樹脂と親水性を有する樹脂の混合物であり、疎水性を有する樹脂と親水性を有する樹脂の混合比が固形分(乾燥質量)比で50/50〜20/80であることを特徴とする繊維シート(本発明10)。
【0009】
以下に詳細に説明する。本発明では、塩化ビニルゾルを使用せずに塩化ビニル樹脂シートと接着可能な塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材用繊維シートを提供するにはどうあるべきか、鋭意取り組んだ。その結果、原紙の無機繊維紙においては、少なくとも、ガラス繊維等の無機繊維とアクリル樹脂等のバインダーから構成され、この無機繊維紙に、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、又はエチレン−酢酸ビニル樹脂等の塩化ビニル樹脂との接着性が良好な水系合成樹脂エマルジョンを表面に塗工することで塩化ビニル樹脂シートと接着可能な繊維シートができる。さらに、無機繊維紙の片面又は両面に上記の水系合成樹脂エマルジョンを固形分量(乾燥質量)で5g/m以上塗工されたものであり、塩化ビニルゾルを塗工しなくても、従来通りに、塩化ビニル樹脂シートと熱圧着加工することにより製造可能な塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材(内材)として有用な繊維シートを提供することが可能である。
【0010】
本発明の繊維シートの塩化ビニル樹脂と接着性が良好な水系合成樹脂エマルジョンを塗工する無機繊維紙について述べる。この無機繊維紙は、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール等の無機繊維を主体とした基材と、バインダーから構成される。この無機繊維紙には必要に応じて有機繊維を混抄することもできる。
【0011】
本発明で用いられる無機繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール等の抄造法で一般的に使用される無機繊維を必要に応じて選択出来る。中でも、抄造法にて使用し易いガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、折れ難く、繊維シート形成能力があれば何れのガラス繊維でもよいが、ガラス組成タイプとして、Eガラス、Aガラス、Cガラス、ARGガラス等の何れの組成タイプでも良く、繊維径としては6〜18μm、繊維長としては3〜25mmが通常適当である。また、建材用途であり、コンクリートと接触する可能性も高いため、耐アルカリ性に優れ、安価なEガラス繊維を用いる方がより好ましい。
【0012】
本発明の繊維シートの無機繊維紙に使用できる有機繊維について述べる。有機繊維は、無機繊維紙の目詰めを高めて、水系合成樹脂エマルジョン塗工加工性の向上を実現するために使用される。この有機繊維としては、ポリエステル系、アクリル系、塩化ビニル系、アラミド系、オレフィン系の合成繊維や木材パルプ、綿等の天然繊維の他、抄紙法で無機繊維と通常混抄できるものが使用できる。尚、木材パルプ、綿等の天然繊維については、無機繊維紙の目詰めを高めるために叩解処理を行ったものが有利である。さらに、有機繊維としては、無機繊維紙の目詰めが良好なポリエステル系合成繊維と木材パルプの併用が好ましく、無機繊維紙の目詰めを高められる範囲の比率で併用できる。ポリエステル系合成繊維/木材パルプ固形分(乾燥質量)比率としては、10/90〜70/30の範囲がより好ましい。また、本発明の繊維シートの無機繊維紙については、水系合成樹脂エマルジョン塗工に問題無ければ、有機繊維を使用しないものも可能である。
【0013】
本発明の繊維シートの無機繊維紙については、無機繊維紙の目詰めを高めるために充填材を使用できる。充填材としては、カオリンクレー、重質炭酸カルシウム、タルク等の無機系充填材の他、合成樹脂粉末等の有機系充填材も使用できる。該充填材については、バインダーに混合したり、抄造時に無機繊維や有機繊維と混抄する等の方法により、本発明の繊維シートの無機繊維紙に使用することができる。
【0014】
尚、本発明における「無機繊維紙の目詰め」とは、水系合成樹脂エマルジョンを無機繊維紙に塗工し易くするために、無機繊維紙の繊維間空隙が有機繊維および/または充填材で埋められた状態にすることを意味する。
【0015】
本発明の繊維シートの無機繊維紙に使用できるバインダーについて述べる。バインダーは、無機繊維紙にて通常使用される合成樹脂系ならびに天然系のバインダーであり、例えばポリビニルアルコール樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂や澱粉等の天然系のものが使用できる。バインダーは、水溶液、エマルジョン、粉末などの形態のものが用いられる。また、必要に応じて、これらのバインダーを任意の量で混合配合して使用することができる。
【0016】
本発明の繊維シートの無機繊維紙の組成比率であるが、必須成分である無機繊維ならびにバインダーについては、無機繊維が5〜95質量%、バインダーが3〜30質量%の比率範囲で使用され、有機繊維および充填材については、併せて0〜60質量%の範囲で使用できる。しかし、水系合成樹脂エマルジョン塗工加工性(加工強度、塗膜平滑性など)を考慮すると、無機繊維が15〜85質量%、バインダーが5〜25質量%、有機繊維および充填材が併せて5〜60質量%の範囲がより好ましい。(尚、組成比率は、全て乾燥質量を基準とする。)尚、水系合成樹脂エマルジョン塗工加工性における「加工」とは、水系合成樹脂エマルジョンを付着させた後、熱風乾燥機などで乾燥・固化することをいう。さらに、このような乾燥・固化するための加熱により、水が加熱されて高温となり、無機繊維紙の強度を下げる場合があるが、水系合成樹脂エマルジョン塗工加工性における「加工強度」とは、このような、高温の水にさらされた無機繊維紙の物理的強度(例えば、引張強度)を意味する。
【0017】
本発明の繊維シートの無機繊維紙に使用できるバインダーについては、疎水性を有する樹脂と親水性を有する樹脂の混合物としたものとすることにより、塩化ビニル樹脂との接着性の良い水系合成樹脂エマルジョンの無機繊維紙に対する塗工加工性を向上でき、さらに塩化ビニル樹脂シートとの接着性を高めることができる。
【0018】
本発明の繊維シートは無機繊維紙に塩化ビニル樹脂との接着性の良い水系合成樹脂エマルジョンを塗工して製造される。塗工は、段落「0033」に記載の方法にて実施されるが、無機繊維紙に水系合成樹脂エマルジョンを適当量付着させた後、加熱乾燥・固化させて製造される。従って、無機繊維紙には高温水に対する物理的強度が必要となる。(水系合成樹脂エマルジョン塗工加工性の加工強度)高温水に対する物理的強度の観点から言えば、アクリル樹脂などの疎水性を有する樹脂のバインダーを使用することが有利となるが、疎水性を有する樹脂のバインダーは、無機繊維紙に対する水系合成樹脂エマルジョンの表面張力を高くし、濡れ性や浸透性を悪くする。このため、無機繊維紙に対する水系合成樹脂エマルジョンの塗膜平滑性が低下し、塩化ビニル樹脂に対する接着性が低くなる。
【0019】
逆にポリビニルアルコール樹脂などの親水性を有する樹脂バインダーを使用した場合、無機繊維紙に対する水系合成樹脂エマルジョンの濡れ性や浸透性が向上し、無機繊維紙に対する水系合成樹脂エマルジョンの塗膜平滑性が良くなり、塩化ビニル樹脂に対する接着性が向上する。また、本発明の繊維シートを塩化ビニル樹脂製建材に加工した場合、熱圧着加工する塩化ビニル樹脂シートに含有する可塑剤の影響により、無機繊維紙のバインダーが可塑化され、繊維シートの寸法安定性能が低下する場合がある。この場合、アクリル樹脂などの疎水性を有する樹脂よりも、ポリビニルアルコール樹脂の方が可塑剤による可塑化程度が極めて小さいのでより有利である。しかし、親水性を有する樹脂は水、特に高温水にさらされると膨潤・溶融し易い。このため、無機繊維紙の高温水に対する物理的強度が低下することになるので、塗工の乾燥工程において、バインダーの膨潤・溶融の影響によるシワや断紙が発生し、生産効率が悪くなる。
【0020】
従って、無機繊維紙のバインダーとして、アクリル樹脂などの疎水性を有する樹脂とポリビニルアルコール樹脂などの親水性を有する樹脂の混合物とすることにより、塩化ビニル樹脂との接着性の良い水系合成樹脂エマルジョン塗工に関わる性能、すなわち、エマルジョン付着状態と高温水に対する物理的強度が両立できる。疎水性を有する樹脂と親水性を有する樹脂に関わる混合比としては、50/50〜20/80が適当である。(固形分重量比。固形分重量は乾燥質量とする。)
【0021】
無機繊維紙のバインダーに使用する疎水性を有する樹脂については、段落「0015」に挙げられたものにおいて、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの合成樹脂が適当である。その中でもアクリル樹脂が疎水性および価格の点で有利である。また、上記段落「0019」にも記載があるが、疎水性樹脂であるアクリル樹脂についても、熱圧着加工する塩化ビニル樹脂シート中の可塑剤の影響により、無機繊維紙のバインダーが可塑化される。特に、アクリル樹脂は可塑化の影響が大きくなるが、この場合、アクリル樹脂でもアクリル酸エステル系合成樹脂が、可塑剤による可塑化の影響が少なくなるのでより有利である。
【0022】
無機繊維紙のバインダーに使用する親水性を有する樹脂については、段落「0015」に挙げられたものにおいて、ポリビニルアルコール樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂などの合成樹脂が適当である。その中でもポリビニルアルコール樹脂が高い親水性と価格の点で有利である。また、ポリビニルアルコール樹脂でも鹸化度が高く(98%以上)、重合度900〜1300のものが、無機繊維紙の物理的強度が高くなり、親水性も良好となるのでより有利である。
【0023】
疎水性を有する樹脂と親水性を有する樹脂バインダーを併用することについては、疎水性合成樹脂として段落「0021」に記載のアクリル酸エステル系合成樹脂と、親水性合成樹脂として高鹸化度98%以上ならびに重合度900〜1300のポリビニルアルコール樹脂の混合物とするものが好ましい。疎水性を有する樹脂と親水性を有する樹脂の併用バインダーに関わる混合比としては、50/50〜20/80(固形分重量比。固形分重量は乾燥質量とする。)が好ましい。
【0024】
尚、アクリル樹脂などの疎水性を有する樹脂とポリビニルアルコール樹脂などの親水性を有する樹脂の混合物である無機繊維紙のバインダーについては、塩化ビニル樹脂と接着性の良い水系合成樹脂エマルジョン塗工に関わる高温水に対する無機繊維紙の物理的強度向上を目的として、バインダー樹脂に架橋剤や硬化剤などの強度向上剤を添加しても良い。この場合、無機繊維紙に対する水系合成樹脂エマルジョンの塗膜平滑性を低下させないようにすることが必要である。
【0025】
すなわち、段落「0015」から段落「0024」に記載のバインダーを使用した無機繊維紙については、塩化ビニル樹脂との接着性の良い水系合成樹脂エマルジョン塗工に関わる性能、塗膜平滑性と高温水に対する物理的強度を両立できる。こうして製造された繊維シートは、水系合成樹脂エマルジョンは無機繊維紙の表面および内部に適度に濡れ・浸透し、水系合成樹脂が無機繊維紙の表面に平滑に付着するだけでは無く、全体にムラ無く、内部にまで付着するため、繊維シートの層間強度が向上する。さらに、塩化ビニル樹脂シートを接着した場合、接着強度がさらに向上する。また、本発明の繊維シートを塩化ビニル樹脂製建材に加工した場合、熱圧着加工する塩化ビニル樹脂シートに含有する可塑剤による無機繊維紙バインダーの可塑化程度がかなり少なく、繊維シートの寸法安定性能の低下を抑えられる。
【0026】
本発明の繊維シートの無機繊維紙の抄造法について述べる。湿式法、乾式法のどちらでも製造可能であるが、坪量や厚みが比較的均一であり、地合いも良好な湿式法が水系合成樹脂エマルジョン塗工するのに有利であり、好ましい製造方法である。
【0027】
本発明の繊維シートに含まれる水系合成樹脂エマルジョンについて述べる。水系合成樹脂エマルジョンの合成樹脂については、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂又はアクリル樹脂等のものが使用できる。これらの合成樹脂については、ホモポリマータイプの他、共重合体タイプや変性体タイプの合成樹脂からなるエマルジョンも使用できる。必要に応じて、これらの水系合成樹脂エマルジョン同士を任意の割合で混合できる。
【0028】
無機繊維紙に塗工された水系合成樹脂エマルジョンの樹脂被膜は熱圧着加工時に加熱され軟化される。この軟化状態が適切な状態にないと、塩化ビニル樹脂シートとの熱圧着加工が良好にできない。すなわち、塗工された樹脂被膜の加熱軟化状態が高ければ、熱圧着加工機付属設備(送りロールなど)の金属表面に接触して付着・汚染する可能性があるし、逆に塗工された合成樹脂被膜の加熱軟化状態が低ければ、塩化ビニル樹脂シートとの接着が不良となる。このため、発明者が検討を加えた結果、適切な加熱軟化状態にできるものとして、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体樹脂のエマルジョンを使用することが好ましく、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂のガラス転移点(Tg)が50〜70℃の範囲にあるタイプを使用することがより好ましいことが判った。
【0029】
発明者がさらに検討を加えた結果、上記の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体エマルジョンにエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンを一定量混合すると、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂被膜の塩化ビニル樹脂シートへの接着力が高くなることが判明した。この混合比率であるが、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョン/エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンの比率が固形分量(乾燥質量)比率として95/5〜60/40の範囲が好ましい。
【0030】
さらに、上述の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンとエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンの混合物にウレタン樹脂エマルジョンを少量添加すると、熱圧着加工の加熱温度がより低い条件(140℃設定)でも塩化ビニル樹脂シートとの接着性を損なうこと無く熱圧着加工でき、熱圧着加工設備の金属表面に樹脂被膜が付着しにくくなり、設備汚染を防げるので、さらに好ましい態様であることが判った。尚、ウレタン樹脂エマルジョンの添加比率であるが、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンとエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンの混合物に対して、ウレタン樹脂が0.5〜7質量%との比率範囲で添加されることが好ましい。(組成比率は、全て乾燥質量を基準とし、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンとエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンの混合物塗工固形分量を100%としている。)
【0031】
本発明の繊維シートに含まれる水系合成樹脂エマルジョンには、カオリンクレー、重質炭酸カルシウム、タルク、合成樹脂粉末等の充填材を必要に応じて使用することができる。また、ブロッキング防止剤、造膜剤、防カビ剤、帯電防止剤等、その他の添加剤に関しても、必要に応じて使用することができる。
【0032】
本発明の繊維シートに含まれる水系合成樹脂エマルジョンの塗工量について述べる。無機繊維紙の表面に、塩化ビニル樹脂シートとの接着性のよい水系合成樹脂エマルジョンを好ましくは固形分量(乾燥質量)で5〜100g/m塗工するとよい。固形分量(乾燥質量)で5g/m以上塗工することによって、無機繊維紙の表面に水系合成樹脂エマルジョンの乾燥皮膜が形成され、熱及び圧力を加えることで、塩化ビニル樹脂シートとの接着が可能な繊維シートが出来る。
【0033】
本発明の繊維シートに含まれる水系合成樹脂エマルジョンを塗工する際の塗工方法について述べる。塗工方法として、キスコート法、マングルコート法、グラビア法、リバース法などの各種塗工方法が使用できる。
【0034】
次に、本発明の繊維シートの製造方法について説明する。本発明の繊維シートの製造方法は、原紙となる無機繊維紙を準備する工程と、準備された無機繊維紙に塩化ビニル樹脂と接着性が良い水系合成樹脂エマルジョンを塗工する工程を含む製造方法である。無機繊維紙を準備する工程は、段落「0026」に記載の通り、湿式や乾式の抄紙法による工程にて準備される。抄紙法の中でも湿式抄紙法による工程が、無機繊維紙の水系合成樹脂エマルジョン塗工加工性が良く、好ましい工程である。湿式抄紙法による工程には、湿式抄紙法として通常使用される抄紙機が使用でき、例えば、長網式抄紙機、円網式抄紙機、短網式抄網機、短網式と円網を組み合わせたコンビネーション式抄網機などが使用できる。本発明の繊維シートの無機繊維紙については、無機繊維紙の準備に有利な傾斜ワイヤー方式の長網式抄紙機が好適である。
【0035】
さらに、前記の繊維シートの製造方法において、準備された無機繊維紙に塩化ビニル樹脂と接着性が良い水系合成樹脂エマルジョンを塗工する工程について述べる。塗工工程については、段落「0033」に記載の通り、キスコート法、マングルコート法、グラビア法、リバース法などの各種塗工方法が実施可能であり、これらの方法に準じた塗工機を使用できる。塗工工程については、塗工量、及び塗工液の粘度に応じて適切な塗工方法および塗工機を選択すればよいが、どうすれば水系合成樹脂エマルジョンを少ない量で効率良く塗工できるか検討した。その結果、キスコート法による工程を採用すれば、塗液の濃度・粘度のほかロールの回転数、スムージングロールを調節することで塗工量の調節が可能であることがわかった。場合によってはマングルコート法による工程も採用できる。
【0036】
さらに、本発明の繊維シートの製造方法において、原紙の無機繊維紙を準備する工程と、準備された無機繊維紙に水系合成樹脂エマルジョンを塗工する工程について、段落「0035」に記載されている工程にて塗工されるが、二つの工程は別ラインとなることが一般的である。しかし、これらの2つの工程を同時に実施できるオンラインが製品歩留や価格の面で有利な製造方法である。段落「0034」に記載された抄紙機、特に、水系合成樹脂エマルジョン塗工に有利な無機繊維紙を準備できる湿式抄紙機に、段落「0035」に記載の塗工方法に準じた塗工機を付属すると、本発明の繊維シートを高品質、安価にて製造できるので、より好ましい製造方法となる。
【0037】
上記の段落「0036」における「オンライン」については、無機繊維紙を準備する工程と、準備された無機繊維紙に水系合成樹脂エマルジョンを塗工する工程が、一つの製造工程(一体の機械設備)となっており、二つの工程を同時に連続して実施できる製造方法のことを意味する。
【0038】
上記の段落「0034」から段落「0037」に記載された繊維シートの製造方法については、前記(段落「0009」から段落「0033」に記載)の内容の繊維シートに適用できる。
【発明の効果】
【0039】
塩化ビニルゾルを使用することなく、塩化ビニル樹脂シートとの接着が良好であり、塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材として有用な繊維シートが出来た。また、この繊維シートを高品質かつ安価に製造する方法を確立できた。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下において、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、以下の実施例および比較例における質量%および坪量は、全て乾燥質量を基準とする。
【0041】
(接着強度)
以下の実施例および比較例における接着強度は、熱プレス機にて、上下のプレス板を140℃に設定して30kgf/cm×30秒の圧力・時間で熱プレス(ラミネート)を行った場合(熱プレス条件1)と、上下のプレス板を160℃に設定して30kgf/cm×30秒の圧力・時間で熱プレス(ラミネート)を行った場合(熱プレス条件2)、この2条件における塩化ビニル樹脂シートと繊維シートの剥離強度(T形剥離強さ:JIS K 6854−3:1999)を指す。
【実施例1】
【0042】
平均繊維径13μmおよび繊維長25mmのガラス繊維82質量%、並びにアクリル樹脂18質量%からなる無機繊維紙を長網式抄紙機にて湿式抄造し、坪量30g/mの無機繊維紙を得た。この無機繊維紙に、オンラインでキスコート法にて塩化ビニル樹脂−酢酸ビニル共重合体樹脂(ガラス転移点:60℃)とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比として2/1で混合したものを片面に固形分量(乾燥質量)として5g/mとなるように塗工して、塩化ビニル樹脂シートとの接着性のよい繊維シートを得た。
【実施例2】
【0043】
平均繊維径13μmおよび繊維長25mmのガラス繊維82質量%、並びにアクリル樹脂18質量%からなる無機繊維紙を長網式抄紙機にて湿式抄造し、坪量30g/mの無機繊維紙を得た。この無機繊維紙に、オンラインでキスコート法にて塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(ガラス転移点:70℃)とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比として70/30で混合し、さらにウレタン樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比率として5質量%添加したものを片面に固形分量(乾燥質量)として10g/mとなるように塗工して、塩化ビニル樹脂シートとの接着性のよい繊維シートを得た。
【実施例3】
【0044】
平均繊維径13μmおよび繊維長25mmのガラス繊維82質量%、並びにアクリル樹脂18質量%からなる無機繊維紙を長網式抄紙機にて湿式抄造し、坪量30g/mの無機繊維紙を得た。この無機繊維紙に、オンラインでキスコート法にて塩化ビニル樹脂−酢酸ビニル共重合体樹脂(ガラス転移点:60℃)とエチレン−酢酸ビニル樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比として2/1で混合したものを片面に固形分量(乾燥質量)として20g/m塗工して、塩化ビニル樹脂シートとの接着性のよい繊維シートを得た。
【実施例4】
【0045】
平均繊維径13μmおよび繊維長25mmのガラス繊維82質量%、並びにバインダーとしてポリビニルアルコール樹脂及びアクリル樹脂18質量%からなる無機繊維紙を長網式抄紙機にて湿式抄造し、坪量30g/mのガラス繊維紙を得た。ポリビニルアルコール樹脂とアクリル系合成樹脂の混合比については、75/25(固形分重量比)とした。この無機繊維紙に、オンラインでキスコート法にて塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(ガラス転移点:70℃)とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比として70/30で混合し、さらにウレタン樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比率として5質量%添加したものを両面に固形分量(乾燥質量)として合計20g/m塗工して、塩化ビニル樹脂シートとの接着性のよい繊維シートを得た。
【実施例5】
【0046】
平均繊維径10μmおよび繊維長13mmのガラス繊維62質量%、木材パルプ20質量%、ポリエステル系合成繊維10質量%、並びにバインダーとしてポリビニルアルコール樹脂及びアクリル樹脂バインダー8質量%からなる無機繊維紙を長網式抄紙機にて湿式抄造し、坪量40g/mの無機繊維紙を得た。ポリビニルアルコール樹脂とアクリル系合成樹脂の配合比については、75/25(固形分重量比)とした。この無機繊維紙に、オンラインでキスコート法にて塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(ガラス転移点:70℃)とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比として70/30で混合し、さらにウレタン樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比率として5質量%添加したものを片面に固形分量(乾燥質量)として50g/m塗工して、塩化ビニル樹脂シートとの接着性のよい繊維シートを得た。
【実施例6】
【0047】
平均繊維径13μmおよび繊維長25mmのガラス繊維82質量%、並びにバインダーとしてポリビニルアルコール樹脂及びアクリル樹脂18質量%からなる無機繊維紙を長網式抄紙機にて湿式抄造し、坪量30g/mのガラス繊維紙を得た。アクリル系合成樹脂については、アクリル酸エステル系合成樹脂を使用した。ポリビニルアルコール樹脂については、鹸化度98%、重合度600のものを使用した。ポリビニルアルコール樹脂とアクリル系合成樹脂の配合比については、70/30(固形分重量比)とした。オンラインでキスコート法にて塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(ガラス転移点:70℃)とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比として70/30で混合し、さらにウレタン樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比率として5質量%添加したものを両面に固形分量(乾燥質量)として合計20g/m塗工して、塩化ビニル樹脂シートとの接着性のよい繊維シートを得た。
【実施例7】
【0048】
平均繊維径13μmおよび繊維長25mmのガラス繊維82質量%、並びにバインダーとしてポリビニルアルコール樹脂及びアクリル樹脂18質量%からなる無機繊維紙を長網式抄紙機にて湿式抄造し、坪量30g/mのガラス繊維紙を得た。ポリビニルアルコール樹脂については、鹸化度98%、重合度1000のものを使用した。アクリル系合成樹脂については、アクリル酸エステル系合成樹脂を使用した。ポリビニルアルコール樹脂とアクリル系合成樹脂の配合比については、70/30(固形分重量比)とした。オンラインでキスコート法にて塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(ガラス転移点:70℃)とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比として70/30で混合し、さらにウレタン樹脂の水系合成樹脂エマルジョンを固形分(乾燥質量)比率として5質量%添加したものを両面に固形分量(乾燥質量)として合計20g/m塗工して、塩化ビニル樹脂シートとの接着性のよい繊維シートを得た。
【0049】
(比較例1)
平均繊維径13μmおよび繊維長25mmのガラス繊維82質量%、並びにアクリル樹脂18質量%からなる無機繊維紙を長網式抄紙機にて湿式抄造し、坪量30g/mの無機繊維紙を得た。この無機繊維紙に、マングルコート法で塩化ビニルゾルを固形分量として70g/m塗工した。
【0050】
(比較例2)
平均繊維径13μmおよび繊維長25mmのガラス繊維82質量%、並びにアクリル樹脂18質量%からなる無機繊維紙を長網式抄紙機にて湿式抄造し、坪量30g/mの無機繊維紙を得た。この無機繊維紙に、マングルコート法で塩化ビニルゾルを固形分量として100g/m塗工した。
【0051】
実施例および比較例で得られた繊維シートの性能評価を、以下の試験方法により行った。
<繊維シートの接着性>
上記の実施例および比較例で作製した繊維シート(長さ200mm×幅50mm)と塩化ビニル樹脂シートを熱プレスで圧着させて得られたシートを長さ180mm×幅30mmにカットし、断面を酢酸エチルに浸漬し、塩化ビニル樹脂シートと繊維シートの剥離の起点を作った。このシート試験体について、日本工業規格「T形剥離強さJIS K 6854−3:1999」に準拠した方法でT形剥離強度を引張試験機にて測定し、その値を繊維シートと塩化ビニル樹脂シートとの接着強度とした(試験速度:200mm/min)。その結果を、以下の表1に示す。尚、接着強度の測定点数はN=5とした。尚、接着性評価については、◎:かなり良好、○:良好、×:不良であることを示す。
【0052】
【表1-1】
【表1-2】
【0053】
本発明の具体的態様を以下の通り説明する。[1]本発明は、少なくとも無機繊維およびバインダーからなる無機繊維紙に塩化ビニル樹脂との接着性の良い水系合成樹脂エマルジョンを塗工してなる繊維シートであり、且つ塩化ビニル樹脂製建材の中間補強材であることを特徴とする繊維シートである。
【0054】
[2]前記水系合成樹脂エマルジョンが、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂又はアクリル樹脂の水系合成樹脂エマルジョンのうち、1種以上のものからなることを特徴とする[1]に記載の繊維シートである。
【0055】
[3]無機繊維紙の片面又は両面に塩化ビニル樹脂との接着性が良い水系合成樹脂エマルジョンが、固形分量(乾燥質量)として5g/m以上塗工されたことを特徴とする[1]又は[2]に記載の繊維シートである。
【0056】
[4]無機繊維紙の坪量が20g/m以上であることを特徴とする[1]から[3]の何れかに記載の繊維シートである。
【0057】
[5][1]から[4]の何れかに記載の繊維シートにおいて、無機繊維紙が無機繊維およびバインダーの他、目詰め目的のために有機繊維として木材パルプおよびポリステル系合成繊維が配合されてなる繊維シートである。
【0058】
[6][1]から[5]の何れかに記載の繊維シートにおいて、水系合成樹脂エマルジョンの塗工手段がキスコート塗工方法又はマングルコート塗工方法であることを特徴とする繊維シートの製造方法である。
【0059】
[7][6]に記載の繊維シートの製造方法において、無機繊維紙が抄紙法により製造されたものであり、さらにオンラインにて水系合成樹脂エマルジョンが塗工されることを特徴とする繊維シートの製造方法である。