特許第6675690号(P6675690)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6675690生分解性樹脂成形品、及びその製造方法並びにこれに用いられるペレット体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6675690
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】生分解性樹脂成形品、及びその製造方法並びにこれに用いられるペレット体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20200323BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20200323BHJP
   C08K 3/012 20180101ALI20200323BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20200323BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20200323BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20200323BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20200323BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08K3/26
   C08K3/012
   C08K7/18
   C08J5/18CFD
   B65D1/00
   !C08L101/16
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-202229(P2018-202229)
(22)【出願日】2018年10月26日
【審査請求日】2019年8月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 貴彦
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−063008(JP,A)
【文献】 特開平11−028776(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/082639(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/129668(WO,A1)
【文献】 特開2010−006885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00−13/08
C08J 5/18
B65D 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する生分解性樹脂組成物で構成されるものである生分解性樹脂成形品であって、
前記重質炭酸カルシウム粒子のJIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した平均粒子径が、1.0μm以上10.0μm以下であり、
前記重質炭酸カルシウム粒子のBET比表面積が、0.1m/g以上10.0m/g以下であり、
前記生分解性樹脂組成物が、乳酸、重量平均分子量3,000以下の乳酸オリゴマー、及び分岐状ポリ乳酸からなる群より選択される可塑剤を含有するものであり、かつ、
前記可塑剤が、前記生分解性樹脂成形品全体の質量を100%とした場合に1〜5質量%の割合で含有されている、生分解性樹脂成形品。
【請求項2】
前記重質炭酸カルシウム粒子の真円度が、0.50以上0.95以下である請求項1に記載の生分解性樹脂成形品。
【請求項3】
重質炭酸カルシウム粒子がその表面部において部分酸化されているものである請求項1又は2に記載の生分解性樹脂成形品。
【請求項4】
前記生分解性樹脂が、ポリ乳酸を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性樹脂成形品。
【請求項5】
前記生分解性樹脂が、重量平均分子量(Mw)50,000以上300,000以下のポリL−乳酸を、樹脂成分全体の10〜100質量%の割合で含むものである生分解性樹脂組成物で構成されるものである請求項1〜4のいずれかに記載の生分解性樹脂成形品。
【請求項6】
生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する生分解性樹脂組成物よりなる層の少なくとも一方の表面を、生分解性樹脂よりなる表面層により被覆してなる積層構造を有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の成形品。
【請求項7】
前記成形品がシートである請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性樹脂成形品。
【請求項8】
前記成形品が容器体である請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性樹脂成形品。
【請求項9】
生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する生分解性樹脂組成物よりなるペレット体であって、
前記重質炭酸カルシウム粒子のJIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した平均粒子径が、1.0μm以上10.0μm以下であり、
前記重質炭酸カルシウム粒子のBET比表面積が、0.1m/g以上10.0m/g以下であり、
前記生分解性樹脂組成物が、乳酸、重量平均分子量3,000以下の乳酸オリゴマー、及び分岐状ポリ乳酸からなる群より選択される可塑剤を含有するものであり、かつ、
前記可塑剤が、前記生分解性樹脂組成物全体の質量を100%とした場合に1〜5質量%の割合で含有されている、ペレット体。
【請求項10】
生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する生分解性樹脂組成物を20〜110℃の温度で成形してなる生分解性樹脂成形品の製造方法であって、
前記重質炭酸カルシウム粒子のJIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した平均粒子径が、1.0μm以上10.0μm以下であり、
前記重質炭酸カルシウム粒子のBET比表面積が、0.1m/g以上10.0m/g以下であり、
前記生分解性樹脂組成物が、乳酸、重量平均分子量3,000以下の乳酸オリゴマー、及び分岐状ポリ乳酸からなる群より選択される可塑剤を含有するものであり、かつ、
前記可塑剤が、前記生分解性樹脂成形品全体の質量を100%とした場合に1〜5質量%の割合で含有されている、生分解性樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
延伸処理を行うことなく成形するものである請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
上記生分解性樹脂組成物を、ニ軸押出機により140〜220℃で溶融混練後、Tダイにてシート状に成形するものである請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
上記生分解性樹脂組成物を、ニ軸押出機により140〜220℃の温度で溶融混練後、金型温度20〜110℃に保持された金型に注入して成形するものである請求項10又は11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂成形品、及びその製造方法並びにこれに用いられるペレット体に関する。詳しく述べると、本発明は、環境下における生分解性、特に海洋生分解性に優れた生分解性樹脂成形品、及びその製造方法並びにこれに用いられるペレット体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリ乳酸に代表される生分解性樹脂は、環境中加水分解や微生物代謝といった作用により自然界に元来存在する物質へとなることから、環境に優しい樹脂として注目され、多く利用されると共に今後の利用の拡大が求められている樹脂である。
【0003】
ポリ乳酸は、汎用性プラスチックに匹敵する機械的強度を有しているが、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される石油化学系ポリエステルと比較すると耐熱性に乏しい。また、比較的良好な硬度を有するが、柔軟性や加工性に欠け、比重が高く軽量性に劣るという面もある。
【0004】
また一般的に、生分解性樹脂は製造コストが高くて価格的に高価となり、石油化学系プラスチックから代替されて普及していくには、この点も大きな課題である。
【0005】
さらに、生分解性を有すると言っても、ポリ乳酸等の生分解性樹脂からなる成形品は、律速である加水分解反応が、特に常温付近において比較的緩慢であり、微生物が資化するまでには時間がかかり、特に容器等の成形品においては、成形品表面から酵素の作用による分解が進行するため、成形品を形成している生分解性樹脂が完全に分解するに至るまで著しく時間を要することとなり、その生分解性という特性が十分に活かされておらず、特に海洋汚染性等を考慮した場合においては、改善の余地が大きい。
【0006】
このように生分解性樹脂を用いた製品の普及においては、未だ数多くの課題が残されており、現在に至るまで種々の研究開発が多くなされている。そのうちの方向性のひとつとして、それぞれ掲げる課題は異なるところのあるものの、生分解性樹脂に充填剤粒子を配合するということ、さらにこの生分解性樹脂に充填剤粒子配合した組成物をシート状に成形後に延伸を加えて、充填剤粒子と生分解性樹脂マトリックスの間に空隙を形成する技術が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1においては、医療用分野に用いられる通気性フィルムとして、充填剤粒子と生物分解性樹脂との混合物を含み、延伸によって、前記充填剤粒子の周りに空隙が形成されて水蒸気の透過が容易にされたことを特徴とする通気性フィルムが開示されている。この特許文献1においては、充填剤粒子は、延伸により当該粒子回りに独立気泡の空隙、すなわち、通気性は有するが通液性はない空隙形成のために主として利用されている。
【0008】
また、特許文献2においては、主成分としてのポリ乳酸系樹脂、並びにその他の成分として前記ポリ乳酸系樹脂に非相溶な熱可塑性樹脂、及び充填剤を含有するフィルムを、少なくとも1方向に延伸してなり、延伸後の空隙率が5%以上24%未満であり、80℃の温水中に10秒間浸したときの主収縮方向の収縮率が20%以上である熱収縮性フィルムが開示されている。この特許文献2においては、延伸によりポリ乳酸系樹脂とこれに非相溶な熱可塑性樹脂との界面に空隙を形成するものとされ、充填剤は前記空隙による遮光性の発揮の補助目的のために利用されている。
【0009】
さらに特許文献3においては、ポリ乳酸系樹脂及び充填剤を含む第1の層と、その第1の層の少なくとも片面にポリ乳酸系樹脂を主体とする第2の層を有し、フィルム全体の見かけ比重が1.1g/cm以下であることを特徴とするポリ乳酸系フィルムが開示されている。この特許文献3においても、充填剤は、延伸により当該粒子回りに空隙を形成し、空隙形成による軽量化を図るために利用されている。
【0010】
また、特許文献4においては、結晶性ポリ乳酸が主成分であるポリ乳酸と可塑剤と無機質充填材とを構成成分とする樹脂組成物が長さ方向に延伸されることで、この延伸にもとづく無機質充填材の表面とポリ乳酸との界面剥離による空隙が存在していることを特徴とするポリ乳酸系梱包バンドが開示されている。この特許文献4においては、結晶性ポリ乳酸が主成分であるポリ乳酸を使用することで、生分解性と腰強さとを付与し、可塑剤を配合することでポリ乳酸の可塑化を促して柔軟性を付与し、さらに無機質充填材を配合し、前記樹脂組成物を長さ方向に延伸することで、この延伸にもとづく無機質充填材の表面とポリ乳酸との界面剥離による空隙を形成して、さらなる柔軟性を付与し、また、無機質充填材は、滑剤としての効果も有するものとしている。
【0011】
さらに特許文献5においては、特定の生分解性樹脂に対し50質量%〜75質量%の高配合で平均粒径0.5〜40μmの充填剤粒子を均一に配合してなるマスターバッチが提案されており、このものは充填剤粒子を45質量%以下で配合してなる生分解性樹脂組成物からなる成形品において、充填剤を均一に配合するために用いられるものとされている。
【0012】
このように特許文献1、3、4に示されるような技術においては、生分解性樹脂に充填剤粒子を配合し、延伸を加えることで、充填剤粒子回りに空隙を形成し、この空隙形成による、樹脂製品の軽量化、柔軟性、ガス透過性等を向上させるものであり、また特許文献2に示される技術においても、充填剤粒子は実質的に遮光性助剤としての機能を持たせるのみに用いられているものであった。このため、生分解性樹脂組成物中に配合される充填剤粒子は、その添加量として比較的少なく、環境下における生分解性の向上や、耐熱性向上の面における改善は期待できないものであった。また、特許文献5に示されるような技術においては、充填剤粒子を45質量%以下で配合してなる生分解性樹脂組成物を得る上で、生分解性樹脂に対し充填剤を均一分散させる上で有効な方法ではあるものの、一般的な添加剤の均一配合上でのマスターバッチ手法を利用するに過ぎないものであり、前記したものと同様に、環境下における生分解性の向上や、耐熱性向上の面における改善は期待できないものであった。さらに特許文献5においては、好ましい充填剤粒子としてタルクが挙げられ、開示される実施例において使用されているが、ポリ乳酸に対して、タルク、マイカ等の珪酸塩鉱物粒子は、結晶核形成剤としても強く作用し結晶化を促進するものであることが知られており、耐熱性の向上が期待できるという一面はあるものの、成形性、生分解性は逆に低下する傾向となるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2004−532901号公報
【特許文献2】特開2008−255134号公報
【特許文献3】特開2013−022803号公報
【特許文献4】特開2002−264967号公報
【特許文献5】米国特許第号公報2002−264967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、良好な加工性と、成形品として十分な強度とを発揮し、コスト面においても有利である一方で、環境下における生分解性、特に海洋生分解性に優れた無機物質粉末配合生分解性樹脂成形品、及びその製造方法並びにこれに用いられるペレット体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究及び検討を重ねた結果、生分解性樹脂からなる製品の生分解性を高める上で、生分解性樹脂に対し配合する充填剤ないし無機物質粉末として、重質炭酸カルシウム粒子、すなわち、石灰石などCaCOを主成分とする天然原料を機械的に粉砕分級して得られる炭酸カルシウム粒子を使用し、これを組成物全体の50質量%以上配合することが極めて有効であることを見出した。すなわち、重質炭酸カルシウム粒子を高配合した生分解性樹脂組成物を用いて成形した成形品においては、重質炭酸カルシウム粒子がその製造履歴に由来して不定形等の形状であり高い比表面積を有するため、マトリックスを構成する生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子との界面においては、成形時に特に延伸等の処理を加えなくとも、成形品の成形当初から、生分解性樹脂が重質炭酸カルシウム粒子表面に未接着で微細な空隙を多数形成している、ないしは接着が非常に弱い部分が多数存在する状態となることが判明した。結果的に成形品においては、組成物中に配合される重質炭酸カルシウム粒子の配合量が高いことも加わって、生分解性樹脂の表面積が非常に高いものとなり、酵素の作用による成形品の分解の場が飛躍的に向上するため、生分解性の効率が高まったものと思われる。
【0016】
さらに、重質炭酸カルシウム粒子を充填剤として配合した場合には、生分解性樹脂組成物の成形時における熱履歴によって、重質炭酸カルシウム粒子の表面部位においては、炭酸カルシウムが一部酸化されて酸化カルシウムが生じているものであることが確認された。酸化カルシウムは水分に接触することにより発熱を伴って水酸化カルシウムとなり、生分解性樹脂組成物で成形した成形品内に物理的なクラックを生じさせ、より容易に形状崩壊を誘発し、また、この水酸化カルシウムの塩基性触媒効果により、生分解性の高分子化合物の加水分解を加速させることができたものと思われる。なお、例えば、酸化カルシウムの粒子自体を生分解性樹脂組成物に配合すると反応が高すぎて、成形品の成形自体が困難となり、成形品の製品としての安定性も不十分となる。
【0017】
さらに、重質炭酸カルシウム粒子は自然界において大量に存在する原料より製造され得るものであり、環境性という面においても生分解性樹脂に対して配合することに何ら問題はなく、また生分解性樹脂に対して高配合することで、機械的強度、耐熱性等の物性の向上があり、さらにコスト的な面においてもより有利なものとなることが判明し、本発明に至ったものである。
【0018】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する生分解性樹脂組成物で構成されるものである生分解性樹脂成形品である。
【0019】
本発明に係る生分解性樹脂成形品の一態様においては、前記重質炭酸カルシウム粒子の平均粒子径が、1.0μm以上10.0μm以下である生分解性樹脂成形品が示される。
【0020】
本発明に係る生分解性樹脂成形品の一態様においては、さらに重質炭酸カルシウム粒子のBET比表面積が、0.1m/g以上10.0m/g以下である生分解性樹脂成形品が示される。
【0021】
本発明に係る生分解性樹脂成形品の一態様においては、重質炭酸カルシウム粒子の真円度が、0.50以上0.95以下である生分解性樹脂成形品が示される。
【0022】
本発明に係る生分解性樹脂成形品の一態様においては、重質炭酸カルシウム粒子がその表面部において部分酸化されているものである生分解性樹脂成形品が示される。
【0023】
本発明に係る生分解性樹脂成形品の一態様においては、また前記生分解性樹脂が、ポリ乳酸を含むものである生分解性樹脂成形品が示される。
【0024】
本発明に係る生分解性樹脂成形品の一態様においては、さらに前記生分解性樹脂が、重量平均分子量(Mw)50,000以上300,000以下のポリL−乳酸を、樹脂成分全体の10〜100質量%の割合で含むものである生分解性樹脂組成物で構成されるものである生分解性樹脂成形品である。
【0025】
本発明に係る生分解性樹脂成形品の一態様においては、生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する生分解性樹脂組成物よりなる層の少なくとも一方の表面を、生分解性樹脂よりなる表面層により被覆してなる積層構造を有する成形品が示される。
【0026】
本発明に係る生分解性樹脂成形品の一態様においては、前記成形品がシートである生分解性樹脂成形品が示される。
【0027】
本発明に係る生分解性樹脂成形品の一態様においては、前記成形品が容器体である生分解性樹脂成形品が示される。
【0028】
上記課題を解決する本発明はまた、生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する生分解性樹脂組成物を10〜100℃の温度で成形してなる成形品の製造方法により達成される。
【0029】
本発明に係る成形品の製造方法の一態様においては、延伸処理を行うことなく成形するものである成形品の製造方法が示される。
【0030】
本発明に係る成形品の製造方法の一態様においては、上記生分解性樹脂組成物を、ニ軸押出機により140〜220℃で溶融混練後、Tダイにてシート状に成形するものである成形品の製造方法が示される。
【0031】
本発明に係る成形品の製造方法の一態様においては、上記生分解性樹脂組成物を、ニ軸押出機により140〜220℃の温度で溶融混練後、金型温度20〜120℃に保持された金型に注入して成形するものである成形品の製造方法が示される。
【0032】
上記課題を解決する本発明はまた、生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する生分解性樹脂組成物よりなるペレット体により達成される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、生分解性樹脂組成物により形成された成形品において、良好な成形性、製品の機械的強度、耐熱性等を十分に確保した上で、環境下における生分解性、特に海洋生分解性大きく向上させた成形品を経済的にも優位性をもって提供できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0035】
≪生分解性樹脂組成物≫
本発明にかかる生分解性樹脂成形品は、生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する生分解性樹脂組成物で構成されるものであるが、まず、生分解性樹脂組成物を構成する各成分につき、それぞれ詳細に説明する。
【0036】
<生分解性樹脂>
本発明において用いられる生分解性樹脂としては、例えば、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート/アジペート(PBSA)、ポリエチレンサクシネート(PBA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸(PGA)、ポリジオキサノン、ポリ(2−オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル樹脂;ポリブチレンテレフタレート/サクシネート(PETS)、ポリブチレンアジペート/テレフタレート(PBAH)、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族共重合ポリエステル樹脂;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン等の天然高分子と上記の脂肪族ポリエステル樹脂あるいは脂肪族芳香族コポリエステル樹脂との混合物等が挙げられる。これらのなかで、加工性、経済性、入手容易性などの点から、脂肪族ポリエステル樹脂が好ましく、特に、ポリ乳酸がより好ましい。
【0037】
なお、本明細書において「ポリ乳酸」とは、原料モノマーとして乳酸成分のみを縮重合させて得られるポリ乳酸ホモポリマーのみならず、原料モノマーとして乳酸成分と乳酸成分と共重合可能なその他のモノマー成分とを用い、それらを縮重合させて得られるポリ乳酸共重合体を含有する。
【0038】
乳酸と共重合可能なその他のモノマー成分としては、特に限定されるわけではないが、例えば、オキシ酸、二価アルコール類ないし三価以上の多価アルコール類、芳香族ヒドロキシ化合物、二価のカルボン酸ないし三価以上の多価カルボン酸、ラクトン類などがある。
【0039】
オキシ酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシヘプタン酸等のオキシ酸が挙げられ、このうち、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0040】
二価のアルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチエレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられ、また、三価以上の多価アルコール類としては、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0041】
また芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えばハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA等が挙げられる。
【0042】
また、二価のカルボン酸としては、例えばシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(4−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、ビス(4−カルボキシフェニル)エーテル、5−スルホイソフタル酸ナトリウム等が挙げられ、三価以上の多価カルボン酸、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0043】
ラクトン類、例えばカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オン等が挙げられる。
【0044】
なお、ポリ乳酸が含有する乳酸以外の成分は、ポリ乳酸本来の生分解性を損なわない範囲において共重合することが可能であるが、その量比は全構成成分の20モル%以下とすることが望ましく、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%の範囲である
【0045】
また、ポリ乳酸は、主鎖に不斉炭素をもつため、乳酸単位のみからなるホモポリマーであっても、光学純度100%の結晶性ポリL−乳酸とポリD−乳酸、光学純度0%の非晶性ポリDL乳酸、及びその中間の光学純度をもつポリ乳酸が存在する。
さらに、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを、溶液あるいは溶融状態で混合することにより、ステレオコンプレックスポリ乳酸が形成されることも知られている。また、ポリL−乳酸ブロックとポリD−乳酸ブロックとからなるブロックコポリマーも知られている。
【0046】
本発明において、生分解性樹脂組成物として用いられるポリ乳酸としては、これらいずれのものであっても良く、得ようとする成形品において望まれる、耐熱性、耐衝撃強度等あるいは、柔軟性、弾性等の特性の観点から、適宜好適な特性のものを使用することが可能である。
【0047】
以下、本発明において生分解性樹脂として使用し得るポリ乳酸の各タイプに関して、より理解を容易とするために、より詳細に説明するが、本発明において使用し得るポリ乳酸ないしは生分解性樹脂が、以下の例示的な説明に挙げられるものに何ら限定されるものではない。
【0048】
ポリL−乳酸とポリD−乳酸
ポリL−乳酸又はポリD−乳酸は、直接溶融重合法、固相重合法、乳酸の直接縮重合法、ラクチドの溶融開環重合法等により製造することができる。これらの内、ラクチドの溶融開環重合が、経済的に好ましい。溶融開環重合法でポリL−乳酸又はポリD−乳酸を製造するとき、乳酸のL−体、D−体を導入するためL−ラクチド、D−ラクチドを使用する。
【0049】
なお、ポリD−乳酸単位の原料となるD−ラクチド又はD−乳酸は、供給源が限られているうえに流通量が少なく、ポリL−乳酸単位の原料となるL−ラクチド又はL−乳酸と比較して市場価格が高いため、結晶性のポリ乳酸を使用する態様においては、ポリL−乳酸を用いることが経済的観点からは望ましい。
【0050】
また、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸の重縮合においては、ポリD−乳酸単位の原料となるD−ラクチド若しくはD−乳酸、又は、ポリL−乳酸単位の原料となるL−ラクチド又はL−乳酸に対して、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸の結晶性を大きく損なわない範囲において、対称となる乳酸単位の原料である乳酸成分(すなわちポリD−乳酸の場合にL−ラクチド又はL−乳酸、一方、ポリL−乳酸の場合にはD−ラクチド又はD−乳酸)や、共重合可能な上記したようなその他のモノマー成分を、例えば全構成成分の1モル%以下において配合し共重合することが可能である。
【0051】
溶融開環重合法によるポリD−乳酸又はポリL−乳酸の製造は、例えば、光学純度90〜100%のD−ラクチド又はL−ラクチドを、アルコール系開始剤及び金属触媒の存在下、溶融開環重合し、触媒失活剤を金属触媒の金属元素1当量当たり0.3〜20当量添加した系において合成することが挙げられる。
【0052】
金属触媒としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、アンチモン、チタン等の脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラート等が挙げられ、このうち、スズ、アルミニウム、亜鉛、カルシウム、チタン、ゲルマニウム、マンガン、マグネシウム及び稀土類元素より選択される少なくとも一種の金属の脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラートが好ましい。これらの触媒は単独で使用しても良いし、場合によっては、複数併用して使用することもできる。触媒の使用量は、ラクチド1Kg当たり0.4×10−4〜100.0×10−4モル程度である。
【0053】
金属触媒の存在下、溶融開環重合されたポリ乳酸の触媒失活に使用される失活剤としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスフィン酸、リン酸ジブチル、リン酸ジノニル、N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン、N、N’−ビス(サリチリデン)プロパンジアミンが例示され、このうち、リン酸、亜燐酸、ピロ燐酸が好ましい。これらの失活剤は単独で使用しても良いし場合によっては、複数併用して使用することもできる。失活剤の使用量は、金属元素1当量あたり0.4〜15.0当量程度の範囲である。
【0054】
アルコール系開始剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、n−デシルアルコール、n−ドデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラウリルアルコール、エチルラクテート、ヘキシルラクテート等の炭素数1〜22の脂肪族一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の炭素数1〜20の脂肪族多価アルコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、その他フェノール類のエチレンオキシド付加体、ビスフェノールのエチレングリコール付加体等のポリアルキレングリコールなどが例示される。このうち、反応性、ポリラクチド物性の点から、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が好ましい。
【0055】
アルコール開始剤の使用量は第一義的に、所望の重量平均分子量(Mw)を勘案して決められる。例えば、1価アルコールの場合、Mwが70,000〜110,000程度のポリ乳酸を製造するときは、ラクチド1Kgに対し、0.009〜0.030モル、特に好ましくは0.014〜0.021モルが使用される。さらにMwが100,000〜200,000程度のポリ乳酸を製造するときは、ラクチド1Kgに対し、0.009〜0.020モル、特に好ましくは0.010〜0.018モルが使用される。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0056】
ラクチド、触媒、アルコール系開始剤の混合物は従来公知の方法に従い、180〜230℃の温度範囲で、反応熱を除去しつつ、2〜10時間の反応時間をかけ、連続、あるいは回分プロセスにより縦型重合槽、あるいは横型重合槽、管型重合槽あるいはこれらを併用して重合され得る。
【0057】
このようにして得られるポリD−乳酸又はポリL−乳酸の融点は、一般に165℃〜185℃、ガラス転移点(Tg)は55〜60℃程度である。また、重量平均分子量(Mw)としては、特に限定されるものではなく、目的とする成形品の用途、例えば押出成形品、射出成形品にした場合に、実質的に十分な機械物性を示すものであれば、その分子量は特に制限されない。概して、分子量が低いと得られる成形品の強度が低下し、分解速度が速くなり、一方、分子量が高いと強度が向上するが、加工性が低下し、成形が困難になる。従って、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50,000以上300,000以下、より好ましくは100,000以上200,000以下である。
【0058】
ポリDL乳酸
ポリDL乳酸は、L−乳酸単位及びD−乳酸単位からなるランダム共重合体である。L乳酸単位とD乳酸単位との比は、特に限定されるものではないが、非晶性とし柔軟性を付与する上では、L乳酸単位/D乳酸単位=60/40〜40/60程度、より好ましくは55/45〜45/55程度とすることが望ましい。なお、前記したように、D−乳酸単位の原料となるD−ラクチド又はD−乳酸は、供給源が限られているうえに流通量が少なく、ポリL−乳酸単位の原料となるL−ラクチド又はL−乳酸と比較して市場価格が高いため、ポリDL乳酸とする場合であっても、L−乳酸単位の配合量をD−乳酸単位の配合量よりも大きくすることが、経済面から好ましい。
【0059】
また、ポリDL乳酸の重縮合においては、乳酸成分と共重合可能な上記したようなその他のモノマー成分を、ポリDL乳酸の生分解性等の特性を大きく損なわない範囲、例えば全構成成分の20モル%以下において配合することが共重合することが可能である。
【0060】
ポリDL乳酸の製造方法としても、上記したポリL−乳酸、ポリD−乳酸の場合と同様に、直接溶融重合法、固相重合法、乳酸の直接縮重合法、ラクチドの溶融開環重合法等により製造することができ、基本的に、原料として乳酸のL−体、D−体を導入するためのL−乳酸ないしL−ラクチド、D−乳酸ないしD−ラクチドをそれぞれ単独で使用することに代えて、上記した所定の混合比率でのL−乳酸ないしL−ラクチドと、D−乳酸ないしD−ラクチドとの混合物を用いる以外は、上記したポリL−乳酸、ポリD−乳酸の製造の場合と同様にしてポリDL乳酸を得ることができる。
【0061】
ポリDL乳酸のガラス転移点(Tg)は、好ましくは45〜60℃、より好ましくは50〜60℃である。なお、ポリDL乳酸は、非晶質であるため融点は示さない。また、その重量平均分子量(Mw)としては、特に限定されるものではなく、目的とする成形品の用途、例えば押出成形品、射出成形品にした場合に、実質的に十分な機械物性を示すものであれば、その分子量は特に制限されない。概して、分子量が低いと得られる成形品の強度が低下し、分解速度が速くなり、一方、分子量が高いと強度が向上するが、加工性が低下し、成形が困難になる。従って、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50,000以上300,000以下、より好ましくは100,000以上200,000以下である。
【0062】
ステレオコンプレックスポリ乳酸
ポリL−乳酸とポリD−乳酸とは相互に立体規則性が異なっているため、両者を混合及び溶融した後に結晶化させると、いわゆるステレオコンプレックスを形成する。なお、一般に、ポリ乳酸のステレオコンプレックス体としては、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを原料とするものであるが、これらに加えて、あるいはこれらの一方に代えて、後述するようなポリ乳酸のDLブロックコポリマーを原料として用いてステレオコンプレックス体とすることも可能である。なお、ステレオコンプレックス体を形成する上での混合装置への各化合物の投入順序などは問わない。従って、2ないし3成分以上の全ての成分を同時に混合装置に投入してもよく、例えば、いずれかの化合物を混合装置に投入後に、順次他の成分を投入及び混合してもよい。この際、各化合物は、粉末状、顆粒状又はペレット状などのいずれの形状であってもよい。
【0063】
あるいはまた、本発明において、生分解性樹脂としてこのようなポリ乳酸のステレオコンプレックス体を含むものを用いようとする態様においては、後述するような重炭酸カルシウム粒子と生分解性樹脂との混合に際して、同時に各ポリL−乳酸、ポリD−乳酸あるいはポリ乳酸のDLブロックコポリマー等の各成分を混合装置に投入し、ステレオコンプレックス体の形成と重炭酸カルシウム粒子との混合とを同時に実施することも可能である。
【0064】
混合には、ミルロール、ミキサー、単軸又は二軸押出機などを用いて加熱し混練すればよい。換言すれば、ステレオコンプレックスは、上記混合物をその融点以上に溶融し、次いで冷却することで形成される。
【0065】
混合物の温度は、混合物に含まれる成分が溶解する温度範囲内にあればよく、一般には170〜250℃程度である。加熱による溶融混合によってポリL−乳酸、ポリD−乳酸及び/又は下記のブロックコポリマーとを均一に混練し、その後に冷却及び結晶化させてステレオコンプレックスを形成させる。該溶融混合物は冷却によって結晶化させることができるが、その際の冷却条件によってステレオコンプレックス構造や結晶化度が異なる場合がある。冷却速度は、原料として使用したポリL−乳酸とポリD−乳酸、及び/又は下記のブロックコポリマー前記共重合体の重量平均分子量や混合比、重量平均分子量比などによって適宜選択することができるが、一般には、冷却速度は特に限定されない。ただし、あまり急激に冷却すると結晶化が起こらず、好ましくは20〜100℃/分の冷却速度にて冷却する。なお、結晶化の温度は融点以下であればよく特に制限はない。ポリL−乳酸又はポリD−乳酸の溶融点のいずれか高い方を下限とし、その下限値より50℃以内、より好ましくは30℃以内、特には10〜20℃高い温度を上限とする範囲で溶融することが好ましい。結晶化の際の圧力にも特に制限はなく、常圧でよいが、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うこともでき、また不活性ガス流通下若しくは減圧下で行ってもよい。溶融の際に分解生成するモノマーを取り除くためには、減圧下で行うことが好ましい。なお、DSC又はX線回折によって結晶化の有無を確認することができる。溶融混合時間は、一般には2〜60分程度である。なお、溶融混合が十分に進行し、ステレオコンプレックスが形成されると溶融点が上昇する。それに応じて溶融温度を溶融混合物が固まらない程度に徐々に上げていくと、結晶化による硬化が避けられるため好ましい。
【0066】
なお、溶融混合物は、一軸押出機や二軸押出機で押し出し、プレートなどに成形したり、又は溶融紡糸などの溶融成形工程においてステレオコンプレックスを形成させることもできる。
【0067】
原料化合物の混合時には原料化合物を溶解又は分散できる溶媒を使用してもよい。例
えば、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリ乳酸ブロックコポリマーをそれぞれ別々に溶液に溶解し、それらを混合した後に溶媒を除去させてもよい。溶媒を留去した後に上記条件で加熱により溶融し、次いで冷却すればステレオコンプレックスが形成される。従って、該混合溶液を加熱下にキャスティングする溶液キャスティングによってもポリ乳酸ステレオコンプレックス体を製造することができる。
【0068】
溶液混合に用いられる溶媒は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、及び/又はポリ乳酸ブロックコポリマーが溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、アセトニトリル、1,4−ジオキサン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。溶媒の量は、ポリ乳酸の合計100重量部に対し、100〜4000重量部、好ましくは200〜3000重量部である。混合は、各ポリ乳酸をそれぞれ溶媒に溶解しそれらを混合することにより行っても良いし、一方を溶媒に溶解した後、他方を加えて混合しても良い。溶媒の除去は、加熱又は減圧により行なうことができる。
【0069】
このようにして得られるポリ乳酸ステレオコンプレックス体は、ポリL−乳酸やポリD−乳酸に比べて、200〜230℃と融点が高く、高い結晶性を示す。さらに、ステレオコンプレックスポリ乳酸は、コンプレックス相に混じってホモ相が共存し得るため、ステレオコンプレックスポリ乳酸の耐熱性をより発揮させる上ではは、次式(a)で規定されるステレオ化度(S)が80%以上、より好ましくは90%以上であることが望ましい。
S=〔△Hmsc/(△Hmh+△Hmsc)〕×100 (a)
(式(a)中、Hmhは、DSC測定でホモ相結晶の融解に対応する190℃未満の結晶融解ピークの結晶融解熱、△Hmscは、DSC測定でコンプレックス相結晶の融解に対応する190℃以上の結晶融解ピークの結晶融解熱である。
また、その重量平均分子量(Mw)としては、特に限定されるものではなく、目的とする成形品の用途、例えば押出成形品、射出成形品にした場合に、実質的に十分な機械物性を示すものであれば、その分子量は特に制限されない。概して、分子量が低いと得られる成形品の強度が低下し、分解速度が速くなり、一方、分子量が高いと強度が向上するが、加工性が低下し、成形が困難になる。従って、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50,000以上300,000以下、より好ましくは100,000以上200,000以下である。
【0070】
ポリ乳酸ブロックコポリマー
ポリ乳酸ブロックコポリマーは、それぞれ1つ以上のL−乳酸セグメントとD−乳酸セグメントとを含むステレオブロック共重合体である。L−乳酸セグメント、D−乳酸セグメントとは、L−乳酸又はD−乳酸の2以上の重合体を意味する。その重量平均分子量(Mw)としては、特に限定されるものではないが、好ましい重量平均分子量は500〜300,000、より好ましくは5,000〜100,000である。分子量が500を下回ると、L−乳酸セグメントとD−乳酸セグメントとが隣接構造をとりにくく、液状あるいはまた非晶状になる場合がある。一方、300,000を越えると流動性が低下するために、やはり隣接構造が形成しにくくなる。なお、L−乳酸セグメントとD−乳酸セグメントにおける、それらを構成するL−乳酸とD−乳酸の光学純度は85%ee以上、より好ましくは90%ee以上であることが好ましい。光学純度が85%ee未満では、L−乳酸セグメントとD−乳酸セグメントとのそれぞれの対称らせん構造がくずれるため隣接構造をとり難くなり、結晶促進効果が低下する場合がある。
【0071】
さらに、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体のL−乳酸セグメントとD−乳酸セグメン
トとの配合比には、特に限定はなく、少なくとも各1以上のセグメントが共重合していればよく、総セグメント数は、2〜2,000程度が好ましい。2,000を越えるコポリマーは、ステレオコンプレックスの形成促進効果が低下する。
【0072】
このようなポリ乳酸ステレオブロック共重合体の製造方法としては、従来、いくつかの方法が提案されており、本発明において用いるものとして、これらの方法に特に制限はない。例えば、(1)L−ラクチドとD−ラクチドとを重合開始剤の存在下に逐次添加する逐次リビング開環重合でL−乳酸セグメントとD−乳酸セグメントとからなるステレオブロック共重合を得ることができる。また、(2)重量平均分子量が5,000以上のポリL−乳酸とポリD−乳酸との混合物を溶融混合及び結晶化し、ついで、該結晶の融解温度以下の温度で固相重合して鎖長を延長して製造することができる。さらに、(3)ポリ−L−乳酸とポリD−乳酸とを混合し、次いで、エステル交換及び/又は脱水縮合により鎖長を延長しても製造することができる。また、(4)重合体鎖の両末端にアントラセニル基若しくはフラニル基を有するポリ−L乳酸と重合体鎖の少なくとも一方の末端にマレイミド基を有するポリD−乳酸とをディールス・アルダー反応させる工程、又は、重合体鎖の両末端にアントラセニル基若しくはフラニル基を有するポリD−乳酸と重合体鎖の少なくとも一方の末端にマレイミド基を有するポリL−乳酸とをディールス・アルダー反応させる工程、を含んで製造させることができる。ここで用いられる重合体鎖の両末端にアントラセニル基若しくはフラニル基を有するポリD−乳酸又はポリL−乳酸を得る方法としても特に限定はなく、重合開始剤としてアントラセン化合物を用いてL−乳酸又はD−乳酸を脱水縮合した後に得られる重合体鎖の片末端にアントラセニル基を有するポリL−乳酸又は重合体鎖の片末端にアントラセニル基を有するポリD−乳酸を、ジイソシアネート化合物を用いてカップリング反応を行う方法;重合開始剤としてアントラセン化合物を用いてL−ラクチド又はD−ラクチドを開環重合して重合体鎖の片末端にアントラセニル基を有するポリL−乳酸又は重合体鎖の片末端にアントラセニル基を有するポリD−乳酸を得た後、ジイソシアネート化合物を用いてカップリング反応を行う方法;などが挙げられる。重合開始剤としてアントラセン化合物を用いL−ラクチドを開環重合するか又はL−乳酸を脱水縮合した後、ジイソシアネート化合物を用いてカップリング反応を行えば両末端にアントラセニル基を有するポリL−乳酸が得られる。重合開始剤としてアントラセン化合物を用い、D−ラクチドを開環重合するか又はD−乳酸を脱水縮合した後、ジイソシアネート化合物を用いてカップリング反応を行えば両末端にアントラセニル基を有するポリD−乳酸が得られる。また、例えば、重合開始剤としてフラン化合物を用いてL−乳酸又はD−乳酸を脱水縮合した後に得られる重合体鎖の片末端にフラニル基を有するポリL−乳酸又は重合体鎖の片末端にフラニル基を有するポリD−乳酸を、ジイソシアネート化合物を用いてカップリング反応を行う方法;重合開始剤としてフラン化合物を用いてL−ラクチド又はD−ラクチドを開環重合して重合体鎖の片末端にフラニル基を有するポリL−乳酸又は重合体鎖の片末端にフラニル基を有するポリD−乳酸を得た後、ジイソシアネート化合物を用いてカップリング反応を行う方法;などが挙げられる。重合開始剤としてフラン化合物を用いL−ラクチドを開環重合するか又はL−乳酸を脱水縮合した後、ジイソシアネート化合物を用いてカップリング反応を行えば両末端にフラニル基を有するポリL−乳酸が得られる。重合開始剤としてフラン化合物を用い、D−ラクチドを開環重合するか又はD−乳酸を脱水縮合した後、ジイソシアネート化合物を用いてカップリング反応を行えば両末端にフラニル基を有するポリD−乳酸が得られる。
【0073】
このようにして得られるポリ乳酸ブロックコポリマーの融点は、100℃〜170℃程度、ガラス転移点(Tg)は30℃〜60℃程度である。
【0074】
本発明に係る生分解性樹脂組成物において用いられる生分解性樹脂としては、上述したように特に限定されるものでなく、好ましく使用されるポリ乳酸の各タイプとしても特に限定されるものではなく、いずれかの単独であっても混合体であってもよいが、成形性の観点から、ポリL−乳酸が好ましい。
【0075】
さらに、経済性、入手容易性という観点を加味すれば、生分解性樹脂としてポリL−乳酸を主成分とすることが望ましい。なお本明細書において「主成分」とは、樹脂成分全量の50質量%以上となることを通常意味する。特に、ポリL−乳酸を80質量%以上、さらには90質量%以上含有することが好ましい一実施態様として挙げられる。
【0076】
生分解性樹脂としてポリ乳酸、特にポリL−乳酸を主成分とする場合、樹脂成分として配合されるその他の成分としては、主成分となるタイプ以外のポリ乳酸や、上記したようなポリ乳酸樹脂以外の生分解性樹脂が配合され得る。
【0077】
さらに、本発明に係る生分解性樹脂組成物中には、その他の熱可塑性樹脂を配合することは可能ではあるが、このようなその他の熱可塑性樹脂の配合量は、本発明に係る生分解性樹脂組成物の生分解性に実質的に影響を与えないように、樹脂成分全容量に対し、20質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは、これらのその他の熱可塑性樹脂は配合しない態様である。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂;アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン(AS)共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテル系樹脂等が挙げられる。
【0078】
<重質炭酸カルシウム粒子>
本発明に係る生分解性樹脂成形品を形成する生分解性樹脂組成物中には、前記した生分解性樹脂組成物と共に、重質炭酸カルシウム粒子が配合されるが、この重質炭酸カルシウムとは、以下に示すような天然炭酸カルシウムを機械的に粉砕・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは明確に区別されるものである。
【0079】
本明細書において重質炭酸カルシウムとは、方解石(石灰石、チョーク、大理石等)、貝殻、サンゴ等の天然炭酸カルシウムを粉砕、分級したものを示す。重質炭酸カルシウムの原料である石灰石は、日本国内に高純度なものが豊富に産出し、非常に安価に入手できる。
【0080】
重質炭酸カルシウムの粉砕方法は定法により、湿式、乾式どちらを選択しても良いが、脱水、乾燥工程等のコストを押し上げる工程の無い乾式粉砕が有利である。粉砕機に関しても特に限定されるものではなく、衝撃式粉砕機、ボールミル等の粉砕メディアを用いた粉砕機、ローラーミル等が使用できる。
また、分級も空気分級、湿式サイクロン、デカンターなどを利用した分級で良く、表面処理は粉砕前、粉砕中、分級前、分級後何れの工程でおこなっても良いが、好ましくは、分級前に表面処理した方が効率良く粒度分布のシャープなものが得られる。また、表面処理剤の一部を粉砕前や粉砕中に粉砕助剤として添加し、残りを後の工程で添加して表面処理をおこなっても良い。
【0081】
また、重質炭酸カルシウム粒子の分散性又は反応性を高めるために、重質炭酸カルシウム粒子の表面を予め常法に従い表面改質しておいてもよい。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するものなどが例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性のいずれのものであってもよく、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0082】
重質炭酸カルシウム粒子としては、その平均粒子径が、1.0μm以上10.0μm以下が好ましく、1.0μm以上3.0μm以下がより好ましい。なお、本明細書において述べる無機物質粉末の平均粒子径は、JIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS−100型を好ましく用いることができる。特に、その粒径分布において、粒子径50.0μm以上の粒子を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した生分解性樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形品の製造が困難になる虞れがある。そのため、その平均粒子径は1.0μm以上とすることが好ましい。
【0083】
本発明において使用される重質炭酸カルシウム粒子としては、例えば、合成法によるとは軽質炭酸カルシウムなどとは異なり、粒子形成が粉砕処理によって行われたことに起因する、表面の不定形性、比表面積の高さが、特に重要である。上述したように、生分解性樹脂組成物中に配合された重質炭酸カルシウム粒子がこのように不定形性、比表面積の高さを有するため、マトリックスを構成する生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子との界面においては、成形時に特に延伸等の処理を加えなくとも、成形品の成形当初から、生分解性樹脂が重質炭酸カルシウム粒子表面に未接着で微細な空隙を多数形成される、ないしは接着が非常に弱い部分が多数存在する状態となる。
【0084】
このような理由から、重質炭酸カルシウム粒子の比表面積としては、0.1m/g以上10.0m/g以下、より好ましくは0.2m/g以上5.0m/g以下、さらに好ましくは1.0m/g以上3.0m/g以下であることが望まれる。ここでいうBET吸着法とは窒素ガス吸着法によるものである。比表面積がこの範囲内にあると、得られる成形品において、上記した理由から生分解性樹脂が、生分解反応の起点となる表面を多く有することとなり、自然環境下における生分解性が良好に促進される一方で、重質炭酸カルシウム粒子を配合することによる樹脂組成物の加工性の低下もあまり生じない。
【0085】
また、重質炭酸カルシウム粒子の不定形性は、粒子形状の球形化の度合いが低いことで表わすことができ、具体的には、真円度が0.50以上0.95以下、より好ましくは0.55以上0.93以下、さらに好ましくは0.60以上0.90以下であることが望まれる。本発明においては使用される重質炭酸カルシウム粒子の真円度が範囲内にあると、マトリックスを構成する生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子との界面においては、未接着で微細な空隙を多数形成される、ないしは接着が非常に弱い部分が多数存在する状態が形成されやすく、自然環境下における生分解性を高める上で好適なものとなる一方で、製品としての強度や成形加工性も適度なものとなる。
【0086】
なお、ここで、真円度とは、(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)で表せるものである。真円度の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、顕微鏡写真から粒子の投影面積と粒子の投影周囲長とを測定し、各々(A)と(PM)とし、粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の半径を(r)とすると、
PM=2πr (1)
であり、粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積を(B)とすると、
B=πr (2)
である。(1)式を変形すると、r=PM/2π (3)
となるから、(2)式に(3)式を代入すると、
B=π×(PM/2π) (4)
となり、真円度=A/B=A×4π/(PM)
となる。測定する粒子は、粉末の粒度分布を代表するように、サンプリングを行う。測定粒子の数が多い程、測定値の信頼性は増すが、測定時間も考慮して、一般に100個程度の粒子の平均値で表すものとされており、本明細書においても100個の粒子の平均値とした。これらの測定は走査型顕微鏡や実体顕微鏡などで得られる各粒子の投影図を一般に商用されている画像解析ソフトによってすることによって真円度を求めることが可能である。
【0087】
さらに本発明の生分解性樹脂成形品を構成する生分解性樹脂組成物において含まれる重質炭酸カルシウム粒子は、成形品の状態においては、その粒子表面が部分的に酸化され、一部に酸化カルシウムの組成を含むものとなっていることが好ましい。なお、この酸化の度合いとしては特に限定されるものではないが、粒子表面の比較的少ない部分、例えば粒子の体積の2%よりも十分に小さな割合であっても、生分解性を促進させる効果が見られるので、過剰な酸化は必要ではない。なお、このような成形品中に含まれる重質炭酸カルシウム粒子の表面の部分酸化は、成形に使用する重質炭酸カルシウム粒子に予め別途熱処理等を施す等を行う必要は特になく、上記したような生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを混合溶融して成形品を製造する際に、当該重質炭酸カルシウム粒子が受ける熱履歴により表面の酸化が生じ得る。なお、粒子表面における酸化による酸化カルシウムの生成については、例えば、JIS R 9011:2006に規定されるようなEDTA滴定法、過マンガン酸カリウム滴定法などによって確認、定量可能である。
【0088】
本発明に係る生分解性樹脂組成物に含まれる上記した生分解性樹脂と、重質炭酸カルシウム粒子との配合比(質量%)は、50:50〜10:90の比率であれば特に限定されないが、40:60〜20:80の比率であることが好ましく、40:60〜25:75の比率であることがさらに好ましい。生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子との配合比において、重質炭酸カルシウム粒子の割合が50質量%より低いものであると、重質炭酸カルシウム粒子を配合したことによる生分解性樹脂成形品の所定の質感、耐衝撃性等の物性が得られないものとなり、一方90質量%よりも高いものであると、押出成形、射出成形等による成形加工が困難となるためである。
【0089】
<その他の添加剤>
本発明に係る生分解性樹脂組成物には、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤としては、例えば、可塑剤、重炭酸カルシウム粒子以外の充填剤、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤等を配合してもよい。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらは、後述の混練工程において配合してもよく、混練工程の前に予め生分解性樹脂組成物に配合していてもよい。本発明に係る生分解性樹脂組成物において、これらのその他の添加剤の添加量は、上記した生分解性樹脂と、重炭酸カルシウム粒子との配合による所望の効果を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、生分解性樹脂組成物全体の質量を100%とした場合に、これらその他の添加剤はそれぞれ0〜5質量%程度の割合で、かつ当該その他の添加剤全体で10質量%以下となる割合で配合されることが望まれる。
【0090】
以下に、これらのうち、重要と考えられるものについて例を挙げて説明するが、これらに限られるものではない。
【0091】
可塑剤としては、上記生分解性樹脂として例えば、結晶化度の高いポリL−乳酸又はポリD−乳酸を主成分として用いた場合に、その加工性や、得られる成形品の柔軟性を付与するために添加され得る。例えば、乳酸、重量平均分子量3,000以下程度の乳酸オリゴマー、分岐状ポリ乳酸(例えば、国際公開WO2010/082639号明細書等を参照。)などが挙げられる。
【0092】
重質炭酸カルシウム粒子以外の充填剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛などの炭酸塩(重質炭酸カルシウムを除く)、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末状のものが挙げられ、具体的には、例えば、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。これらは合成のものであっても天然鉱物由来のものであってもよい。
【0093】
色剤としては、公知の有機顔料又は無機顔料あるいは染料のいずれをも用いることができる。具体的には、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオオサジン系、ペリノン系、キノフタロン系、ペリレン系顔料などの有機顔料や群青、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、酸化クロム、亜鉛華、カーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。
【0094】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系滑剤、脂肪族アルコール系滑剤、ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド、リシノールアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、メチレンビスステアロアミド、メチレンビスステアロベヘンアミド、高級脂肪酸のビスアミド酸、複合型アミド等の脂肪族アマイド系滑剤、ステアリン酸−n−ブチル、ヒドロキシステアリン酸メチル、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス等の脂肪族エステル系滑剤、脂肪酸金属石鹸系滑剤等を挙げることができる。
【0095】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトール系酸化防止剤が使用できる。リン系、より具体的には亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系酸化防止安定剤が好ましく用いられる。亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
【0096】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。これらリン系酸化防止剤は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
フェノール系の酸化防止剤としては、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネイト、2−t−ブチル−6−(3'−t−ブチル−5'−メチル−2'−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネイトジエチルエステル、及びテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン等が例示され、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0098】
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン系難燃剤や、あるいはリン系難燃剤や金属水和物などの非リン系ハロゲン系難燃剤を用いることができる。ハロゲン系難燃剤としては、具体的には例えば、ハロゲン化ビスフェニルアルカン、ハロゲン化ビスフェニルエーテル、ハロゲン化ビスフェニルチオエーテル、ハロゲン化ビスフェニルスルフォンなどのハロゲン化ビスフェノール系化合物、臭素化ビスフェノールA、臭素化ビスフェノールS、塩素化ビスフェノールA、塩素化ビスフェノールSなどのビスフェノール−ビス(アルキルエーテル)系化合物等が、またリン系難燃剤としては、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、リン酸トリアリールイソプロピル化物、クレジルジ2、6−キシレニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が、金属水和物としては、例えば、アルミニウム三水和物、二水酸化マグネシウム又はこれらの組み合わせ等がそれぞれ例示でき、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。難燃助剤として働き、より効果的に難燃効果を向上させることが可能となる。さらに、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミ、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を難燃助剤として併用することも可能である。
【0099】
発泡剤は、溶融混練機内で溶融状態にされている原料である生分解性樹脂組成物に混合し、又は圧入し、固体から気体、液体から気体に相変化するもの、又は気体そのものであり、主として発泡シートの発泡倍率(発泡密度)を制御するために使用される。原料となる生分解性樹脂組成物に溶解した発泡剤は、常温で液体のものは樹脂温度によって気体に相変化して溶融樹脂に溶解し、常温で気体のものは相変化せずそのまま溶融樹脂に溶解する。溶融樹脂に分散溶解した発泡剤は、溶融樹脂を押出ダイからシート状に押出した際に、圧力が開放されるのでシート内部で膨張し、シート内に多数の微細な独立気泡を形成して発泡シートが得られる。発泡剤は、副次的に原料樹脂組成物の溶融粘度を下げる可塑剤として作用し、原料樹脂組成物を可塑化状態にするための温度を低くする。
【0100】
発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;クロロジフルオロメタン、ジフロオロメタン、トリフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロメタン、ジクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロメタン、クロロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、テトラクロロジフルオロエタン、パーフルオロシクロブタンなどのハロゲン化炭化水素類;二酸化炭素、チッ素、空気などの無機ガス;水などが挙げられる。
【0101】
成形工程において発泡剤に含まれる発泡剤の含有量は生分解性樹脂、重質炭酸カルシウム粒子の量等に応じて、適宜設定することができ、生分解性樹脂組成物の全質量に対して0.04〜5.00質量%の範囲とすることが好ましい。
【0102】
≪成形品≫
本発明に係る成形品は、上記した重質炭酸カルシウム粒子を高配合した生解性樹脂組成物を用いて成形された成形品である。
【0103】
本発明に係る成形品の形状等においては特に限定されるものではなく、各種の形態のものであってもよいが、例えば、シート、食品用容器及びその他の容器体、あるいは、比較的短期間で廃棄されるような、日用品、自動車用部品、電気・電子部品、建築部材などの分野における消耗品等の各種成形品等として成形され得る。
【0104】
本発明に係る成形品の肉厚としても特に限定されるものではなく、その成形品の形態に応じて、薄肉のものから厚肉のものまで種々のものであり得るが、例えば、肉厚40μm〜5,000μm、より好ましくは肉厚50μm〜1,000μmである成形品が示される。この範囲内の肉厚であれば、成形性、加工性の問題なく、偏肉を生じることなく均質で欠陥のない成形品を形成することが可能である。
【0105】
特に、成形品の形態が、シートである場合には、より好ましくは、肉厚50μm〜1,000μm、さらに好ましくは肉厚50μm〜400μmであることが望ましい。このような範囲内の肉厚を有するシートであれば、一般的な印刷・情報用、及び包装用の用途の紙あるいは合成紙に代えて、好適に使用できるものである。
【0106】
本発明の成形品の一実施態様においては、成形品を構成する部材が、積層構造を有するものとされることもできる。上記したように重質炭酸カルシウム粒子を高配合した生分解性樹脂組成物より形成される成形品は、良好な機械的強度、耐熱性等を有するものとなるが、表面に、含有成分非移行性、耐擦傷性、光沢性、ヒートシール性等の種々の機能性を持たせる目的のため、上記重質炭酸カルシウム粒子を高配合してなる生分解性樹脂組成物よりなる層の少なくとも一方の表面を、表面層により被覆してなる態様とし得る。なお、上記重質炭酸カルシウム粒子配合生分解性樹脂組成物よりなる層の両面を被覆する場合において、それぞれの面に配置される表面層としては、同一のものであっても、異なるものであっても良い。さらに、このような表面層と上記重質炭酸カルシウム粒子を高配合してなる生分解性樹脂組成物よりなる層との間に別の単一又は複数の中間層を設けることも可能である。このような表面層を構成する素材としては、付与しようとする機能等に応じて、種々のものを用いることができるため特に限定されるものではないが、例えば、添加物を有さないないしは添加物の配合量が非常に低い生分解性樹脂、特にポリ乳酸、あるいはポリオレフィン樹脂、さらには、無添加ポリプロピレンフィルム層や無添加ポリエチレンフィルム層等の石油系合成樹脂である態様が例示できる。これらの表面層の肉厚としては、上記重質炭酸カルシウム粒子を高配合してなる生分解性樹脂組成物よりなる層の肉厚に比べて十分に薄いものであって良く、例えば、肉厚1μm〜40μm、さらに好ましくは肉厚2μm〜15μm程度のものとすることができる。なお、このように、上記重質炭酸カルシウム粒子を高配合してなる生分解性樹脂組成物よりなる層の少なくとも一方の表面を、表面層により被覆する方法としても特に限定されるものではなく、例えば、インフレーション成形等により別途調製した表面層用のフィルムを、重質炭酸カルシウム粒子を高配合してなる生分解性樹脂組成物よりなる層の一方の面又は両面に、ラミネート加工により被着させる方法や、あるいは、従来公知のように、2色ないし多色ダイを用いて、本発明に係る重質炭酸カルシウム粒子を高配合してなる生分解性樹脂組成物と共に、これら表面層用の生分解性組成物と共押出しすることにより積層シートとするといった方法を用いることが可能である。
【0107】
≪生分解性樹脂成形体の製造方法≫
本発明の生分解性樹脂成形体の製造方法としては、通常の方法を使用することができ、例えば、射出成形法、発泡射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、真空圧空成形法、さらに、インモールド成形法、ガスプレス成形法、2色ないし多色成形法、サンドイッチ成形法など公知の任意の成形方法を採用することができる。さらにまた、本発明に係る生分解性樹脂組成物が発泡剤を含有し、発泡体である態様の成形品を得る場合においても、所望の形状に成形できるものであれば発泡体の成形方法として従来公知の、例えば、射出発泡,押出発泡,発泡ブロー等の液相発泡法、あるいは、例えば、ビーズ発泡,バッチ発泡,プレス発泡,常圧二次発泡等の固相発泡法のいずれを用いることも可能である。
【0108】
なお、成形時における成形温度としては、その成形方法や使用する生分解性樹脂の種類等によってもある程度異なるため、一概には規定できるものではないが、例えば、溶融樹脂温度を140〜220℃、より好ましくは160〜200℃の温度範囲で成形するのが望ましい。このような温度範囲においては、生分解性樹脂を変性させることなく良好な形状追従性を持って成形することができる。
【0109】
本発明の成形品の製造方法の具体的な好ましい一態様としては、上記重質炭酸カルシウム粒子を高配合してなる生分解性樹脂組成物を、ニ軸押出機により160〜220℃、より好ましくは170〜190℃で溶融混練後、Tダイにて無延伸シート状に成形する成形品の製造方法が示される。
【0110】
本発明の成形品の製造方法の具体的な好ましい別の一態様においては、上記重質炭酸カルシウム粒子を高配合してなる生分解性樹脂組成物を、ニ軸押出機により140〜220℃、より好ましくは160〜200℃でで溶融混練後、金型温度20〜110℃で成形する成形品の製造方法が示される。
【0111】
なお、上述したように、本発明の成形品の成形においては他の樹脂組成物との多層化も可能であり、目的に応じて、本発明の重質炭酸カルシウム粒子配合生分解性樹脂組成物からなる層の片面、両面に他の樹脂組成物を適用することができ、あるいは逆に他の樹脂組成物からなる層の片面、両面に本発明の重質炭酸カルシウム粒子配合生分解性樹脂組成物を適用することもできる。
【0112】
さらに、シート状に成形する際においては、その成形時あるいはその成形後に一軸方向又はニ軸方向に、ないしは、多軸方向(チューブラー法による延伸等)に延伸することが可能であるが、本発明においては、無延伸ないしは実質的に無延伸であるような不可避的な弱延伸である態様が望ましい。このような無延伸ないしは実質的に無延伸である状態において、本発明の成形品は、十分な機械的強度を有する一方で、生分解性を促進するような組織構造を有し得る。
【0113】
生分解性樹脂組成物における前記生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子との混合は、成形方法(押出成形、射出成形、真空成形等)に応じて適宜設定してよく、例えば、成形機にホッパーから投入する前に生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを混練溶融してもよく、成形機と一体で成形と同時に生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを混練溶融してもよい。溶融混練は、生分解性樹脂に重質炭酸カルシウム粒子を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましく、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。
【0114】
本発明の生分解性樹脂成形体の製造方法において、使用する生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを所定の割合で配合してなる熱可塑性樹脂組成物は、ペレットの形態であってもよく、ペレットの形態でなくてもよいが、ペレットの形態である場合、ペレットの形状は特に限定されず、例えば、円柱、球形、楕円球状等のペレットを成形してもよい。ペレットを得るための造粒操作は、当業者が通常用いる手順又は装置によって行われ得る。例えば、二軸押出機などを用いて生分解性樹脂を溶融させながら、重質炭酸カルシウム粒子及びその他の添加剤を投入して溶融混練し、ストランド形状に押出して冷却後ペレタイザーによってペレットを作製するなどすればよい。このように作製したペレットは十分に乾燥して水分を除去した後、射出成形などに用いることができる。
【0115】
ペレットのサイズは、形状に応じて適宜設定すれば良いが、例えば、球形ペレットの場合、直径1〜10mmであってよい。楕円球状のペレットの場合、縦横比0.1〜1.0の楕円状とし、縦横1〜10mmであってよい。円柱ペレットの場合は、直径1〜10mmの範囲内、長さ1〜10mmの範囲内であってよい。これらの形状は、混練工程後のペレットに対して、常法に従って成形させてよい。
【0116】
なお、本発明において生分解性樹脂として代表的に用いられ得る結晶性のポリ乳酸(ポリL−乳酸又はポリD−乳酸)は、ガラス転移温度が57〜60℃と比較的高いことからも明らかなように主鎖がかなり剛直であり、結晶化速度が遅い。したがって、延伸操作を伴わない射出成形においては、金型温度を結晶化に最適な90〜100℃に設定(高温金型)しても半溶融状態のままである。金型温度を室温近傍に設定(低温金型)することによりようやく冷却・固化されるものの、結晶化度は極めて低く、耐熱性に劣るものしか得られない。
【0117】
一方、本発明に係る生分解性樹脂組成物においては、生分解性樹脂に対して、重質炭酸カルシウム粒子が高配合量で混合されており、例えば、生分解性樹脂として結晶性のポリ乳酸(ポリL−乳酸又はポリD−乳酸)を主成分と用いた場合でも、高温金型でも十分に硬化し、また低温金型においても結晶化度は高くなり、従来の結晶性ポリ乳酸を主成分としたものに比べて、重質炭酸カルシウム粒子が高配合量で配合されていることも加わって、耐熱性が高くなる。このため、冷却に十分な時間をとる必要がなく、成形サイクルが短くなり生産性が向上する。
【実施例】
【0118】
以下本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0119】
(評価方法)
以下の実施例及び比較例においての各物性値はそれぞれ以下の方法により評価されたものである。
【0120】
(粒子の比表面積)
マイクロトラック・ベル社製、BELSORP−miniを用い、窒素ガス吸着法によって求めた。
【0121】
(粒子の平均粒径)
島津製作所社製の比表面積測定装置SS−100型を用い、JIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した。
【0122】
(粒子の真円度)
粉末の粒度分布を代表するように、100個の粒子のサンプリングを行い、光学顕微鏡を用いて得たこれらの各粒子の投影図を粒子の画像を市販の画像解析ソフトを用いて画像解析することによって真円度を求めた。測定原理としては、粒子の投影面積と粒子の投影周囲長とを測定し、各々(A)と(PM)とし、粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の半径を(r)とすると、
PM=2πr (1)
であり、粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積を(B)とすると、
B=πr (2)
である。(1)式を変形すると、r=PM/2π (3)
となるから、(2)式に(3)式を代入すると、
B=π×(PM/2π) (4)
となり、真円度=A/B=A×4π/(PM)
を求めるものである。
【0123】
(重量平均分子量(Mw))
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン値に換算した。測定機器は、検出器;示差屈折計 島津RID−6A、ポンプ;島津LC−10AT、カラム;東ソーTSKgelG2000HXL、TSKgelG3000HXLとTSKguardcolumnHXL−Lを直列に接続したものを使用した。溶離液にはクロロホルムを使用し、温度40℃、流速1.0ml/分、濃度1mg/mlの試料を10μl注入した。
【0124】
(アイゾット衝撃強度)
アイゾット衝撃試験は、ASTM D256に準拠して、幅10mm及び厚み3mmの試験片を用いて、室温(23℃±1℃)中、ノッチありの条件で行った。
【0125】
(酵素分解性試験)
CLE酵素液の作製と分解液の作製;
pH7の60mmol/lリン酸緩衝液10mlに、CLE酵素液(リパーゼ活性653U/mlを示すCryptococcus sp. S−2由来リパーゼ(独立行政法人酒類総合研究所:特開2004−73123))48μlを添加して分解液を作製した。なお、リパーゼ活性は基質としてパラニトロフェニルラウレートを用いて測定した。ここで、リパーゼ活性の1Uとは1μmol/minのパラニトロフェノールをパラニトロフェニルラウレートから遊離させた時の酵素量で定義される。
酵素分解性試験;
各実施例及び比較例で作製されたフィルム(30mm×30mm)と、上記分解液10mlを25mlのバイアル瓶内に入れ、58℃、100rpmで7日間振とうさせた。なお、pHの極度な低下を避けるため、7日間を2日、2日、3日に分け、それぞれ分解液を交換して行った。7日後、フィルムを取り出し45℃オーブンで一晩乾燥させ、重量を測定した。フィルムの分解率は{(初期のフィルム重量)―(7日後のフィルム重量)/初期のフィルム重量}×100で求めた。
【0126】
(海水分解性試験)
人工海水の作製;
ドライタイプの人工海水(ジェックス株式会社製)36gを水道水1Lに溶解して人工海水を作製した。
海水分解性試験;
各実施例及び比較例で作製されたフィルム(30mm×30mm)と、上記人工海水10mlを25mlのバイアル瓶内に入れ、58℃、100rpmで7日間振とうさせた。7日後、フィルムを取り出し45℃オーブンで一晩乾燥させ、重量を測定した。フィルムの分解率は{(初期のフィルム重量)―(7日後のフィルム重量)/初期のフィルム重量}×100で求めた。
【0127】
(材料)
以下の実施例及び比較例において使用した成分はそれぞれ以下のものであった。
なお、
【0128】
・樹脂成分(P)
P1: ポリL−乳酸(重量平均分子量Mw:130,000、融点:172℃)
P2: ポリL−乳酸(重量平均分子量Mw:170,000、融点:178℃)
P3: ポリL−乳酸(重量平均分子量Mw:80,000、融点:167℃)
P4: ポリD−乳酸(重量平均分子量Mw:230,000、融点:182℃)
P5:ポリDL−乳酸(重量平均分子量Mw:150,000)
P6:ポリ乳酸マルチブロックコポリマー(重量平均分子量Mw:70,000、融点:140℃)
P7:ポリグリコール酸(重量平均分子量Mw:200,000、融点:228℃)
・無機物質粉末(I)
I1:重質炭酸カルシウム粒子 平均粒径:2.2μm、BET比表面積:1.0m/g、真円度:0.85
I2:重質炭酸カルシウム粒子 平均粒径:1.1μm、BET比表面積:3.2m/g、真円度:0.55
I3:重質炭酸カルシウム粒子 平均粒径:3.6μm、BET比表面積:0.6m/g、真円度:0.9
I4:重質炭酸カルシウム粒子 平均粒径:8.0μm、BET比表面積:0.3m/g、真円度:0.93
Ia:軽質炭酸カルシウム粒子 平均粒径:1.5μm、BET比表面積:0.1m/g、真円度:1.0
Ib:タルク粒子 平均粒径:3.3μm、BET比表面積:12.0m/g、真円度:0.49
・可塑剤(M) 分岐状ポリ乳酸
【0129】
実施例1
樹脂成分として上記ポリL−乳酸P1を、無機物質粉末として上記重質炭酸カルシウム粒子I1を、さらに上記可塑剤として分岐状ポリ乳酸Mを、表1に示す配合割合において用いた。なお、表1において各成分の数値は質量部の値である。各成分を、二軸スクリューを装備した押出成形機(東洋精機製作所製Tダイ押出成形装置(φ20mm、L/D=25)に投入し、175℃の温度で混練し、ペレット化した。得られたペレットを175℃で射出成形して金型温度60℃で保持して容器状の成形体を得た。その結果、離型性は良好であった。また、得られたペレットを用いて180℃でTダイを通して厚み3mmのシート、及び厚み200μmのフィルムを作製した。得られたシート、及びフィルムから作成した試験片を用いて上記したアイゾット衝撃試験、酵素分解性試験、海水分解性試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0130】
実施例2〜12、比較例1〜4
上記実施例1と、樹脂組成物中における各成分の種類及び量をそれぞれ、下記表に示すように変更する以外は実施例1と同様にして、厚み3mmのシート、及び厚み200μmのフィルムを作製し、同様にしてアイゾット衝撃試験、酵素分解性試験、海水分解性試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0131】


【表1】
【0132】
本発明に係る重質炭酸カルシウム粒子配合熱可塑性樹脂組成物の実施例においては、いずれも良好な成形性をもって強度的に良好な成形品が得られたことが判る。また、生分解性に関しても、比較例3、4と比べ、分解特性が向上していることが明らかであった。
【要約】
【課題】良好な加工性と、成形品として十分な強度とを発揮し、コスト面においても有利である一方で、環境下における生分解性、特に海洋生分解性に優れた生分解性樹脂成形品、及びその製造方法並びにこれに用いられるペレット体を提供すること。
【解決手段】生分解性樹脂と重質炭酸カルシウム粒子とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する生分解性樹脂組成物を用いて成形品を形成する。
【選択図】なし