(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下では、スノーモービルを例に挙げて説明するが、本発明は、前述した課題がある車両に対して適用すれば、同様の効果を奏する。前述した課題がある車両としては、スノーモービルの他、オフロード走行用のバギー、トライク等が挙げられる。
【0016】
<第1の実施形態>
図1は、この発明の第1の実施形態にかかるスノーモービル10の一例を示す平面図である。
図1に示すように、スノーモービル10は、前後方向に延びる車体本体11と、車体本体11の前方下部の左右両側に設けられる一対の操舵用スキー12と、車体本体11の中央下部から後方下部に延びる駆動用トラックベルト機構13と、エンジン及びブレーキ機構(不図示)と、を備える。
図1では、便宜上、駆動用トラックベルト機構13の大まかな位置を想像線(2点鎖線)で示している。
【0017】
車体本体11には、運転者が座るシート14と、シート14の左右両側に設けられるステップ15と、操舵用スキー12と連結されるシャフト16と、シャフト16を介して操舵用スキー12を操作するハンドルバー17と、エンジン等を収納するエンジン室18と、エンジン室18を覆うエンジンフード19と、が設けられる。
図1では、便宜上、エンジン室18の大まかな位置を想像線(2点鎖線)で示している。
【0018】
駆動用トラックベルト機構13は、例えば前方側に配置される駆動輪と、後方側に配置される従動輪と、これらの動輪間に配置される複数個の中間輪と、各車輪の周囲に巻装されるゴム製の無限軌道トラックとから構成される。スノーモービル10は、この無限軌道トラックをエンジンの動力によって駆動し、雪上を走行する。駆動用トラックベルト機構13の駆動輪には、ディスクブレーキ等のブレーキ機構(不図示)を備える。
【0019】
スノーモービル10は、シート14の前方に位置するメインスイッチ24によってエンジンが始動される。メインスイッチ24の切替位置は、始動回路をオンにする始動位置と、点火装置をオンにするオン位置と、点火装置をオフにするオフ位置と、を有する。始動回路がオンになると、エンジンが始動される。そして、メインスイッチ24がオン位置になると、点火装置が点火コイルを作動し、エンジンが点火駆動される。エンジンが駆動してからアイドリング状態の間は、ギアがニュートラルである。
【0020】
ハンドルバー17の右ハンドル17Rにはスロットルレバー22が設けられ、運転者がスロットルレバー22を握って右ハンドル17Rに近づけるように操作することによって、動力が駆動用トラックベルト機構13につながり、スノーモービル10が発進する。スロットルレバー22は、ばね等によって、右ハンドル17Rから離れる方向に付勢されているから、運転者がスロットルレバー22から手を離すと、スロットルレバー22が元の位置に戻り、動力が駆動用トラックベルト機構13から外れ、エンジンはアイドリング状態に戻る。
【0021】
ハンドルバー17の左ハンドル17Lには、ブレーキ機構を制御するブレーキレバー21が設けられる。運転者がブレーキレバー21を握り、左ハンドル17Lに近づけるように操作すると、図示しないブレーキ機構により駆動用トラックベルト機構13の回転がロックされ、ブレーキがかかる。
この実施形態において、ブレーキ機構として油圧式ブレーキ機構を用いる。より詳細には、ブレーキ機構はブレーキレバー21を握ることによってブレーキホースの圧力が上昇しブレーキパッドが駆動用トラックベルト機構のディスクロータに押し付けられてブレーキがかかる。
【0022】
右ハンドル17Rには、メインスイッチ24の切替によるエンジン停止とは別に、手動でエンジンを停止するための手動エンジン停止スイッチ23が設けられる。運転者は、手動エンジン停止スイッチ23を押すだけで、エンジンの駆動を停止させることができる。再度エンジンを始動する際、運転者は、手動エンジン停止スイッチ23を元の位置に戻してから、メインスイッチ24を始動位置にする。一方、通常のエンジン停止の手順では、運転者は、スロットルレバー22から手を離し、ブレーキレバー21を操作して、スノーモービル10を停車させた後、メインスイッチ24をオフ位置にする。
【0023】
上記のような構成のスノーモービル10において、例えば運転者がスノーモービル10から転落した場合などの緊急時、運転者がブレーキレバー21や手動エンジン停止スイッチ23を操作することなく、スノーモービル10を自動で停止させる緊急時制御装置1が設けられる。緊急時制御装置1は、シート14の前方に設けられ、緊急時を検出したときオンになる緊急停止スイッチ2と、緊急停止スイッチ2がオンになると作動する制御部3と、制御部3による制御に基づいてブレーキ機構による制動の実行及び解除を行う緊急停止機構4(
図2、
図3参照)と、によって構成される。
図1では、便宜上、制御部3の大まかな位置を想像線(2点鎖線)で示している。
【0024】
緊急停止機構4は、左ハンドル17Lのブレーキレバー21に取り付けられる第1機構部40と、エンジン室18に設置される第2機構部50と、によって構成される。
図1では、便宜上、第2機構部50の大まかな位置を想像線(2点鎖線)で示している。
【0025】
緊急停止スイッチ2にはキャップが着脱可能になっており、キャップにはティザーコード25が連結される。ティザーコード25は運転者の身体に取り付けられ、運転者がシート14に座っているときには身体とキャップがティザーコード25によって連結される。このとき、緊急停止スイッチ2はオフの状態であり、通常の走行が可能な状態である。
【0026】
エンジンが始動中、運転者がティザーコード25を付けたままシート14から離れると、ティザーコード25によってキャップが引っ張られ、緊急停止スイッチ2がオンになり、制御部3が作動する。そして、制御部3は、緊急停止機構4に対してブレーキ機構による制動を実行させるとともに、点火装置にエンジンの駆動を停止させる実行制御を行う。
【0027】
その後、運転者が、再びスノーモービル10を運転するために、緊急停止スイッチ2のキャップを装着し、メインスイッチ24を始動位置にすると、エンジンが始動されるとともに、制御部3が、緊急停止機構4に対してブレーキ機構による制動を解除させる復帰制御を行う。
【0028】
図2は、左ハンドル17Lをスノーモービル10の底面から見た拡大図であって、緊急時制御装置1を構成する緊急停止機構4の一部である第1機構部40を示している。第1機構部40は、ブレーキレバー21に係合される回動体41と、回動体41に取付けられたワイヤロープ42とを備える。回動体41は、回動軸43から外側に延びる2本の棒体44、45を備える。棒体44と棒体45は、互いにほぼ直交する。棒体44の遠位端部44Aには、ワイヤロープ42が連結される。棒体45の遠位端部45Aには、図面奥方向に突出するとともにブレーキレバー21に接触する掛合部46を備える。
【0029】
上記のような構成において、
図2(a)に示すように、ワイヤロープ42が図面右方向へ移動することによって、回動体41が回動軸43を支点に矢印X1方向へ回動する。回動体41が回動すると、
図2(b)に示すように、掛合部46によってブレーキレバー21が左ハンドル17Lに近づくように移動し、ブレーキがかかる。すなわち、ワイヤロープ42によって、運転者がブレーキレバー21を握ったのと同じ状態にすることができ、駆動用トラックベルト機構にブレーキを掛けることができる。
【0030】
図3は、エンジン室18に設置され、緊急時制御装置1を構成する緊急停止機構4の一部である第2機構部50の概要図である。第2機構部50は、第1機構部40のワイヤロープ42が巻き付けられるドラム51と、ドラム51を回転させる駆動機構52と、ドラム51の回転に伴って回動する回動板54と、回動板54に対向して位置するとともにエンジン室内に固定されワイヤロープ42を支持する支持板55とを備える。
【0031】
回動板54は、回動軸53と直交する第1面54Aと、第1面54Aに直交する第2面54Bとを備える。また、回動板54は、第1端部54C及び第2端部54Dを備える。この実施形態において、第1リミットスイッチ58は、第2面54Bの第1端部54C側に取り付けられる。
【0032】
支持板55は、互いに交差する第1板部55Aと第2板部55Bとを備える。この実施形態において、ワイヤロープ42は、第1板部55Aに設けた図示しない穴に挿入支持される。第1板部55Aの端部には小片56が連結される。小片56は、ドラム51が
図3(a)における矢印X2方向に回転した際、第1リミットスイッチ58と衝突する位置に設けられる。支持板55の第2板部55Bには、取付部材57を介して第2リミットスイッチ59が取り付けられる。第2リミットスイッチ59は、ドラム51が
図3(b)における矢印Y2方向に回転した際、回動板54の第2面54Bと衝突する位置に設けられる。
【0033】
第1リミットスイッチ58はブレーキレバー21の遠位側端部21Aが左ハンドル17Lから最も近い場所に位置した状態、すなわちブレーキ機構による制動が実行された状態を検出するスイッチである。第2リミットスイッチ59はブレーキレバー21の遠位側端部21Aが左ハンドル17Lから最も遠い場所に位置した状態、すなわちブレーキ機構による制動が解除された状態を検出するスイッチである。
【0034】
上記のような構成において、緊急停止機構4の実行動作について説明する。例えば、運転者がスノーモービル10から転落すると、運転者に連結されたティザーコード25によってキャップが引っ張られ、緊急停止スイッチ2がオンになる。緊急停止スイッチ2がオンになると、制御部3による制御によって、駆動機構52が正駆動され、ドラム51が
図3(a)における矢印X2方向に回動軸53を支点として回転する。ドラム51が矢印X2方向に回転すると、ワイヤロープ42がドラム51に巻き取られていく。これにより、回動体41が
図2(a)における矢印X1方向に回動軸43を支点として回転し、ブレーキレバー21を左ハンドル17Lに近づける。そうすると、駆動用トラックベルト機構13の回転がロックし、ブレーキがかけられる。その直後、制御部3による制御によって、点火装置がエンジンの駆動を停止する。尚、スノーモービル10にバッテリが搭載されている場合、例えばブレーキ機構による制動とエンジンの駆動停止を同時に実行しても良く、必ずしもブレーキ機構による制動の後にエンジンの駆動を停止する必要はない。このように、緊急時においてエンジンを停止するとともにブレーキ機構による制動を実行することで、斜面等においてもスノーモービル10が進んでしまうのを抑制することができる。すなわち、運転者が転落した場合でも、スノーモービル10を安全に停止させることができる。
【0035】
次に、緊急停止機構4の復帰動作について説明する。スノーモービル10から転落した運転者がスノーモービル10に戻り、ティザーコード25のキャップを緊急停止スイッチ2に被せる。そうすると、緊急停止スイッチ2をオフの状態に戻すことができる。緊急停止スイッチ2がオフの状態で、運転者がメインスイッチ24を始動位置にし、エンジンが始動すると、制御部3による制御によって、駆動機構52が逆駆動され、ドラム51が
図3(b)における矢印Y2方向に回動軸53を支点として回転する。ドラム51が矢印Y2方向に回転すると、ワイヤロープ42がドラム51から送り出されていく。これにより、
図2に示す回動体41が
図2(b)における矢印Y1方向に回動軸43を支点として回転し、ブレーキレバー21が左ハンドル17Lから遠ざかり、駆動用トラックベルト機構13の回転のロックが解除される。すなわち、運転者はティザーコード25をもとの状態に戻し、通常のエンジン始動の動作をおこなうだけで、緊急停止を解除しエンジンを再始動することができる。
【0036】
図4は、制御部3の一例を示している。制御部3は、5個のリレーRY1〜RY5と、逆流防止用のダイオードDと、蓄電用のコンデンサCとを備える。制御部3の端子T1には電源26、端子T2、T3には緊急停止スイッチ2、端子T4、T5には第1リミットスイッチ58、端子T6にはエンジンの点火装置27、端子T7、T8には駆動機構52、端子T9、T10には第2リミットスイッチ59が接続されている。
【0037】
電源26は、例えばヘッドライト(不図示)用電源でも良い。この場合、コンデンサCは、エンジン停止後の予備電源として機能する。
図4に示す回路は、スノーモービル10にバッテリが搭載されていない場合の一例である。尚、スノーモービル10にバッテリが搭載されていれば、バッテリを電源26としても良い。この場合、コンデンサCは不要となる他、
図4に示す回路の一部が適宜変更される。
【0038】
緊急停止スイッチ2は、オンになると閉路する。第1リミットスイッチ58は、オンになると閉路する。第2リミットスイッチ59は、オンになると開路する。制御部3の端子T6から点火装置27に電流が流れると、点火装置27はエンジンの駆動を停止する。
【0039】
リレーRY1は、コイルr1に電流が流れると、接点部31を閉路する。リレーRY2はオンディレータイマであり、コイルr2に電流が流れてから所定の時間(2〜3秒)を経過すると、接点部32を閉路する。リレーRY3における接点部33の〇印は常開接点側を示し、●印は常閉接点側を示している。リレーRY3のコイルr3に電流が流れると、接点部33は常閉接点側から常開接点側に切り替わる。
【0040】
接点部33の切り替えにより、駆動機構52に電流を流す端子が切り替わる。
図4〜
図8において、矢印X3は駆動機構52が正駆動される正方向、矢印Y3は駆動機構52が逆駆動される逆方向を示している。端子T7から駆動機構52に電流が流れることによって、駆動機構52が正駆動され、ドラム51が
図3(a)における矢印X2方向に回転する。また、端子T8から駆動機構52に電流が流れることによって、駆動機構52が逆駆動され、ドラム51が
図3(b)における矢印Y2方向に回転する。
【0041】
図4〜
図6を参照しながら、エンジン始動時の緊急時制御装置1の動作について説明する。エンジンを始動する前、ティザーコード25に連結される緊急停止スイッチ2のキャップが装着されている場合、
図4に示すように、緊急停止スイッチ2はオフの状態である。
【0042】
図5は、エンジン始動後の状態を示している。
図4に示す状態でエンジンが始動されても、リレーRY1のコイルr1には電流が流れない。同様に、リレーRY2のコイルr2、リレーRY3のコイルr3、リレーRY4のコイルr4にも電流が流れない。一方、リレーRY5のコイルr5には、リレーRY3の接点部33の常閉接点側を介して電流が流れる。これによって、RY5の接点部35に電流が流れる。第2リミットスイッチ59はオンになると開路するため、オフの状態であれば、端子T8から駆動機構52に電流が流れる。そうすると、駆動機構52は逆駆動し、緊急停止機構4は復帰動作を行う。
【0043】
エンジン始動の直前に緊急時制御装置1が作動していれば、復帰動作の結果、ブレーキレバー21は
図2(a)に示す位置になり、第2リミットスイッチ59は
図3(a)に示すように回動板54の第2面54Bと衝突し、オンになる。エンジン始動の直前に緊急時制御装置1が作動していなければ、復帰動作に関わらず、ブレーキレバー21及び第2リミットスイッチ59は、エンジン始動前から
図2(a)や
図3(a)に示す状態を維持している。
【0044】
図6は、第2リミットスイッチ59がオン状態を示している。第2リミットスイッチ59はオンになると開路するから、端子T8から駆動機構52に電流が流れなくなり、駆動機構52が停止する。
【0045】
次に、
図6〜
図8を参照しながら、緊急停止実行時の緊急時制御装置1の動作について説明する。スノーモービル10の走行中、緊急時制御装置1は、緊急停止スイッチ2がオンになるまで、
図6の状態を維持している。
【0046】
図7は、緊急停止スイッチ2がオンになった状態を示している。
図6に示す状態で緊急停止スイッチ2がオンになると、リレーRY1のコイルr1に電流が流れる。そして、順次、リレーRY2のコイルr2、リレーRY3のコイルr3、リレーRY4のコイルr4にも電流が流れる。これによって、端子T7から駆動機構52に電流が流れる。そうすると、駆動機構52は正駆動し、緊急停止機構4は実行動作を行う。その結果、第1機構部40は
図2(b)に示す状態になり、第2機構部50は
図3(b)に示す状態になる。すなわち、ブレーキレバー21は左ハンドル17Lに近づき、第1リミットスイッチ58は小片56と衝突し、オンになる。尚、第2リミットスイッチ59はオフの状態に戻る。
【0047】
図8は、第1リミットスイッチ58がオンの状態を示している。第1リミットスイッチ58はオンになると閉路するから、点火装置27に電流が流れ、エンジンが停止する。また、これとは独立して、リレーRY2のコイルr2に電流が流れてから所定の時間(2〜3秒)を経過すると、接点部32が閉路し、点火装置27に電流が流れ、エンジンが停止する。すなわち、第1リミットスイッチ58がオンになったか否かに関わらず、エンジンが停止するようになっている。
【0048】
このように、制御部3は、第1リミットスイッチ58がオンになった後、すなわち、緊急停止機構4がブレーキ機構による制動を実行したことを検出した後、エンジンの駆動を停止させるので、前述の通り、通常のエンジン停止の手順と同様の順序でスノーモービル10を停止させることができる。また、スノーモービル10がバッテリを備えていない場合であっても、確実にブレーキ機構による制動を実行することができる。
【0049】
また、制御部3は、緊急停止スイッチ2がオンになってから所定の時間を経過した後、第1リミットスイッチ58がオンになるか否かに関わらず、すなわち、緊急停止機構4がブレーキ機構による制動を実行したことを検出したか否かに関わらず、エンジンの駆動を停止させる。これによって、ブレーキ機構の作動時間を確保するとともに、仮にブレーキ機構が作動しなくても、確実にエンジンの駆動を停止させることができる。従って、仮に緊急停止機構4に不具合があっても、最低限、従来と同様の機能、すなわちエンジン停止機能を提供することができる。
【0050】
再度、
図4〜
図6を参照しながら、復帰時の緊急時制御装置1の動作について説明する。緊急時制御装置1によってスノーモービル10を緊急停止させた後、運転者が緊急停止スイッチ2のキャップを被せ、緊急停止スイッチ2をオフにすると、
図4の状態になる。
図4に示す状態でエンジンが始動されると、前述したエンジン始動時の緊急時制御装置1の動作と同様、
図5の状態を経て、
図6の状態になる。すなわち、駆動機構52が逆駆動し、緊急停止機構4が復帰動作を行った結果、ブレーキレバー21は元の位置(
図2(a)参照)に戻り、第2リミットスイッチ59がオンになり(
図3(a)参照)、端子T8から駆動機構52に電流が流れなくなり、駆動機構52が停止する。
【0051】
このように、制御部3は、復帰制御において、第2リミットスイッチ59がオンになった後、すなわち、緊急停止機構4がブレーキ機構による制動を解除したことを検出した後、緊急停止機構4を停止させるので、復帰後の走行時、確実にブレーキ機構による制動が解除されるとともに、緊急停止機構4が作動し続けることもない。
【0052】
以上の説明の通り、制御部3は、エンジンが始動中、緊急停止スイッチ2がオンになると、緊急停止機構4に対してブレーキ機構による制動を実行させるとともに、エンジンの駆動を停止させる実行制御を行う。また、制御部3は、緊急停止スイッチ2がオフになり、エンジンが始動されると、緊急停止機構4に対してブレーキ機構による制動を解除させる復帰制御を行う。これによって、運転者が走行中にスノーモービル10から転落して離れた場合等であってもスノーモービル10を安全に停止させることが可能となる。更に、再びスノーモービル10のエンジンを始動する際、通常のエンジン始動と同じ動作で元の状態に復帰させることができる。通常のエンジン始動と同じ動作とは、緊急停止スイッチ2のキャップを被せ、メインスイッチ24を始動位置にすることである。
【0053】
上記の説明における緊急停止スイッチ2としては、エンジン停止のみを行う従来の緊急停止スイッチを用いることができる。従って、緊急時制御装置1は、市販されている従来のスノーモービル10に容易に取り付けることができる。
【0054】
ティザーコード25は、例えば、特許第4205261号公報のように、スノーモービル10側に設けられる近距離無線通信のアンテナと、運転者が所持する近距離無線通信の発信器との組み合わせに代えても良い。この場合、運転者がスノーモービル10から離れ、発振器からの電波をアンテナが受信できなくなると、緊急停止スイッチ2がオンになるように構成することができる。
【0055】
制御部3は、スノーモービル10のエンジンを制御するために予め備えられているエンジン制御装置やその他の電子制御ユニットに対して、
図4〜
図8に示す制御回路の動作を実現するプログラムを追加することによって構成しても良い。また、制御部3は、
図4〜
図8に示す制御回路の動作を実現するための専用の電子制御ユニットとして構成しても良い。
【0056】
緊急停止機構4が備える駆動機構52としてモータを用いているが、回転軸を有し、回転運動をする回転式モータに限らず、回転軸がなく、直線運動をするリニア式モータでも良い。緊急停止機構4がリニア式モータを備える場合、一方の方向への直線運動を正駆動、逆方向となる他方の方向への直線運動を逆駆動とし、ブレーキ機構による制動の実行及び解除を行う。
【0057】
緊急停止機構4は、正駆動することでブレーキ機構による制動を実行し、逆駆動することでブレーキ機構による制動を解除する油圧駆動機構として構成しても良い。この場合、油圧駆動機構が、リミットスイッチのオン/オフも行うようにしても良い。また、緊急停止機構4は、電動ブレーキ機構を備え、電動ブレーキ機構による制動を実行する正駆動及び電動ブレーキ機構による制動を解除する逆駆動や、リミットスイッチのオン/オフを電子制御ユニットによって実現しても良い。この場合、スノーモービル10がバッテリを備えていなければ、制御部3は緊急停止スイッチ2がオンになってから所定時間(電動ブレーキ機構が作動する時間)はエンジンを停止しないように制御する。いずれの場合も、
図2及び
図3に示す例と同様に、ブレーキ機構による制動の実行及び解除を単一の機構で実現するので、小型化が容易になるとともに、信頼性が向上する。
【0058】
<第2の実施形態>
図9はこの発明の第2の実施形態にかかる緊急停止機構4の一部分を示す図である。この実施形態において、ブレーキ機構として、油圧式ブレーキ機構を用いる。また、スノーモービル10を例に説明し、その概要は第1の実施形態と同様である。第1の実施形態と同様の構成要素については、第1の実施形態と同じ符号を用い、その詳細な説明を省略する。
【0059】
図9を参照すれば、ブレーキ機構は、ブレーキレバー21と、ブレーキレバー21の作動に応じて第1ピストンロッド61が摺動する第1油圧シリンダ60と、第1油圧シリンダ60に連結されるブレーキホース62と、ブレーキホース62に連結されるブレーキパッド63と、ブレーキホース62にブレーキフルードを供給するタンク64とを備える。タンク64は、ブレーキレバー21に取付けられ、ブレーキレバー21からブレーキパッド63の間にブレーキホース62が連接される。
【0060】
緊急停止機構4として、第1油圧シリンダ60とブレーキパッド63の間に配置される第2油圧シリンダ70を備える。第2油圧シリンダ70には、制御部3からの信号に応じて摺動する第2ピストンロッド71が設けられる。さらに緊急停止機構4は、第2ピストンロッド71の端部に位置するとともに第2ピストンロッド71を押圧可能な回動押圧部材72と、回動押圧部材72を回動させる駆動機構73とを備える。駆動機構73は制御部3の制御によって正駆動又は逆駆動する。
【0061】
上記のような構成において、通常運転時、運転者がブレーキを掛ける場合には、第1の実施形態と同様にブレーキレバー21を握る。ブレーキレバー21を握ると、第1ピストンロッド61の端部がブレーキレバー21によって押圧され、第1ピストンロッド61が図面右方向に摺動する。第1ピストンロッド61が摺動すると、連通していたタンク64とブレーキホース62とが遮断されるとともにブレーキホース62内の圧力が上昇する。ブレーキホース62内の圧力が上昇することによって、ブレーキパッド63が駆動用トラックベルト機構13のディスクロータに押し付けられてブレーキがかかる。
【0062】
エンジン始動中において運転者が転落等した場合には、運転者に固定されたティザーコード25によってキャップが引っ張られ、緊急停止スイッチ2がオンになり、制御部3が作動する(図示せず)。そして、制御部3は、緊急停止機構4に対してブレーキ機構による制動を実行させる。すなわち、緊急停止スイッチ2がオンになると、制御部3による制御によって駆動機構73が正駆動され、回動押圧部材72が時計回りに回動し、第2ピストンロッド71を図面右方向へと押圧する。第2ピストンロッド71が押圧され移動することによって、タンク64と第2油圧シリンダ70の下流側のブレーキホース62との連通が遮断されるとともに、第2油圧シリンダ70の下流の圧力が上昇する。ブレーキホース62の圧力が上昇することによって、ブレーキパッド63がディスクロータに押し付けられてブレーキがかかる。また、制御部3による制御によって、点火装置がエンジンの駆動を停止する。このように、緊急時においてエンジンを停止するとともにブレーキ機構による制動を実行することで、斜面等においてもスノーモービル10が進んでしまうのを抑制することができる。すなわち、運転者が転落した場合でも、スノーモービル10を安全に停止させることができる。
【0063】
次に、緊急停止機構4の復帰動作について説明する。スノーモービル10から転落した運転者がスノーモービル10に戻り、ティザーコード25のキャップを緊急停止スイッチ2に被せ、緊急停止スイッチ2をオフの状態に戻す。緊急停止スイッチ2がオフの状態で、運転者がメインスイッチ24を始動位置にし、エンジンが始動すると、制御部3による制御によって、駆動機構73が逆駆動され、回動押圧部材72が第2ピストンロッド71の端部から離間する。第2油圧シリンダ70には第2ピストンロッド71を図面左側に押圧するスプリングが内蔵されており、回動押圧部材72の押圧が解除されると、スプリングによって図面左側に移動復帰する。このように第2ピストンロッド71が移動することによって、ブレーキ機構による制動が解除される。
【0064】
以上のように、第2の実施形態においても、運転者が運転中に転落したような緊急時にはブレーキ機構による制動が実行されるともにエンジンの駆動を停止させることにより、スノーモービル10を安全に停止させることができる。また、再びスノーモービル10のエンジンを始動する際には、通常のエンジン始動と同じ動作で元の状態に復帰させることができる。なお、制御部3の制御回路は、第1の実施形態と同様でも良いし、ブレーキ機構による制動とエンジンの駆動停止を同時に実行するものであっても良い。
【0065】
第2の実施形態において、第1油圧シリンダ60の下流に第2油圧シリンダ70を設けるようにしているが、第1油圧シリンダ60の上流に第2油圧シリンダ70を設けるようにしても良い。いずれにしても、既存の通常のブレーキレバー21の操作によるブレーキ機構に、第2油圧シリンダ70による緊急停止機構を追加するだけで、本発明の効果を奏することができる。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る緊急時制御装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。