【氏名又は名称原語表記】YISSUM RESEARCH DEVELOPMENT COMPANY OF THE HEBREW UNIVERSITY OF JERUSALEM LTD.
【文献】
J. Control Release,2014年 1月10日,173,p.125-131
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載のリポソームにおいて、生理学的に許容される媒体中に保持された場合、4℃の保存下で安定であり、前記安定性は、少なくとも1ヶ月間にわたる保存後に、前記媒体中へ放出されるムピロシンが20%以下であることを特徴とするリポソーム。
全身投与に適する生理学的に許容されるキャリア、および前記キャリア内のリポソームを含む医薬組成物であって、前記リポソームは、脂質膜およびリポソーム内コンパートメントを含み、前記リポソーム内コンパートメントは、ムピロシン、少なくとも1つのシクロデキストリン(CD)化合物、およびpH依存性イオン化可能アニオンを含み;前記リポソームは、0.1から1.0の範囲内のムピロシン対脂質モル比および0.05から2.5の範囲内のCD化合物対脂質モル比を有する医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によって解決されることになる問題は、ムピロシン、(9−[(E)−4−[(2S,3R,4R,5S)−3,4−ジヒドロキシ−5−[[(2S,3S)−3−[(2S,3S)−3−ヒドロキシブタン−2−イル]オキシラン−2−イル]メチル]オキサン−2−イル]−3−メチルブタ−2−エノイル]オキシノナン酸)の全身送達に関し、これは、以下の化学式を有し:
【0019】
血流中で急速に分解し、血漿中タンパク質に対して高い結合を示すことが知られており、従って、その使用は、局所投与のみに制限され、限定される。
【0020】
ムピロシンは、生体外において、いずれも疾病管理予防センター(CDC)によって重大な脅威であると見なされているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)および肺炎レンサ球菌を含むグラム陽性細菌に対して活性である。感受性を持つグラム陰性細菌の中でも、ムピロシンは、CDCによって切迫した脅威であると見なされている淋菌(0.05μg/mlのMIC)に対して活性である。ムピロシンの作用モードは、他の入手可能である抗生物質の作用モード(イソロイシンtRNAシンターゼの阻害)とは異なり、従って、他の抗生物質との交差耐性は考えられず、このことが、この薬物を全身送達用として特に興味深いものとしている。
【0021】
従って、この薬物の全身投与が臨床的に許容される製剤が求められている。この目的のために、本明細書で開示されるように、ムピロシンのリポソーム製剤が開発された。
【0022】
全身送達のためのリポソームをベースとする臨床的に使用可能である製剤を得るためには、多くの必須条件が存在する。第一は、充分なレベルの薬物ローディングを達成することであり;第二は、血中を循環する間、リポソーム中に薬物を維持することであり;第三は、所望される治療効果をもたらすのに充分である速度およびレベルで、標的部位において薬物を放出することであり;第四は、そのようにして、保存安定性という意味で薬理学的に許容される製品を得ることである。
【0023】
ムピロシンのリポソーム製剤(ナノムピロシン)は、リポソーム内水相中への封入によって血液循環中での分解からそれが保護されることになり、細菌感染組織における高い透過性および保持(Enhanced Permeability and Retention)(EPR)効果を利用して感染組織への受動的標的化を可能とすることから、その全身投与による適用を可能とし得るものである[Azzopardi,E.a,Ferguson,E.L.&Thomas,D.W.The enhanced permeability retention effect:a new paradigm for drug targeting in infection.J.Antimicrob.Chemother.68,257−74(2013)]。しかし、そのような製剤を有効とするためには、感染部位での蓄積に加えて、リポソームは、疾患部位でのムピロシンの制御されたゆっくりした放出を示すべきである。
【0024】
ムピロシンは、水性媒体中にほんの僅かに可溶性でしかなく、その溶解度は、pHに依存することから、ムピロシンに関するさらなる課題は、その溶解度に関する。以下の例で示されるように、pH6.3のリン酸緩衝液中では、ムピロシンは、約28mMの溶解度を有しており、この濃度は、激しい撹拌および超音波処理の後にようやく達成された。従って、様々な可溶化剤を用いた薬物溶解度を上昇させる試みが行われてきた。その結果から、ポリエチレングリコール(PEG)400、プロピレングリコール(PG)、およびシクロデキストリンヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPCD)を可溶化剤として用いた場合に、溶解度が上昇したことが示された。
【0025】
しかし、予想外なことに、これらの可溶化剤を、リポソームへのムピロシンローディング(リモートローディングによる)に用いられるインキュベーション溶液中に組み込むことを試みた場合、得られたリポソーム製剤は、血清中において非常に速い薬物放出を示し、このことにより、臨床使用に適するものではなかった。
【0026】
加えて、薬物のリポソームへのローディングは、薬物がpH6.3のリン酸緩衝液からローディングされたか、または可溶化剤としてPEG400を含有した場合、逆U字形の挙動を有していた。PG溶液およびHPCD溶液からのローディングパターンは、逆U字形ではなかった。しかし、HPCD溶液からのローディングは、HPCD濃度に依存していた。HPCD(1%)は、僅かに高いローディング率だが、類似の逆U字形ローディング曲線を示した。より高いHPCD濃度(2.5%〜10%)では、初期比の上昇と共に、ローディング率の一定の上昇が示され、逆U字形パターンの結果とはならなかった。しかし、ローディング率は、2.5%HPCDの方が高く、HPCDの濃度の上昇(5%および10%)と共に低下しており;高いHPCD濃度は、ローディングを妨害したものと思われる。得られたリポソーム製剤を、その放出プロファイルについて試験したところ、これらの製剤が、血清の存在下において非常に速い放出を示したことが見出され、これは、臨床的使用には適さないであろう。
【0027】
しかしながら、本発明者らは、すべての必須条件、すなわち、高い薬物/脂質比を有するリポソーム、長い血中循環時間、ローディングリポソームからの薬物のゆっくりした放出、長い保存期間、ならびにもっとも重要であることには、より優れた治療効果を示し、全身的臨床使用に適する製剤という条件を満足するリポソーム製剤の開発に成功した。
【0028】
具体的には、本発明者らの開発に基づいて、本開示は、ムピロシン、少なくとも1つのシクロデキストリン化合物、およびpH依存性イオン化可能アニオンを封入しているリポソーム内コンパートメントを含むリポソームを提供する。本明細書で示されるように、リポソーム中のムピロシンおよび少なくとも1つのシクロデキストリン化合物の量は、対象へのリポソームの全身投与後に治療効果を提供するのに充分である。
【0029】
ムピロシンを封入するリポソームは、いかなる形状またはサイズであってもよい。
【0030】
ある例では、リポソームは、マルチラメラ状またはオリゴラメラ状のベシクルである。
【0031】
ある例では、リポソームは、マルチベシクル状のベシクル(multivesicular vesicles)である。
【0032】
ある他の例では、リポソームは、ユニラメラ状のベシクルである。
【0033】
リポソームは、小、中、大、または巨大であってもよい。小リポソームと称する場合、それは、約20nm〜100nmの範囲の平均サイズを有するとして理解されるべきであり;中サイズリポソームと称する場合、それは、約100nm〜200nmの範囲の平均サイズを有するとして理解されるべきであり;大リポソームと称する場合、それは、約200nm超の平均サイズを有するとして理解されるべきであり;巨大リポソームと称する場合(典型的には、巨大ユニラメラ状またはマルチベシクル状ベシクル)、それは、1μmよりも大きいリポソームを意味するとして理解されるべきである。
【0034】
ある例では、リポソームは、小ユニラメラ状ベシクル(SUV)である。ある例では、SUVは、20nmから100nm:場合によっては、20nmから100nm、さらに場合によっては、40nmから100nmまたは50から100nmのサイズ分布を有する。
【0035】
ある例では、リポソームは、60から90nm;場合によっては、70nmから80nm;および場合によっては、約77±5.0nmの平均サイズを有する。
【0036】
これらのリポソームは、安定であることが見出された。実際、生理学的に許容される媒体中の場合、ムピロシンを封入しているリポソームは、4℃の保存条件下にて、非常に安定であることが見出されている。
【0037】
本明細書で開示される状況において安定性と称する場合、少なくとも1ヶ月間にわたる保存(4℃)の後、初期ローディング薬物と比較して、保存媒体中へのムピロシンの放出が、20%以下、場合によっては、10%以下であることとして理解されるべきである。ある例では、リポソームの安定性は、少なくとも3か月間のにわたる4℃での保存後に、保存中における周囲媒体へのムピロシンの放出が、10%以下であることを特徴とする。ある例では、リポソームの安定性は、少なくとも4か月間、5か月間、6か月間、7か月間、8ヶ月間、9か月間、12ヶ月間、およびさらには24か月間にわたる4℃での保存後に、周囲媒体へのムピロシンの放出が、10%以下であることを特徴とする。
【0038】
安定性は、保存条件下(4℃、緩衝液中)における化学的および物理的安定性の一方または両方によって特定される。
【0039】
この状況において、化学的安定性は、とりわけ、以下のパラメータの1つ以上によって評価されてよい:
a)分散体pHの測定(pHメーター)
b)リン脂質(PL)アシルエステル加水分解、PL加水分解時に放出される非エステル化(遊離)脂肪酸(NEFA)の変化の特定による[Barenholz et.al.From Liposomes:a practical approach,2
nd Edn.,RRC New ed,IRL Press Oxford,1997]または薄層クロマトグラフィ(TLC)による[Barenholz,Y.and Amsalem,S.In:Liposome Technology 2
nd Edn.,G.Gregoriadis(Ed.)CRC Press,Boca Raton,1993,vol.1,pp:527−616]
【0040】
脂質集合体の物理的安定性は、とりわけ、以下のパラメータの1つ以上によって評価されてよい:
a)動的光散乱法(DLS)による集合体のサイズ分布
b)遊離(非会合/凝集)成分のレベル
c)ゼータ電位
【0041】
リポソームは、理論的には、少なくとも1つのリポソーム形成脂質を用いて作製される。本発明の状況において、「リポソーム形成脂質」の用語は、主として、グリセロリン脂質またはスフィンゴミエリンを意味し、これらは、以下でさらに考察されるように、リポソームなどであるがこれに限定されないベシクルを水中で形成する。
【0042】
リポソームは、この場合、とりわけ、リポソーム形成脂質に対する各成分の比率によって特徴付けられる。そのような成分には、薬物、すなわち、ムピロシン、少なくとも1つのCD、ならびにpH依存性イオン化可能アニオンおよびそれに対する対イオン(例:酢酸カルシウムまたはナトリウム)が含まれる。
【0043】
CD化合物は、(α−1,4)−結合したα−D−グルコピラノース単位から成る環状オリゴサッカリドとして認識され、親油性の中央キャビティおよび親水性の外側面を含有する。本開示の状況において、CDは、天然のCD、さらには天然CDの誘導体であってよい。天然CDとしては、それぞれ6、7、および8個のグルコピラノース単位から成るα−、β−、またはγ−シクロデキストリン(αCD、βCD、またはγCD)が挙げられる。天然CDの誘導体と称される場合、それは、親油性の中央キャビティおよび親水性の外側面を有する(α−1,4)−結合したα−D−グルコピラノース単位から成るいずれかの環状オリゴサッカリドとして理解されるべきである。
【0044】
ある例では、CDは、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)である。
【0045】
ある例では、CDは、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン(HPγCD)である。
【0046】
ある例では、CDは、ソルホブチルエーテル(Solfobutyl ether)(SBE)シクロデキストリンである。
【0047】
1つの好ましい例では、CDは、HPβCDである。ある例では、HPβCDは、追加のCDまたはプロピレングリコールなどの共溶媒を例とする少なくとも1つの可溶化剤と組み合わされる
【0048】
本明細書で開示されるリポソームは、血清の存在下の場合であってもリポソーム内でムピロシンを安定とするのに充分な量のCDを含む。理論に束縛されるものではないが、HPCDは、恐らくは複合体化により、リポソームからの薬物の漏出に影響を与える方法でムピロシンと相互作用を起こすものと考えられる。このことは、本明細書で提示されるDSCイメージから結論付けることができ(
図9Aおよび9B)、そこでは、HPCDを含有するリポソームが、非脂質成分に対する融点において、HPCDの非存在下での対応する融点の78.447と比較して、81.307というシフトを示している(脂質は約50℃の融点を有する)。加えて、本明細書で提示されるクライオTEM画像は、HPCDおよび対イオンとしてのカルシウムと共にムピロシンを封入するリポソームが、その内部に観察可能な薬物結晶を有していなかったことを示している。これは、ムピロシンの限界溶解度を超える非常に高いムピロシンのリポソーム内濃度にも関わらずである。200mM、pH5.5の酢酸カルシウム中におけるムピロシンの溶解度は、2mg/ml未満であることが見出された。その媒体中において、HPCD(15%)は、その溶解度を10倍以下まで増加させる。しかし、ムピロシンのリポソーム内濃度は、88〜108mg/mlの範囲内であることが見出された。
【0049】
ムピロシンのリポソーム内濃度は、誘導結合プラズマ(ICP)によって測定されたリポソーム内Caイオンレベルから特定されるリポソーム内水性体積を特定することによって算出した(A.Montaser and D.W.Golightly,eds.(1992).Inductively Coupled Plasmas in Analytical Atomic Spectrometry.VCH Publishers,Inc.,New York,)。脂質濃度40mMの場合のリポソーム内カルシウム濃度は、296mg/Lであることが見出され、リポソーム作製に用いた溶液中のカルシウム濃度は、5812mg/Lであった。これら2つの値の割り算を行うと、製剤中のリポソーム内体積分率(5.09%)となり、脂質1μmolあたり1.27μlに相当する(封入された体積を特定するための方法は、Liposomes:a practical approach.edited by R.R.C.New.The Practical Approach Series(Book 58),Oxford University Press,1990を参照されたい)。
【0050】
以下で詳細に述べるように、ムピロシンに対する対イオンをリポソーム内に含めることによって、リポソームの安定性が高まり、リポソームの血液中循環時間が長くなることが見出された。具体的には、ムピロシン、およびCDに加えて酢酸カルシウム(CA−HPCD−lipを得るために)も封入したリポソームが、CDを含まないリポソーム、またはカルシウム対イオンを含まないリポソームと比較して、薬物漏出および放出速度に関して、生理食塩水および血清中で安定であったことが見出された。具体的には、酢酸カルシウム−HPCDリポソームの血清中でのムピロシンの放出(1時間後に17〜22%)は、HPCD−リポソーム(酢酸カルシウム非含有)からの放出(1時間後に73%)およびHPCDを含まない酢酸カルシウムリポソームからの放出(1時間以内に82%放出)と比較して、非常に遅いことが見出された。これらの知見は、HPCD、および酢酸カルシウム勾配または酢酸ナトリウム勾配を例とする対イオン勾配の組み合わせを含有する媒体から作製したリポソームが、全身送達のために臨床的に適するリポソームの確立に不可欠であるという理解を支持するものである。
【0051】
「pH依存性イオン化可能アニオン」と称される場合、それは、適切なpH条件下にて帯電するいずれかの塩に由来するアニオンとして理解されるべきである。従って、このアニオンは、実際、リポソーム中では非イオン化形態であってよいことは理解されるべきであり、それによって、イオン化形態である場合は、リポソーム中に保持され、非イオン形態である場合は、脂質膜を透過してリポソームのリポソーム内コアから漏出する。これは、内部pH、すなわち、リポソーム内コンパートメント内のpHに依存することになる。塩は、高い溶解度を有する塩であり(少なくとも250mM)、そのアニオンは、3.5よりも高いpKa、および約−2.5から約1.5の範囲内、好ましくは、約−1.5から約1.0の範囲内であるpH7でのlogDを有するアニオンである。ある例では、pH依存性イオン化可能アニオンは、アセテート、ベンゾエート、ホルメートから成る群より選択される。ある例では、アニオンは、コリンなどの有機アニオンである。1つの特定の例では、アニオンは、アセテートである。
【0052】
塩のカチオンは、ムピロシンに対する対イオンとしてリポソーム内で作用する。両親媒性の弱酸であることから、適切な対カチオンは、有機ならびに無機カチオンであってよい。ある例では、対カチオンは、カルシウム、マグネシウム、およびナトリウムから成る群より選択される。ある例では、カチオンは、非常に低い透過係数、好ましくは、<10−
11を有するpH依存性イオン化可能アニオン、好ましくは、アセテートに対する対イオンである(通常、これが、リポソームへのムピロシンのリモートローディングのための推進力である)。
【0053】
その他のある例では、対カチオンは、カチオン性ポリマーを含む。カチオン性ポリマーの限定されない例としては、デキストランスペルミン、デキストランスペルミジン、アミノエチルデキストラン、トリメチルアンモニウムデキストラン、ジエチルアミノエチルデキストラン、ポリエチレンイミンデキストランなどが挙げられる。
【0054】
ある特定の例では、対カチオンは、カルシウムである。ある例では、カルシウムイオンは、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、および安息香酸カルシウムのうちのいずれか1つから誘導される。
【0055】
その他のある例では、対カチオンは、ナトリウムであり、例えば、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、および安息香酸ナトリウムから誘導される。
【0056】
ある例では、リポソームは、酢酸カルシウムまたは酢酸ナトリウムを含む。
【0057】
リポソームは、リポソーム製剤中の各成分の量によって特性決定することができる。リポソーム組成を表現するためのより許容される方法は、個々の成分とリポソーム形成脂質(リポソーム膜を形成する脂質)との間のモル比による方法である。モル比を特定するために、リポソーム製剤中の各成分の絶対量がまず特定され、これは、当業者に公知である従来の技術によって達成される。次に、この量がモルに換算され、(1もしくは複数の)リポソーム形成脂質のモルとのモル比が算出される。
【0058】
ある例では、少なくとも1つのCDの対脂質モル比は、0.05〜2.5の間であり、場合によっては、0.1から2の間である。ある例では、少なくとも1つのCDと脂質との間のモル比は、0.15±0.03である。
【0059】
リポソームコンパートメント内の少なくとも1つのCDの濃度が定められて(以下の限定されない例で示されるように)、リポソームの特性決定に用いられてもよい。ある例では、リポソーム内水相中の少なくとも1つのCDの濃度は、少なくとも約100mg/ml(73mMに相当する)であり;場合によっては、少なくとも125mg/ml(90mM)である。ある例では、少なくとも1つのCDの濃度は、最大で200mg/ml(145mM)であり、場合によっては、最大で175mg/ml(241mM)である。さらなるある例では、少なくとも1つのCDの濃度は、120mg/mlから180mg/ml(87mM)の範囲である。
【0060】
ある例では、少なくとも1つのCDの濃度は、約150mg/ml±10mg/ml(約109mM)である。
【0061】
ある例では、イオン(カチオンまたはアニオン)と脂質との間のモル比は、約0.1から約0.5の間であり、場合によっては、約0.2から0.4の間であり、さらに場合によっては、モル比は、約0.3±0.05である。
【0062】
イオン、例えばカチオン(例えば、カルシウムおよびナトリウム)またはアニオン(例:アセテート)の濃度も、そのリポソーム内コンパートメント含有量の特性決定に用いられてよい。ある例では、イオン源(例:酢酸カルシウムからのカルシウムおよび酢酸ナトリウムからのナトリウム)の濃度は、少なくとも100mMであり、場合によっては、150mMである。ある例では、イオン源(酢酸カルシウムおよび酢酸ナトリウムなど)の濃度は、最大で300mMであり、場合によっては、最大で250mM、または最大で225mMである。
【0063】
ある例では、イオンの濃度は、約200mMである。
【0064】
この特定のケースではムピロシンである薬物自体に関しては、リポソームに封入されるその量は、それが臨床的に許容されるリポソーム製剤のための必須条件の1つであることから、特に重要である。薬物の封入を評価するために、薬物の対脂質比が特定され、初期比(封入前)と比較される。この目的のために、薬物がローディングされたリポソームは、一般的に、薬物のローディング後、封入されなかった薬物を除去するために精製される。続いて、リポソーム中の薬物の量および脂質の量が、従来の方法によって特定される。薬物および脂質の特定された量に基づいて、様々なパラメータ:脂質のグラムまたはモルあたりの薬物のグラムまたはモルである「薬物ローディング量」;および初期ローディング前の比の関数としての封入薬物のパーセントとして表される「封入効率」;および封入されなかった薬物の除去後における脂質のモルあたりの薬物のモルである「薬物対脂質モル比」が特定可能であり、リポソームの特性決定のために重要である。
【0065】
リポソーム中のムピロシンの量は、市販のクロマトグラフィ技術を用いて特定されてよい。ある例では、ムピロシンの濃度は、米国薬局方(USP)35.ムピロシン公式モノグラフ;:3962−3]に基づく高速液体クロマトグラフィ(HPLC)/UV法を用いて特定される。ムピロシンのリポソーム内濃度を算出するためには、水性リポソーム内封入体積も必要であり、これは、リポソーム内カルシウム濃度から算出されてよい(既述のように)。製剤におけるムピロシンリポソーム濃度は、HPLC法によって特定される。この濃度をリポソーム内封入体積で除することによって、リポソーム内ムピロシン濃度が得られる(詳細は例を参照)。
【0066】
ある例では、薬物ローディング量は、2〜10mg/mlのリポソーム分散体の範囲である。ある例では、薬物ローディング量は、少なくとも2mg/mlであり;場合によっては、少なくとも3mg/ml、場合によっては、少なくとも4mg/ml、場合によっては、少なくとも5mg/ml、場合によっては、少なくとも6mg/ml、場合によっては、少なくとも7mg/ml、場合によっては、少なくとも8mg/mlである。ある例では、薬物ローディング量は、最大で10mg/ml、場合によっては、最大で9mg/ml、場合によっては、最大で8mg/ml、場合によっては、最大で7mg/ml、場合によっては、最大で6mg/mlである。
【0067】
ある例では、薬物対脂質モル比が特定される。
【0068】
ある例では、ムピロシン/脂質モル比は、0.1から1.0の間であり;場合によっては、少なくとも0.1、または少なくとも0.2、または少なくとも0.3、または少なくとも0.4、または少なくとも0.5、または少なくとも0.6、または少なくとも0.7、または少なくとも0.8、または少なくとも0.9、または少なくとも1.0である。ある例では、モル比は、最大で1.0、または最大で0.9、または最大で0.8、または最大で0.7、または最大で0.6、または最大で0.5、または最大で0.4、または最大で0.3である。
【0069】
ある例では、モル比は、0.2から0.4の間である。
【0070】
リポソーム形成脂質に関して、グリセロリン脂質と称される場合、それは、グリセロールバックボーンを有する脂質として理解されるべきであり、ここで、ヘッド基にあるヒドロキシル基のうちの少なくとも1つ、好ましくは2つが、アシル、アルキル、もしくはアルケニル鎖、ホスフェート基、または上記のいずれかの組み合わせ、および/またはその誘導体によって置換されており、ならびにヘッド基に化学反応性基(アミン、酸、エステル、アルデヒド、またはアルコールなど)が含有されていてよく、それによって、脂質に極性ヘッド基が備えられる。スフィンゴミエリンは、1位にホスホリルコリン部分が結合したセラミド単位から成り、従って、実際にはN−アシルスフィンゴシンである。スフィンゴミエリンのホスホコリン部分は、スフィンゴミエリンの極性ヘッド基を与える。
【0071】
リポソーム形成脂質において、アシル、アルキル、またはアルケニル鎖は、典型的には、14から約24炭素原子の長さであり、様々な飽和度を有して、完全、部分、もしくは非水素化の天然脂質、半合成、または完全合成脂質であり、飽和のレベルは、そうして形成されるリポソームの剛性に影響を与え得る(典型的には、飽和鎖の脂質は、不飽和鎖が存在し、特にシス二重結合を有する同じ鎖長の脂質よりも剛性である)。
【0072】
ある例では、リポソームは、単一種類、または組み合わされたリポソーム形成脂質を含む。
【0073】
ある例では、リポソーム形成脂質は、リン脂質である。リポソーム形成脂質がリン脂質である場合、リポソームにおけるその量は、改変バートレット法(modified Bartlett method)[Shmeeda H,Even−Chen S,Honen R,Cohen R,Weintraub C,Barenholz Y.2003.Enzymatic assays for quality control and pharmacokinetics of liposome formulations:comparison with nonenzymatic conventional methodologies.Methods Enzymol 367:272−92]により、有機リンとして特定されてよい。
【0074】
ある例では、リポソーム形成脂質は、ジアシルグリセロ−ホスホコリンなどのコリン型リン脂質である(アシル、アルキル、またはアルケニル鎖は、上記で定める通りである)。
【0075】
その他のある例では、リポソーム形成脂質は、ジ−ラウロイル−sn−グリセロ−2ホスホコリン(DLPC)である。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)である。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)である。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)である。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジヘプタデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンである。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)である。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジノナデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンである。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジアラキドイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DBPC)である。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジヘンアラキドイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1,2−dihenarachidoyl−sn−glycero−3−phosphocholine)である。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジベヘノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン 1,2−ジトリコサノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンである。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジリグノセロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンである。ある例では、リポソーム形成脂質は、1−ミリストイル−2−ステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンである。ある例では、リポソーム形成脂質は、1−パルミトイル−2−ステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(PSPC)である。ある例では、リポソーム形成脂質は、1−ステアロイル−2−パルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(SPPC)である。ある例では、リポソーム形成脂質は、1,2−ジ−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)またはジ−ラウロイル−sn−グリセロ−2ホスホコリン(DLPC)である。
【0076】
ある例では、リポソーム形成脂質は、少なくとも水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)を含む。
【0077】
1つの好ましい実施形態では、リポソーム形成脂質は、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)を含むか、またはそれから成る。
【0078】
ある例では、リポソームは、コレステロールなどのステロールを含む。
【0079】
ある例では、リポソームは、リポポリマーを含む。リポポリマーは、750Daまたはそれを超える分子量を有するポリマー部分(PEG)でそのヘッド基が修飾された脂質を含む。ヘッド基は、極性または非極性であってよく、それに、長く(>750Da)フレキシブルな親水性ポリマーが結合されている。親水性ポリマーヘッド基の脂質領域への結合は、共有結合または非共有結合であってよいが、好ましくは、共有結合の形成を介するものである(所望に応じてリンカーを介してよい)。
【0080】
リポポリマーに修飾される脂質は、中性、負に帯電、さらには正に帯電であっていが、すなわち、特定の(または無)帯電状態に対する制限はない。例えば、いずれも、Mw750、2000、5000、または12000のメトキシポリ(エチレングリコール)(mPEGまたはPEG)と共有結合した中性のジステアロイルグリセロールおよび負に帯電したジステアロイルホスファチジルエタノールアミンである[Priev A,et al.Langmuir 18,612−617(2002);Garbuzenko O.,Chem Phys Lipids 135,117−129(2005);M.C.Woodle and DD Lasic Biochim.Biohys.Acta,113,171−199.1992]。
【0081】
リポポリマーへと誘導体化される最も一般的に用いられ、市販されている脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)をベースとする脂質であり、通常、ジステアリルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)である。本発明によって用いられるリポポリマーの具体的なファミリーとしては、メトキシPEG−DSPE(異なるPEG鎖長を有する)が挙げられ、この場合、PEGポリマーは、カルバメート結合を介してDSPE一級アミノ基と結合している。PEG部分は、好ましくは、約750Daから約20,000Daのヘッド基の分子量を有する。より好ましくは、分子量は、約750Daから約12,000Daであり、最も好ましくは、約1,000Daから約5,000Daの間である。本明細書で用いられる1つの具体的なPEG−DSPEは、PEGが2000Daの分子量を有するものであり、本明細書において、
2000PEG−DSPEまたは
2kPEG−DSPEと称される(M.C.Woodle and DD Lasic Biochim.Biohys.Acta,113,171−199.1992)。
【0082】
本開示の状況における1つの特定の実施形態は、少なくとも水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000](
2kPEG−DSPE)、およびコレステロールを含むリポソームに関する。
【0083】
ある例では、リポソームの膜は、少なくともリポソーム形成脂質(1つであっても、そのような脂質の組み合わせであってもよい)、ステロール、およびリポポリマーを含む。これらの成分間のモル比は、様々であってよい。
【0084】
ある例では、リポソームの膜は、1モル%から10モル%の間のリポポリマーを含む。場合によっては、リポソームの膜は、少なくとも1モル%のリポポリマー、場合によっては、少なくとも2モル%のリポポリマー、場合によっては、少なくとも3モル%のリポポリマー、場合によっては、少なくとも4モル%のリポポリマー、場合によっては、少なくとも5モル%のリポポリマー、場合によっては、少なくとも6モル%のリポポリマー、場合によっては、少なくとも7モル%のリポポリマー、場合によっては、少なくとも8モル%のリポポリマーを含む。場合によっては、リポソームの膜は、最大で8モル%のリポポリマー、場合によっては、最大で7モル%のリポポリマー;最大で6モル%のリポポリマー;最大で5モル%のリポポリマー;最大で4モル%のリポポリマー;最大で3モル%のリポポリマー;最大で2モル%のリポポリマーを含む。
【0085】
ある例では、リポソームの膜は、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)、コレステロール、およびmPEG−DSPEを含む。成分のこの組み合わせを用いる場合の1つの特定のモル比は、約55:40:5のHSPC:コレステロール:mPEG−DSPEである水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)、コレステロール、およびmPEG−DSPEのモル比を含む。
【0086】
そのリポソーム内コンパートメントにムピロシン、少なくとも1つのシクロデキストリン化合物、およびpH依存性イオン化可能アニオンを含むリポソームは、少なくとも1つのCDおよびアニオンを封入するリポソームのリポソーム内水相中にムピロシンをリモートローディングすることによって作製される。このようなリポソームは、本明細書にて、リポソームの「第一集団」と称される。
【0087】
具体的には、リポソームの第一集団が作製され、これらは、少なくとも1つのCDおよびpH依存性イオン化可能アニオンを含んでいた。一般的に、pH依存性イオン化可能アニオンは、その対を成す対カチオンと共に提供されることから、対を成すカチオンも存在する。例えば、アニオンがアセテートである場合、当業者であれば、酢酸カルシウムまたはナトリウムの対の一部であるカルシウムまたはナトリウムも存在し得ることは理解される。ある例では、リポソームの第一集団は、少なくともpH依存性イオン化可能アニオンおよび少なくとも1つのCDを含む緩衝溶液を用いたリモートローディングによって作製された(膜貫通アセテート勾配)。
【0088】
本発明者らは、驚くべきことに、リポソーム内水相中にHPCDを添加することで、血清中でのムピロシンの漏出が遅延されることを見出した。HPCDが存在しない場合、血清の存在下でインキュベートされると、薬物漏出は非常に速く、実際、薬物のほとんどが血清中に漏出した。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、CDがムピロシンと相互作用を起こして、リポソーム中の後者を安定化するものと考えている。
【0089】
あるより具体的な例では、リポソームの第一集団を作製する方法は、リポソーム形成脂質、コレステロール、リポポリマー、および所望される量の少なくとも1つのCDを例とする(脂質およびCDをまとめて混合物と称する)脂質膜中に含まれるべき脂質を、所望される高い混和性の塩(pH依存性イオン化可能アニオンおよびそれに対する対イオンを含む)を含有する緩衝溶液と共に撹拌(好ましくは、周囲温度より高いが100℃よりも低い温度にて)することによる再水和を含み、それによって、リポソームが形成される。次に、必要または所望される場合、リポソームはサイズダウンされる。サイズダウンは、押出しおよび/または当業者に公知のその他のいずれの手段によって行われてもよい。
【0090】
ある例では、再水和に用いられる緩衝液中のCDの重量比は、少なくとも1%、場合によっては、少なくとも5%、場合によっては、少なくとも10%、場合によっては、少なくとも15%、場合によっては、少なくとも20%、場合によっては、少なくとも25%、場合によっては、少なくとも30%、場合によっては、少なくとも35%、場合によっては、少なくとも40%、および場合によっては、その溶解度の限界まで、すなわち、少なくとも45%である(最大CD溶解度)。
【0091】
ある例では、緩衝溶液による再水和の前の混合物中におけるCDの重量比は、最大で45%、場合によっては、最大で40%、最大で35%、最大で30%、最大で25%、最大で20%、最大で15%、最大で10%、最大で5%である。
【0092】
ある例では、リポソームの第一集団は、次に、リポソーム二重層は透過せず、血液との等浸透圧に近い一般に安全と認められる(GRAS)非電解質緩衝溶液に対して透析される。非電解質溶液の例としては、糖の溶液が挙げられ、限定されないが、デキストロース、グルコース、スクロースなどである。ある特定の例では、透析は、スクロース溶液に対して行われる。ある例では、透析は、10%±1のスクロースを含む溶液に対して行われる。
【0093】
こうして形成されたリポソームの第一集団は、次に、ムピロシンでローディングされる。
【0094】
ある例では、リポソームの第一集団へのムピロシンのローディングは、リモートローディングを含む。ある例では、リモートローディングは、第一集団を、ムピロシンを含む緩衝溶液とインキュベートすることによって行われる。ある例では、ローディングのためのムピロシンを保持する緩衝溶液は、リン酸緩衝液である。
【0095】
ムピロシンのローディングは、いずれのリポソーム(リポソームの第一集団を形成するリポソーム分散体中)対ムピロシン比でムピロシンを含む溶液を用いて行われてもよい。ある例では、ローディングに用いられるリポソーム対ムピロシン比は、約1:0.5から1:2.0の間の体積比で定められる。ある例では、リポソームとムピロシン溶液との間の体積比は、約1:1である。
【0096】
ある例では、ムピロシン含有緩衝溶液は、少なくとも1つのCDも含む。ある例によると、緩衝溶液は、1%から15%の間の少なくとも1つのCDを含む。
【0097】
ある例では、緩衝溶液は、2%から5%の間の少なくとも1つのCDを含む。
【0098】
ある例では、ムピロシンをローディングするための緩衝溶液は、その他の賦形剤を含んでよい。例えば、緩衝溶液は、少なくとも1つのCDに加えて、PGおよび/またはPEGなどの1つ以上の可溶化剤を含んでよい。
【0099】
こうして形成されたリポソームの第二集団は、ある例によると、リポソーム内水性コア中に封入されてムピロシン、少なくともCD、ならびに上記および下記で考察されるpH依存性イオン化可能アニオンを含むSUVである。
【0100】
限定されない例で示されるように、CA−HPCDリポソームへのローディングは、酢酸カルシウムリポソームなどのその他の種類のリポソームへのローディングよりも高かった。さらに、CA−HPCDリポソームを用いた場合、PEG400などのその他の可溶化剤と共にリン酸緩衝液からローディングした場合に得られる逆U字型パターンは消滅した。ローディングがHPCDのみによって推進されたものではないことを調べるために、酢酸カルシウム勾配を含まないコントロールHPCDリポソームが作製された。このようなリポソームへのローディングは、非常により低く、到達した最大ローディング後D/L値は0.1であった。
【0101】
さらに、本明細書で提示される限定されない例から、本明細書で開示されるリポソーム(例でのCA−HPCDリポソーム)が、血清中において、その他のリポソーム製剤よりも非常にゆっくりとムピロシンを放出したことが示される(1時間後に17〜22%)。理論に束縛されるものではないが、リポソーム内部にあるHPCDによって達成された包接複合体中でのムピロシンの保護によって、放出が阻害されたものと考えられる。限定されない例によってさらに示されるように、コントロール−HPCDリポソームからの放出は、酢酸カルシウム−HPCDリポソームからよりも速かった(血清中1時間後に73%)。HPCDを含まない酢酸カルシウムリポソームからの放出は、僅かにより高く(1時間以内に82%放出)、このことは、HPCDおよび酢酸カルシウム勾配の組み合わせが、この目的のために重要であることを示している。
【0102】
本開示はまた、全身投与に適する生理学的に許容されるキャリア、および上記で定める通りであるリポソームを含む医薬組成物も提供する。
【0103】
本発明の状況において、生理学的に許容されるキャリアとは、一般的に安全で無毒性であり、生物学的にも、またはそれ以外でも望ましくないものではない医薬組成物を作製するのに有用であるいかなるキャリアをも意味する。ある例では、生理学的に許容されるキャリアは、全身投与に適する水溶液である。ある例では、全身(または非経口)投与に適する生理学的に許容されるキャリアとしては、水性および非水性等張滅菌注射/注入溶液が挙げられ、これは、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および意図するレシピエントの血液に対して製剤を等張性とする溶質を含有してよい。ある例では、キャリアは、生理食塩水、緩衝溶液、糖水溶液(デキストロース、スクロースなど)などのいずれか1つまたは組み合わせである。ある例では、キャリアはまた、増粘剤、安定剤、および保存剤も含んでよい。
【0104】
ある例では、生理学的に許容されるキャリアは、緩衝剤を含む。さらなるある例では、緩衝剤は、リン酸緩衝剤を含むか、またはリン酸緩衝剤である。
【0105】
ある例では、生理学的に許容されるキャリアは、糖を含む。ある例では、糖は、デキストロース、グルコース、およびスクロースから成る群より選択される。
【0106】
糖の量は、例えば組成物の希釈に応じて、様々であってよい。しかし、ある例では、糖の量は、リポソーム形成脂質とのそのモル比に基づいて決定/画定される。ある例では、糖の対脂質比は、約3から6の間であり、場合によっては、約3.5から5の間である。ある例では、モル比は、約4±0.5である。
【0107】
ある例では、糖は、スクロースであり、スクロースの対脂質比は、4±0.5である。
【0108】
リポソーム中のムピロシンおよび少なくとも1つのシクロデキストリン化合物の量は、ムピロシンの全身投与後に対象に対して治療効果を提供するのに充分であるように設計される。
【0109】
全身投与後に治療効果を達成するのに充分または有効である量は、ムピロシンによって達成されること、またはムピロシンに関連していることが既知である少なくとも1つの治療効果を含むものとして理解されるべきである。理論に束縛されるものではないが、治療効果は、感染の低減または除去における効果であってよい。ある例では、治療効果は、治療される対象における微生物(細菌、真菌)負荷の低減に関連していてよい。ある例では、治療効果は、グラム陽性細菌によって引き起こされる感染に関連する感染もしくは症状の低減または除去における効果であってよい。ある例では、治療効果は、ブドウ球菌属および/またはレンサ球菌属、例えば黄色ブドウ球菌に対する効果である。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、肺炎レンサ球菌、髄膜炎菌、淋菌、インフルエンザ桿菌を含む。
【0110】
ある例では、感染は、原虫によって引き起こされる。ある実施形態では、原虫は、熱帯熱マラリア原虫である。
【0111】
医薬組成物によって送達されるべきムピロシンの量は、当業者に公知ように、様々なパラメータに依存し、適切に設計された臨床試験(用量範囲試験)に基づいて決定することができ、当業者にとって、有効量を決定するためにそのような試験を適切に行う方法は公知である。量は、とりわけ、治療されるべき疾患の種類および重篤度、ならびに治療レジメン(全身投与のモード)、治療される対象の性別および/または年齢および/または体重などに依存する。
【0112】
ある例では、医薬組成物は、注射または注入による投与に適するキャリアを含むように調合される。ある例では、投与は、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、腹腔内(i.p.)、および皮下(s.c.)注射のうちのいずれか1つによる。
【0113】
本開示はまた、対象のムピロシンによる治療を実行するための方法も提供し、この方法は、本明細書で開示されるリポソームの全身投与を含む。本態様によると、微生物感染を有する対象を治療する方法も本開示によって提供され、本明細書で開示されるリポソームの対象への全身投与を含む。
【0114】
投与は、全身薬物送達において許容されるいずれのレジメンによって行われてもよい。ある例では、投与は、注射による。
【0115】
本明細書で開示されるリポソームの注射は、本明細書で最初に開示されるように、生体内での細菌負荷の低減に有効であることが見出された。具体的には、壊死性筋膜炎モデルのマウスに、A群レンサ球菌(GAS)を皮下注射した。細菌暴露の24時間後、処理を受けなかったマウスは、被毛粗剛、体重減少、および創傷発生を含む疾患の徴候を示し、2匹のケースでは、移動困難および閉眼も示した。細菌暴露の48時間後、未処理グループのマウスのうち2匹が死亡した。遊離ムピロシンを受けたグループのマウスは(コントロール)、死亡はしなかったが、疾患症状は発症した。しかし、リポソームムピロシングループのマウスは、疾患を発症しなかった。リポソームムピロシンは、細菌暴露の3時間前にリポソームムピロシンの単一用量を受けた予防グループにおいても有効であった。本明細書において詳述する研究は、非経口/全身経路によって投与された場合のリポソームムピロシンの有効性を示しており、それは、より低いまたは等しい用量において、遊離ムピロシンによる治療よりも優れていた。予防用量の活性に基づいて評価することができるムピロシンの排出は、文献データから知られている遊離ムピロシンの排出半減期(20〜40分間)と比較して遅かった。
【0116】
上記を考慮すると、本開示の状況において、本明細書で開示されるリポソームによる治療と称される場合、それは、疾患に伴う望ましくない症状の寛解、そのような症状の発現のそれが生ずる前の予防、疾患の進行の遅延、症状の悪化の遅延、疾患の鎮静期間開始の促進、疾患の進行性の慢性ステージにおいて引き起こされる不可逆的損傷の遅延、進行ステージ開始の遅延、疾患の重篤度の軽減または治癒、生存率の改善もしくは疾患からのより迅速な回復、疾患発症の予防、または上記の2つ以上の組み合わせを包含するとして理解されるべきである。
【0117】
本発明を、ここで、限定されない例によって記載する。
【実施例】
【0118】
限定されない実施形態および例の詳細な記述
例1−リポソームの作製および特性決定
物質
ムピロシン(テバ(Teva))は、フォーミックス社(Foamix Ltd)(イスラエル)から寄贈されたものである。
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPCD)およびDowex 1×8−200は、シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)から入手した。
水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000](mPEG DSPE)、およびコレステロールは、リポイド社(Lipoid GmbH)(ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ)から入手した。
セファロース CL−4Bは、GEヘルスケア(GE Healthcare)から入手した。
成体ウシ血清は、バイオロジカルインダストリーズ(Biological Industries)(イスラエル)から入手した。
分析に用いた溶媒は、HPLCグレードであった。
その他の化学薬品はすべて、試薬グレードの市販品であった。
【0119】
方法
リポソームムピロシンの作製
リポソームは、酢酸カルシウム(CA)勾配法を用いて作製した[Clerc S,Barenholz Y.1995.Loading of amphipathic weak acids into liposomes in response to transmembrane calcium acetate gradients.Biochim Biophys Acta 1240:257−265]。具体的には、55:40:5 HSPC:コレステロール:mPEG DSPEのモル比の脂質を、200mM、pH5.5の酢酸カルシウムと、65℃、重量比1:9で撹拌することにより、機械的に水和した。リポソーム分散体を、ノーザンリピッズ(Northern Lipids)(バーナビー、ブリティッシュコロンビア州、カナダ)製押出機により、ポリカーボネートフィルターを用いて400nmポアサイズ膜を通しての3回の押出しから開始し、次に100nmポアサイズ膜を通しての3回の押出し、最後に50nmポアサイズ膜を通しての10回の押出しによる段階的押出しによってサイズダウンした。次に、Cellu Sep再生セルロース膜(メンブレンフィルトレーションプロダクツ(Membrane Filtration Products)、米国)を用い、10%スクロース溶液に対してリポソームを透析した。HPCD含有リポソームの場合、脂質を、15%(重量/重量)HPCDを含有する200mM、pH5.5の酢酸カルシウムによって水和した。コントロールHPCDリポソームは、脂質を、200mM、pH6.3のリン酸緩衝液中において、15%(重量/重量)HPCDと共に水和することによって作製した。その他の作製工程はすべて(サイズダウンおよび透析)、上述と同じであった。リモートローディングは、薬物溶液をリポソーム分散体と、1:1の体積比、65℃で10分間インキュベートすることによって行った。ローディングに用いたリポソームは、新たに作製したものであり、1週間以内に使用した。薬物ローディング溶液は、200mM、pH6.3のリン酸緩衝液で作製した。pH6.3のリン酸緩衝液中の高ムピロシン濃度は(28mM)、超音波洗浄器中での激しい撹拌および10分間の超音波処理によって達成した。ローディングはまた、pH6.3のリン酸緩衝液中の1から10%(重量/重量)HPCD溶液でも試験した。1% HPCD溶液中での高ムピロシン濃度は(28mM)、リン酸緩衝液において述べたように、激しい撹拌および超音波処理によって達成した。より高いHPCD濃度(2.5〜10%)のムピロシン溶液は、撹拌のみで作製した。ローディングはまた、プロピレングリコール(PG)およびポリエチレングリコール(PEG)400溶液からも行った。これらの場合、100mM ムピロシンのストック溶液を作製し、200mM、pH6.3のリン酸緩衝液で所望される濃度に希釈した。
【0120】
ローディング実験に用いたリポソーム分散体中のリン脂質の濃度は、24〜60mMの範囲であった。
【0121】
リポソームの内部pHは、リポソーム内体積と外部体積との間の安息香酸の分布によって測定され、酢酸カルシウムリポソームの内部pHは、7.7であると算出される。これまでの経験に基づいて、薬物がローディングされた酢酸カルシウムリポソームの内部pHは、7.0未満であるべきである。
【0122】
リポソームはまた、15%(重量/重量)HPCDと共に、およびHPCDなしでの酢酸ナトリウム勾配を用いることによっても作製した。具体的には、55:40:5 HSPC:コレステロール:mPEG DSPEのモル比の脂質を、200mM、pH5.5の酢酸ナトリウムと、65℃、重量比1:9で撹拌することにより、機械的に水和した。リポソーム分散体を、上述のように段階的押出しによってサイズダウンし、次に透析した。HPCD含有リポソームの場合、脂質を、15%(重量/重量)HPCDを含有する200mM、pH5.5の酢酸ナトリウムによって水和した。酢酸ナトリウムリポソームへのローディングは、既に述べたように、200mM、pH6.3のリン酸緩衝液中のムピロシン溶液から行った。酢酸ナトリウムの場合、各カルシウムに対して2つのアセテートが存在する酢酸カルシウムと比較して、各ナトリウムに対して1つのアセテート部分しか存在しないことには留意されたい。アセテートは、ローディングの推進力であり、200mM 酢酸カルシウムと比較して、200mM 酢酸ナトリウム中のアセテート含有量が低いことにより、ローディング効率という点でこれら2つの方法を比較することは困難である。
【0123】
リン脂質の特定
ブランクリポソーム中のリン脂質濃度を、改変バートレット法[Shmeeda H,Even−Chen S,Honen R,Cohen R,Weintraub C,Barenholz Y.2003.Enzymatic assays for quality control and pharmacokinetics of liposome formulations:comparison with nonenzymatic conventional methodologies.Methods Enzymol 367:272−92]により、有機リンとして特定した。コントロールHPCDリポソーム(リン酸緩衝液含有)を、リポイド社から入手した脂質ブレンドのアッセイのための手順に基づいたHPLC法により、そのリン脂質含有量について試験した。それは、LiChrospher 100 Diol 5μm、250mm×4.0mmカラム、ヘキサン:2−プロパノール:水による勾配溶出、およびAlltech 3300 ELSD検出器による蒸発光散乱検出を用いる。
【0124】
ムピロシンの定量
HPLC/UV法(HPLCシステム−ヒューレットパッカード(Hewlett Packard)シリーズII 1090)を用いて薬物濃度を定量した。カラムは、ウォーターズ(Waters)、XBridge C18カラム、5μm、4.6mm×150mmを用いた。クロマトグラフィ条件は、公開されている方法[USP 35.ムピロシン公式モノグラフ;:3962−3]に基づいた。酸加水分解生成物のための分割溶液を、説明[USP 35.ムピロシン公式モノグラフ;:3962−3]に従って作製した。ムピロシン加水分解生成物とムピロシンとの間の分割は、2.0以上であった。合計(遊離プラスリポソーム)薬物濃度を、メタノールで希釈したリポソーム分散体のHPLCアッセイによって特定した。リポソーム薬物濃度は、遊離薬物を結合させるDowex 1×8−200アニオン交換体と分散体とを混合することによって遊離薬物を除去した後に特定した。リポソーム内ムピロシン濃度は、リポソーム薬物濃度およびリポソーム内封入体積(既述のように、リポソーム内カルシウム含有量によって特定される)により、以下の式に従って算出した。
【0125】
【0126】
薬物対脂質(D/L)モル比
初期D/L比とは、リモートローディングに用いられる初期モル比を意味する。インキュベーションにおける初期D/L比は、リモートローディングに用いられる薬物の総量の、リモートローディングに用いられる総リポソームリン脂質に対するモル比として特定した。ローディング後D/L比とは、リポソームの薬物およびリン脂質濃度の間のモル比を意味する。
【0127】
粒子サイズ分布分析
粒子サイズは、充分に確立された動的光散乱法を用いて特定し、Zetasizer Nano Series ZEN3600F(マルバーンインスツルメンツ(Malvern Instruments)モールバン、英国)を用いて行った。平均径は、体積平均に基づいた(さらなる詳細については、Barenholz Y,Amselem S.1993.Quality control assays in the development and clinical use of liposome−based formulations.In:G.Gregoriadis(Ed.),Liposome Technology,2nd ed.,Liposome Preparation and Related Techniques.;1993:527−616を参照)。
【0128】
クライオTEM画像
溶液および分散体の直接撮像のために、極低温での透過型電子顕微鏡法(TEM)(クライオTEM)を用いた。ガラス化した試料を、300メッシュの穿孔レース状カーボン(perforated lacy carbon)で被覆した銅グリッド(テッドペラ社(Ted Pella,Inc.))上に作製した。4μLの溶液を滴下してグリッドに適用し、フィルター紙で拭いて溶液の薄い液体膜を形成した。この拭いたサンプルを、直ちに凝固点(−183℃)の液体エタン中に投入した。この手順は、プランジャ(ライカ(Lieca))により自動的に行った。ガラス化試料を液体窒素へ移して保存した。サンプルの研究は、FEI Tecnai 12 G2 TEMを120kVで用い、ガタン(Gatan)製クライオホルダーを−180℃に維持して行い、画像は、ガタン製スロースキャン冷却電荷結合素子(CCD)カメラで記録した。画像は、Digital Micrographソフトウェアパッケージを用い、電子ビーム放射線による損傷を最小限に抑えるために低電子線量条件で記録した。
【0129】
示差走査熱量測定(DSC)を用いた特性決定
方法
本明細書で開示されるリポソームムピロシンを、酢酸カルシウム勾配を用いたリン酸緩衝液の薬物溶液からのリモートローディングによって作製した。リポソームは、モル比55:40:5のHSPC:コレステロール:mPEG DSPEから成っていた。通常の酢酸カルシウムリポソーム(CA−リポソーム)および内部体積に酢酸カルシウム中の15% ヒドロキシプロピルベータシクロデキストリン(HPCD)を含有するリポソーム(CA−HPCD−リポソーム)の2種類のリポソームを試験した。
【0130】
DSC測定は、DSC−VP(GEヘルスケア(GE Healthcare))で行った。サンプルおよびレファレンスを充填し、1℃/分の速度で15〜20℃から90℃まで、典型的には3つのサイクル(加熱、冷却、および再加熱)でスキャンした。すべてのリポソームサンプルに対するレファレンスはスクロース:リン酸緩衝液(1:1)であった。HPCDを含むおよび含まない酢酸カルシウム緩衝溶液を、それぞれ、バルク相でのHPCDを含むおよび含まない薬物−カルシウム析出物に対するレファレンスとして用いた。サーモグラムは、ベースラインを差し引くことで補正した。
【0131】
リポソームムピロシンからのムピロシンの放出動態
リポソームムピロシンを、1:20の希釈後に、50%成体ウシ血清中または生理食塩水中にて37℃でインキュベートした。所望される時間点でこれらのサンプルからアリコートを取り出し、リポソームムピロシンを遊離ムピロシンから分離するセファロースCL−4Bカラムを用いてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって薬物放出レベルを分析した。カラムを生理食塩水溶液で平衡化し、カラムへのサンプル充填の後、0.5mlの画分を回収し、ムピロシン含有量について分析した。各画分でHPLCによって得られたムピロシン濃度を、溶出体積に対してプロットし、各サンプルに対する溶出プロファイルを得た。溶出プロファイルは2つのピークを含有しており;第一は、リポソーム中のムピロシンに対応し、第二は、遊離ムピロシンに対応していた。リポソームムピロシンおよび遊離ムピロシンに対する曲線下面積(AUC)を、台形法で算出した。各時間点において、リポソーム中に保持された薬物のパーセント(保持%)を、以下の式によって算出した。
【0132】
【0133】
結果
ムピロシンのペグ化ナノリポソームへのリモートローディングに対する可溶化剤の効果
酢酸カルシウムの膜貫通勾配を示すペグ化ナノリポソームへのムピロシンローディングを(CA−lip)、異なるローディング溶液組成を用いて評価した。ムピロシンは、水性媒体中での溶解性は高くない。弱酸であることから、その溶解度は、pHと共に上昇する。ムピロシンは、200mM、pH6.3のリン酸緩衝液中において、15mMの濃度まで可溶であった。より高い濃度は、激しい撹拌および超音波処理によって達成した。溶解度の向上(約100mM)が、PEG400およびPGによって達成された。pH6.3のリン酸緩衝液中の1〜10% HPCD溶液においても、溶解度が上昇する結果となった(>34mM)。しかし、1% HPCD中での高濃度(≧28mM)は、透明溶液を得るために10分間の超音波処理が必要であった。試験した異なる溶液中のムピロシンのクロマトグラフィプロファイルは、標準溶液のプロファイルに類似していたことには留意されたい。ムピロシンローディングに対する溶解度向上剤の効果を試験する試みとして、ムピロシンを、PEG400、PG、および1〜10% HPCDを含むおよび含まないpH6.3のリン酸緩衝液を含有するインキュベーション溶液からリポソーム(膜貫通酢酸カルシウム勾配を示す)にローディングした。
【0134】
図1は、試験した異なるインキュベーション溶液における、初期D/L比の関数としてのローディング後D/L比を示す。リン酸緩衝液およびPEG400からのインキュベーションは、類似の逆U字型曲線のパターンを示し:ローディング後D/Lは、0.23〜0.25D/Lの最大ローディング後比に達し、初期D/L比の上昇と共に低下した。PGからのローディングは、試験したすべての初期比(0.14〜0.59)において高く、ローディング後D/Lの一定した上昇を示し、試験した最も高い初期比(0.59)において、0.48の値に達した。リン酸緩衝液およびPEG400溶液と比較したPGでのこの高いローディングは、PGの浸透性を向上させる特徴の結果であり得る。HPCD溶液からのローディングプロファイルは、HPCD濃度に依存していた。1% HPCDは、リン酸緩衝液の場合よりも僅かに高いローディング後比を示したが、類似の逆U字型ローディング曲線であった。より高いHPCD濃度(2.5〜10%)は、初期比の上昇と共にローディング後比の一定の上昇を示し、PGの場合と同様に、これらの溶液からのローディングは、逆U字型パターンの結果とはならなかった。しかし、ローディング後比は、2.5% HPCDの場合の方が高く、HPCDの濃度の上昇(5%および10%)と共に低下しており;高いHPCD濃度は、ローディングを阻害するもの思われた。
【0135】
ローディングに対するHPCDの効果を、その内部体積中にHPCDを含有する酢酸カルシウムリポソーム(CA−HPCD−lip)についても特定した。ペグ化リポソームを、15%(重量/重量)HPCDを含有する酢酸カルシウム緩衝液で作製した。リポソーム内部体積中のHPCD濃度は、ローディングを阻害した濃度(10%、
図1参照)よりも高かった。リポソーム内部のこの濃度は、従って、リポソーム内部において包摂複合体中にムピロシンを取り込み、外部媒体へのその透過を阻害することによってローディングを補助するものと想定された。
図2は、用いた初期D/L比およびインキュベーション溶液組成の関数としてのCA−HPCDリポソーム中のローディング後D/L比を示している。加えて、酢酸カルシウム勾配を用いない15% HPCDを含有するコントロールHPCDリポソーム(CTRL−HPCD−lip)も、リン酸緩衝溶液からのそのムピロシンローディングについて試験した。
図2に示されるように、CA−HPCD lipに対するいずれのローディング溶液も、逆U字型曲線を示さなかった。CA−HPCD−lipに対するローディングは、CA−lipにおいて逆U字型曲線を示さなかったインキュベーション溶液(PGおよび2.5〜10% HPCD)からのCA−lipへのローディング(
図1)に類似していた。しかし、リン酸緩衝液、1% HPCD、およびPEG400からのローディングにおいて、著しい相違が見出された。これらのCA−HPCD−lipに対してローディングすることにより、CA−lipにおいて得られた逆U字型ローディングは消滅した。CA−lipの場合に示されるように(
図2)、HPCD溶液からのCA−HPCD−lipへのローディングは、HPCD濃度に依存しており;インキュベーション溶液中のHPCD濃度の増加と共に、ローディングは減少した。
図2はさらに、CA−HPCD−lipへのローディングの場合、インキュベーション溶液に可溶化剤は必要ではなく;リン酸緩衝液は、PG、PEG400、および1% HPCDと同様に良好であったことを示している。しかし、インキュベーション溶液中のより高いHPCD濃度(5〜10%)では、ローディングは低下した。
図3Aは、CA−lip、CA−HPCD−lip、およびCTRL−HPCD−lipへのリン酸緩衝溶液からのムピロシンローディングの比較を示し、一方
図3Bは、「酢酸カルシウム」の対応するリポソームとの比較として、酢酸ナトリウム(NA−アセテート)リポソーム、NA−アセテート−HPCDリポソームへのリン酸緩衝溶液からのムピロシンローディングの比較を示す。これらの比較から、リポソーム内媒体のローディングパターンに対する影響が示される。CA−lipは、逆U字型ローディング曲線を示したが、一方HPCD含有リポソームでは、このパターンは見られなかった。しかし、カルシウム勾配なしの場合、ローディングは非常に遅かった。加えて、この結果から、ローディング効率という意味で、酢酸ナトリウムよりも酢酸カルシウムの使用がある程度好ましいことも示される。
【0136】
ムピロシン放出
CA−lip、CA−HPCDリポソーム、およびコントロール−HPCDリポソームからのムピロシンの放出について試験した。放出は、生理食塩水中または50%血清中において評価した。
図4は、生理食塩水または血清中において37℃で1時間インキュベートした後、異なるリポソーム内媒体を有するリポソーム中に保持されたムピロシン%を示す。ムピロシンを含有するCA−lipは、生理食塩水中では安定であったが、50%血清の存在下では、非常に速く薬物を放出した(1時間以内に82%放出)。放出速度に対するローディング溶液組成の影響はなく、PG溶液からローディングされた酢酸カルシウムリポソームは、リン酸緩衝液からローディングされたリポソームと比較して、類似の放出の値を血清中で示した(データ示さず)。しかし、血清中での放出は、CA−HPCD−lipの場合に大きく低下した。1時間のインキュベーション後、放出されたのは僅かに22%であり、ここでも、ローディング溶液組成の影響は見られなかった(データ示さず)。ムピロシンを含有するコントロールHPCDリポソームは、1時間のインキュベーション後、速い放出を示した(73%)。生理食塩水および血清におけるCA−lipからのムピロシン放出の著しい相違は、ムピロシンの高いタンパク質結合親和性(96.5%)に帰するものであるとの仮説を立てた。この仮説を試験するために、ムピロシンを含有するCA−lipを、12.5μMの濃度までの遊離ムピロシンで予備インキュベートしておいた血清中でインキュベートした。この場合、CA−lipからの放出は、35%まで大きく低下し、放出薬物シンクとしての血清タンパク質の関与に関する発明者らの作業仮説が支持された。
【0137】
48時間のインキュベーション後の放出プロファイルを、生理食塩水および血清の存在下、ムピロシンを含有するCA−HPCD−lipについて試験した(
図5)。生理食塩水中での放出は比較的遅く、48時間のインキュベーション後の放出は37%であった。血清中での放出はこれよりも速く、3時間および24時間のインキュベーション後の放出は、それぞれ47%および72%であった。血清中でのCA−HPCD−lipからの放出は、CA−lipからの放出よりも著しく遅かった(1時間のインキュベーション後に82%放出、
図4)。
【0138】
リポソームムピロシンのクライオTEMによる特性決定
ムピロシンを含むおよびムピロシンを含まないCA−lipならびにCA−HPCD−lipのクライオTEM画像を、
図6に示す。これらの画像は、その内部またはリポソーム媒体中に観察可能な薬物結晶を含まない球状SUVリポソームを示している。
【0139】
リポソームサイズ分布
リポソームは、そのサイズおよびサイズ分布についても、マルバーン(Malvern)粒子サイズアナライザーを用いて評価した。得られたサイズは小さく、Z平均は77±5nmであった。多分散指数(PDI)は、作製したすべてのロットにおいて0.05よりも低く、このことは、リポソームのサイズ分布の変動が低いことを意味しており、酢酸カルシウムおよび酢酸カルシウム−HPCD−リポソーム、酢酸ナトリウムおよび酢酸−HPCDの間でサイズ分布に差は見られなかった。
【0140】
示差走査熱量測定(DSC)によるリポソームムピロシンの特性決定
DSC分析は、Biltonen and Lichtenberg 1993(Biltonen R.L.and Lichtenberg D.,1993,Chem.Phys.Lipids 94,128−142)による記載に基づいて行った。HPCDを含むおよびHPCDを含まないブランクリポソームは、可逆的でブロードな相転移プロセスに相当する1つの吸熱を示し、相転移のT
mと考えられる53℃において熱容量の最大変化を有していた(
図8A〜8B)。これは、HSPCベースのリポソームの相転移挙動と一致していた(Garbuzenko et al 2005 Chem.Phys Lipids、上記参考文献参照)。
【0141】
脂質組成およびサイズ分布がブランクリポソームと同一である薬物をローディングしたリポソームは、2つの吸熱を示している(
図9A〜9B)。1つ目は、ブランクリポソームに類似のT
mを有する可逆的プロセスを表しており、従って、それは膜脂質に帰するものであり、それは、HPCDを含むまたは含まない薬物ローディングリポソームにおいて観察された。より高い温度にある(>78℃)2つ目の吸熱は、薬物−カルシウム複合体の溶融に関連する。この吸熱は、不可逆的であり、それは、薬物が関与する集合体の溶融が一旦発生すると、それは冷却しても同じ集合体を再度形成しないことを意味する。HPCDを含まない酢酸カルシウムリポソーム中の薬物複合体は、78.4℃の融点を有し、一方酢酸カルシウム−HPCDリポソーム中の薬物複合体は、それよりも高い温度の81.3℃および87.0℃に2つのピークを示し、このことは、HPCDを含まない場合に観察されたものとは異なる複合体であることを示している。
【0142】
リポソームムピロシンの長期的安定性
リポソームムピロシンの長期的安定性を、視覚的外観、封入濃度、および粒子サイズ分布に基づき、2年間の期間にわたり、サンプルの一部について試験した。
【0143】
方法
酢酸カルシウム勾配を用いたリモートローディングによって作製され、その内部水相中にHPCDを含有する5つのリポソームムピロシン製剤を追跡した。
【0144】
粒子サイズおよびサイズ分布
粒子サイズ測定は、Zetasizer(マルバーンインスツルメンツ)を用いて行った。平均径は、体積平均に基づいた。ゼロ時間に得られたサイズは、77±1.5nmであった。多分散指数(PDI)は、0.05よりも低かった。
【0145】
リポソームムピロシンのレベルおよび濃度の特定
リポソーム分散体中のムピロシン濃度は、HPLC/UV法を用いて定量した。用いたカラムは、ウォーターズ、XBridge C18カラム、5μm、4.6mm×150mmであった。クロマトグラフィ条件は、USPの方法に基づいた。リポソーム薬物濃度は、分散体を、遊離薬物を結合させるDowex 1×8−200アニオン交換体と混合することによって遊離薬物を除去した後に特定した。
【0146】
結果
製剤の視覚的外観は、すべての時間点において半透明であり、析出は観察されなかった。
【0147】
加えて、9〜24ヶ月間にわたってサイズ分布に変化は示されておらず、このことは、リポソームの安定性を示すものである。
【0148】
最後に、以下の表1は、示された期間(0日、9か月間、14か月間、および24ヶ月間)にわたるムピロシンリポソームの濃度(濃度)をまとめたものである。ゼロ時間点における薬物対脂質モル比は、製剤中の封入薬物および脂質濃度の間のモル比であった。
【0149】
【0150】
上記の結果から、これらのリポソーム製剤では、サイズもPDIも変化せず、また、リポソーム分散体中のムピロシン濃度も変化せず、リポソームの凝集も発生しなかったことを示しており、これらは長期的安定性を示すものである。
【0151】
例2−マウスの壊死性筋膜炎モデルにおけるリポソームムピロシン
物質および方法
本研究で用いた薬物製剤
リポソームは、上述のようにして作製した
【0152】
リポソームムピロシン組成を、表1Aに示す。
【0153】
a製剤中の封入リポソーム体積5.09%に基づいて推計(本明細書で示されないカルシウム測定に基づいて算出)
bリポソーム内コンパートメントのHPCD濃度は150mg/ml、それに5.09%の封入リポソーム体積を乗じて、全製剤中での7.6mg/ml HPCDを得た。
cリポソーム内相における酢酸カルシウム含有量は35.2mg/ml、それに5.09%の封入リポソーム体積を乗じて、全製剤中での1.8mg/ml 酢酸カルシウムが得られる。
dローディング溶液による0.53の希釈を仮定(ダイアフィルトレーション後に得られるリン脂質濃度に基づく)
e最終製剤の重量オスモル濃度は、400mOsm/kg未満であった。
【0154】
Dowex 1×8−200(アニオン交換体)を用いて遊離ムピロシンを分離した後にHPLC/UV法によって特定したリポソームムピロシン濃度は、5.5〜6.5mg/mlであった。
【0155】
HPCD、酢酸カルシウム、およびムピロシンのリポソーム内濃度は、表1Bに示されるように特定された。HPCD:ムピロシンのリポソーム内モル比は、0.6〜0.8の範囲であることが見出された。
【0156】
aローディング前のリポソーム内体積中の20.4μmol アセテートに相当
bローディング前の初期アセテート濃度は、400mMであり、ローディング後は、約200mMに減少した。
c4.5〜5.5mg/mlの製剤中、5.09%のリポソーム内体積中に濃縮されたリポソームムピロシン濃度に基づいて算出
【0157】
遊離ムピロシン溶液
遊離ムピロシン溶液(6mg/ml)を、200mM、pH6.3のリン酸緩衝液で作製した。
【0158】
生体内研究手順
壊死性筋膜炎モデルを、公開されている方法に基づいて行った[Hidalgo−grass,C.et al.Mechanisms of disease Effect of a bacterial pheromone peptide on host chemokine degradation in group A streptococcal necrotising soft−tissue infections.363,(2004)]。具体的には、作業プロトコルは以下を含んでいた:
【0159】
体重10gおよび3〜4週齢の雌のBALB/cマウスを選択した。
【0160】
第1日:血液カンテンプレートに細菌を播種し、37℃でインキュベートした。THY培地を作製し、オートクレーブを施し、室温で保持した。
【0161】
第2日:プレートをインキュベータから取り出し、室温下に置いた。
【0162】
第4日:細菌をプレートから5ml THYチューブ(インキュベータ中で加温済み)へ移した。
【0163】
第5日:2mlの細菌を、5ml THYチューブから50ml THYチューブへ移した。細菌を対数期初期まで増殖させ(O.D
600=0.3〜0.4)、PBSで洗浄し、PBSに懸濁させて、注射体積100μl中10
8の細菌数と相関するO.D
600=0.8とした。得られた細菌量を、研究のマウス数に応じたバイアルに分割した。各希釈分を、血液カンテンプレートに播種し、翌日にコロニーを計数した。
【0164】
分析:
第5日に、マウスの背中中央部から被毛を取り除き、細菌を皮下注射した。
【0165】
第6〜7日:疾患状態およびマウス死亡数を追跡した。これらの日まで生存したマウスを屠殺した。疾患状態は、以下の表2Aに従って追跡した。
【0166】
表2Bは、研究グループを示す。具体的には、A群レンサ球菌(GAS)注射(0.75×10
8CFU)を、すべての研究グループに施した。薬物は、100μlの製剤のIV注射によって投与した。各リポソームムピロシン用量は、45mg/kgであった。各遊離ムピロシン用量は、50mg/kgであった。
【0167】
【0168】
【0169】
結果
上述の研究手順に記載のパラメータに基づいてマウスを評価した。観察結果を、表3〜9にまとめる。グループ1(未処理、薬物投与なし)およびグループ2(遊離薬物)のマウスは、細菌暴露の24時間後に疾患を発症した。
【0170】
未処理グループでは、2体のマウスが、閉じたまたは部分的に閉じた眼、および動きの困難さによって示されるように、重症となった(このグループの他のマウスよりも)。この2体のマウスは、次の観察時点(48時間)で死亡した。このグループおよびグループ2のその他のマウスはすべて、重篤度のより低い疾患を発症し:これらのマウスは、最初の24時間で体重を減少させ、創傷を生じ、被毛は粗剛化し、滑らかではなかった。
【0171】
リポソームムピロシンを受けたグループ3〜5のマウスは、1回の予防用量(細菌注射の3時間前)のみを受けたグループ3であっても、疾患の症状を示さなかった。
図10は、研究全体にわたるマウスの平均体重を示す。図から分かるように、グループ3〜5のマウスは、研究を通して体重を増加させており、最初の24時間に体重減少を示したグループ1および2とは対照的である。
図11Aおよび11Bは、細菌注射の48時間後における未処理グループおよびリポソームムピロシングループのマウスの写真を示す。
【0172】
【0173】
a−24時間ではグループ1に6体のマウス。48、72、および96時間では4体のマウス
b−グループあたり6体のマウス
【0174】
【0175】
a−24時間ではグループ1に6体のマウス。48、72、および96時間では4体のマウス
b−グループあたり6体のマウス
【0176】
a−24時間ではグループ1に6体のマウス。48、72、および96時間では4体のマウス
b−グループあたり6体のマウス
【0177】
a−24時間ではグループ1に6体のマウス。48、72、および96時間では4体のマウス
b−グループあたり6体のマウス
【0178】
a−24時間ではグループ1に6体のマウス。48、72、および96時間では4体のマウス
b−グループあたり6体のマウス