(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6676046
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】空気圧衝撃レンチ用の動力制御装置
(51)【国際特許分類】
B25B 23/145 20060101AFI20200330BHJP
【FI】
B25B23/145 J
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-518787(P2017-518787)
(86)(22)【出願日】2015年10月8日
(65)【公表番号】特表2017-530021(P2017-530021A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】EP2015073252
(87)【国際公開番号】WO2016055566
(87)【国際公開日】20160414
【審査請求日】2018年9月7日
(31)【優先権主張番号】1451206-5
(32)【優先日】2014年10月9日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】517000793
【氏名又は名称】アトラス・コプコ・インダストリアル・テクニーク・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100159846
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 尚
(72)【発明者】
【氏名】ヤンソン ロルフ ウルリク
(72)【発明者】
【氏名】セーデルルンド ペール トーマス
【審査官】
須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/072174(WO,A1)
【文献】
特開2005−059143(JP,A)
【文献】
特開平11−156742(JP,A)
【文献】
特表2011−520632(JP,A)
【文献】
実開昭63−076476(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B21/02
B25B23/00−23/18
F16K17/00−17/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気圧式の衝撃レンチであって、モータ(12)と、圧力空気入口通路(22)を備えたハウジング(10)と、排出空気出口通路(23)と、前記排出空気出口通路(23)内に設けられるとともに排出空気流制限位置と排出空気流非制限位置との間でシフト可能な弁要素(30;60)を有する空気流制御弁(25)とを有する、衝撃レンチにおいて、
前記弁要素(30;60)の前記排出空気流制限位置を積極的に定める剛性接触部材(31)が設けられ、前記弁要素(30;60)が前記接触部材(31)と係合関係をなして前記空気流制限位置を占めると、制限された排出空気流を通過させる明確な流れ面積のバイパス通路(43a,43b,43c;63a,63b)が設けられ、
前記バイパス通路は、前記剛性接触部材と前記弁要素との間に形成され、
前記空気流制御弁(25)は、空気圧応答作動装置(36,39)を備え、前記圧力空気入口通路(22)と前記作動装置(36,39)との間には制御圧力ライン(33,34)が設けられ、前記作動装置(36,39)は、ある特定のレベルを超える前記圧力空気入口通路(22)内の圧力の大きさで前記排出空気流制限位置から遠ざかる前記弁要素(30)のシフトを開始させるよう構成され、前記バイパス通路が、締め付けプロセスの初期段階中の前記弁要素(30)の初期運動とは独立して設けられる、衝撃レンチ。
【請求項2】
前記接触部材(31)は、前記バイパス通路を形成する1つまたは2つ以上の孔(43a,43b,43c)を備えた弁座(31)として形成されている、請求項1記載の衝撃レンチ。
【請求項3】
前記弁座(31)は、管状ソケット部分(37)を備え、前記ソケット部分(37)は、前記1つまたは2つ以上の孔(43a,43b,43c)を備えている、請求項2記載の衝撃レンチ。
【請求項4】
前記接触部材(31)は、前記空気流制限位置において前記弁要素(60)と係合する円形の接触面(62)を備え、前記バイパス通路は、前記弁部材(60)に設けられた1つまたは2つ以上の孔(63a,63b)によって形成されている、請求項1記載の衝撃レンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気圧式の衝撃レンチのための動力制御装置に関する。
【0002】
特に、本発明は、空気圧衝撃レンチ用の動力制御装置に関し、この動力制御装置は、衝撃レンチの排出空気通路内に設けられていて締め付け中のねじ継手から受ける実際のトルク抵抗に応答して衝撃レンチモータの電力出力を制御するようになった排出空気制御弁を有する。
【背景技術】
【0003】
例えば米国特許第6,135,213号明細書および欧州特許出願第09746843.3号明細書に記載されているように、空気圧式の衝撃レンチに関して問題が存在し、すなわち、締め付けられているねじ継手においてまさに最初の送り出し衝撃で所望の締め付け標的レベルを超える取り付けトルクレベルに達する恐れが存在する。その理由は、締め付けプロセスの予備着座ねじ込み段階の間、ねじ継手中のトルク抵抗が小さく、しかもレンチモータの回転速度が極めて高いレベルまで加速し、また、堅固なねじ継手、すなわちトルク増大度が急峻なねじ継手を締め付ける際、レンチの回転部品中に集まる慣性エネルギーがまさに最初に既に送り出されたトルク衝撃でねじ継手の過剰締め付けを生じさせるのに足るほど高い場合があるということにある。
【0004】
したがって、ねじ継手がまさに最初の送り出されたトルク衝撃で所望の締め付け標的レベルを超えるレベルまで締め付けられるのを回避するため、レンチモータからの排出空気流を制限し、それにより締め付けプロセスの初期の低トルク段の際、モータ速度を制限するよう構成された排出空気制御弁が設けられている。この目的は、まさに最初に送り出される衝撃の前にレンチの回転部品中の高すぎる慣性エネルギーの増大を回避することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,135,213号明細書
【特許文献2】欧州特許出願第09746843.3号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この種の先行技術の排気制御弁に関する問題は、ねじ継手締め付けプロセスの初期の低トルク段階中の動力レンチの十分に制御された回転速度を得るために必要な正確な排出空気流を得ることが困難であるということにある。公知のモータ速度制御構造では、衝撃レンチのモータ速度は、レンチモータに至る圧力供給通路中の実際の反対圧力に対応した排気制御弁の開度の減少によって定められる。しかしながら、排気制御弁の開度のこの減少および出口通路を通る結果としての排出空気流の度合いは、この弁を越えたところに形成されているクリアランスおよび公差関連流路に依存する。換言すると、低トルク負荷での排気制御弁を越えたところの排出空気流れ面積は、弁の互いに隣接して位置する部品の寸法のばらつき、すなわち弁要素とその案内面との間のクリアランスならびに弁座の接触面と弁要素との間のクリアランスで決まる。それは、各衝撃レンチの個々の調整が所望の低トルク速度レベルを得るのに必要であり、これには不必要な余分のコストがかかっているということを意味している。
【0007】
低トルク条件での排出空気流および回転速度の良好な制御を達成するための一手法は、排気制御弁の部品の精度を高めることである。しかしながら、寸法のばらつきを抑えるために製造プロセスの精度を高めることは、費用がかなり嵩むので望ましくない。
【0008】
本発明の目的は、排出空気流ならびにレンチモータの低トルク速度の向上した制御をもたらす排出空気流制御弁を有する空気圧衝撃レンチのための動力制御装置を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、空気圧衝撃レンチ用の排出空気制御弁であって、排出空気流の正確な程度が隣接の弁部品の公差精度の費用のかかる増大および/または各送り出された衝撃の時間のかかる個々の調整を伴わないで衝撃レンチの低トルク条件中に得られる、排出空気制御弁を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的および別の利点は、以下の明細書本文および特許請求の範囲の記載から明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、空気圧式の衝撃レンチであって、モータと、圧力空気入口通路を備えたハウジングと、排出空気出口通路と、排出空気出口通路内に設けられるとともに排出空気流制限位置と排出空気流非制限位置との間でシフト可能な弁要素を有する空気流制御弁とを有する、衝撃レンチにおいて、弁要素の排出空気流制限位置を積極的に定める剛性接触部材が設けられ、弁要素が接触部材と係合関係をなして空気流制限位置を占めると、制限された排出空気流を通過させる明確な流れ面積のバイパス通路が設けられ、それにより締め付けプロセスの初期低負荷段の実施中に制限されたモータ速度を達成し、かくしてまさに最初の送り出しトルク衝撃によって堅固なねじ継手を過剰に締め付ける恐れを最小限にすることを特徴とする衝撃レンチが提供される。
【0012】
添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の空気圧式の衝撃レンチの部分断面側面図であり、排出空気制御弁が完全開き位置で示されている状態を示す図である。
【
図2】
図1の衝撃レンチの排出空気流制御弁の拡大斜視図である。
【
図3】本発明の変形実施形態による排出空気流制御弁の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図示の衝撃レンチは、ハンドルまたは取っ手11を備えたハウジング10と、空気圧モータ12と、衝撃ユニット13と、締め付けられるべきねじ継手に連結可能な出力シャフト14とを有する。モータ12および衝撃ユニット13は、従来形式のものであり、これらは、本発明の要部を全くなさず、したがって、これらについてはこれ以上詳細には説明しない。
【0015】
ハンドル11の上側部分のところには、トリガ18により操作される絞り弁17が設けられ、この絞り弁は、可動弁要素19および弁座20を有する。また、ハンドル11は、絞り弁17を介するモータ10の圧力空気の供給のための入口通路22および排出空気出力通路23を有する。排出空気出力通路23は、排出空気流制御弁25および出口デフレクタ26を備えている。
【0016】
排出空気流制御弁25は、可動ケーシング28を有し、このケーシング28は、その下端部のところに幾分円錐形の弁要素30を支持しており、この弁要素30は、出口通路23内に設けられた静止弁座31と協働するよう配置されている。制御流れ管33がねじ連結部32を介してハウジング10に固定されており、この制御流れ管33は、制御流路34を介して絞り弁の弁座20の下流側で圧力空気入口通路22と連通している。制御流れ管33は、ケーシング28の縮径部分35を介してケーシング28中に延びており、この制御流れ管は、ケーシング28の直線運動のための案内を形成している。制御流れ管33は、その下端部のところに、ピストン36を備え、ピストン36は、ケーシング28の内側に形成された作動シリンダ39内で動作するよう構成されている。ピストン36は、ばね40のための支持体を形成し、ばね40は、弁要素30に作用し、それにより弁要素30ならびにケーシング28を弁座31に向かって付勢する。
【0017】
制御流れ管33は、ピストン36に隣接したところに、制御流れ管33の内部を作動シリンダ39に結合し、それにより圧力空気入口通路22と作動シリンダ39との間の空気流連通部を開く側方開口部41を備えている。ピストン36の内部には、調整ねじ45が設けられ、この調整ねじは、制御流れ管33中に延びており、この調整ねじは、肩46を有し、この肩によって、弁部材30の所望の運動パターンおよびかくして空気流制御弁25の望ましい開弁特性を得るよう側方開口部41を通る空気の流れを設定することができる。調整ねじ43は、外部から弁要素30に設けられている中央孔54を介して接近可能であり、この中央孔はまた、弁要素30の上端部のところの圧力の増大を阻止する目的を有している。
【0018】
図2に明確に示されているように、弁座31は、3つの区分42a,42b,42cに分割される接触面を備えていて弁要素30の空気流制限位置において弁要素30に密着する管状ソケット部分37を備えている。接触面区部42a,42b,42c相互間には、3つの孔43a,43b,43cが設けられ、これら孔は、弁要素30の排出空気制限位置において排出空気を通過させるバイパス通路を一緒になって形成している。この位置では、弁要素30は、接触面区分42a,42b,42cと緊密かつ密封的係合関係をなしており、3つの孔43a,43b,43cは、排出空気流のために開かれたままである。
【0019】
衝撃レンチの作用を説明すると、圧力入口通路22を圧力空気源に連結し、出力シャフト14を適当なナットソケットによって締め付けられるべきねじ継手に連結する。ねじ継手締め付けプロセスは、オペレータがトリガ18を引いてモータ12への圧力空気の流れを開始させることによって始まり、大抵の場合、ねじ継手からのトルク抵抗は、このプロセスの初期衝突段では極めて小さい。このことは、モータが高速レベルまで迅速に加速することを意味しており、このことは、モータのロータが衝撃ユニットと一緒になって、かなり高い速度に達し、その後ねじ継手の実際のプレテンショニング(pre-tensioning)が始まることを意味している。回転部品内のこの高い運動エネルギーの増大は、望ましくないほど強い最初のトルク衝撃を達成し、かかる衝撃は、堅固なねじ継手の場合、所望の標的トルクレベルを超える大きさの取り付けトルクをねじ継手中に生じさせる恐れがある。
【0020】
このプロセスの低負荷段の間におけるモータ12からの初期の低い背圧に起因して、絞り弁19の下流側の入口通路22内の空気圧力および制御通路34内の圧力は、作動シリンダ39内の圧力とほぼ同じほど低い。このことは、ばね40の力がケーシング28に作用する力を上回ることになり、また、弁要素30がソケット部分37の接触面区分42a,42b,42cとしっかりとした密着状態に保たれることを意味している。排出空気流れ領域は、それにより、3つの孔43a,43b,43cにより形成されるバイパス通路に限定される。これらは、弁要素30の不確定な初期運動に依存しない明確な流れ面積を定める。
【0021】
最初のトルク衝撃がモータからの制限された排出空気流によって制限された動力でねじ継手に送り出されるとともにねじ継手からのトルク抵抗がかなり増大した後、絞り弁19の下流側に位置する入口通路22内のモータ12からの背圧もまた増大する。このことは、制御通路34および作動シリンダ39内の圧力もまた増大し、それによりケーシング28に作用する作動力がばね40の力を上回り、その結果、ケーシング28が弁要素30と一緒に、変位して弁座31から離れることを意味している。その結果、排出空気の流れ面積が増大する一方で、モータの動力制限度が減少する。ねじ継手からのトルク抵抗が高ければ高いほど、モータ動力の制限度がそれだけ一層小さくなり、すなわち、モータは、締め付けプロセスの終わりまで最大動力で動作することができる。排出空気制御弁25は今や、
図1に示されているようにその完全開き位置を占める。
【0022】
調整ねじ45により、側方開口部41を通って作動シリンダ39に至る制御空気流は、入口通路22内の圧力変化に対して弁変位の望ましい応答を達成するよう設定されるのが良い。
【0023】
図3に示されている本発明の変形実施形態では、弁座31は、管状のソケット部分57を有する。管状ソケット部分57は、排出空気制限位置において弁要素60と係合する円形の接触面62を有する。排出空気流の制限は、弁要素60に形成されている孔63a,63bの数によって実現される明確な流れ面積のバイパス通路によって制御される。このことは、弁要素60が弁座31の管状ソケット部分57と接触関係をなしてその流れ制限位置を占めると、バイパス通路は、接触面62と協働して孔63a,63bによって形成される。
【0024】
理解されるべきこととして、本発明の実施形態は、2つの上述した実施例には限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で自由に改造できる。したがって、バイパス通路は、弁座31に設けられた孔43a,43b,43cまたは弁要素60に形成された孔63a,63bとは異なる仕方で形成できる。必要不可欠なことは、弁要素30が固定された流れ制限位置を有することおよびバイパス通路が締め付けプロセスの初期段中、弁要素30の初期運動があったとしてもこれとは独立しているということである。これにより、締め付けプロセスの低負荷段中、レンチモータの明確な動力減少が保証され、まさに最初に送り出されたトルク衝撃時における堅固なねじ継手を過剰に締め付ける恐れが最小限に抑えられる。
【0025】
排出空気流制御弁の作用は、例えば上述した圧力空気入口通路内の実際の圧力、すなわちモータからの背圧によってまたは作動制御ユニットから受け取られるとともにねじ継手からの実際のトルク抵抗を表す電気信号によって種々の仕方で決定できる。この場合、空気式作動シリンダ39に代えて、電気信号に従って弁要素を変位させる電気機械的装置が用いられる。モータに加わる実際のトルク抵抗を表す信号は、実際のモータ電流から得られる。