特許第6676124号(P6676124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6676124リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法
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  • 特許6676124-リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6676124
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20200330BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20200330BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20200330BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20200330BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   H01M10/54
   C22B7/00 C
   C22B21/00
   B09B3/00 ZZAB
   B09B3/00 303Z
   B09B5/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-192609(P2018-192609)
(22)【出願日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年11月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】西川 千尋
(72)【発明者】
【氏名】本間 善弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 教夫
【審査官】 早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−078024(JP,A)
【文献】 特開2017−004920(JP,A)
【文献】 特開2016−219402(JP,A)
【文献】 特開2015−219948(JP,A)
【文献】 特開2004−214025(JP,A)
【文献】 特開平10−223264(JP,A)
【文献】 特開平07−245126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/54
C22B1/00−61/00
B09B1/10−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池を熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理工程で得られた熱処理物を破砕する破砕工程と、
前記破砕工程で得られた破砕物を、1.2〜2.4mmの分級点で分級する1段目の分級工程と、前記1段目の分級工程で細側に得られた中間産物および細粒産物を0.3mm以下の分級点で分級する2段目の分級工程と、
前記2段目の分級工程で粗側に得られた中間産物を乾式磁選し、得られた磁着物を再度乾式磁選する工程を1回以上繰返す乾式磁選工程を有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項2】
前記熱処理工程でアルミニウムを熔融分離して回収することを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項3】
前記乾式磁選工程で得られた磁着物は、負極活物質由来の物質の含有量が5%未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項4】
負極活物質由来の物質がカーボンであることを特徴とする、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項5】
前記乾式磁選工程で得られた磁着物は、負極集電体由来の金属品位が0.2%未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項6】
前記負極集電体由来の金属が銅であることを特徴とする、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項7】
前記熱処理工程を、酸素濃度が10.5質量%以下の低酸素雰囲気下で行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項8】
前記1段目の分級工程で粗側に得られた粗粒産物を乾式磁選する乾式磁選工程をさらに有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造過程で発生した不良品や使用機器及び電池の寿命などに伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池の正極集電体、負極集電体、正極活物質などから有価物を回収可能なリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の鉛蓄電池、ニッカド二次電池などに比較して軽量、高容量、高起電力の二次電池であり、パソコン、電気自動車、携帯機器などの二次電池として使用されている。例えば、リチウムイオン二次電池の正極には、コバルトやニッケルなどの有価物が、コバルト酸リチウム(LiCoO)、三元系正極材(LiNiCoMn(x+y+z=1))などとして使用されている。
【0003】
前記リチウムイオン二次電池は、今後も使用の拡大が予想されていることから、製造過程で発生した不良品や使用機器及び電池の寿命などに伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池から有価物を回収することが、資源リサイクルの観点から望まれている。リチウムイオン二次電池から有価物を回収する際には、使用されている種々の金属を分離して回収することが、回収物の価値を高める点から重要である。
【0004】
リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法として、リチウムイオン電池熱処理物の破砕物からコバルトおよびニッケルを回収する手法が提案されている。例えば、特許文献1には、使用済みリチウム二次電池を熱処理し、粉砕した後、粉砕物をふるい分けし、ふるい下を磁力選別することでコバルトを回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3443446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池を熱処理後、破砕・分級すると、粗粒産物に鉄などの外装容器・部材由来の金属および銅などの集電体由来の金属が回収される。また、細粒産物にはコバルト・ニッケルが濃縮するが、前記集電体由来の金属も一部細粒産物に混入する。コバルト・ニッケルリサイクルのため細粒産物からの集電体由来金属および負極活物質の分離回収が求められている。活物質は集電体にバインダーで接着された構造であることから、集電体や活物質をそれぞれ高品位で回収するためには、バインダーの分解および集電体と活物質の単体分離が必要である。上記特許文献1に記載された方法では、(1)せん断式破砕を採用したことにより、破砕時せん断刃が接触した部分以外の集電体と活物質の単体分離が不良であり、(2)磁選成績が不十分でありコバルト濃縮物中の負極活物質由来のカーボン品位が高く、(3)リチウムイオン二次電池の銅などの負極集電体由来金属は主要な有価物であると同時にコバルト・ニッケルのリサイクルにおける不純物である事から分離回収が望まれているが、負極集電体由来金属をコバルト・ニッケルから分離回収する方法に関し検討されていないという問題があった。主に(1)および(2)の理由により、コバルト・ニッケル濃縮物中の銅などの負極集電体由来金属の品位を0.2%未満、カーボンなどの負極活物質由来物質の品位を5%未満まで低減することが困難であった。また、(3)の理由により負極集電体由来金属をコバルト・ニッケル回収物から50%以上分離回収する事が困難であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、コバルト・ニッケルおよび銅などの負極集電体由来金属といった有価物を低い不純物品位および高い回収率で回収できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明によれば、リチウムイオン二次電池を熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程で得られた熱処理物を破砕する破砕工程と、前記破砕工程で得られた破砕物を、1.2〜2.4mmの分級点で分級する1段目の分級工程と、前記1段目の分級工程で細側に得られた中間産物および細粒産物を0.3mm以下の分級点で分級する2段目の分級工程と、前記2段目の分級工程で粗側に得られた中間産物を乾式磁選し、得られた磁着物を再度乾式磁選する工程を1回以上繰返す乾式磁選工程を有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法が提供される。
【0009】
前記熱処理工程でアルミニウムを熔融分離して回収しても良い。また、前記乾式磁選工程で得られた磁着物は、負極活物質由来の物質の含有量が5%未満であっても良い。その場合、負極活物質由来の物質がカーボンであっても良い。また、前記乾式磁選工程で得られた磁着物は、負極集電体由来の金属品位が0.2%未満であっても良い。その場合、前記負極集電体由来の金属が銅であっても良い。また、前記熱処理工程を、酸素濃度が10.5質量%以下の低酸素雰囲気下で行っても良い。また、前記1段目の分級工程で粗側に得られた粗粒産物を乾式磁選する乾式磁選工程をさらに有しても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池から有価物を回収するにあたり、コバルト・ニッケルといった有価物を低い負極集電体由来金属品位および負極活物質品位で回収できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態にかかる回収方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態の一例を説明する。
【0013】
<リチウムイオン二次電池>
リチウムイオン二次電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う二次電池であり、例えば、正極と、負極と、セパレーターと、電解質及び有機溶剤を含有する電解液と、正極、負極、セパレーター及び電解液を収容する電池ケースである外装容器とを備えたものが挙げられる。
【0014】
リチウムイオン二次電池の形状、構造、大きさ、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。リチウムイオン二次電池の形状として、例えば、ラミネート型、円筒型、ボタン型、コイン型、角型、平型などが挙げられる。
【0015】
正極としては、正極集電体上に正極材を有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0016】
正極集電体としては、その形状、構造、大きさ、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。正極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、アルミニウムが好ましい。
【0017】
正極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、希少有価物を含有する正極活物質を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む正極材などが挙げられる。希少有価物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、コバルト、ニッケル、及びマンガンの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0018】
正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、LiNiCoMnおよびそれぞれの複合物などが挙げられる。
【0019】
導電剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、金属炭化物などが挙げられる。
【0020】
結着樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、アクリロニトリル、エチレンオキシド等の単独重合体又は共重合体、スチレン−ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0021】
負極としては、負極集電体上に負極材を有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。負極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0022】
負極集電体としては、その形状、構造、大きさ、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。負極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。負極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、銅が好ましい。
【0023】
負極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材、チタネイト、シリコン、およびそれぞれの複合物などが挙げられる。
【0024】
なお、正極集電体と、負極集電体とは積層体の構造を有しており、積層体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
本発明の実施の形態では、図1に示す手順によって、リチウムイオン二次電池に含まれるアルミニウム・鉄などの外装容器由来金属、コバルトおよびニッケル等の正極活物質由来金属、銅などの負極集電体由来金属を効率的に分離回収する。回収に用いられるリチウムイオン二次電池としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池の製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄されるリチウムイオン二次電池、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池などが挙げられる。
【0026】
<熱処理工程>
図1に示すように、先ず、リチウムイオン二次電池に対して、熱処理工程が行われる。熱処理温度は、正極集電体及び負極集電体のうち、低い融点の集電体の融点以上、かつ高い融点の集電体の融点未満の温度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、670℃以上が好ましく、670℃以上1100℃以下がより好ましく、700℃以上900℃以下が特に好ましい。熱処理温度が、670℃未満であると、低い融点の集電体の脆化が十分に生じないことがあり、1100℃を超えると、低い融点の集電体、高い融点の集電体、及び外装容器のいずれもが脆化し、破砕及び分級によるコバルト・ニッケル濃縮物からの集電体の分離効率が低下する。また、前記リチウムイオン二次電池の前記外装容器が前記熱処理中に溶融する場合、前記リチウムイオン二次電池の下に前記溶融金属を回収する受け皿を配置する事で、外装容器由来の金属と電極部を容易に分離する事が出来る。
【0027】
所定の熱処理温度で熱処理を行うことにより、例えば、正極集電体がアルミニウムであり、負極集電体が銅である積層体において、アルミニウム箔からなる正極集電体が脆化し、後述する破砕工程において細粒化しやすくなる。この正極集電体の脆化は溶融もしくは酸化反応により生ずる。また、溶融して流れ落ちたアルミニウムは、受け皿に回収される。一方、銅からなる負極集電体は、銅の融点未満の温度で熱処理されるため、溶融することがなく、後述する乾式磁選工程において、高度に選別できるようになる。また、積層体及びリチウムイオン二次電池のいずれかを酸素遮蔽容器に収容して熱処理したときは、アルミニウム箔からなる正極集電体が溶融して脆化し、後述する破砕工程において細粒化しやすくなり、一方、銅からなる負極集電体は、前記酸素遮蔽容器の酸素遮蔽効果および積層体やリチウムイオン二次電池に含まれるカーボン等の負極活物質による還元効果により、酸素分圧が低い状態で熱処理されるため、酸化による脆化が生じない。このため、破砕工程における破砕により、正極集電体は細かく破砕され、負極集電体は、破砕後も粗粒として存在し、後述する1段目の分級工程と2段目の分級工程において、より効果的かつ高度に選別できるようになる。
【0028】
熱処理時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間以上5時間以下が好ましく、1分間以上2時間以下がより好ましく、1分間以上1時間以下が特に好ましい。熱処理時間は低い融点の前記集電体が所望の温度まで到達する熱処理時間であればよく、保持時間は短くてもよい。熱処理時間が、特に好ましい範囲内であると、熱処理にかかるコストの点で有利である。
【0029】
熱処理の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱処理炉を用いて行うことが挙げられる。熱処理炉としては、例えば、ロータリーキルン、流動床炉、トンネル炉、マッフル等のバッチ式炉、キュポラ、ストーカー炉などが挙げられる。
【0030】
熱処理に用いる雰囲気としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択する事ができるが、空気中で行う事ができる。酸素濃度が低い雰囲気とすれば正極集電体由来の金属及び負極集電体由来の金属を高品位かつ高い回収率で回収できる点から好ましい。
具体的には、酸素濃度が10.5質量%以下の低酸素雰囲気が、正極集電体由来の金属及び負極集電体由来の金属を高品位かつ高い回収率で回収できる点から好ましい。酸素濃度を低く調整した雰囲気(低酸素雰囲気)で熱処理工程を行うことで、リチウムイオン二次電池の有価金属の酸化を抑制する事が望ましい。即ち、LiCoO(反磁性体)として存在するコバルトを、負極活物質の共存化で熱処理し還元する事で、コバルトメタル(強磁性体)へ変化させることができる。
【0031】
上記低酸素雰囲気の実現方法として、リチウムイオン二次電池または積層体を酸素遮蔽容器に収容し熱処理してもよい。酸素遮蔽容器の材質としては、正極集電体及び負極集電体のうち、高い融点の集電体の融点以上の融点である材質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極集電体がアルミニウムであり、負極集電体が銅である場合は、アルミニウムの融点である660.32℃よりも高い融点を有する鉄、ステンレス鋼などが挙げられる。リチウムイオン電池または積層体中の電解液燃焼によるガス圧を放出するために、酸素遮蔽容器には開口部を設けることが好ましい。開口部の開口面積は、開口部が設けられている外装容器の表面積に対して12.5%以下となるように設けることが好ましい。開口部の開口面積は、開口部が設けられている外装容器の表面積に対して6.3%以下であることがより好ましい。開口部の開口面積が外装容器の表面積に対して12.5%を超えると、集電体の大部分が熱処理によって酸化しやすくなってしまう。開口部は、その形状、大きさ、形成箇所などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
<破砕工程>
次に、熱処理工程で得られた熱処理物を破砕する破砕工程が行われる。破砕工程では、熱処理物を衝撃により破砕して破砕物を得ることが好ましい。
【0033】
また破砕としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。衝撃により破砕を行う方法としては、回転する打撃板により投げつけ、衝突板に叩きつけて衝撃を与える方法や、回転する打撃子(ビーター)により熱処理物を叩く方法が挙げられ、例えば、ハンマークラッシャーやチェーンクラッシャーなどにより行うことができる。また、セラミックや鉄などのボールやロッドにより熱処理物を叩く方法が挙げられ、ボールミルやロッドミルなどにより行うことができる。また、圧縮による破砕を行う刃幅、刃渡りの短い二軸粉砕機で破砕することにより行うことができる。
【0034】
衝撃により破砕物を得ることにより、活物質と集電体の単体分離が良好に生じる。また、活物質は元来数10nmの粒子である一方、集電体は箔状の形状であることから、衝撃破砕により活物質の解砕が優先的に生じ、結果篩分で分離することができる。
【0035】
破砕時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リチウムイオン二次電池1kgあたりの処理時間は1秒間以上30分間以下が好ましく、2秒間以上10分間以下がより好ましく、3秒間以上5分間以下が特に好ましい。破砕時間が、1秒未満であると、破砕されないことがあり、30分間を超えると、過剰に破砕されることがある。
【0036】
<1段目の分級工程>
次に、破砕工程で得られた破砕物を粗粒産物と中間産物及び細粒産物とに分級する1段目の分級工程が行われる。分級方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、多段式振動篩、サイクロン、JIS Z8801の標準篩、湿式振動テーブル、エアーテーブルなどを用いて行うことができる。
【0037】
前記1段目の分級工程で用いる分級点としては、目開きが1.2〜2.4mmの篩を用いる。分級点が2.4mmを超えた場合、細粒産物中へ外装容器由来および融点の高いほうの金属の混入が増加し、活物質由来のコバルト・ニッケルとの分離成績が低下する。一方、分級点が1.2mm未満の場合、低い融点の集電体由来の金属及び活物質の粗粒産物中への混入が増加し、粗粒産物中の高い融点の集電体由来の金属の品位が低下し、かつ細粒産物への正極活物質由来のコバルト・ニッケル回収率が低下する。
【0038】
<2段目の分級>
前記1段目の分級工程で細側に得られた中間産物及び細粒産物に対しては2段目の分級工程が行われ、粗側にコバルト、ニッケルなどの正極活物質由来金属を含む中間産物が回収され、細側にカーボンを含む細粒産物が回収される。前記2段目の分級工程で用いる篩の篩目の目開きとしては、分級点が0.3mm以下の分級点を用いる。分級点が0.3mmを超えた場合、細粒産物中へのコバルト・ニッケルの混入が増加し、コバルト・ニッケルの中間産物への回収率が低下する。
【0039】
これらの分級により、粗粒産物として外装容器および融点の高い集電体由来の金属を、中間産物にコバルト、ニッケルなどの正極活物質を含む中間産物を、細粒産物にカーボンなどの負極活物質をそれぞれ分離回収することができる。
【0040】
箔状の集電体はまた、分級方法として篩を用いた場合に、篩上に解砕促進物、例えば、ステンレス球やアルミナボールを乗せて篩うことにより、篩上に残留した少量の低い融点の集電体を解砕し微粒化させることで、粗粒産物中における外装容器および高い融点の集電体の金属の品位を更に向上させることができる。
【0041】
<粗粒産物の乾式磁選工程>
次に、1段目の分級工程で粗側に得られた粗粒産物に対しては、乾式磁選工程を行っても良い。この場合磁着物として鉄が回収され、非磁着物として銅などの前記高い融点の集電体由来の金属が回収する事が出来る。
【0042】
<中間産物の乾式磁選工程>
前記2段目の分級工程で粗側に得られた中間産物に対しては、1段目の磁選で回収された磁着物に対し再度2段目の磁選を行う2段の乾式磁選工程が行われる。磁着物としてコバルト・ニッケルが回収され、非磁着物に負極材由来の銅やカーボンが移行する。この磁選により、例えば負極集電体が銅、負極活物質がカーボンである場合に、前記中間産物すなわちコバルト・ニッケル濃縮物中の銅などの負極集電体由来金属品位を0.2%未満、およびカーボンなどの負極活物質由来の物質品位を5%未満にできる。乾式磁選が1段である場合は、負極集電体および負極活物質がコバルト・ニッケルに巻き込まれて回収される割合が高く、磁着物として回収されるコバルト・ニッケル濃縮物中の負極集電体由来金属品位を0.2%未満もしくは負極活物質由来の物質品位を5%未満にできない。なお、中間産物を乾式磁選するに際して、粒子間の付着水分により粒子の凝集が生じる場合があるため、必要に応じて2段目の分級工程後に乾燥処理などを行うことで、前記負極材由来の金属とコバルト・ニッケル粒子を十分に分離できる。
【0043】
〈乾式磁選磁着物の再破砕・磁選〉
乾式磁選後磁着物には本来非磁着物として回収されるべき負極集電体由来金属が前記衝撃破砕時に磁着物であるコバルトを巻き込む事で回収される場合がある。これら粒子の単体分離を促進するため、磁選後磁着物を再破砕し再度磁選することでコバルト・ニッケル濃縮物中の前記負極集電体由来金属品位を低減できる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
図1のフローに示すように、リチウムイオン二次電池3.7Kgを、熱処理装置としてマッフル炉(FJ−41、ヤマト科学株式会社製)を用いて、熱処理温度850℃(1H昇温・2H保持)、空気送気量5L/minの条件で熱処理工程を行った。次いで、破砕工程では、破砕装置として、ハンマークラッシャー(マキノ式スイングハンマークラッシャーHC−20−3.7、槇野産業株式会社製)を用い、50HZ(ハンマー周速38m/s)、出口部分のパンチングメタルの穴径10mmの条件で1回追加破砕した。
【0046】
次いで、1段目の分級工程として、篩目の目開きが1.2mmの篩を用いて、前記破砕工程で得られた破砕物を篩分けした。篩分け後の1.2mmの篩上(粗側)と篩下(細側)をそれぞれ採取した。この篩下産物(中間産物および細粒産物)について再度0.3mmの篩を用いて2段目の分級を行い、中間産物にコバルト・ニッケルを、細粒産物にカーボンをそれぞれ回収した。
【0047】
2段目の分級の篩上(粗側)に得られた中間産物については、長さ150mm、直径20mmのハンドマグネットを用いて、磁力1500Gで中間産物との間に10mmの間隔を設けた状態で2段の乾式磁選を実施した。
【0048】
また、1段目の分級の篩上(粗側)に得られた粗粒産物に対しても、2段目の分級の篩上(粗側)に得られた中間産物に対する乾式磁選と同様の手順で、乾式磁選を行った。
【0049】
粗粒産物・細粒産物および2段目の分級の篩上(粗側)に得られた中間産物に対する乾式磁選で得られた磁着物と非磁着物の質量を測定した後、王水に加熱溶解させ、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(iCaP6300、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により分析を行い、コバルト及びニッケルの回収率、並びに回収された各種金属の含有割合を求めた。中間産物を磁選して得た磁着物および非磁着物の品位分析結果を表1に示す。各産物への各有価物の回収率を表2に示す。なお、表1、表2において(%)はいずれも質量%である。また、表2において、篩上(粗側)を「+」、篩下(細側)を「−」で示した。
【実施例2】
【0050】
2段目の篩分けの目開きを0.15mmとした他は実施例1と同様の方法で実施した。結果を同様に表1、2に示す。
【実施例3】
【0051】
1段目篩分けの目開きを2.4mmとした他は実施例1と同様の方法で実施した。結果を同様に表1、2に示す。
【0052】
(比較例1)
1段目の篩分けの目開きを4.8mmとした他は実施例3と同様の方法で実施した。
【0053】
(比較例2)
前記2段目の篩分け目開きを0.6mmとした以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0054】
(比較例3)
磁選を1段で行った他は実施例1と同様の方法で実施した。
【0055】
(比較例4)
前記2段目の篩分けを行わず、1段目の篩分けの篩下物に乾式磁選を適用した他は実施例1と同様の手順で行った。
【0056】
表1,2に示すように、本発明の回収方法で得られたコバルト・ニッケル濃縮物は銅品位が0.2%未満、およびカーボン品位が5%未満であることが確認できた。比較例1では表1に示す通り磁着物中の鉄品位が10%を超え、高品質のコバルト・ニッケル濃縮物が得られなかった。比較例2では表2に示した通り磁着産物にコバルト・ニッケルを50%以上回収できなかった。比較例3及び4では表1に示した通り銅品位が0.2%未満もしくはカーボン品位が5%未満のコバルト・ニッケル濃縮物を回収できなかった。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【要約】
【課題】コバルト・ニッケル・銅といった有価物を低い不純物品位および高い回収率で回収できる手段を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池を熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程で得られた熱処理物を破砕する破砕工程と、前記破砕工程で得られた破砕物を、1.2〜2.4mmの分級点で分級する1段目の分級工程と、前記1段目の分級工程で細側に得られた中間産物および細粒産物を0.3mm以下の分級点で分級する2段目の分級工程と、前記2段目の分級工程で粗側に得られた中間産物を乾式磁選し、得られた磁着物を再度乾式磁選する工程を1回以上繰返す乾式磁選工程を有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
【選択図】図1
図1