(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1〜
図7を用いて、ワイヤソー切断装置及び切断方法の一実施形態を説明する。
図1は、本実施形態におけるワイヤソー切断装置10の全体を示す斜視図である。ワイヤソー切断装置10は、内部空間が形成された本体部20と、この本体部20から延在された一対(2つ)のスタンド部50とを備えている。更に、ワイヤソー切断装置10は、本体部20の内部空間内及びスタンド部50の外周を巻回するワイヤ60を備えている。
【0020】
本体部20は、ベース部材21及びケース部材22を備えている。ベース部材21は、略四角環状をしており、後述するように、スタンド部50が貫通している。ベース部材21において、スタンド部50が突出している領域の反対側に、ケース部材22が取り付けられている。ケース部材22は、全体として、約1.5m×約1.5m×約0.3mの直方体形状をしている。ケース部材22の一面(
図1の正面側)は、透過板で構成されており、一対のスタンド部50を含む平面と平行となるように構成されている。
【0021】
図2は、本体部20をスタンド部50側から見た斜視図である。
図2に示すように、ケース部材22には、ベース部材21側の側面(
図1における下面)が開口した略直方体形状の内部空間が形成されている。更に、本実施形態では、ケース部材22には、スタンド部50側の両端部22aが、背面側に突出して設けられている。この両端部22a内には、後述する固定部材41がケース部材22内に配置される。
【0022】
図1に示すように、ケース部材22の内部空間には、駆動プーリー25と、第1プーリー26と、第2プーリー27と、第3プーリー28とが収容されている。各プーリー(25〜28)には、ワイヤ60が巻回される。このワイヤ60は、駆動プーリー25、第3プーリー28、第2プーリー27、第3プーリー28、第1プーリー26、第3プーリー28、第1プーリー26、第3プーリー28の順に巻回されている。更に、このワイヤ60は、ケース部材22の端部に配置された第3プーリー28から、後述する第4プーリー44、オフセットプーリー53、2つの掛止用パイプ45a、オフセットプーリー53及び第4プーリー44の順に巻回された後、駆動プーリー25に至る。このワイヤ60は、公知の乾式ワイヤソー切断装置に用いられるダイヤモンドワイヤである。
【0023】
駆動プーリー25は、ワイヤ駆動部として機能し、第1プーリー26〜第3プーリー28よりも径が大きく、ワイヤ60に回転力を伝達する。
第1プーリー26は、張力付与部として機能し、ワイヤ60を切断対象物に押し付ける張力を付与するためのテンションフィードプーリーである。本実施形態では、連動して移動する2つの第1プーリー26を用いる。各第1プーリー26は、スタンド部50の延在方向(
図1の上下方向)と同方向に、移動機構(図示せず)によって、移動可能に配置されている。そして、2つの第1プーリー26の間には、位置の固定された第3プーリー28(ガイドプーリー)が配置されている。切断時に、第1プーリー26を、第3プーリー28から離間する方向に移動させることにより、ワイヤ60に張力を加えてワイヤ60を切断対象物に押し付ける。
【0024】
また、ケース部材22の奥面(
図1における裏面)には、第1プーリー26の可動範囲に対応して、第1プーリー26の回転軸が貫通するスリットが形成されている。このスリットは、被覆部材29aによって覆われている。被覆部材29aは、第1プーリー26の移動範囲の周囲に、スリットを塞ぐための可撓性材料により構成されている。
【0025】
第2プーリー27は、張力調整部として機能するテンションプーリーである。この第2プーリー27は、アーム27aの表面の先端に回転可能に取り付けられている。このアーム27aは、後述する支持柱37bに、連結部材を介して揺動可能に支持されている。
【0026】
アーム27aの根元の背面側には、スプリングユニット(図示せず)の先端が取り付けられている。このスプリングユニットは、ケース部材22の外側で固定されている。スプリングユニットは、バネを内蔵し、このバネに取り付けられた回転軸部がケース部材22内に挿入されている。回転軸部に取り付けられたアーム27aの先端(第2プーリー27)は、バネによって上方に付勢される。第2プーリー27と駆動プーリー25との間、第2プーリー27と第1プーリー26との間にも、位置の固定された第3プーリー28(ガイドプーリー)が配置されている。第2プーリー27は、スプリングユニットからの付勢力により、ワイヤ60の張力変化に応じて第3プーリー28からの距離を変化させて、ワイヤ60の張力をほぼ一定に保つ。
【0027】
また、ケース部材22の奥面(
図1における裏面)には、被覆部材29bによって覆われている開口部が形成されている。この開口部には、スプリングユニットの回転軸部とアーム27aの連結部材とが貫通している。被覆部材29bは、アーム27aの連結部材が揺動した場合に、開口部において貫通部分以外の領域を塞ぐことができる可撓性材料により構成されている。
【0028】
図3は、ケース部材22の背面側から見たワイヤソー切断装置10の斜視図である。ケース部材22の背面には、駆動プーリー25を回転させる駆動モータ35が取り付けられている。本実施形態では、駆動モータ35として、サーボモータを用いる。
【0029】
更に、ケース部材22の背面には、複数のフレームF1が組み合わさって一体となって取り付けられている。フレームF1には、スタンド部50の延在方向に延在するガイドバー37aが設けられている。ガイドバー37aは、第1プーリー26に対応する位置に配置されている。ガイドバー37aには、第1プーリー26を移動させる移動体が設けられている。ガイドバー37aに設けられた移動体には、第1プーリー26の位置を移動させる移動用モータ36が取り付けられている。移動用モータ36は、ワイヤソー切断装置10の切断速度に応じた速度で、第1プーリー26を移動させるように回転する。
【0030】
また、フレームF1には、支持柱37bが固定されている。この支持柱37bは、上記スプリングユニット及びアーム27aを揺動可能に支持する。
更に、ケース部材22のフレームF1の奥面側には、一対(2つ)の差込ブラケット39が、所定間隔で設けられている。差込ブラケット39は、搬送支持部として機能し、上下両側が開口した中空の四角柱形状からなる。この差込ブラケット39は、ワイヤソー切断装置10を移動させる場合に、フォークリフトのフォークを差し込むために用いられる。なお、この差込ブラケット39は、フォークリフトのフォークが差し込まれてワイヤソー切断装置10を持ち上げた場合、ワイヤソー切断装置10の重心がフォーク間に位置するように配置されている。
【0031】
更に、ベース部材21の背面には、直方体形状の補助ベース部材24が取り付けられている。この補助ベース部材24の上面には、上述した複数のフレームF1が固定されている。
【0032】
また、
図1に示すように、四角環状のベース部材21には、スタンド部50側に突出する接触部材40が取り付けられている。本実施形態では、円筒形状の切断対象物内での切断を想定し、切断対象物の接触面の形状(円弧)に沿った劣弧形状を有している。接触部材40は、劣弧面部材40aと、これを支持する薄板部材40bとを備えている。劣弧面部材40aには、中央がスタンド部50側に突出するように円弧に曲げられた劣弧形状をしており、この劣弧形状の中央にスリット状の開口部が形成されている。なお、この接触部材40の正面側及び背面側を板部材等により封鎖して内部を閉空間とし、後述する集塵ホース33を介しての吸引力を向上させて、集塵効率を向上させてもよい。
【0033】
図2に示すように、ベース部材21及び接触部材40には、ケース部材22の開口部及び接触部材40の開口部がスタンド部50側から臨める形状の空間31が形成されている。接触部材40のスタンド部50側の側面の外周縁には、環状のシール部材32が、スタンド部50側に突出するように取り付けられている。シール部材32は、ワイヤソー切断装置10が接触する切断対象物の壁面に応じて変形して、この壁面と接触部材40(ベース部材21)との接続部分を密着する。
【0034】
更に、ベース部材21には、空間31に達する2つの貫通孔が形成されている。そして、各貫通孔には、それぞれに連通する集塵ホース33が取り付けられている。この集塵ホース33は、排気手段として機能し、集塵装置(図示せず)に接続されている。この集塵装置は、集塵ホース33を介して、接触部材40の開口部の空間、ベース部材21の空間31及びケース部材22の内部空間を吸引し、これら空間の粉塵をワイヤソー切断装置10の外部に排出する。
【0035】
図4(a)には、ケース部材22の下方とベース部材21の開口部内の機構が示されている。
図4(a)に示すように、一対のスタンド部50は、左右対称の構造をしている。各スタンド部50は、オフセットスタンド51、オフセット部としてのオフセットプーリー53及びカバー部59(
図4(a)では図示せず)を備えている。
【0036】
ケース部材22内のスタンド部50側の両端部には、それぞれ直方体形状をした固定部材41が取り付けられている。各固定部材41のスタンド部50側の端部には、2本のガイド軸42が平行に取り付けられている。これらガイド軸42には、2つの取付部材43が、摺動可能に取り付けられている。具体的には、取付部材43には、2つの平行な貫通孔が形成されている。各貫通孔にはガイド軸42が挿通されている。取付部材43がガイド軸42を摺動することにより、各スタンド部50の本体部20に対する取付位置(本体部20の左右方向の位置)が変更可能となっている。本実施形態においては、固定部材41、ガイド軸42及び取付部材43が位置変更機構部を構成する。この位置変更機構部は、スタンド部50の本体部20に対する左右方向の取付位置を変更する。
【0037】
図4(c)は、
図4(a)における左側の取付部材43を拡大した図である。取付部材43は左右対称に取り付けられているため、左側の取付部材43について説明し、右側の取付部材43については説明を省略する。
【0038】
各取付部材43の端部側(固定部材41側)に、第4プーリー44が正面側に回転可能に取り付けられている。この第4プーリー44は、ワイヤ60を巻回してワイヤ60をガイドするガイドプーリーである。第4プーリー44は、ケース部材22内において端部に配置されたプーリー(ここでは駆動プーリー25)と、後述するオフセットプーリー53との間に配置される。
【0039】
取付部材43の中央側には、スタンド部50側に突出する掛止部材45が取り付けられている。掛止部材45は、その先端に貫通孔が形成されている。この貫通孔に、掛止用パイプ45aが着脱可能に嵌合されている。この掛止用パイプ45aには、切断を開始する前のワイヤ60が掛止される。本実施形態では、ワイヤソー切断装置10を稼働させた場合、ワイヤ60は掛止用パイプ45aを切断した後で、切断対象物を切断する。
【0040】
各取付部材43の中央部には、板状部材の固定ヒンジ部47の端部が固定されている。固定ヒンジ部47は、その先端が取付部材43からスタンド部50側に突出している。固定ヒンジ部47の先端には、回転可能なヒンジ軸が挿通されている。このヒンジ軸には、アーム部48を介してスタンド部50のオフセットスタンド51の基元部49が固定されている。このため、ヒンジ軸の回転軸C1を中心としてオフセットスタンド51の基元部49が揺動する。本実施形態においては、取付部材43、固定ヒンジ部47、アーム部48及び基元部49が角度変更機構部を構成する。この角度変更機構部は、スタンド部50の本体部20に対する取付姿勢(取付角度)を変更する。
【0041】
図4(a)に示すように、本実施形態では、1対のオフセットスタンド51は、間隔をおいて、本体部20に対して、先端側が広がった「ハ」の字形状となるように取り付けられている。ここで、1対のオフセットスタンド51の本体部20に対する取付角度は、予め決められた可動範囲で変更可能である。本実施形態では、切断対象物の接触面の円弧に応じた取付範囲と決められている。
【0042】
図5は、
図4(b)における5−5線断面図である。オフセットスタンド51は、断面が四角形状の大きさの異なる2つの中空形状の管部材51a,51bを入れ子状で構成される。このオフセットスタンド51は、管部材51a,51bをスライドさせることにより、伸縮可能である。オフセットスタンド51は、先端側に開口部が設けられている。この開口部は、オフセットスタンド51の中空部に連通しており、集塵口として機能する。更に、オフセットスタンド51の基端部側(本体部20側)には、オフセットスタンド51の中空部に連通する開口部が設けられている。
【0043】
図4(a)に示すように、オフセットスタンド51の先端部の一側面には、オフセットプーリー53が回転可能に取り付けられている。このオフセットプーリー53は、押切切断するためにワイヤ60を掛け渡すためのプーリーである。オフセットプーリー53は、オフセットスタンド51の先端から突出するように、オフセットスタンド51の延在方向の先端部に取り付けられている。
【0044】
本実施形態においては、オフセットプーリー53は、プーリー径が150mmのプーリーを用いる。このオフセットプーリー53は、プーリー径が大きい程、ワイヤソーの稼働時間(耐久時間)が長くなる。また、オフセットプーリー53のプーリー径が150mmの場合には、130mmの場合に比べて、プーリーの変形量(摩耗量)が1/5倍程度、少なくなる。
【0045】
図4(b)は、スタンド部50を横から見た図である。オフセットプーリー53の軸支持部分には、区画部材54が取り付けられている。区画部材54は、カバー部59の先端に当接し、オフセットスタンド51の先端側の開口がカバー部59によって塞がれないように、開口の周囲に隙間を設ける。
【0046】
また、
図5に示すように、オフセットスタンド51には、ローラ取付部材56が固定されている。このローラ取付部材56は、複数(4つ)の滑り部としての球形状のローラ57を備えている。ローラ取付部材56は、各ローラ57を回転可能に支持している。ローラ取付部材56は、複数のローラ57を、オフセットスタンド51の周囲において等間隔となる位置で、各ローラ57の先端がすべて同一周囲上となるように保持している。更に、ローラ取付部材56には、対向する1対の溝部56aが形成されている。この溝部56aには、ワイヤ60が遊嵌されている。
【0047】
図2及び
図4(b)に示すように、スタンド部50のオフセットスタンド51は、カバー部59内に収納される。このカバー部59は、オフセットスタンド51を覆うように、先端部が閉塞した長尺形状をしている。カバー部59は、開口側(オフセットスタンド51の基端部側)においてオフセットスタンド51に取り付けられている。更に、カバー部59には、ワイヤ60の配置位置に対応した開口部59aが形成されている。この開口部59aは、オフセットスタンド51の延在方向に延びる細長い溝形状である。更に、カバー部59には、各ローラ57の位置に対応して、各ローラ57を露出させる孔59bが形成されている。
【0048】
次に、
図6及び
図7を用いて、ワイヤソー切断装置10を用いた切断方法について説明する。切断対象物(本実施形態では鉄筋コンクリートブロック70)の一部を切り出す場合、水平方向の切断(水平切断)、これと直交する方向の切断(側面切断及び背面切断)を組み合わせる。水平切断は、一対のオフセットスタンド51を水平面上に配置して、水平方向に広がる面状に切断する。側面切断は、一対のオフセットスタンド51を垂直面上に配置して、側面を垂直方向に広がる面状に切断する。背面切断は、一対のオフセットスタンド51を垂直面上に配置して、背面を垂直方向に広がる面状に切断する。本実施形態では、
図7(a)に示すように、円筒形状の鉄筋コンクリートブロック70の一部を水平方向に略台形面で切断する(水平切断)。以下、この水平切断について詳述する。
【0049】
まず、オフセットスタンド挿入用の穿孔処理を実行する(ステップS1)。具体的には、公知のコアドリルを用いて、鉄筋コンクリートブロック70にスタンド部50を挿入する孔71を2つ形成する。本実施形態では、これら2つの孔71は、間隔を空けて、先端側が広がる「ハ」の字形状に形成する。
【0050】
次に、ワイヤソー切断装置10の設置処理を実行する(ステップS2)。具体的には、ワイヤソー切断装置10のオフセットスタンド51を、孔71の長さより少し短くなるように伸縮させる。更に、各スタンド部50が各孔71に挿入可能となる間隔に、取付部材43を配置する。
次に、フォークリフトの一対のフォークを、ワイヤソー切断装置10の差込ブラケット39に挿入して、ワイヤソー切断装置10を持ち上げる。
【0051】
次に、
図7(a)の仮想線(2点鎖線)で示すように、フォークを移動させて、ワイヤソー切断装置10の一対のスタンド部50を、各孔71に挿入する。この場合、各スタンド部50のオフセットスタンド51は、各ローラ57が孔71の内周面に当接する。
【0052】
そして、
図7(b)に示すように、オフセットスタンド51が孔71に挿入されるに従って、オフセットスタンド51の基元部49が回転軸C1を中心として、仮想線から実線に示すように回転する。この場合、孔71の間隔によっては、取付部材43がガイド軸42を摺動する。そして、スタンド部50は、孔71の形状に沿った姿勢になって孔71に挿入される。更に、この場合、各スタンド部50のローラ57が、孔71の内周面を当接しながら滑る。
【0053】
図7(a)の実線で示すように、ワイヤソー切断装置10の接触部材40が鉄筋コンクリートブロック70の設置面70aに密着するまで、スタンド部50を孔71に挿入する。この場合、ワイヤソー切断装置10の接触部材40は、シール部材32を介して鉄筋コンクリートブロック70に接触し、接触部材40と鉄筋コンクリートブロック70との接続部分を密着する。
【0054】
次に、切断処理を実行する(ステップS3)。
ここでは、まず、吸引の開始処理を実行する(ステップS3−1)。具体的には、集塵ホース33に接続された集塵装置を稼働させる。これにより、集塵ホース33を介して、ケース部材22、ベース部材21及び接触部材40の内部の空気が排出される。更に、孔71の先端部における空気が、オフセットスタンド51の開口部(集塵口)からオフセットスタンド51を介してベース部材21及び接触部材40の内部に排出され、この内部から集塵ホース33を介して排出される。
【0055】
次に、駆動プーリーの稼働処理を実行する(ステップS3−2)。具体的には、駆動モータ35を稼働させて、ワイヤ60を回転させる。
そして、第1プーリーの移動及び第2プーリーによる張力調整処理を実行する(ステップS3−3)。具体的には、移動用モータ36を稼働させて、第1プーリー26を鉄筋コンクリートブロック70から遠ざける方向に徐々に移動させる。これにより、高速回転したワイヤ60は、まず、掛止用パイプ45aを切断する。ここで、掛止用パイプ45aの切断によってワイヤ60に加わる張力が変化する場合には、スプリングユニットの付勢力により第2プーリー27が第3プーリー28に対して相対移動するため、ワイヤ60の張力をほぼ一定にする。
【0056】
そして、掛止用パイプ45aが切断し終わると、このワイヤ60は鉄筋コンクリートブロック70を切断する。この場合、ワイヤ60に加わる張力の変化が所定範囲内に収まるように第1プーリー26の移動速度を調整する。これにより、切断したワイヤ60の弛みが第1プーリー26によって巻き取られ、ワイヤ60が鉄筋コンクリートブロック70に押し付けられる。この場合、ワイヤ60は、オフセットスタンド51の間の鉄筋コンクリートブロック70を孔71の開口側から徐々に切断しながら、孔71の先端方向に徐々に移動する。切断中においても、ワイヤ60に加わる張力が変化した場合には、第2プーリー27が第3プーリー28に対して相対移動して、ワイヤ60の張力をほぼ一定に保つ。
【0057】
2つのオフセットプーリー53の先端を結ぶ位置付近までワイヤ60が移動することにより切断が完了した場合には、プーリーの稼働停止処理を実行する(ステップS3−4)。具体的には、移動用モータ36を停止し、第1プーリー26の移動を停止する。更に、駆動モータ35を停止する。
【0058】
次に、吸引の停止処理を実行する(ステップS3−5)。具体的には、集塵ホース33に接続された集塵装置を停止する。
以上によって、ワイヤソー切断装置10のオフセットスタンド51間の領域が、水平面状に切断される。
【0059】
そして、各スタンド部50を孔71から引き抜く。この場合にも、各スタンド部50は、孔71に当接し、当接した孔71から力を受ける。これにより、各スタンド部50は、孔71の形状に合うように、オフセットスタンド51の基元部49が回転軸C1を中心として回転し、かつ取付部材43がガイド軸42を摺動する。
なお、側面切断及び背面切断は、1対の孔を平行に形成し、ワイヤソー切断装置のスタンド部を各孔に挿入し、上述した水平切断と同様にして切断を行なう。
【0060】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態のワイヤソー切断装置10は、本体部20と一対のスタンド部50とを備えている。本体部20は、ワイヤ60が巻回されるプーリー(25〜28)を内蔵するケース部材22と、集塵ホース33が接続されたベース部材21とを備えている。各スタンド部50は、ワイヤ60を巻回するオフセットプーリー53が先端に取り付けられた中空のオフセットスタンド51を備えている。オフセットスタンド51の先端側の開口は、基端部側の開口を介してベース部材21の空間31に連通している。切断時には、鉄筋コンクリートブロック70に形成した2つの孔71にスタンド部50を挿入して、ワイヤソー切断装置10を鉄筋コンクリートブロック70に接触するように設置する。これにより、鉄筋コンクリートブロック70の切断作業場所で、ワイヤソーの組み立てを簡略化することができる。更に、孔71内で発生した切断粉をオフセットスタンド51の先端からオフセットスタンド51の中空部及び集塵ホース33を介して切断粉を排出する。これにより、切断のために回転するワイヤ60が通過する経路から外部に粉塵が飛散せずに、切断によって発生した粉塵を効率よく排出でき、ワイヤソー切断装置10の外部への粉塵の飛散を抑制することができる。
【0061】
(2)本実施形態のワイヤソー切断装置10のベース部材21には、スタンド部50側に、円弧形状を有する接触部材40が取り付けられている。このため、鉄筋コンクリートブロック70の表面形状に整合させて、ワイヤソー切断装置10を、鉄筋コンクリートブロック70の表面形状に沿わせて、より確実に保持することができる。
【0062】
(3)本実施形態では、ベース部材21の外周縁には、外周を囲むようにシール部材32が取り付けられている。これにより、ワイヤソー切断装置10と鉄筋コンクリートブロック70との接触部分を、より確実に密着することができる。
【0063】
(4)本実施形態では、ベース部材21には、空間31を排気する集塵ホース33が取り付けられている。オフセットスタンド51の本体部20側の開口部が空間31に開口している。これにより、この空間31の排気とともに粉塵が排出されるので、オフセットスタンド51を介して空間31に到着した粉塵を効率よく排出することができる。
【0064】
(5)本実施形態では、スタンド部50のオフセットスタンド51の基元部49は、本体部20の回転軸C1を中心として揺動可能に構成されている。これにより、オフセットスタンド51は、孔71の形状に応じて、本体部20に対する取付角度を変更しながら、孔71に挿入される。従って、接触面から奥に行くに従って広がる扇形状にスタンド部50を配置し、この扇形状に沿った水平方向の切断面で鉄筋コンクリートブロック70を切断することができる。
【0065】
(6)本実施形態のオフセットスタンド51は、1対のスタンド部50の間隔が変更可能となるようにガイド軸42に摺動する取付部材43に取り付けられている。これにより、スタンド部50を孔71に挿入する際に、スタンド部50の間の間隔を広げる必要がある場合には、孔71の壁面からの押圧力によって、1対のスタンド部50の間隔が自然に広げられる。従って、孔71に円滑にスタンド部50を挿入することができる。
【0066】
(7)本実施形態の取付部材43には、第4プーリー44が回転可能に取り付けられている。この第4プーリー44は、ケース部材22内において端部に配置されたプーリーと、後述するオフセットプーリー53との間に配置される。このため、取付部材43の位置が変更し、ケース部材22内において端部に配置されたプーリーに対してオフセットプーリー53の位置が変更された場合においても、ワイヤ60をスタンド部50に円滑に導くことができる。
【0067】
(8)本実施形態のスタンド部50は、オフセットスタンド51を覆うカバー部59を備えている。このカバー部59には、ワイヤ60の配置位置に対応した開口部59aが形成されている。これにより、切粉は、ワイヤ60によって運ばれて、カバー部59内のオフセットプーリー53の近傍に到達する。このため、オフセットスタンド51の先端側の開口付近に切粉が集まり、カバー部59の外周に飛散し難い。更に、カバー部59内はオフセットスタンド51が挿入される孔71に比べて容積が小さいため、カバー部59内からオフセットスタンド51の開口を介して、効率よく粉塵を排出することができる。
【0068】
(9)本実施形態では、スタンド部50には、球形状のローラ57が回転可能に取り付けられている。これにより、スタンド部50のローラ57が孔71の内周面に滑りながら当接するので、スタンド部50を孔71に円滑に挿入することができる。
【0069】
(10)本実施形態では、本体部20のケース部材22内には、スタンド部50の延在方向に移動可能な第1プーリー26が2つ並設されている。これにより、ワイヤ60を折り返すように第1プーリー26を配置してワイヤ60に張力を付与することができるので、第1プーリー26を移動させる距離を短くしても張力の調整範囲を大きくすることができる。
【0070】
(11)本実施形態では、本体部20には、フォークリフトのフォークを挿入する差込ブラケット39が取り付けられている。差込ブラケット39は、それぞれ上方向に開口しており、ここからフォークが挿入可能になっている。これにより、フォークリフトを用いて、ワイヤソー切断装置10を搬送することができる。
【0071】
(12)本実施形態では、本体部20のケース部材22内には、ワイヤ60の張力を調整する第2プーリー27を備えている。これにより、ワイヤ60の張力をほぼ一定に調整することができるので、切断開始や切断終了時等、ワイヤ60に加わる張力が大きく変化する場合においても、ワイヤ60の各プーリー(25〜28、44、53)からの脱落を抑制することができる。
【0072】
(13)本実施形態では、取付部材43には、掛止用パイプ45aが着脱可能に嵌合されている掛止部材45が取り付けられている。これにより、ワイヤソー切断装置10を設置する際には、掛止用パイプ45aにワイヤ60を掛け渡した状態で、スタンド部50を孔71に容易に挿入することができる。
【0073】
また、本実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態においては、ワイヤソー切断装置10のケース部材22には、駆動プーリー25及び2つの第1プーリー26を収容している。各プーリーの個数は、これらに限定されるものではない。例えば、ワイヤ60が切断する切断面の大きさ及びケース部材22の形状に応じて、プーリーの個数を変更できるようにしてもよい。また、駆動プーリー25と第1プーリー26とを一体とした一つのプーリーで構成してもよい。更に、上記実施形態では、第1プーリー26を、スタンド部50の延在方向に移動するように配置する。第1プーリー26の移動方向は、ワイヤ60を切断対象物に押し付ける張力をワイヤ60に付与できる方向であれば、これに限定されない。
【0074】
・上記実施形態においては、ワイヤソー切断装置10の一対のスタンド部50は、「ハ」の字形状の1対のオフセットスタンド51を備えている。オフセットスタンド51の構成は、これに限定されるものではない。例えば、オフセットスタンド51の側面部の途中位置に、複数の開口を設けてもよい。ここで、開口数が増加することにより吸引力が弱まる場合には、ワイヤの切断位置に応じて開口箇所を変更できるようにしてもよい。具体的には、切断位置近傍のみを開口するシャッターを設ける。そして、シャッターを制御し、切断速度に応じて、開口箇所を移動させる。
【0075】
・上記実施形態においては、ワイヤソー切断装置10の一対のスタンド部50は、先端の間隔が基元部よりも開いた「ハ」の字形状に配置された1対のスタンド部50を有している。これに代えて、先端の間隔が基元部よりも狭まる逆「ハ」の字形状にスタンド部50を配置してよい。更に、先端の間隔が基元部よりも狭い間隔から広い間隔まで、スタンド部50が回動可能となる構成としてもよい。これにより、多様な形の切断面で切断対象物を切断することができる。
【0076】
・上記実施形態のワイヤソー切断装置10においては、スタンド部50を、本体部20に対する左右方向の取付位置を変更する位置変更機構部と、本体部20に対する取付姿勢(取付角度)を変更する角度変更機構部を介して、本体部20に取り付けた。本体部20に対するスタンド部50の相対位置を変更可能に取り付ける機構であれば、これに限定されず、例えば、スタンド部50の基元部49を更に揺動可能とした機構を追加してもよい。
【0077】
・上記実施形態のワイヤソー切断装置10においては、スタンド部50にカバー部59を設けた。孔71から効率よく粉塵を排出する機構としては、カバー部59に限らず、例えば、圧縮空気を噴射する機構を設けてもよい。
【0078】
・上記実施形態のワイヤソー切断装置10においては、オフセットスタンド51に、4つのローラ57が設けられたローラ取付部材56を固定し、カバー部59の孔59bからローラ57を露出させた。スタンド部が挿入される孔の壁面に接する方向に突出した回転可能な滑り部であれば、この構成に限定されない。例えば、カバー部自体にローラを設けてもよい。更に、スタンド部50の断面に1つのローラしかない構成であってもよい。この場合には、スタンド部の延在方向に対して異なる軸線上に複数のローラがあることが好ましい。
【0079】
・上記実施形態においては、ワイヤソー切断装置10を用いた切断方法について説明した。この切断方法を、遠隔操作で行なえるようにしてもよい。この場合、遠隔操作可能なコアドリル、フォークリフトを用いる。更に、遠隔地に設置された制御端末からの指示に基づいて、駆動モータ35、移動用モータ36、エアコンプレッサ及び集塵装置の動作を制御できる構成にする。
【0080】
そして、オフセットスタンド挿入用の穿孔処理(ステップS1)において、遠隔操作によってコアドリルを操作して、切断対象物に孔71を形成する。次に、フォークリフトを遠隔操作してワイヤソー切断装置10の設置処理(ステップS2)を行なう。そして、遠隔操作によって、吸引の開始処理、駆動プーリーの駆動処理を実行した後(ステップS3−1〜S3−2)、第1プーリーの移動及び第2プーリーによる張力調整処理を実行する(ステップS3−3)。予め指定された切断条件(例えば、第1プーリーの位置やワイヤ60の張力)を満足し、切断完了と判断した場合には、遠隔操作によりプーリーの稼働停止処理(ステップS3−4)、吸引の停止処理を実行する(ステップS3−5)。これにより、切断対象物から離れた場所からの指示に基づいて、切断を行なうことができる。
【0081】
・上記実施形態のワイヤソー切断装置10においては、円筒形状の切断対象物内での切断を想定し、切断対象物の接触面の形状(円弧)に沿った劣弧形状を有している。ワイヤソー切断装置10の接触部材40の形状は、劣弧形状に限定されず、切断対象物の接触面の形状に沿った形状であればよい。また、本体部20の当接面が、シール部材32の弾性力によって、切断対象物の接触面に隙間なく当接できる場合には、接触部材40をなくしてもよい。更に、本体部20のベース部材21に、様々な接触面の形状に沿った接触部材を交換できるように着脱可能に構成してもよい。