(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
糖がグリコシド結合していない、又は部分的に糖がグリコシド結合しているフラバノン重合体の製造方法であって、少なくとも一種のフラバノン配糖体又はそれを含む原料を、任意の順序で、同時又は逐次的に酸化重合工程と、グリコシド結合加水分解工程とに付すことを含み、当該少なくとも一種のフラバノン配糖体が、ブチン配糖体、エリオジクチオール配糖体、ヘスペレチン配糖体、ホモエリオジクチオール配糖体、ナリンゲニン配糖体、ピノセムブリン配糖体、サクラネチン配糖体、イソサクラネチン配糖体及びステルビン配糖体からなる群から選択される、前記製造方法。
前記フラバノン配糖体の糖部分が、ペントース及びヘキソースから選択される単糖であるか、又はそれらから選択される単糖が互いにグリコシド結合した二糖若しくはそれより重合度の高い糖である、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油脂を含む飲食品を摂取すると、その油脂が口腔中に残存し、不快な感じを与える。そしてその油脂が蓄積すると、不快感は増大する。したがって、食事によってもたらされる油脂を口から洗い流すことが求められる。水などの飲料を飲用すれば当該油脂をある程度口から洗い流すことはできるが、必ずしも十分ではない。
【0005】
この点、特許文献1の実施例においては、フラボノイド配糖体を酸化重合させて重合体を製造しているが、その重合体では油脂の洗い流し効果が得られないことを本発明者は確認している。
【0006】
なお、特許文献1には、形式上、配糖体でないフラボノイドを酸化重合して得られる重合体も記載されているかのように見えるが、そのようなものの製造はされておらず、しかも特許文献1に記載の条件ではその製造は非常に困難であったと考えられる。なぜなら、糖が付加されていないフラボノイドは、水への溶解性が著しく悪く、さらには、均一に原料が溶解していない状態では、特許文献1に記載の重合のための酵素反応を適切に行うことができないからである。また、そのようなフラバノンの酵素反応は、水を溶媒として用いる製造場においては取り扱いが非常に困難である。
【0007】
本発明の課題は、油脂を口から洗い流す能力を有する新たな素材、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる課題について鋭意検討した結果、特許文献1に記載されている重合体、例えば、ナリンギン重合体には、油脂の洗い流し効果が認められなかったものの、ナリンギン等のフラバノン配糖体を酸化重合工程とグリコシド結合加水分解工程に付すことによって得られた重合体が、当該効果の点で優れていることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のものに関するが、これらに限定されない。
1.糖がグリコシド結合していない、又は部分的に糖がグリコシド結合しているフラバノン重合体であって、少なくとも一種のフラバノン配糖体又はそれを含む原料を、任意の順序で、同時又は逐次的に酸化重合工程と、グリコシド結合加水分解工程とに付すことにより得られる重合体。
2.前記配糖体が、ナリンゲニン配糖体、又はナリンゲニン配糖体とヘスペレチン配糖体との組合せである、1に記載の重合体。
3.前記フラバノン配糖体の糖部分が、ペントース及びヘキソースから選択される単糖であるか、又はそれらから選択される単糖が互いにグリコシド結合した二糖若しくはそれより重合度の高い糖である、1又は2に記載の重合体。
4.ナリンゲニン配糖体がナリンギンである、2又は3に記載の重合体。
5.ヘスペレチン配糖体が、ヘスペリジン及び/又はα−モノグルコシルヘスペリジンである、2〜4のいずれか1項に記載の重合体。
6.酸化重合工程がラッカーゼ又はペルオキシダーゼの存在下で行われ、グリコシド結合加水分解工程がβ−グルコシダーゼの存在下で行われる、1〜6のいずれか1項に記載の重合体。
7.使用されるβ−グルコシダーゼの、ラッカーゼ又はペルオキシダーゼに対する重量比が、1/40以上である、6に記載の重合体。
8.グリコシド結合加水分解工程が、10〜70℃で行われる、6又は7に記載の重合体。
9.酸化重合工程が10〜70℃で行われる、6〜8のいずれか1項に記載の重合体。
10.油脂を分散させる、水又は水溶液の能力を向上させることができる、1〜9のいずれか1項に記載の重合体。
11.糖がグリコシド結合していない、又は部分的に糖がグリコシド結合しているフラバノン重合体の製造方法であって、少なくとも一種のフラバノン配糖体又はそれを含む原料を、任意の順序で、同時又は逐次的に酸化重合工程と、グリコシド結合加水分解工程とに付すことを含む、前記製造方法。
12.前記フラバノン配糖体が、ナリンゲニン配糖体、又はナリンゲニン配糖体とヘスペレチン配糖体との組合せである、11に記載の方法。
13.前記フラバノン配糖体の糖部分が、ペントース及びヘキソースから選択される単糖であるか、又はそれらから選択される単糖が互いにグリコシド結合した二糖若しくはそれより重合度の高い糖である、11又は12に記載の方法。
14.ナリンゲニン配糖体がナリンギンである、12又は13に記載の方法。
15.ヘスペレチン配糖体が、ヘスペリジン及び/又はα−モノグルコシルヘスペリジンである、12〜14のいずれか1項に記載の方法。
16.酸化重合工程がラッカーゼ又はペルオキシダーゼの存在下で行われ、グリコシド結合加水分解工程がβ−グルコシダーゼの存在下で行われる、11〜15のいずれか1項に記載の方法。
17.使用されるβ−グルコシダーゼの、ラッカーゼ又はペルオキシダーゼに対する重量比が、1/40以上である、16に記載の方法。
18.グリコシド結合加水分解工程が、10〜70℃で行われる、16又は17に記載の方法。
19.酸化重合工程が10〜70℃で行われる、16〜18のいずれか1項に記載の方法。
20.糖がグリコシド結合していない、又は部分的に糖がグリコシド結合しているフラバノン重合体。
21.1〜10及び20のいずれか1項に記載の重合体を含有する、飲食品。
22.アルコール飲料である、21に記載の飲食品。
23.1〜10及び20のいずれか1項に記載の重合体を含有する、口中の油脂の洗い流し用食品組成物。
24.以下に示す表示のいずれかを付した、23に記載の食品組成物。
【0010】
「油っこい食事に合う」、「食事の油を洗い流す」、「口中の油ギレがよい」、「油をさっぱりさせる」、或いはこれらと同視できる表示。
【発明の効果】
【0011】
本発明の重合体は、油脂を口から洗い流す優れた能力を有する。また、本発明の重合体の製造方法では、水溶性が比較的高いフラバノン配糖体を原料として用いるため、水中で実施することが可能であり、したがって、当該方法は飲食品の製造に適している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(原料に用いるフラバノン配糖体)
フラボノイドは広く知られた物質であり、フラバノン、フラボン、カルコン、フラバノール、フラボノール、イソフラボン、アントシアニジンなどのグループに分類され、天然には、各フラボノイドに糖が結合したフラボノイド配糖体の形態で存在することが多い。
【0014】
本発明の重合体は、上記の種々のフラボノイドの内のフラバノンの配糖体を原料として使用して製造することができる。具体的には、本発明の重合体は、少なくとも一種のフラバノン配糖体又はそれを含む原料を、任意の順序で、同時又は逐次的に酸化重合工程と、グリコシド結合加水分解工程とに付すことにより得ることができる。
【0015】
原料として用いられるフラバノン配糖体の例としては、ブチン、エリオジクチオール、ヘスペレチン、ホモエリオジクチオール、ナリンゲニン、ピノセムブリン、サクラネチン、イソサクラネチン、又はステルビンの配糖体等が挙げられる。
【0016】
好ましいフラバノン配糖体は、以下の式(I)の構造を有するフラバノン配糖体である。
【0018】
(I)
(式中、R
1及びR
2は、各々独立して、水素原子、ヒドロキシ基又はメトキシ基であり、R
3はグリコシド結合した糖部分である。)。式(I)のフラバノン配糖体は、好ましくは、ナリンゲニン配糖体及び/又はヘスペレチン配糖体である。
【0019】
フラバノン配糖体の糖部分は、好ましくは、ペントース及びヘキソースから選択される単糖であるか、又はそれらから選択される単糖が互いにグリコシド結合した二糖若しくはそれより重合度の高い糖(例えばオリゴ糖)である。ペントースの例として、フルクトース、キシロース、リキソース、アラビノース、アピオースなどが挙げられる。また、ヘキソースの例として、グルコース、ガラクトース、ラムノース、マンノース、ソルビトール、myo−イノシトール、フコース、ハマメロース、グルクロン酸、ガラクツロン酸などが挙げられる。
【0020】
本発明の原料として、より好ましいフラバノン配糖体は、ナリンゲニン配糖体、又はナリンゲニン配糖体とヘスペレチン配糖体との組合せである。当該組合せは、混合物であってもよい。ナリンゲニン配糖体は、ナリンゲニンより水への溶解性が明らかに高く、さらに、ナリンゲニン配糖体とヘスペレチン配糖体を組み合わせると、より水への溶解性が高まり、製造上での取り扱いに優れ、適切に酵素反応を行うことができる。
【0021】
本発明において、好ましいナリンゲニン配糖体はナリンギンである。また、好ましいヘスペレチン配糖体は、ヘスペリジン及び/又はα−モノグルコシルヘスペリジンである。α−モノグルコシルヘスペリジンは、ヘスペリジンを糖転移酵素で処理して得られる、ヘスペリジン分子中のグルコースの4位にα−グルコースが結合した構造を有する化合物であり、その構造は以下のとおりである。
【0023】
ナリンゲニン配糖体とヘスペレチン配糖体の組合せの例は、ナリンギンとヘスペリジンとの組合せであり、代表例としてゆずポリフェノール(東洋製糖株式会社)が挙げられる。これは、ナリンゲニン配糖体の一つであるナリンギン約90重量%とヘスペレチン配糖体の一つであるα−モノグルコシルヘスペリジン約10重量%とを含有し、水に対する溶解性が極めて高くなっており、本発明におけるより好ましい原料と成り得る。なお、ナリンゲニンやヘスペレチンは前述のように水への溶解が困難であり、原料として相応しくない。
【0024】
(フラバノン重合体)
本発明の重合体は、少なくとも一種のフラバノン配糖体又はそれを含む原料を、任意の順序で、同時又は逐次的に酸化重合工程と、グリコシド結合加水分解工程とに付すことにより得ることができる。当該重合体の範囲には、オリゴマー、例えば二量体、三量体、四量体、及び五量体や、さらに重合度の高い重合体が含まれる。
【0025】
得られるフラバノン重合体は、主鎖として、重合フラバノン鎖を有する。当該主鎖は、実質的には、フラバノンに対応するモノマー単位のみからなり、そこに糖がグリコシド結合していてもよい。しかしながら、重合反応の際に、原料中にフラバノンと重合可能な他の物質が微量含まれる可能性もあり、その量が微量であれば重合体の性質は影響されないと考えられる。したがって、当該重合体の分子は、微量であれば、他のフラボノイド等の、フラバノンに対応するモノマー単位でないモノマー単位を含んでいてもよい。当該重合体分子中、フラバノンに対応するモノマー単位でないモノマー単位の数は、全モノマー単位の数の1.0%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.1%未満、より好ましくは0%である。ここで、モノマー単位とは、重合の結果生じた、原料一分子に相当する構造単位である。例えば、フラボノイド又はフラバノンに対応するモノマー単位は、重合の結果生じた、フラボノイド又はフラバノン一分子に相当する構造単位を意味する。
【0026】
原料に含有され得る、フラバノン配糖体以外のフラボノイド配糖体は、例えば以下のものがあるが、これらに限定されない:フラボン類の配糖体、例えば、ルテオリン又はアピゲニンの配糖体等、カルコン類の配糖体、例えば、サフロミン又はカルタミンのような配糖体、フラバノール類の配糖体、例えば、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、又はエピガロカテキンガレートの配糖体等、フラボノール類の配糖体、例えば、ケンフェロール又はケルセチンの配糖体等、イソフラボン類の配糖体、例えば、ゲニステイン、又はダイゼインの配糖体等、アントシアニジン類の配糖体、例えば、シアニジン、デルフィニジン、マルビジン、ペオニジン、ペチュニジン、又はペラルゴニジンの配糖体等。
【0027】
フラバノン配糖体に由来する糖部分は、グリコシド結合加水分解工程を経て、少なくとも部分的に除去され、当該糖部分の一部は残存していてもよい。このため、本発明の重合体分子には、部分的に糖がグリコシド結合しているか、又は糖が結合していない。より具体的に記載すると、本発明の重合体分子中、フラバノンに対応する全てのモノマー単位の数(n)が、糖が結合したフラバノンに対応するモノマー単位の数(N)よりも大きい(n>N)。
【0028】
本発明の重合体の分子は、好ましくは、式(I)のフラバノン配糖体に対応するモノマーを含有する。当該分子中、式(I)のフラバノン配糖体に対応するモノマー単位の数は、フラバノンに対応する全てのモノマー単位の数の好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上、より好ましくは100%である。式(I)のフラバノン配糖体に対応するモノマー単位は、重合の結果生じた、フラバノン配糖体一分子に相当する構造単位を意味する。グリコシド結合加水分解工程のために、生じた構造単位は糖部分を有さないこともあれば、糖部分を保持していることもある。それらのいずれも、式(I)のフラバノン配糖体に対応するモノマー単位である。
【0029】
前記の原料には、フラバノン配糖体に加えて、重合反応に関与しない他の物質も含まれていてもよい。当該原料の例として、ナリンギン等のフラバノン配糖体を含有する植物抽出物が挙げられる。
【0030】
ある態様においては、本発明の重合体は、ナリンギンを主な原料として製造される重合体である。当該重合体分子には、ナリンギンに対応するモノマー単位に加えて、ヘスペリジン等の別のフラボノイド配糖体に対応するモノマー単位が存在してもよい。ナリンギンに対応するモノマー単位の数は、全てのモノマー単位の数の50%以上、80%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上であってよい。
【0031】
ある態様においては、本発明の重合体は、ナリンギンのアグリコンであるナリンゲニンだけ、ヘスペリジンのアグリコンであるヘスペレチンだけ、又はその両方だけから生成される重合体でない。
【0032】
(酸化重合工程)
フラバノン配糖体、又はそれを含む原料の酸化重合は、酸化酵素存在下で行うことができる。
【0033】
酸化重合工程の条件は、特許文献1に記載された条件を利用することができ、その記載に基づいて、以下に簡単にまとめる。
【0034】
当該酸化重合で使用される酵素は、フェノール類の酸化を起こすのに十分な酸化能を有するものであれば特に制限はない。例えば、ラッカーゼ(EC 1.10.3.2)、カテコールオキシダーゼ(EC 1.10.3.1)、チロシナーゼ(EC 1.14.18.1)、ビリルビンオキシダーゼ(EC 1.3.3.5)などのオキシダーゼ、またはペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.7)を使用できる。これらの酵素の起源は特に限定されない。これらの中で、ラッカーゼが特に好適である。好ましいラッカーゼは、漆の木から得られるラッカーゼ、またはPyricularia属、Pleurotus属、Pycnoporus属、Polystictus属、Mycelopthora属もしくはNeurospora属の微生物ラッカーゼである。特に、Pycnoporus属、Mycelopthora属のラッカーゼが好ましい。
【0035】
また、ペルオキシダーゼの例としては、西洋ワサビおよび大豆ペルオキシダーゼが挙げられる。
【0036】
酵素は、それ自体を用いてもよいし、該酵素を含む酵素製剤の形でも用いることができ、本明細書においては、酵素製剤も酵素の一態様である。酵素は、精製物でも、未精製物でもよい。酵素量は原料モノマー1gに対して通常1〜1,000,000ユニット、好ましくは3〜500,000ユニット、さらに好ましくは5〜200,000ユニットである。重量で表すと、酵素量は、原料モノマー1gに対して0.001〜1g、好ましくは0.01〜0.5g、より好ましくは0.1〜0.3gである。使用される酵素の力価は、典型的には、80000POU/g以上、90000POU/g以上、又は100000POU/g以上である。
【0037】
ペルオキシダーゼを用いて重合させる際に用いる酸化剤は、酸化反応を開始させる酸化剤であればよく、一般的には過酸化物が用いられる。過酸化物は有機過酸化物および無機過酸化物のいずれでも良い。この中で特に好ましいものとして、過酸化水素を挙げることができる。過酸化水素の濃度は、特に限定されない。
【0038】
酸化剤である過酸化物や酸素は、原料モノマーの合計量に対して0.3〜10倍モルが好ましく、より好ましくは0.5〜3倍モルが特に好ましい。
【0039】
酸化重合工程で使用される溶媒は、特に限定されないが、水、有機溶媒と水の混合溶媒であってよい。水は蒸留水や脱イオン水でもよいが、水の代わりに緩衝液を用いてもよい。緩衝液を用いる場合はpH2〜12の範囲が望ましい。
【0040】
混合溶媒中の有機溶媒は、例えば、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンなどである。これらは単独あるいは混合物として使用される。また、有機溶媒−水の混合比はモノマーと酵素触媒が共に溶解する任意の量を用いることができる。好ましくは1:99〜90:10、特に好ましくは1:99〜70:30の範囲が望ましい。
【0041】
反応温度は、酵素触媒が不活性化しない温度が望ましい。好ましくは10〜70℃、より好ましくは30〜70℃、より好ましくは30〜60℃、より好ましくは30〜50℃、より好ましくは40〜50℃である。反応温度が高い場合は、一般に酵素は失活するが、混合溶媒系によっては酵素を安定化するので、その場合は高い反応温度も採用可能となる。
【0042】
反応時間は特に限定されないが、典型的には30分間以上、または1〜48時間である。所定時間反応を行った後、加熱などの処理を行って酵素を失活させる。
【0043】
(グリコシド結合加水分解工程)
グリコシド結合加水分解工程は、グリコシダーゼ等の酵素触媒下で行うことができる。
【0044】
グリコシダーゼには、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなどがあるが、本発明では、β−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)が好ましい。
【0045】
本工程で用いる好ましいβ−グルコシダーゼは、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素であればいずれでもよく、該酵素を含む酵素製剤の形でも用いることができる。本明細書においては、酵素製剤も酵素の一態様である。また、酵素は、精製物でも、未精製物でもよい。
【0046】
酸化酵素としてラッカーゼ又はペルオキシダーゼを用い、加水分解にβ−グルコシダーゼを用いる場合、使用されるβ−グルコシダーゼの、ラッカーゼ又はペルオキシダーゼに対する重量比は、好ましくは1/40以上、より好ましくは1/20以上、より好ましくは1/10以上である。
【0047】
また、本発明において、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素の添加量は、処理温度及び処理時間により適宜変更することができるが、例えば、酵素の量は、原料モノマーに対して、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上であり、上限値は特にないが、上限値は典型的には30重量%程度である。この量は酵素処理温度に依存する。
【0048】
使用される酵素の力価は、典型的には、70.0μ/g以上、又は80.0μ/g以上であれば充分である。
【0049】
本発明において、β−グルコシダーゼを用いて酵素処理する温度は、10〜70℃、より好ましくは30〜70℃、より好ましくは30〜60℃、より好ましくは30〜50℃、より好ましくは40〜50℃である。グリコシド結合加水分解工程を酸化重合工程と同時に行うと簡便であり、したがって、本工程の温度は、酸化重合工程の温度と同じにすることができる。反応温度が40℃以上である場合には、酵素の量は、原料モノマーに対して、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上であるが、40℃未満では、原料モノマーに対して、1重量%以上であることが好ましい。
【0050】
また、本発明において、反応時間は特に限定されないが、典型的には30分間以上、または1〜48時間である。
【0051】
使用される溶媒は、酸化重合工程で用いるものと同じでよい。必要に応じて、反応液のpHを調整してもよい。pHは、通常pH2〜8であり、好ましくはpH3〜6である。
【0052】
所定時間反応を行った後、加熱などの処理を行って酵素を失活させる。
【0053】
酸化重合工程とグリコシド結合加水分解工程は、任意の順序で、同時又は逐次的に行うことができる。好ましくは、これらの工程を同時に行う。
【0054】
(他の工程)
酸化重合工程と、グリコシド結合加水分解工程を行った後に、生成した本発明の重合体に対して必要に応じて精製などの他の工程を行ってもよい。ただし、当該重合体の構造に悪影響を及ぼす工程は実施すべきでない。
【0055】
確認のために記載するが、精製工程は必須でない。本発明の重合体は、酵素反応物のような混合物の形態で、精製することなく利用してもよいし、部分的又は完全に精製してから利用してもよい。しかしながら、当該重合体を精製すると、油脂を分散させる、水又は水溶液の能力を向上させる効果や、口中の油脂の洗い流し効果が向上するため、精製することが好ましい。精製方法は特に限定されないが、例えば、透析、活性炭・吸着剤の処理等の方法を用いることができる。特に重合しなかった原料あるいは、重合体の中で油脂の分散効果が低い物質を除くような精製方法が好ましい。
【0056】
(油脂の分散)
本発明の重合体が水中に存在すると、油脂を水に加えた際に生じる油滴が通常よりも細かく分散する。即ち、当該重合体は、油脂を分散させる、水又は水溶液の能力を向上させることができる。重合体のこのような能力は、当該重合体について以下の試験をすることにより評価することができる。
【0057】
<試験液の調製>
重合体約0.5gを純水50mlに溶解し(1.0g/100ml)、当該溶液にアルコール95%の水溶液150mlを加える。得られた混合液を0.5ml採取し、それを以下の配合で調製されたアルコール含有飲料30mlに添加し、良く撹拌して、試験液を得る。試験液を、下記の工程1〜7を有する方法で試験する。
【0059】
<試験>
工程1.東洋佐々木ガラス株式会社(東洋佐々木硝子社)製、口径約4.9cm、最大外径約6.1cm、厚み約2mm、高さ約11.2cm、深さ約7.5cm、満注容量約140mlのガラス容器に、試験液を30ml注ぎ、
工程2.当該試験液を液温23℃で静置し、
工程3.静置された試験液に辣油(ラー油)(ハウス食品株式会社)を200μl加え、当該ガラス容器にふたをし、
工程4.振盪装置に固定された内寸約6.5cm四方の枡形容器中に当該ガラス容器を置き、水平に直径80mmの円を描くように250回/分の速度で1分間当該枡形容器を振盪し、
工程5.当該ガラス容器を水平にしたまま、回転された試験液を液温23℃で3時間静置し、
工程6.当該ガラス容器の上部から液面の写真を撮影し、そして
工程7.得られた写真に対する目視評価を行い、油脂の分散レベルを決定する。
【0060】
試験に用いる容器の形状は
図1に示すとおりである。工程3におけるふたのためには、パラフィルムなどを用いてよい。工程4の模式図を
図2に示す。振盪装置に固定した内寸約6.5cm四方の枡形容器中にガラス容器を置く。振盪のために用いる振盪装置は、典型的には、タイテック株式会社のBR−300LFである。この装置を用いる場合、
図2のように当該枡形容器が常に同じ方向を向く状態で振盪させる。工程6の写真は、解像度がある程度高いことが好ましく、例えば、800万画素程度の解像度のものを用いることができる。
【0061】
工程7においては、油滴のサイズが小さいこと、そして油滴が偏りなく液面全体に分布することが好ましい。各分散レベルに対応する典型的な分散状態を
図3〜5に示す。これらに基づいて試験液中の油脂の分散レベルを決定する。分散状態が良い程分散レベルは高くなる。分散レベルが2以上であれば、試験された重合体は、油脂を分散させる、水又は水溶液の能力を向上させることができると判断される。
【0062】
(適用)
本発明の重合体は、飲食品(機能性食品、健康補助食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養補助食品、食事療法用食品、健康食品、サプリメント等)として、又はその原料として使用することができる。当該飲食品の形態は、特に限定されないが、例えば、清涼飲料水(例えば、スポーツドリンク、炭酸飲料、果汁飲料)、チューハイなどのアルコール飲料である。或いは、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセルも含む)等の形態であってもよい。
【0063】
本発明の重合体が存在すると、油脂を水に加えた際に生じる油滴が細かく分散する。このため、当該重合体は、食事などによって口にもたらされる油脂を口から洗い流す、水又は水溶液の能力を向上させることができる。したがって、本発明は、別の側面では、本発明の重合体を有効成分とする、口中の油脂の洗い流し用飲食品組成物である。油脂は食事によって口にもたらされてもよいし、別の方法でもたらされてもよい。また、当該飲食品組成物は、上記したとおりの飲食品であってよい。
【0064】
口中の油脂の洗い流し用飲食品組成物は、その洗い流し効果に関連した様々な表示を付すことができる。本発明は、以下の表示を付した、口中の油脂の洗い流し用飲食品組成物にも関する:「油っこい食事に合う」、「食事の油を洗い流す」、「口中の油ギレがよい」、「油をさっぱりさせる」、或いはこれらと同視できる表示。当該表示は、当該重合体を含有する組成物や、それを含む容器又は包装に付すことができる。これらの表示を付したものは、油脂の洗い流しという用途に用いられることが意図されていると考えることができる。
【0065】
当該飲食品組成物における重合体の含有量は、特に限定されないが、典型的には0.001〜5重量%である。
【0066】
(数値範囲)
明確化のために記載すると、本明細書において下限値と上限値によって表されている数値範囲、即ち「下限値〜上限値」は、それら下限値及び上限値を含む。例えば、「1〜2」により表される範囲は、1及び2を含む。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実験1)
ナリンギン約90重量%とα−モノグルコシルヘスペリジン約10重量%とを含有するナリンギン含有物(ゆずポリフェノール、東洋製糖株式会社)に、酸化重合工程と、グリコシド結合加水分解工程とを実施し、得られた重合体に対して、口中の油脂の洗い流し効果に関する官能評価と、油脂の分散状態の評価をした。
【0069】
<重合体とそれを含有する試験液の調製>
ナリンギン含有物を純水50mlに1.0g/100mlの濃度で溶解した。得られた溶液に、ラッカーゼ(ラッカーゼ M120、天野エンザイム株式会社)を0.1g/100mlの濃度で溶解した。次いで、得られた溶液に、β−グルコシダーゼ(アロマーゼ、天野エンザイム株式会社)を0〜0.1g/100mlの濃度で溶解した。得られた溶液を、30、40、又は50℃の恒温槽中で24時間静置して反応させた。反応終了後、反応液を90℃で5分に保ち酵素を失活させた。酵素を失活させた反応液50mlを常温に戻し、アルコール95%溶液を150ml加えて、ナリンギン酵素処理物含有物を得た。当該ナリンギン酵素処理物含有物を0.5ml採取し、これを、以下の表に示す配合を有するアルコール含飲料30mlに添加し、良く撹拌して、試験液を調製した。各試験液の調製のための反応条件は、表3〜5に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
<官能評価>
得られた試験液に対して、以下の方法で官能評価を行った。
【0072】
専門パネラーがごま油(かどや製油株式会社)100μlを口に入れ、口中に軽く馴染ませた後、試験液を飲用した。その後、どの程度口中の油が洗い流されてさっぱりするのかを官能評価により試験した。比較例で用いるために、表2の配合を有するアルコール含有飲料30mlに、原料用アルコール(アルコール分71%)を0.5ml添加して、比較例1の試験液を調製した。
【0073】
評価基準は以下のとおりである。スコアが2点以上であれば、効果があると判断される。結果を表3〜5に示す。
【0074】
3点=口中がさっぱりした
2点=口中がややさっぱりした
1点=口中のさっぱり感が感じられない
<油脂の分散状態の評価>
調製された試験液を、下記の工程1〜7を有する方法で試験した。
【0075】
<試験>
工程1.東洋佐々木ガラス株式会社(東洋佐々木硝子社)製、口径約4.9cm、最大外径約6.1cm、厚み約2mm、高さ約11.2cm、深さ約7.5cm、満注容量約140mlのガラス容器に、試験液を30ml注ぎ、
工程2.当該試験液を液温23℃で静置し、
工程3.静置された試験液に辣油(ラー油)(ハウス食品株式会社)を200μl加え、当該ガラス容器にふたをし、
工程4.振盪装置に固定された内寸約6.5cm四方の枡形容器中に当該ガラス容器を置き、水平に直径80mmの円を描くように250回/分の速度で1分間当該枡形容器を振盪し、
工程5.当該ガラス容器を水平にしたまま、回転された試験液を液温23℃で3時間静置し、
工程6.当該ガラス容器の上部から液面の写真を撮影し、そして
工程7.得られた写真に対する目視評価を行い、油脂の分散レベルを決定する。
【0076】
工程7においては、油滴のサイズが小さいこと、そして油滴が偏りなく液面全体に分布することが好ましい。各分散レベルに対応する典型的な分散状態を示す
図3〜5に基づいて試験液の分散レベルを決定した。
図3が分散レベル1(分散状態が悪い)、
図4が分散レベル2(分散状態が良い)、
図5がレベル3(分散状態が非常に良い)の典型例を示す。結果を表3〜5に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
酸化重合とグリコシド結合加水分解を組み合わせると、様々な条件で、油脂の分散状態を改善できる重合体が得られた。一方、酸化重合(比較例2等)又はグリコシド結合加水分解(比較例3等)のいずれか一方しか行わない場合には、油脂の分散状態は改善されなかった。これは、反応温度を上昇させても同じであった(比較例4、5、6、7)。なお、比較例2は、特許文献1に記載の発明に相当する。
【0081】
なお、いずれの試験液も、味の面で大きな問題は認められず、本発明の重合体は味の面でも十分に許容されるものであることも明らかとなった。
【0082】
(実験2)
一部の実験で反応時間を48時間としたこと以外は、実験1に準じて試験液を調製した。具体的な反応条件は下記の表に示した。また、実験1と同様の官能評価と、油脂の分散状態の評価を行った。その結果も以下の表に示す。
【0083】
【表6】
【0084】
グリコシド結合加水分解を行わない場合には、反応時間を延長しても油脂の分散状態は改善されないことが明らかとなった(比較例2及び8の比較より)。したがって、酸化重合と共にグリコシド結合加水分解を行うことが重要であることが明らかとなった。
【0085】
(実験3)
反応中に、マグネティックスターラーで250rpmにて反応液を撹拌したこと以外は、実験1に準じて試験液を調製した。具体的な反応条件は下記の表に示した。また、実験1と同様の官能評価と、油脂の分散状態の評価を行った。その結果も以下の表に示す。
【0086】
【表7】
【0087】
反応を撹拌しても油脂の分散状態は改善されなかった(比較例2及び9の比較より)。したがって、酸化重合と共にグリコシド結合加水分解を行うことが重要であることが明らかとなった。
【0088】
(実験4)
この実験では、精製の効果を検討した。実施例12の酵素反応の後に、分画分子量1000の透析膜(Spectrum社、再生セルロース製)の中に、50mlの反応物を入れ、温水中で透析することで、未反応物などの低分子物を除いた(実施例13)。得られた透析膜の内側に含まれる精製反応液を凍結乾燥し、得られた乾燥物が10000ppmの濃度になるように純水に再溶解し、得られた溶液を表2に示す配合のアルコール含飲料30mlに添加し、良く撹拌して、試験液を調製した。比較のため、比較例2について同様の操作を行い、試験液を調製した(比較例10)。得られた試験液について、実験1と同様の油脂の分散状態の評価を行った。結果を以下の表に示す。精製をすると、油脂の分散状態が良好となった。
【0089】
また、比較例10と実施例13の実験(反応、攪拌及び透析後)で得られた重合物を凍結乾燥させ、その凍結乾燥物の一部を、MALDI−TOFMS(測定機器:Bruker社 autoflex speed、加速電圧:19kV、反射電圧:21kV)に供し、それぞれの質量分析も行った。比較例10の条件で得られた重合体は、分子量(m/z)約1181(この値は、ナリンゲニンの配糖体が2分子重合した場合の分子量に相当する)と約1760(この値は、ナリンゲニンの配糖体が3分子重合した場合の分子量に相当する)を代表的な検出ピークに有していた。一方で、実施例13の条件で得られた重合体は、分子量(m/z)約1081(この値は、ナリンゲニンが4分子重合した場合の分子量に相当する)と約1359(この値は、ナリンゲニンが5分子重合した場合の分子量に相当する)に代表される検出ピークを有していた。
【0090】
以上から、酸化重合工程とグリコシド結合加水分解工程の両方に付すことにより得られる重合体は、糖が結合していない又は糖が部分的にしか結合していないことが明らかとなった。また、これらの結果から、酸化重合工程とグリコシド結合加水分解工程の両方に付すことにより得られる重合体は、酸化重合工程のみにより得られる重合体と異なり、単に重合体の生成率が多いことに起因して油の分散効果が得られたのではなく、重合体に糖が結合していないか又は糖が部分的にしか結合していないことに起因して、油脂の分散効果が発現したと考えられる。
【0091】
【表8】
【0092】
(実験5)
原料としてナリンギン(東京化成工業株式会社製)を単独で用いたことを除いて実験1に準じて試験液を調製した。具体的な反応条件は下記の表に示した。また、実験1と同様の油脂の分散状態の評価を行った。その結果も以下の表に示す。ナリンギンを単独で用いても、好ましい性質を有する重合体が得られた。
【0093】
【表9】