特許第6676429号(P6676429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6676429粘着性組成物、粘着剤、粘着シートおよび表示体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6676429
(24)【登録日】2020年3月16日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】粘着性組成物、粘着剤、粘着シートおよび表示体
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20200330BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20200330BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20200330BHJP
   C09J 7/10 20180101ALI20200330BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20200330BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20200330BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20200330BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   C09J133/04
   C09J11/06
   C09J7/38
   C09J7/10
   B32B27/00 M
   B32B27/30 A
   G06F3/041 400
   G06F3/044 128
   G06F3/041 495
   G06F3/041 490
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-59119(P2016-59119)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-171777(P2017-171777A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋一
(72)【発明者】
【氏名】荒井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】小澤 祐樹
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−168684(JP,A)
【文献】 特開2007−045974(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/145767(WO,A1)
【文献】 特開2015−221878(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/147470(WO,A1)
【文献】 岡崎具視,最近の紫外線吸収剤開発の現状,色材,1992年,Vol.65, No.5,p.298-307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B32B 1/00−43/00
G06F 3/041,3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
下記構造式(1)で示される骨格を有する化合物(B)と、
【化1】

下記構造式(2)で示される骨格を有する化合物(C)と
【化2】

(式中、R及びRは、各々独立して、置換基もしくはヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基もしくはヘテロ原子を有していてもよい炭素数6〜14のアリール基、または水素原子である。また、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子である。)
を含有することを特徴とする粘着性組成物。
【請求項2】
前記粘着性組成物中における前記化合物(C)の含有量が、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上、5質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性組成物。
【請求項3】
さらに架橋剤(D)を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の粘着性組成物。
【請求項4】
さらにシランカップリング剤(E)を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘着性組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、
ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であって、アルキル基の炭素数が2〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、
ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超えるモノマー
を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着性組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、分子内に反応性官能基を有する反応性官能基含有モノマーを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の粘着性組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを含有しないことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の粘着性組成物。
【請求項8】
金属配線に接触する粘着剤を形成するための粘着性組成物であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の粘着性組成物。
【請求項9】
前記金属配線が銀または銀合金から構成されることを特徴とする請求項に記載の粘着性組成物。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載の粘着性組成物を架橋してなる粘着剤。
【請求項11】
2枚の剥離シートと、
前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持された粘着剤層とを備え、
前記粘着剤層が、請求項10に記載の粘着剤からなる
ことを特徴とする粘着シート。
【請求項12】
前記粘着剤層中における前記化合物(B)の含有量をX質量%、前記粘着剤層の厚さをYμmとしたときに、以下の数式(I)が成立することを特徴とする請求項11に記載の粘着シート。
50≦X×Y≦500 …(I)
【請求項13】
第1の表示体構成部材と、
第2の表示体構成部材と、
前記第1の表示体構成部材および前記第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に金属配線を有し、
前記粘着剤層が、請求項11または12に記載の粘着シートの粘着剤層である
ことを特徴とする表示体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル等の表示体に使用することのできる粘着性組成物、粘着剤および粘着シート、ならびにそれらを使用した表示体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスマートフォンやタブレット端末等の各種モバイル電子機器では、ディスプレイとして、タッチパネルが使用されることが多くなってきている。タッチパネルの方式としては、抵抗膜方式、静電容量方式等があるが、上記のようなモバイル電子機器では、静電容量方式が主として採用されている。
【0003】
最近は、タッチパネル用の電極材料として、スズドープ酸化インジウム(ITO)等からなる透明導電膜に替えて、メッシュ状の金属配線からなる金属電極、例えば銀電極が検討されており、特に銀ナノワイヤからなる電極が有力視されている。しかし、従来の粘着剤を上記のような金属電極に接触させて使用すると、経時または高温高湿条件によって金属電極の抵抗値が変化し、タッチパネルの駆動不良が発生することがあった。
【0004】
ここで、特許文献1には、タッチパネル等において、銀または銀合金を含む金属配線間の銀のイオンマイグレーションが抑制され、金属配線間の絶縁信頼性を向上させることができる透明両面粘着シートとして、アクリル系粘着剤、並びに、トリアゾール構造、チアジアゾール構造およびベンズイミダゾール構造からなる群から選ばれる構造と、メルカプト基と、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を一つ以上とを有し、炭化水素基中の炭素原子の合計数が5以上である化合物、を含有するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5775494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、タッチパネル等のディスプレイで使用される粘着剤は、光学用途であるため、無色透明性が要求される。しかしながら、特許文献1に開示された発明で使用される化合物の中には、粘着剤を着色(特に黄色)してしまうものが存在する。
【0007】
一方、上記のようなディスプレイにおいては、通常、表示体モジュールの表面側に保護パネルが設けられている。モバイル電子機器の薄型化・軽量化に伴い、上記保護パネルは、従来のガラス板からアクリル板やポリカーボネート板等のプラスチック板に変更されるようになってきている。
【0008】
しかしながら、保護パネルとして上記のようなプラスチック板を使用した場合、高温高湿条件において、当該プラスチック板からアウトガスが発生して、粘着剤層との界面に気泡、浮き、剥がれ等のブリスターが発生することがある。特に、特許文献1のように粘着剤に所定の化合物を添加したときに、粘着剤の耐ブリスター性が低下する傾向がある。
【0009】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、金属配線の抵抗値変化を抑制することができるとともに、無色透明性および耐ブリスター性に優れる粘着性組成物、粘着剤、粘着シートおよび表示体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、下記構造式(1)で示される骨格を有する化合物(B)と、
【化1】

下記構造式(2)で示される骨格を有する化合物(C)と
【化2】

(式中、R及びRは、各々独立して、置換基もしくはヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基もしくはヘテロ原子を有していてもよい炭素数6〜14のアリール基、または水素原子である。また、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子である。)
を含有することを特徴とする粘着性組成物を提供する(発明1)。
【0011】
上記発明(発明1)によれば、特に化合物(B)の紫外線吸収作用と、化合物(C)の防錆作用との相互作用により、耐久条件下においても金属配線の抵抗値変化を抑制することができる。また、化合物(B)および化合物(C)は無色透明に近い化合物であるため、得られる粘着剤は、無色透明性に優れたものとなる。さらに、化合物(B)および化合物(C)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の架橋を阻害することなく、粘着力や弾性率を悪化させないため、得られる粘着剤は、耐ブリスター性に優れたものとなる。
【0012】
上記発明(発明1)においては、前記粘着性組成物中における前記化合物(C)の含有量が、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上、2質量部以下であることが好ましい(発明2)。
【0013】
上記発明(発明1,2)に係る粘着性組成物は、さらに架橋剤(D)を含有することが好ましい(発明3)。
【0014】
上記発明(発明1〜3)に係る粘着性組成物は、さらにシランカップリング剤(E)を含有することが好ましい(発明4)。
【0015】
上記発明(発明1〜4)においては、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であって、アルキル基の炭素数が2〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超えるモノマーと、分子内に反応性官能基を有する反応性官能基含有モノマーとを含有することが好ましい(発明5)。
【0016】
上記発明(発明1〜5)においては、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを含有しないことが好ましい(発明6)。
【0017】
上記発明(発明1〜6)に係る粘着性組成物は、金属配線に接触する粘着剤を形成するための粘着性組成物であることが好ましい(発明7)。
【0018】
上記発明(発明7)においては、前記金属配線が銀または銀合金から構成されることが好ましい(発明8)。
【0019】
第2に本発明は、前記粘着性組成物(発明1〜8)を架橋してなる粘着剤を提供する(発明9)。
【0020】
第3に本発明は、2枚の剥離シートと、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持された粘着剤層とを備え、前記粘着剤層が、前記粘着剤(発明9)からなることを特徴とする粘着シートを提供する(発明10)。
【0021】
上記発明(発明10)においては、前記粘着剤層中における前記化合物(B)の含有量をX質量%、前記粘着剤層の厚さをYμmとしたときに、以下の数式(I)が成立することが好ましい(発明11)。
50≦X×Y≦500 …(I)
【0022】
第4に本発明は、第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材と、前記第1の表示体構成部材および前記第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層とを備えた表示体であって、前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に金属配線を有し、前記粘着剤層が、前記粘着シート(発明10,11)の粘着剤層であることを特徴とする表示体を提供する(発明12)。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る粘着性組成物、粘着剤、粘着シートおよび表示体によれば、金属配線の抵抗値変化を抑制することができるとともに、無色透明性および耐ブリスター性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る粘着シートの断面図である。
図2】タッチパネルの一構成例を示す断面図である。
図3】試験例1で使用した銀配線電極板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着性組成物〕
本実施形態に係る粘着性組成物(以下「粘着性組成物P」という場合がある。)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、下記構造式(1)で示される骨格を有する化合物(B)と、
【化3】

下記構造式(2)で示される骨格を有する化合物(C)と
【化4】

(式中、R及びRは、各々独立して、置換基もしくはヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基もしくはヘテロ原子を有していてもよい炭素数6〜14のアリール基、または水素原子である。また、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子である。)
を含有し、好ましくはさらに架橋剤(D)およびシランカップリング剤(E)の少なくとも一つを含有する。本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0026】
本実施形態に係る粘着性組成物Pは、好ましくは、金属配線に接触する粘着剤を形成するために使用される。粘着性組成物Pが上記の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、化合物(B)および化合物(C)を含有することにより、耐久条件下においても金属配線の抵抗値変化を抑制することができ、当該金属配線がタッチパネルのものであれば、タッチパネルの信頼性が向上する。かかる効果は、特に化合物(B)の紫外線吸収作用と、化合物(C)の防錆作用との相互作用によるものと考えられる。また、化合物(B)および化合物(C)は無色透明に近い化合物であるため、得られる粘着剤は、無色透明性に優れたものとなる。さらに、化合物(B)および化合物(C)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の架橋を阻害することなく、粘着力や弾性率を悪化させないため、得られる粘着剤は、耐ブリスター性に優れたものとなる。
【0027】
ここで、上記金属配線としては、例えば、銀、銀合金、銅、銅合金等からなる金属配線(メッシュ状・グリッド状・ナノワイヤ状のものを含む)が挙げられる。特に、タッチパネルの電極を構成するものが好ましく例示され、具体的には、フィルムセンサーに含まれる金属配線が好ましく例示される。上記金属配線の中でも、銀または銀合金からなる金属配線において、上記の優れた抵抗値変化抑制効果が発揮され易い。
【0028】
(1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であって、アルキル基の炭素数が2〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超えるモノマーと、分子内に反応性官能基を有する反応性官能基含有モノマーとを含有することが好ましい。
【0029】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であって、アルキル基の炭素数が2〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下「低Tgアルキルアクリレート」と称する場合がある。)を含有することで、好ましい粘着性を発現することができる。かかる観点から、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、低Tgアルキルアクリレートを、下限値として30質量%以上含有することが好ましく、特に40質量%以上含有することが好ましく、さらには50質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として上記低Tgアルキルアクリレートを、上限値として90質量%以下含有することが好ましく、特に80質量%以下含有することが好ましく、さらには70質量%以下含有することが好ましい。上記低Tgアルキルアクリレートを90質量%以下含有することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を好適な量導入することができる。
【0030】
低Tgアルキルアクリレートとしては、例えば、アクリル酸エチル(Tg−20℃)、アクリル酸n−ブチル(Tg−55℃)、アクリル酸イソブチル(Tg−26℃)、アクリル酸n−オクチル(Tg−65℃)、アクリル酸イソオクチル(Tg−58℃)、アクリル酸2−エチルヘキシル(Tg−70℃)、メタクリル酸2−エチルヘキシル(Tg−10℃)、アクリル酸イソノニル(Tg−58℃)、アクリル酸イソデシル(Tg−60℃)、メタクリル酸イソデシル(Tg−41℃)、アクリル酸n−ラウリル(Tg−23℃)、メタクリル酸n−ラウリル(Tg−65℃)、アクリル酸トリデシル(Tg−55℃)、メタクリル酸トリデシル(−40℃)、アクリル酸イソステアリル(Tg−18℃)等が好ましく挙げられる。中でも、低Tgアルキルアクリレートとして、より効果的に粘着性を付与する観点から、ホモポリマーのTgが、−40℃以下となるものであることがより好ましく、−50℃以下となるものであることが特に好ましい。具体的には、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、アルキル基の炭素数が2〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基とは、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基をいう。
【0031】
また、上記低Tgアルキルアクリレートは、得られる粘着剤層の疎水性を向上させることにより耐久条件下における金属配線の抵抗値変化を防止する観点から、少なくとも一部について、上記アルキル基の炭素数が5以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなることが好ましく、上記アルキル基の炭素数が7以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなることがより好ましい。具体的には、アクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。また、金属配線の抵抗値変化を防止する観点から、上記低Tgアルキルアクリレート全体における、アルキル基の炭素数5以上(好ましくは7以上)の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合が40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超えるモノマー(以下「ハードモノマー」と称する場合がある。)を含有することが好ましい。なお、このハードモノマーからは、後述の反応性官能基含有モノマーに該当するものは除かれる。
【0033】
上記ハードモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル(Tg10℃)、メタクリル酸メチル(Tg105℃)、メタクリル酸エチル(Tg65℃)、メタクリル酸n−ブチル(Tg20℃)、メタクリル酸イソブチル(Tg48℃)、メタクリル酸t−ブチル(Tg107℃)、アクリル酸n−ステアリル(Tg30℃)、メタクリル酸n−ステアリル(Tg38℃)、アクリル酸シクロヘキシル(Tg15℃)、メタクリル酸シクロヘキシル(Tg66℃)、アクリル酸フェノキシエチル(Tg5℃)、メタクリル酸フェノキシエチル(Tg54℃)、メタクリル酸ベンジル(Tg54℃)、アクリル酸イソボルニル(Tg94℃)、メタクリル酸イソボルニル(Tg180℃)、アクリロイルモルホリン(Tg145℃)、アクリル酸アダマンチル(Tg115℃)、メタクリル酸アダマンチル(Tg141℃)、ジメチルアクリルアミド(Tg89℃)、アクリルアミド(Tg165℃)等のアクリル系モノマー、酢酸ビニル(Tg32℃)、スチレン(Tg80℃)等が好ましく挙げられ、相溶性の観点から、アクリル系モノマーがより好ましく挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
上記ハードモノマーを(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に構成単位として含有させることにより、得られる粘着剤層の凝集力を向上させ、もって耐ブリスター性を向上させることができる。このような観点から、上記ハードモノマーのガラス転移温度(Tg)は、60℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが特に好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する他のモノマーとの相溶性や共重合性を考慮すると、上記ハードモノマーのガラス転移温度(Tg)は、250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが特に好ましい。
【0035】
さらに、上記ハードモノマーは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましく、直鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることがより好ましく、炭素数1〜3の直鎖状アルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルであることが特に好ましく、メタクリル酸メチルであることが最も好ましい。このようなハードモノマーであれば、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中で嵩張らず、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)同士の距離を小さいものとして密な架橋構造を形成することができ、粘着剤層とした場合に耐ブリスター性をより優れたものとすることができる。
【0036】
上記ハードモノマーは、得られる粘着剤層の耐ブリスター性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中において、当該重合体を構成するモノマーとして、5質量%以上含まれることが好ましく、10質量%以上含まれることがより好ましく、15質量%以上含まれることが特に好ましい。
【0037】
また、上記ハードモノマーは、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、後述の化合物(B)及び化合物(C)との相溶性を優れたものとする観点から、当該重合体を構成するモノマーとして、50質量%以下含まれることが好ましく、40質量%以下含まれることがより好ましく、30質量%以下含まれることが特に好ましい。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、分子内に反応性官能基を有する反応性官能基含有モノマーを含むことが好ましい。この反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基は、後述する架橋剤(D)と反応し、これにより架橋構造(三次元網目構造)が形成され、所望の凝集力を有する粘着剤が得られる。
【0039】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として含有する反応性官能基含有モノマーとしては、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にカルボキシル基を有するモノマー(カルボキシル基含有モノマー)などが好ましく挙げられる。これらの中でも、架橋剤(D)との反応性および耐湿熱白化性に優れ、金属配線への悪影響の少ない水酸基含有モノマーが特に好ましい。
【0040】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。中でも、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)における水酸基の架橋剤(D)との反応性および他の単量体との共重合性の点から(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルまたは(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。中でも、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)におけるカルボキシル基の架橋剤(D)との反応性および他の単量体との共重合性の点からアクリル酸が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、下限値として3質量%以上含有することが好ましく、特に10質量%以上含有することが好ましく、さらには15質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、上限値として35質量%以下含有することが好ましく、特に30質量%以下含有することが好ましく、さらには25質量%以下含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量で水酸基含有モノマーを含有すると、得られる粘着剤中に、所定量の水酸基が残存することとなる。水酸基は親水性基であり、そのような親水性基が所定量粘着剤中に存在すると、粘着剤が高温高湿条件下に置かれた場合でも、その高温高湿条件下で粘着剤に浸入した水分との相溶性が良く、その結果、常温常湿に戻したときの粘着剤の白化が抑制されることとなる(耐湿熱白化性に優れる)。
【0043】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシル基含有モノマーを含有しないことが好ましい。カルボキシル基は酸成分であるため、通常は粘着剤が接触する金属配線の抵抗値変化が懸念されるからである。ただし、上記の「カルボキシル基含有モノマーを含有しない」とは、得られる粘着剤が接触する金属配線が悪影響を受けない程度にカルボキシル基含有モノマーを含有することを許容するものである。具体的には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に、モノマー単位として、カルボキシル基含有モノマーを5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下の量で含有することが許容される。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、所望により、当該重合体を構成するモノマー単位として、他のモノマーを含有してもよい。他のモノマーとしては、反応性官能基含有モノマーの作用を妨げないためにも、反応性を有する官能基を含まないモノマーが好ましい。かかる他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値は、20万以上であることが好ましく、特に30万以上であることが好ましく、さらには40万以上であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値が上記以上であると、粘着剤が耐ブリスター性により優れたものとなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0047】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値は、100万以下であることが好ましく、特に90万以下であることが好ましく、さらには70万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値が上記以下であると、粘着剤が貼付時の段差追従性に優れたものとなる。
【0048】
なお、粘着性組成物Pにおいて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
(2)化合物(B)
化合物(B)は、前述した構造式(1)で示される骨格を有するものである。この化合物(B)は、化合物(C)との相互作用により金属配線の抵抗値変化を抑制する。特に、化合物(B)は、紫外線吸収作用を発揮するため、金属配線、とりわけ銀または銀合金からなる金属配線の紫外線による劣化を抑制し、耐光性を向上させることができ、かかる観点から抵抗値変化を抑制することができる。また、化合物(B)は無色透明に近い化合物であるため、得られる粘着剤は無色透明性に優れたものとなる。さらに、化合物(B)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の架橋を阻害することなく、粘着力や弾性率を悪化させないため、得られる粘着剤は、耐ブリスター性に優れたものとなる。
【0050】
化合物(B)としては、例えば、下記構造式(3)
【化5】

(式中、nは1以上の整数である。)
で示される化合物の他、下記構造式(4)
【化6】

で示される化合物、下記構造式(5)
【化7】

で示される化合物、下記構造式(6)
【化8】

で示される化合物等が好ましく挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
化合物(B)としては、上記の中でも、抵抗値変化抑制効果、無色透明性および耐ブリスター性の観点から、上記構造式(3)で示される化合物が特に好ましい。構造式(3)で示される化合物において、式中のnは1以上の整数であり、好ましくは3〜13であり、特に好ましくは7〜9であり、さらに好ましくは8である。
【0052】
粘着性組成物P中における化合物(B)の含有量は、以下の条件を満たす量であることが好ましい。すなわち、粘着性組成物Pによって形成される粘着剤層中における化合物(B)の含有量をX質量%、粘着剤層の厚さをYμmとしたときに、以下の式(I)が成立する量であることが好ましい。
50≦X×Y≦500 …(I)
化合物(B)の含有量が上記条件を満たす量であることにより、粘着剤層の透過色相b*を上昇させることなく、化合物(B)による作用が効果的に発揮され、金属配線の抵抗値変化をより効果的に抑制することができる。
【0053】
上記の観点から、上記式(I)におけるX×Yの下限値は、60以上であることがより好ましく、特に70以上であることが特に好ましい。また、上記式(I)におけるX×Yの上限値は、200以下であることがより好ましく、100以下であることが特に好ましい。
【0054】
(3)化合物(C)
化合物(C)は、前述した構造式(2)で示される骨格を有するものである。ここで、構造式(2)の式中のR及びRにおけるアルキル基は、直鎖状のものであってもよいし、分岐鎖を有するものであってもよいし、脂環式構造を有するものであってもよい。また、アルキル基またはアリール基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。さらに、アルキル基またはアリール基が有していてもよいヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が挙げられる。
【0055】
この化合物(C)は、化合物(B)との相互作用により金属配線の抵抗値変化を抑制する。特に、化合物(C)は、防錆作用を発揮するため、金属配線、とりわけ銀または銀合金からなる金属配線が腐食することを抑制することができ、かかる観点から抵抗値変化を抑制することができる。また、化合物(C)は無色透明に近い化合物であるため、得られる粘着剤は無色透明性に優れたものとなる。さらに、化合物(C)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の架橋を阻害することなく、粘着力や弾性率を悪化させないため、得られる粘着剤は、耐ブリスター性に優れたものとなる。
【0056】
上記構造式(2)で示される化合物において、抵抗値変化抑制効果、無色透明性および耐ブリスター性の観点から、R及びRは、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数2〜15のアルキル基であることがより好ましく、炭素数5〜10のアルキル基であることが特に好ましく、2−エチルヘキシル基であることが最も好ましい。また、同様の観点から、Rは、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜2のアルキル基であることが特に好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
【0057】
粘着性組成物P中における化合物(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.1質量部以上であることが好ましく、さらには0.2質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、上限値として5質量部以下であることが好ましく、特に1質量部以下であることが好ましく、さらには0.5質量部以下であることが好ましい。化合物(C)の含有量が上記の範囲であることにより、化合物(C)による作用が効果的に発揮され、金属配線の抵抗値変化をより効果的に抑制することができ、かつ、得られる粘着剤の無色透明性をより優れたものにすることができる。
【0058】
(4)架橋剤(D)
粘着性組成物Pは、架橋剤(D)を含有することが好ましい。粘着性組成物Pは、架橋剤(D)を含有することで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を架橋して三次元網目構造を形成し、得られる粘着剤の凝集力を向上させ、耐ブリスター性をより向上させることができる。
【0059】
架橋剤(D)としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有する反応性基と反応するものであればよく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として水酸基含有モノマーを含有する場合、その水酸基との反応性に優れたイソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。なお、架橋剤(D)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートが好ましい。
【0061】
粘着性組成物P中における架橋剤(D)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として0.001質量部以上であることが好ましく、特に0.01質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、上限値として10質量部以下であることが好ましく、特に5質量部以下であることが好ましく、さらには1質量部以下であることが好ましい。
【0062】
架橋剤(D)の含有量が上記の範囲にあることにより、得られる粘着剤の凝集力が好ましいものとなり、粘着剤の耐ブリスターがより向上する。
【0063】
(5)シランカップリング剤(E)
粘着性組成物Pは、シランカップリング剤(E)を含有することが好ましい。これにより、被着体にガラス部材があると、得られる粘着剤は、当該ガラス部材との密着性が向上する。また、被着体がプラスチック板であっても、得られる粘着剤は、プラスチック板との密着性が向上する。これにより、得られる粘着剤は、耐ブリスター性により優れたものとなる。
【0064】
シランカップリング剤(E)としては、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物であって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相溶性がよく、無色透明のものが好ましい。
【0065】
かかるシランカップリング剤(E)としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物などが挙げられる。上記の中でも、金属配線に対して抵抗値変化抑制効果が発揮され易い、エポキシ構造を有するケイ素化合物およびメルカプト基含有ケイ素化合物が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
粘着性組成物P中におけるシランカップリング剤(E)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.05質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、1質量部以下であることが好ましく、特に0.5質量部以下であることが好ましく、さらには0.3質量部以下であることが好ましい。
【0067】
(6)各種添加剤
粘着性組成物Pには、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。ただし、粘着剤を着色する成分は添加しないことが好ましい。例えば、ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ロジン系の粘着付与剤等は、粘着剤を着色する傾向が強いため、添加しないことが好ましい。
【0068】
なお、粘着性組成物Pは、粘着剤層中に、そのまま、あるいは反応した状態で、残存する各種成分の混合物を表すものであって、乾燥工程等で除去される成分、例えば、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pに含まれない。
【0069】
(7)粘着性組成物の製造
粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、化合物(B)と、化合物(C)とを混合するとともに、所望により、架橋剤(D)、シランカップリング剤(E)および添加剤を加えることで製造することができる。
【0070】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位の混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法等により行うことができる。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0071】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2'−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等が挙げられる。
【0072】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0073】
なお、上記重合工程において、2−メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0074】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の溶液に、化合物(B)、化合物(C)、ならびに所望により、架橋剤(D)、シランカップリング剤(E)、添加剤および希釈溶剤を添加し、十分に混合することにより、溶剤で希釈された粘着性組成物P(塗布溶液)を得る。
【0075】
上記希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0076】
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物Pの濃度が10〜40質量%となるように希釈する。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着性組成物Pがコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶剤を添加しなくてもよい。この場合、粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合溶媒をそのまま希釈溶剤とする塗布溶液となる。
【0077】
〔粘着剤〕
本実施形態に係る粘着剤は、前述した粘着性組成物Pを架橋してなるものである。粘着性組成物Pの架橋は、加熱処理により行うことができる。なお、この加熱処理は、塗布した粘着性組成物Pの希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。
【0078】
加熱処理を行う場合、加熱温度は、50〜150℃であることが好ましく、特に70〜120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、30秒〜10分であることが好ましく、特に50秒〜2分であることが好ましい。加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1〜2週間程度の養生期間を設けてもよい。この養生期間が必要な場合は、養生期間経過後、養生期間が不要な場合には、加熱処理終了後、粘着剤層が形成される。
【0079】
〔粘着シート〕
図1に示すように、本実施形態に係る粘着シート1は、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着剤層11とから構成される。ただし、粘着シート1において剥離シート12a,12bは必須の構成要素ではなく、粘着シート1の使用時に剥離・除去されるものである。なお、本明細書における剥離シートの剥離面とは、剥離シートにおいて剥離性を有する面をいい、剥離処理を施した面および剥離処理を施さなくても剥離性を示す面のいずれをも含むものである。
【0080】
(1)粘着剤層
粘着剤層11は、前述した粘着剤から構成される。粘着剤層11の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)の下限値は、10μm以上であることが好ましく、特に25μm以上であることが好ましく、さらには50μm以上であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの下限値が上記以上であることにより、優れた粘着力が十分に発揮される。また、粘着剤層11の厚さの上限値は、300μm以下であることが好ましく、特に250μm以下であることが好ましく、さらには100μm以下であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの上限値が上記以下であることにより、加工性が良好になる。なお、粘着剤層11は単層で形成してもよいし、複数層を積層して形成することもできる。
【0081】
(2)剥離シート
剥離シート12a,12bとしては、特に限定されることはなく、公知のプラスチックフィルムを用いることができる。例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0082】
上記剥離シート12a,12bの剥離面(特に粘着剤層11と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。なお、剥離シート12a,12bのうち、一方の剥離シートを剥離力の大きい重剥離型剥離シートとし、他方の剥離シートを剥離力の小さい軽剥離型剥離シートとすることが好ましい。
【0083】
剥離シート12a,12bの厚さについては特に制限はないが、通常20〜150μm程度である。
【0084】
(3)粘着シートの製造
粘着シート1の一製造例としては、一方の剥離シート12a(または12b)の剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを架橋し、塗布層を形成した後、その塗布層に他方の剥離シート12b(または12a)の剥離面を重ね合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。加熱処理および養生の条件については、前述した通りである。
【0085】
粘着シート1の他の製造例としては、一方の剥離シート12aの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12aを得る。また、他方の剥離シート12bの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12bを得る。そして、塗布層付きの剥離シート12aと塗布層付きの剥離シート12bとを、両塗布層が互いに接触するように貼り合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記の積層された塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。この製造例によれば、粘着剤層11が厚い場合であっても、安定して製造することが可能となる。
【0086】
上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
【0087】
(4)透過色相b*
本実施形態に係る粘着シート1の粘着剤層11のCIE1976L*a*b*表色系により規定される透過色相b*は、−2.0以上、2.0以下であることが好ましく、特に−1.5以上、1.5以下であることが好ましく、さらには−1.0以上、1.0以下であることが好ましい。粘着剤層11の透過色相b*が上記の範囲にあることにより、当該粘着剤層11は着色が少なく無色透明性に優れたものということができ、ディスプレイ用として特に好適なものとなる。本実施形態では、化合物(B)および化合物(C)を使用することにより、金属配線の抵抗値変化を抑制しつつ、上記の透過色相b*を達成することが可能である。なお、本明細書における透過色相b*の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0088】
〔表示体〕
本実施形態に係る表示体は、第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材と、第1の表示体構成部材および第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層とを備える。当該粘着剤層は、前述した本実施形態に係る粘着剤からなる。ここで、第1の表示体構成部材および/または第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側(粘着剤層側)の面に金属配線を有する。好ましい構成としては、第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に電極を有する。
【0089】
表示体としては、例えば、液晶(LCD)ディスプレイ、発光ダイオード(LED)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ、電子ペーパー等が挙げられ、タッチパネルであってもよい。また、表示体としては、それらの一部を構成する部材であってもよい。
【0090】
第1の表示体構成部材は、ガラス板、プラスチック板等の他、それらを含む積層体などからなる保護パネルであることが好ましい。第1の表示体構成部材は、粘着剤層側の面に段差を有していてもよい。この場合、具体的には、印刷層による段差を有することが好ましい。この印刷層は、額縁状に形成されることが一般的である。
【0091】
上記ガラス板としては、特に限定されることなく、例えば、化学強化ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、アルミノケイ酸ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス等が挙げられる。ガラス板の厚さは、特に限定されないが、通常は0.1〜5mmであり、好ましくは0.2〜2mmである。
【0092】
上記プラスチック板としては、特に限定されることなく、例えば、アクリル板、ポリカーボネート板等が挙げられる。プラスチック板の厚さは、特に限定されないが、通常は0.2〜5mmであり、好ましくは0.4〜3mmである。
【0093】
なお、上記ガラス板やプラスチック板の片面または両面には、各種の機能層(電極層、シリカ層、ハードコート層、防眩層等)が設けられていてもよいし、光学部材が積層されていてもよい。
【0094】
印刷層を構成する材料は特に限定されることなく、印刷用の公知の材料が使用される。印刷層の厚さ、すなわち段差の高さの下限値は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが特に好ましく、10μm以上であることが最も好ましい。下限値が上記以上であることにより、電気配線を視認者側から見えなくする等の隠蔽性を十分に確保することができる。また、上限値は、50μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることが特に好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。上限値が上記以下であることにより、当該印刷層に対する粘着剤層の段差追従性の悪化を防止することができる。
【0095】
第2の表示体構成部材は、第1の表示体構成部材が貼付されるべき光学部材、表示体モジュール(例えば、液晶(LCD)モジュール、発光ダイオード(LED)モジュール、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)モジュール等)、表示体モジュールの一部としての光学部材、または表示体モジュールを含む積層体であって、少なくとも粘着剤層側の面に金属配線を有するものであることが好ましい。
【0096】
上記光学部材としては、例えば、金属フィルムセンサー、電極フィルム、金属ナノワイヤーフィルム、ワイヤーグリッド偏光フィルム等が挙げられる。
【0097】
上記金属配線としては、例えば、銀、銀合金、銅、銅合金等からなる金属配線(メッシュ状・グリッド状・ナノワイヤ状のものを含む)が挙げられる。特に、タッチパネルの電極を構成するものが好ましく例示され、具体的には、フィルムセンサーに含まれる金属配線が好ましく例示される。上記金属配線の中でも、銀または銀合金からなる金属配線が好ましく、当該金属配線に対して、粘着剤層11による優れた抵抗値変化抑制効果が発揮され易い。
【0098】
本実施形態に係る表示体の一例として、図2に静電容量方式のタッチパネル2を示す。タッチパネル2は、表示体モジュール3と、その上に粘着剤層4を介して積層された第1のフィルムセンサー5aと、その上に第1の粘着剤層11を介して積層された第2のフィルムセンサー5bと、その上に第2の粘着剤層11を介して積層されたカバー材6とを備えて構成される。カバー材6の第2の粘着剤層11側の面には、印刷層7が形成されており、したがって、印刷層7の有無による段差が存在する。本実施形態では、カバー材6が上記第1の表示体構成部材に該当し、第2のフィルムセンサー5bが上記第2の表示体構成部材に該当する。
【0099】
上記タッチパネル2における少なくとも第2の粘着剤層11は、上記粘着シート1の粘着剤層11であり、抵抗値変化抑制効果を考慮すれば、第1の粘着剤層11および第2の粘着剤層11の両者とも上記粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましい。なお、第1の粘着剤層11が上記粘着シート1の粘着剤層11でない場合、当該第1の粘着剤層11を構成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられ、中でもアクリル系粘着剤が好ましい。
【0100】
粘着剤層4は、上記粘着シート1の粘着剤層11によって形成してもよいし、他の粘着剤または粘着シートによって形成してもよい。後者の場合、粘着剤層4を構成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられるが、中でもアクリル系粘着剤が好ましい。
【0101】
本実施形態における第1のフィルムセンサー5aおよび第2のフィルムセンサー5bは、それぞれ基材フィルム51と、基材フィルム51に形成された金属配線52とを備える。基材フィルム51としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリルフィルム、ポリカーボネートフィルム等が使用される。
【0102】
金属配線52は、例えば、銀、銀合金、銅、銅合金等からなり、通常はメッシュ状、グリッド状等の回路パターンを有する。
【0103】
第1のフィルムセンサー5aの金属配線52および第2のフィルムセンサー5bの金属配線52は、通常、一方がX軸方向の回路パターンを構成し、他方がY軸方向の回路パターンを構成する。
【0104】
本実施形態における第2のフィルムセンサー5bの金属配線52は、図2中、第2のフィルムセンサー5bの上側に位置している。一方、第1のフィルムセンサー5aの金属配線52は、図2中、第1のフィルムセンサー5aの上側に位置しているが、これに限定されるものではなく、第1のフィルムセンサー5aの下側に位置してもよい。
【0105】
上記タッチパネル2の製造方法の一例を、以下に説明する。
粘着シート1として、第1の粘着シート1および第2の粘着シート1を用意する。第1の粘着シート1から一方の剥離シート12aを剥離し、露出した粘着剤層11(第1の粘着剤層)を、第1のフィルムセンサー5aの金属配線52と接するように、当該第1のフィルムセンサー5aと貼合する。また、第2の粘着シート1から一方の剥離シート12aを剥離し、露出した粘着剤層11(第2の粘着剤層11)を、第2のフィルムセンサー5bの金属配線52と接するように、当該第2のフィルムセンサー5bと貼合する。
【0106】
そして、第1の粘着シートにおける他方の剥離シート12bを剥離し、露出した第1の粘着剤層11が、上記第2のフィルムセンサー5bにおける第2の粘着剤層11が積層された側とは反対側の面(第1のフィルムセンサー5bの基材フィルム51の露出面)に接するように、両者を貼合する。これにより、剥離シート12b、第2の粘着剤層11、第2のフィルムセンサー5b、第1の粘着剤層11および第1のフィルムセンサー5aが順次積層されてなる積層体が得られる。
【0107】
次に、上記積層体の第1のフィルムセンサー5a側の面(第1のフィルムセンサー5aの基材フィルム51の露出面)に、剥離シート上に設けられた粘着剤層4を貼合する。続いて、上記積層体から剥離シート12bを剥離し、露出した第2の粘着剤層11に対して、カバー材6の印刷層7側が当該第2の粘着剤層11に接するように、当該カバー材6を貼合する。上記貼合により、カバー材6、第2の粘着剤層11、第2のフィルムセンサー5b、第1の粘着剤層11、第1のフィルムセンサー5a、粘着剤層4および剥離シートが順次積層されてなる構成体が得られる。
【0108】
最後に、上記構成体から剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層4が表示体モジュール3に接するように、当該構成体を表示体モジュール3に貼合する。これにより、図2に示されるタッチパネル2が製造される。
【0109】
上記タッチパネル2は、耐久条件下、例えば、長時間(例えば200時間)の紫外線照射条件下や、高温高湿条件下(例えば、85℃、85%RH)に置かれた場合であっても、金属配線52に接触している粘着剤層11が化合物(B)および化合物(C)を含有することにより、金属配線52の抵抗値変化が効果的に抑制される。
【0110】
ここで、金属配線52の抵抗値変化を具体的に説明する。本実施形態に係る粘着シート1を使用して、粘着剤層11と銀配線電極板とを貼合し、得られた積層体について、耐久試験を行ったときに、銀配線電極板の下記式により算出される抵抗値変化率が、500%未満であることが好ましく、特に200%以下であることが好ましい。
抵抗値変化率(%)=(R/R)×100
(式中、Rは耐久試験前の初期抵抗値(Ω)であり、Rは耐久試験後の抵抗値(Ω)である。)
銀配線電極板の抵抗値変化率の測定方法の詳細は、後述する試験例に示す通りである。
【0111】
また、上記粘着剤層11は無色透明性に優れるため、得られるタッチパネル2は、良好な光学特性を示すことができる。
【0112】
さらに、上記粘着剤層11は耐ブリスター性に優れるため、タッチパネル2が高温高湿条件下(例えば、85℃、85%RH、72時間)に置かれ、プラスチック板等からなるカバー材6からアウトガスが発生した場合でも、粘着剤層11とカバー材6との界面において気泡、浮き、剥がれ等のブリスターが発生することが抑制される。
【0113】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0114】
例えば、粘着シート1における剥離シート12a,12bのいずれか一方は省略されてもよい。また、タッチパネル2において、カバー材6には印刷層7が形成されていなくてもよい。
【実施例】
【0115】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0116】
〔実施例1〕
1.(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の調製
アクリル酸2−エチルヘキシル60質量部、メタクリル酸メチル20質量部およびアクリル酸2−ヒドロキシエチル20質量部を共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)60万であった。
【0117】
2.粘着性組成物の調製
上記工程1で得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、化合物(B)として下記構造式(3)
【化9】

(式中、nは8である。)
で示される化合物1.0質量部と、化合物(C)として下記構造式(2)
【化10】

(式中、R及びRは2−エチルヘキシル基であり、Rはメチル基である。)
で示される化合物0.2質量部と、架橋剤(D)としてのトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(トーヨーケム社製,製品名「BHS8515」)0.4質量部と、シランカップリング剤(E)としての3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製,製品名「KBM−403」)0.2質量部とを混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、粘着性組成物の塗布溶液を得た。
【0118】
ここで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を100質量部(固形分換算値)とした場合の粘着性組成物の各配合(固形分換算値)を表1に示す。なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
[(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)]
2EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
HEA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル
IBXA:アクリル酸イソボルニル
ACMO:N−アクリロイルモルホリン
[シランカップリング剤(E)]
エポキシ系:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製,製品名「KBM−403」)
メルカプト系:3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとメチルトリエトキシシランとの共縮合物(信越化学工業社製,製品名「X−41−1810」,オリゴマー型)
【0119】
3.粘着シートの製造
上記工程2で得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET382150」,厚さ:38μm)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布したのち、90℃で1分間加熱処理して塗布層(厚さ:75μm)を形成した。
【0120】
次いで、上記で得られた重剥離型剥離シート上の塗布層と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET382120」)とを、当該軽剥離型剥離シートの剥離処理面が塗布層に接触するように貼合し、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:75μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。
【0121】
〔実施例2〜6,比較例1〜3,参考例1〕
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する各モノマーの種類および割合、化合物(B)の配合量、化合物(C)の配合量、架橋剤(D)の配合量、ならびにシランカップリング剤(E)の種類を表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして粘着シートを製造した。なお、比較例2については、化合物(B)の替わりに、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系)としての2,2−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンを使用した。
【0122】
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー社製,HLC−8020
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK guard column HXL−H
TSK gel GMHXL(×2)
TSK gel G2000HXL
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0123】
〔試験例1〕(抵抗値変化の評価)
<銀配線電極板の作製>
片面が易接着処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,製品名「ルミラーU48」,厚さ:125μm)の易接着処理面上に、スクリーン印刷法により、銀ペースト(トーヨーケム社製,製品名「RA FS 088」)を図3に示すパターンで塗布した。その後、135℃で30分加熱処理を行い、銀ペーストを硬化させることで、銀配線を有する電極板(銀配線電極板)を得た。
【0124】
図3に示すように、銀配線は、PETフィルム8上に、6本のくし歯部91aを有する第1の銀配線9aと、同じく6本のくし歯部91bを有する第2の銀配線9bとして形成された。ここで、第1の銀配線9aにおける6本のくし歯部91aのそれぞれの間は間隙部92aとなっており、同様に第2の銀配線9bにおける6本のくし歯部91bのそれぞれの間は間隙部92bとなっている。第1の銀配線9aおよび第2の銀配線9bは、第1の銀配線9aにおける5本のくし歯部91aがそれぞれ第2の銀配線9bの間隙部92bに位置し、第2の銀配線9bにおける5本のくし歯部91bがそれぞれ第1の銀配線9aの間隙部92aに位置するように形成された。第1の銀配線9aにおける6本のくし歯部91aは連結部93aによって連結されており、その連結部93aには、端子としてのパッド94aが設けられている。同様に、第2の銀配線9bにおける6本のくし歯部91bは連結部93bによって連結されており、その連結部93bには、端子としてのパッド94bが設けられている。
【0125】
第1の銀配線9aにおける6本のくし歯部91aの線幅および第2の銀配線9bにおける6本のくし歯部91bの線幅は、それぞれ40μmであり、隣り合うくし歯部91aとくし歯部91bとの間の距離は、40μmであった。
【0126】
<測定サンプルの製造>
実施例及び比較例で得られた粘着シートの軽剥離型剥離シートを剥がして、露出した粘着剤層と、片面が易接着処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製,製品名「ルミラーU48」,厚さ:125μm)の易接着処理面とが接するように、上記粘着シートとポリエチレンテレフタレートフィルムとを貼り合わせた。
【0127】
次に、上記粘着シート上に残存する重剥離型剥離シートを剥がして、露出した粘着剤層と、上記工程で得られた銀配線電極板の銀配線とが接するように、かつ、銀配線9a,9bのパッド94a,94bが露出するように、上記粘着シートと銀配線電極板とを貼り合わせた。その後、45℃、0.5MPaの条件下で20分オートクレーブ処理を行い、これにより測定サンプルを得た。
【0128】
<抵抗値の測定>
上記のようにして得られた測定サンプルについて、銀配線9a,9bのパッド94a,94b間に、5Vの電圧を印加することにより、初期の抵抗値R(Ω)を測定した。次に、上記測定サンプルについて、以下に示す耐久試験を行い、その後、上記と同様にして抵抗値(Ω)を測定した。これを耐久試験後の抵抗値Rとした。得られた測定値から、下記式により抵抗値変化率を算出した。
抵抗値変化率(%)=(R/R)×100
そして、上記で算出した抵抗値変化率に基づいて、以下の基準により抵抗値変化を評価した。結果を表1に示す。
○:抵抗値変化率が200%未満
△:抵抗値変化率が200%以上500%以下
×:抵抗値変化率が500%超
【0129】
−耐久試験−
・耐光:紫外線フェードメーター(スガ試験機社製,製品名「紫外線フェードメーター U48」)により、サンプルのガラス側から紫外線照射(照度500W/m(300〜700nm),積算光量360MJ/m),試験時間200時間
・湿熱:85℃,85%RH,試験時間200時間(この間、電圧5Vを継続的に印加)
【0130】
〔試験例2〕(透過色相b*の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートの粘着剤層について、同時測光分光式色度計(日本電色工業社製,製品名「SQ2000」)を使用し、CIE1976L*a*b*表色系により規定される透過色相b*を測定した。結果を表1に示す。
【0131】
〔試験例3〕(耐ブリスター性の評価)
実施例及び比較例で得られた粘着シートの軽剥離型剥離シートを剥がして、露出した粘着剤層と、片面が易接着処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製,製品名「ルミラーU48」,厚さ:125μm)の易接着処理面とが接するように、上記粘着シートとポリエチレンテレフタレートフィルムとを貼り合わせた。
【0132】
次に、上記粘着シート上に残存する重剥離型剥離シートを剥がして、露出した粘着剤層と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなるアクリル板(三菱ガス化学社製,製品名「ユーピロン・シート MR200」,厚さ:1mm)とを貼り合せ、得られた積層体をサンプルとした。
【0133】
上記サンプルを、50℃、0.5MPaの条件下で30分間オートクレーブ処理した後、常圧、23℃、50%RHにて24時間放置した。次いで、85℃、85%RHの高温高湿条件下にて72時間保管した。その後、粘着剤層と被着体との界面における気泡を目視により確認し、以下の基準により耐ブリスター性を評価した。結果を表1に示す。
○…気泡、浮きおよび剥がれが全くなかった。
△…直径0.1mm以下の気泡のみが発生した。
×…直径0.1mm超の気泡、浮きまたは剥がれが発生した。
【0134】
【表1】
【0135】
表1から分かるように、実施例で得られた粘着シートによれば、銀配線電極板の抵抗値変化を抑制することができた。また、実施例で得られた粘着シートは、無色透明性および耐ブリスター性に優れるものであった。
【0136】
なお、参考例1で得られた粘着シートでは、粘着剤層は化合物(C)を含有しないものの、抵抗値変化抑制効果が見られる。これは、メルカプト系のシランカップリング剤(E)と化合物(B)との相互作用によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明に係る粘着性組成物、粘着剤および粘着シートは、例えば、銀電極を用いた静電容量方式のタッチパネルに好適に使用することができる。また、本発明に係る表示体は、例えば、銀電極を用いた静電容量方式のタッチパネルとして好適である。
【符号の説明】
【0138】
1…粘着シート
11…粘着剤層
12a,12b…剥離シート
2…タッチパネル
3…表示体モジュール
4…粘着剤層
5a…第1のフィルムセンサー
5b…第2のフィルムセンサー
51…基材フィルム
52…金属配線
6…カバー材
7…印刷層
8…PETフィルム
9a…第1の銀配線
9b…第2の銀配線
91a,91b…くし歯部
92a,92b…間隙部
93a,93b…連結部
94a,94b…パッド
図1
図2
図3