(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6676448
(24)【登録日】2020年3月16日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】組立構造体
(51)【国際特許分類】
F16B 5/00 20060101AFI20200330BHJP
F16B 5/07 20060101ALI20200330BHJP
H05K 5/02 20060101ALI20200330BHJP
B21D 19/00 20060101ALI20200330BHJP
B21D 22/02 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
F16B5/00 B
F16B5/07 K
F16B5/07 D
H05K5/02 P
B21D19/00 C
B21D22/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-80559(P2016-80559)
(22)【出願日】2016年4月13日
(65)【公開番号】特開2017-190831(P2017-190831A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2018年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 岩男
(72)【発明者】
【氏名】川越 文雄
【審査官】
大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−041191(JP,U)
【文献】
実開昭55−036765(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/00−5/07
B21D 19/00−22/02
H05K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉤状の係止片を有する第1板状部材と、貫通孔が穿設された取付面を有する第2板状部材とを備え、前記係止片を前記貫通孔に挿入して前記取付面と係止する位置まで折り曲げることにより、前記第1板状部材と前記第2板状部材が一体化される組立構造体において、
前記係止片は、前記第1板状部材から突出する基部と、前記基部を起点に前記取付面と係止する方向へ折り曲げられる連設部とからなり、
前記連設部が通過する前記貫通孔の前記取付面側の周縁部に斜面部が形成されていることを特徴とする組立構造体。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記斜面部は前記取付面をコイニング加工した部分に形成されていることを特徴とする組立構造体。
【請求項3】
請求項1の記載において、前記貫通孔から前記取付面に向かって延びるスリットが形成されており、前記斜面部は前記スリットに隣接する部分を曲げ加工して形成されたものであることを特徴とする組立構造体。
【請求項4】
鉤状の係止片を有する第1板状部材と、貫通孔が穿設された取付面を有する第2板状部材とを備え、前記係止片を前記貫通孔に挿入して前記取付面と係止する位置まで折り曲げることにより、前記第1板状部材と前記第2板状部材が一体化される組立構造体において、
前記係止片は、前記第1板状部材から突出する基部と、前記基部を起点に前記取付面と係止する方向へ折り曲げられる連設部とからなり、
前記連設部の前記取付面に対面する側の角部であって折り曲げ方向に向かう側に斜面部が形成されていることを特徴とする組立構造体。
【請求項5】
請求項1または4の記載において、前記連設部の前記基部側の根元部分に前記取付面との接触を回避する逃げ部が形成されていることを特徴とする組立構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔に挿入した係止片を折り曲げることにより、第1板状部材と第2板状部材が一体化されるようになっている組立構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば車載用電子機器において、枠状に形成された金属板製のシャーシの上面に平板状に形成された金属板製のトッププレートを取り付けることにより、これらシャーシとトッププレートとを一体化して組立構造体となし、この組立構造体に機構部品を収納するという構成が広く採用されている。
【0003】
このように金属板からなる2つの板状部材を一体化する場合、特許文献1に記載されているように、一方の板状部材に鉤状の係止片を形成すると共に、他方の板状部材に貫通孔を形成し、この係止片を貫通孔に挿入してから折り曲げるという締結方法(クリンチ法)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−41191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された従来技術のように、貫通孔に挿入した係止片を折り曲げて貫通孔の周囲の取付面に係止させるようにした組立構造体では、係止片の下面が貫通孔の角部を乗り越えて取付面上に移行する際に、係止片の下側角部が貫通孔の上側周縁部に引っ掛かってしまい、当該部分に削りカスが発生しやすいという問題があった。特に、2つの板状部材の締結強度を高めるために、係止片を貫通孔の周囲の取付面にガタつきなく係止させようとすると、前述したような削りカスの発生は顕著なものとなる。
【0006】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、削りカスの発生を抑制することができる組立構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための一手段として、本発明は、鉤状の係止片を有する第1板状部材と、貫通孔が穿設された取付面を有する第2板状部材とを備え、前記係止片を前記貫通孔に挿入して前記取付面と係止する位置まで折り曲げることにより、前記第1板状部材と前記第2板状部材が一体化される組立構造体において、前記係止片は、前記第1板状部材から突出する基部と、前記基部を起点に前記取付面と係止する方向へ折り曲げられる連設部とからなり、前記連設部が通過する前記貫通孔
の前記取付面側の周縁部に斜面部が形成されていることを特徴としている。
【0008】
このように構成された組立構造体では、係止片を貫通孔に挿入した後、係止片の基部を起点として連設部を折り曲げるとき、連設部の下側角部が貫通孔の上側周縁部に形成された斜面部上を滑りながら取付面へ移動するため、係止片の折り曲げ時に削りカスが発生することを抑制できる。
【0009】
この場合において、傾斜部はどのような手段を用いて形成されたものでも良いが、斜面部が取付面をコイニング加工した部分に形成されたものであると、貫通孔の裏側に突起部分が生じないので、係止片を貫通孔の裏側からスムーズに挿入することができる。また、連設部が摺動する斜面部と取付面の表面硬度が高くなり、削りカスの発生を効果的に抑制することができる。あるいは、貫通孔から取付面に向かって延びるスリットが形成されており、斜面部がスリットに隣接する部分を曲げ加工して形成されたものであると、斜面部を簡単に形成することができる。
【0010】
また、上記目的を達成するための他の手段として、本発明は、鉤状の係止片を有する第1板状部材と、貫通孔が穿設された取付面を有する第2板状部材とを備え、前記係止片を前記貫通孔に挿入して前記取付面と係止する位置まで折り曲げることにより、前記第1板状部材と前記第2板状部材が一体化される組立構造体において、前記係止片は、前記第1板状部材から突出する基部と、前記基部を起点に前記取付面と係止する方向へ折り曲げられる連設部とからなり、前記連設部の
前記取付面に対面する側の角部であって折り曲げ方向に向かう側に斜面部が形成されていることを特徴としている。
【0011】
このように構成された組立構造体では、係止片を貫通孔に挿入した後、係止片の基部を起点として連設部を折り曲げるとき、連設部の下側角部に形成された斜面部が貫通孔の上側周縁部を滑りながら取付面へ移動するため、係止片の折り曲げ時に削りカスが発生することを抑制できる。
【0012】
また、上記の各構成において、連設部の基部側の根元部分に取付面との接触を回避する逃げ部が形成されていると、折り曲げられた連設部の先端側が確実に取付面に圧接されるため、ガタ付きがなく締結強度の高い組立構造体を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組立構造体によれば、係止片の折り曲げ時に削りカスが発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態例に係る組立構造体の外観斜視図である。
【
図3】
図1の組立構造体に備えられるシャーシの側面図である。
【
図5】
図3のシャーシに形成された係止片の折り曲げ動作を示す説明図である。
【
図6】
図5に示す係止片と貫通孔の関係を示す説明図である。
【
図7】本発明の第2実施形態例に係る組立構造体に備えられる係止片の折り曲げ動作を示す説明図である。
【
図8】本発明の第3実施形態例に係る組立構造体に備えられる係止片の折り曲げ動作を示す説明図である。
【
図9】本発明の第4実施形態例に係る組立構造体に備えられる係止片の折り曲げ動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の実施の形態について図面を参照して説明すると、
図1に示すように、第1実施形態例に係る組立構造体は、例えば車載用ディスクプレーヤの外殻をなす箱形のフレームであり、第1板状部材である枠状のシャーシ1と第2板状部材である平板状のトッププレート2とを一体化して構成されている。
【0016】
シャーシ1は金属板を所定形状にフォーミングしたものからなり、
図3に示すように、このシャーシ1の上端面には複数の係止片3が形成されている。これら係止片3は鉤状に形成されており、
図4に示すように、シャーシ1の上辺から上方へ突出する基部3aと、基部3aからシャーシ1の上辺に沿って横方向へ延びる連設部3bとを有している。ただし、連設部3bの先端側は基部3a寄りの根元部分に比べて幾分下方へ突出しており、連設部3bの根元部分は切り欠き形状の逃げ部Sとなっている。
【0017】
トッププレート2も金属板を所定形状にフォーミングしたものからなり、その周縁部の複数箇所は段落ち状の取付面2aとなっている。これら取付面2aには細長形状の貫通孔4が穿設されており、各貫通孔4の長手方向に沿う一方の上側周縁部には斜面部4aが形成されている。この斜面部4aは、トッププレート2にコイニング(圧印加工)を施すことによってアール状に形成されているが、貫通孔4の内側面から取付面2aに向かって傾斜していればテーパ状の斜面であっても良い。
【0018】
そして、以下に説明するように、各係止片3を対応する貫通孔4に挿入した後、係止片3の連設部3bを折り曲げて取付面2a上に係止させることにより、シャーシ1とトッププレート2が一体化された組立構造体を得るようにしている。
【0019】
すなわち、まずシャーシ1の上面にトッププレート2を被せることにより、
図5(a)に示すように、シャーシ1の各係止片3をトッププレート2の対応する貫通孔4に挿入する。このとき、連設部3bの根元側の逃げ部Sは取付面2aの表面よりも上方に突出するが、連設部3bの先端側の下面は取付面2aの表面に対して若干下方に位置する。
【0020】
次に、係止片3の連設部3bを基部3aを起点として折り曲げることにより、
図5(b)に示すように、連設部3bの下面を貫通孔4から取付面2aの表面へ移動させる。ここで、連設部3bの根元側には逃げ部Sが形成されているため、連設部3bの根元側は取付面2aの表面に接触することなく折り曲げられ、折り曲げ時の移動距離が長い連設部3bの先端側のみが取付面2aの表面上を摺動する。その際、
図6に示すように、連設部3bの下側角部は貫通孔4の上側周縁部に形成された斜面部4a上を滑りながら移動し、同図の2点鎖線で示すように取付面2aの表面に乗り上げるため、連設部3bの折り曲げ時に削りカスは発生しにくくなっている。
【0021】
以上説明したように、第1実施形態例に係る組立構造体では、第1板状部材であるシャーシ1に形成された係止片3が基部3aと連設部3bを有していると共に、第2板状部材であるトッププレート2に穿設された貫通孔4の上側周縁部に斜面部4aが形成されており、シャーシ1とトッププレート2を一体化する組立工程において、係止片3を貫通孔4に挿入した後、係止片3の基部3aを起点として連設部3bを折り曲げる際に、連設部3bの下側角部が貫通孔4の上側周縁部に形成された斜面部4a上を滑りながら貫通孔4の周囲の取付面2a上へ移動するため、係止片3の折り曲げ時に削りカスが発生することを抑制できる。なお、斜面部4aは取付面2aをコイニング加工した部分に形成されており、貫通孔4の裏側に突起部分が生じないため、係止片3を貫通孔4の裏側からスムーズに挿入することができる。また、連設部3bが摺動する斜面部4aと取付面2aの表面硬度が高くなり、削りカスの発生を効果的に抑制することができる。
【0022】
また、連設部3bの根元部分に取付面2aとの接触を回避する逃げ部Sが形成されているため、移動距離の短い連設部3bの根元側は取付面2aの表面に接触することなく折り曲げられ、移動距離の長い連設部3bの先端側のみが取付面2aの表面上を摺動することになる。その結果、連設部3bの先端側を取付面2aに確実に圧接させて締結強度が高められるため、外部振動や衝撃によって連設部3bと取付面2a間にガタが発生することを防止でき、削りカスの発生を抑制しつつ締結強度の高い組立構造体を実現することができる。
【0023】
なお、第1実施形態例では、係止片3の連設部3bが通過する貫通孔4の上側周縁部の全域に斜面部4aを形成しているが、連設部3bの根元部分に逃げ部Sが形成されている場合は、少なくとも連設部3bの先端側が通過する貫通孔4の上側周縁部に部分的に斜面部4aを形成するようにしても良い。
【0024】
図7に示す第2実施形態例では、トッププレート2の取付面2aにプレス加工を施してハーフパンチ形状の隆起部5となし、この隆起部5の貫通孔4に接する側の端部にアール状またはテーパ状の斜面部5aが形成されており、それ以外は第1実施形態例と基本的に同様である。
【0025】
この第2実施形態例においては、
図7(a)に示すように、係止片3を貫通孔4に挿入して連設部3bの先端側を隆起部5の側方に対向させた後、連設部3bを基部3aを起点として折り曲げることにより、
図7(b)に示すように、連設部3bの下面を貫通孔4から隆起部5の表面へ移動させる。その際、連設部3bの下側角部は隆起部5の端部に形成された斜面部5a上を滑りながら移動して隆起部5の表面に乗り上げるため、連設部3bの折り曲げ時に削りカスは発生しにくくなっている。
【0026】
また、連設部3bの根元側には逃げ部Sが形成されているため、連設部3bの根元側は取付面2aの表面に接触することなく折り曲げられ、連設部3bの先端側が取付面2aに形成された隆起部5に確実に圧接される。ただし、連設部3bの先端側が取付面2aの表面に対して一段高くなった隆起部5上を移動するため、連設部3bの根元側に逃げ部Sを形成しなくても、連設部3bの先端側だけを取付面2a(隆起部5)と摺動させることができる。
【0027】
図8に示す第3実施形態例では、貫通孔4の長手方向に沿う一側辺から取付面2aに向かってスリット6を形成し、このスリット6に隣接する部分の取付面2aを折り曲げ加工することによってアール状またはテーパ状の斜面部2bが形成されており、それ以外は第1実施形態例と基本的に同様である。
【0028】
この第3実施形態例においては、
図8(a)に示すように、係止片3を貫通孔4に挿入して連設部3bの先端側を斜面部2cの側方に対向させた後、連設部3bを基部3aを起点として折り曲げることにより、
図8(b)に示すように、連設部3bの下面を貫通孔4から取付面2aの表面へ移動させる。その際、連設部3bの下側角部は取付面2aの端部に形成された斜面部2b上を滑りながら移動して取付面2aの表面に乗り上げるため、連設部3bの折り曲げ時に削りカスは発生しにくくなっている。
【0029】
上述した第1〜第3実施形態例では、貫通孔4を有する取付面2a側に斜面部が形成されているが、
図9に示す第4実施形態例のように、係止片3の連設部3b側に斜面部を形成することも可能である。すなわち、連設部3bの先端側は根元部分に比べて幾分下方へ突出しており、この先端部分の下側角部にはコイニングによってテーパ状の斜面部7が形成されている。
【0030】
この第4実施形態例においては、
図9(a)に示すように、係止片3を貫通孔4に挿入して連設部3bに形成された斜面部7を貫通孔4の上側周縁部に対向させた後、連設部3bを基部3aを起点として折り曲げることにより、
図9(b)に示すように、連設部3bの下面を貫通孔4から取付面2aの表面へ移動させる。その際、連設部3bの斜面部7が貫通孔4の上側周縁部を滑りながら移動して取付面2aの表面に乗り上げるため、連設部3bの折り曲げ時に削りカスは発生しにくくなっている。
【0031】
なお、上記した各実施形態例では、第1板状部材としてシャーシ1を用いると共に第2板状部材としてトッププレート2を用いた組立構造体について説明したが、貫通孔4に挿入した係止片3の折り曲げによって2つの板状部材を一体化するものであれば、シャーシ1とトッププレート2以外の板状部材を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 シャーシ(第1板状部材)
2 トッププレート(第2板状部材)
2a 取付面
2b 斜面部
3 係止片
3a 基部
3b 連設部
4 貫通孔
4a 斜面部
5 隆起部
5a 斜面部
6 スリット
7 斜面部
S 逃げ部