(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルを建設する工法として新オーストリアトンネル工法(NATM)が多く採用されている。この工法ではトンネルの掘削を行った後、トンネル内面に吹付けコンクリートを施してから、吹付けコンクリートを貫通し地山に達する所定の長さのロックボルトを所定の間隔で複数設置し、ロックボルトの突出部にプレートを挿通してナットで締着することでトンネル内壁の崩落を防止し、地山変位や緩みの発生を抑制する。その後吹付けコンクリート表面に防水シートを貼付け、その内空側に覆工コンクリートを施工しトンネル内壁の基本構造が形成される。
【0003】
しかしながら、この山岳工法のロックボルト工では、吹付けコンクリートを、ロックボルトに挿通したプレートで押さえつけることで支保工としての役割を持たせる方式であるため、必然的にロックボルトの頭部やプレート、ナットなどが吹付けコンクリートの表面から内空側に突出するという問題があった。こうした突起が点在すると、防水シートの貼付けを平滑に行うことができず、突起部により防水シートが損傷すると防水性が保てなくなり、トンネルの品質低下を招くことになる。
【0004】
従来、ロックボルトの頭部やプレート、ナットなどの突起による防水シートの破損を低減するため、突起をなだらかな面でカバーする保護キャップを突起にかぶせる方法が一般的に使用されている。しかしこの方法では突起部がなだらかな形状になるとはいえ、保護キャップが吹付けコンクリートから突出して点在することに変わりはなく、防水シートを平坦に貼り付けることはできない。
【0005】
そこで突起を少しでも減らすために、様々な手法が考案されている。特許文献1はロックボルトの頭部先端に一体的に接合されたプレート固定部材により、予め挿通したプレートを抑えることによりナットを不要としプレート取り付け部を低背化したロックボルト構造を提案している。しかし、プレート固定部材を取り付けた特殊なロックボルトが必要であるし、プレートとロックボルト頭部が突出した構造であることに変わりはない。
【0006】
また、特許文献2は、プレート自体を、ロックボルト基端部の雄ネジと螺合する雌ネジが切られた筒体と、その端部に設けられたフランジからなる構造とし、筐体部はロックボルト用の削孔に収まるように延伸させることでフランジ以外は突出しないようにした締め付けプレートを提案している。ロックボルトの頭部が突出しなくなるため、防水シートの損傷防止が期待される反面、特殊なプレート及び特殊なプレートの締め付けのための専用の回転用具が必要であるという課題も残る。
【0007】
これらの様々な手法は、吹付けコンクリート表面からのプレート等の抑え部材の突出を前提とした上で、防水シートを防護するために、その突出高さを如何に低減するかという視点で考案されたものであり、突出そのものを回避する方法は提案されていない。
そこで、トンネル内壁の支保工の役割を果たしつつ、安価で、防水シートの損傷の要因となり得る突起を防いでトンネル防水シートを防護する工法が望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来のトンネル防水シート防護方法における問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、吹付けコンクリート表面にロックボルト頭部を突出しないように収納する窪み部を設けることでトンネル防水シートの損傷を防止するトンネル防水シート防護方法及び窪み部形成に用いる専用の削孔ビットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明によるトンネル防水シート防護方法は、トンネル内を覆う吹付けコンクリートの表面の所定の位置に
削孔用ビットを使用してプレート収納用の窪み部を形成する先行削孔を行う段階と、前記窪み部の中心位置にロックボルトを挿入するロックボルト挿入孔を形成するロックボルト用削孔を行う段階と、前記ロックボルト挿入孔に定着材を充填して前記ロックボルトを定着する段階と、前記定着されたロックボルトに前記プレートを挿通し該プレートをナットで定着する段階と、所定区間の前記吹付けコンクリートの残存する吹付け厚が、設計吹付け厚を満たしているか否かを判断する段階と、を有し、前記残存する吹付け厚が、設計吹付け厚を満たしていない場合、吹付けコンクリートの強度と同等の強度を有する充填材で前記窪み部を埋戻し充填し、前記ロックボルト、プレート、及びナットはいずれもプレート収納用の窪み部内に収まり、窪み部周囲の吹付けコンクリートの表面から突出しないように設置することで防水シートの損傷を防
ぎ、前記削孔用ビットは、プレート収納用の窪み部を形成する親ビットと、親ビットと中心軸を同じくしてガイドロッドを介して親ビットに固定され、親ビットの外径サイズより小さい外径を有する子ビットとを有し、前記親ビットの外径はプレートの外接円の径より大きく、前記親ビットの厚さは前記プレート収納用の窪み部の深さと同じであり、前記ガイドロッド及び子ビットの外径はロックボルト挿入孔の内径に等しく、子ビットにより削孔されるガイド穴によってロックボルト挿入孔を形成するビットの方向が制約されるように子ビットの先端は親ビットの先端より前記ガイドロッドの長さと子ビットの厚さを加えた長さ分軸方向に突出するように設置されていることを特徴とする。
【0011】
また上記目的を達成するためになされた本発明によるトンネル防水シート防護方法は、トンネル内を覆う吹付けコンクリートの表面の所定の位置にロックボルトを挿入するロックボルト挿入孔を形成するロックボルト用削孔を行う段階と、ロックボルト挿入孔と同じ中心軸を有するように
削孔用ツールを使用してプレート収納用の窪み部を形成する後削孔を行う段階と、前記ロックボルト挿入孔に定着材を充填して前記ロックボルトを定着する段階と、前記定着されたロックボルトに前記プレートを挿通し該プレートをナットで定着する段階と、所定区間の前記吹付けコンクリートの残存する吹付け厚が、設計吹付け厚を満たしているか否かを判断する段階と、を有し、前記残存する吹付け厚が、設計吹付け厚を満たしていない場合、吹付けコンクリートの強度と同等の強度を有する充填材で前記窪み部を埋戻し充填し、前記ロックボルト、プレート、及びナットはいずれもプレート収納用の窪み部内に収まり、窪み部周囲の吹付けコンクリートの表面から突出しないように設置することで防水シートの損傷を防
ぎ、前記削孔用ツールは、プレート収納用の窪み部を形成するリング状に形成された大口径リングビットと、前記大口径リングビットを削孔用装置に取り付けるための特殊アタッチメントと、を有し、前記大口径リングビットは、大口径リングビットの中心軸に沿って設けられ前記ロックボルト用削孔に使用するビットを接続したロッドを貫通させる貫通孔と、大口径リングビットの中心軸に沿って前記貫通孔に連続して設けられた前記特殊アタッチメントとの接続用ネジ穴とを備え、前記特殊アタッチメントは、特殊アタッチメントの中心軸に沿って設けられ前記ロックボルト用削孔に使用するビットを接続したロッドを貫通させる貫通孔と、一端の外周部に設けられた大口径リングビット接続用ネジ部と、他端の内周部に設けられた削孔用装置接続用ネジ部とを備え、前記特殊アタッチメントとの接続用ネジ穴の径は前記大口径リングビットに設けられた貫通孔の径より大きく、前記削孔用装置接続用ネジ部の穴径は前記特殊アタッチメントに設けられた貫通孔の径より大きく、前記特殊アタッチメントは、前記ロックボルト用削孔に継ぎ足して使用するロッドの最後のロッドを継ぎ足す際に削孔用装置に取り付けられて前記大口径リングビットを削孔用装置に取り付けることを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するためになされた本発明による削孔用ビットは、先行削孔を行うのに使用する削孔用ビットであって、前記削孔用ビットは、プレート収納用の窪み部を形成する親ビットと、親ビットと中心軸を同じくして
ガイドロッドを介して親ビットに固定され、親ビットの外径サイズより小さい外径を有する子ビットとを有し、前記親ビットの外径はプレートの外接円の径より大きく、
前記親ビットの厚さは前記プレート収納用の窪み部の深さと同じであり、前記親ビットの後方には削孔深さを制限するストッパーを備え、前記
ガイドロッド及び子ビットの外径はロックボルト挿入孔の内径に等しく、
子ビットにより削孔されるガイド穴によってロックボルト挿入孔を形成するビットの方向が制約されるように子ビットの先端は親ビットの先端より
前記ガイドロッドの長さと子ビットの厚さを加えた長さ分軸方向に突出するように設置されていることを特徴とする
。
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明による削孔用ツールは、後削孔を行うのに使用する削孔用ツールであって、前記削孔用ツールは、プレート収納用の窪み部を形成するリング状に形成された大口径リングビットと、前記大口径リングビットを削孔用装置に取り付けるための特殊アタッチメントと、を有し、前記大口径リングビットは、大口径リングビットの中心軸に沿って設けられ前記ロックボルト用削孔に使用するビットを接続したロッドを貫通させる貫通孔と、大口径リングビットの中心軸に沿って前記貫通孔に連続して設けられた前記特殊アタッチメントとの接続用ネジ穴とを備え、前記特殊アタッチメントは、特殊アタッチメントの中心軸に沿って設けられ前記ロックボルト用削孔に使用するビットを接続したロッドを貫通させる貫通孔と、一端の外周部に設けられた大口径リングビット接続用ネジ部と、他端の内周部に設けられた削孔用装置接続用ネジ部とを備え、前記特殊アタッチメントとの接続用ネジ穴の径は前記
大口径リングビットに設けられた貫通孔の径より大きく、前記削孔用装置接続用ネジ部の穴径は前記
特殊アタッチメントに設けられた貫通孔の径より大きく、前記特殊アタッチメントは、前記ロックボルト用削孔に継ぎ足して使用するロッドの最後のロッドを継ぎ足す際に削孔用装置に取り付けられて前記大口径リングビットを削孔用装置に取り付けることを特徴とする。
前記大口径リングビットは所定深さ以上の削孔を防止するストッパーを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るトンネル防水シート防護方法によれば、特殊なプレートやナットを使用しなくてもロックボルト設置後の突起を防止することができるため、安価で容易にトンネル防水シートの損傷を防止することができる。
また、本発明に係るトンネル防水シート防護方法によれば、吹付けコンクリート表面に窪み部を設け、ロックボルト頭部やナットなどは窪み部の中に完全に収納されるため、従来技術ではなくすことのできなかった突起を完全になくすことができ、確実にトンネル防水シートの損傷を防止することができる。
さらに本発明に係る削孔ビットによれば、先行削孔時にロックボルト挿入孔の一部と窪み部を同時に形成するため、これに続くロックボルト用削孔を容易に行うことができる。
また、本発明に係る削孔用ツールによれば、後削孔時にロックボルト挿入孔の最終段階の削孔と窪み部を同時に、かつ同軸で形成するため、確実にトンネル防水シートの損傷を防止するトンネル防水シート防護方法を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明に係るトンネル防水シート防護方法を実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施形態によるトンネル防水シート防護方法を従来工法と対比させて示す図である。
図1(a)はNATMにおけるロックボルトの設置状態を示す図である。
【0017】
NATMにおいてはトンネル掘削後、鋼製支保工を内壁面に沿って設置して壁面を補強した上でトンネル内壁面にコンクリートを吹付けて固め、その後吹付けコンクリートを貫いて地山に削孔を行い、そこにロックボルトを設置する。ロックボルトは注入した定着材により地山に定着され、さらに吹付けコンクリートから突出したロックボルト頭部に座金としてのプレートを挿通してナットで定着することにより吹付けコンクリートの支保材としての効果を高める役割を果たす。
【0018】
鋼製支保工は例えば断面がH形状の鋼製部材でトンネル内壁の周方向に沿ってアーチ状に設置し、トンネルの掘削が進むにつれてトンネルの軸方向に沿って順次設置していく。ロックボルトは3〜6mの長さで、頭部にナットを取り付けるためのネジ部を備えたものであり、隣接する支保工の間に、トンネルの軸方向及びトンネル内壁の周方向に沿って所定の間隔で複数設置する。ロックボルトを設置する間隔はトンネルの地山の状況に応じて増減するが、実施形態では間隔は1〜2mである。
図1(a)ではロックボルトが設置されたトンネル断面の一例としてトンネルの周方向に沿って一定間隔で20本のロックボルト1が設置された状態を示す。
【0019】
ロックボルトで吹付けコンクリートを補強した後、内壁面からの漏水を防止するため、内壁全面に防水シート10を貼付け、その内空側に覆工コンクリートを打設して平滑な内壁面が形成される。
防水シートはロール状で供給され、トンネル内壁に貼付ける際、隣接する防水シート同士を熱溶着することで連続した防水面を構成する。通常防水シート10は厚さ1〜2mm程度の樹脂製であるため貼付け面に突起などがあると破損のおそれがあり、そこから漏水が発生する可能性がある。このため吹付けコンクリートから突出するロックボルトの頭部は、防水シート10の破損を防止するために対策する必要がある。
【0020】
図1(b)〜(d)は従来工法による防水シート10の防護方法を示す。
図1(b)は
図1(a)のA−A線に沿う断面図であり、
図1(c)は後述する頭部保護キャップ装着前のロックボルト頭部周辺をトンネル内部から正面視した正面図、
図1(d)はロックボルトの頭部の突起対策を示す拡大断面図である。
図1(b)を参照すると、並行して設置されたH形鋼の鋼製支保工4の間にロックボルト1が設置される。鋼製支保工4は吹付けコンクリート2の中に埋設されており、吹付けコンクリート2は鋼製支保工4部分を含めなだらかな表面を形成する。ロックボルト1の頭部は吹付けコンクリート2から突出する。
【0021】
図1(c)を参照すると、鋼製支保工4がトンネルの周方向に沿って帯状に位置し、ロックボルト1は鋼製支保工4の間にトンネルの周方向に沿って一定の離隔距離で点在する。吹付けコンクリート2を補強するプレート5は正方形である。
図1(d)を参照すると、ロックボルト1は、吹付けコンクリート2を貫通して地山に延在し、図示しないモルタルやセメントなどの定着材で地山及び吹付けコンクリート2に定着される。ロックボルト1の突出した頭部にはプレート5が挿通され、ナット6により定着される。さらにロックボルト1の頭部、プレート5、ナット6を覆うように頭部保護キャップ7が装着される。
【0022】
頭部保護キャップ7は、突出したロックボルト1の頭部が防水シート10を破損しないよう、また防水シート10を貼り付けた際、ロックボルト頭部で部分的に急峻な突起にならず、なだらかな平面を形成するようにする目的で取り付けられるものであり、プラスチック樹脂や発泡スチロールなどで構成される。
このように従来技術では、ロックボルト1の頭部を覆う頭部保護キャップ7による隆起が点在するため、防水シート10は起伏の多い貼り付け形状にしかなり得ず、防水シート10の熱溶着の出来形や作業性が悪いばかりでなく、その後施工される覆工コンクリートの打設圧力で防水シート10が局所的に引っ張られてロックボルト頭部の箇所で破損する危険性がある等、施工性や品質確保の面で難が多い。
【0023】
図1(e)〜(g)は本発明の実施形態による防水シート10の防護方法を示す。
図1(e)は
図1(a)のA−A線に沿う断面図であり、
図1(f)は頭部保護キャップ装着前のロックボルト頭部周辺をトンネル内部から正面視した正面図、
図1(g)はロックボルトの頭部の突起対策を示す拡大断面図であり、それぞれ
図1(b)〜(d)に対比するものである。符号は従来技術と同じものは同じ番号を付している。
【0024】
図1(e)を参照すると、ロックボルト1の頭部の状況以外は
図1(b)の断面形状と変わらない。従来技術との明確な相違点は、吹付けコンクリート2に窪み部9が形成され、プレート5やナット6を含めロックボルト1の頭部は窪み部9の中に収容されるため、吹付けコンクリート2の窪み部以外の平面から突出することがないという点である。このため隣接する鋼製支保工4の間のトンネル壁面には、防水シート10をほぼ平坦に貼り付けることができる。
図1(f)を参照すると、プレート5を含めロックボルト1の頭部が窪み部9の中に納まっている以外は
図1(c)と変わらない。
【0025】
図1(g)を参照すると、吹付けコンクリート2には円筒状に窪んだ窪み部9が設けられ、プレート5はこの窪み部9の中に設けられており、プレート5をナット6で定着した状態でナット6の上部に突出するロックボルト1の頭部も窪み部9の深さを超えて突出することはない。一実施形態ではプレート5の厚みは9mm、ナット6の厚みは15mm、及びナット定着後ナット6からさらに突出するロックボルト頭部の長さは20mmであるのに対し、窪み部9の深さは50mm(>9+15+20)であり、ロックボルト1の頭部は窪み部9の外に突出しないようにしている。もちろんロックボルト1の頭部は窪み部9の外に突出しないという条件の範囲でこれらの寸法は適宜変更可能なことは言うまでもない。
【0026】
また、窪み部9の内径は、プレート5が収まる寸法であればよい。一実施形態ではプレート5は一辺の長さが150mmの正方形であり、その対角長が212mmであるため窪み部9の内径は219mmである。プレート5は正方形に限らず、長方形でも円形でも構わないが、いずれの形状にしても窪み部9の内径は、プレート5の外接円の直径と同じかそれより大きければよく、その関係を満たせばプレート5の形状、窪み部9の内径は適宜変更可能である。
【0027】
吹付けコンクリート2に円筒状の窪み部9を設けることで、吹付けコンクリート2の仕上がり面からロックボルト1の頭部が突出するのを防止することができる反面、窪み部9の内部のナット6の周囲には空洞が発生する。この状態で防水シート10の貼付けを行うと、突起がない分ほぼ平坦に貼り付けられるものの、空洞の部分の防水シート10には支えがないため、覆工コンクリート打設時にこの部分に圧力が加わると防水シート10が窪み部9の中に押し出され破損する可能性がないとは限らない。
【0028】
そこで必要に応じてナット6の周囲の空洞を埋めるように頭部保護部材8を設置する。頭部保護部材8はプラスチック樹脂や発泡スチロールなどで構成され、中央部にナット6が収まる穴を備えた平板状の部材であり、窪み部9の内径よりやや小さい外径の円板状であることが好ましい。頭部保護部材8は頭部保護キャップ7に比べて構造が単純であるため作製しやすく、取り扱いも容易である。また中央部のナット6が収まる穴をナット6の締め付け工具が入る大きさまで広げれば、予めプレート5に貼り付けてからナット6でプレート5と共にロックボルト1に定着することもできる。
【0029】
このように
図1(e)〜(g)に示す実施形態によれば、ロックボルト1を設置しても吹付けコンクリート2の仕上がり面から突出しなくなるため、ロックボルト1の周辺でも防水シート10をほぼ平坦に貼り付けることができ、防水シート10の熱溶着の作業性が向上し、防水シート10の破損を防ぐことができる。
【0030】
ロックボルト1を設置するための挿入孔も窪み部9もともに吹付けコンクリート2に削孔を行うが、実施形態ではどちらの削孔を先に行っても実現可能である。次に、窪み部9の削孔をロックボルト1の挿入孔削孔よりも先に行う先行削孔と、窪み部9の削孔を後とから行う後削孔のそれぞれの場合のトンネル防水シート防護方法を、フローチャートを用いて説明する。
【0031】
図2は、本発明の実施形態による先行削孔を行う場合のトンネル防水シート防護方法を説明するためのフローチャートである。
図2はトンネル掘削後、鋼製支保工4を設置し、トンネル内壁面に吹付けコンクリート2を形成する段階までが終了していることを前提とする。この段階までは従来のトンネル工法と変わりはない。
【0032】
図2を参照すると、段階S210にて吹付けコンクリート2の表面の所定の位置にプレート5を収納する窪み部9を形成する先行削孔を行う。ここで所定の位置とは隣接する鋼製支保工4の間の部分であって、設置するロックボルト1の本数に応じて定められる間隔をもってトンネルの周方向に沿って連続的に配置される位置である。設置するロックボルト1の本数は掘削するトンネルの地山の地盤の状態やトンネルの規模などによって求められる。地山が硬い岩盤でできている場合、ロックボルト1は比較的少なくてもよく、地盤が強固でない場合は多めに設置する。先の
図1(f)では鋼製支保工4の間にロックボルト1を1列配列する形態を示すが、トンネルの軸方向にも所定の間隔で多列のロックボルト1を設置してもよい。先行削孔は、このロックボルト1の配列に合わせた位置に行う。
【0033】
窪み部9を形成するには、プレート5が収納できる内径と、ロックボルト1の頭部が突出しない深さを満たす寸法で削孔する必要がある。即ち、先の実施形態の寸法(窪み部9の内径219mm、深さ50mm)のように比較的大口径で浅い削孔を行う。
先行削孔が終了すると、段階S220にて窪み部9の中心位置にロックボルト1を挿入するロックボルト挿入孔を形成するロックボルト用削孔を行う。
【0034】
ロックボルト用削孔を行う場合、正しく窪み部9の中心に合わせて削孔することが重要である。窪み部9の内径とプレート5の外接円の径との差、即ち合わせ余裕が小さい場合にロックボルト挿入孔が窪み部9の中心からずれるとプレート5が窪み部9内に正しく収まらなくなるからである。ところが窪み部9の中心にロックボルト挿入孔を形成するビットを正しくセットするのは容易ではない。そこで実施形態では後述する専用の親子ビットを使用する。即ち窪み部9を削孔するための親ビットの中央に、ロックボルト挿入孔を削孔するビットに相当する子ビットを突出するように形成したビットであり、先行削孔の際、ロックボルト挿入孔を削孔するガイドとなるガイド穴を同時に加工することができる。このためロックボルト用削孔はロックボルト挿入孔を形成するビットの先端をこのガイド穴に挿入することで容易に窪み部9の中心に位置合わせすることができる。
【0035】
ロックボルト用削孔が終わると、段階S230にてロックボルト挿入孔に定着材を充填してロックボルト1を定着する。ロックボルトを定着する場合、定着材を注入した後からロックボルトを挿入して定着する先注入と、ロックボルトを挿入した後から定着材を注入してロックボルトを定着する後注入の2つの方法がある。いずれの方法も従来からある方法であり本発明に特化したものではないがいずれの方法も本発明の実施に適合可能であり、段階S230はいずれの方法でも構わない。ただ、一般的に定着材の充填性の観点から、先注入法に比べ後注入法ではロックボルト挿入孔の内径を大きくする必要があり、実施形態ではロックボルト挿入孔の内径は、例えば先注入法では40mmであるのに対し後注入法では64mmである。
次に段階S240にて定着されたロックボルト1にプレート5を挿通しプレート5をナット6で定着する。
【0036】
図3は、本発明の実施形態による後削孔を行う場合のトンネル防水シート防護方法を説明するためのフローチャートである。
図3の場合も
図2と同様トンネル内壁面に吹付けコンクリート2を形成する段階までが終了していることを前提とする。
図3を参照すると、段階S310にて吹付けコンクリート2の表面の所定の位置にロックボルト1を挿入するロックボルト挿入孔を形成するロックボルト用削孔を行う。ここで所定の位置は
図2の段階S210に説明した位置に相当する。
【0037】
次いで段階S320にてロックボルト挿入孔と同じ中心軸を有するようにプレート収納用の窪み部9を形成する後削孔を行う。この場合もロックボルト挿入孔と窪み部9の中心軸を合わせることが重要である。
図2で説明した親子ビットを使用し、突出した子ビットをロックボルト挿入孔に挿入しこれをガイドに親ビットで窪み部9を削孔してもよいが、実施形態では逆に子ビットの部分を貫通孔とした大口径リングビットを使用する。通常長い削孔を行う場合、油圧ドリフターなどの削孔装置で、削孔の進行に伴い削孔用のロッドを継ぎ足して延伸させながら行う。この際、削孔装置ロッド受け台に予め大口径リングビットをセットしておき、削孔用のロッドは大口径リングビット中心の貫通孔を通して削孔装置に取り付け、継ぎ足し用のロッドもこの貫通孔を通過するようにする。ロックボルト挿入孔削孔の最後の段階で大口径リングビットをアタッチメントにより削孔装置に接続し後削孔を行う。こうすることで削孔用のロッドが中心の貫通孔を貫通した状態で後削孔を行うことができるため、ロックボルト挿入孔と窪み部9の中心軸を一致させることができる。
【0038】
図4は、本発明の実施形態によるトンネル防水シート防護方法のプレート取り付け後の後処理を説明するためのフローチャートである。先行削孔の場合も後削孔の場合もプレート5をナット6で定着した状態は同じ断面形状となり、ロックボルト頭部が、プレート5、ナット6と共に吹付けコンクリート2の窪み部9に収まった状態となる。この状態で考慮すべき点は、吹付けコンクリート2の強度である。窪み部9を設けることにより、吹付けコンクリート2が部分的に薄くなるため強度不足となることが懸念される。
そこで窪み部9形成後の吹付けコンクリート2の残り厚さにより処理を変更する。
【0039】
図4を参照すると、段階S410にて、先行削孔又は後削孔後の窪み部9における吹付けコンクリート2の残存する吹付け厚が、設計吹付け厚を満たしているか否かを判断する。
設計吹付け厚を満たしている場合は、強度的に問題はないので
図1(g)に示すようにナット6の周囲の空洞は発泡スチロールなどで構成した頭部保護部材8を設置することで防水シート10貼付け前の下地が完成する(段階S420)。
一方段階S410で設計吹付け厚を満たしていないと判断される場合は、段階S430で吹付けコンクリート2の強度と同等の強度を有する充填材で窪み部9を埋戻し充填する。
段階S420又は段階S430で、窪み部9をほぼ平坦にした後は段階S440で防水シート10貼付けを行う。
【0040】
図5は、本発明の実施形態による先行削孔に使用する親子ビットを示す図である。
図5を参照すると、親子ビット11はプレート収納用の窪み部9を形成する外径の大きい親ビット14と、親ビット14と中心軸を同じくして親ビット14に固定され、親ビット14の外径サイズより小さい外径サイズの子ビット12を備える。子ビット12の先端は親ビット14の先端より一定距離軸方向に突出するように設置されている。子ビット12の外径はロックボルト挿入孔を削孔するビットの外径と合わせるのが好ましい。
このため例えば先に示した実施形態のように、親ビットの外径が219mmに対し子ビットの外径は先注入法では40mm、後注入法では64mmとなり、定着材の注入方法により親子ビットの外径比は異なる。
【0041】
親ビット14は完全な円形状ではなく外周の一部が研削したコンクリートを排出するために切り欠いてある。
図5では切り欠きは中心角120°の間隔で3か所に設けてあるが、この形態に限定されることはなく、研削したコンクリートが排出されれば切り欠きの数や形状は適宜変更することができる。
図5に示す親子ビット11のコンクリートを研削する先端のツール部分は直線状のエッジタイプで示したが、球状のツールを配列したボールタイプでもよい。
【0042】
親子ビット11を使用して先行削孔を行うと、先ず先端に突出している子ビット12が吹付けコンクリート2のロックボルト挿入孔に相当する位置に削孔を行い、子ビット12の突出量に相当する深さまで削孔が進むと親ビット14が吹付けコンクリート2の表面に達するので、それ以降は子ビット12による削孔と親ビット14による削孔が同時に行われる。窪み部9の深さまで削孔すると先行削孔が終了する。そこで親ビット14の厚さを窪み部9の深さと同じ寸法にしておき、親ビット14の後方にストッパー18を設け必要以上に深く削孔できないような構造としてもよい。ストッパー18としては例えば親ビット14より外径の大きい円板を親ビット14に合わせた形状の切り欠きを設けて一体固定したものでもよいし、窪み部9の深さまで削孔が完了したときに電気信号を発生するようなスイッチなどでもよく、又親ビット14による削孔距離が判別できる光学センサなどでもよい。
【0043】
親子ビット11による削孔が終了すると、吹付けコンクリート2には、窪み部9が形成され、窪み部9の中央には窪み部9と中心軸を同じくするロックボルト挿入孔の一部がガイド穴として形成される。このためロックボルト挿入孔の削孔の際は、ロックボルト挿入孔を形成するビットの先端を、このガイド穴に挿入することで容易に窪み部9の中心に位置合わせすることができる。
【0044】
図6は、本発明の他の実施形態による先行削孔に使用する親子ビットを示す図である。
図6を参照すると、親子ビット20は、親ビット24と子ビット22とガイドロッド26とを備える。親ビット24と子ビット22は
図5に示す親ビット14と子ビット12と同じである。親子ビット20が親子ビット11と相違するのは子ビット22の親ビット24からの突出量を増加させるガイドロッド26を備える点である。
【0045】
前述のように窪み部9とロックボルト挿入孔の中心軸を合わせることが重要であり、親子ビット11を使用すればガイド穴を使って容易に窪み部9の中心に位置合わせすることができるが、ロックボルト挿入孔を削孔する方向がずれてしまうと、ロックボルト1が窪み部9底面と垂直に設置できなくなるため、プレート5をナット6で定着する際、片当たりしてしまい均等に定着できなくなる。親子ビット20はガイド穴がガイドロッド26の長さ分深く形成できるため、ロックボルト挿入孔を形成するビットの方向が制約され、窪み部9底面と垂直方向に正しくロックボルト用削孔を行うことができる。親子ビット20にも親子ビット11と同様のストッパー28を設置してもよい。
親子ビット11、親子ビット20のような専用の削孔ビットを使用することで本発明によるトンネル防水シート防護方法を容易に実施することができる。
【0046】
図7は本発明の実施形態による後削孔システムの概要を示す図である。
図7を参照すると、油圧ドリフター76が油圧ドリフター76の水平移動を支える支持部材であるガイドセル77の上に設置され、ガイドセル77の先端部には削孔装置ロッド受け台78が備えられる。窪み部9を削孔する大口径リングビット70は、予め削孔装置ロッド受け台78にセットされる。ロックボルト用削孔は削孔用のロッド71を大口径リングビット70の中心の貫通孔を通して油圧ドリフター76に接続して行う。削孔が進むに従い継ぎ足すロッド71も同様に大口径リングビット70の中心の貫通孔を通るようにセットして削孔が進む。
【0047】
最後のロッドを継ぎ足す時にロッド71を保持しつつ、大口径リングビット70も保持する特殊アタッチメント72により、大口径リングビット70も油圧ドリフター76に接続され、窪み部9が形成される。
窪み部9の削孔が終了すると油圧ドリフター76を引き戻しながら削孔装置ロッド受け台78に格納してから特殊アタッチメント72を取り外す。この方法によりロックボルト用削孔と窪み部9の削孔が同軸となるように進めることができ、片当たり無くプレートを取り付けられるので良好な支保工の設置が可能となる。
【0048】
図8は本発明の実施形態による後削孔に使用する削孔用ツールを示す図であり、中心軸を含む平面に沿った断面を示す。
図8を参照すると、削孔用ツール80はプレート収納用の窪み部を形成するリング状に形成された大口径リングビット81と、大口径リングビット81を削孔用装置に取り付けるための特殊アタッチメント85とを備える。大口径リングビット81は、大口径リングビットの中心軸に沿って設けられロックボルト用削孔に使用するビットを接続したロッド90を貫通させる貫通孔82と、大口径リングビットの中心軸に沿って前記貫通孔に連続して設けられた特殊アタッチメント85との接続用ネジ穴83とを備える。
【0049】
特殊アタッチメント85は、特殊アタッチメント85の中心軸に沿って設けられ前記ロックボルト用削孔に使用するビットを接続したロッド90を貫通させる貫通孔86と、一端の外周部に設けられた大口径リングビット接続用ネジ部87と、他端の内周部に設けられた削孔用装置接続用ネジ部88とを備える。即ち大口径リングビット81と特殊アタッチメント85とはネジによって着脱可能に組み合わされる。
図7を参照して説明したように、プレート収納用の窪み部を形成する直前までは特殊アタッチメント85は取り外しておくことにより、ロッド継ぎ足しの際油圧ドリフターの引き戻し距離を必要以上に長くしなくて済むので、ロッドの継ぎ足しが容易となる。
また特殊アタッチメント85も、取付時にはロッド90が貫通孔の中に挿入されるため、大口径リングビット81の接続用ネジ穴83は特殊アタッチメント85の肉厚分貫通孔82より径が大きくなる。
【0050】
一方、
図8では明示していないが、油圧ドリフターの主軸89の先端は軸中心にロッド90を取り付けるためのネジ穴を備えた管状になっており、特殊アタッチメント85の削孔用装置接続用ネジ部88は、油圧ドリフターの主軸89の外周に設けられたネジ部と組み合わされて取り付けられる。したがって削孔用装置接続用ネジ部88の径も貫通孔86の径より大きくなるよう形成される。最後のロッドを継ぎ足す時に主軸89にはロッド90と特殊アタッチメント85を同時に取り付けることができ、ロックボルト用削孔とプレート収納用の窪み部の削孔を同時にかつ同軸で行うことができる。
また先行削孔用のビットと同様、大口径リングビットにも所定深さ以上の削孔を防止するため例えばストッパー91を備えてもよい。
このように専用のツールを使用することにより、後削孔も容易に実行することができ、確実にトンネル防水シートの損傷を防止することが実現できる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。