特許第6676518号(P6676518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブルーカー バイオスピン ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許6676518-超伝導磁石コイルシステム 図000002
  • 特許6676518-超伝導磁石コイルシステム 図000003
  • 特許6676518-超伝導磁石コイルシステム 図000004
  • 特許6676518-超伝導磁石コイルシステム 図000005
  • 特許6676518-超伝導磁石コイルシステム 図000006
  • 特許6676518-超伝導磁石コイルシステム 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6676518
(24)【登録日】2020年3月16日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】超伝導磁石コイルシステム
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/02 20060101AFI20200330BHJP
【FI】
   H01F6/02
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-251277(P2016-251277)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2017-168816(P2017-168816A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年1月21日
(31)【優先権主張番号】10 2015 122 879.3
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】595068254
【氏名又は名称】ブルーカー バイオスピン ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Bruker BioSpin GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング フランツ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ヴィカス
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0065584(US,A1)
【文献】 特開平11−102808(JP,A)
【文献】 特開平01−278003(JP,A)
【文献】 特開2005−353777(JP,A)
【文献】 特開2006−073571(JP,A)
【文献】 特開2009−164167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超伝導材料を備える少なくとも1つの導体をもつ少なくとも1つの第1の主コイル部分(1)と、第2の超伝導材料を備える少なくとも1つの導体をもつ少なくとも1つの第2の主コイル部分(2)とを備える超伝導磁石コイルシステムであって、
前記第1の超伝導材料は前記第2の超伝導材料よりも高い臨界温度を有し、
前記第1および前記第2の主コイル部分(1、2)は、動作中に電流がそれらの中を同じ方向に流れるような方法で直列に互いに接続され、
前記第1の主コイル部分(1)および前記第2の主コイル部分(2)は、共通の第1のクエンチ保護要素(6、6’)によってブリッジされ、前記第1のクエンチ保護要素(6、6’)とともに第1の電気ループを形成し、
前記超伝導磁石コイルシステムは、第2の電気ループの一部である超伝導材料から作られた導体をもつ少なくとも1つの第3の主コイル部分を備え、前記第2の電気ループは第2のクエンチ保護要素(8、8’、8’’)を備え、前記第1の電気ループに直列に接続され、
前記超伝導磁石コイルシステムは、前記第1の電気ループ内の前記電流の低減のために加熱電圧を供給され得る少なくとも1つの第1の加熱要素(9)を備え、
前記第1の電気ループの前記直列接続された主コイル部分(1、2)のうち前記第2の主コイル部分(2)のみが前記第1の加熱要素(9)と熱的に接触していることを特徴とする超伝導磁石コイルシステム。
【請求項2】
前記第1の主コイル部分(1)は、好ましくは、前記超伝導磁石コイルシステムのすべての前記主コイル部分(1、2、3、4、14)のうち最も高い臨界温度を有する前記主コイル部分であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項3】
前記第1の超伝導材料はHTS材料であることを特徴とする請求項1または2に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項4】
前記第2の超伝導材料はLTS材料、好ましくはNbTiまたはNb3Snであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項5】
前記第2のクエンチ保護要素(8、8’、8’’)は前記第3の主コイル部分(3)をブリッジすることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項6】
前記第1の主コイル部分および前記第2の主コイル部分は半径方向において互いの直後にくることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項7】
前記第2のクエンチ保護要素(8’’)は、前記第3の主コイル部分(3)と、超伝導材料から作られた導体をもつ第4の主コイル部分(14)とを備える直列接続をブリッジし、前記第4の主コイル部分(14)の前記超伝導材料は、前記第3の主コイル部分(3)の前記超伝導材料よりも高い臨界温度を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項8】
前記超伝導磁石コイルシステムは、前記第2の電気ループ中の前記電流の低減のために加熱電圧を供給され得る少なくとも1つの第2の加熱要素(6’)を備え、前記第2の電気ループの前記直列接続された主コイル部分(3、14)のうち前記第3の主コイル部分(3)のみが前記第2の加熱要素(6’)と熱的に接触していることを特徴とする請求項7に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項9】
前記第2のクエンチ保護要素(8、8’’)は前記第1の加熱要素(9)として機能することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項10】
前記第1のクエンチ保護要素(9)は前記第2のクエンチ保護要素(8’)に並列に接続されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項11】
前記主コイル部分のうちの少なくとも1つ、特に前記第1の主コイル部分(1)を監視するクエンチ診断要素(12)を備える加熱制御デバイス(10)が設けられ、前記監視された主コイル部分(1)のクエンチ発生時、前記加熱制御デバイス(10)は追加の加熱要素(11)に電圧を供給し、直列に接続された前記第1の電気ループの前記主コイル部分(1、2)のうち前記第2の主コイル部分(2)のみが前記追加の加熱要素(11)と熱的に接触していることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項12】
前記主コイル部分(1、2、3、4、14)は半径方向において互いに入れ子状に配置されることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項13】
前記第1の主コイル部分(1)は、磁石コイル配置の最も内側の主コイル部分であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項14】
前記第1の加熱要素は、前記超伝導磁石コイルシステムの動作中に臨界電流Iに対する磁石電流Iの比I/I前記第2の主コイル部分内で最も大きい位置に配置されることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項15】
前記超伝導磁石コイルシステムは超伝導NMR磁石コイルシステムであることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステム。
【請求項16】
前記第1の電気ループ中の前記第2の電気ループの主コイル部分のクエンチ発生時、前記第1の加熱要素によってもっぱら前記第2の主コイル部分が加熱されることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の超伝導磁石コイルシステムを動作させるための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の超伝導材料を備える少なくとも1つの導体をもつ少なくとも1つの第1の主コイル部分と、第2の超伝導材料を備える少なくとも1つの導体をもつ少なくとも1つの第2の主コイル部分とを備える超伝導磁石コイルシステムであって、第1の超伝導材料は第2の超伝導材料よりも高い臨界温度を有し、第1および第2の主コイル部分は、動作中に電流がそれらの中を同じ方向に流れるような方法で直列に互いに接続され、第1の主コイル部分および第2の主コイル部分は、共通の第1のクエンチ保護要素によってブリッジされ、クエンチ保護要素とともに第1の電気ループ(保護ネットワークループ)を形成し、第2の電気ループの一部である超伝導材料から作られた導体をもつ少なくとも1つの第3の主コイル部分を備え、第2のループは第2のクエンチ保護要素を備え、第1のループに直列に接続される超伝導磁石コイルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
このような磁石コイルシステムは、例えば独国特許出願公開第10 2009 029 379 B4号明細書から知られる。
【0003】
従来の超伝導NMR磁石コイルシステムでは、通常、NbTiおよびNbSnワイヤが使用され、これにより、NMR磁石コイルシステムの磁界強度が現在約23.5Tに限定される。より高い磁界強度を達成するために、または所定の磁界強度をもつ磁石コイルシステムをよりコンパクトに構成するためには代替の導体材料を使用する必要がある。これに関連して、HTSストリップ導体(例えばYBCOストリップ)の使用が主に調査されている。この場合、磁石コイルシステムは完全にHTS材料から製造されるとは限らない。コストの理由で、HTS材料を最も内側の部分にのみ使用し、背景磁石を従来の「低温超伝導体」(LTS)技術(NbTiまたはNbSn)で製造することが有利である。
【0004】
しかしながら、新しいHTS材料は、超伝導磁石のクエンチ保護に特殊な要件を課す。「クエンチ」は、電流搬送超伝導体の過負荷による、超伝導状態から常伝導状態への磁石コイルの自発遷移を示す。クエンチは通常、局所的および自発的に始まり、次いで、数秒のうちに磁石中に伝搬する。この事象は、超伝導体における高い電圧、電流および力に関連することがあり、これによって今度は磁石が破壊され得る。
【0005】
NMR磁石のための典型的なクエンチ保護回路では、個々のセクションまたは個々のセクションのゾーンが保護抵抗器と並列に接続され、これにより、保護ネットワークのループが形成される。異なる保護ネットワークループがさらに直列に接続される。このようにして、クエンチ持続時間およびクエンチ電圧を低く保つことが可能である(Wilson “Superconducting magnets”, Chapter 9.8, pages 226ff, 1983, Oxford University Pressを参照)。
【0006】
しかしながら、典型的なHTSの性質は、クエンチの場合に悪影響を受ける。HTS材料の高い臨界温度(零磁界:YBCO 約90K、NbSn 約18K、NbTi 約10K)は、クエンチが背景磁石のNbTiまたはNbSn部分において始まるとき、遅い「コクエンチング(co-quenching)」を招く。コクエンチングは、(例えば保護ネットワークループへの細分化の場合の)クエンチ保護の概念に応じて、HTSセクションにおいて電流または力を増加させる。その上、HTSセクションにおける遅いクエンチ伝搬は局所的過熱を招き、これにより、今度は導体の焼損が引き起こされることがある。したがって、超伝導体が遅くクエンチするループでは、電流および力の増加が起こり得、それにより、場合によっては超伝導体に過負荷がかけられる。
【0007】
独国特許出願公開第10 2009 029 379号明細書は、磁石クエンチ(例えばHTS)の開始後に遅くのみクエンチする各セクションが、高速にまたは早くクエンチするコイル部分とともに共通ループにおいて保護される磁石コイルシステムを開示している。その結果、通常ならば極めて遅くクエンチするHTSセクションにおける電流の増加(または焼損)を防止するために、通常ならば遅くクエンチするループにおける電流の増加が防止される。
【0008】
電流の増加を回避するために、さらなる加熱によってクエンチを開始することが、米国特許出願公開第7649720 B2号明細書から知られている。HTS導体における活動的クエンチ伝搬の改善は、HTS巻回において多くの大規模な加熱器を使用することによって実現される。しかしながら、これの欠点は、クエンチ発生時、HTSセクションが依然として破壊される危険があることである。その上、追加の加熱器を用いたこれらのセクションの巻回中の製造コストは極めて高く、これらのセクションによって生成される磁界の均一性は、複数の加熱器と、関連する巻回の非真円度とによって損なわれ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、小さい外形寸法をもつ磁石コイルシステムであって、その外形寸法にもかかわらず高い磁界強度を達成することができ、クエンチ事象に対して耐性を有する、磁石コイルシステムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、本発明によれば、請求項1に記載の磁石コイルシステムによって、および請求項16に記載の方法によって達成される。
【0011】
本発明によれば、磁石コイルシステムは、特に第3の主コイル部分のクエンチ発生時、第1のループ中の電流の低減のために加熱電圧を供給され得る少なくとも1つの第1の加熱要素を備え、第1のループの直列接続された主コイル部分のうち第2の主コイル部分のみが第1の加熱要素と熱的に接触している。
【0012】
このようにして、本発明に係る磁石コイルシステムの第1の加熱要素は、第1のループ中の電流が低減されるべきである場合、特に第3の主コイル部分がクエンチする場合、加熱電圧を供給されるように構成される。
【0013】
第1の主コイル部分のより高い臨界温度のために、および同程度の導体負荷IMagnet/Icの場合(Icは超伝導体の臨界電流を示し、導体の位置における磁界に依存する)、クエンチは、第1の主コイル部分では、第2の主コイル部分よりも緩やかに伝搬し、それにより、クエンチ発生時、第1の主コイル部分の超伝導体の損傷につながり得る。本発明に係る配線および加熱により、第1および第2の主コイル部分の直列接続内における(クエンチがどこで発生するかに拘わらず)クエンチ発生時、最も低い臨界温度を有する(すなわち、最も高速にクエンチする)主コイル部分のみが加熱される。したがって、第2の主コイル部分には早期にクエンチが発生し、これにより、第1の主コイル部分において電流が著しく増加し得る前に、第1のループにおいて電流が低減される。
【0014】
本発明に係る磁石コイルシステムでは、より高い臨界温度をもつ主コイル部分(第1の主コイル部分)は、クエンチ発生時に破壊され得る確率が高いため加熱されないが、同じループ中にあり、より低い臨界温度をもつ第2の主コイル部分のみが加熱される。したがって、第2の主コイル部分は第1の主コイル部分とともに急速に放電することができ、これにより、(好ましくはHTS材料から作られた)第1の主コイル部分におけるクエンチは回避可能であるかまたは危険性が低い(HTSセクションがクエンチするとしても、電流が十分急速に降下する場合、損傷は生じない)。
【0015】
第1の加熱要素と第2の主コイル部分との間の熱的接触は、好ましくは熱伝導接触によってもたらされる。本発明に係る加熱要素は、例えば、加熱されるべき主コイル部分の2つの層の間の巻回パックにはめこまれた加熱器フィルムを備えることができる。この目的のために、極めて薄いマンガニンワイヤの加熱器巻回が蛇行パターンで配置され得、例えば2つの薄いカプトンフィルム間に接着され得る。
【0016】
第1の主コイル部分および第2の主コイル部分は、第2の主コイル部分が第1の主コイル部分とは独立して加熱されクエンチされ得るように、好ましくは空間的に分離される(異なる巻型)。主コイル部分は、主コイルセクション、または主コイルセクションの一部を備えることができる。
【0017】
好ましい実施形態
第1の主コイル部分は、好ましくは、磁石コイルシステムのすべての主コイル部分のうち最も高い臨界温度を有する主コイル部分である。
【0018】
特に好ましい実施態様では、第1の超伝導材料はHTS材料である。HTS材料は、特に他の超伝導体が電流搬送能力を有しないかまたは有意な電流搬送能力を有しない高磁界ゾーン内で使用するための磁石コイルシステムにおいて使用される。しかしながら、HTS材料は、例えば磁石コイルシステムのコンパクトな構成をつくり出すために、中間磁界ゾーン内でも有利に使用され得る。本発明の利点は、高い臨界温度のためにクエンチがHTS材料内で極めて緩やかに伝搬するので、HTS材料が使用され、その結果、クエンチ中にHTS材料が(電流および/または過熱の増加によって)容易に損傷を受け得るときに特に効果的であり、これは、本発明によって防止される。
【0019】
しかしながら、LTS材料が第1の超伝導材料として使用されるときでも、本発明は、より高い臨界温度(Tc)または特に低い負荷(極めて小さい値IMagnet/Ic)のために第1の材料が第2の材料よりも緩やかにまたは後にクエンチする場合、好ましい効果を有する。したがって、例えば、第2の主コイル部分(NbTi)の本発明に係る加熱と組み合わせた、第1の主コイル部分としてのNbSn主コイル部分と、第2の主コイル部分としてのNbTi主コイル部分との共通接続は、NbSn部分の直接加熱よりもNbSn保護のためにより好都合であり得る。
【0020】
第2の超伝導材料は、好ましくはLTS材料、特にNbTiまたはNbSnである。
【0021】
特に好ましい実施態様では、第2のクエンチ保護要素は第3の主コイル部分をブリッジする。この場合、第3の主コイル部分は、好ましくはLTS材料、特にNbTiまたはNbSnを備える。
【0022】
第1の主コイル部分および第2の主コイル部分は、好ましくは半径方向において互いの直後にくる。したがって、第1のループの2つの隣接する主コイル部分は、特に簡易に互いに接続され得る。代替として、第2のまたはさらなる電気ループの主コイル部分は、半径方向において第1の主コイル部分と第2の主コイル部分との間に配置され得る。
【0023】
特殊な実施形態では、第2のクエンチ保護要素は、第3の主コイル部分と、超伝導材料から作られた導体をもつ第4の主コイル部分とを備える直列接続をブリッジし、第4の主コイル部分の超伝導材料は、第3の主コイル部分の超伝導材料よりも高い臨界温度を有する。第3および第4の主コイル部分は、動作中に電流がそれらの中を同じ方向に流れるような方法で直列に互いに接続される。第1および第4の主コイル部分は、好ましくは同じ(第1の)超伝導材料、特にHTS材料を備え、第2および第3の主コイル部分は、同じ(第2の)超伝導材料、特にLTS材料を備える。したがって、本実施形態では、磁石コイル配置のHTS材料が、2つのループにわたって分配され、各ループ内で、LTS材料から作られた主コイル部分とともに保護される。HTS層が2つのループにわたって分配されるとき、個々のループ各々のインダクタンス、ひいては電流の減衰時間は低減され得る。これは、HTSセクションが高いインダクタンスを有し、これによってクエンチ発生時に対応するループ内の電流が緩やかに低減することを保証するはずであるため、HTSセクションが多くの層とともに使用される場合に特に興味深い。
【0024】
特に有利な実施形態では、磁石コイルシステムは、特に第1のループ内の第2の主コイル部分のクエンチ発生時、第2のループ内の電流を低減するために加熱電圧を供給され得る少なくとも1つの第2の加熱要素を備え、第2のループの直列接続された主コイル部分のうち第3の主コイル部分のみが第2の加熱要素と熱的に接触している。したがって、第2の加熱要素は、第2のループ内の電流が低減されるべきである場合、特に第2の主コイル部分がクエンチする場合、加熱電圧を供給されるように構成される。第1の加熱要素の接続と同様に、第3および第4の主コイル部分の直列接続で説明したように接続された第2の加熱要素は、クエンチの場合、最も低い臨界温度を有し、したがって最も速くクエンチする、第2のループの主コイル部分(第3の主コイル部分)のみを加熱する。したがって、第3の主コイル部分には早期にクエンチが発生し、これにより、第4の主コイル部分において電流が増加し得る前に、第2のループにおいて電流が低減される。
【0025】
第2のクエンチ保護要素は、好ましくは第1の加熱要素として機能する。特に、第2のクエンチ保護要素は抵抗器として形成され得、クエンチ発生時に抵抗器から放たれる熱が、第2の主コイル部分を加熱するために使用される。同様に、第1のクエンチ保護要素は第2の加熱要素として機能することができる。
【0026】
代替実施形態では、第1の加熱要素は第2のクエンチ保護要素に並列に接続される。同様に、第2のクエンチ保護要素は第1の加熱要素に並列に接続され得る。
【0027】
クエンチ発生時、加熱要素によって、または加熱要素に並列に接続されたクエンチ保護要素によってブリッジされた主コイル部分の当該加熱要素には、電圧が自動的に供給される。
【0028】
また、さらなるクエンチ保護要素によってそれぞれブリッジされた、複数のさらなる主コイル部分があり得る。この場合、これらのさらなるクエンチ保護要素はそれぞれ、(特に第2または第3の主コイル部分のための)高い臨界温度をもつ主コイル部分として同じループ内に位置する、低い臨界温度をもつ主コイル部分のための加熱要素として働くことができるか、あるいは加熱要素は、これらのさらなるクエンチ保護要素のうちの少なくとも1つに、好ましくはすべてのさらなるクエンチ保護要素に並列に接続され得る。
【0029】
磁石システムの充電/放電中に、第1の加熱要素と熱的に接触している第2の主コイル部分内への熱の導入を回避するために(交差された)ダイオードが使用され得る。その後、電流は、充電/放電中に電圧降下を上回っているがクエンチ発生時に極めて急速に超過する、しきい値電圧を超過したときのみ流れる。
【0030】
本発明による磁石コイルシステムの特に好ましい実施形態は、主コイル部分のうちの少なくとも1つ、特に第1の主コイル部分を監視するクエンチ診断要素を備える加熱制御デバイスが設けられることを提供し、監視された主コイル部分のクエンチ発生時、加熱制御デバイスは追加の加熱要素に電圧を供給し、直列に接続された第1のループの主コイル部分のうち第2の主コイル部分のみが追加の加熱要素と熱的に接触している。このような「能動的クエンチ管理」にとって、HTS材料から作られた第1の主コイル部分(HTSセクション)が極めて特に興味深い。第1の主コイル部分におけるクエンチ発生時、クエンチ診断要素は、好ましくは第1のクエンチ保護要素にわたる電圧降下を検出する。この信号は、次いで、第2の主コイル部分内の加熱要素を作動させるために、ひいては第2の主コイル部分におけるクエンチを高速化するために、および第1の主コイル部分に対する負荷を急速に低減させるために使用され得る。したがって、第1の主コイル部分がHTS主コイル部分として設計され、たとえ(緩やかに)クエンチし始めても、それに伴う電圧上昇はクエンチ診断要素のためのトリガとして使用され、クエンチ診断要素は、次いで、(HTS主コイル部分とともに接続された)別の主コイル部分における高速クエンチを開始することができる。
【0031】
複数のHTS主コイル部分が異なるループ内に存在する場合、複数の診断タップが好適に提供される(HTS材料をもつループごとに1つ)。
【0032】
クエンチ診断要素によって別の主コイル部分を監視することも可能であり、クエンチ診断要素は、クエンチ発生時、第2の主コイル部分と熱的に接触している加熱要素に電圧を供給する。その上、クエンチ保護要素として設計された加熱要素を作動させるには十分でない程度に電圧がまだ極めて小さい限り、クエンチを検出することがすでに可能であり、対応して迅速に反応することが可能である。
【0033】
複数のHTS主コイル部分が提供される場合、主コイル部分のうちの1つを監視する第2のクエンチ診断要素を備える、第2の加熱制御デバイスが提供されると有利であり、加熱制御デバイスは、監視された主コイル部分のクエンチ発生時、第1または第2の加熱要素に電圧を供給する。
【0034】
主コイル部分は、特に同心円状に配置されたソレノイドコイル部分として、半径方向において互いに入れ子状に配置される。
【0035】
より高い臨界温度をもつ第1の主コイル部分は、第2の主コイル部分よりも半径方向においてさらに内側に好適に配置される。特に好ましい実施形態では、第1の主コイル部分は、磁石コイル配置の最も内側の主コイル部分である。
【0036】
超伝導体が磁石コイルシステムの動作中に最も高いIc負荷を有する位置において加熱要素が第2の主コイル部分内に配置される場合、特に有利である。したがって、加熱要素は、臨界電流Iに対する磁石電流Iの比I/Iが第2の主コイル部分内で最も大きい位置に配置される。これは、概して、臨界電流が最も小さい位置になる。臨界電流は、今度は、導体の位置における磁界に依存する。磁界が強くなるほど、臨界電流はより小さくなる。しかしながら、臨界電流の大きさは導体における超伝導体材料の割合にも依存する。原則として、低磁界において低割合の超伝導体材料をもつ導体は、高磁界において極めて大量の超伝導体材料をもつ導体よりも高いI負荷を有し得る。したがって、比I/Iは特定の超伝導体にとって重要である。しかしながら、最も大きい容量をもつ導体はまた、通常、それぞれの超伝導材料の最も強い磁界内にある。
【0037】
本発明に係る磁石コイルシステムは、好ましくは超伝導NMR磁石コイルシステムである。最も強い磁界を達成可能とするためには最も内側の主コイル部分にHTS材料を使用する必要があり、当該最も内側の主コイル部分は、クエンチ発生時、本発明に係る保護回路によって過熱または力過負荷に対して特に効果的に保護され得る。
【0038】
本発明はまた、第2の電気ループの主コイル部分のクエンチ発生時、第1の加熱要素によってもっぱら第2の主コイル部分が加熱されることを特徴とする、前述の超伝導磁石コイルシステムを動作させるための方法に関係する。
【0039】
本発明のさらなる利点は本明細書および図面によって開示される。同様に、上記で言及した特徴および本明細書で提示するさらなる特徴は、本発明に従ってそれぞれ単独で使用され得るか、あるいはいくつかが任意の組合せで使用され得る。図示および説明する実施形態は、決定的な記載としてではなく、むしろ本発明の説明のための例として理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1a】第2のループのクエンチ保護要素が加熱要素として機能する、本発明に係る磁石コイルシステムの一実施形態の概略縦断面図である。
図1b図1aによる配置の回路図である。
図2】加熱要素が第2のループのクエンチ保護要素に並列に接続された、本発明による磁石コイルシステムの第2の実施形態の概略縦断面図である。
図3】追加の加熱要素が、クエンチ診断要素をもつ加熱制御デバイスによって制御される、本発明に係る磁石コイルシステムの第3の実施形態の概略縦断面図である。
図4a】HTS主コイル部分をもつ保護ネットワークの複数のループが設けられた本発明に係る磁石コイルシステムのさらなる実施形態の概略縦断面図である。
図4b図4aによる配置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1a、図1bおよび図2は、第1の超伝導材料から作られた第1の主コイル部分1(HTS主コイル部分)と、第2の超伝導材料から作られた第2の主コイル部分2(内側NbTi主コイル部分)と、第3の主コイル部分3と、さらなる主コイル部分4とをもつ磁石コイル配置であって、さらなる主コイル部分4は、超伝導材料としてNbSnを備え、半径方向において第1の主コイル部分1と第2の主コイル部分2との間に配置される磁石コイル配置の2つの実施形態を示す。第1の主コイル部分1および第2の主コイル部分2は、それらが直列電気的接続で互いの直後にくるような方法で直列に互いに接続される。第3の主コイル部分3は、超伝導材料としてNbTiを備え、主コイル5の半径方向において最も外側の主コイル部分を形成する。第1の主コイル部分1および第2の主コイル部分2は、共通の(第1の)クエンチ保護要素6によって保護され、この要素とともに保護ネットワークループ(第1の電気ループ)を形成する。このようにして、HTS主コイル部分1および内側NbTi主コイル部分2は互いに接続される。第3の主コイル部分3は第2のクエンチ保護要素8によって保護され、さらなる主コイル部分4はさらなるクエンチ保護要素7によって保護され、第3の主コイル部分3は第2のクエンチ保護要素8とともに第2の保護ネットワークループを形成し、さらなる主コイル部分4はさらなるクエンチ保護要素7とともにさらなる保護ネットワークループを形成する。
【0042】
磁石クエンチが内側NbTi主コイル部分2において開始した場合、クエンチしているNbTi主コイル部分2とHTS主コイル部分1とを備える、第1の保護ネットワークループにおける磁石電流は、直ちに降下する。外側NbTi主コイル部分3(またはNbSn主コイル部分4も)がクエンチした場合、内側NbTi主コイル部分2も、典型的にはそれのIc容量限界において動作されるので、すぐにクエンチする。しかしながら、この時間遅延は短いものにすぎないが、HTS主コイル部分1における電流の増加と、第1の主コイル部分1のHTS材料の破壊とを招き得る。これを防止するために、本発明によれば、クエンチが別の主コイル部分において(この場合は外側NbTi主コイル部分3において)起きた場合、内側NbTi主コイル部分2におけるクエンチが加速するように、もっぱら内側NbTi主コイル部分2を加熱する加熱要素9が提供される。このようにして、電流および入熱の増加、ひいてはHTS材料におけるクエンチの危険が回避される。
【0043】
したがって、HTS主コイル部分1はNbTi主コイル部分2とともに保護され、磁石クエンチ発生時、第2の主コイル部分2におけるクエンチ伝搬は、本発明によれば、第2の主コイル部分2を加熱することによって加速される。
【0044】
図1に示されている実施形態では、(第2の)クエンチ保護要素8は外側NbTi主コイル部分3の第1の加熱要素9として機能し、したがって、クエンチ発生時、熱は、クエンチ保護要素8によって第2の主コイル部分2に直接導入される。対応する回路図が図1bに示されている。ただし、NbTi主コイル部分3のためのクエンチ保護要素8’を提供することも可能であり、このクエンチ保護要素は加熱要素として働かないが、図2に示されているように、加熱要素9に並列に電気的に接続される。クエンチ発生時、電圧降下は、クエンチ保護要素8’上および加熱要素9上で同じであるので、この実施形態では、クエンチ発生時、第2の主コイル部分2への入熱も直ちに起こる。
【0045】
同様に、さらなる主コイル部分4におけるクエンチ発生時、内側NbTi主コイル部分2におけるクエンチ加速するために、さらなるクエンチ保護要素7も加熱要素として機能することができ、あるいは加熱要素(図示せず)に並列に接続され得る。
【0046】
このようにして、本発明に係る磁石コイル配置は、第2のループの主コイル部分3のクエンチ発生時、HTS主コイル部分1自体におけるクエンチ伝搬速度にかかわらず、HTS主コイル部分1における電流がその場合急速に減少することができるので、第1のループにおいてHTS主コイル部分1とともに保護されるNbTi主コイル部分2を加熱/クエンチすることによってHTS主コイル部分1における電流の低減が加速される。
【0047】
図3は、加熱制御デバイス10(能動的電子システム)がさらに設けられた一実施形態を示す。本実施形態では、磁石クエンチがHTS主コイル部分1において開始した場合、それのクエンチ電圧は、第2の主コイル部分2を(能動的に)クエンチするためのトリガとして使用され得、それによって、共通の第1のループ中の電流減衰が加速される。結果として、HTS主コイル部分における低いクエンチ伝搬速度が問題を呈することはなくなる。この目的のために、第1の(HTS)主コイル部分1のクエンチ発生時、加熱制御デバイス10は、追加の加熱要素11によって第2の主コイル部分2への入熱を実施する。この目的のために、クエンチ診断要素12は、HTS主コイル部分1のクエンチ保護要素6全体の電圧降下を検出する。限界値(クエンチの発生)を超過したとき、加熱制御要素13は加熱要素11を作動させる。したがって、クエンチ発生時、HTS主コイル部分1自体におけるクエンチ伝搬にかかわらず、クエンチングHTS主コイル部分1における電流降下は加速される。同様に、クエンチ発生時、第1の保護ネットワークループ外の主コイル部分において、対応するクエンチ保護要素7、8上の電圧降下は、加熱制御デバイスによって第2の主コイル部分2におけるクエンチを開始するためのトリガとして使用され得る。クエンチ診断要素12は、次いで、対応する主コイル部分3、4のクエンチ保護要素7、8全体の電圧降下を監視する。
【0048】
第2の主コイル部分2の加熱は、単一の加熱要素によってまたは複数の加熱要素によって行われ得る。異なる加熱要素が異なる主コイル部分1、3、4におけるクエンチによって作動される場合、特に有利である。
【0049】
図4a、図4bは、第1のループと、また第2のループの両方がHTS主コイル部分1または14を有する、本発明に係る磁石コイル配置のさらなる実施形態を示す。第1のループでは、第1の主コイル部分1(HTS主コイル部分)と第2の主コイル部分2(NbTi主コイル部分)との直列接続が第1のクエンチ保護要素6’によってブリッジされる。第2のループでは、第4の主コイル部分14(HTS主コイル部分)と第3の主コイル部分3(NbTi主コイル部分)との直列接続が第2のクエンチ保護要素8’’によってブリッジされる。このようにして、本実施形態では、HTSゾーン(第1の主コイル部分1および第4の主コイル部分14)は異なるループにわたって分配される。両方のループにおけるHTS材料中の電流の増加を防止するために、2つのクエンチ保護要素6’、8’’は、各場合においてそれぞれの他方のループのHTS主コイル部分1、14のための加熱要素として機能する。加熱要素として機能するクエンチ保護要素6’、8’’は第2または第3の主コイル部分2、3とのみ熱的に接触しており、したがって、一方におけるクエンチ発生時、HTS主コイル部分1、14は加熱されず、これにより、HTS主コイル部分への損傷は回避され、他方では、電流の著しい増加がHTS主コイル部分において起こり得る前に、ループ中の電流は、LTS主コイル部分2、3の加熱することによって低減される。
【0050】
本発明による磁石コイルシステムでは、(クエンチが第1の主コイル部分1の外部で発生する場合)第1の主コイル部分1の材料におけるクエンチが防止され得、あるいは(第1の主コイル部分1自体がクエンチする場合)第1の主コイル部分1における電流の減衰が加速され得る。
【0051】
本発明に関して、第1の主コイル部分がHTS材料を含んでおり、第2の主コイル部分がNbTiを含んでいる場合について説明した。しかしながら、第1の主コイル部分の臨界温度が第2の主コイル部分の臨界温度よりも大きい限り、他の材料の組合せも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 第1の主コイル部分(第1のループのHTS主コイル部分)
2 第2の主コイル部分(第1のループのNbTi主コイル部分)
3 第3の主コイル部分(第2のループのNbTi主コイル部分)
4 さらなる主コイル部分(NbSn主コイル部分)
5 主コイル
6、6’ 第1のクエンチ保護要素
7 さらなるクエンチ保護要素
8、8’、8’’ 第2のクエンチ保護要素
9 第1の加熱要素
10 加熱制御デバイス
11 追加の加熱要素
12 クエンチ診断要素
13 加熱制御要素
14 第4の主コイル部分(第2のループのNbTi主コイル部分)
図1a
図1b
図2
図3
図4a
図4b