(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記重合体(D)に、さらに、その他の単量体(b)を加えて重合することにより、ブロック共重合体(E)を得る、請求項1に記載の可逆的付加開裂連鎖移動重合方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る可逆的付加開裂連鎖移動重合方法、及び、それによって得られるアクリル系共重合体並びにアクリル系ブロック共重合体について詳述する。
なお、以下の説明においては、可逆的付加開裂連鎖移動重合のことを「RAFT重合」と称する場合があり、また、このRAFT重合に用いられる連鎖移動剤のことを「RAFT剤」と称して説明する。
【0019】
<RAFT重合方法(可逆的付加開裂連鎖移動重合方法)>
本発明のRAFT重合方法は、RAFT剤を用いて原料モノマーを重合させる方法であり、RAFT剤として、後述するような、脱離によって一級ラジカルを発生させるRAFT剤、もしくは、脱離によってフェニルアセテートラジカル以外の二級ラジカルを発生させるRAFT剤の何れかを用い、メタクリル酸エステルとアクリルアミド単量体とを含み、且つ、該アクリルアミド単量体を5mol%以上で含む単量体(a)を重合して重合体(D)を得る方法である。
【0020】
[RAFT剤]
RAFT剤は、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT重合)において用いられる連鎖移動剤である。
本発明のRAFT重合方法においては、RAFT剤として、例えば、下記一般式(1)で表される構造を有し、脱離によって一級ラジカルを発生させるRAFT剤(A)、もしくは、例えば、下記一般式(2)で表される構造を有し、脱離によってフェニルアセテートラジカル以外の二級ラジカルを発生させるRAFT剤(B)の何れかを用いることができる。
【0023】
(但し、上記一般式(2)中において、nは0以上の整数である。)
【0024】
上記の一般式(1)で表されるRAFT剤(A)は、末端に下記一般式(3)で表される構造を有し、この部分が脱離したときに当該構造の1級ラジカルを発生させるものである。
【0026】
また、上記の一般式(2)で表されるRAFT剤(B)は、末端に下記一般式(4)で表される構造を有し、この部分が脱離したときに当該構造の2級ラジカルを発生させるものである。
【0028】
本発明で用いるRAFT剤は、ラジカルの連鎖移動を発生させ、RAFT重合を起こすためのものである。このRAFT剤は、例えば、下記一般式(5)で表される構造のRAFT剤において、「α」で示す部位のSに重合途中の重合物がラジカルとなって付加されると、下記一般式(6)に示す反応式のように、R
1部分が・R
1(R
1ラジカル)となって脱離し、他の単量体と重合する。そして、・R
1が脱離した「β」で示す部位のSに、単量体と重合して成長した重合物ラジカルが付加すると、α部位に付加していた重合途中の重合物がラジカルとなって脱離する。このような重合、付加及び脱離を繰り返すことによってRAFT重合が進む。
【0031】
ここで、上記一般式(5)及び一般式(6)中、R
1は、例えば、上記一般式(3)で表されるような構造を有する置換基であり、また、R
1・は、R
1のラジカル(1級ラジカル)であり、「Z」は、任意の一価の有機基R
2を含むR
2−S−である。
また、上記一般式(4)中、「Pn」は単量体の重合体を示し、「M」は単量体を示す。
【0032】
一方、重合される単量体がメタクリル酸エステルを含む単量体である場合、最初に、一般式(5)に示す「α」で示す部位に付加しようとするラジカルがメタクリルラジカル等の三級ラジカルであり、脱離するR
1の部分が一級もしくは二級ラジカルである場合には、・R
1として脱離できないことから、下記一般式(7)に示す反応式のように、RAFT重合が進まないものと考えられる。
【0034】
これに対し、本発明においては、後述するように、原料モノマーであるメタクリル酸エステルに加えてアクリルアミド単量体を併用し、且つ、このアクリルアミド単量体を5mol%以上で含む単量体(a)を重合する。これにより、RAFT剤から脱離する・R
1が一級ラジカル、もしくは、フェニルアセテートラジカル以外の二級ラジカルであっても、重合反応性が高められるので、RAFT重合が進行する。従って、上記一般式(1)で表され、脱離によって上記一般式(3)で表されるような一級ラジカルを発生させるRAFT剤(A)や、上記一般式(2)で表され、脱離によって上記一般式(4)で表されるような二級ラジカルを発生させるタイプ、即ち、フェニルアセテートラジカル以外の二級ラジカルを発生させるタイプのRAFT剤(B)を使用した場合でも、メタクリル酸エステルを含んだ単量体をRAFT重合して重合体(D)を得ることが可能になる。
【0035】
[単量体(a)]
上述したように、本発明のRAFT重合方法においては、メタクリル酸エステルとアクリルアミド単量体とを含み、且つ、該アクリルアミド単量体を5mol%以上で含む単量体(a)を重合して重合体(D)を得る。以下、本発明で用いる単量体(a)について詳述する。
【0036】
(メタクリル酸エステル)
本発明で原料モノマーとして用いるメタクリル酸エステルとしては、一般に入手できるものであれば特に限定されず、例えば、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルコキシアルキルエステルが挙げられる。
【0037】
メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、又はメタクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
メタクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−(n−プロポキシ)エチル、メタクリル酸2−(n−ブトキシ)エチル、メタクリル酸3−メトキシプロピル、メタクリル酸3−エトキシプロピル、又はメタクリル酸2−(n−ブトキシ)プロピル等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(アクリルアミド単量体)
本発明のRAFT重合方法においては、単量体(a)中において、アクリルアミド単量体が所定量以上で含まれることが重要である。単量体(a)中にアクリルアミド単量体が所定量以上で含まれることで、上記のように、一級ラジカルを発生させるRAFT剤(A)や、フェニルアセテートラジカル以外の二級ラジカルを発生させるRAFT剤(B)を使用した場合でも、メタクリル酸エステルを含んだ単量体(a)をRAFT重合することが可能になる。
【0040】
上記のようなアクリルアミドとしては、一般に入手できるものであれば特に制限されず、例えば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、又はアクリロイルモルフォリン等が挙げられる。
【0041】
単量体(a)中におけるアクリルアミド単量体の含有量は5mol%以上とする。
本発明においては、単量体(a)中にアクリルアミド単量体を5mol%以上で含むことで、上記のようなRAFT剤(A)やRAFT剤(B)を使用した場合でも、メタクリル酸エステルを含んだ単量体(a)をRAFT重合することができる。
【0042】
一方、単量体(a)中に含まれるアクリルアミド単量体の量が上記未満だと、一般式(7)に示した反応式のように、脱離するR
1の部分が一級もしくは二級ラジカルのとき、・R
1として脱離できないことから、RAFT重合が進行しにくくなる可能性がある。
なお、アクリルアミド単量体の含有量の上限は、特に限定されるものではないが、例えば、得られる重合体(D)の組成やコスト面等を考慮した場合、50mol%程度を上限とすることが好ましい。また、単量体(a)中に含まれるアクリルアミド単量体の量は、RAFT重合の制御の観点から10mol%以上20mol%以下がより好ましい。
【0043】
[その他の単量体(b)]
本発明のRAFT重合方法では、詳細を後述するが、RAFT重合で得られた重合体(D)に対して、さらに、その他の単量体(b)を加えて重合することにより、ブロック共重合体(E)を得ることが可能である。
【0044】
その他の単量体(b)としては、例えば、アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、酢酸ビニル、アクリロニトリル、ビニルピリジン、又はビニルイミダゾール等が挙げられる。あるいは、上述した単量体(a)と同様、メタクリル酸エステルやアクリルアミドを、その他の単量体(b)に用いることも可能である。
【0045】
アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−(n−プロポキシ)エチル、アクリル酸2−(n−ブトキシ)エチル、アクリル酸3−メトキシプロピル、アクリル酸3−エトキシプロピル、又はアクリル酸2−(n−ブトキシ)プロピル等が挙げられる。また、これらのアクリル酸エステルは、1種単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。
【0046】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−もしくはp−メチルスチレン、o−,m−もしくはp−クロロスチレン等が挙げられる。また、これらの芳香族ビニル化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
[重合開始剤]
本発明のRAFT重合方法において用いる重合開始剤としては、特に限定されず、ラジカル重合を開始できるものであれば如何なるものを用いてもよい。このような重合開始剤としては、一般的には、過酸化物やアゾ系の開始剤が用いられ、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0048】
<RAFT重合によって重合体及びブロック共重合体を製造する方法>
本発明のRAFT重合方法によって重合体(D)、並びにブロック共重合体(E)を製造する場合、その手順等は特に限定されず、従来公知の方法を採用でき、例えば、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、又は懸濁重合法等が挙げられる。また、RAFT重合の際に用いる溶媒等についても特に限定されず、公知の溶媒等を用いることができる。
【0049】
本発明のRAFT重合方法においては、下記一般式(8)に示すように、まず、重合開始剤により発生したフリーラジカルを、メタクリル酸エステルとアクリルアミド単量体とを含む単量体(a)に付加することにより、フリーラジカル重合が進行することで、メタクリル酸エステルのオリゴマーラジカルPn・が生成する。
【0051】
次に、上記のPn・に、脱離によって一級ラジカルを発生させるRAFT剤、もしくは、脱離によってフェニルアセテートラジカル以外の二級ラジカルを発生させるRAFT剤(例えば、上記一般式(1)で表される構造を有するRAFT剤(A)、又は、上記一般式(2)で表される構造を有するRAFT剤(B))が反応することで、上記一般式(6)で示される前平衡反応(オリゴマーラジカルからRAFT剤への可逆的付加開裂反応)により、・R
1ラジカルが脱離する。
【0052】
次に、下記一般式(9)で表されるような再開始反応により、メタクリル酸エステルの重合体Pm・が得られる。この再開始反応では、反応初期においては、前平衡が十分速く、脱離基の再開始反応が十分に速くなるので、後述の主平衡反応よりも前平衡反応が支配的となる。一方、反応後期では、主平衡反応が支配的になり、全体的に分子量が増加する。
【0054】
次に、下記一般式(10)で表されるような主平衡反応(ポリマー鎖間での可逆的付加開裂反応)により、Pm・の重合反応をさらに進行させる。
【0056】
その後、冷却等によって反応を停止し、本発明に係るメタクリル酸エステルの重合体(D)が得られる。なお、本発明のRAFT重合方法においては、得られる重合体(D)の分子量は、重合開始剤の濃度ではなく、RAFT剤の濃度に依存する。
【0057】
さらに、本発明のRAFT重合方法においては、その他の単量体(b)として上記で列挙したものを加えて重合することにより、ブロック共重合体(E)を製造することができる。
【0058】
<アクリル系重合体及びアクリル系ブロック共重合体>
本発明のアクリル系重合体は、上述したように、脱離によって一級ラジカルを発生させるRAFT剤、もしくは、脱離によってフェニルアセテートラジカル以外の二級ラジカルを発生させるRAFT剤(例えば、上記一般式(1)で表される構造を有するRAFT剤(A)、もしくは、上記一般式(2)で表される構造を有するRAFT剤(B))の何れかを用い、メタクリル酸エステルとアクリルアミド単量体とを含み、且つ、該アクリルアミド単量体を5mol%以上で含む単量体(a)を重合する、本発明のRAFT重合方法によって重合された物である。即ち、本発明のアクリル系重合体は、上述の方法によって重合して得られた重合体(D)である。
【0059】
また、本発明のアクリル系ブロック共重合体は、上記のRAFT重合方法で得られたアクリル系重合体(重合体(D))に、さらに、その他の単量体(b)を加え、重合された物である。即ち、本発明のアクリル系ブロック共重合体は、上述の方法によって重合して得られたブロック共重合体(E)である。
【0060】
本発明のアクリル系重合体及びアクリル系ブロック共重合体は、例えば、各種塗膜の形成用として好適なものである。
【0061】
なお、本発明のアクリル系重合体(重合体(D))及びアクリル系ブロック共重合体(ブロック共重合体(E))は、RAFT剤(A)又はRAFT剤(B)、及び、メタクリル酸エステルとアクリルアミド単量体とを含む単量体(a)が、どのように重合しているのか、詳細に特定することは困難である。即ち、本発明のアクリル系重合体及びアクリル系ブロック共重合体には、その構造又は特性によって直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないという事情(不可能・非実際的事情)が存在する。
【0062】
<作用効果>
以上説明したように、本発明の可逆的付加開裂連鎖移動重合方法によれば、一級ラジカルを発生させるRAFT剤や、フェニルアセテートラジカル以外の二級ラジカルを発生させるRAFT剤を使用した場合でも、メタクリル酸エステルを含んだ単量体(a)をRAFT重合して重合体(D)を得ることが可能になる。さらに、本発明の可逆的付加開裂連鎖移動重合方法によれば、得られた重合体(D)に、その他の単量体(b)を加えて重合することでブロック共重合体(E)を得ることが可能になる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明の可逆的付加開裂連鎖移動重合方法をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
<実施例1>
実施例1においては、まず、以下に説明する条件及び手順で1段目のRAFT重合を行って重合体(D)を製造し、次いで、2段目のRAFT重合を行ってブロック共重合体(E)を製造した。
【0065】
[1段目:RAFT重合による共重合体の製造]
実施例では、まず、1段目のRAFT重合として、MMA(メチルメタクリレート):9.51g、DMAA(ジメチルアクリルアミド):0.50g、RAFT剤(A)(上記一般式(1)参照):260mg、ABN−E(2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)):48.1mg、及び酢酸エチル:10.0gを2口フラスコに投入し、内部を窒素ガスで置換しながら85℃に昇温した後、撹拌下にて6時間の重合反応を行った。
重合反応が終了した後、2口フラスコ内の内容物をn−ヘキサン:350g中に投入し、撹拌して反応物を再沈殿させ、これを濾別した後に70℃で減圧乾燥して、MMAの重合体(D)を得た。
【0066】
そして、得られた重合体(D)について、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)によって分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は以下の値であった。
(1)Mn:13000
(2)Mw:22500
(3)Mw/Mn:1.73
【0067】
また、上記のGPCの測定条件は、以下の通りとした。
(1)GPC装置:GPC−101(昭光通商株式会社製)
(2)カラム:Shodex A−806M×2本直列つなぎ(昭和電工株式会社製)
(3)検出器:Shodex RI−71(昭和電工株式会社製)
(4)移動相:テトラヒドロフラン
(5)流速:1mL/分
【0068】
[2段目:RAFT重合によるブロック共重合体の製造]
次に、2段目のRAFT重合として、nBA(ノルマルブチルアクリレート):1.25g、上記で得られた重合体(D):1.25g、ABN−E:3.75mg、及び酢酸エチル:2.5gを2口フラスコに投入し、内部を窒素ガスにて置換しながら85℃に昇温した後、撹拌下にて6時間の重合反応を行った。
反応終了後、2口フラスコ内の内容物をn−ヘキサン:350g中に投入し、撹拌して反応物を再沈殿させ、これを濾別した後に70℃で減圧乾燥して、MMAとnBAのブロック共重合体(E)を得た。
【0069】
そして、得られたブロック共重合体(E)について、GPC法によって、上記同様の条件で分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は以下の値であった。
(1)Mn:20400
(2)Mw:33000
(3)Mw/Mn:1.62
【0070】
上記結果より、実施例1においては、重合体(D)の分子量ピークが、より高分子量側のピークにシフトしていることから、ブロック共重合体(E)が生成されていることがわかる。よって、MMAの重合体ブロックとnBAの重合体ブロックとからなるブロック共重合体(E)が得られたと判断できる(下記表1中の評価結果におけるGPCシフトの欄を参照)。
【0071】
また、得られたブロック共重合体(E)を酢酸エチルに溶解させた溶液をガラス基板上に塗布し、乾燥させて塗膜を形成したところ、得られた塗膜は透明であった。これは、MMAの重合体とnBAの重合体とがそれぞれ単独で存在しているのではなく、ブロック共重合体を形成してことから、透明な塗膜が得られたと考えられる。よって、この塗膜の外観評価の結果からも、実施例1においては、MMAの重合体ブロックとnBAの重合体ブロックとからなるブロック共重合体が得られたと判断できる。
【0072】
<実施例
2,3,5〜12、比較例1〜7、参考例
、実験例4>
実施例
2,3,5〜12、比較例1〜7
、参考例
、及び実験例4においては、RAFT重合に用いるRAFT剤、単量体(a)、重合開始剤及び溶剤の組成及び配合量等を下記表1及び表2に記載のように変更した点を除き、上記実施例1と同様の条件及び手順でRAFT重合を行って重合体(D)を製造した。さらに、実施例
2,3,5〜12、比較例1〜7
、参考例
、及び実験例4では、単量体(b)や重合開始剤、溶剤の組成及び配合量等を下記表1及び表2に記載のように変更した点を除き、上記実施例1と同様の条件及び手順でRAFT重合を行ってブロック共重合体(E)を製造した。
そして、実施例
2,3,5〜12、比較例1〜7
、参考例
、及び実験例4においても、上記実施例1と同様の方法及び手順で、得られたブロック共重合体(E)の評価を行った。
【0073】
なお、下記表1中に示す実施例8,9、及び、下記表2中に示す比較例7においては、RAFT剤として、下記一般式(11)で表される構造を有する、末端の置換基が脱離したときに二級ラジカルを発生させるタイプのRAFT剤(B)を用いた。
【0074】
【化15】
【0075】
また、下記表2中に示す参考例においては、RAFT剤として、下記一般式(12)で表される構造を有する、末端の置換基が脱離したときに三級ラジカルを発生させるタイプのRAFT剤(C)を用いた。
【0076】
【化16】
【0077】
下記表1に、実施例
2,3,5〜12、及び実験例4における各重合条件及び評価結果の一覧を示し、また、下記表2に、比較例1〜7及び参考例における各重合条件及び評価結果の一覧を示す。
なお、下記表1及び表2中における各記号は、以下の各化合物を表すものとする。
(1)MMA:メチルメタクリレート
(2)EMA:エチルメタクリレート
(3)iBMA:イソブチルメタクリレート
(4)BzMA:ベンジルメタクリレート
(5)DMAA:ジメチルアクリルアミド
(6)ACMO:アクリロイルモルホリン
(7)NIPAM:イソプロピルアクリルアミド
(8)DAAM:ダイアセトンアクリルアミド
(9)nBA:ノルマルブチルアクリレート
(10)AA:アクリル酸
(11)St:スチレン
(12)ABN−E:2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル):株式会社日本ファインケム製
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
なお、本実施例では、実施例
2,3,5〜12、及び実験例4における1段目の重合で得られた重合体(D)は、メタクリレートの単量体とアクリルアミドの単量体との共重合体になっており、また、比較例1〜7及び参考例における1段目の重合で得られた重合体(D)は、メタクリレートの単量体と他の成分の単量体との共重合体になっていることを確認したが、本実施例においては、便宜上、1段目の重合で得られたものを全て「重合体(D)」と称するものとする。
【0081】
<全体の評価結果>
表1に示す結果のように、RAFT剤(A)もしくはRAFT剤(B)を用いて、メタクリル酸エステルに加えてアクリルアミド単量体を5mol%以上で含む単量体(a)を重合して重合体(D)を製造し、さらに、ブロック共重合体(E)を製造した実施例
2,3,5〜12は、実施例1の場合と同様、重合体(D)の分子量ピークが、より高分子量側のピークにシフトしてブロック共重合体(E)が生成されている(重合体(D)の分子量、ブロック共重合体(E)の分子量及びGPCシフトの評価結果の欄を参照)。従って、実施例
2,3,5〜12においても、実施例1と同様、MMAの重合体ブロックとnBAの重合体ブロックとからなるブロック共重合体(E)が得られたと判断できる。
【0082】
また、実施例
2,3,5〜12においても、ブロック共重合体(E)を用いてガラス基板上に塗膜を形成したところ、得られた塗膜は透明であったことから、MMAや、EMA、iBMA、BzMA等のメタクリレートの重合体ブロックとnBAの重合体ブロックとからなるブロック共重合体(E)が得られたことが判断できる。
【0083】
一方、比較例1〜7は、RAFT重合条件の内の何れかが本発明の規定を満たしていない例である。
表2に示すように、比較例1〜4,7は、単量体(a)にアクリルアミド単量体が含まれていない例である。これら比較例1〜4,7は、表2中の重合体(D)の分子量、2段目の重合で得られる重合体の分子量及びGPCシフトの評価結果の欄から明らかなように、何れにおいても2段目の重合後に重合体(D)の分子量ピークが残っており、これら重合体は2峰性の分子量分布を有していた。よって、比較例1〜4,7において2段目の重合で得られた重合体は、何れもMMAの重合体とnBAの重合体との単なる混合物であり、MMAの重合体ブロックとnBAの重合体ブロックとからなるブロック共重合体が得られなかったと判断できる。
【0084】
また、比較例1〜4,7においては、実施例1と同様の方法で塗膜を形成して外観評価を行った結果、得られた塗膜は白濁していた。これは、MMAの重合体とnBAの重合体とが相溶しておらず、ブロック共重合体を形成せずにそれぞれの重合体が単独で存在していたために、得られた塗膜が白濁したものと考えられる。よって、この塗膜の外観評価の結果からも、比較例1〜4,7においては、MMAの重合体ブロックとnBAの重合体ブロックとからなるブロック共重合体が得られなかったと判断できる。
【0085】
なお、比較例3においては、表2中の重合体(D)の分子量、2段目の重合で得られる重合体の分子量及びGPCシフトの評価結果の欄に示したように、共重合反応が一定程度は進んでいたと考えられるものの、決して十分な反応ではなかったために、得られた塗膜が白濁した例である。
【0086】
また、比較例5,6は、単量体(a)にアクリルアミド単量体が含まれているものの、その含有量が5mol%未満とされた例である。これら比較例5,6は、比較例1〜4,7の場合と同様、表2中の重合体(D)の分子量、2段目の重合で得られる重合体の分子量及びGPCシフトの評価結果の欄から明らかなように、何れにおいても2段目の重合後に重合体(D)の分子量ピークが残っており、これら重合体は2峰性の分子量分布を有していた。よって、比較例5,6において2段目の重合で得られた重合体も、何れもMMAの重合体とnBAの重合体との単なる混合物であり、MMAの重合体ブロックとnBAの重合体ブロックとからなるブロック共重合体が得られなかったと判断できる。
【0087】
また、比較例5,6においても、実施例1と同様の方法で塗膜を形成して外観評価を行った結果、得られた塗膜は白濁していたことから、MMAの重合体とnBAの重合体とが相溶しておらず、ブロック共重合体を形成せずにそれぞれの重合体が単独で存在していたため、塗膜が白濁したものと考えられる。よって、この塗膜の外観評価の結果からも、比較例5,6においては、MMAの重合体ブロックとnBAの重合体ブロックとからなるブロック共重合体が得られなかったと判断できる。
【0088】
ここで、参考例は、上記のように、RAFT剤として上記一般式(12)で表される構造を有する、末端の置換基が脱離したときに3級ラジカルを発生させるタイプのRAFT剤(C)を用いた例であり、本発明の対象外となる参考例である。この参考例においては、上記のRAFT剤(C)を用いることで、表2中に重合体(D)の分子量、2段目の重合で得られる重合体の分子量及びGPCシフトの評価結果の欄から明らかなように、重合体(D)の分子量ピークが、より高分子量側のピークにシフトしてブロック共重合体が生成されていると考えられる。従って、参考例においては、MMAの重合体ブロックとnBAの重合体ブロックとからなるブロック共重合体が得られていると判断できる。
また、参考例においても、上記同様、得られたブロック共重合体を用いてガラス基板上に塗膜を形成したところ、得られた塗膜は透明であったことから、MMAの重合体ブロックとnBAの重合体ブロックとからなるブロック共重合体が得られたことが判断できる。
【0089】
以上説明した実施例の結果より、本発明の可逆的付加開裂連鎖移動重合方法が、一級ラジカルを発生させるRAFT剤(A)や、フェニルアセテートタイプ以外の二級ラジカルを発生させるRAFT剤(B)を使用した場合でも、メタクリル酸エステルを含んだ単量体(a)をRAFT重合して重合体(D)を得ることができ、さらに、重合体(D)に、その他の単量体(b)を加えて重合することでブロック共重合体(E)が得られることが明らかである。