特許第6676581号(P6676581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6676581-溶存酸素濃度の調整方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6676581
(24)【登録日】2020年3月16日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】溶存酸素濃度の調整方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/85 20170101AFI20200330BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   A01K61/85
   C12M1/00 E
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-101085(P2017-101085)
(22)【出願日】2017年5月22日
(65)【公開番号】特開2018-191621(P2018-191621A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2019年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】天津 尊仁
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−143941(JP,A)
【文献】 特公昭49−9198(JP,B1)
【文献】 特開2016−214147(JP,A)
【文献】 特開2013−255449(JP,A)
【文献】 特開2017−79628(JP,A)
【文献】 特開2009−195145(JP,A)
【文献】 実開昭49−105699(JP,U)
【文献】 実開昭57−5839(JP,U)
【文献】 特開2003−265067(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/132481(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101161061(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/85
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素発生型光合成生物が生息する水槽を有する装置において水槽内の水の溶存酸素濃度を調整する方法であって、
前記酸素発生型光合成生物が光合成することにより得られる高溶存酸素濃度水の一部を第1貯留槽に貯留する工程と、
前記水槽内の水の溶存酸素濃度が低下した際に前記第1貯留槽から前記高溶存酸素濃度水を前記水槽に供給する工程と、
を含む、溶存酸素濃度の調整方法。
【請求項2】
前記水槽内の水の溶存酸素濃度が第一の所定値未満に低下した際に、前記水槽内の低溶存酸素濃度水を抜き出して第2貯留槽に貯留しつつ前記第1貯留槽から前記高溶存酸素濃度水を前記水槽に供給し、
前記水槽内の溶存酸素濃度が前記第一の所定値よりも大きい第二の所定値超になった場合には、前記水槽内の高溶存酸素濃度水を抜き出して前記第1貯留槽に貯留しつつ前記第2貯留槽から前記低溶存酸素濃度水を前記水槽に供給する、請求項1に記載の溶存酸素濃度の調整方法。
【請求項3】
前記第1貯留槽内の圧力および/または温度を調整して前記第1貯留槽に貯留した前記高溶存酸素濃度水の溶存酸素濃度の低下を抑制する工程を更に含む、請求項1または2に記載の溶存酸素濃度の調整方法。
【請求項4】
前記高溶存酸素濃度水をろ過した後に前記第1貯留槽に貯留する、請求項1〜3の何れかに記載の溶存酸素濃度の調整方法。
【請求項5】
前記第1貯留槽を前記水槽内に設置する、請求項1〜4の何れかに記載の溶存酸素濃度の調整方法。
【請求項6】
前記装置が魚介類の養殖装置であり、
前記水槽が餌育成槽である、請求項1〜5の何れかに記載の溶存酸素濃度の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽内の水の溶存酸素濃度の調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水中の溶存酸素濃度を高める技術として、光合成により発生した酸素を利用する技術が知られている。
【0003】
具体的には、例えば特許文献1では、貝の養殖システムにおいて、貝の餌としての藻類を繁殖させる繁殖容器内で光合成により発生した酸素を利用して貝の飼育水を調製することにより、貝の飼育水槽内の水の溶存酸素濃度を高め、貝の育成効率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−143941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、藻類などの酸素発生型光合成生物(例えば、真核光合成生物、シアノバクテリア等)が生息する水槽においては、光合成生物の呼吸に酸素を必要とする。そのため、特許文献1に記載の技術には、光合成生物の呼吸により消費される酸素量の方が光合成により生成する酸素量よりも多い夜間に繁殖容器内に酸素を供給しなければ、藻類などの光合成生物が酸素不足により死滅してしまう虞があるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、藻類などの酸素発生型光合成生物が生息する水槽を有する装置において、酸素発生型光合成生物が生息する水槽の溶存酸素濃度を夜間でも省エネルギーで調整可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、酸素発生型光合成生物が生息する水槽を有する装置において水槽内の水の溶存酸素濃度を調整する方法であって、前記酸素発生型光合成生物が光合成することにより得られる高溶存酸素濃度水の一部を第1貯留槽に貯留する工程と、前記水槽内の水の溶存酸素濃度が低下した際に前記第1貯留槽から前記高溶存酸素濃度水を前記水槽に供給する工程とを含むことを特徴とする。このように、光合成により得られる高溶存酸素濃度水を第1貯留槽に貯留しておき、水槽内の水の溶存酸素濃度が低下した際に高溶存酸素濃度水を水槽に供給すれば、溶存酸素濃度の低下を抑制または防止することができる。従って、例えば夜間などの光合成生物の呼吸により消費される酸素量の方が光合成により生成する酸素量よりも多い時間帯であっても、曝気や人工光の照射による光合成の必要性を低減または無くして、水槽内の水の溶存酸素濃度を省エネルギーで調整することができる。
【0008】
ここで、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、前記水槽内の水の溶存酸素濃度が第一の所定値未満に低下した際に、前記水槽内の低溶存酸素濃度水を抜き出して第2貯留槽に貯留しつつ前記第1貯留槽から前記高溶存酸素濃度水を前記水槽に供給し、前記水槽内の溶存酸素濃度が前記第一の所定値よりも大きい第二の所定値超になった場合には、前記水槽内の高溶存酸素濃度水を抜き出して前記第1貯留槽に貯留しつつ前記第2貯留槽から前記低溶存酸素濃度水を前記水槽に供給することが好ましい。水槽内の水の溶存酸素濃度が第一の所定値未満に低下した場合には低溶存酸素濃度水を抜き出して第2貯留槽に貯留しつつ第1貯留槽から高溶存酸素濃度水を水槽に供給し、水槽内の水の溶存酸素濃度が第二の所定値を超えた場合には高溶存酸素濃度水を抜き出して第1貯留槽に貯留しつつ第2貯留槽から低溶存酸素濃度水を水槽に供給すれば、水槽内の水の溶存酸素濃度を省エネルギーで一定の範囲内に維持することができるからである。
【0009】
また、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、前記第1貯留槽内の圧力および/または温度を調整して前記第1貯留槽に貯留した前記高溶存酸素濃度水の溶存酸素濃度の低下を抑制する工程を更に含むことが好ましい。第1貯留槽内の圧力および/または温度を調整して貯留中の高溶存酸素濃度水の溶存酸素濃度の低下を抑制すれば、第1貯留槽に貯留していた高溶存酸素濃度水を水槽に供給した際に水槽内の水の溶存酸素濃度を効率的に調整することができるからである。
【0010】
更に、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、前記高溶存酸素濃度水をろ過した後に前記第1貯留槽に貯留することが好ましい。高溶存酸素濃度水をろ過した後に貯留すれば、水槽から抜き出された高溶存酸素濃度水中に存在する微生物等を除去し、微生物等の呼吸によって貯留中に高溶存酸素濃度水中の酸素が消費されるのを抑制することができるからである。また、水槽内から酸素発生型光合成生物が持ち出されるのを防止し、水槽内の酸素発生型光合成生物の量が低下するのを抑制することができるからである。
【0011】
また、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、前記第1貯留槽を前記水槽内に設置することが好ましい。第1貯留槽を水槽内に設置すれば、貯留中の高溶存酸素濃度水の水温の変化を抑制し、高溶存酸素濃度水を水槽に供給した際に温度変化によって酸素発生型光合成生物が悪影響を受けるのを防止することができるからである。
【0012】
そして、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、前記装置が魚介類の養殖装置であり、前記水槽が餌育成槽であることが好ましい。上述した溶存酸素濃度の調整方法を使用すれば、餌育成槽における餌の育成と、魚介類の養殖とを省エネルギーで効率的に両立することができるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸素発生型光合成生物が生息する水槽を有する装置において、酸素発生型光合成生物が生息する水槽の溶存酸素濃度を夜間でも省エネルギーで調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に従う溶存酸素濃度の調整方法を用いて水槽内の溶存酸素濃度を調整する機構の一例の概略構成を示す説明図である。
図2】本発明に従う溶存酸素濃度の調整方法を用いた魚介類の養殖装置の一例の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
ここで、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、酸素発生型光合成生物が生息する水槽を有する任意の装置において酸素発生型光合成生物が生息する水槽の溶存酸素濃度を調整する際に用いることができる。具体的には、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、特に限定されることなく、例えば魚介類の養殖装置や排水処理装置において酸素発生型光合成生物が生息する水槽の溶存酸素濃度を調整する際に用いることができる。
【0016】
中でも、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、魚介類の養殖装置において、魚介類の餌となり得る酸素発生型光合成生物である藻類を育成する餌育成槽の溶存酸素濃度を調整する際に特に好適に用いることができる。本発明の溶存酸素濃度の調整方法を使用すれば、餌育成槽における餌の育成と、魚介類の養殖とを省エネルギーで効率的に両立することができるからである。
【0017】
ここで、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、例えば図1に示すような、酸素発生型光合成生物11が生息する水槽10と、酸素発生型光合成生物11が光合成することにより得られる高溶存酸素濃度水を貯留する第1貯留槽20と、低溶存酸素濃度水を貯留する第2貯留槽30とを備える溶存酸素濃度調整機構において実施することができる。
【0018】
なお、水槽10内に貯留された水中に生息する酸素発生型光合成生物11としては、特に限定されることなく、例えばシアノバクテリア(藍藻)、珪藻、黄緑藻、渦鞭毛藻、紅藻、褐藻、緑藻などの藻類が挙げられる。
【0019】
また、図1に示す水槽10は、水槽10内の水を撹拌する撹拌機12と、水槽10内の水の溶存酸素濃度や温度を測定するためのセンサ13と、水槽10内から第1貯留槽20へと高溶存酸素濃度水を抜き出すための高溶存酸素濃度水流路14と、水槽10内から第2貯留槽30へと低溶存酸素濃度水を抜き出すための低溶存酸素濃度水流路17とを備えている。そして、高溶存酸素濃度水流路14には、水槽10内から抜き出された高溶存酸素濃度水をろ過するろ過器15および水槽10内から高溶存酸素濃度水を抜き出すためのポンプ16が設けられている。また、低溶存酸素濃度水流路17には、水槽10内から低溶存酸素濃度水を抜き出すためのポンプ18が設けられている。
【0020】
なお、高溶存酸素濃度水流路14を介して高溶存酸素濃度水を引き抜く位置および低溶存酸素濃度水流路17を介して低溶存酸素濃度水を引き抜く位置は、例えば水槽10の中央部の水面側とすることができ、酸素発生型光合成生物11が生息している領域の近傍とすることが好ましい。酸素発生型光合成生物11が生息している領域の近傍から水を抜き出せば、酸素発生型光合成生物11の光合成により生じた高溶存酸素濃度水および酸素発生型光合成生物11の呼吸により生じた低溶存酸素濃度水を容易かつ迅速に引き抜けるからである。また、高溶存酸素濃度水流路14および低溶存酸素濃度水流路17は、太陽光等の光が水槽10内に入射するのを妨げない形状であることが好ましく、例えば図1に示すように側面視が上下を逆にしたL字状となるように配設することができる。
また、高溶存酸素濃度水流路14および低溶存酸素濃度水流路17を介して引き抜かれる水の溶存酸素濃度や温度を的確に測定する観点からは、センサ13は、高溶存酸素濃度水流路14を介して高溶存酸素濃度水を引き抜く位置および低溶存酸素濃度水流路17を介して低溶存酸素濃度水を引き抜く位置の近傍に設けることが好ましく、高溶存酸素濃度水流路14を介して高溶存酸素濃度水を引き抜く位置と低溶存酸素濃度水流路17を介して低溶存酸素濃度水を引き抜く位置との間に設けることがより好ましい。
【0021】
更に、第1貯留槽20は、第1貯留槽20内から水槽10へと高溶存酸素濃度水を供給(返送)するための高溶存酸素濃度水返送流路21と、第1貯留槽20内の高溶存酸素濃度水の温度を測定する温度センサ23と、第1貯留槽20内の高溶存酸素濃度水の温度を調整するための温度調節器24と、第1貯留槽20内に気体を供給して第1貯留槽20内の高溶存酸素濃度水を加圧するための加圧機構とを備えている。そして、高溶存酸素濃度水返送流路21には、第1貯留槽20内から高溶存酸素濃度水を抜き出すためのポンプ22が設けられている。
【0022】
また、第2貯留槽30は、第2貯留槽30内から水槽10へと低溶存酸素濃度水を供給(返送)するための低溶存酸素濃度水返送流路31を備えている。そして、低溶存酸素濃度水返送流路31には、第2貯留槽30内から低溶存酸素濃度水を抜き出すためのポンプ32が設けられている。
【0023】
なお、高溶存酸素濃度水返送流路21を介して高溶存酸素濃度水を返送する位置および低溶存酸素濃度水返送流路31を介して低溶存酸素濃度水を返送する位置は、例えば水槽10の中央部の底面側とすることができ、撹拌機12の近傍とすることが好ましい。撹拌機12の近傍に水を返送すれば、高溶存酸素濃度水または低溶存酸素濃度水を返送した際に水槽10内の溶存酸素濃度が局所的に上昇または低下するのを抑制することができるからである。
【0024】
そして、上述したような構成を有する溶存酸素濃度調整機構において実施する本発明の溶存酸素濃度の調整方法では、水槽10内の酸素発生型光合成生物11が光合成することにより得られる高溶存酸素濃度水の一部を第1貯留槽20に貯留する工程と、水槽10内の水の溶存酸素濃度が低下した際に第1貯留槽20から高溶存酸素濃度水を水槽10に供給する工程とを実施することを必要とする。
具体的には、本発明の溶存酸素濃度の調整方法では、水槽10内の酸素発生型光合成生物11が光合成することにより水槽10内の水の溶存酸素濃度が所定の値よりも大きくなった場合には、ポンプ16を駆動し、高溶存酸素濃度水流路14を介して水槽10内の高溶存酸素濃度水を第1貯留槽20へと引き抜く。また、例えば夜間などの光合成が行われない期間に酸素発生型光合成生物11の呼吸によって水槽10内の水の溶存酸素濃度が所定の値よりも小さくなった場合には、ポンプ22を駆動し、高溶存酸素濃度水返送流路21を介して第1貯留槽20内の高溶存酸素濃度水を水槽10へと返送することにより、水槽10内の溶存酸素濃度の低下を抑制または防止する。なお、高溶存酸素濃度水の抜き出しは、水槽10内の水の溶存酸素濃度が所定の値以下まで低下した場合に停止することができる。また、高溶存酸素濃度水の供給は、水槽10内の水の溶存酸素濃度が所定の値以上まで上昇した場合に停止することができる。
【0025】
このように、昼間等の光合成により高溶存酸素濃度水が得られる期間に高溶存酸素濃度水を第1貯留槽20に貯留しておき、夜間などの水槽10内の水の溶存酸素濃度が低下する期間に高溶存酸素濃度水を水槽10に供給すれば、水槽10内の溶存酸素濃度の低下を抑制または防止することができる。従って、例えば夜間などの光合成生物の呼吸により消費される酸素量の方が光合成により生成する酸素量よりも多い時間帯であっても、曝気や人工光の照射による光合成の必要性を低減または無くして、水槽10内の水の溶存酸素濃度を省エネルギーで調整することができる。
【0026】
なお、本発明の溶存酸素濃度の調整方法において、高溶存酸素濃度水の引き抜きを行う溶存酸素濃度の「所定の値」は、夜間の酸素の消費速度などに応じて適宜に設定することができ、例えばセンサ13で測定した水温および図示しない気圧計で測定した気圧から求められる最大溶存酸素濃度(飽和濃度)とすることができる。また、高溶存酸素濃度水の返送を行う溶存酸素濃度の「所定の値」は、酸素発生型光合成生物11の種類および量などに応じて適宜に設定することができ、例えば6mg−O2/L−H2Oとすることができる。
【0027】
また、本発明の溶存酸素濃度の調整方法では、任意に、水槽10内の水の溶存酸素濃度を一定の範囲内に維持したい場合には、第2貯留槽30を利用し、以下のようにして溶存酸素濃度を調整してもよい。
即ち、本発明の溶存酸素濃度の調整方法では、水槽10内の水の溶存酸素濃度が第一の所定値未満に低下した場合には、低溶存酸素濃度水流路17およびポンプ18を利用して水槽10内の低溶存酸素濃度水を抜き出して第2貯留槽30に貯留しつつ高溶存酸素濃度水返送流路21およびポンプ22を利用して第1貯留槽20から高溶存酸素濃度水を水槽に供給し、水槽10内の溶存酸素濃度が第一の所定値よりも大きい第二の所定値超になった場合には、高溶存酸素濃度水流路14およびポンプ16を利用して水槽10内の高溶存酸素濃度水を抜き出して第1貯留槽20に貯留しつつ低溶存酸素濃度水返送流路31およびポンプ32を利用して第2貯留槽30から低溶存酸素濃度水を水槽10に供給してもよい。なお、低溶存酸素濃度水の抜き出しおよび高溶存酸素濃度水の供給は、水槽10内の水の溶存酸素濃度が第一の所定値以上まで上昇した場合に停止すればよい。また、高溶存酸素濃度水の抜き出しおよび低溶存酸素濃度水の供給は、水槽10内の水の溶存酸素濃度が第二の所定値以下まで低下した場合に停止すればよい。
【0028】
このように、水槽10内の水の溶存酸素濃度が第一の所定値未満に低下した場合には低溶存酸素濃度水を抜き出して第2貯留槽30に貯留しつつ第1貯留槽20から高溶存酸素濃度水を水槽10に供給すれば、水槽10内の水の溶存酸素濃度を省エネルギーで速やかに上昇させることができる。また、水槽10内の水の溶存酸素濃度が第二の所定値を超えた場合には高溶存酸素濃度水を抜き出して第1貯留槽20に貯留しつつ第2貯留槽30から低溶存酸素濃度水を水槽10に供給すれば、水槽10内の水の溶存酸素濃度を省エネルギーで速やかに低下させることができる。従って、水槽10内の水の溶存酸素濃度を省エネルギーで一定の範囲内に維持することができる。
因みに、図1に示す溶存酸素濃度調整機構では、高溶存酸素濃度水返送流路21を介して高溶存酸素濃度水を返送する位置および低溶存酸素濃度水返送流路31を介して低溶存酸素濃度水を返送する位置を撹拌機12の近傍としており、撹拌により均一化された後の溶存酸素濃度をセンサ13で測定しているので、上述した溶存酸素濃度の調整を良好に行うことができる。
【0029】
なお、本発明の溶存酸素濃度の調整方法において、「第一の所定値」は、酸素発生型光合成生物11の種類および量などに応じて適宜に設定することができ、例えば6mg−O2/L−H2Oとすることができる。また、「第二の所定値」は、夜間の酸素の消費速度などに応じて適宜に設定することができ、例えばセンサ13で測定した水温および図示しない気圧計で測定した気圧から求められる最大溶存酸素濃度(飽和濃度)とすることができる。
【0030】
そして、図1に示すような溶存酸素濃度調整機構において上述した溶存酸素濃度の調整方法を実施する際には、第1貯留槽20内の圧力および/または温度を監視しておき、必要に応じて第1貯留槽20内の圧力および/または温度を調整して第1貯留槽20に貯留した高溶存酸素濃度水の溶存酸素濃度の低下を抑制してもよい。
具体的には、温度センサ23および温度調節器24を用いた第1貯留槽20内の高溶存酸素濃度水の温度の調節、並びに/或いは、加圧機構を介した第1貯留槽20内への気体(例えば、空気などの酸素含有気体)の吹き込みによる第1貯留槽20内の圧力の調節を行うことにより、高溶存酸素濃度水の溶存酸素濃度が貯留中に低下するのを抑制することが好ましい。貯留中の高溶存酸素濃度水の溶存酸素濃度の低下を抑制すれば、第1貯留槽20に貯留していた高溶存酸素濃度水を水槽10に供給した際に水槽10内の水の溶存酸素濃度を効率的に調整することができる。
【0031】
また、図1に示すような溶存酸素濃度調整機構において上述した溶存酸素濃度の調整方法を実施する際には、高溶存酸素濃度水をろ過器15でろ過した後に第1貯留槽20に貯留することが好ましい。高溶存酸素濃度水をろ過器15でろ過した後に第1貯留槽20に貯留すれば、水槽10から抜き出された高溶存酸素濃度水中に存在する、酸素発生型光合成生物11を含む微生物等をろ過により除去することができる。従って、微生物等の呼吸によって貯留中に高溶存酸素濃度水中の酸素が消費されるのを抑制することができる。また、ろ過器15においてろ過された微生物等を既知の手段を用いて水槽10内へと返送すれば、水槽10内から酸素発生型光合成生物11が持ち出されるのを防止し、水槽10内の酸素発生型光合成生物11の量が低下するのを抑制することができる。
ここで、ろ過器15としては、微生物等を良好に捕捉可能であれば、公知のろ過器(例えば、セラミック膜などのろ過膜を用いたろ過器)の中から適宜選択したものを用いることができる。
【0032】
なお、図1では、第1貯留槽20および第2貯留槽30が水槽10の外部に設けられている場合を示したが、第1貯留槽20および/または第2貯留槽30は、水槽10内に設けられていてもよい。具体的には、第1貯留槽20および/または第2貯留槽30は、水槽10内の水中に浸漬されていてもよい。第1貯留槽20および/または第2貯留槽30を水槽10内に設ければ、高溶存酸素濃度水や低溶存酸素濃度水の水温が貯留中に変化するのを抑制し、水槽10に返送した際の温度変化によって酸素発生型光合成生物11が悪影響を受けるのを防止することができる。
【0033】
また、図1に示す溶存酸素濃度調整機構では、水槽10内に曝気機構は設けられていないが、水槽10内には、補助的に曝気を行うための曝気機構が設けられていてもよい。
【0034】
そして、上述したような溶存酸素濃度調整機構を用いた本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、例えば魚介類の養殖装置や排水処理装置において酸素発生型光合成生物が生息する水槽の溶存酸素濃度を調整する際に用いることができる。
【0035】
具体的には、本発明の溶存酸素濃度の調整方法は、例えば図2に示すような魚介類の陸上養殖装置100において用いることができる。
なお、図2では、図1と同様の構成を有する部材の一部については符号を省略している。
【0036】
ここで、図2に示す陸上養殖装置100は、昆布等の藻類を餌としてウニなどの魚介類を陸上で養殖する装置である。また、陸上養殖装置100は、海水の素などを用いて魚介類の飼育に用いる水の水質(例えば、pHや塩分濃度等)を調整する調整槽50と、魚介類を飼育する養殖槽60と、魚介類の餌(酸素発生型光合成生物である、昆布等の藻類)を育成する餌育成槽としての水槽10、第1貯留槽20および第3貯留槽30を備える溶存酸素濃度調整機構と、残滓を除去するためのろ過槽70とを備えている。
【0037】
そして、陸上養殖装置100では、調整槽50において水質を調整した水および餌育成槽としての水槽10で育成した餌を養殖槽60へと供給し、ウニ等の魚介類を養殖する。また、養殖槽60において魚介類の養殖に用いた水を水槽10へと供給し、餌の育成に用いると共に、上述した本発明の溶存酸素濃度の調整方法を用いて水の溶存酸素濃度を調整する。更に、水槽10から流出した水をろ過槽70でろ過してから調整槽50へと返送することにより、水を魚介類の養殖に再利用する。
【0038】
なお、陸上養殖装置100では、任意に、第1貯留槽20に貯留した高溶存酸素濃度水を養殖槽60へと流路25を介して供給して養殖槽60の溶存酸素濃度を調整してもよい。
【0039】
そして、陸上養殖装置100では、餌育成槽としての水槽10の水の溶存酸素濃度を上述した本発明の溶存酸素濃度の調整方法を用いて調整しているので、例えば多量の(光合成が行われない夜間に酸素不足が生じるような量の)藻類を餌として水槽10内で飼育している場合等であっても、酸素不足等によって餌が死滅してしまうのを省エネルギーで防止することができる。
【0040】
また、本発明の溶存酸素濃度の調整方法を用いた排水処理装置としては、例えば図1に示す溶存酸素濃度調整機構の水槽10内に好気性微生物を存在させ、酸素発生型光合成生物の光合成により生じた酸素と任意の曝気とを利用して排水の好気処理を行うもの等が挙げられる。
なお、水槽10内に好気性微生物を存在させる場合には、酸素発生型光合成生物の光合成が阻害されないように、好気性微生物を担体に担持したり、遮蔽板を用いたりして、好気性微生物が酸素発生型光合成生物に付着するのを抑制することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の溶存酸素濃度の調整方法によれば、酸素発生型光合成生物が生息する水槽を有する装置において、酸素発生型光合成生物が生息する水槽の溶存酸素濃度を夜間でも省エネルギーで調整することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 水槽
11 酸素発生型光合成生物
12 撹拌機
13 センサ
14 高溶存酸素濃度水流路
15 ろ過器
16 ポンプ
17 低溶存酸素濃度水流路
20 第1貯留槽
21 高溶存酸素濃度水返送流路
22 ポンプ
23 温度センサ
24 温度調節器
25 流路
30 第2貯留槽
31 低溶存酸素濃度水返送流路
32 ポンプ
50 調整槽
60 養殖槽
70 ろ過槽
100 陸上養殖装置
図1
図2