特許第6676633号(P6676633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6676633破壊の危険性が低下した小型電子部材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6676633
(24)【登録日】2020年3月16日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】破壊の危険性が低下した小型電子部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20200330BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20200330BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20200330BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20200330BHJP
   C03B 32/00 20060101ALI20200330BHJP
   C03B 33/02 20060101ALI20200330BHJP
   C03C 3/089 20060101ALI20200330BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20200330BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20200330BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   C03C21/00 101
   C03C3/091
   C03C3/093
   C03B32/00
   C03B33/02
   C03C3/089
   C03C3/083
   C03C3/085
   C03C3/087
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-529314(P2017-529314)
(86)(22)【出願日】2015年11月27日
(65)【公表番号】特表2018-505516(P2018-505516A)
(43)【公表日】2018年2月22日
(86)【国際出願番号】EP2015077923
(87)【国際公開番号】WO2016087328
(87)【国際公開日】20160609
【審査請求日】2018年8月1日
(31)【優先権主張番号】102014117633.2
(32)【優先日】2014年12月1日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102015103857.9
(32)【優先日】2015年3月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100165940
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 令子
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ポイヒャート
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ヨッツ
(72)【発明者】
【氏名】リューディガー シュプレンガート
【審査官】 松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/139147(WO,A1)
【文献】 特表2014−500847(JP,A)
【文献】 特開2014−099331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
C03B 32/00
C03B 33/02
C03C 3/083
C03C 3/085
C03C 3/087
C03C 3/089
C03C 3/091
C03C 3/093
C03C 21/00
H01L 23/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型電子部材の製造方法であって、前記小型電子部材は、板状ガラスの個別化された部分として得られ、前記板状ガラス上には、構造体、特に少なくとも1つの機能層が設けられており、少なくとも、以下の順番で、
・強化された板状ガラスを、基板材料として用意する工程と、
・前記基板上に構造体を、特に被覆の連続体の形で設け、被覆を構造化するためのプロセスを設ける工程であって、これによって前記基板の少なくとも部分領域が前記構造体を担持し、その一方で、前記基板のその他の領域には、何も存在しないままである工程と、
・前記構造体を担持する基板に、熱負荷をかける工程と、
・前記構造体を担持する前記基板の部分領域が、個別化して得られるように、個別化する工程と、
を有し、
前記熱負荷が、
前記小型電子部材の前記少なくとも1つの機能層を熱により後処理する間に、および/または、
前記構造体を基板上に設けるかつ/または構造化するための方法工程の間に、および/または、
その他の方法工程の間に熱による後処理と熱負荷との組み合わせとして、
行われ
前記熱負荷の前の、ガラス表面における圧縮応力は、前記熱負荷後のガラス表面における圧縮応力よりも大きい、
製造方法。
【請求項2】
前記強化された板状ガラスが、300μm以下、好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下、極めて特に好ましくは50μm以下の厚さtを有することを特徴とする、
請求項1記載の小型電子部材の製造方法。
【請求項3】
前記ガラスが、被覆の際に化学的に強化されたガラスとして存在し、ここで化学的な強化は、交換浴におけるイオン交換によって得られ、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも15μm、最も好ましくは少なくとも25μmの、イオン交換層の厚さLDOL、ならびに最大300MPa、より好ましくは最大200MPa、またはさらには100MPa未満の、ガラス表面における圧縮応力(σCS)を特徴とする、
請求項1または2記載の小型電子部材の製造方法。
【請求項4】
前記個別化が、切断、特に機械的な切断、熱による切断、機械的なスコアリング、レーザー切断、レーザースコアリング、もしくはウォータージェット切断により、または超音波ドリルもしくはサンドブラストによる穿孔によって、および/またはこれらの組み合わせによって行われることを特徴とする、
請求項1から3までのいずれか1項記載の小型電子部材の製造方法。
【請求項5】
前記ガラスが、ホウケイ酸ガラスおよび/またはアルミノケイ酸塩ガラスであることを特徴とする、
請求項1から4までのいずれか1項記載の小型電子部材の製造方法。
【請求項6】
前記熱負荷が、抵抗加熱および/または電磁放射および/または誘導および/またはこれらの組み合わせによって行われることを特徴とする、
請求項1から5までのいずれか1項記載の小型電子部材の製造方法。
【請求項7】
前記熱負荷が、最小350℃〜最大600℃の間で、1時間から15時間にわたる累積温度処理に相当することを特徴とする、
請求項1から6までのいずれか1項記載の小型電子部材の製造方法。
【請求項8】
前記小型電子部材が、薄膜電池である、
請求項からまでのいずれか1項記載の小型電子部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部材の製造一般、特に基板上に構造体が、例えば被覆の連続体(これは特に、構造化されて設けられていてもよい)の形で存在する電子部材の製造一般に関し、またこのような部材を製造するための基板に関する。本発明は特に、破壊の危険性が低下した電子部材を製造するための、特別な基板材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、小型電子部材、特に基板上に構造体が、例えば被覆の連続体(これは特に、構造化されて設けられていてもよい)の形で存在する小型電子部材には、大きな需要がある。このような小型電子部材は例えば、いわゆる「微小電気機械システム(略称:MEMS)」であり得るが、また薄膜電池、例えばリチウム系薄膜電池であり得る。
【0003】
このような小型電子部材のためには、適切な基板材料の選択が鍵となる。このため基板は、300μm以下という非常に薄い厚さを有するのが望ましく、経済的なプロセスを可能にするためには、同時に6インチ以上の大きな寸法で存在するのが望ましい。本発明の意味合いにおいて小型とは、ナノメーターの寸法を有する構造に限られないが、この構造は包含されている。小型とは、半導体産業の技術が使用可能なこと、例えば典型的な基板またはウェハの大きさが使用可能なこと(これは例えば12インチ以上であり得る)、および本発明による構造体が、この基板を用いて製造可能なこと、およびその三次元形状についてはしばしば、またはそれどころか通常、この基板の三次元形状よりも小さいことを意味する。その際にはまず、基板の各領域に構造体が、構造化された堆積層の形で生じるように、大きな基板上に、またはウェハ上にも層を堆積させる。引き続き、構造体を担持する基板の部分領域が、個別化されて得られるように、基板を個別化するためのプロセスを行う。基板材料をコスト的に有利に製造すること自体も、ここで非常に重要である。さらに、基板材料はできる限り可撓性であるのが望ましく、化学的な耐性が高く、電子部材のための製造方法で使用される方法および物質に対する不活性度が高く、また密度が低いことが望ましい。上記理由から、セラミックおよび半導体材料、例えばケイ素は、多くの大規模適用には、しばしば適していない。
【0004】
基板材料の可撓性、また機械的耐性という観点では、多くのポリマーが適していると考えられる。ただしポリマーは、電子部材の製造プロセスが、例えば被覆を後処理するために、温度処理工程を含み、これによって材料の特に好ましい形状が作製されるという点で、その限界に突き当たる。もっとも、このような熱による後処理の温度が150℃を上回る場合、従来のポリマーは、もはや使用できない。この場合にはむしろ、高価な素材、例えばポリイミドを使用する必要がある。さらに、この処理が基板材料の透明性および/または耐引掻性を必要とする場合、ポリマーは基本的に、基板としては除外される。
【0005】
よって、上記特性の観点から、ガラス製、特に300μm以下の厚さを有する薄板ガラス製の基板が、基板材料に最良の選択であると考えられる。ガラスの化学的組成を変更することによって、必要な光学的、機械的、電気的、および熱的な特性を狙い通りに調整することができる。さらにまた、このようなガラスの大量生産品も、300μm以下の厚さで工業的にメジャーである。
【0006】
とは言え、これらの薄板ガラスは、理論的には強度が高いにも拘わらず、通常はガラス破壊に対して弱く、そのためこれを取り扱うための特別な対策、および/または薄板ガラスの機械的耐性を改善するための特別な方法が必要となる。
【0007】
例えば、切断端部からの亀裂の広がりが抑制されるように、ガラスの切断端部を処理することによって、薄板ガラスの機械的安定性を改善させることができ、これによって破壊の可能性が減少する。例えば、切断端部を被覆するか、または切断端部について適切な形状、例えば丸めた端部の形に調整することができる。ただし、このような措置は、特に薄い基板が必要とされる場合、および可撓性、すなわち、特に基板のサギングもあり得ることが、二次的に重要となる場合にのみ、充分であるに過ぎない。
【0008】
別の可能性は、キャリア、つまり担体の使用であり、このキャリアの上に薄板ガラスを製造の間、設けるのだが、ここでこのキャリアは、製造の間、基板の機械的安定性を向上させる。処理後に、薄板ガラス基板を担体から剥がす必要があり、つまり、これによってここでさらなる方法工程が生じ、そのためこのようなキャリアに基づく方法は、コストが高く、このため通常、価値の高い、かつ/または容積の大きい特別な適用に限られている。
【0009】
同様に、硬化された、つまり熱により、かつ/または化学的に強化された薄板ガラスを、基板材料として使用することも、考えられる。このようなガラスは、より良好な取り扱い性を有し、このため、電子部材を製造するための被覆プロセスの前、およびその間における破壊の危険性は、低下している。ただし、このように強化されたガラスは、切断できないか、または破壊による非常に大きな材料損失を伴ってのみ、切断できる。
【0010】
よって、電子部材を製造するための、破壊安定性が改善され、化学的、機械的、および熱的な耐性が高く、可撓性で、薄い基板材料に対する需要が存在し、この基板材料は同時に、大きな基板面積に堆積された多数の電子部材の容易な個別化を可能にするものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、小型電子部材の製造方法を提供することである。本発明のさらなる態様は、基板材料上に設けられている、破壊の危険性が低下した小型電子部材に関し、また小型電子部材を製造するための基板材料としての、強化ガラスの使用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題は、請求項1に記載の小型電子部材の製造方法、請求項9に記載の小型電子部材、ならびに請求項13に記載の、少なくとも一定時間にわたり強化されたガラスの使用によって単純に解決される。好ましい態様は、それぞれの従属請求項に見られる。
【0013】
本発明による小型電子部材の製造方法は、少なくとも以下の工程を含む:
・少なくとも一定時間にわたり強化された板状ガラスを、基板材料として用意する工程、
・前記基板上に、構造体を設ける工程、ここでこの構造体を特に、被覆の連続体の形で設け、被覆を構造化するためのプロセスを設け、これによって前記基板の少なくとも部分領域が前記構造体を担持し、その一方で、前記基板のその他の領域には、何も存在しないままであり、
・前記構造体を担持する基板に、熱負荷をかける工程、ならびに
・前記構造体を担持する前記基板の部分領域が、個別化して得られるように、個別化する工程。
【0014】
ここで一定時間とは、0秒よりも長く、かつ少なくとも方法工程またはプロセス工程の範囲内にある時間の長さを言い、これは通常、数秒〜数時間または数日にわたることがあり、これによって好適には、記載された本発明による利点が得られる。
【0015】
ここで、基板上の構造体とは、基板上で少なくとも1つの層、好ましくはまた複数の層が、相互の連続体で、一部互いに重なり合って設けられた領域であると理解され、これによって、構造体を担持する基板の領域は、その高さの点で、周囲にある基板とは異なる。
【0016】
ここで構造体は、被覆プロセスによって、特に物理的および/または化学的な堆積法によって、設けることができる。さらにまた、湿式化学的被覆法、例えば印刷、噴霧、ブレード塗布、スピンコート、またはディップコートが使用できる。この際、各構造体を形成する層はそれぞれ、水平方向の連続体で設けられ、ここで各層は、少なくとも部分領域で重なり合っている。部分領域を狙い通りに被覆しないためには、あらゆる慣用のマスキング法、または構造化された層を塗布するためのその他の方法を使用することができる。ここで特に、フォトリソグラフィー法を、構造化された層を製造するためのエッチング法と組み合わせて、例えばリフトオフ法、またはストリップ法で使用することができる。
【0017】
この際に、固体特性、特にガラス表面における圧縮応力が変更可能であれば、特に各プロセス工程に適合させて変更可能であれば、有利であり得る。
【0018】
硬化されたガラスは、より良好に取り扱い可能であり、しばしばまた、より良好に被覆可能であり、このためより単純化された取り扱い条件、ひいてはまたより高い歩留まりに貢献し得る。
【0019】
これによって収量が、第一のプロセス工程で改善され、後続のより良好な切断性および個別化に好都合であり、表面における圧縮応力が減少または低下したガラスを使用すると、このことは全体でまた、改善された加工性につながり、このため著しい経済的な利点がもたらされる。
【0020】
本発明の実施形態において、強化された板状ガラスは、300μm以下、好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下、極めて特に好ましくは50μm以下の厚さtを有する。よって、小型電子部材を製造するための本発明による方法に使用されるガラスは、いわゆる超薄板ガラスとして形成されている。
【0021】
ここで本発明では、ある空間方向における横方向の寸法が、他の2つの空間方向における寸法よりも、少なくとも半分の尺度で小さい場合に、ガラスを板状と呼ぶ。
【0022】
ここで、本発明による板状の強化ガラスは好ましくは、化学的に強化されたガラスとして存在する。ここで化学的な強化は、交換浴におけるイオン交換によって得られ、本発明による方法の開始時に、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも15μm、最も好ましくは少なくとも25μmの、イオン交換層の厚さLDOL、および好ましくは最大480MPa、好ましくは最大300MPa、より好ましくは最大200MPa、またはさらには100MPa未満の、ガラス表面における圧縮応力(σCS)を特徴とする。
【0023】
本発明の1つの実施形態によれば、個別化は、切断、特に機械的な切断、熱による切断、機械的なスコアリング、レーザー切断、レーザースコアリング、もしくはウォータージェット切断により、または超音波ドリルもしくはサンドブラストによる穿孔によって、および/またはこれらの組み合わせによって行う。
【0024】
熱負荷は適切な方法で、好ましくは小型電子部材の少なくとも1つの機能層を熱により後処理する間に、および/または構造体を基板上に設けるかつ/または構造化するための方法工程の間に、および/またはその他の方法工程の間に熱による後処理と熱負荷との組み合わせとして、行う。熱負荷によって、強化、ひいてはガラス表面における圧縮応力を狙い通りに変更、特に低下させることができ、例えばまた、基板上に設けられた機能層を熱により処理する工程を含むプロセスの際に、またはこのプロセスと同時に、行うことができる。これによって有利なことに、ガラスの切断性、また切断時に達成可能な許容度が改善できる。
【0025】
当初から高い強度、特に硬化により向上した強度によって、ガラスを含む基板をより容易に、より安全に取り扱うことができ、その一方で、後続のプロセス工程、例えば基板上に配置された被覆を有する複雑な配置にとって、他の有利な要求事項(例えば改善された、より正確な切断性)が生じ得る。
【0026】
これによって、工業的な作製プロセスの収量、または歩留まりが、全体で著しく改善できる。
【0027】
小型電子部材は例えば、リチウム系薄膜電池であり得る。このようなリチウム系薄膜電池は一般的に、基板上に設けられているカソード集電体(ただしこの基板は、充分な電気伝導性を有しない)、カソード形成層、イオン伝導層、およびアノード集電体によって形成され、ここでアノード自体は通常、まず薄膜電池を最初に充電する間に生じ、電解質層と、アノード集電体との間に形成される。リチウム系薄膜電池のためのこのようなカソード層に適した材料は通常、リチウム遷移金属酸化物、例えばLiCoO2を含む。電池の効率を向上させるためには、熱による後処理を行うことが、カソード材料にとって通常必要となり、これは通常、350〜600℃の範囲、好ましくは400〜550℃の範囲、しばしば500℃で行われる。この場合、化学的に強化された板状ガラスへの熱負荷は、カソード層の熱による後処理の間に、行うことができる。
【0028】
ここで、最小350℃〜最大600℃の間で、最低1時間から最大15時間の持続時間にわたる累積温度処理に相当する熱負荷が、好ましいと実証されている。
【0029】
よって例えば、後に詳細に記載するガラスのいずれかにおいて、約930MPaの当初圧縮応力を、400℃で8時間にわたる、熱負荷および/またはアニール処理によって、約450MPaに低下させることができた。さらに、約930MPaの当初圧縮応力を、500℃で8時間にわたる、熱負荷および/またはアニール処理によって、約120MPaに低下および/または減少させることができた。
【0030】
別の、後に詳細に記載するガラスでは、約370MPaの当初圧縮応力を、400℃で8時間にわたる、熱負荷および/またはアニール処理によって、約190MPaに低下させることができた。さらに、約370MPaの当初圧縮応力を、500℃で8時間にわたる熱負荷および/またはアニール処理によって、残留応力のない状態にまで低下させることができた。
【0031】
相応する温度および一定時間の選択によって、ガラス表面における規定の残留応力を調整することができ、それどころか完全に無くすことができ、特に後者の場合、作製技術的な利点がもたらされる。
【0032】
ここで意外なことに、このように熱負荷によって、強化された、特に化学的に強化された、基板材料として使用される板状ガラスの加工性を、全般的に、またしばしば、プロセスに特有な形で改善可能なことが判明した。
【0033】
よって一般的には、強化ガラスを用いて、ガラスを分割および/または個別化するための通常の方法を行うことは不可能であるか、または非常な困難性を伴った場合にのみ、可能である。つまり、ガラスの応力によって、機械的に傷を付ける場合、例えば通常のガラス切断法、例えば機械的なスコアリングおよび破断ではたいてい、ガラスの完全な機械的破壊につながる。しかしながら、特別な方法によって強化ガラスの個別化を可能にしようとする限り、こうして得られた端部は、通常要求される許容度におさまる品質を有さず、チッピング、および切断端部の正確ではない経過を特徴とし、これによって小型電子部材のさらなる加工は、困難になるであろう。よって、ガラスの強化により、確かに一般的にはガラスの取り扱い性、また特に薄板ガラスの取り扱い性は改善するものの、これによって通常のガラス加工では破壊しづらくなり、また切断によるガラスの個別化が困難になるか、または不可能になり、いずれの場合でも、材料損失の上昇と結びついており、このため、できるだけ大きな材料利用により、板状の強化ガラスを基板として用いて、多くの電子部材をウェハ上でコスト的に有利に作製することは、従来不可能であると考えられていた。
【0034】
これに対して、本発明による方法は、小型電子部材の通常の作製プロセスで板状の強化ガラスを用いることを可能にし、これによって、強化ガラスの利点、特に破壊の危険性が低下していることを、充分に良好な切断性と組み合わせて利用でき、これによって、それぞれの小型部材の個別化が、高い材料損失を伴わずに可能になる。
【0035】
よって意外なことに、化学的に強化されたガラスは、温度・時間負荷を行った後に、または一般的に熱負荷の後に、極めて良好に個別化できる。
【0036】
確かに、例えば熱により強化されたガラスの場合、応力状態から熱負荷によって、圧縮応力を除去可能なことは、知られている。しかしながら意外なことにこの効果は、化学的に強化されたガラスの場合、限定的な程度でしか生じないことが判明した。よって、化学的に強化されたガラスの場合、熱処理によって、ガラスの断面全体にわたって、イオンを均一に拡散させることにつながる。ただしここで、熱負荷は、圧縮応力の完全な喪失が起こらないように制御することができ、これによってまた、熱負荷後に、強化されていないガラスに比べて破壊の危険性が低下したガラスが、全体的に存在する。
【0037】
こうして、本発明による方法により簡単なやり方で、強化ガラスの利点を、通常のプロセス工程で、小型電子部材を製造する際に、使用する基板材料の高い面積収率と同時に、利用することが可能になる。ここで、使用するガラス基板は、本発明による方法の終了後にも、強化されていないガラスよりも高い破壊強度を有し、これにより、このようにして得られる小型電子部材の機械的安定性が向上する。
【0038】
使用するガラスは、ホウケイ酸ガラス、および/またはアルミノケイ酸塩ガラスであるのが好ましい。
【0039】
本発明により実施される熱負荷は、熱による通常の加熱手法によって行う。熱負荷は例えば、抵抗加熱、および/または電磁放射、および/または誘導、および/またはこれらの組み合わせによって、行うことができる。
【0040】
小型電子部材を製造するための、本発明による方法の間の熱負荷によって、化学的に強化されたガラスの当初応力状態が変化するが、このガラスが再度、当初の応力無しの状態に移行することは無い。ガラスの完全な緩和自体は、プロセス全体にとって有利であり、また特に、前述の非常に興味深く、有利な実施形態をもたらす。
【0041】
表面に存在するガラスについて当初100%の圧縮応力は、アニール処理後に好ましくは、少なくとも50%の圧縮応力にまでなり得るが、各プロセスに特有で、表面において20%、10%、また0%の圧縮応力に緩和されていることが、有利であり得る。しかしながらこの際に、少なくとも一定時間の間、ガラス表面で高められた圧縮応力は、取り扱いにとって、または方法段階にとって有利であった。
【0042】
個別のケースでは、ガラス表面で圧縮応力を0%にまで完全に緩和することも、有意義であり、特に切断された小型要素(例えばその切断端部)の信頼性、基板の可撓性、または改善された切断性、および非常に高い許容性維持度が重要となる場合、有意義である。
【0043】
よって、小型電子部材、例えば本発明による方法の実施後に得られる小型電子部材は、基板として構造体のために使用されるガラスが、少なくとも部分的に化学的に強化されたガラスとして存在することを特徴とし、ここで、少なくとも部分的な化学的な強化は、交換浴におけるイオン交換、および後続の熱負荷によって得られ、前記部材はまた、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも15μm、最も好ましくは少なくとも25μmの、イオン交換層の厚さ(LDOL)、ならびに好適には最大480MPa、好ましくは最大300MPa、より好ましくは最大200MPa、またはさらには100MPa未満の、ガラス表面における圧縮応力(σCS)を特徴とし、ここで熱負荷の前におけるイオン交換層の厚さは、熱負荷後のイオン交換層の厚さよりも小さく、熱負荷の前の、ガラス表面における圧縮応力は、熱負荷後のガラス表面における圧縮応力よりも大きい。
【0044】
ここで、先に記載した圧縮応力は有利には、方法実施の当初段階の間に、記載したよりも高くてよく、また方法の後の段階の間により低くてよく、それどころか、0の値に相当していてよく、特にこれによって、できるだけ有利なように、様々な方法工程またはプロセス工程の各要求に適合させることが可能になる。
【0045】
さらなる有利な本発明による実施形態の場合、最終的な方法段階の間に、圧縮応力を完全に無くし、これによって容易でより正確な個別化が可能になる。この実施形態のためには、少なくとも一定時間にわたって強化したガラスが、基板材料として存在していれば、特に有利には、方法の最初で一定時間の間、基板材料として存在していれば、充分である。
【0046】
ここで小型電子部材の構造体のための基板として使用されるガラスは好適には、300μm以下、好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下、極めて特に好ましくは50μm以下の厚さtを有する。
【0047】
この使用されるガラスは、ホウケイ酸ガラス、および/またはアルミノケイ酸塩ガラスであるのが好ましい。
【0048】
本発明の実施形態において小型電子部材は、薄膜電池として、好ましくはリチウム系薄膜電池として形成されている。
【0049】
よって本発明は、小型電子部材を製造するための基板としての、化学的に強化されたガラスの使用も、包含する。
【0050】
ここでガラスの化学的な強化は、交換浴におけるイオン交換によって得られる。本発明による方法の実施前に、ガラスは、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも15μm、最も好ましくは少なくとも25μmの、イオン交換層の厚さLDOL、ならびに好適には最大480MPa、好ましくは最大300MPa、より好ましくは最大200MPa、またはさらには100MPa未満の、ガラス表面における圧縮応力(σCS)を特徴とする、化学的に強化されたガラスを有することを特徴とする。
【0051】
本発明による方法を実施することによって、プロセス条件に従って、基板として使用するガラスの応力状態の変更につながり、これによって、個別化に充分な、応力状態の減少が達成される。ここで意外なことに、ここでガラスの圧縮応力は、ゼロに移行することはなく、それどころかむしろ、ガラス内には残留応力が保たれ、これによって小型電子部材用の基板として使用するガラスの強度全体が、従来の、強化されていないガラスに比して、向上していることが判明している。よって、本発明により製造される小型電子部材の機械的安定性全体は、その一般的な取り扱い性と同様に、改善されている。
【0052】
ここで、完成した、本発明による小型電子部材において基板として存在するガラスは、少なくとも部分的に化学的に強化されたガラスとして存在することを特徴とし、ここで少なくとも部分的な化学的な強化は、交換浴におけるイオン交換、および後続の熱負荷によって得られ、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも15μm、最も好ましくは少なくとも25μmの、イオン交換層の厚さ(LDOL)、ならびに好適には最大480MPa、好ましくは最大300MPa、より好ましくは最大200MPa、または100MPa未満の、ガラス表面における圧縮応力(σCS)を特徴とし、ここで熱負荷の前におけるイオン交換層の厚さは、熱負荷後のイオン交換層の厚さよりも小さく、熱負荷の前の、ガラス表面における圧縮応力は、熱負荷後のガラス表面における圧縮応力よりも大きい。
【0053】
本発明の実施形態において、ガラスの化学強化は、リチウムイオンが含まれている交換浴で得られる。これは例えばまた、様々なアルカリ金属イオン、例えばカリウム、および僅かな、非常に僅かなリチウムの割合を有する交換浴である。段階的なプロセス、例えばカリウムによる交換、およびリチウム含有浴による迅速なさらなる交換を行うこともできる。
【0054】
リチウムイオンを含有する交換浴で化学的に強化されたガラスを使用することは、その後に構築される小型電子部材が、リチウム系薄膜電池として形成されている場合、特に有利である。リチウムを体積中に、表面に、および/または表面領域に含有するリチウム含有ガラスによって、特に電極からの、リチウムまたはリチウムイオンの拡散を低減させるか、または少なくとも著しく減少させることができ、電極に対して改善された耐腐食性がもたらされる。
【0055】
化学的な強化のための出発ガラスとしては、ホウケイ酸ガラス、および/またはアルミノケイ酸塩ガラスを使用するのが好ましい。
【0056】
超薄板ガラスを化学的に硬化および/または強化する方法は、例えば本出願人から、国際出願番号PCT/CN2013/072695(PCT/CN2013/072695)によって公知である。ここで、交換のパラメータを相応して変えることによって、化学的な強化について様々な値が得られることは、当業者に公知である。
【0057】
本発明のさらなる実施形態では、化学的に強化された板状ガラスを、担体またはキャリア上に設け、位置決めし、それから電子部材を形成する構造体製造のためのさらなる方法工程が続く。構造体の製造に必要な全ての堆積工程、被覆工程、および構造化工程の終了後の、担体からのガラス基板の剥離は、本発明による熱負荷の前にも、後にも行うことができる。
【0058】
しかしながら通常は、本発明により使用する、化学的に強化された板状ガラスの機械的安定性が高いため、担持の唯一の目的が、特に破壊の危険性を最小化するために、担持によって基板に、全体的に改善された機械的安定性を付与することだけであれば、担体上に基板を固定するための高コストな手法は、省略することができる。
【0059】
実施例
実施例1
小型電子部材のための製造方法で基板として使用される、化学的に強化された板状ガラスのあり得る組成は、例示的に以下の組成によって質量%で表される:
SiO2 30〜85質量%
23 3〜20質量%
Al23 0〜15質量%
Na2O 3〜15質量%
2O 3〜15質量%
ZnO 0〜12質量%
TiO2 0.5〜10質量%
CaO 0〜0.1質量%
ここでガラスはさらに、副成分および/または痕跡量を、例えば方法技術的に必要な添加物(例えば清澄剤)の形で、また例えば原料に必然的に含まれる痕跡量が原因で不純物として生じるさらなる構成要素の形で、含有することができる。ここで、これらのさらなる構成要素の合計は通常、2質量%未満である。
【0060】
実施例2
ここで化学的な強化前に、以下の組成を質量%で有するガラスが、例示的に特に好ましい:
SiO2 64質量%
23 8.3質量%
Al23 4.0質量%
Na2O 6.5質量%
2O 7.0質量%
ZnO 5.5質量%
TiO2 4.0質量%
Sb23 0.6質量%
Cl- 0.1質量%。
【0061】
この組成では、以下のような基板特性が得られる:
α20〜300:7.2・10-6/K
g:557℃
密度:2.5g/cm3
【0062】
実施例3
小型電子部材のための製造方法で基板として使用される、化学的に強化された板状ガラスのあり得る別の組成は、例示的に以下の組成によって質量%で表される:
SiO2 50〜65質量%
Al23 15〜20質量%
23 0〜6質量%
Li2O 0〜6質量%
Na2O 8〜15質量%
2O 0〜5質量%
MgO 0〜5質量%
CaO 0〜7質量%、好ましくは0〜1質量%
ZnO 0〜4質量%、好ましくは0〜1質量%
ZrO2 0〜4質量%
TiO2 0〜1質量%、好ましくは実質的にTiO2不含
ここでガラスはさらに、副成分および/または痕跡量を、例えば方法技術的に必要な添加物(例えば清澄剤)の形で、また例えば原料に必然的に含まれる痕跡量が原因で不純物として生じるさらなる構成要素の形で、含有することができる。ここで、これらのさらなる構成要素の合計は通常、2質量%未満である。
【0063】
実施例4
ここで化学的な強化前に、以下の組成を質量%で有するガラスが、例示的に特に好ましい:
SiO2 62.3質量%
Al23 16.7質量%
Na2O 11.8質量%
2O 3.8質量%
MgO 3.7質量%
ZrO2 0.1質量%
CeO2 0.1質量%
TiO2 0.8質量%
As23 0.7質量%。
【0064】
この組成では、以下のような基板特性が得られる:
α20〜300:8.6・10-6/K
g:607℃
密度:2.4g/cm3
【0065】
実施例5
ここでさらに、化学的な強化前に、以下の組成を質量%で有するガラスが、例示的に特に好ましい:
SiO2 62.2質量%
Al23 18.1質量%
23 0.2質量%
25 0.1質量%
Li2O 5.2質量%
Na2O 9.7質量%
2O 0.1質量%
CaO 0.6質量%
SrO 0.1質量%
ZnO 0.1質量%
ZrO2 3.6質量%。
【0066】
この組成では、以下のような基板特性が得られる:
α20〜300:8.5・10-6/K
g:505℃
密度:2.5g/cm3
【0067】
実施例6
ここでさらに、化学的な強化前に、以下の組成を質量%で有するガラスが、例示的に特に好ましい:
SiO2 52質量%
Al23 17質量%
Na2O 12質量%
2O 4質量%
MgO 4質量%
CaO 6質量%
ZnO 3.5質量%
ZrO2 1.5質量%。
【0068】
この組成では、以下のような基板特性が得られる:
α20〜300:9.7・10-6/K
g:556℃
密度:2.6g/cm3
【0069】
実施例7
ここでさらに、化学的な強化前に、以下の組成を質量%で有するガラスが、例示的に特に好ましい:
SiO2 62質量%
Al23 17質量%
Na2O 13質量%
2O 3.5質量%
MgO 3.5質量%
CaO 0.3質量%
SnO2 0.1質量%
TiO2 0.6質量%。
【0070】
この組成では、以下のような基板特性が得られる:
α20〜300:8.3・10-6/K
g:623℃
密度:2.4g/cm3
【0071】
実施例8
ここでさらに、化学的な強化前に、以下の組成を質量%で有するガラスが、例示的に特に好ましい:
SiO2 61.1質量%
Al23 19.6質量%
23 4.5質量%
Na2O 12.1質量%
2O 0.9質量%
MgO 1.2質量%
CaO 0.1質量%
SnO2 0.2質量%
CeO2 0.3質量%。
【0072】
この組成では、以下のような基板特性が得られる:
α20〜300:8.9・10-6/K
g:600℃
密度:2.4g/cm3
【0073】
実施例9
ここでさらに、化学的な強化前に、以下の組成を質量%で有するガラスが、例示的に特に好ましい:
SiO2 60.7質量%
Al23 16.9質量%
Na2O 12.2質量%
2O 4.1質量%
MgO 3.9質量%
ZrO2 1.5質量%
SnO2 0.4質量%
CeO2 0.3質量%。
【0074】
本発明の範囲において転移温度Tgは、5K/分の加熱速度で測定した場合、膨張曲線の両方の弧における接線の交点によって測定されている。これは、ISO 7884-8、もしくはDIN 52324による測定に相当する。
【0075】
さらに、ここで線熱膨張係数αは、特に記載の無い限り、20〜300℃の範囲で記載されている。α、およびα20〜300という記載は、本発明の範囲において、同義で使用する。記載した値は、ISO 7991に従って統計的な測定で測定された、名目平均熱膨張係数である。
【0076】
実施例10
実施例2に記載の組成のガラス板(大きさ:140×140mm2、密度:70μm)を、化学的に強化した。この強化はKNO3浴中、430℃で4時間にわたり行った。
【0077】
引き続き、このガラス板を以下のような温度処理にかけた:
室温から500℃へと、加熱速度10K/分で加熱した。500℃で、温度を保った。引き続き、試料をそのまま冷却した。すなわち、冷却は、炉のチャンバを開放して、加熱装置を切ることにより、炉の特性曲線に相応して行った。
【0078】
参照として、実施例2に相応する組成を有する、化学的に強化されていないガラス試料を用いた。
【0079】
温度処理の終了後、ガラス板をCNC機械により、大きさが25×25mm2の試料に個別化した。こうして得られた試料は、破壊可能性について、ワイブル分布に従い特性決定した。
【0080】
ここで、事前に化学的に硬化された試料は、事前に硬化されていない試料と同様に、顕著に異なることなく、切断できることが分かる。よって破壊可能性は、通常の測定精度の範囲では、同一である。
【0081】
以下では、本発明の好ましい実施形態を再度、図面も用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】蓄電部材の概略的な図を示す。
図2】板状ガラスの概略的な図を示す。
図3】ワイブル特性の形で、様々なガラスの破壊可能性を示す。
図4】ワイブル特性の形で、様々なガラスの破壊可能性を示す。
図5】ワイブル特性の形で、様々なガラスの破壊可能性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0083】
図1には、本発明による蓄電システム1が概略的に示されている。このシステムは、基板として使用される板状ガラス2を有する。この基板には、一連の異なる層が施与されている。例示的に、また本実施例に制限されることなく、ここで板状ガラス2上にはまず、2つの集電体層(3がカソード用、4がアノード用)が設けられている。このような集電体層は通常、厚さが数マイクロメーターであり、金属、例えば銅、アルミニウム、またはチタンから成る。集電体層3を土台として、カソード層5が存在する。蓄電システム1がリチウム系薄膜電池であれば、カソードはリチウム遷移金属化合物、好ましくは酸化リチウムから形成されており、例えばLiCoO2から、LiMnO2から、またはLiFePO4から形成されている。さらに、基板上に、またカソード層5と少なくとも部分的に重なりながら、電極6が設けられており、ここでこの電極は、リチウム系薄膜電池が存在する場合、たいていLiPON(リチウムと、酸素、リン、および窒素との化合物)である。さらに、蓄電システム1は、アノード7を有し、ここでこれは例えば、リチウム−チタン酸化物であってよく、または金属リチウムであり得る。アノード層7は少なくとも部分的に、電極層6および集電体層4と重なっている。電池1はさらに、封止層8を有する。
【0084】
ここで蓄電システム1の封止もしくは封入とは、本発明の範囲において、蓄電システム1への流体もしくはその他の腐蝕性材料の攻撃を防止可能な、または著しく低減可能な材料と理解される。
【0085】
図2は、本発明の好ましい実施形態の板状ガラスの概略図を示し、ここでは板状成形体10として形成されている。板状、または板とは、本発明の範囲において、1つの空間方向における伸張が、他の2つの空間方向におけるものよりも最大で半分の大きさである成形体を言う。本発明において帯状物とは、その長さ、その幅、およびその厚さが、以下の関係にある成形体を言う:成形体の長さが、成形体の幅の少なくとも10倍大きく、また成形体の厚さの少なくとも2倍である。
【0086】
図3は、実施例2の組成に相当する、厚さ70μmの板状ガラスの試料全体について、実施例10に相当する温度処理に従った場合の、破断可能性を示す。この際、ここで試験した試料は、化学的に強化されていないものであった。
【0087】
図4は、実施例2の組成に相当する、厚さ70μmの板状ガラスの試料全体について、実施例10に相当する温度処理に従った場合の、破断可能性を示す。この際、ここで試験した試料は、化学的に強化されたものであった(実施例10参照)。
【0088】
図5には、図3および図4からのワイブル特性が、重ねられている。ここで、円形の記号は、本発明による板状ガラスに関するものであり、このガラスは、まず化学的に強化し、続いて実施例10に記載の温度処理にかけたものであった(図4参照)。正方形の記号は、強化されていない参照用のガラスについて得られた値に関する(図3参照)。各試料全体について得られたワイブル分布が、実質的に同じであること、すなわち著しい逸脱は無いことが明らかに見て取れる。よってこれら2枚の板状ガラスについて、切断特性は同一である。
【0089】
よって、本発明による方法では、少なくとも部分的に強化されている板状ガラスの取り扱い性が明らかに改善されており、このことは個別化工程において、板状ガラスの破壊可能性向上につながっていない。
【符号の説明】
【0090】
1 蓄電システム
2 基板として用いられる板状ガラス
3 カソード用集電体層
4 アノード用集電体層
5 カソード
6 電解質
7 アノード
8 封止層
10 板状ガラス
図1
図2
図3
図4
図5