(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トリイソプロピルシリルメタクリレート(i)から誘導される構造単位(1)と、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート(ii)から誘導される構造単位(2)と、重合性二重結合を有する重合性モノマー(ただし、トリイソプロピルシリルメタクリレートおよび2−メトキシエチル(メタ)アクリレートを除く。)(iii)から誘導される構造単位(3)とからなる加水分解性共重合体(A)と、平均粒子径が4.5〜50μmの亜酸化銅(B)と、ロジン類および/またはモノカルボン酸化合物(C)とを含有し、
前記ロジン類は、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、水添ロジン、および不均化ロジンから選択され、前記モノカルボン酸化合物は、脂肪族または脂環式のモノカルボン酸から選択され、
前記加水分解性共重合体(A)の含有量(WA)と前記ロジン類および/またはモノカルボン酸化合物(C)の含有量(WC)との比(WA/WC)が質量基準で97/3〜30/70である
防汚塗料組成物。
さらに、亜酸化銅(B)以外の無機銅化合物(D)、有機防汚剤(E)、着色顔料(F)、体質顔料(G)、顔料分散剤(H)、可塑剤(I)、タレ止め剤(J)、沈降防止剤(K)、脱水剤(L)、および溶剤(M)からなる群から選択される少なくとも1種類を含有することを特徴とする請求項1に記載の防汚塗料組成物。
トリイソプロピルシリルメタクリレート(i)から誘導される構造単位(1)と、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート(ii)から誘導される構造単位(2)と、重合性二重結合を有する重合性モノマー(ただし、トリイソプロピルシリルメタクリレートおよび2−メトキシエチル(メタ)アクリレートを除く。)(iii)から誘導される構造単位(3)とからなる加水分解性共重合体(A)と、平均粒子径が4.5〜50μmの亜酸化銅(B)と、ロジン類および/またはモノカルボン酸化合物(C)と、任意に他の成分とを混合する防汚塗料組成物の製造方法であって
前記ロジン類は、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、水添ロジン、および不均化ロジンから選択され、前記モノカルボン酸化合物は、脂肪族または脂環式のモノカルボン酸から選択され、
前記加水分解性共重合体(A)の含有量(WA)と前記ロジン類および/またはモノカルボン酸化合物(C)の含有量(WC)との比(WA/WC)が質量基準で97/3〜30/70である
防汚塗料組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る防汚塗料組成物、防汚塗膜および防汚基材、ならびに防汚基材の製造方法について詳細に説明する。
<防汚塗料組成物>
本発明の防汚塗料組成物(防汚塗料)は、特定の加水分解性共重合体(A)と平均粒子径が4.5〜50μmの亜酸化銅(B)、ロジン類および/またはモノカルボン酸化合物(C)を含有しているが、本発明の防汚塗料は、目的に応じて、任意成分を含んでいてもよい。
【0041】
<加水分解性共重合体(A)>
この加水分解性共重合体(A)は、トリイソプロピルシリルメタクリレート(i)から誘導される構造単位(1)と、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート(ii)から誘導される構造単位(2)と、重合性二重結合を有する重合性モノマー(ただし、トリイソプロピルシリルメタクリレートおよび2−メトキシエチル(メタ)アクリレートを除く。)(iii)から誘導される構造単位(3)とを有する加水分解性共重合体(A)である。
【0042】
加水分解性共重合体(A)は、構造単位(1)を含むため、加水分解性共重合体(A)を含む加水分解型防汚塗料組成物を防汚塗膜として海水や真水に接触させた際にも安定性に優れる。また、構造単位(1)および(2)を有する加水分解性共重合体(A)を含む防汚塗料組成物は、エポキシ樹脂系塗膜上に塗装した場合に、優れた長期防汚性および長期付着性を発揮する。さらに、この防汚塗料組成物から得られる防汚塗膜は、エポキシ樹脂系塗膜が形成されてから該防汚塗膜を塗装するまでの塗装インターバルが短い場合はもちろんのこと、長い場合であってもエポキシ樹脂系塗膜に対して強固に付着できる。塗装インターバルが長いとエポキシ樹脂系塗膜は硬化が進み硬度が上昇していく。しかしながら、構造単位(1)および(2)を組み合わせた加水分解性共重合体(A)から得られる防汚塗膜は好ましい硬さを有するため、硬化が進み硬度が上昇したエポキシ樹脂系塗膜に対しても強固に付着できると考えられる。このように特定の構造単位を有する加水分解性共重合体(A)を用いると、ビニル樹脂系バインダーコートを塗装する必要がなくなる。
【0043】
この加水分解性系共重合体は、下記条件1〜2を満たすことが好ましい。
条件1:前記構造単位(1)の割合が、塗膜加水分解性(消耗性)および静置防汚性等の向上の観点から、30〜70質量%であり、40〜65質量%であることが望ましい。
条件2:前記構造単位(2)の割合が、塗膜加水分解性(消耗性)および静置防汚性等の向上の観点から、5〜40質量%であり、10〜30質量%であることが望ましい。
【0044】
この加水分解性共重合体(A)は、塗装作業性、長期保存安定性、塗膜耐水性(機械的特性)、塗膜加水分解性(消耗性)、静置防汚性、塗膜外観等の向上の観点から、本発明の防汚塗料組成物中に、通常、5〜50質量%、好ましくは、7〜30質量%の量で含まれていることが望ましい。また、本発明の防汚塗料組成物の固形分(加熱残分、不揮発分)100質量%中に、通常5〜50質量%、好ましくは、7〜30質量%程度の量で含まれることが、塗装作業性、長期保存安定性、塗膜耐水性(機械的特性)、塗膜加水分解性(消耗性)、静置防汚性、塗膜外観等の各種防汚塗料性能を向上できる点で望ましい。ここで、防汚塗料組成物中に含まれる固形分(加熱残分)とは、防汚塗料組成物1.5gを、恒温槽内で、125℃の条件下で1時間保持して揮発分を除去して得られたものである。
【0045】
重合性二重結合を有する重合性モノマー(iii)は、トリイソプロピルシリルメタクリレート(i)および2−メトキシエチル(メタ)アクリレート(ii)を除くモノマーを意味し、重合性二重結合(たとえば、ビニル基や(メタ)アクリロイル基)を有し、前記モノマー(i)(すなわちトリイソプロピルシリルメタクリレート(i))、あるいはモノマー(ii)(すなわち2−メトキシエチル(メタ)アクリレート(ii))と共重合する。
【0046】
重合性モノマー(iii)は、重合性二重結合を有するエステル類、または重合性二重結合を有するカルボン酸類であることが好ましい。重合性モノマー(iii)がこのような化合物であると、トリイソプロピルシリルメタクリレート(i)や2−メトキシエチル(メタ)アクリレート(ii)との相溶性が良好であり、トリイソプロピルシリルメタクリレート(i)や2−メトキシエチル(メタ)アクリレート(ii)との反応性が同程度であるために、各モノマーに由来する構造単位が均等に(ランダムに)組み込まれ、溶剤に対しても相溶性が良好なシリルメタクリル系共重合体(A)を調製できる。すなわち、各モノマー間の重合反応性が極端に異なり、各モノマーが共重合し難い場合には、得られる重合体は、単独重合体または成分単位が不均一な共重合体であるといった不具合が発生するが、重合性モノマー(iii)が上記のような化合物であると、このような不具合を低減し、安定的に加水分解性共重合体(A)を調製することができる。
【0047】
重合性モノマー(iii)として用いられる上記エステル類およびカルボン酸類としては、上記トリイソプロピルシリルメタクリレート(i)、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート(ii)を除く、(メタ)アクリル酸エステル類、重合性二重結合を有するモノカルボン酸類、ジカルボン酸類またはこれらのハーフエステル(モノエステル)やジエステル、ビニルエステル類、金属エステル基含有(メタ)アクリレート、オルガノシロキサン基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、エステル類およびカルボン酸類以外の、重合性モノマー(iii)としては、スチレン類が挙げられる。
【0048】
上記重合性モノマー(iii)の具体例としては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸ブチルエステル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸ラウリルエステル、(メタ)アクリル酸トリデシルエステル、(メタ)アクリル酸ステアリルエステル、(メタ)アクリル酸アリルエステル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、(メタ)アクリル酸イソボルニルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルエステルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;
(メタ)アクリル酸などのモノカルボン酸類;
イタコン酸、マレイン酸、コハク酸等のジカルボン酸類またはこれらのハーフエステル(モノエステル)やジエステル;
スチレン、α―メチルスチレンなどのスチレン類;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;
などが挙げられ、これらは単独でまたは2種類以上が用いられる。
【0049】
また、加水分解性共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜60,000であることがより好ましい。重量平均分子量がこのような範囲にある加水分解性共重合体(A)を含む防汚塗料組成物は、塗膜を形成した場合、塗膜の加水分解性が良好であり、静置防汚性を一層向上できるとともに、より優れた長期機械的特性(水に長期的に浸漬された場合における、基材、下塗り塗膜等に対する本発明の防汚塗膜の付着性およびクラック等の外観特性など。)を発揮することができる。
【0050】
なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定され、標準ポリスチレン検量線を用いて求めた値である。分子量測定のGPC条件は以下のとおりである。
【0051】
(GPC条件)
ポンプ: 「HLC−8120GPC」(東ソー(株)製)
カラム: 「SuperH2000+H4000」(東ソー(株)製、6mm(内径)、各15cm(長さ))
溶離液: テトラヒドロフラン(THF)
その他の条件
流速 :0.500ml/min.
検出器 :RI
カラム恒温槽温度 :40℃
標準物質 :ポリスチレン
サンプル調製法 :加水分解性共重合体(A)を含む溶液に少量の塩化カルシウムを加えて脱水した後、メンブレムフィルターで濾過して得られた濾物をGPC測定サンプルとする。
【0052】
加水分解性共重合体(A)において、構造単位(1)と、構造単位(1)、(2)および(3)の合計質量((1)+(2)+(3))との含有質量比((1)/[(1)+(2)+(3)])(含有質量比(I))は、たとえば30/100〜70/100であり、好ましくは40/100〜65/100であり、より好ましくは45/100〜65/100である。
【0053】
含有質量比(I)の値が、上記の範囲にあると、良好な塗膜加水分解性(消耗性)、静置防汚性、塗膜耐水性(機械的特性)を有する防汚塗料組成物を得ることができる。
構造単位(2)と、構造単位(1)、(2)および(3)の合計質量((1)+(2)+(3))との質量比((2)/[(1)+(2)+(3)])(含有質量比(II))は、たとえば5/100〜40/100であり、好ましくは、7/100〜35/100、特に好ましくは、10/100〜30/100である。
【0054】
含有質量比(II)の値が、このような範囲にあると、防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜は、水、特に海水に浸漬した場合に、十分な塗膜消耗性(更新性)を発揮できるために、良好な静置防汚性などの長期防汚性を示し、長期間に亘ってクラックの発生が少なくすることができ優れた付着性を得ることができる。
【0055】
構造単位(3)と、構造単位(1)、(2)および(3)の合計質量((1)+(2)+(3))との質量比((3)/[(1)+(2)+(3)])(含有質量比(III))は、たとえば3/100〜65/100であり、好ましくは、5/100〜50/100であり、特に好ましくは、7/100〜40/100である。
【0056】
加水分解性共重合体(A)は、トリイソプロピルシリルメタクリレート(i)と2−メトキシエチル(メタ)アクリレート(ii)と重合性二重結合を有する重合性モノマー(iii)とを公知の重合方法によって共重合させて調製される。重合方法としては、溶液重合、塊状重合、セミバッチ重合、懸濁重合、配位重合、リビング重合または乳化重合におけるラジカルまたはイオン重合等が挙げられる。
【0057】
中でも、加水分解性共重合体(A)の生産性および製造作業性を向上し、低い粘度を有する共重合体(A)を調製できることを考慮すると、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸n−ブチル等の汎用されている有機溶剤を用いて、前記(1)〜(3)を溶液重合することが好ましい。なお、このように、共重合体(A)の粘度が低い場合、防汚塗料組成物の粘度を低下させるために添加される溶剤の量を低減することができるために、VOC含有量を低減することができる。また、防汚塗料組成物の粘度を低減できることに起因して、塗料組成物の塗装作業性、防汚塗膜の外観性(レベリング性)等も向上させることができる。
【0058】
なお、ラジカル重合触媒としては、公知のものを広く使用でき、例えば、特開2001−151830号公報[0099]欄等に記載されているような、2,2'-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−イソブチロニトリルなどのアゾ化合物や、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシオクトエートなどの過酸化物が挙げられる。
【0059】
なお、重合反応に供されるモノマーである、前記(1)〜(3)の仕込み量(質量)の比率は、それぞれ、調製される共重合体に含まれる構造単位(1)〜(3)の各含有量(質量)の比率と一致する傾向にある。したがって、上記条件1〜2は、重合反応に供されるモノマーの仕込量(質量)および仕込み質量比に基づいて、含有質量比(I)および含有質量比(II)を所望の値に調整することができる。
【0060】
<亜酸化銅(B)>
本発明の防汚塗料組成物が含有する亜酸化銅(B)の平均粒子径は4.5〜50μmである。亜酸化銅(B)は粒子径の分布の範囲が0.1〜100μmであり、好ましくは平均粒子径が4.5〜30μmで、粒子径の分布の範囲が0.15〜70μmのものが用いられる。ただし、亜酸化銅(B)は、粒子径の分布が前記範囲から外れる粒子をごく少量(たとえば0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下)含み、粒子径の分布が前記範囲にある粒子を残りの量(たとえば99.5質量%以上、好ましくは99.9質量%以上)で含んでいてもよい。この範囲の粒子径の場合、塗膜内部の凝集力が高くなりすぎず、更に塗料粘度の上昇も防げるので、当該加水分解性共重合体(A)とロジン類および/またはモノカルボン酸化合物(C)を含む防汚塗料組成物において、下塗りのエポキシ樹脂系防食塗膜との付着性が良好でありかつ、含有するVOC量を低減することが可能である。また亜酸化銅(B)の含有量は、防汚塗膜の長期防汚性と付着性の向上という観点から、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは10〜800質量部、さらに好ましくは100〜750質量部である。
【0061】
また、これら亜酸化銅(B)はグリセリン、ステアリン酸、ラウリン酸、ショ糖、レシチン、鉱物油等によって表面処理されているものが、貯蔵時の長期安定性の点で好ましい。
【0062】
亜酸化銅(B)の平均粒子径は、具体的には、実施例に記載の[亜酸化銅の平均粒子径測定方法]で測定することができる。また、簡易的に走査型電子顕微鏡において1000倍で塗膜を観察した際に、4.5〜50μmの粒子径を有する亜酸化銅の存在有無で確認することも可能である。
【0063】
<ロジン類および/またはモノカルボン酸化合物(C)>
本発明の防汚塗料組成物は、該組成物から形成された防汚塗膜から該防汚剤の溶出を促進し、特に静置防汚性を向上させるという観点から、ロジン類および/またはモノカルボン酸化合物を含有することを必須とする。ここでロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン、水添ロジン、不均化ロジン等のロジン誘導体などが挙げられ、モノカルボン酸化合物としては、脂肪族または脂環式のモノカルボン酸、これらのモノカルボン酸誘導体またはこれらの金属塩などが挙げられる、モノカルボン酸化合物の具体例としては、トリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸、ナフテン酸、バーサチック酸、ステアリン酸、サリチル酸およびこれらの塩などが挙げられる。これらは単独で用いても二種以上組み合わせて用いてもよい。また、本発明の防汚塗料組成物において、加水分解性共重合体(A)の含有質量(WA)とロジン類および/またはモノカルボン酸化合物の含有質量(WC)との含有質量比(WA/WC)は、好ましくは99.9/0.1〜30/70、より好ましくは、97/3〜35/65、さらに好ましくは95/5〜40/60である。
【0064】
本発明の防汚塗料組成物は、このように特定の構造単位を有する加水分解性共重合体(A)と、特定の平均粒子径を有する亜酸化銅(B)と、ロジン類および/またはモノカルボン酸化合物(C)とを組み合わせたことを特徴とする。これにより、たとえばエポキシ樹脂系塗膜上に本発明の防汚塗料組成物を塗装すると、長期にわたり優れた防汚性および付着性を発揮できる。また、塗装インターバル制限を延長(緩和)できる。更に中塗りのビニル系バインダーコートを必要としないため、塗装の工程短縮化を図ることができる。その上、本発明に係る防汚塗料組成物は低粘度化が図られ揮発性有機化合物(VOC)の含有量を低減することが可能である。また、エアレス塗装作業性にも優れる。
【0065】
本発明の防汚塗料組成物は、無機銅化合物(D)、有機防汚剤(E)、着色顔料(F)、体質顔料(G)、顔料分散剤(H)、可塑剤(I)、タレ止め剤(J)、沈降防止剤(K)、脱水剤(L)、溶剤(M)からなる群から選択される少なくとも1種類の添加剤を含有していてもよい。以下、これら成分(D)から(M)について詳細に説明する。
【0066】
<無機銅化合物(D)>
本発明の防汚塗料組成物は、防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の防汚性を更に向上させるために、平均粒子径が4.5〜50μmの亜酸化銅(B)の他に、無機銅化合物(D)を更に含有してもよい。無機銅化合物としては、たとえば、チオシアン酸銅、キュプロニッケル等が挙げられる。無機銅化合物(D)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0067】
また、本発明の防汚塗料組成物において、無機銅化合物(D)の含有量は、防汚塗膜の長期防汚性の向上という観点からは、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0〜800質量部、さらに好ましくは0〜600質量部である。また亜酸化銅(B)100質量部に対して、好ましくは0〜300質量部、更に好ましくは0〜250質量部である。
【0068】
本発明の防汚塗料組成物を、亜酸化銅の一部として平均粒子径が4.5μm未満の亜酸化銅を用いて調製する場合は、平均粒子径が4.5μm以上の亜酸化銅を、亜酸化銅全体(100質量%)のうち30質量%を超えて用いると、下塗りのエポキシ樹脂系防食塗膜との付着性が良好である点でさらに好ましい。平均粒子径が4.5μm未満の亜酸化銅は、グリセリンやステアリン酸、ラウリン酸、ショ糖、レシチン、鉱物油等によって表面処理されているものが貯蔵時の長期安定性の点で好ましい。
【0069】
<有機防汚剤(E)>
本発明の防汚塗料組成物は、防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の防汚性を更に向上させるため、特に植物性の海洋生物に対する防汚効果を向上させるために、有機防汚剤(E)を更に含有することができる。有機防汚剤(E)は、防汚塗膜に防汚性を付与する有機化合物であれば特に限定されない。
【0070】
有機防汚剤(E)としては、たとえば、銅およびジンクピリチオン等の金属ピリチオン類、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル、ピリジントリフェニルボラン、4−イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン、N,N−ジメチル−N'−(3,4−ジクロロフェニル)尿素、N−(2,4,6−トリクロロフェニル)マレイミド、2,4,5,6−テトラクロロイソフタルニトリル、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−1,3,5−トリアジン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、クロロメチル−n−オクチルジスルフィド、N’,N'−ジメチル−N−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラアルキルチラウムジスルフィド、ジンクジメチルジチオカーバメート、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、2,3−ジクロロ−N−(2',6'−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2'−エチル−6'−メチルフェニル)マレイミドなどが挙げられる。また、有機防汚剤(E)をメデトミジン以外の有機防汚剤から選択してもよい。有機防汚剤(E)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0071】
本発明の防汚塗料組成物において、有機防汚剤(E)の含有量は、防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の長期防汚性、塗膜耐水性維持(機械的特性維持)の向上という観点からは、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜500質量部、さらに好ましくは0.5〜300質量部である。また、有機防汚剤(E)の含有量は、防汚塗料組成物(溶剤を含む)100質量%に対して、通常0.1〜30質量%、好ましくは、0.1〜20質量%程度である。
【0072】
<着色顔料(F)>
本発明の防汚塗料組成物は、防汚塗料組成物から形成される防汚塗膜の色調を調節したり、任意の色調を付与したりするために、着色顔料(F)を含んでいてもよい。
【0073】
着色顔料(F)としては、公知の有機系または無機系の各種着色顔料が挙げられる。有機系の着色顔料としては、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等が挙げられる。また、無機系の着色顔料としては、ベンガラ、バライト粉、チタン白、黄色酸化鉄等が挙げられる。着色顔料(F)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0074】
また、本発明の防汚塗料組成物において、着色顔料(F)とともに、あるいは着色顔料(F)の代わりに、染料などの、着色顔料(F)を除く着色剤が含まれていてもよい。
本発明の防汚塗料組成物において、着色顔料(F)の含有量は、防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の、着色性、隠蔽性、暴露変色性、防汚性、塗膜耐水性(機械的特性)の向上という観点からは、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.01〜100質量部、より好ましくは0.01〜50質量部である。
また、着色顔料(F)の含有量は、防汚塗料組成物(溶剤を含む)100質量%に対して、通常0.1〜30質量%、好ましくは、0.1〜20質量%程度である。
【0075】
<体質顔料(G)>
体質顔料(G)は、防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の耐クラック性などの塗膜物性を向上することができる。
【0076】
体質顔料(G)としては、たとえば、タルク、シリカ、マイカ、クレー、カリ長石、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム等が挙げられる。これらの中でも、タルク、シリカ、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、カリ長石、酸化亜鉛が好ましい。なお、炭酸カルシウムおよびホワイトカーボンは、それぞれ後述する沈降防止剤(K)や艶消し剤としても使用される。体質顔料(G)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0077】
本発明の防汚塗料組成物において、体質顔料(G)の含有量は、防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の塗膜耐水性(機械的特性)、防汚性、塗膜加水分解性(消耗性)の向上という観点からは、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜500質量部、より好ましくは10〜300質量部である。
また、体質顔料(G)の含有量は、防汚塗料組成物(溶剤を含む)100質量%に対して、通常0.1〜50質量%、好ましくは、0.1〜40質量%程度である。
【0078】
<顔料分散剤(H)>
顔料分散剤(H)としては、公知の有機系または無機系の各種顔料分散剤が挙げられる。顔料分散剤としては、脂肪族アミンまたは有機酸類(たとえば、「デュオミンTDO」(LION(株)製)、「Disperbyk101」(BYK(株)製))が挙げられる。顔料分散剤(H)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0079】
本発明の防汚塗料組成物において、顔料分散剤(H)の含有量は、防汚塗料組成物の塗料粘度を低減する効果や防汚塗膜の色分かれ防止効果の向上という観点からは、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.01〜100質量部、より好ましくは0.01〜50質量部である。
また、顔料分散剤(H)の含有量は、防汚塗料組成物(溶剤を含む)100質量%に対して、通常0.1〜10質量%、好ましくは、0.1〜5質量%程度である。
【0080】
<可塑剤(I)>
本発明の防汚塗料組成物は、得られる防汚塗膜の耐クラック性を向上させるために、可塑剤(I)を含むことが好ましい。可塑剤(I)としては、塩化パラフィン(塩素化パラフィン)、石油樹脂類、ケトン樹脂、TCP(トリクレジルホスフェート)、ポリビニルエチルエーテル、ジアルキルフタレート等が挙げられる。防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の塗膜耐水性(機械的特性)、塗膜加水分解性(消耗性)の向上という観点からは、可塑剤(I)は、これらの中でも、塩化パラフィン(塩素化パラフィン)、石油樹脂類またはケトン樹脂であることが好ましい。なお、可塑剤(I)は、1種単独で使用されてもよいし、2種類以上組み合わせて使用されてもよい。
【0081】
塩化パラフィンは、直鎖状または分枝状の何れの分子構造を有してもよく、室温(例:23℃)条件下で液状でも固体状(たとえば粉末状)であってもよい。
また、塩化パラフィンは、一分子中、通常8〜30個、好ましくは10〜26個の平均炭素数を有している。このような塩化パラフィンを含む防汚塗料組成物は、クラック(割れ)やハガレ等の少ない防汚塗膜を形成することができる。なお、上記平均炭素数が8未満では、防汚塗膜においてクラックの発生を抑制する効果が不足することがあり、一方で、上記平均炭素数が30を超えると、防汚塗膜の加水分解性(更新性、研掃性)が小さくなり、結果として防汚性が劣ってしまうことがある。
【0082】
また、塩化パラフィンにおいて、粘度(単位ポイズ、測定温度25℃)は、通常1以上、好ましくは1.2以上であり、比重(25℃)は、通常1.05〜1.80、好ましくは1.10〜1.70である。
【0083】
塩化パラフィンの塩素化率(塩素含有量)は、塩化パラフィンを100質量%とした場合、通常35〜70質量%であり、好ましくは35〜65質量%である。このような塩素化率を有する塩化パラフィンを含む防汚塗料組成物は、クラック(割れ)、ハガレ等の少ない塗膜を形成することができる。このような塩化パラフィンの具体例としては、「トヨパラックス150」や「トヨパラックスA−70」(何れも東ソー(株)製)等が挙げられる。
【0084】
また、石油樹脂類としては、C5系、C9系、スチレン系、またはジクロロペンタジエン系の石油樹脂類、およびこれらの水素添加物などが挙げられる。石油樹脂類の具体例としては、「クイントン1500」や「クイントン1700」(何れも日本ゼオン(株)製)などが挙げられる。
【0085】
本発明の防汚塗料組成物において、可塑剤(I)の含有量は、防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の塗膜加水分解性(消耗性)、防汚性および塗膜耐水性(機械的特性)の向上という観点からは、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜300質量部、より好ましくは0.1〜200質量部、さらに好ましくは0.1〜150質量部である。
また、可塑剤(I)の含有量は、防汚塗料組成物(溶剤を含む)100質量%に対して、通常0.1〜30質量%、好ましくは、0.1〜20質量%程度である。
【0086】
<タレ止め剤(J)>
本発明の防汚塗料組成物は、防汚塗料組成物を用いて基材を塗装する際に、該塗料組成物によるタレの発生を低減できるという観点から、タレ止め剤(J)(流れ止め剤ともいう)を含んでいてもよい。
【0087】
タレ止め剤(J)としては、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックスや、これらの混合物、合成微粉シリカ等が挙げられる。タレ止め剤(J)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0088】
中でも、タレ止め剤(J)は、アマイドワックスまたは合成微粉シリカであることが好ましい。タレ止め剤(J)としてアマイドワックスまたは合成微粉シリカを用いると、防汚塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることや、防汚塗膜を形成した後、該防汚塗膜上に同種塗料組成物(防汚塗料組成物)または異種塗料組成物からなる塗膜(上塗塗膜)を形成した場合、該防汚塗膜と上塗塗膜との間の密着性(層間密着性、塗り重ね性)の低下を防ぐことが可能になる。
【0089】
なお、タレ止め剤(J)の市販品としては、「ディスパロンA630−20X」(楠本化成(株)製)や「ASAT−250F」(伊藤精油(株)製)が挙げられる。
本発明の防汚塗料組成物において、タレ止め剤(J)の含有量は、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.1〜50質量部である。また、タレ止め剤(J)の含有量は、防汚塗料組成物(溶剤を含む)100質量%に対して、通常0.1〜20質量%、好ましくは、0.1〜10質量%程度である。タレ止め剤(J)の含有量をこのような範囲に設定すると、防汚塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることや、防汚塗膜を形成した後、該防汚塗膜上に同種塗料組成物(防汚塗料組成物)または異種塗料組成物からなる塗膜(上塗塗膜)を形成した場合、該防汚塗膜と上塗塗膜との間の密着性(層間密着性、塗り重ね性)の低下を防ぐことが可能になる。
【0090】
<沈降防止剤(K)>
本発明の防汚塗料組成物は、貯蔵中の塗料組成物において沈殿物の発生を防止でき、攪拌性も向上できるという観点から、沈降防止剤(K)を含んでいてもよい。
【0091】
沈降防止剤(K)としては、Al、CaまたはZnのステアート、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレン系ワックス等が挙げられる。沈降防止剤(K)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0092】
中でも、沈降防止剤(K)は、酸化ポリエチレン系ワックスであることが好ましい。なお、酸化ポリエチレン系ワックスの市販品としては、「ディスパロン4200−20」(楠本化成(株)製)が挙げられる。
【0093】
本発明の防汚塗料組成物において、沈降防止剤(K)の含有量は、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.1〜50質量部である。また、沈降防止剤(K)の含有量は、防汚塗料組成物(溶剤を含む)100質量%に対して、通常0.1〜20質量%、好ましくは、0.1〜10質量%程度である。沈降防止剤(K)の含有量をこのような範囲に設定すると、防汚塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることや、防汚塗膜を形成した後、該防汚塗膜上に同種塗料組成物(防汚塗料組成物)または異種塗料組成物からなる塗膜(上塗塗膜)を形成した場合、該防汚塗膜と上塗塗膜との間の密着性(層間密着性、塗り重ね性)の低下を防ぐことが可能になる。
【0094】
<脱水剤(L)>
本発明の防汚塗料組成物は、貯蔵安定性が良好な加水分解性共重合体(A)を使用することにより優れた貯蔵安定性を有するが、必要に応じて脱水剤(L)を添加することにより更に優れた長期貯蔵安定性を得ることが可能となる。脱水剤(L)としては、無機系脱水剤として、合成ゼオライト、無水石膏、半水石膏からなる群から、有機系脱水剤として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のアルコキシシラン類、または、その縮合物であるポリアルコキシシラン類、オルト蟻酸メチル、オルト蟻酸エチル等のオルト蟻酸アルキルエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の脱水剤が好ましい。これらの脱水剤(L)は、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して0.1〜50質量部で含まれることが好ましい。
【0095】
<溶剤(M)>
本発明の防汚塗料組成物は、加水分解性共重合体(A)などの分散性を向上させたり、該組成物の粘度を調整したりするために、必要に応じて、水または有機溶剤等の溶剤(M)を含んでいてもよい。なお、本発明の防汚塗料組成物は、溶剤(M)として、加水分解性共重合体(A)を調製する際に使用した溶剤を含んでいてもよいし、加水分解性共重合体(A)と必要に応じてその他の成分とを混合する際に、別途添加された溶剤を含んでいてもよい。
【0096】
有機溶剤としては、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族系有機溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エタノール、イソプロピルアルコール,n−ブタノール、イソブタノール等の脂肪族(炭素数1〜10、好ましくは2〜5程度)の1価アルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;等が挙げられる。溶剤(M)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0097】
本発明の防汚塗料組成物において、溶剤(M)の含有量は、加水分解性共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは100〜500質量部、より好ましくは150〜350質量部である。本発明の防汚塗料組成物中の溶剤(M)の含有量は、防汚塗料組成物100質量%とした場合、通常、20〜80質量%、好ましくは、30〜70質量%であることが多いが、VOC含有量が400g/L未満となるような量で使用することが好ましい。
【0098】
<防汚塗料組成物の製造方法>
本発明の防汚塗料組成物は、公知の方法を適宜利用して製造されてもよい。たとえば、加水分解性共重合体(A)と平均粒子径が4.5〜50μmの亜酸化銅(B)、更にロジン類および/またはモノカルボン酸化合物(C)、必要に応じて、(D)〜(M)成分とを、一度にあるいは任意の順序で攪拌容器に添加し、公知の攪拌・混合手段で各成分を混合して、溶剤中に分散または溶解させればよい。平均粒子径が4.5〜50μmの亜酸化銅(B)としては、平均粒子径が4.5〜50μmの亜酸化銅を準備し、これを他の成分と混合してもよく、あるいは平均粒子径が4.5μm以上の亜酸化銅を準備し、これとは別に平均粒子径が4.5μm未満の亜酸化銅を準備し、これらを、亜酸化銅全体としての平均粒子径が4.5〜50μmとなるような割合で他の成分と混合してもよい。
【0099】
なお、上記のように溶剤中に加水分解性共重合体(A)等を分散または溶解をした後に、アマイドワックス(たとえば、ディスパロンA630−20X等)を添加し、分散して(たとえば、10〜20分間程度)、防汚塗料組成物を調製することが好ましい。得られた防汚塗料組成物を基材に塗布した際に、タレの発生を低減できるためである。
【0100】
また、上述のように加水分解性共重合体(A)の調製時から溶剤(M)を用いてもよい。
攪拌・混合手段としては、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、ボールミル、三本ロール、ロスミキサー、プラネタリーミキサー、万能品川攪拌機などが挙げられる。
このようにして得られた防汚塗料組成物は、揮発性有機化合物(VOC)の含有量が通常400g/L未満である。
【0101】
<防汚塗膜および防汚基材>
本発明の防汚塗膜は、上述した防汚塗料組成物から形成される。すなわち、本発明の防汚塗膜は、本発明の防汚塗料組成物の固形分からなる。本発明の防汚塗膜は、本発明の防汚塗料組成物から形成され、たとえば防汚塗料組成物が溶剤(M)を含む場合であれば、基材上に塗布された本発明の防汚塗料組成物を、たとえば自然乾燥またはヒーター等の乾燥手段を用いて硬化させて(すなわち、前記溶剤(M)を除去して)、形成することができる。
【0102】
本発明の防汚基材は、基材と上記防汚塗膜とが積層されてなる。
ここで、上記防汚基材としては、特に限定されないが、好適には、海水または真水に接触する基材であり、具体的には、各種発電所(火力、原子力)の給排水口や、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備または運河・水路等の各種海洋・河川土木工事において使用される汚泥拡散防止膜等の水中構造物、船舶(特に船舶の喫水部から船底部分)、漁業資材(ロープ、魚網等の漁具、浮き子またはブイなど)が挙げられる。
【0103】
それら防汚基材に用いる基材の材質は、特に船舶では、鋼、アルミニウム、木材、FRPなどが挙げられ、浮き子、ブイ等では、合成樹脂製のものが挙げられ、水中にあって防汚性等が求められる基材である限り、その材質は、特に限定されない。
【0104】
本発明の防汚基材は、エポキシ樹脂系防食塗膜(エポキシ樹脂含有塗膜)(P)を基材表面に形成した後、上記防汚塗料組成物で塗装し、防汚塗膜(防汚塗料組成物の硬化膜である防汚塗膜)(Q)を形成する態様であることが好ましい。このような防汚基材は、長期防汚性および長期物性のみならず長期にわたり優れた付着性を発揮する。また、製造の際には塗装インターバル制限を延長(緩和)できる。更に中塗りのビニル系バインダーコートを必要としないため、塗装の工程短縮化を図ることができる。
【0105】
このように、防汚基材は、基材/エポキシ樹脂系塗膜(P)/防汚塗膜(Q)の構成を有していることが好ましく、より具体的には、基材/エポキシ樹脂系防食塗膜(P1)/防汚塗膜(Q)、基材/エポキシ樹脂系防食塗膜(P1)/エポキシ樹脂系バインダー塗膜(P2)/防汚塗膜(Q)、または基材/エポキシ樹脂系バインダー塗膜(P2)/防汚塗膜(Q)の構成を有していてもよい。また、エポキシ樹脂系防食塗膜(P1)、エポキシ樹脂系バインダー塗膜(P2)、防汚塗膜(Q)は、それぞれ複数積層されていてもよい。また、基材はプライマー処理されていてもよい。エポキシ樹脂系塗膜(P)は、基材に好ましくは直接積層される。また、防汚塗膜(Q)は、エポキシ樹脂系塗膜(P)に好ましくは直接積層される。
ここでエポキシ樹脂系塗膜(P)について説明する。
【0106】
<エポキシ樹脂系塗膜(P)>
エポキシ樹脂系塗膜(P)は、エポキシ樹脂系塗料組成物(p)から得られる。
エポキシ樹脂系塗料組成物(p)は、(p−1)ビスフェノール型エポキシ樹脂および(p−3)アミン系硬化剤を含むことが好ましく、さらに(p−2)ビニル系共重合体を含んでいてもよい。
【0107】
<ビスフェノール型エポキシ樹脂(p−1)>
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、エポキシ当量が好ましくは160〜500、さらに好ましくは180〜500のものが用いられる。このようなエポキシ樹脂は、通常、液状〜固形である。本発明の塗料組成物に配合されるビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、塗料組成物の付着力および塗装時の作業性の両面から、上記の範囲にあることが好ましい。
【0108】
また、本発明では、エポキシ樹脂のうちでも、ビスフェノール型のものが含まれているので、塗装し形成された膜は強靱かつ柔軟性があるため密着力が優れている。
このようなビスフェノール型エポキシ樹脂としては、具体的には、例えば、ビスフェノールAタイプ、ビスフェノールFタイプのエポキシ樹脂をはじめ、ダイマー酸変性、ポリサルファイド変性のエポキシ樹脂、これらビスフェノール型エポキシ樹脂の水添物などを挙げることができる。
【0109】
ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAポリプロピレンオキシドジグリシジルエーテル、ビスフェノールAエチレンオキシドジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAプロピレンオキシドジグリシジルエーテル等のビスフェノールA型ジグリシジルエーテルなどが挙げられ、ビスフェノールFタイプのエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールFジグリシジルエーテル等のビスフェノールF型ジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0110】
これらのうちでは、ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂が好ましい。
ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂の市販品としては、常温で液状のものでは、「jER 828(商品名)」(三菱化学(株)製、エポキシ当量184〜194、粘度12,000〜15,000cPs/25℃)、「エポトートYDF−170(商品名)」(東都化成(株)製、エポキシ当量160〜180、粘度2,000〜5,000cPs)、「フレップ60(商品名)」(東レチオコール(株)製、エポキシ当量約280、粘度約17,000cPs/25℃)などを挙げることができ、常温で半固形状のものでは、「jER 834−90X(商品名)」(三菱化学(株)製、エポキシ当量230〜270)、「エポトートYD134(商品名)」(東都化成(株)製、エポキシ当量230〜270)などを挙げることができ、常温で固形状のものでは、「jER 1001−75X(商品名)」(三菱化学(株)製、エポキシ当量450〜500)などを挙げることができる。
これらのビスフェノール型エポキシ樹脂は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0111】
本発明においては、ビスフェノール型エポキシ樹脂(p−1)と共に、上記以外のエポキシ樹脂を用いることができ、例えば、ビスフェノールタイプ以外のエポキシ樹脂を本発明の目的に反しない程度の少量、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂(p−1)100質量部に対して60質量部以下の量で用いることができる。
このような非ビスフェノールタイプのエポキシ樹脂としては、環状脂肪族系、非環状脂肪族系、エポキシ化油系などのエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0112】
<ビニル系共重合体(p−2)>
ビニル系共重合体(p−2)としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルキルエーテル共重合体の他に、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−ジエチルマレエート共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体(アルキル基:炭素数1〜5程度)、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−ステアリン酸ビニル共重合体、塩化ビニル−マレイン酸(またはマレイン酸エステル)共重合体、塩化ビニル−脂肪族ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0113】
さらには、塩化ビニル系共重合体において塩化ビニル以外の「他のモノマー」をグラフトし変性させてなるポリ塩化ビニルのグラフト変性物、あるいはポリ塩化ビニル以外の「他のポリマー」に塩化ビニルモノマーをグラフトさせた共重合体が挙げられる。
【0114】
上記「他のモノマー」としては、上記塩化ビニル系共重合体形成用モノマーである、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル基:炭素数1〜5程度)、スチレン、アクリロニトリル、ジエチルマレエート、オレフィン類(例:エチレン、プロピレン)、無水マレイン酸、塩化ビニリデン、ステアリン酸、マレイン酸、マレイン酸エステル、脂肪族ビニルなどが挙げられる。
【0115】
これらのビニル系共重合体(p−2)のうちでは、塩化ビニル−ビニルアルキルエーテル共重合体やエチレン-酢酸ビニル共重合体が、特にビスフェノール型エポキシ樹脂(p−1)との親和性に優れ、上塗り性、防食性に優れるため好ましい。
【0116】
特に塩化ビニル−ビニルアルキルエーテル共重合体としては、塩化ビニルと、アルキル基の炭素数が1〜10、好ましくは2〜5のビニルアルキルエーテルとの共重合体であって、例えば、塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体、塩化ビニル−ビニルイソプロピルエーテル共重合体、塩化ビニル−ビニルエチルエーテル共重合体などが好ましく用いられる。
【0117】
このようなビニル系共重合体(p−2)の重量平均分子量(Mw)は、通常10,000〜100,000、好ましくは20,000〜50,000、とくに好ましくは22,000〜40,000であることが望ましい。この重量平均分子量が上記範囲にあると、エポキシ樹脂との親和性が向上する傾向がある。
【0118】
塩化ビニル−ビニルアルキルエーテル共重合体のうちで、塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体としては、BASF社製の「ラロフレックスLR8829(商品名)」、「ラロフレックスMP25(商品名)」、「ラロフレックスMP35(商品名)」、「ラロフレックスMP45(商品名)」等を挙げることができる。
【0119】
これらのビニル系共重合体は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
これらのビニル系共重合体(p−2)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(p−1)100質量部に対して、通常、5〜40質量部、好ましくは7〜30質量部の量で用いられる。このような量でビニル系共重合体(p−2)が塗料組成物中に含まれていると、ビスフェノール型エポキシ樹脂(p−1)との親和性が良好で、防食性、上塗り性共に良好となる傾向がある。なお、ビニル系共重合体(p−2)の配合割合は塗膜の防食性能および上塗り塗料の上塗り性の両面から上記範囲にあることが望ましい。
【0120】
本発明においては、ビニル系共重合体(p−2)と共に、本発明の目的に反しない範囲で、ビニル系共重合体(p−2)以外の「他の熱可塑性樹脂」を含有していてもよい。このようにエポキシ樹脂系塗料組成物中に他の熱可塑性樹脂が含有される場合には、この他の熱可塑性樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(p−1)100質量部に対して、ビニル系共重合体(p−2)を含む熱可塑性樹脂成分の合計量が、通常5〜40質量部、好ましくは7〜30質量部、とくに好ましくは10〜30質量部となるような量で含有されていてもよい。
【0121】
前記ビニル系共重合体(p−2)を含む熱可塑性樹脂は、このエポキシ樹脂系塗料組成物(p)の硬化時に、内部応力の緩和剤として作用し、下地や下塗り層と、該エポキシ塗料を塗布硬化してなるエポキシ層との付着性を向上させ、また、この熱可塑性樹脂は、溶剤可溶性であり、上塗り塗料中の溶剤により溶解されるため、上塗り塗料に対するこのエポキシ層の付着性の向上や、該エポキシ塗料の塗装インターバル制限を延長(緩和)でき、該エポキシ層上に塗布可能な各種上塗り塗料の適応種の拡大に寄与する。
【0122】
ビニル系共重合体(p−2)以外の熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、塩化ゴム、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン;(メタ)アクリル酸メチル系共重合体、(メタ)アクリル酸プロピル系共重合体、(メタ)アクリル酸ブチル系共重合体、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル系共重合体等のアクリル系樹脂;スチレン系樹脂;芳香族系石油樹脂;脂肪族系石油樹脂;尿素アルデヒド縮合系樹脂;ケトン系樹脂;クマロンインデン樹脂;ペンタジエン系重合物などを挙げることができる。
これらの熱可塑性樹脂は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0123】
<アミン系硬化剤(p−3)>
アミン系硬化剤(p−3)としては、通常、脂肪族系、脂環族系、芳香族系、複素環系などのアミン系硬化剤が用いられる。このようなアミン系硬化剤(p−3)が配合されたエポキシ樹脂系塗料組成物(p)は、常温で硬化させることができるため、船舶外板の塗装など通常、常温環境下で施工されるような用途に好ましい。
【0124】
脂肪族系アミンとしては、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、トチメチルヘキサメチレンジアミン、テトラキス(2−アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3−ビス(2'−アミノエチルアミノ)プロパン、トリエチレン−ビス(トリメチレン)ヘキサミン、ビス(3−アミノエチル)アミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、ビスヘキサメチレントリアミン[H
2N(CH
2)
6NH(CH
2)
6NH
2]等が挙げられる。
【0125】
脂環族系アミンとしては、4−シクロヘキサンジアミン、4,4'−メチレンビスシクロヘキシルアミン、4,4'−イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナンジアミン(NBDA/2,5−および2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン)、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン(IPDA/3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン)、メンセンジアミン、等が挙げられる。
【0126】
芳香族系アミンとしてはビス(アミノアルキル)ベンゼン、ビス(アミノアルキル)ナフタレン、ベンゼン環に結合した2個以上の1級アミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物等が挙げられる。具体的には、o−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン(MXDA)、p−キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ナフチレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、2,4−ジアミノビフェニル、2,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ジアミノビフェニル、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレン、2,4,6−トリス(3−アミノメチルフェニルメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
【0127】
複素環系アミンとしては、N−メチルピペラジン、モルホリン、1,4−ビス−(3−アミノプロピル)−ピペラジン、ピペラジン−1,4−ジアザシクロヘプタン、1−(2'−アミノエチルピペラジン)、1−[2'−(2"−アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジン、1,11−ジアザシクロエイコサン、1,15−ジアザシクロオクタコサン等が挙げられる。
【0128】
さらにこれらのアミンのポリアミドおよびその変性物、エポキシ化合物を付加させたエポキシアダクト体、マンニッヒ変性体、カルボン酸変性物などのアミンの変性物を用いることもできる。
これらの中でも、防食性、付着性の点でポリアミドおよびその変性物が好ましい。
【0129】
このようなアミン系硬化剤(p−3)のアミン価は、通常、50〜1,000、好ましくは80〜500であることが望ましい。硬化剤のアミン価がこのような範囲にあると、乾燥性と密着力とのバランスが向上する傾向がある。またこれら硬化剤は、通常液状〜固体である。
【0130】
このようなポリアミドとしては、具体的には、例えば、「ラッカマイドN−153(商品名)」(DIC(株)製、アミン価80〜120)、「ラッカマイドTD−966(商品名)」(DIC(株)製、アミン価150〜190)、「サンマイド315(商品名)」(三和化学工業(株)製、アミン価280〜340)等が挙げられる。
【0131】
ポリアミドの変性物としては、具体的には、例えば、ポリアミドにエポキシ化合物を付加してなるエポキシアダクト体の「PA−23(商品名)」(大竹明新化学(株)製、アミン価80〜150)、変性ポリアミドのマンニッヒ変性体である「アデカハードナーEH−350(商品名)」((株)ADEKA製、アミン価320〜380)等が挙げられる。
【0132】
これらのポリアミド及びその変性物のうちでは、エポキシ化合物の付加物が好ましく用いられる。
また、その他のアミンの変性物としては、具体的には、変性脂環式ポリアミンである「アンカミン2074(商品名)」(エアープロダクツジャパン(株)製、アミン価325〜355)、変性フェナルカミンである「カードライト541LV(商品名)」(Cardolite Corp.社製、アミン価260〜350)、「カードライトCM−5055(商品名)」(Cardolite Corp.社製、アミン価150〜250)など、変性芳香族ポリアミンである「アデカハードナーEH101(商品名)」((株)ADEKA社製、アミン価400〜500)など多種の化合物を例示することができる。
また、前記アミン化合物をケトンで変性したケチミンタイプの硬化剤も使用することができる。
【0133】
具体的には、ケチミンタイプの変性脂環式ポリアミンである「アンカミンMCA(商品名)」(エアープロダクツジャパン(株)社製、アミン価250〜350)等が挙げられる。
これらのアミン系硬化剤(p−3)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0134】
本発明では、アミン系硬化剤(p−3)は、エポキシ樹脂系塗料組成物(p)中のビスフェノール型エポキシ樹脂(p−1)に対して、エポキシ成分とアミン成分の当量比(エポキシ成分:アミン成分)が、通常1:0.25〜1:0.9、好ましくは1:0.3〜1:0.8となるような量で用いることが望ましい。このような量でアミン系硬化剤(p−3)を用いると、乾燥性、防食性、上塗り性能に優れた塗膜が得られる傾向がある。換言すれば、本発明では、これらアミン系硬化剤(p−3)は、エポキシ樹脂系塗料組成物(p)中のビスフェノール型エポキシ樹脂(p−1)100質量部に対して、通常10〜80質量部、好ましくは20〜70質量部の量で用いられる。
【0135】
本発明では、アミン系硬化剤(p−3)以外に、「他のエポキシ樹脂用硬化剤」がその目的に反しない範囲で含まれていてもよい。
「他のエポキシ樹脂用硬化剤」としては、前記エポキシ樹脂を反応、硬化させ得るものであれば特に限定されず、上記アミン系硬化剤(p−3)以外のカルボン酸系、酸無水物系、シラノール系の硬化剤などが挙げられる。
【0136】
(その他の添加剤)
エポキシ樹脂系塗料組成物(p)中には、この他各種可塑剤、体質顔料、着色顔料、防錆顔料、溶剤、硬化促進剤、カップリング剤、タレ止め剤、沈降防止剤などが配合されていてもよい。
【0137】
成分(p−1)、(p−2)および(p−3)を含むエポキシ樹脂系塗料組成物(p)(エポキシ樹脂塗料)の場合は、エポキシ樹脂(p−1)およびビニル系共重合体(p−2)を含有してなる主剤と、アミン系硬化剤(p−3)を含有してなる硬化剤との2液型として、あるいは、エポキシ樹脂(p−1)を含有してなる主剤と、ビニル系共重合体(p−2)およびアミン系硬化剤(p−3)を含有してなる硬化剤との2液型として用いられる。本発明では2液型が望ましい。
【0138】
なお、成分(p−1)および(p−3)を含む組成物は、具体的にはエポキシ樹脂系防食塗料組成物(p1)として好適に用いられ、成分(p−1)、(p−2)および(p−3)を含む組成物は、エポキシ樹脂系防食塗料組成物(p1)およびエポキシ樹脂系バインダー塗料組成物(p2)として好適に用いられる。エポキシ樹脂系防食塗料組成物(p1)およびエポキシ樹脂系バインダー塗料組成物(p2)は、上述したその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0139】
また、本明細書において、エポキシ樹脂系防食塗料組成物(p1)から得られる塗膜をエポキシ樹脂系防食塗膜(P1)、エポキシ樹脂系バインダー塗料組成物(p2)から得られる塗膜をエポキシ樹脂系バインダー塗膜(P2)という。
【0140】
防汚基材の製造方法は、基材表面に、上記防汚塗料組成物を硬化させ防汚塗膜を形成することを特徴とする。具体的には、本発明の防汚基材は、本発明の防汚塗料組成物を、基材(目的物、被塗装物)に、たとえばエアスプレー、エアレススプレー、刷毛、ローラー等の塗装手段を用いて塗布するか、または含浸させて、基材に塗布または含浸させた塗料組成物を、たとえば自然乾燥(室温程度の温度)または、ヒーター等の乾燥手段を用いて乾燥・硬化させて、基材上に防汚塗膜を形成してなる。
【0141】
基材の表面に、プライマーを下塗りした後のプライマー処理基材の表面上、もしくは直接基材上にエポキシ樹脂系塗料を塗布し硬化させて、エポキシ樹脂系塗膜を形成した後、1回または複数回、本発明の防汚塗料組成物(防汚塗料)を塗布し、塗布させた防汚塗料組成物を硬化させて防汚塗膜を形成することが好ましい。
【0142】
基材の表面に、エポキシ樹脂系塗膜(P)および防汚塗膜(Q)を形成すると、アオサ、フジツボ、アオノリ、セルプラ、カキ、フサコケムシ等の水棲生物の付着を長期間に亘って防止する特性(防汚性、特に静置防汚性)に優れ、特に防汚塗膜に防汚成分(例、銅または無機銅化合物(B、D成分)、有機防汚剤(E成分))が含まれる場合、長期に亘って防汚成分を徐放することができる。
【0143】
また特に、基材が鋼製の船舶(特にその船底)、水中構造物等の場合には、通常、基材表面に防錆のためにエポキシ樹脂系などの下塗り防食塗料を塗布し硬化させた表面上もしくは直接鋼面上に、防汚塗料組成物を複数回塗布(厚塗り:乾燥膜厚100〜1000μm程度、あるいは100〜600μm程度)し、得られる防汚基材は優れた塗膜付着性、防汚性とともに、適度な可撓性および優れた耐クラック性をバランスよく発揮する。
【0144】
なお、本発明の防汚塗膜または従来の防汚塗膜が形成された基材の表面に、補修を目的として、本発明の防汚塗膜をさらに形成してもよい。
また、1回の塗装で形成される防汚塗膜の厚さは特に限定されないが、基材が船舶や水中構造物である場合、たとえば、30〜250μm/回程度である。
【0145】
このように、本発明の防汚塗膜を有する船舶や水中構造物は、長期間に亘って水棲生物の付着を防止できることに起因して、長期に亘り優れた付着性を有し船舶や水中構造物の機能を長期間維持できる。
【0146】
[実施例]
以下、実施例に基づき、本発明について更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、「実施例」の項において、「%」とは、特に断りがない限り、質量%を示す。
【0147】
[製造例1]
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、キシレン53質量部を仕込み、窒素雰囲気下で、キシレンを攪拌機で攪拌しながら、常圧下に、反応容器内のキシレンの温度が85℃になるまで加熱した。反応容器内のキシレンの温度を85℃に維持しながら、TIPSMA(トリイソプロピルシリルメタクリレート)60質量部、MEMA(2−メトキシエチルメタクリレート)20質量部およびMMA(メチルメタクリレート)10質量部、BA(ブチルアクリレート)10質量部およびAMBN(2,2'-アゾビス(2−メチルブチロニトリル))1質量部からなるモノマー混合物を、滴下ロートを用いて2時間かけて反応容器内に添加した。
【0148】
次いで、さらに反応容器内にt−ブチルパーオキシオクトエート0.5質量部を加え、常圧下に、反応容器内の液温を85℃に保持しながら、2時間攪拌機で攪拌を続けた後、反応容器内の液温を85℃から110℃に上げて1時間加熱下後、反応容器内にキシレン14質量部を加えて、反応容器内の液温を低下させ、液温が40℃になった時点で攪拌を止めて、加水分解性共重合体を含む重合体溶液(a1)を調製した。下記「特性評価」に記載の試験条件に準拠して、重合体溶液(a1)の各種物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0149】
[製造例2〜5]
製造例1において使用されたモノマー混合物のかわりに、表1に示される組成を有するモノマー混合物を使用したことを除いては、製造例1と同様にして、加水分解性共重合体を含む重合体溶液(a2)、(a3)、(b1)、(b2)を調製し、各種物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0151】
[製造例6] ガムロジン銅塩の製造
温度計、還流冷却器及び撹拌機、温度計を備えた1,000mlのフラスコに、中国ガムロジン(WW ロジン、酸価172)のキシレン溶液(固形分50%)400g、亜酸化銅200g 及びメタノール100gにガラスビーズ(直径2.5〜3.5mm)を加え、70〜80℃で8時間撹拌した後、50℃で2日間保温した。次いで、得られた混合溶液を室温(25℃)まで冷却し濾過した後、減圧濃縮を行うことによりメタノール分を留去した。そして、得られた濃縮液にキシレンを加えることにより、ガムロジン銅塩のキシレン溶液(濃青色透明溶液、固形分約50%)を得た。得られたガムロジン銅塩のキシレン溶液の加熱残分は50.8%であった。このガムロジン銅塩を下記比較例3に用いた。
【0152】
[製造例7] ガムロジン亜鉛塩の製造
温度計、還流冷却器及び撹拌機、温度計、滴下装置、を備えた1,000mlのフラスコに、中国ガムロジン(WW ロジン、酸価172)を300g、酸化亜鉛を50g、キシレン150gを仕込み、窒素気流下で70〜80℃で4時間撹拌を行い、溶液が透明になったのを確認。その後水を除去するためのためキシレンと共沸脱水したのち、50℃で2日間保温した。次いで、得られた混合溶液を室温(25℃)まで冷却し濾過した後、キシレンを加えることにより、ガムロジン亜鉛塩のキシレン溶液(黄色透明溶液、固形分約50%)を得た。得られたガムロジン亜鉛塩のキシレン溶液の加熱残分は50.5%であった。
このガムロジン亜鉛塩を下記比較例4に用いた。
【0153】
[実施例1]
本発明の防汚塗料組成物は、公知の一般的な防汚塗料と同様の装置、手段等を用いて調製することができる。たとえば、あらかじめ加水分解性共重合体(A)を調製した後、この樹脂(反応液)と、亜酸化銅(B)および(C)から(M)成分、更に比較例3,4には上記ロジン銅塩および亜鉛塩とを、一度にまたは順次溶剤に添加して、撹拌、混合するようにして製造すればよい。
【0154】
具体的に実施例1では、ポリ容器(容量:500ml)に、キシレン 10.2質量部、共重合体溶液(a1)を21.8質量部、成分(C) ロジン4.4質量部を添加して、各成分が均一に分散または溶解するまでペイントシェーカーを用いて混合した。その後、さらにポリ容器に、成分(B)亜酸化銅Purple Coppを50質量部、その他添加剤(タルクFC−1 1.8質量部、酸化亜鉛(亜鉛華3号) 3.8質量部、弁柄No.404 3質量部、チタン白R−5N 2質量部、銅ピリチオン 1質量部、ディスパロン4200−20 0.5質量部、エチルシリケート28 0.5質量部)を添加して、1時間ペイントシェーカーを用いて攪拌してこれらの成分を分散させた。
【0155】
分散後、さらにディスパロンA630−20X 1.0質量部を添加して、20分間ペイントシェーカーを用いて攪拌した後、混合物を濾過網(目開き:80メッシュ)で濾過して、残渣を除いて濾液(塗料組成物A1)を得た。
【0156】
[実施例2〜12および比較例1
〜6]
実施例1で使用された溶剤、重合体溶液、B、C成分およびその他添加剤を、表2〜3に示されるように変更したことを除いては、実施例1と同様にして、塗料組成物を調製した。
【0157】
表2および3に示す通り、実施例1から12、比較例1
〜6について上記方法で塗料組成物を調製し、得られた塗料組成物を用いて、下記「特性評価」に記載の試験条件に準拠して得られた結果を表4−1〜4−9、5−1〜5−6に示す。
【0158】
なお、表4−1〜4−9、5−1〜5−6で示される塗料組成物A1〜A12および塗料組成物B1〜B6は、それぞれ、実施例1〜12および比較例1
〜6で得られた塗料組成物を指す。
なお、各種原材料の製造元等については、表6に示す。
【0174】
[亜酸化銅の平均粒子径測定方法]
上記各亜酸化銅(A)〜(E) の平均粒子径は、SALD−2200((株)島津製作所製)を用いてレーザー回析散乱法にて測定した。
【0175】
分析方法は以下の通りである。
(1)SALD−2200の試料分散機にHMPNa(ヘキサメタリン酸ナトリウム)0.2wt%溶液と中性洗剤を数滴加え、超音波を作動させ、ポンプスピードの目盛は7にして循環させた。
(2)乳鉢に亜酸化銅を約100mg取り、中性洗剤を数滴加えて、顔料の2次凝集をほぐすために軽く分散させた。
(3)乳鉢で分散した試料に泡が立たないように水を加え試料分散機へ流し込んだ。
(4)分散機内で10分間循環・分散後、粒度分布測定を行った。
(5)粒度分布計算時の屈折率は「2.70−0.20i」を用い、粒度分布中のメディアン径を平均粒子径とした。
なお、上記亜酸化銅(A)〜(E)の粒子径(μm)、相対粒子量(%)および粒度分布との関係を、それぞれ
図1〜
図5に示す。
【0176】
<特性評価>
(1)加水分解性共重合体溶液中の加熱残分の含有率
(共)重合体溶液1.5g(X
1(g))を、恒温槽内で、1気圧、108℃の条件下で3時間保持して揮発分を除去して加熱残分(不揮発分)を得た。次いで、残った加熱残分(不揮発分)の量(X
2(g))を測定し、下記式に基づいて、加水分解性共重合体溶液に含まれる加熱残分の含有率(%)を算出した。
加熱残分の含有率(%)=X
2/X
1×100
【0177】
(2)加水分解性共重合体の平均分子量
加水分解性共重合体の重量平均分子量(Mw)を下記条件におけるGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定した。
(GPC条件)
装置 :「HLC−8120GPC」(東ソー(株)製)
カラム :「SuperH2000+H4000」(東ソー(株)製、6mm(内径)、各15cm(長さ))
溶離液 :テトラヒドロフラン(THF)
流速 :0.500ml/min
検出器 :RI
カラム恒温槽温度 :40℃
標準物質 :ポリスチレン
サンプル調製法 :各製造例で調製された加水分解性共重合体溶液に少量の塩化カルシウムを加えて脱水した後、メンブレムフィルターで濾過して得られた濾物をGPC測定サンプルとした。
【0178】
(3)加水分解性共重合体溶液の粘度
E型粘度計[東機産業(株)製]を用いて液温25℃の加水分解性共重合体溶液の粘度(単位:mPa・s)を測定した。
【0179】
(4)防汚塗料組成物の塗料粘度
上記のように調製された1日後の各塗料組成物の、23℃における粘度(初期粘度(dPa・s))を、B型粘度計(製造元:(株)東京計器、製品名:B型粘度計、型式:BM、検出器回転速度60rpm)を用いて測定した。
【0180】
(5)エアレス塗装作業性
上記のように調製された1日後の各塗料組成物をエアレス塗装にてその作業性(霧化性)を確認し、作業性が良好な場合は評価「A」、不良な場合は「B」とした。
【0181】
(6)塗膜促進劣化試験(付着性の評価)
サンドブラスト板(150mm×70mm×1.6mm)上に、エポキシ塗料1〜7(表7記載、使用された原材料の詳細は表8に記載)を乾燥膜厚で150μmになるように塗布し硬化塗膜(150μm)を形成させ、その後、直ちに屋外にて、南向きに地上から45°の角度で(すなわち試験板を、塗膜表面が地表面に対し45°傾き、かつ南を向くように設置し)暴露した。
【0182】
次いで、前述の条件でそれぞれ1、3、5、7日間屋外暴露された試験板上に(エポキシ塗料から形成された硬化塗膜表面に)、上記各防汚塗料組成物を、アプリケーターを用いて乾燥膜厚で100μmとなるように塗布して、23℃、7日間乾燥させて防汚塗膜を形成して、防汚塗膜付試験板を作製した。
【0184】
【表8】
得られた防汚塗膜付試験板を、40℃人工海水に浸漬し、浸漬後から1月毎に、下記評価基準に基づいて付着性を調査した。
【0185】
[付着性評価]
NTカッターを使用し、防汚塗膜付試験板の防汚塗膜面に、4mm間隔で縦横に各4本の切れ目を入れ9個の升目を作成し、その升目が作成された塗膜表面にセロテープ(登録商標)を圧着させた後、すばやく剥離し、升目を観察した。次いで、9個の升目の面積を100%とした場合における、剥離操作後の升目においてエポキシ塗膜と防汚塗膜との層間で剥離している塗膜の面積(剥離面積)の比率(%)を算出し、下記評価基準に基づいて付着性を評価した。
[付着性の評価基準]
0:塗膜の層間剥離面積が5%未満である
1:塗膜の層間剥離面積が5〜25%未満である。
2:塗膜の層間剥離面積が25〜50%未満である。
3:塗膜の層間剥離面積が50%以上である。
【0186】
(7)静置防汚性試験
サンドブラスト板(300mm×100mm×3.2mm)上に、アプリケーターを用いて、エポキシ系塗料(エポキシAC塗料、商品名「バンノー500」、中国塗料(株)製)を乾燥膜厚で150μmになるように塗布し、硬化させて硬化塗膜(150μm)を形成させ、次いで、該硬化塗膜上に、アプリケーターを用いて、エポキシ塗料1(表7記載)を乾燥膜厚で100μmになるように塗布し、硬化させて硬化塗膜(100μm)を形成して試験板を作製した。
【0187】
次いで、試験板上に(エポキシ塗料から形成された硬化塗膜表面に)、上記各防汚塗料組成物を、アプリケーターを用いて、乾燥膜厚で150μmとなるように塗布して、23℃、1日間乾燥させて防汚塗膜(150μm)を形成し、さらに、該防汚塗膜表面に、前記塗料組成物を乾燥膜厚で150μmとなるように塗布して、23℃、7日間乾燥させて防汚塗膜を形成して、防汚塗膜付試験板を作製した。
【0188】
得られた防汚塗膜付試験板を、広島県倉橋島に静置浸漬し、浸漬後から1月毎に、試験板の防汚塗膜の全面積を100%とした場合における水棲生物が付着している防汚塗膜面積(付着面積)の比率(%)を測定し、下記評価基準に基づいて静置防汚性を評価した。
[評価基準]
0:付着面積が0%である。
0.5:付着面積が0を超え10%未満である。
1:付着面積が10〜20%未満である。
2:付着面積が20〜30%未満である。
3:付着面積が30〜40%未満である。
4:付着面積が40〜50%未満である。
5:付着面積が50〜100%である。