特許第6676734号(P6676734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6676734交換可能なステータを有するMAS・NMR試料ヘッド構造及びその利用法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6676734
(24)【登録日】2020年3月16日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】交換可能なステータを有するMAS・NMR試料ヘッド構造及びその利用法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20200330BHJP
【FI】
   G01N24/00 510B
   G01N24/00 560Z
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-216001(P2018-216001)
(22)【出願日】2018年11月16日
(65)【公開番号】特開2019-117189(P2019-117189A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2019年7月22日
(31)【優先権主張番号】10 2017 220 707.8
(32)【優先日】2017年11月20日
(33)【優先権主張国】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591148048
【氏名又は名称】ブルーカー スウィッツァーランド アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Bruker Switzerland AG
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス フレイタグ
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン キューラー
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド オーセン
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特公平08−014618(JP,B2)
【文献】 特開2014−041104(JP,A)
【文献】 特公平08−007168(JP,B2)
【文献】 特表2011−529562(JP,A)
【文献】 米国特許第6320384(US,B1)
【文献】 米国特許第7915893(US,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0082371(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00−24/14
G01R 33/20−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定物質(40)を有するロータ(1)を支持するために回転軸(RA)に沿って整列されたステータ(2)と、ステータ保持部(32)と、前記ロータ(1)の中の測定物質(40)へRFパルスを放射するため、及び/又は前記ロータ(1)の中の測定物質(40)からのRF信号を受信するためのRFコイル構造(21)と、を含むMAS・NMR試料ヘッド構造(200)において、
前記ステータ(2)は、第1の軸受ベース(17)と、外装部材(16)と、第2の軸受ベース(18)とを含んでおり、前記外装部材(16)は前記第1の軸受ベース(17)と前記第2の軸受ベース(18)とを軸方向で互いに連結し、前記第1の軸受ベース(17)は第1の空気圧式の軸受(3)として構成され、前記第2の軸受ベース(18)は第2の空気圧式の軸受(4)として構成され、
前記ステータ保持部(32)は前記ステータ(2)を軸方向へ挿入可能かつ取出可能であるステータ軸受(41)を有して形成されており、
前記ステータ(2)は挿入された状態のとき前記RFコイル構造(21)を貫いて突出し、挿入と取出のために前記RFコイル構造(21)を通して挿通可能であり、
前記第2の軸受ベース(18)は最大の外径AD2を有し、
前記外装部材(16)は、前記第2の軸受ベース(18)に軸方向で隣接して最大の外径ADVを有する前側区域(19)を有し、
前記RFコイル構造(21)は最小の内径IDSを有し、
AD2<IDSかつADV<IDSであり、
前記試料ヘッド構造(200)は、前記ステータ(2)が挿入された状態のときに前記ステータ(2)が前記ステータ軸受(41)で軸方向に固定可能にする手段を含んでいることを特徴とするMAS・NMR試料ヘッド構造(200)。
【請求項2】
前記第1の軸受ベース(17)及び/又は前記外装部材(16)は前記第1の軸受ベース(17)の領域において最大の外径AD1を有しており、AD1>IDSであることを特徴とする請求項に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項3】
前記ステータ保持部(32)が第1のシール材(31)を有し、これによって前記第1の軸受ベース(17)及び/又は前記外装部材(16)は、前記第1の軸受ベース(17)の領域において、前記ステータ保持部(32)に対して気密に封止されることを特徴とする請求項1又は2に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項4】
前記ステータ保持部(32)が第2のシール材(30)を有し、これによって前記第2の軸受ベース(18)及び/又は前記外装部材(16)が、前記第2の軸受ベース(18)の領域において、前記ステータ保持部(32)に対して気密に封止されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項5】
前記外装部材(16)が気密に構成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項6】
前記試料ヘッド構造(200)は、前記ステータ(2)が挿入された状態のとき、前記外装部材(16)によって一緒に区切られた気密の空間(33)を形成して、その中に前記RFコイル構造(21)が配置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項7】
前記気密の空間(33)は、排気されることを特徴とする請求項に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項8】
前記RFコイル構造(21)が、前記気密の空間(33)内で極低温の温度Tまで冷却され、好ましくはT≦100K、さらに好ましくはT≦40K又はT≦20Kであることを特徴とする請求項6又は7に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項9】
前記ロータ(1)を取り囲む空間(69)が、特に前記ステータ(2)の内部において、極低温の温度Tまで冷却され、好ましくはT≦100K、特別に好ましくはT≦40K又はT≦20Kであることを特徴とする請求項6又は7に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項10】
挿入された状態のときに前記ステータ(2)を前記ステータ軸受(41)で軸方向に固定可能である前記手段は、固定をする位置のとき前記ステータ(2)に軸方向で後方で係合する可動又は取外し可能な固定部品(43;50)を含んでおり、
特に、可動又は取外し可能な前記固定部品(43;50)は、前記第1の軸受ベース(17)の領域で前記ステータ(2)に作用することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項11】
挿入された状態のときに前記ステータ(2)を前記ステータ軸受(41)で軸方向に固定可能である前記手段は、少なくとも1つの定置の固定部品(61)を含んでおり、前記定置の固定部品(61)は、前記ステータ(2)が挿入された状態のときに前記ステータ(2)に対して半径方向(RR)に押圧をする弾性部材(44)を有して構成されており、
特に、シールリング(31,30)として構成された2つの定置の固定部品(61)が設けられることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項12】
前記ステータ保持部(32)は、前記ステータ保持部(32)において前記ステータ(2)が軸方向へ最大限繰り込まれた位置を定める軸方向のストッパ(32b)を形成しており、特に、前記軸方向のストッパ(32b)は、前記第1の軸受ベース(17)又は前記第1の軸受ベース(17)を包囲する領域の前記外装部材(16)によって形成される、前記ステータ(2)の肩部(42)と協働することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項13】
前記第1の空気圧式の軸受(3)と前記第2の空気圧式の軸受(4)が、ロータ(1)を前記ステータ(2)において半径方向に支持するために構成されており、
前記第1の空気圧式の軸受(3)の領域でロータ(1)の円筒状の区域(6)に第1の軸受面(10)を半径R1で構成するとともに、前記第2の空気圧式の軸受(4)の領域で第2の軸受面(13)を半径R2で構成する前記ロータ(1)が前記ステータ(2)に挿入されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項14】
前記軸受ベース(17,18)のうちの一方に、特に前記第2の軸受ベース(18)に、さらに第3の空気圧式の軸受(5)が構成されており、これによって前記ステータ(2)に配置されるロータ(1)を軸方向で保持することができ、特に、前記ロータ(1)が、回転軸(RA)に対して垂直に向けられた第3の軸受面(14)を有することを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項15】
前記軸受ベース(17,18)のうちの他方には、特に前記第1の軸受ベース(17)には、さらにカウンタ軸受(35)が構成されており、これによって前記ステータ(2)に配置される前記ロータ(1)を追加的に軸方向で保持できることを特徴とする請求項14に記載の試料ヘッド構造(200)。
【請求項16】
ロータ(1)に充填された測定物質(40)をMAS・NMR実験で測定するための、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の試料ヘッド構造(200)の利用法において、前記ロータ(1)は前記ステータ(2)の中に配置されており、前記ステータ(2)は前記ステータ軸受(41)に挿入されて固定されており、前記ロータ(1)は、回転軸(RA)を中心として回転することを特徴とする利用法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定物質を有するロータを支持するために回転軸に沿って整列されたステータと、ステータ保持部と、ロータの中の測定物質へRFパルスを放射するため、及び/又はロータの中の測定物質からのRF信号を受信するためのRF(高周波)コイル構造とを含むMAS・NMR試料ヘッド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなMAS・NMR試料ヘッド構造は、特許文献1から公知となっている。
【0003】
核磁気共鳴(=NMR、nuclear magnetic resonance)分光法は、測定物質(試料)の化学的な組成を調べることができる、機器分析化学の1つの高性能な方法である。この場合、測定物質が強力な静磁場に暴露され、それによって測定物質の中で核スピンの整列が生じる。RF(高周波)パルスへの暴露後、測定物質から出てくるRF信号が記録され、評価されて、化学組成を決定する。
【0004】
固体試料のNMR分光法では、試料のそれぞれの核の間の異方性の相互作用に基づき、測定されるNMRスペクトルに著しい線拡大が生じる。固体状の試料については、試料物質をNMR測定中に、静磁場の方向に対して約54.7°のいわゆる「マジック角」で回転させることが知られている(MAS:「マジック角試料回転(magic angle spinning)」)。それにより、双極子相互作用、四極子相互作用、及び化学シフトの異方性部分による線拡大を低減することができ、又は回転周波数が十分に高ければ消滅させることができる。
【0005】
そのために典型的には、測定物質が、ロータと呼ばれる実質的に円筒状の試料管に充填され、ステータの中に入れられる。ロータはステータに対して相対的に回転し、このときロータはステータの中に浮いている。そのために、適当なガス流が利用される。RFパルスを測定物質へ放射するために、及び/又はRF信号を測定物質から受信するために、ステータを取り囲むRFコイル構造が設けられる。
【0006】
特許文献1より、ハウジング管と内側のスリーブとを有するように構成されたステータが公知となっている。内側のスリーブの中にロータが配置される。内側のスリーブには同じ半径で、ロータのほうを向く、2つの軸受のためのノズル出口開口部が構成されている。一方の軸受はロータの円筒状の区域と協働し、他方の軸受はロータのテーパ状の末端部分と協働する。ステータは、ソレノイドコイルとセラミックのコイル成形体とで取り囲まれており、ステータはセラミックのコイル成形体を貫いて突出する。ステータは両端で、セラミックのコイル成形体と同じ直径を有する分配器リングと接着又ははんだ付けされている。分配器リングとステータとは固定されて接続しているので、ステータは恒久的にセラミックのコイル成形体の中に配置される。したがってステータに不具合が生じた場合、これをセラミックのコイル成形体及びソレノイドコイルと一緒にしか交換することができない。この工程には時間もコストもかかる。固定的に組み付けられたステータを有するさらに別の設計形態が、特許文献2から公知となっている。
【0007】
特許文献3より、ロータとステータとを有するNMR・MAS試料ヘッドが開示されており、これは、2つの空気圧式のラジアル軸受とボトムベアリングとを有する。ステータに使用されるラジアル軸受の各部品の間に、RFコイル構造を配置することができる。ロータは円筒形であり、両方のラジアル軸受で等しい半径を有する。同様に、ステータのノズル出口開口部も、両方のラジアル軸受のところで等しい半径を有している。このような設計形態では、ステータに不具合が生じたときに試料ヘッドを部分的に分解することができ、ステータ部分を半径方向に取り外すことができる。しかしそれには高いコストがかかる。ステータに使用されるラジアル軸受の各部品の間にRFコイル構造が配置される場合、ステータを軸方向へ挿入及び取出をすることが可能でない。これに類似する構造が特許文献4及び特許文献5からも公知となっている。
【0008】
特許文献6及び特許文献7より、RFコイルをステータの開口部へ半径方向に挿入することが公知となっている。特許文献8及び特許文献9ではRFコイルがステータ構造へ挿入されて、これにより包囲される。両方の側から組み付けられる2部分からなるステータが、特許文献10及び特許文献11から公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,915,893B2号明細書
【特許文献2】米国特許第7,282,919B2号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2016/0334478A1号明細書
【特許文献4】ドイツ特許第10 2013 201 110 B3号明細書
【特許文献5】米国特許第7,196,521B2号明細書
【特許文献6】米国特許第8,212,565B2号明細書
【特許文献7】米国特許第4,511,841号明細書
【特許文献8】米国特許第6,320,384B1号明細書
【特許文献9】米国特許第6,803,764B2号明細書
【特許文献10】米国特許第9,335,389号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2010/0321018A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、改善された組立と整備のしやすさを実現することができるMAS・NMR試料ヘッド構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、冒頭に述べた種類のMAS・NMR試料ヘッド構造によって、驚くほど簡単かつ効果的に解決される。このMAS・NMR試料ヘッド構造は:
ステータ保持部が、ステータを軸方向へ挿入可能かつ取出可能であるステータ軸受を有して形成されており、
ステータは挿入された状態のときRFコイル構造を貫いて突出し、挿入と取出のためにRFコイル構造を通して挿通可能であり、
試料ヘッド構造は、ステータが挿入された状態のときステータがステータ軸受で軸方向に固定可能にする手段を含んでいることを特徴とする。
【0012】
本発明の枠内では、ステータとステータ保持部又はMAS・NMR試料ヘッド構造は、ステータをステータ軸受の中へ軸方向に(通常動作の場合におけるロータの回転軸に沿って)差し込むことができ、あるいはステータ軸受から引き出せるように構成される。それによりステータを容易に組み付けて、例えば整備目的などのために取り外すことができる。軸方向の挿入と取出は、特に、高いコストのかかるMAS・NMR試料ヘッド構造の分解をすることなく、半径方向よりもはるかに容易である。しかも、必要があれば、ステータの交換を、ステータそのものだけに限定することができ、MAS・NMR試料ヘッドのその他の構成要素(特にRFコイル構造)は、原則として一緒に交換する必要がない。ただし場合によっては、(駆動及び/又は支承及び/又は温度調節のための)ガス配管の取外しと再装着が必要になる場合があるが、これはわずかなコストにしかならない。
【0013】
ステータは、ステータ保持部又はステータ軸受で軸方向へ可動に装着され、挿入された状態のとき、典型的にはクランプ又は応力固定によって、機械的に可逆的に又は一時的に軸方向で固定可能である。ステータの軸方向の固定は、特に、積極的係合(軸方向で後方で係合する固定部品による)及び/又は摩擦接合(半径方向に押圧をする固定部品による)によって行うことができる。軸方向の固定が、通常動作(測定動作)で通常発生する力には良好に耐えることができれば十分であるが、さらに高い力によって克服することもできる。ステータの簡単な軸方向の固定は、たとえば、半径方向でステータに対して押圧する、特に、ステータを取り囲む弾性部材、特にシールリングを通じて行うことができる。
【0014】
ステータ軸受は、挿入された状態にあるステータを半径方向で位置決めし、及び好ましくは回転軸を中心とする回転位置に関しても位置決めする。ステータは、通常の状態において、挿入された状態で配置され、すなわちステータ軸受に配置される。この状態にあるとき、各測定物質を計測するために、ロータをステータへ挿入(及び取出)することができる。
【0015】
ステータは、試料ヘッド構造での組立時や整備目的のために、RFコイル構造が設置されたままで、ひとまとめで挿入及び取出をすることができ、特に、試料ヘッド構造から取り外すことができる。そして、たとえば、ステータの洗浄作業(たとえばロータの破損の結果として測定物質が放出された場合)をいっそう容易に実施することができ、特にRFコイル構造の取外しをすることなく、損傷したステータをいっそう容易に取り替えることができる。
【0016】
本発明の好ましい実施形態
本発明による試料ヘッド構造の1つの好ましい実施形態では、
ステータが、第1の軸受ベースと、外装部材と、第2の軸受ベースとを含んでおり、外装部材は第1の軸受ベースと第2の軸受ベースとを軸方向で互いに連結し、第1の軸受ベースは第1の空気圧式の軸受として構成され、第2の軸受ベースは第2の空気圧式の軸受として構成され、
第2の軸受ベースは最大の外径AD2を有し、
外装部材は、第2の軸受ベースに軸方向で隣接して最大の外径ADVを有する前側区域を有しており、
RFコイル構造は最小の内径IDSを有し、
AD2<IDSかつADV<IDSであることを意図する。
【0017】
この設計形態によって、簡単な方法で、確実に、ステータの前側部分をRFコイル構造に内部でこれを通過させることができる。挿入された状態のとき、ステータの外装部材の前側区域と第2の軸受ベースは、RFコイル構造を貫いて突出する。この設計形態は実際に、特に有用性が実証されている。第2の軸受ベースと外装部材の前側区域(すなわちステータの前側の部分全体)の外径をRFコイル構造の内径に比べて小さくしたため、ステータをRFコイル構造に容易に挿通させることが可能である。前側区域は典型的にはLV≧0.5LSあるいはLV≧1.0LSの長さLVを有する。ここでLSはRFコイル構造の長さである(つながれた複数のサブコイルがあるケースでは、もっとも内側のサブコイルを基準とする)。典型的には、ステータは第1の空気圧式の軸受のすぐ手前までRFコイル構造に突入する。外装部材により、一方ではロータとステータの間にガス流を構成し、他方では、ステータ及び/又は外装部材の内部及び/又は外部で空間を構成し得ることで、特別な条件のもとにおける、たとえば、特別な温度や圧力状況におけるMAS・NMR測定に合わせた、特に最適化された状況を作り出すことができる。さらには、連結をする外装部材によって、ひとまとめで取扱可能なステータ構成要素を構成することができる。
【0018】
この実施形態の1つの好ましい発展例では、第1の軸受ベース及び/又は外装部材は第1の軸受ベースの領域において最大の外径AD1を有しており、AD1>IDSである。第1の軸受ベースは、この実施形態では、RFコイル構造の内部又はRFコイル構造を越えて(第2の軸受ベースが)可能であるよりも広い、半径方向の空間を利用することができる。このようにして、特に堅牢で剛性が高い第1の空気圧式の軸受を達成することができる。
【0019】
ステータ保持部が第1のシール材を有し、これによって第1の軸受ベース及び/又は外装部材が、第1の軸受ベースの領域において、ステータ保持部に対して気密に封止される発展例も好ましい。ステータ保持部が第2のシール材を有し、これによって第2の軸受ベース及び/又は外装部材が、第2の軸受ベースの領域において、ステータ保持部に対して気密に封止される発展例も同様に好ましい。特に、第1及び第2のシール材を一緒に使用することもできる。これらのシール材は、たとえば駆動、支承、温度調節などのためのガス流を作り出して案内することができ、たとえば試料ヘッド構造の1つ又は複数の領域を的確に温度調節するために、互いに分離されたガス流を生成することができる。シール材は典型的にはゴムなどのエラストマーからなる。さらに、シール材はステータを軸方向で固定する役目を果たすことができ、もしくはこれに寄与することができる。
【0020】
外装部材が気密に構成される発展例が特別に好ましい。それにより外装部材は、MAS・NMR測定のために最適化された条件を作り出すために、ガス流をロータ及び/又はステータに沿って案内し、互いに離れたガス空間を作り出すのに特別に良好に寄与することができる。特に、RFコイル構造に関わりなくロータを温度調節することができる。たとえば、ロータ又は測定物質を冷却することができる。
【0021】
さらに試料ヘッド構造が、ステータが挿入された状態のとき、外装部材によって一緒に区切られた、RFコイル構造が中に配置される気密の空間を形成する発展例が好ましい。そして外装部材は、ステータをひとまとめで取扱可能にするために軸受ベースを相互に連結する構造的構成要素としての役目だけでなく、(挿入された状態のとき)RFコイル構造の気密な空間のための分離壁としての役目も果たす。それにより、半径方向で特にコンパクトな設計を実現することができる。さらに、MAS・NMR測定を最適化するために、RFコイル構造を的確に特別な条件に、特に、ロータや試料ヘッド(試料ヘッド構造とも呼ぶ)の周囲とは異なる条件に置くことが可能である。
【0022】
このとき、気密の空間が排気されていると特別に好ましい。それにより、RFコイル構造を非常に良好に熱的に絶縁することができる。
【0023】
RFコイル構造が気密の空間内で、好ましくはT≦100Kの、さらに好ましくはT≦40K、又はT≦20Kの極低温の温度Tまで冷却されるのも好ましい。RFコイル構造の極低温の温度により、MAS・NMR測定の信号対雑音比を改善することができる。留意すべきは、この空間がロータの周囲(特にステータの中)で典型的には室温になっていることである(別案として、ロータ又は測定物質をガス流によって的確に温度調節することもできる)。
【0024】
ロータを取り囲む空間であって特にステータの内部が、好ましくはT≦300Kの、特別に好ましくはT≦100K、又はT≦20Kの温度Tまで冷却されるのも好ましい。冷却での温度調節により、MAS・NMR測定について所望の条件を確立するために、スピン緩和、特に、減速などの測定試料内のプロセスに影響を及ぼすことができる。冷却は、典型的には駆動ガス及び/又は軸受ガスによって行われる。それに対して、RFコイル構造が中に配置される気密の空間は、典型的には室温である(別案として、気密の空間又はRFコイル構造でこれ以外の温度を的確に調整することもできる)。
【0025】
制御装置が存在するのが好ましく、これによってロータを取り囲む空間を特にステータの内部で温度Tに関して、好ましくは0℃≦T≦80℃の、特に好ましくは−40℃≦T≦150℃の温度範囲内で調整することができる。このような温度範囲は生物学的な測定試料について特に適しており、特に、ロータ温度を作動時に変性温度以下に保つことができれば、タンパク質の変性を回避することができる。
【0026】
さらに、挿入された状態のときにステータをステータ軸受で軸方向に固定可能である手段が、固定をする位置のときステータに軸方向で後方で係合する、可動又は取外し可能な固定部品を含んでおり、特に、可動又は取外し可能な固定部品は、第1の軸受ベースの領域でステータに作用する実施形態が好ましい。軸方向での後方からの係合により、特に信頼度の高い軸方向の固定を実現することができる。典型的にはステータは、軸方向の遊びを回避するために、固定部品によって(固定をする位置にあるときに)軸方向でも(他の)ステータ保持部に弾性的に応力固定される。固定部品は(固定をする位置にあるときに)多くの場合、(他の)ステータ保持部にねじ止めされる。固定をする位置にないとき(たとえば引き戻し、離反旋回、又は持ち上げ位置などにあるとき)、ステータの軸方向の移動距離は、たとえばステータの取外しなどのために、制限されていない。後方から軸方向に係合する固定部品には、ステータに対して軸方向に押圧をする弾性部材が配置されていてよい。別案として、可動の固定部品は、固定をする位置にあるときは、弾性部材などによって(たとえばエラストマー体やばねを有するものによって)半径方向でステータに対して押圧をして、これを摩擦接合で固定することができる。可動の固定部品は、たとえば植込ボルトとして構成されていてよく、その前側端部に弾性部材が配置される。
【0027】
挿入された状態のときにステータをステータ軸受で軸方向に固定可能である手段が少なくとも1つの定置の固定部品を含んでおり、定置の固定部品は、ステータが挿入された状態のときにステータに対して半径方向に押圧をする弾性部材を有して構成され、特に、シールリングとして構成された2つの定置の固定部品が設けられている実施形態が好ましい。(ステータ保持部に対して)定置の固定部品は、特に簡単に配置することができる。少なくとも1つの定置の固定部品は、ステータが挿入された状態であるときに、ステータを摩擦接合によって固定する。この保持力は、ステータを通常動作(測定動作)のとき軸方向で固定されたまま保つのに十分である。しかし、組立や整備のために、保持力に抗して、軸方向に、ステータをステータ軸受へ挿入してステータ軸受から取り出すことができる。弾性部材は、典型的にはエラストマー材料からなっており、特に150℃を上回る温度での用途についてはフルオロエラストマーからなり、−40℃を下回る用途についてはシリコンゴム又はフルオロシリコンゴムからなる。
【0028】
別案として弾性部材は、たとえばPTFEなどの弾性の低い材料や、弾性の低い材料と、たとえばばねの形態のプレテンション部材との組み合わせで具体化されていてもよい。シールリング(ガスケット)によって、軸方向の固定に追加して、たとえばRFコイル構造のための排気された空間を確立するために、ガス封止を行うことができる。
【0029】
さらにステータ保持部が、ステータ保持部においてステータが軸方向へ最大限繰り込まれた位置を定める軸方向のストッパを形成しており、特に、軸方向のストッパは、第1の軸受ベース又は第1の軸受ベースを包囲する領域の外装部材によって形成されるステータの肩部と協働する実施形態が好ましい。ストッパによって、ステータの軸方向の位置と、したがって、ステータ内に配置されたロータの軸方向の位置も(一緒に)簡単な仕方で定めることができる。典型的には、ステータは軸方向の固定によってストッパに対して押圧される。第1の軸受ベースを包囲する領域において第1の軸受ベース又は外装部材に肩部が構成されることで、RFコイル構造へ挿入可能な試料容量が悪影響を受けることがなく、それにより特に大きな試料容量を利用することができる。
【0030】
さらに、以下のような実施形態が好ましい:
第1の空気圧式の軸受と第2の空気圧式の軸受がロータをステータにおいて半径方向に支持するために構成されており、
第1の空気圧式の軸受の領域でロータの円筒状の区域に第1の軸受面を半径R1で構成するとともに、第2の空気圧式の軸受の領域で第2の軸受面を半径R2で構成するロータがステータに挿入されることを意図する実施形態。この2つの空気圧式の軸受はステータを半径方向において適切な位置に保持する(「ラジアル軸受」)。留意すべきは、第2の軸受面がロータの(特に端部区域の)円筒状の面に、又は(特に端部区域の)テーパ状の面に位置できることである。軸受面の半径Riは、ステータの付属のノズル出口開口部に関して中央の位置を基準とする。異なる軸方向位置に複数のノズル出口開口部があるケースでは、軸受面の半径はこれらのノズル出口開口部の平均の軸方向位置の中央を基準とする。同様のことが、ステータのノズル出口開口部の半径riについても該当する。
【0031】
前側端部が狭くなったロータを有する発展例
これに加えて、R2<R1、さらには特にAD2=ADVである発展例が特に好ましい。半径R1を有する後側の第1の軸受面又はロータの円筒状の区域に比べて、半径R2を有する前側の第2の軸受面を狭く構成することで、第2の軸受(ラジアル軸受)又はそのステータ側の部分を構成するための半径方向の空間が提供される。それによって第2の軸受を、第1の軸受よりもステータ側で狭く構成することができる。
【0032】
留意すべきは、このとき第2の軸受は、円筒状の区域に比べて小さい半径を有する、又は、円筒状の区域から離れるにつれて減少していく半径を有するロータの端部区域に構成されることである。
【0033】
この発展例に対応する、ロータとステータとを含むMAS・NMRロータシステムは、一方の端部(前側、第2の空気圧式の軸受の周辺)で、他方の端部(後側、第1の空気圧式の軸受の周辺)よりも半径方向に狭く構成することができる。それにより、ロータシステムの前側端部(端部区域と、円筒状の区域の少なくとも1つの部分とを含む)を、(第1の空気圧式の軸受を有する)後側端部を嵌め込むことはできない半径方向に区切られた空間へと容易に挿入することができる。
【0034】
本発明に基づく形状により、ステータとロータが軸方向に挿入されるRFコイル構造(RFコイルシステム)を、ロータ又は測定物質の非常に近傍まで近づけることができる。RFコイル構造の内部で測定物質のために利用可能な容積が、円筒状の区域で作用する第1の空気圧式の軸受の半径方向の幅によって規定されず、半径方向で小さいほうの端部区域に配置された第2の空気圧式の軸受の半径方向の幅(又は、円筒状の区域のほうが大きい半径方向の幅を有している場合には円筒状の区域そのもの)によってのみ規定される。全体として、ロータシステムの非常にコンパクトな構成が可能である。
【0035】
ロータシステムが軸方向でRFコイル構造へ挿入されれば、このRFコイル構造でのロータシステムの交換が一般に非常に容易に可能である。特に、RFコイル構造を試料ヘッド構造から取り外さずに、ステータを取り扱うことができる(たとえば差し込んだり、引き出したりすることができる)。真空絶縁などの、RFコイル構造のための絶縁を、特に、内側半径が一定であって、実質的に軸方向に延びる内壁によって、非常に簡単に構成することができる。本発明によるロータシステムによって、特に、このような絶縁が良好に利用可能である。特に、ステータの一部(たとえば外装部材)を、半径方向内側に位置する部分として、又はRFコイル構造の絶縁の内壁として利用することができる(上記参照)。
【0036】
軸方向における円筒状の区域の半径R1に比べたとき、端部区域の半径R2は、連続的に、又は区域的に連続的に、あるいは1つもしくは複数の段部をもって減少し得る。さらに、円筒状の区域から端部区域への移行も連続的に、あるいは段部をもって行うことができる。留意すべきは、第2の軸受面が回転軸と平行に延び得る、あるいは回転軸に対して円錐角をもって延び得ることである。第2の軸受は(及び第1の軸受も)、ロータを半径方向において適切な位置に保持する。
【0037】
ADV=AD2である場合に、RFコイル構造の内部において、最大の試料容量のための最適な空間利用を最も多く実現することができる。
【0038】
等しい直径のラジアル軸受を有するロータを有する発展例
別案の発展例ではR2=R1であり、このとき第2の軸受面もロータの円筒状の区域に構成される。このようなロータ/ステータシステムは特に容易に製造することができるが、RFコイル構造とロータの中の測定物質との間でさほど小さな間隔を可能にするものではない。
【0039】
その他の発展例
軸受ベースのうちの一方に、特に第2の軸受ベースに、さらに第3の空気圧式の軸受が構成されており、これによってステータに配置されるロータを軸方向で保持することができ、特に、ロータが、回転軸に対して垂直に向けられた第3の軸受面を有している発展例も好ましい。第3の空気圧式の軸受により、ステータの中でのロータの軸方向への変位を防ぐために、ロータに対して軸方向の保持力を及ぼすことができる。
【0040】
このとき、軸受ベースのうちの他方には、特に第1の軸受ベースには、さらにカウンタ軸受が構成されてよく、これによってステータに配置されるロータを追加的に軸方向で保持できる。カウンタ軸受により、たとえばカウンタ軸受に圧力が及ぼされることで、第3の空気圧式の軸受をサポートすることができる。カウンタ軸受は、特に、
−特に、ステータ内に少なくとも1つのノズル出口開口部と、回転軸に対して直交するロータの軸方向端部の第4の軸受面とを有する、空気圧式のアキシャル軸受として、
−空気圧式の円錐軸受として、
−特に栓又は絞りを有する、受動的な背圧生成に基づく軸受として、
−特に、可動の栓、可変の絞り、又は空気吹込部を有する、軸受面のない、能動的な背圧生成に基づく軸受として
構成されていてよい。
【0041】
本発明に基づく利用法
本願の発明の範囲は、ロータに充填された測定物質をMAS・NMR実験で測定するための、上に説明した本発明による試料ヘッド構造の利用法も含み、ここで、ロータはステータの中に配置されており、ステータはステータ軸受に挿入されて固定されており、ロータは、好ましくは少なくとも1kHzの周波数で、特別に好ましくは少なくとも10kHzの周波数で、回転軸を中心として回転する。特に、それぞれのMAS・NMRの実験と実験との間に必要に応じて(たとえば整備のためや、損傷時の交換のために)、RFコイル構造を取り外すことなく、ステータをステータ軸受から軸方向に引き出して、ステータを再びステータ軸受に差し込むことができる。
【0042】
本発明のその他の利点は、発明の詳細な説明と図面から明らかとなる。同様に、上に挙げた構成要件及び以下に記載する構成要件は、本発明に基づき、それぞれ個々に単独で又は任意の複数の組み合わせとして実現することができる。図示及び記載されている実施形態は完全な列挙として理解されるものではなく、むしろ、本発明を記述するための例示としての性格を有するものである。
【0043】
発明と図面の詳細な説明
本発明が図面に示されており、実施例を参照しながら詳しく説明する。図面は次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】円錐台状の前側端部区域を有する、本発明のためのMAS・NMRロータシステムの第1の設計形態を示す模式的な断面図である。ステータは、外装部材と、アキシャル軸受と、2つのラジアル軸受と、カウンタ軸受とを含んでいる。駆動装置は、アキシャル軸受と反対を向く側に構成されている。ここに図示する設計形態は、Oリングを介するステータホルダでのステータの固定を含んでいるが、それ以外の方法によっては他のアキシャル固定部を含んでいない。これに加えて、線材コイルからなるRFコイル構造が示されている。
図2】大部分が円筒状である前側端部区域を有する、本発明のためのMAS・NMRロータシステムの第2の設計形態を示す模式的な断面図である。ステータは、外装部材と、アキシャル軸受と、2つのラジアル軸受と、前側端部区域の領域に構成された駆動装置とを含んでいる。ここに図示する設計形態は、ばね力によるステータホルダでのステータの軸方向固定を含んでいる。これに加えて、RFコイルが装着されたコイル支持体を含むRFコイル構造が示されている。
図3】大部分が円筒状である前側端部区域を有する、本発明のためのMAS・NMRロータシステムの第3の設計形態を示す模式的な断面図である。ステータは、外装部材と、アキシャル軸受と、2つのラジアル軸受と、ロータの後側の領域でアキシャル軸受に対向して構成され、ステータでのロータの保持力を高めるためのタービン排気の流動制限を有する駆動装置とを含んでいる。ここに図示する設計形態は、軸受と駆動装置のためのガス接続による、ステータ保持部でのステータのアキシャル固定を含んでいる。
図4】ステータが試料ヘッド構造に対して固定的な角度で取り付けられる、本発明に係る試料ヘッド構造の実施形態を示す模式的な断面図である。
図5】本発明のためのMAS・NMRロータシステムの第4の設計形態を示す模式的な断面図であり、図3に示すものと類似するが、全面的に円筒状のロータを有している。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、測定物質が固体又は半固体の形態(たとえば粉末やゲル)で中に配置されるロータ1と、ステータ2とを含む、本発明のためのMAS・NMRロータシステム100の第1の設計形態を示す。図1の上側には、ステータ2が(ステータ保持部32の各部分とともに)示され、図1の中央にはロータ1が示され、図1の下側には、ロータ1とステータ2とを有するMAS・NMRロータシステム100の全体が(ステータ保持部32の各部分とともに)示されている。MAS・NMRロータシステム100とステータ保持部32は、本発明に係る試料ヘッド構造200の一部である。
【0046】
ステータ2は、第1の空気圧式の軸受(ここではラジアル軸受)3と、第2の空気圧式の軸受(ここではラジアル軸受)4と、第3の空気圧式の軸受(ここではアキシャル軸受)5とを含んでいる。ロータ1は、ステータ2の内部において、回転軸RAを中心として回転可能に支持される。
【0047】
ロータ1は、円筒状の区域6と、図1ではロータ1の最も左側(前側)の閉じた端部を形成する端部区域7とを含んでいる。端部区域7はここでは円錐台状を呈しており、左側の端部に向かって先細になっていく。回転軸RAに対する端部区域7の円錐角αは、ここでは約30°であり、好ましくは一般に10°〜45°である。ロータ1の最も右側(後側)の端部には、キャップ9で閉じられる開口部8が構成されており、それにより、ロータ1の中に充填された測定物質がNMR実験中に失われることがない。キャップ9にはカウンタ構造9a、たとえばバッフル面(模式的にのみ図示)が構成されており、これにより、空気圧式の駆動装置22の適当なガス流で回転軸RAを中心とするロータ1の回転を可能にすることができる。キャップ9の外側半径R4は、円筒状の区域6におけるロータ1の半径R1にほぼ相当する。
【0048】
円筒状の区域6は(外側の)半径R1を有しており、第1の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)3のための第1の軸受面10を構成する。第1の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)3の(ノズル出口穴の内側端部にある)ステータ側のノズル出口開口部11が、回転軸RAに関して半径r1のところに配置されている。
【0049】
第2の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)4は、半径r2のところにノズル出口開口部12を備えている。半径r2はr1よりも明らかに小さく、ここではおよそr2=0.65r1である。第2の軸受面13が構成される、ノズル出口開口部12に向かい合う端部区域7の半径R2は、R1よりも明らかに短くなっており、ここではおよそR2=0.65R1である。第2の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)4は、ロータ1の半径方向の支持を前側端部の領域で行うだけでなく、流動状況が相応に設計されていればロータ1の軸方向の保持にも寄与することもできる。
【0050】
ロータ1の左側の(前側の)軸方向端部のところで、ロータ1は、ノズル出口開口部15とともに、第3の空気圧式の軸受(アキシャル軸受)5を構成する第3の軸受面14を形成する。第3の軸受面14は回転軸RAに対して垂直であって、外側半径R3を有している。外側半径R3は、同じくR1よりも明らかに小さく、ここではおよそR3=0.5R1である。
【0051】
第2の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)4の、及び第3の空気圧式の軸受(アキシャル軸受)5のステータに面する部分は、第3の軸受面14及びここではその他の端部区域7も皿状に包囲する。ノズル出口開口部12,15に追加して、アキシャル軸受5から、第2のラジアル軸受4から、さらには実施形態に応じてではあるが少なくとも部分的に第1の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)3から排気を、及び場合により追加的に存在する温度調節空気を外部に向かって案内するために、排気出口開口部34もステータ2に設けられている。このことによって、アキシャル軸受5の保持力と反対に作用することになる背圧を回避もしくは最小化するという目的が果たされる。端部区域7は、ここではロータ1(キャップ9を含む)の長さ全体の約6.5%にわたって延びている。一般には5%〜25%が好ましい。
【0052】
図1に示す実施形態では、第2の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)4及び第3の空気圧式の軸受(アキシャル軸受)5のステータ側の部分は、円筒状の区域6の半径R1とほぼちょうど同じ大きさだけ半径方向に延びるように配置されている。特に、ここではr2<R1が成り立つ。それに対して、第1の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)3のステータ側の部分は、R1を超える空間を包含する。
【0053】
ステータ2は、図1に明らかなように統一的な構成要素を形成する。そのためにステータ2は、第1の空気圧式の軸受又はラジアル軸受3のステータ側の部分が構成される第1の軸受ベース17を、第2の空気圧式の軸受又はラジアル軸受4のステータに面する部分が(また、ここでは第3の空気圧式の軸受又はアキシャル軸受5のステータ側の部分も)構成される第2の軸受ベース18に機械的に連結する外装部材16を備えている。外装部材16は、第2の軸受ベース18に隣接する前側区域19を備え、(最大の)外径ADVを有し、ならびに、ここでは、第1の軸受部材17に隣接する、(最大の)外径ADHを有する後側区域20を備えている。第1の軸受ベース17の(最大の)外径はAD1であり、第2の軸受ベース18の(最大の)外径はAD2である。
【0054】
MAS・NMRロータシステム100のステータ2は、具体的には、第2の軸受ベース18及び外装部材16の前側区域19は、最小の内径IDSを有するRFコイル構造21を貫いて突出する。前側区域19は、ここではRFコイル構造21の軸方向長さLSよりもわずかに大きい軸方向長さLVを有する。RFコイル構造は、ここでは自立式の線材コイル(コイル支持体なし)として構成されている。
【0055】
MAS・NMRロータシステム100は、後側区域20まで軸方向へ(ここでは右側から)RFコイル構造21の中に差し込まれる。そのために、ここではAD2<IDS及びADV<IDSでもあることが達成されており、ここではADV=AD2である。ロータ1又はこれに含まれる測定物質を、RFコイル構造21の非常に近傍まで半径方向に近づけることができる。それに対してAD1>IDSであり、それにより、第1の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)3がノズル出口開口部11の場所において大きい半径r1を有するように構成されていてよく、ここで、AD1>IDSとして、ロータ1の(後側の)半径方向での支持を改善してもよい。整備目的で、RFコイル構造21をMAS・NMR試料ヘッド構造200から取り外すことなく、ステータ2をRFコイル構造21から(ここでは右方に向かって)軸方向に引き出し、修理後に(又は必要な場合には交換後に)再びRFコイル構造21の中へ(左方に向かって)差し込むことが容易に可能である。
【0056】
第3の空気圧式の軸受(アキシャル軸受)5が、必要に応じて第2の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)4の保持への寄与と合わせても、ロータ1を回転動作時に軸方向で位置に関して保持するのに足りない場合は、ここではキャップ側の端部で、たとえばノズル出口開口部36を通るガス流によって、ロータ1をアキシャル軸受5に向かって押圧するカウンタ軸受35が、(図1に示すように)設けられていてよい。カウンタ軸受35は、ステータ交換のために離反旋回又は離反スライドさせることができる、もしくはロータ交換のたびに組み付けることができる、たとえばねじ止めすることができる(詳しくは図示せず)、旋回可能又はスライド可能なステータ部分に構成されていてよい。図示した実施形態ではカウンタ軸受35は、ロータ1が挿入されたときにステータ2が閉止される閉止蓋37に組み込まれている。閉止蓋37は、ここでは空気出口開口部34aも有している。
【0057】
ステータ2は、ステータ2のためのステータ軸受41を構成するステータ保持部32に支持される。これによってステータ2を軸方向へ(回転軸RAと平行に)挿入及び取出することができる。図1では、上側と下側に挿入された状態が示されている。ここではステータ軸受41は、図示した実施形態では第2の軸受ベース18を包囲し、ステータ2が半径方向へ動くときのための半径方向の区切り32aを構成する前側部分41aを含んでいる。さらにここではステータ軸受41は、図示した実施形態では第1の軸受ベース17を包囲し、同じく半径方向の区切り32aを構成する後側部分41bを含んでいる。後側部分41bは、第1の軸受ベース17の肩部42が当接する、ステータ2のための軸方向のストッパ32bも構成する。ステータ軸受41のそれぞれの部分41a,41bの間に、半径方向で外装部材16にすぐ隣接するように、RFコイル構造21が配置される。詳しくはRFコイル構造21は図示しない仕方でMAS・NMR試料ヘッド構造200に取り付けられるが、たとえば(ステータ2にではなく)ステータ保持部32に取り付けられる。
【0058】
ステータ軸受41のそれぞれの部分41a,41bには溝が設けられていて、その中にシール材(シールリング)30,31、ここではゴムなどの弾性材料からなるOリングが配置されている。このシール材は、ここでは第2の軸受ベース18と第1の軸受ベース17の外面に対して周回しながら押圧をする。これにより、半径方向内側で外装部材16によって一緒に区切られる、排気された気密な空間33が封止される。この排気された空間33で、この中に含まれるRFコイル構造21を良好な熱的な絶縁のもとで、特に、たとえば20Kの極低温の温度になるように、温度調節することができる。
【0059】
シール材31,30は、図1の実施形態では、定置の(すなわちステータ保持部32で不動の)固定部品61として機能し、これらは同時に、挿入されたステータ2を半径方向で応力固定し、それによってステータ2を摩擦接合で軸方向に固定する弾性部材44の機能も有しているが、それは、通常動作のときその際に予想される力の観点からして必要である限りにおいてである。しかし、その他の構造を外すことなく、より大きい力によってステータ2を軸方向へ(ここでは右向きに)整備などのために引き出すことができる。留意すべきは、ステータ保持部32へのステータ2の再挿入のとき、シール材31,30のところでのある程度の力(機械的な抵抗)を克服しなければならないことである。
【0060】
ステータ2に、ここでは第1の軸受ベース17に、ガス流供給部38がさらに接続されている。
【0061】
図2は、本発明のためのMAS・NMRロータシステム100の第2の設計形態を示しており、これは図1の設計形態にほぼ相当しているので、ここでは主要な相違点だけを説明する。同じく上側にステータ2(ステータ保持部32の各部分を含む)、中央にロータ1、下側にロータ1とステータ2を有するMAS・NMRロータシステム100が示されている。MAS・NMRロータシステム100とステータ保持部32は、本発明による試料ヘッド構造200の一部である。
【0062】
図示した実施形態では、ロータ1は、前側部分7aでは円筒状に構成され、円筒状の区域6へと通じる後側部分7bではテーパ状(円錐台状)に構成された端部区域7を有している。端部区域7は、ノズル出口開口部12に対向する円筒状の前側部分7aの領域で、第2の空気圧式の軸受(ここではラジアル軸受)4の第2の軸受面13を構成する。第2の軸受面13の半径R2は、ノズル出口開口部15に対向する、第3の空気圧式の軸受(ここではアキシャル軸受)5の第3の軸受面14の半径R3に等しい。R2とR3はいずれも、第1の空気圧式の軸受(ここではラジアル軸受)3のノズル出口開口部11に対向する第1の軸受面10の半径R1より明らかに小さい。端部区域7の一部が、ここではロータ1のキャップアタッチメント39によって構成される。キャップアタッチメント39には、駆動装置22の駆動ガス流のためにバッフル面などのカウンタ構造39aが構成されていて、これによりロータ1を回転軸RAを中心として回転させることができる。
【0063】
第2の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)4のノズル出口開口部12は、第1の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)3のノズル出口開口部11の半径r1よりも明らかに小さい半径r2のところにあって、半径r2はまた、円筒状の区域6の(外側の)半径R1よりも明らかに小さく、それにより、RFコイル構造21の中へ横から軸方向に容易に差し込むことができる、非常にコンパクトな設計形態をここでも実現可能である。RFコイル構造21は、ここでは管状のコイル支持体21aを有するように構成されていて、管状のコイル支持体21aの外面にRFコイル構造21の導線部材21bが配置されている。
【0064】
図示した実施形態では、ステータ2は温度調節ガスノズル51を有しており、これによって、ステータ2の中におけるロータ1の周囲で、及びそれによってロータ1の中でも、所望するように温度を調整可能である。たとえば、NMR測定中のタンパク質の変性を防止するために、ロータ1の中の測定物質をたとえば約0℃で穏やかに冷却することができる。さらに、ここでは高圧ガスノズル52が設けられており、これによって、ロータ1の軸方向位置を回転軸RAを中心とする回転中に固定するために、ここではキャップ9に形成されているロータ1のバッフル面53への圧力を調整することができる。
【0065】
この実施形態では、近似的に等しいラジアル軸受の剛性を実現するために、第1の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)3と同じ大きさの、又はこれよりも大きいガス流を、第2の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)4で適用することができる。特に第2のラジアル軸受4を、第1のラジアル軸受よりも高い圧力で付勢することができる。必要であれば、この実施形態でもカウンタ軸受が設けられていてよい(図示しないが、図1及び図3を参照)。
【0066】
図2の実施形態では、第1の軸受ベース17のところでステータ2に後方から係合する、取外し可能な固定部品43が設けられる。取外し可能な固定部品43は、ステータ保持部32にねじ止めされた(ねじ45を参照。)固定位置で示されている。固定部品43は弾性部材44によって、ここではばね又はその代替としてエラストマー部材によって、ステータ2に対して後方から押圧し、それによってステータが軸方向のストッパ32bに当接するように固定される。すなわちステータ2が、軸方向のストッパ32bに対して弾性的に応力固定される。ステータ2をステータ保持部32から軸方向へ(ここでは右方に向かって)引き出すために、ねじ45を外すことができ固定部品43を(ばねを含めて)取り外すことができる。
【0067】
留意すべきは、取外し可能な固定部品43がここではガス流供給部38も含んでいることである。
【0068】
ここでは外装管16は、前側区域19に比べて半径方向で幅が広いはずの後側区域を有しておらず、したがって、(RFコイル構造へ挿入可能な)前側区域19が、ここでは外装管16の長さ全体にわたって延びている。
【0069】
図3は、本発明のためのMAS・NMRロータシステム100の第3の設計形態を示しており、これは図1の設計形態にほぼ相当しているので、ここでは主要な相違点だけを説明する。同じく上側にステータ2が示されているが、ステータ保持部32へ挿入方向ERに部分的にのみ差し込まれた状態で示されており、まだ固定部品50が組み付けられていない。中央にロータ1が示されており、下側に、ロータ1とステータ2を有するMAS・NMRロータシステム100全体が示されている。MAS・NMRロータシステム100とステータ保持部32は、本発明による試料ヘッド構造200の一部である。
【0070】
この設計形態では、ロータ1は、円筒状の前側部分7aとテーパ状の後側部分7bとを有する端部区域7を同じく有しているが(図2参照)、前側端部にキャップアタッチメントが使用されていない。空気圧式の駆動装置22は、ロータ1の後側端部でキャップ9に当接する。外装管16は、ここでは前側区域19に比べて半径方向で幅が広いはずの後側区域を有しておらず、したがって、(RFコイル構造21へ挿入可能な)前側区域19が、ここでは外装管16の長さ全体にわたって延びている。
【0071】
(ここでは複数の別々の構成要素を含む)固定部品50は、ステータ軸受41で軸方向に(挿入方向ERに関して、又は回転軸RAに沿って)完全に繰り込まれた状態のときに(図3の下側を参照、肩部42及び軸方向のストッパ32bが互いに当接する)ステータ2を固定する役目を果たし、それにより、ステータ2は測定中に軸方向に動くことがない。
【0072】
固定部品50は、第1の軸受ベース17にある溝17aに挿入可能な突出部50aを有している。突出部50aが挿入された状態のとき、固定部品50をねじ45によってステータ保持部32にねじ止めすることができる。ねじ止めされた状態については図3の下側を参照。半径方向RRに圧入されたシール材17bによって、あるいは突出部50aと溝17aのそれぞれの溝底面によって直接、ステータ2が半径方向RRで挟み込まれる。それにより、シール材又はシールリング30,31の作用を超えて、摩擦接合によりステータ軸受41での、軸方向の、ステータ2のさらなる固定が実現される。さらに、突出部50aはまた、軸方向に関して溝17aの中で第1の軸受ベース17に後方で係合し、それによって追加の固定が実現される。
【0073】
固定部品50はここではガス流供給部38も含んでおり、シール材17bが供給ガス流を封止する。
【0074】
ここでは閉止蓋37にカウンタ軸受35が含まれた構成であり、駆動装置22の駆動空気の流出が制限されており、それにより、ロータ1を第3の空気圧式の軸受(ここではアキシャル軸受)5に向かって押圧する背圧が生じる。そのためにガス出口通路54には調節可能なガス流制限装置、ここでは可変の絞り55が設けられている。
【0075】
図4には、図3に示すようにMAS・NMRロータシステム100が組み付けられた、本発明による試料ヘッド構造200の実施形態が模式的な断面図で示されている。
【0076】
試料ヘッド構造200は、ロータ1が回転軸RAを中心として回転可能なように中で支持されたステータ2を含んでいる。ロータ1は、図4ではちょうど交換中であり、したがって部分的にのみ軸方向でステータ2に差し込まれている。ロータ1は、後側端部のところでキャップ9により閉止されている。ステータ2は、外装部材16を介して機械的に連結された2つの軸受ベース17,18を有している。
【0077】
試料ヘッド構造200はRFコイル構造21を有しており、RFコイル構造21の最小の内径IDSは、第2の軸受ベース18の(最大の)外径AD2よりも大きく、及び、外装部材16の前側区域19(ここでは外装部材16の長さ全体を含む)における(最大の)外径ADVよりも大きい。それにより、ステータ2の組み込みのときや整備目的のために、固定部品50が取り外されているときにRFコイル構造21へ挿通することができる。挿入された(押し込まれた)状態のとき、ステータ2は、そのためにステータ軸受を構成するステータ保持部32で保持される。この支持部は、ここでは回転軸RAが垂直方向に延びる磁界Bに対して54.7°のマジック角で整列するように構成される。
【0078】
気密の外装部材16を備える、半径方向外側に向かって気密のステータ2は、ここでは軸受ベース17,18の領域でシール材30,31によりステータ保持部32に対して封止され、それにより、ステータ2又は外装部材16もまた空間33を区切る。空間33は、ここではステータ保持部32によっても、及び詳しくは図示しないその他の壁部によっても区切られる。RFコイル構造21も含む空間33の中で、ここではRFコイル構造21を熱的に絶縁するために真空が構成される。それにより、MAS・NMR測定中にRFコイル構造21を極低温の温度に冷却することが可能であり(たとえば標準圧力のもとでの液体窒素に準じて77Kに、又はたとえば液体もしくは気体のヘリウムによる冷却の場合には、標準圧力のもとでの液体ヘリウムに準じてさらに低い温度、特に≦40K、≦20K、あるいはさらに低く、4.2K周辺領域の温度)、それに対してロータ1の中の測定物質40は室温に近い温度のままに保たれ、又は250℃〜+1000℃、特に−50℃〜+150℃の範囲内の温度に合わせて、特別に好ましくは0℃〜+50℃の温度範囲で温度調節することができる。
【0079】
測定中にはロータ1がステータ2の中で、典型的には10kHz以上の周波数で、特に1kHzからvs/(2πR1)の範囲内のスピードで、回転軸RAを中心として回転し、このときvsは、所与の圧力/温度条件のもとでのロータ1を取り囲むガスの音速であり、RFコイル構造21がRFパルスをロータ1の中の測定物質40に照射し、及び/又は測定物質40からRF信号を受信する。その際に強い静磁場Bが、(図4の垂直方向に)測定物質40に対して作用する。
【0080】
全てのガス流が、軸方向に取り出し可能なステータ2の両方の端部から導出されるのが好ましく、それにより、これを容易に回収して再利用することができる。このことは特に、Heガスが用いられて動作する場合、室内空気中に失われないようにするために、低温MASにとって好ましい。ガスはデュワーへと直接移動するのが好ましく、これにより、それが不必要に加熱されることがなく、ロータシステム100での経路損失と摩擦を補正する(再冷却)だけでよいカプセル封じされたガス循環が可能となる。再冷却は、熱交換機と室温でのガスの圧縮によって行われるのが好ましい(詳しくは図示せず)。
【0081】
同様に、有毒である、発がん性がある、爆発性がある、放射性を有する、又は生体に危険のある、測定試料とともにMAS・NMR試料ヘッド構造200が使用されるケースについては、ガス流をステータ2の両方の端部のところで回収するのが好ましい。
【0082】
図5は、本発明のためのMAS・NMRロータシステム100の第4の設計形態を示しており、これは図3の設計形態にほぼ相当しているので、ここでは主要な相違点だけを説明する。図5では上側に、ステータ2がステータ保持部32の各部分とともに示されており、そこへステータが部分的に軸方向へ差し込まれており、図1の下側にはステータ2とロータ1とを有するMAS・NMRロータシステム100、ならびにステータ保持部32の各部分が、完全に軸方向へ差し込まれた状態で示されている。MAS・NMRロータシステム100は、本発明に係る試料ヘッド構造200の一部である。
【0083】
図示した設計形態では、ロータ1は全体として統一的な半径を有する円筒状に構成されており、それにより、第1の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)3の第1の軸受面10の半径R1と、第2の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)4の第2の軸受面13の半径R2とは、ここでは等しくなっており、すなわちR1=R2である。ロータ1の後側端部では、たとえば閉管状の(図5では左側の)ガラスからなるロータ1の部分である開口部8をキャップ9が閉止し、キャップ9は、円筒状の区域6の領域における半径R1に等しい半径R4を有している。統一的な半径を有するロータ1は容易に製作することができ、破損に対して堅牢であり、充填や搬送のときに良好に取り扱うことができ、MAS・NMR測定の際にも回転軸RAを中心とする回転に関して良好にコントロールすることができる。
【0084】
ここではステータ2は、第1の軸受ベース17と、第2の軸受ベース18と、軸受ベース17,18を連結する外装部材16とを備えている。第1の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)3のノズル開口部11における半径r1は、ここでは第2の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)4のノズル出口開口部12における半径r2に等しい。
【0085】
ロータ1の半径は第2の軸受ベース18を越えて拡張していないので、ここでは比較的広い空間69がロータ1の周囲に残っており、又は、比較的広い半径方向の隙間70が、前側区域19において、ロータ1の外面とステータ2すなわち外装管16の内面との間に残っている。それにより、ロータ1の特に効率的な温度調節を行うことができるが、RFコイル構造21の半径方向内部での比較的少ない量の測定物質40によって、信号対雑音比は低くなる。
【符号の説明】
【0086】
1 ロータ
2 ステータ
3 第1の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)
4 第2の空気圧式の軸受(ラジアル軸受)
5 第3の空気圧式の軸受(アキシャル軸受)
6 円筒状の区域
7 端部区域
7a 前側部分(端部区域)
7b 後側部分(端部区域)
8 開口部
9 キャップ
9a カウンタ構造
10 第1の軸受面
11 ノズル出口開口部(第1のラジアル軸受)
12 ノズル出口開口部(第2のラジアル軸受)
13 第2の軸受面
14 第3の軸受面
15 ノズル出口開口部(アキシャル軸受)
16 外装部材
17 第1の軸受ベース
17a 溝
17b シール材
18 第2の軸受ベース
19 前側区域
20 後側区域
21 RFコイル構造
21a コイル支持体
21b 導線部材
22 空気圧式の駆動装置
30 第2のシール材(シールリング)
31 第1のシール材(シールリング)
32 ステータ保持部
32a 半径方向の区切り
32b 軸方向のストッパ
33 気密の(排気された)空間
34 空気出口開口部
34a 空気出口開口部(カウンタ軸受)
35 カウンタ軸受
36 ノズル出口開口部(カウンタ軸受)
37 閉止蓋
38 ガス流供給部
39 キャップアタッチメント
39a カウンタ構造
40 測定物質
41 ステータ軸受
41a 前側部分(ステータ軸受)
41b 後側部分(ステータ軸受)
42 肩部
43 軸方向に後方から係合する取外し可能な固定部品
44 弾性部材
45 ねじ
50 可動の固定部品
50a 突出部
52 高圧ガスノズル
53 バッフル面
54 ガス出口通路
55 可変の絞り
61 定置の固定部品
69 ロータ周囲の空間
70 半径方向の間隙
100 MAS・NMRロータシステム
200 試料ヘッド構造
AD1 外径(第1の軸受ベース)
AD2 外径(第2の軸受ベース)
ADV 前側区域の外径
ADH 後側区域の外径
ER 挿入方向
IDS 最小の内径(RFコイル構造)
R1 半径(第1の軸受面)
R2 半径(第2の軸受面)
R3 外側半径(第3の軸受面)
R4 半径(キャップ)
R5 半径(キャップアタッチメント)
r1 半径(第1のラジアル軸受のノズル出口開口部)
r2 半径(第2のラジアル軸受のノズル出口開口部)
RA 回転軸
RR 半径方向
図1
図2
図3
図4
図5