【実施例】
【0078】
実施例1
細胞株と細胞試薬、大腸癌HT29細胞、乳癌MDA−MB−231細胞、脳腫瘍U87細胞、皮膚癌A2058細胞はアメリカタイプ培養コレクション(American Type Culture Collection、 ATCC)から入手した。これらの細胞はトリプシン処理後、90%ダルベッコ変法培地(Dalbecco's Modified Eagle's Media 、DMEM)と10%ウシ胎仔血清(FBS)により構成される細胞培地に懸濁された。
【0079】
子宮頚癌HeLa細胞は10%DMSO存在下で実験に使用するまで液体窒素に凍結保存された。実験の前に細胞は液体窒素から取り出され、ウシ胎仔血清(FBS)10%含有DMEM培地を用いて5%二酸化炭素を含む大気中で培養した。細胞密度が80%ほどになった所で、細胞はトリプシンで処理され1:4の比率で希釈継代された。試験化合物に暴露されない細胞は、3.7g/L重炭酸ナトリウムを加えてpH7.3に調整したDMEM培地に、ウシ胎仔血清を10%加えて、5%二酸化炭素を含む大気中で培養された。ピリチオン及びその他の化合物が、pH及び濃度依存性に癌細胞増殖に及ぼす影響を調べるためには、DMEM培地に1,4−ピペラジエタンサルフォン酸緩衝剤(PIPES, pK
a 6.1~7.5)を10mM濃度になるように添加しpH6.4に調整、DMEM培地に4−(2−ハイドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルフォン酸(HEPES, pK
a 6.8~8.2)を10mM濃度になるように添加しpH7.4に調整された。PIPES(P6757, Lot#026K5416)、HEPES(H4034, Lot#087K54432)、ソディウムピリチオン(2−メルカプトピリジン N−オキシドソディウム,H3261, Lot#0655M4172V)、メチルチオゾリルジフェニル-テロラゾリウムブロマイド(MTT, M5655, Sigma)はシグマから購入した。亜鉛ピリチオン(PHR1401, Lot#LRAA8431)はフルカから購入した。エルロチニブ(#10483, Lot#0459700-31)とゲフィチニブ(sc-202166, Lot#A0616)はケイマン化学とサンタクロースバイオテクノロジーからそれぞれ購入した。一般的な化学試薬は可能な限り純度の最も高いものを使用し、その他の試薬は特に指定のない限りシグマから購入した。
【0080】
実施例2
癌細胞に亜鉛ピリチオン(Pyz)をpH7.4及びpH 6.4条件下で処理したとき癌細胞生存率に及ぼす影響
悪性腫瘍は悪性腫瘍に特徴的なpH6.0から6.9という強い細胞外酸性を作り出すのに対し、正常組織の細胞外のpHは7.3から7.4である(Parks et al., 2013)。亜鉛ピリチオンを子宮頚癌HeLa細胞、脳腫瘍U87細胞、大腸癌HT29細胞、乳癌MDA−MB−231細胞の4種類の異なるヒト癌細胞に接触させると、これら細胞の生存率が著しく低下することが示された。pH6.4の酸性培地中で亜鉛ピリチオン処理したとき、pH7.4の培地で処理したときに比べてより顕著に細胞生存率低下を起こした。亜鉛ピリチオンの化学構造を
図1に示した。
【0081】
癌細胞を96ウェル培養ディッシュの一ウェルあたり2,000個ずつ播種し、ウシ胎仔血清を10%含有するDMEM培地中、二酸化炭素を5%含有する大気中で37℃一晩培養した。ピリチオン及びその他の化合物のpH依存性抗癌作用を調べるために、pH=6.4 DMEM培地は、PIPESを10mM濃度になるように添加しpHを6.4に合わせることで調整した。pH=7.4 DMEM培地は、HEPESを10mM濃度になるように添加しpHを7.4に合わせることで調整した。PIPES(pK
a 6.1~7.5)とHEPES(pK
a 6.8~8.2)はそれぞれpH値を6.4と7.4に合わせるために用いられた。pH 6.4は腫瘍環境の酸性度をモデルする代表的なpH値として、pH 7.4は正常組織環境の酸性度をモデルする代表的なpH値として、それぞれ実験に採用された。細胞はpH=6.4 DMEM培地またはpH=7.4 DMEM培地中で異なる濃度の亜鉛ピリチオン存在下72時間37℃で培養した。実験は重炭酸塩が媒介する細胞膜を介したプロトン移動によるpH変動を最小限にするために、重炭酸塩を含まない培地と大気中の二酸化炭素を含まない条件で行われた。亜鉛ピリチオンに72時間暴露した後、一つのウェルあたり50μLのウシ胎仔血清を10%含有するDMEMに1mg/mLのMTTを新たに加えた培地に変えて、培養を継続した。2時間培養した後、20%SDS、2%酢酸、2.5%塩酸、及び50%DMFを以て構成成分とする細胞抽出液を一ウェルあたり培地容積と等量の50μL加えることで細胞を融解した。96ウェル培養ディッシュを振盪した後、37℃で4時間反応させて、570nmの吸光度を測定した。バックグラウンド減算後、薬剤非処理群の計測値を対照群とした相対的生存率を算出した。異なる条件群とそれぞれの対照群との統計的有意性はそれぞれスチューデントtテストによって調べた。p−値が0.05以下であることを以て有意に異なると見なされた。
【0082】
癌細胞に50nM亜鉛ピリチオンを、pHを7.4に合わせた培養液(培地)中で72時間処理したとき、亜鉛ピリチオンで処理されていない細胞群との相対的な細胞生存率は約80−90%であった。対して、これらの癌細胞に50nM亜鉛ピリチオンを、pHを6.4に合わせた弱酸性の培養液(培地)中で72時間処理したとき、亜鉛ピリチオンで処理されていない細胞群との相対的な細胞生存率は約5−20%であった。例えば、ヒト子宮頚癌HeLa細胞に50nM亜鉛ピリチオンをpH7.4で処理したとき、亜鉛ピリチオン処理されなかった細胞群に対する相対的な生存率は87±9%であったのに対し、HeLa細胞に50nM亜鉛ピリチオンをpH6.4で処理したとき、亜鉛ピリチオン処理されなかった細胞群に対する相対的な生存率は5.3±1.6%(p<0.001)であった。これらの新たな知見は、酸性環境が亜鉛ピリチオンによる抗癌作用の効力を増強することを示す。結果は
図2にまとめられた。0.05以下のP値を以て有意な差異とみなされる。
【0083】
実施例3
癌細胞にソディウムピリチオンをpH7.4及びpH6.4条件下で処理したとき癌細胞生存率に及ぼす影響
亜鉛ピリチオンまたはその他の重金属付加型ピリチオンが抗癌作用を示すことが示唆されている。一方、金属が付加されていないピリチオンにも抗炎症、抗感染作用があることが示唆されていた。これらのことから、抗癌治療の新しい方法を開発するために必要となる次の重要な問題は、酸によって増強される抗癌作用はピリチオンによるものなのか、それとも亜鉛によるものなのか、ということである。この疑問に答えるために、ソディウムピリチオンの癌細胞増殖に及ぼす影響を調べた。
【0084】
本願において、ソディウムピリチオンをヒト子宮頚癌細胞(HeLa細胞)、脳腫瘍細胞(U87細胞)、大腸癌細胞(HT29細胞)、乳癌細胞(MDA−MB−231細胞)の4種類の異なる癌細胞に暴露すると、細胞生存率が顕著に低下することが示された。ソディウムピリチオンをpH6.4の酸性培地中で処理したとき、pH7.4の非酸性培地中で処理したときに比べて、より顕著な細胞生存率の低下を見た。
【0085】
癌細胞を96ウェル培養ディッシュの一ウェルあたり2,000個ずつ播種しウシ胎仔血清を10%含有するDMEM培地中で二酸化炭素を5%含む大気中37℃一晩培養した。ソディウムピリチオンのpH依存性抗癌作用を調べるために、pH =6.4 DMEM培地は、PIPESを10mM濃度になるように添加しpHを6.4に合わせることで調整した。pH=7.4 DMEM培地は、HEPESを10mM濃度になるように添加しpHを7.4に合わせることで調整した。細胞はpH=6.4 DMEM培地またはpH=7.4 DMEM培地中で、低い濃度から高い濃度まで異なる濃度のソディウムピリチオン存在下72時間37℃で培養した。実験は重炭酸塩が媒介する細胞膜を介したプロトン移動によるpH変動を最小限にするために、重炭酸塩を含まない培地を用いて、大気中に二酸化炭素を含まない条件で行われた。細胞をソディウムピリチオンに72時間暴露した後、MTTアセイは実施例2に準じて行われた。異なる実験条件群と対照群との統計的有意性は、スチューデントt−テストによって調べた。0.05以下のp−値を以て有意な差異と見なされる。
【0086】
癌細胞に100nMソディウムピリチオンを、pHを7.4に合わせた培地中で72時間処理したとき、ソディウムピリチオンで処理されていない細胞群に比べて相対的な細胞生存率は約75%であった。これらの癌細胞に100nMソディウムピリチオンをpH6.4酸性培地中で72時間処理したとき、ソディウムピリチオンで処理されていない細胞群と比べて相対的な細胞生存率は約5%から20%であった。例えば、ヒト子宮頚癌HeLa細胞に100nMの亜鉛ピリチオンをpH7.4又はpH6.4で処理したとき、ソディウムピリチオンで処理されていない細胞群と比べて相対的な生存率はそれぞれ90±9%と4.9±1.7%(p<0.001)であった。0.05以下のP値を以て有意な差異とみなされる。
【0087】
これらの新たな発見は酸性環境がソディウムピリチオンの抗癌作用の効力を増強したことを示す。結果は
図3にまとめられた。
【0088】
実施例4
MTTアセイは細胞の代謝活性を検出することによって細胞生存率を計測する。トリパンブルーは死細胞の統合性の失われた生体膜から細胞の内部に侵入することができる(しかし、生きている細胞の内部には侵入できない)。斯くしてトリパンブルーを使って死細胞のみを可視化できる。亜鉛ピリチオン(Pyz)又はソディウムピリチオン(Pyn)をpH7.4又はpH6.4でHeLa細胞に処理したときの殺細胞効果をトリパンブルー染色アセイで行った。Ctrは薬剤処理群と同濃度の溶媒のみを含み薬剤を含まない培地で処理された対照群細胞を示す。
【0089】
癌細胞を12ウェル培養ディッシュに一ウェルあたり20,000個ずつ播種し、ウシ胎仔血清を10%含有するDMEM培地中で二酸化炭素を5%含有する大気中、37℃一晩培養した。亜鉛ピリチオン及びソディウムピリチオンのpH依存性抗癌作用を調べるために、pH=7.4 DMEM培地はHEPESを10mM濃度になるよう添加しpHを7.4に合わせることで調整した。pH=6.4 DMEM培地はPIPESを10mM濃度になるよう添加しpHを6.4に合わせることで調整した。細胞はpH=6.4 DMEM培地またはpH=7.4 DMEM培地中で、低濃度から高濃度までの異なる濃度の亜鉛ピリチオン又はソディウムピリチオン存在下、72時間37℃で培養した。重炭酸塩が媒介する細胞膜を介したプロトン移動によるpH変動を最小限にするために、実験は培地中の重炭酸塩と大気中の二酸化炭素を含まない条件で行われた。細胞は亜鉛ピリチオン又はソディウムピリチオンに72時間暴露された後、懸濁回収され、トリパンブルーを0.4%含むPBS溶液が細胞懸濁液と等量添加された。記録写真上、細胞の総数とトリパンブルーで染色された細胞数を計測し、トリパンブルーで染色された細胞の比率を算出した。一つの条件に対して4枚の写真を撮り、トリパンブルーで染まった細胞の比率の平均とエラーバーで示された標準偏差をグラフに示した。結果は
図4にまとめた通りである。
【0090】
トリパンブルーで染まらないことにより判定された細胞生存率は、MTTアセイで判定された細胞生存率とほぼ一致する。このことは、ピリチオンがpH 6.4培地中で処理されたときの方がピリチオンがpH 7.4培養液中で処理されたときよりも殺細胞効果に対する感受性が高いことを支持する。
【0091】
実施例5
亜鉛ピリチオンは、スフェロイド三次元培養した脳腫瘍細胞に抗増殖効果を及ぼす。
【0092】
細胞外基質であるコラーゲンジェルを培地に加え半浮遊状態で腫瘍細胞を培養したときに腫瘍塊が形成される。このような細胞外基質内に発生する腫瘍は「スフェロイド」と称され、三次元での腫瘍微小環境を再現するモデルとして使われる。スフェロイド培養法は、抗癌剤の効果を、実際の癌の複雑性を再現する三次元培養において解析することを可能にする(Friedrich et al., 2009)。多くの化合物の生体活性は腫瘍微小環境によって影響されるので、ピリチオンがスフェロイドの増殖に影響を与えるか、という問題は重要である。この疑問に答えるために、コラーゲンの存在下で作られた脳腫瘍U87細胞スフェロイドを酸性条件(pH6.4)又は中性条件(pH7.4)のもと作成し、37℃で3日間亜鉛ピリチオン処理を行い、スフェロイドの成長を測定した。
【0093】
1%の寒天溶液を60℃で加熱溶解し、等量の培養液(pH6.4 DMEM培地に10%ウシ胎仔血清を添加したもの、又はpH7.4 DMEM培地にウシ胎仔血清10%添加したもの)を加えた混合物が、96ウェル培養プレートの一ウェルあたり50μlずつ移された。プレートは室温で30分寒天が固形化するまで冷却され、1,000個の細胞を50μlの培養液中に懸濁したものがそこに上層された。細胞は37℃で3日間培養され、寒天層の上に形成されたスフェロイドは、異なる濃度の亜鉛ピリチオン存在下又は非存在下で3日間培養された。1μM又は2μMの亜鉛ピリチオンをpH6.4の培養液で3日間処理したスフェロイドの大きさは、ピリチオンを含まないpH6.4の培養液で3日間で処理された対照群のスフェロイドの大きさに比べて顕著に小さかった。これとは好対照に、1μM又は2μMの亜鉛ピリチオンをpH7.4の培養液で3日間処理したスフェロイドの大きさは、ピリチオンを含まないpH7.4の培養液で3日間処理した対照群のスフェロイドの大きさに比べて違いはほぼ認められなかった。結果は
図5にまとめられた。
【0094】
実施例6
酸により増強されるピリチオンの抗癌作用によって、ミトコンドリア内にスーパーオキシドの蓄積をおこす。
【0095】
過酸化水素やスーパーオキシドなどのフリーラジカル産生物質は、細胞代謝の過程で作られる。これら活性酸素種(ROS)は、未変換のまま放置されると細胞に即時性の危険を及ぼす。外的ストレス又は毒素によるミトコンドリア機能不全が活性酸素種の細胞内小器官内への蓄積を促進することがこれまでに示されている。ほとんどの正常組織では活性酸素種を中和してそれ以上の細胞障害の進展を阻止できるのに対し、癌細胞は細胞内活性酸素種の濃度増減に対してより敏感で、活性酸素種蓄積に対する耐性も低いことが示されている((Liou and Storz, 2010)を参照)。ピリチオンは光化学的にハイドロキシラディカルと(ピリジン−2−イル)スルファニル基を分解することから((DeMatteo et al., 2005)を参照)、我々はピリチオンがミトコンドリア内のスーパーオキシド産生と除去に関与するかもしれないという仮説を立てた。これを検証するべく、癌細胞をピリチオンで2時間処理した後、ミトコンドリアのスーパーオキシドの濃度に応じて可視化する蛍光プローブを用いて解析した。
【0096】
HeLaヒト子宮頚癌細胞を8ウェルのガラス底チャンバースライドの一ウェルあたり4,000個ずつ播種し、ウシ胎仔血清(FBS)を10%濃度で含有するDMEM培地にて37℃で一晩培養された。ピリチオンを酸性又は中性の細胞外環境で処理したとき、ミトコンドリア内スーパーオキシド蓄積に如何なる影響を及ぼすか調べるために、細胞は亜鉛ピリチオン又はソディウムピリチオンを含む、又は含まない、pH=6.4又はpH=7.4のDMEM培地にて37℃2時間培養された 。細胞洗浄後、1.25 μM MitoSOX
TM (M31008, Invitrogen) と 2.5 μM DRAQ5
TM (#62254, Thermo Scientific)を含むpH7.4培地で37℃5分間処理された。MitoSOX
TM はミトコンドリアのスーパーオキシド産生を定量的に測定するために、DRAQ5
TM は核を蛍光染色して蛍光顕微鏡下で細胞を可視化するために、それぞれ使用された。5分後細胞はNaCl−生理食塩水緩衝液(150mM塩化ナトリウム,5mM塩化カリウム,2mM塩化カルシウム,1mM塩化マグネシウム,20mM HEPES,pH7.4)に浸潤された状態で共焦点顕微鏡にて観察された。
【0097】
スーパーオキシドのミトコンドリア内蓄積は癌細胞を殺す機序の一つである。ミトコンドリア内のスーパーオキシドを高感度かつ特異的に検出可能なMitoSOX
TM を用いることによって、癌細胞に200nMの亜鉛ピリチオン又は400nMのソディウムピリチオンをpH6.4の酸性培地中で2時間処理したとき、劇的にスーパーオキシドがミトコンドリア内に蓄積することを確認できた(
図6)。これに対し、癌細胞に200nMの亜鉛ピリチオン又は400nMのソディウムピリチオンをpH7.4の通常培地中で2時間処理したときには、スーパーオキシドのミトコンドリア内蓄積は確認できなかった(
図6)。癌細胞をピリチオンを含有しないpH6.4の酸性培地に2時間暴露してもスーパーオキシドのミトコンドリア内蓄積は認められなかった。これらの結果から、ピリチオンを酸性環境下で癌細胞に接触させることがスーパーオキシドのミトコンドリア内蓄積を惹起されることが示唆される。
【0098】
実施例7
ゲフィチニブとエルロチニブによる抗癌作用は酸性培地によって増強されない。
【0099】
ゲフィチニブとエルロチニブは上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR) チロシンキナーゼ阻害剤で、癌細胞の増殖を特異的に抑制することが可能で、これによって古典的抗癌化学療法剤とは異なる作用機序を提供する。ゲフィチニブ と エルロチニブ は肺癌や皮膚の悪性黒色腫(メラノーマ)等の悪性腫瘍治療に臨床で使われている。これら臨床で使われている分子標的治療剤の抗癌作用が、酸性によって増強されるか否かは知られていない。
【0100】
子宮頚癌HeLa細胞を96ウェルディッシュの一ウェルあたり2,000個ずつ播種し、ウシ胎仔血清(FBS)を10%濃度含有するDMEM培地中、二酸化炭素を5%含有する大気中にて37℃で一晩培養した。細胞に低濃度から高濃度まで濃度の異なるゲフィチニブ又はエルロチニブを、pH6.4 DMEM培地又はpH7.4 DMEM培地中で処理した。重炭酸塩による細胞膜を介したプロトン移動によるpH変動を最小限にするために、重炭酸塩を含まないpH=6.4又はpH=7.4 DMEM培地中で、大気中には二酸化炭素を含まない条件で実験が行われた。ゲフィチニブ又はエルロチニブを72時間暴露した後、実施例2に準じてMTTアセイが行われた。
【0101】
ピリチオンとは異なり、酸による抗癌作用の増強効果は、ゲフィチニブ 又はエルロチニブ では認められなかった。一例として、HeLa細胞に20μMのゲフィチニブをpH7.4又はpH6.4に調整された培地中で72時間処理したとき、MTTアセイによって検出された細胞生存率はそれぞれ、54±16%、61±9%であった。別の例として、HeLa細胞に20μMのエルロチニブをpH7.4又はpH6.4に調整された培地中で72時間処理されたとき、MTTアセイによって検出された細胞生存率は、それぞれ39±8%、46±14%であった。ゲフィチニブとエルロチニブ による抗癌効果は酸性度によって影響されないという発見は、ピリチオンの抗癌作用の酸による増強効果の特異性を表している。結果は
図7にまとめられた。
【0102】
実施例8
これまでの多くの研究が、亜鉛ピリチオンの抗癌作用は亜鉛によって起きることを示しているので、本願における、ソディウムピリチオンも亜鉛ピリチオン同様癌細胞の生存率を低下させるという発見は驚きであった。そこで本発明者は、先行技術によって既に開示されている、亜鉛を介した毒性以外に、亜鉛なしのピリチオンが癌細胞に対して毒性を有する可能性を更に探求した。これを調べるために、金属キレート剤EDTAが、亜鉛ピリチオンによる殺癌細胞効果へ及ぼす影響を調べた。
【0103】
子宮頚癌HeLa細胞、大腸癌HT29細胞、脳腫瘍U87細胞を96ウェルディッシュの一ウェルあたり2,000個ずつ播種し、ウシ胎仔血清(FBS)を10%含有するDMEM培地中、二酸化炭素を5%含有する大気中にて37℃で一晩培養した。大腸癌HT29細胞と脳腫瘍U87細胞は、異なる濃度の亜鉛ピリチオンでウシ胎仔血清を含まないpH=7.4 DMEM培地中で37℃、20時間処理されたのに対し、子宮頚癌HeLa細胞はこれとほぼ同等の効果が得られる72時間処理がなされた。実験によっては、亜鉛ピリチオンと共に、異なる濃度のEDTAが培地中に添加された。これらの実験が、ウシ胎仔血清のない条件で行われたのは、血清中に存在する金属や陽イオンがEDTAを不活化するという好ましくない事態を避けるためである。重炭酸もpH=7.4 DMEM培地から除外され、実験は大気中二酸化炭素非存在下において行われた。亜鉛ピリチオンとEDTAとの併用処理、亜鉛ピリチオン単独処理、或いはEDTA単独処理、が施された後、MTTアセイは実施例2に準じて行われた。
【0104】
図6に示したように、癌細胞への亜鉛ピリチオン処理をEDTAが存在する条件で行ったときの方が、より強く癌細胞の生存率を抑制することが見出された。一例として、脳腫瘍U87細胞に50nM亜鉛ピリチオンをウシ胎仔血清を含まない培地中で処理したときの細胞生存率は薬剤処理をされていない対照群のU87細胞の生存率の60±7%であった。50nMの亜鉛ピリチオンと共に10μMのEDTAを加えて処理したときの細胞生存率は30±4%まで低下し、20μMのEDTAを加えたときには更に19±11%まで低下した。これに対し、当該濃度のEDTAのみで処理された場合は10%以下の軽微な影響しか見られなかった。この驚くべき結果は、ピリチオンが亜鉛ピリチオンによる抗癌作用の重要な要素であり、EDTAによる亜鉛の除去によって抗癌作用が増強されることを示唆する。EDTA付加による増強作用は、EDTA付加によって亜鉛ピリチオンが抗癌作用に必要とされる濃度を更に下げることを意味し、実用応用へ向けた有用な状況を提供するものである。
【0105】
実施例9
亜鉛ピリチオン(Pyz)による抗癌作用は酸性条件下でピリドキシンによって増強される。
【0106】
子宮頚癌HeLa細胞を96ウェル培養ディッシュの一ウェルあたり2,000個ずつ播種し、ウシ胎仔血清(FBS)を10%濃度含有するDMEM培地中、二酸化炭素を5%含有する大気中にて37℃で一晩培養した。細胞に低濃度から高濃度までの異なる濃度の亜鉛ピリチオンをpH=6.9またはpH=7.4のウシ胎仔血清を含まないDMEM培地中で24時間培養した。ある実験においては、異なる濃度のピリドキシンが亜鉛ピリチオンと共に処理された。重炭酸塩が媒介する細胞膜を介したプロトン移動によるpH変動を最小限にするために、実験は重炭酸塩を含まないpH=6.9又はpH=7.4のDMEM培地で、大気中の二酸化炭素を含まない条件で行われた。細胞に亜鉛ピリチオンをピリドキシンと共に、或いは亜鉛ピリチオン単独で処理した後、pH=7.4培地中37℃で更に48時間培養した。MTTアセイは実施例2に準じて行われた。
【0107】
10μMと100μMのピリドキシン(
図9においてB6と標識された)をpH=7.4の非酸性培地中で50nM亜鉛ピリチオンと共に処理しても細胞生存率に影響を及ぼさなかったのに対し、pH=6.9の酸性培地中で50nM亜鉛ピリチオンを10μMのピリドキシンと共に処理すると生存率は72±4%まで低下、100μMのピリドキシンと共に処理すると生存率は40±12%まで低下した(
図9)。pH=6.4の酸性培地中で10μM或いは100μMのピリドキシンを50nM亜鉛ピリチオンと共に加えて処理すると、生存率は更に低下し、それぞれ1.4±0.6%、2.5±0.9%であった(
図9)。10μM或いは100μM濃度のピリドキシンのみを酸性培地、或いは非酸性培地に加えても細胞の生存率には影響はなかった(
図9)。これらの結果は、10μMと100μM濃度のピリドキシンが、亜鉛ピリチオンと酸との組み合わせによって生じる抗癌作用を増強することを示唆する。1mMのピリドキシンもまた、亜鉛ピリチオンと酸との組み合わせによる抗癌作用を増強した。1mMのピリドキシンを50nM亜鉛ピリチオンと共に加えてpH=7.4の非酸性培地中で処理すると、細胞生存率は71.5±13%であった。1mMのピリドキシンを50nM亜鉛ピリチオンと共に加えてpH=6.9の酸性培地中で処理すると細胞生存率は5.1±3%であった。1mMの ピリドキシンを50nM亜鉛ピリチオンと共に加えてpH=6. 4の酸性培地中で処理すると、細胞生存率は1.2±0.8%であった。これらの結果は、ピリドキシンとピリチオンと酸性を組み合わせることによって効率的な抗癌作用を現すことを示している。興味深いことに、1mMのピリドキシンを ピリチオン非存在下でpH=7.4、6.9及び6.4の培地に加えると、細胞生存率はそれぞれ72.9±8%、21.6±6%、及び28.4±3%になった。この結果は1mMの ピリドキシンにはピリチオンと酸との組み合わせによって生じる強力な抗癌作用の他に、1mMのピリチオンそのものにも中程度の酸性に依存する抗癌作用があることを示唆している。
【0108】
実施例10
亜鉛ピリチオン(Pyz)とソディウムピリチオン(Pyn)による抗癌作用は酸性条件下でアスコルビン酸ナトリウム、又は3−o−エチルアスコルビン酸によって増強される。
【0109】
子宮頚癌HeLa細胞を96ウェルディッシュの一ウェルあたり2,000個ずつ播種し、血清(FBS)を10%含有するDMEM培地中、二酸化炭素5%含有する大気中にて37℃一晩培養した。細胞に低濃度から高濃度まで異なる濃度の亜鉛ピリチオンをpH=6.4の血清(FBS)を含有しないDMEM、pH=6.9の血清(FBS)を含有しないDMEM、又はpH=7.4の血清(FBS)を含有しないDMEM培地中で24時間処理した。実験によっては、異なる濃度のアスコルビン酸ナトリウム又は3−o−エチルアスコルビン酸が亜鉛ピリチオンと共に培地中に加えられた。重炭酸塩が媒介する細胞膜を介したプロトン移動によるpH変動を最小限にするために、実験は重炭酸塩を含まない培地と大気中の二酸化炭素を含まない条件で行われた。細胞に亜鉛ピリチオンをアスコルビン酸ナトリウム又は3−o−エチルアスコルビン酸と共に、或いは亜鉛ピリチオンのみを処理した後、細胞はpH=7.4培地中37℃で更に48時間培養された。MTTアセイは実施例2に準じて行われた。
【0110】
2mM 3−o−エチルアスコルビン酸(AscE)をpHが6.9の培地に、5nM及び10nMの亜鉛ピリチオン(Pyz)と共に加えると、細胞生存率は薬剤で処理されていない対照群に比べてそれぞれ91±11%及び43±11%に減少することが見出された。2mM 3−o−エチルアスコルビン酸(AscE)をpH=6.4の培地中に、5nM及び10nMの亜鉛ピリチオン(Pyz)と共に加えると、細胞生存率は薬剤で処理されていない対照群に比べてそれぞれ22±10%及び11±10%に減少することが見出された。これに対して、10nM以下の濃度の亜鉛ピリチオンのみを加えても細胞生存率に影響は見られなかった(
図10A)。また、2mM 3−o−エチルアスコルビン酸と10nM以下の濃度の亜鉛ピリチオンとを共にpH7.4の非酸性培地に加えても、細胞生存率は減少しなかった。これらの結果から3−o−エチルアスコルビン酸は亜鉛ピリチオンによる抗癌作用を酸依存的に増強することが示唆される。
【0111】
同様に、2mMの3−o−エチルアスコルビン酸(AscE)をpH6.9の酸性培地中に10nM及び20nMのソディウムピリチオン(Pyn)と共に加えると、細胞生存率は薬剤で処理されていない対照群に比べてそれぞれ96±5及び48±7%に減少する。2mMの3−o−エチルアスコルビン酸(AscE)をpH6.4の酸性培地中に10nM及び20nMのソディウムピリチオン(Pyn)と共に加えると、細胞生存率は薬剤で処理されていない対照群に比べてそれぞれ17±5%及び7±3%と更に顕著な減少を見た。これに対して、20nM或いはそれ以下の濃度のソディウムピリチオンのみを酸性培地に加えても、或いは非酸性培地中で2mM 3−o−エチルアスコルビン酸と20nM或いはそれ以下の濃度のソディウムピリチオンを共に加えても、細胞生存率減少は見られなかった。
【0112】
アスコルビン酸ナトリウム(AscNa)と酸の組み合わせによっても亜鉛ピリチオン(Pyz)による抗癌作用の亢進を見た。一例として、1mMのアスコルビン酸ナトリウムをpH=6.9の酸性培地中に10nMの亜鉛ピリチオンと共に加えると、細胞生存率は非処理対照群に比べて85±5%と中程度の低下を見たのに対し、1mMのアスコルビン酸ナトリウムと共に10nMの亜鉛ピリチオンをpH=6.4の酸性培地中に添加すると細胞生存率は非処理対照群に比べて46±5%と更に顕著に低下することが見出された(
図10A)。1mMのアスコルビン酸ナトリウムと20nMの亜鉛ピリチオンを共にpHが6.9及び6.4の酸性培地に加えたときにも同様に、しかし更に顕著な効果が見られた。これに対して、10nM或いはそれ以下の濃度の亜鉛ピリチオン(Pyz)のみを酸性培地に加えても薬剤非処理対照群と比べて細胞生存率の有意な変化は見られず、亜鉛ピリチオン(Pyz)と1mMのアスコルビン酸ナトリウム(AscNa)を共にpH=7.4の非酸性培地に加えても、薬剤非処理対照群と比べて細胞生存率の有意な変化は見られなかった(
図10A)。これらの結果からアスコルビン酸ナトリウムは亜鉛ピリチオンによる抗癌作用を酸依存的に増強することを示唆する。
【0113】
三次元培養された脳腫瘍細胞に対するピリチオンの抗癌作用が3−o−エチルアスコルビン酸によって増強されることが、スフェロイド培養法によって測定された。
【0114】
60℃で加熱溶解した1%のアガロース溶液と、等量の培地(pH7.4 DMEM培地にウシ胎仔血清10%添加したもの)を混合後、この混合物が96ウェル培養プレートの一ウェルに対して50μlずつ分注された。プレートは室温で30分アガロースが固形化するまで冷却し、アガロース層の上に1,000個の細胞を含む50μlの培養液が上層され、1,500gで5分間遠心分離にかけられた。37℃で24時間培養された後、スフェロイドは異なる濃度の亜鉛ピリチオン、3−o−エチルアスコルビン酸、又は亜鉛ピリチオンと3−o−エチルアスコルビン酸を含む条件、或いはいずれの薬剤も含まない条件、で更に72時間培養された。その後、スフェロイドは別の96ウェルに移された。プレートは1,500gで5分間遠心分離にかけられ、ウェルの底にある細胞を攪拌することなく、薬剤溶液はPBSに入れ替えられた。プレートは再度1,500gで5分間遠心分離にかけられ、ウェルの底にある細胞を攪拌することなく、PBSが、0.1M pH=5.0 酢酸ナトリウムと0.1重量%Triton X−100を含む緩衝液に5mM p−ニトロフェニルリン酸 (#34045,サーモフィッシャーサイエンス株式会社)が実験直前に添加されたもの、に入れ替えられ、37℃2時間培養された。2時間後、反応を停止するために10モル濃度のNaOH溶液が滴下され、450 nmの吸光度が測定された。
【0115】
500nM亜鉛ピリチオン(Pyz)のみで処理されたスフェロイドの生存率は、非処理スフェロイドに比べて88±8%まで低下した(
図10B)。これに対し、亜鉛ピリチオン と共に、5mM又は10mMの3−o−エチルアスコルビン酸(AscE)が加えられると、細胞生存率は それぞれ76±4%、63±7%まで更に低下した。これらの結果は3−o−エチルアスコルビン酸が三次元培養において細胞増殖を抑制する効果を促進することを示唆している。更に、10mMの3−o−エチルアスコルビン酸が亜鉛ピリチオンと共に加えられたとき、三次元スフェロイド構造の脆弱化が起こり、スフェロイドの辺縁部から剥離した細胞群が散見された(
図10Bの右側パネルを参照)。
【0116】
実施例11
亜鉛ピリチオン、3−o−エチルアスコルビン酸及びアスコルビルテトラアイソパルミチン酸を含有した処方の局所投与で、マウスの皮下に移植されたヒト皮膚癌細胞の増殖が抑制された。
【0117】
3−o−エチルアスコルビン酸及びアスコルビルテトラアイソパルミチン酸は皮膚から速やかに吸収されてアスコルビン酸に変換されるアスコルビン酸の誘導体である。亜鉛ピリチオン、3-o-エチルアスコルビン酸、アスコルビルテトラアイソパルミチン酸、或いはそれら複数の組み合わせを含有する薬剤処方の局所投与による抗癌効果が皮膚癌のマウス移植モデルで調べられた。
【0118】
生後6週齢雄C57BL/6無胸腺マウス皮下に2.5×10
6個のヒト皮膚癌A2058細胞が移植された。移植2−3日後腫瘍の大きさが約3mm
3になった所で、マウスは無作為的に5匹ずつ4つのグループに分けられ、クリーム形態の薬剤処方が一日一回、腫瘍直上の皮膚の部位に塗布された。第一のグループ(Pyz)は1%の亜鉛ピリチオンのみを含有するもの、第二のグループ(Asc)は3% 3−o−エチルアスコルビン酸と 2%アスコルビルテトラアイソパルミテートを含有するもの、第三のグループ(Pyz+Asc)は1%亜鉛ピリチオン及び、3% 3−o−エチルアスコルビン酸と2%アスコルビルテトラアイソパルミテートを含有するもの、そして第四のグループ(Vehicle)はキャリアのみを含有するもの、が局所投与された。処方構成成分は以下の通りである。
【0119】
グループ1に使われた処方成分
a)水層
グリセロール :5%
ポリソルベート20 :1%
クエン酸1モル濃度溶液 :0.7%
クエン酸ナトリウム1モル濃度溶液:1.3%
亜鉛ピリチオン :1%
蒸留水 :全容量を100%にするために必要な分量
b)油層
べへニルアルコール :3%
セタノール :3%
ステアリン酸グリセリル :1%
ステアリン酸 :1%
ソルビタンステアレート :1%
パルミチン酸セチル :1%
ジメチコン:1%
c)冷却層
シクロメチコン :5%
d)pHをHCl又はNaOHにより5.5に調整
水層成分は適当な容器中にて完全に溶解するまで75℃で熱しながら攪拌された。油層成分は別の容器中にて完全に溶解するまで75℃で熱しながら攪拌された。油層成分は水層成分に加えられ、エマルジョン化するまで攪拌された。エマルジョンは50−55℃まで冷却後、完全に均一化するまで攪拌が続けられた。
【0120】
グループ2に使われた処方成分
a)水層
グリセロール :5%
ポリソルベート20 :1%
クエン酸1モル濃度溶液 :0.7%
クエン酸ナトリウム1モル濃度溶液:1.3%
蒸留水 :全容量を100%にするために必要な分量
b)油層
べへニルアルコール :3%
セタノール :3%
ステアリン酸グリセリル :1%
ステアリン酸 :1%
ソルビタンステアレート :1%
パルミチン酸セチル :1%
ジメチコン:1%
c)冷却層
シクロメチコン :5%
3−o−エチルアスコルビン酸 :3%
アスコルビルテトラアイソパルミテート:2%
d)pHをHCl又はNaOHにより5.5に調整
水層成分は適当な容器中にて完全に溶解するまで75℃で熱しながら攪拌された。油層成分は別の容器中にて完全に溶解するまで75℃で熱しながら攪拌された。油層成分は水層成分に加えられ、エマルジョン化するまで攪拌された。エマルジョンは50−55℃まで冷却後、完全に均一化するまで攪拌が続けられた。
【0121】
グループ3に使われた処方成分
a)水層
グリセロール :5%
ポリソルベート20 :1%
亜鉛ピリチオン :1%
クエン酸1モル濃度溶液 :0.7%
クエン酸ナトリウム1モル濃度溶液:1.3%
蒸留水 :全容量を100%にするために必要な分量
b)油層
べへニルアルコール :3%
セタノール :3%
ステアリン酸グリセリル :1%
ステアリン酸 :1%
ソルビタンステアレート :1%
パルミチン酸セチル :1%
ジメチコン:1%
c)冷却層
シクロメチコン :5%
3−o−エチルアスコルビン酸 :3%
アスコルビルテトラアイソパルミテート:2%
d)pHをHCl又はNaOHにより5.5に調整
水層成分は適当な容器中にて完全に溶解するまで75℃で熱しながら攪拌された。油層成分は別の容器中にて完全に溶解するまで75℃で熱しながら攪拌された。油層成分は水層成分に加えられ、エマルジョン化するまで攪拌された。エマルジョンは50−55℃まで冷却後、完全に均一化するまで攪拌が続けられた。
【0122】
グループ4に使われた処方成分
a)水層
グリセロール :5%
ポリソルベート20 :1%
クエン酸1モル濃度溶液 :0.7%
クエン酸ナトリウム1モル濃度溶液:1.3%
蒸留水 :全容量を100%にするために必要な分量
b)油層
べへニルアルコール :3%
セタノール :3%
ステアリン酸グリセリル :1%
ステアリン酸 :1%
ソルビタンステアレート :1%
パルミチン酸セチル :1%
ジメチコン:1%
c)冷却層
シクロメチコン :5%
d)pHをHCl又はNaOHにより5.5に調整
水層成分は適当な容器中にて完全に溶解するまで75℃で熱しながら攪拌された。油層成分は別の容器中にて完全に溶解するまで75℃で熱しながら攪拌された。油層成分は水層成分に加えられ、エマルジョン化するまで攪拌された。エマルジョンは50−55℃まで冷却後、完全に均一化するまで攪拌が続けられた。
【0123】
腫瘍容積はa:腫瘍長径、b:腫瘍短径に基づいてab
2/2の計算式によって算出され、それぞれの治療群の相対的腫瘍容積が計算されグラフ上に示された(
図11A)。グラフの横軸は経皮投与後の日数を、縦軸は相対的腫瘍容積をそれぞれ示す。実験のエンドポイントにおいてグループ3マウスの腫瘍サイズの平均値は(
図11Aにおける”Pyz+Asc”)他のグループのマウスの腫瘍サイズの平均値よりも小さかった。この結果からピリチオンとアスコルビン酸誘導体の双方を含む処方は腫瘍増殖を抑えるのに有効な方法であるが、ピリチオン単剤、或いはアスコルビン酸誘導体のみでは有効ではないことが示された。
【0124】
実験のエンドポイントにおいて、薬剤処方と接触したマウス皮膚領域、肝臓、腎臓の組織サンプルが通常用いられる方法によって作成された。切片はヘマトキシリン・エオジン染色が施された。組織サンプルの顕微鏡写真は
図11Bに示された。組織損傷、異常な細胞死、或いはその他副作用を示唆する所見は、グループ3(PyZ+Asc;ピリチオン、3−o−エチルアスコルビン酸、アスコルビルテトラアイソパルミテートを含有するクリーム処方で処理されたマウス)、及びグループ4(Vehicle;ピリチオン、3−o−エチルアスコルビン酸、アスコルビルテトラアイソパルミテートいずれも含有しないクリーム処方で処理されたマウス)においていずれも認められなかった。
【0125】
動物を処理する日に採血検査が行われ、その結果が表にまとめられた。平均赤血球ヘモグロビン(MCH)低下、平均赤血球容積(MCV)低下、血小板(PLT)増加が全ての処方グループで、恐らくは移植された癌細胞のために認められたが、それ以外のすべての検査項目においては異常が認められなかった。アスコルビン酸のみを処方されたグループ(”Asc”)で若干の顆粒球%増加が見られたものの顆粒球数は正常値であるため顆粒球%増加は有意とはみなされない。顆粒球%増加以外にはある処方グループに特異的な血液異常は認められなかった。Ref:正常値; GR:顆粒球数(1Lあたりの数); GR%:顆粒球(%); HCT:ヘマトクリット(%); HGB:ヘモグロビン(g/L); LY:リンパ球数; LY%:リンパ球(%); MCH:平均赤血球容積 (pg); MCHC:平均赤血球容積濃度(g/L); MO:単球数(1Lあたりの数); MO%:単球 (%); MPV:平均血小板容積(fL); PCT:プロカルシトニン(%); PDW:血小板分布幅(fL); PLT:血小板(g/L); RBC:赤血球数(1Lあたりの数); RDW:赤血球分布幅(%); WBC:白血球数(1Lあたりの数)
【0126】
【表1】
【0127】
引用文献
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