【文献】
Behavior of cells at fluid interfaces,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1983年,80,219-222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記培養工程は、前記支持体に保持される前記細胞が前記第1液体及び前記第2の液体との相互移動を遮断した状態で、前記細胞を培養する工程である、請求項12〜17のいずれかに記載の評価方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の気液界面培養では、非親水性物質は気相を媒体として細胞に曝露されることになる。したがって、細胞に曝露されている非親水性物質量は、気相中における当該物質の蒸発程度や、また、当該物質の細胞に対する親和性にも依存することとなる。このため、細胞に対する非親水性物質の実質的な曝露量を把握することが困難であった。
【0010】
また、非特許文献1に開示される非親水性物質であるフルオロカーボン中で細胞を培養するという方法では、グルコース等の細胞の栄養成分がフルオロカーボンに不溶であるため、細胞へ栄養成分を供給することが困難である。また、生体内の細胞が、いわゆる異物と接触する際には、概して、細胞の一部が水性液体と接触し、当該水性液体から栄養分を取り込みつつ異物と相互作用する。このため、上述の浸漬法による評価方法は、生体内における細胞の栄養状況及び細胞と異物との接触状況を再現しているとはいえないという問題があった。
【0011】
また、非特許文献2、3に開示される液液界面培養による方法では、細胞は直接的に非親水性物質であるフルオロカーボンと接触しているわけではなく、細胞とフルオロカーボンとはタンパク質膜を介して面しているに過ぎない。また、増殖する細胞の応力によりタンパク質膜が破壊されると、その破壊箇所には細胞が成長していない(例えば、非特許文献3のFIG.1の上段参照)。すなわち、タンパク質膜が存在しない箇所では、細胞も存在していない。このため、この液液界面培養法は、非親水性物質の対細胞作用の評価には適切ではない。
【0012】
以上のように、現状において、非親水性物質の対細胞作用を適切に評価する方法や装置が提供されていない。
【0013】
以上の課題に鑑み、本明細書は、非親水性物質に細胞を曝露させるための構造体及び非親水性物質の細胞に対する作用の評価方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、非親水性物質の対細胞作用を適切に評価するためには、細胞と細胞の栄養成分の供給媒体である親水性液体との接触状態及び細胞と評価対象である非親水性物質との接触状態の双方を確保することが重要であると考えた。さらに、適切な評価のためには、細胞が接着する足場を確保することが重要であることを見出した。そして、このためには、非親水性物質としての非親水性液体又は非親水性物質の媒体としての非親水性液体を利用することに着目した。
【0015】
その結果、本発明者らは、親水性液体と非親水性液体との液液界面を利用し、かつ、親水性液体及び非親水性液体のいずれかあるいは双方が移動可能な支持体をこの液液界面に備えるようにすることで、親水性液体−細胞間相互作用を維持しつつ、非親水性物質の対細胞作用を評価できるという知見を得るにいたった。
【0016】
本明細書はこれらの知見に基づき以下の手段を提供する。
【0017】
(1)細胞を含む構造体であって、
親水性液体である第1の液体を流通又は保持可能な第1の液体キャリアと、
前記第1の液体と相溶しない非親水性液体であって前記非親水性物質を含有する第2の液体が流通又は保持可能な第2の液体キャリアと、
前記第1の液体キャリアと前記第2の液体キャリアとを区画可能であって、前記第1の液体及び前記第2の液体のいずれか又は双方が移動可能な支持体と、
前記第1の液体及び前記第2の液体と接触した状態で前記支持体の少なくとも一部に保持される細胞と、
を備える、構造体。
(2)前記支持体は、少なくとも前記第1の液体が移動可能である、(1)に記載の構造体。
(3)前記支持体は、前記第1の液体及び前記第2の液体が移動可能である、(1)又は(2)に記載の構造体。
(4)前記支持体は、多孔質体又はゲル状体である領域を有する、(1)〜(3)のいずれかに記載の構造体。
(5)前記第1の液体キャリアは、前記第1の液体を流通又は保持可能なキャビティを備える、(1)〜(4)のいずれかに記載の構造体。
(6)前記第2の液体キャリアは、前記第2の液体を流通又は保持可能なキャビティを備える、(1)〜(5)のいずれかに記載の構造体。
(7)前記第1の液体が前記第1の液体キャリアに保持又は流通されている、(1)〜(5)のいずれかに記載の構造体。
(8)前記第2の液体が前記第2の液体キャリアに保持又は流通されている、(1)〜(7)のいずれかに記載の構造体。
(9)前記第1の液体は、水溶液である、(1)〜(8)のいずれかに記載の構造体。
(10)前記第2の液体は、フルオロカーボン構造を有する液体である、(1)〜(9)のいずれかに記載の構造体。
(11)前記構造体は、前記非親水性物質の細胞に対する作用を評価するための装置である、(1)〜(10)のいずれかに記載の構造体。
【0018】
(12)非親水性物質の細胞に対する作用の評価方法であって、
親水性液体である第1の液体と当該第1の液体と相溶しない非親水性液体であって前記非親水性物質を含有する第2の液体との界面近傍において、前記第1の液体及び前記第2の液体のいずれか又は双方が移動可能な支持体を足場として、前記第1の液体及び前記第2の液体と接触した状態で細胞を培養する工程と、
前記細胞に対する前記親水性物質の作用を評価する工程と、
を備える、評価方法。
(13)前記第2の液体は、液体である1又は2以上の前記非親水性物質を含む、(12)に記載の評価方法。
(14)前記第2の液体は、液体である1又は2以上の前記非親水性物質からなる、(12)又は(13)に記載の評価方法。
(15)前記第2の液体は、1又は2以上の前記非親水性物質を分散質又は溶質として含有する、(12)〜(14)のいずれかに記載の評価方法。
(16)前記支持体は、少なくとも前記第1の液体が移動可能である、(12)〜(15)のいずれかに記載の評価方法。
(17)前記支持体は、前記第1の液体及び前記第2の液体が移動可能である、(12)〜(16)のいずれかに記載の評価方法。
(18)前記培養工程は、前記支持体に保持される前記細胞が、前記第1液体及び前記第2の液体との相互移動を遮断した状態で、前記細胞を培養する工程である、(12)〜(17)のいずれかに記載の評価方法。
【0019】
(19)細胞に適合する非親水性物質のスクリーニング方法であって、
親水性液体である第1の液体と当該第1の液体と相溶しない非親水性液体であって前記非親水性物質を含有する第2の液体との界面近傍において、前記第1の液体及び前記第2の液体のいずれか又は双方が移動可能な支持体を足場として、前記第1の液体及び前記第2の液体と接触した状態で細胞を培養する工程と、
前記細胞に対する前記親水性物質の作用を評価する工程と、
を備え、
前記作用に基づいて前記非親水性物質の前記細胞への適合性を評価する、方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書の開示は、非親水性物質に細胞を曝露させるための構造体及び非親水性物質の細胞に対する作用の評価方法、細胞に適合する非親水性物質のスクリーニング方法等に関する。
【0022】
本明細書に開示される、細胞を含む構造体は、親水性液体である第1の液体を流通又は保持可能な第1の液体キャリアと、前記第1の液体と相溶しない非親水性液体であって前記非親水性物質を含有する第2の液体が流通又は保持可能な第2の液体キャリアと、前記第1の液体及び前記第2の液体のいずれか又は双方が移動可能な支持体と、前記第1の液体及び前記第2の液体に接触した状態で前記支持体の少なくとも一部に保持される細胞と、を備えることができる。
【0023】
また、本明細書に開示される、非親水性物質の細胞に対する作用の評価方法は、親水性液体である第1の液体と当該第1の液体と相溶しない非親水性液体であって前記非親水性物質を含有する第2の液体との界面近傍において、前記第1の液体及び前記第2の液体のいずれか又は双方が移動可能な支持体を足場として、前記第1の液体及び前記第2の液体と接触した状態で細胞を培養する工程と、前記細胞に対する前記非親水性物質の作用を評価する工程と、を備えることができる。
【0024】
本開示によれば、親水性液体である第1の液体と第1の液体及び非親水性物質を含有する非親水性液体である第2の液体の界面に備えられる所定の支持体に細胞が保持される。このため、細胞は、親水性液体である第1の液体と非親水性物質を含む非親水性液体である第2の液体との双方に接触して増殖可能である。すなわち、支持体に保持される細胞は、第1の液体を介して栄養成分等を補給しつつ、第2の液体に曝露されて第2の液体が作用を及ぼすことが可能な状態となっている。
【0025】
かかる状態は、生体内における異物としての非親水性物質との接触状態を近似又は再現しているといえる。また、こうした接触状態を確保することができるため、非親水性物質に曝露した状態をより長期にわたって維持することができる。
【0026】
よって、本開示によれば、非親水性物質の細胞に対する作用を評価する実用的であり、また、高い確度で非親水性物質を評価できる方法を提供できる。この結果、本開示によれば、より本質的な意味において、非親水性物質の細胞に対する適合性又は毒性を評価することができる。また、本開示によれば、非親水性物質に対する作用を評価するのに適した、非親水性物質に細胞を曝露させるための構造体を提供できる。
【0027】
また、本明細書に開示される、細胞に適合する非親水性物質のスクリーニング方法は、上記評価方法における細胞培養工程と、細胞活性評価工程と、を備え、前記細胞の活性に基づいて前記非親水性物質の前記細胞への適合性を評価する。本開示によれば、生体内における異物としての非親水性物質との接触状態を近似又は再現できるため、非親水性物質の細胞に対する作用を適切に評価して、細胞に適合する実用的な非親水性物質をスクリーニングすることができる。
【0028】
本明細書において、「親水性液体」とは、水に対して親和性を備え、水と相溶する液体を意味する。0℃以上70℃以下のいずれかの温度、好ましくは0℃以上60℃以下、より好ましくは0℃以上50℃以下、さらに好ましくは0℃以上40℃以下の温度で、水に対する比率にかかわらず水と相溶する限りにおいて、その液体は、親水性液体と称しうる。親水性液体とは、好ましくは、水と自由に混和する液体である。なお、親水性液体は、水と混和しうる温度条件において液体である。
【0029】
親水性液体としては、水、水と相溶する有機溶媒、これらの2種以上を混合した混液が挙げられる。水と相溶する有機溶媒としては、例示であって限定するものではないが、典型的には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシルド等が挙げられる。
【0030】
本明細書において「非親水性液体」とは、上記した親水性液体と相溶しない液体を意味する。非親水性液体は、0℃以上70℃以下のいずれかの温度、好ましくは0℃以上60℃以下、より好ましくは0℃以上50℃以下、さらに好ましくは0℃以上40℃以下の温度で、水に対する比率にかかわらず水と相溶しない限りにおいて、その液体は、非親水性液体と称しうる。非親水性液体は、好ましくは水と二相分離状態を形成する液体である。なお、非親水性液体は、水と相溶しない温度条件において液体である。
【0031】
非親水性液体としては、水と相溶しない有機溶媒、これらの2種以上を混合した混液が挙げられる。水と相溶しない有機溶媒としては、例示であって限定するものではないが、典型的には、非極性溶媒と称される溶媒が挙げられる。
【0032】
非親水性液体としては、特に限定しないで、水と相溶しない各種有機溶媒が挙げられる。例示であって限定するものではないが、典型的には、いわゆる各種のオイル、フルオロカーボン構造を有する液体が挙げられる。なお、フルオロカーボン構造とは、フッ素が炭素に直接結合する−C−F構造を少なくとも1つ有する構造をいう。例示であって限定するものではないが、非親水性液体としては、フルオロカーボン構造を有する液体を含む以下の液体が挙げられる。
【0042】
本明細書において「非親水性物質」とは、上記した非親水性液体ほか、それ自体、親水性液体に対して溶解度や分散性が乏しい物質を意味している。すなわち、0℃以上50℃以下の水に対して、溶解しないとき又は均一に分散しないとき、その物質は、非親水性物質であるといえる。なお、非親水性物質は、水に対して溶解又は分散しない条件において、液体であってもよいし、固体であってもよいし、気体であってもよい。また、非親水性物質は、有機質、無機質及びこれらの複合体のいずれであってもよい。
【0043】
本明細書において「細胞」とは、特に限定しないで、動物、植物、微生物が挙げられるほか、ウイルスも包含する。細胞は、動物細胞としては、例示であって限定するものではないが、ヒトを含む哺乳動物細胞のほか、哺乳類以外の動物細胞が挙げられる。植物細胞としても、特に限定しないで各種の植物細胞を用いうる。また、微生物細胞としても特に限定しないで各種の微生物(原核微生物、真核微生物)が挙げられる。
【0044】
細胞としては、例えば、ヒト気管支上皮細胞、肺胞上皮細胞、腸上皮細胞、ケラチノサイト、角膜上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、骨芽細胞、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞等のヒト由来の動物細胞を好ましく用いることができる。
【0045】
細胞は、接着性(付着性)細胞であってもそうでなくてもよい。接着性細胞にあっては、適当な足場としての支持体を用いることで、その活性や増殖性を確保できる。また、非接着性細胞の場合にも、これらの細胞を保持する支持体を用いることが好ましい。
【0046】
細胞は、細胞同士が結合した状態及び/又は細胞が細胞外マトリックスに結合した状態であってもよい。すなわち、細胞は、シート状体、管状体、積層体等、所望の3次元形状を備える構造体であってもよい。また、細胞は、生体の組織若しくは器官又はこれらの一部であってもよい。さらに、細胞は、幹細胞工学により構築された幹細胞に由来する構造体であってもよい。
【0047】
なお、本開示において「細胞毒性」及び「細胞(又は生体)適合性」に含まれる「細胞」は、本質的には、細胞外要素を備えないnakedな細胞を意味している。そのように捉えると、細胞毒性の要因は、(1)液体により細胞膜が溶解する、(2)液体が細胞中に拡散・浸透して生体成分と反応し変性させることにより、細胞代謝を撹乱する、(3)DNAに損傷を与える、等といえる。
【0048】
上記の着想によって、有機溶媒を含む各種の非親水性物質を評価することで、従来にない、より実用的な細胞に対して適合性のある物質を取得することができる。
【0049】
以下、本開示の各種実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1には、本評価方法の一例を概念的に示す。
【0050】
(非親水性物質の細胞に対する作用の評価方法)
本開示の評価方法は、
図1に示すように、親水性液体である第1の液体2及び第2の液体4と接触した状態で細胞10を培養する培養工程を備えることができる。また、本評価方法は、こうして培養した細胞10に対する非親水性物質の作用を評価する工程と、を備えることができる。なお、
図1においては、第1の液体2が下層にあり、第2の液体4が上層にあって、その液液界面6の近傍に支持体8を備えている。
【0051】
ここで、細胞10とは、本評価方法で用いる細胞である。本評価方法の目的や意図する用途に応じて選択された細胞10が選択される。
【0052】
(第1の液体)
また、第1の液体2とは、既に説明した親水性液体である。特に限定しないが、例えば、用いる細胞10の培養に好適な栄養成分を含有する液体とすることができる。
【0053】
(第2の液体)
第2の液体4は、非親水性物質を含有する非親水性液体である。ここで、本評価方法は、非親水性液体を利用して非親水性物質の細胞に対する作用を評価するものである。非親水性物質を評価する第2の液体の1つの態様は、第2の液体4が、本評価方法実施時において固体である1又は2以上の非親水性物質を分散質又は溶質として含有する非親水性液体である態様である。この態様によれば、第2の液体4は、非親水物質の非親水性液体溶液及び分散液(懸濁液等)となる。非親水性物質は、非親水性液体に溶解し又は均一に分散されるため、確度の高い作用評価が可能となる。
【0054】
この態様において用いる非親水性液体は、好ましくは、用いる細胞に対して、生体適合性を有する又は毒性の低い非親水性液体を用いる。こうすることで、非親水性物質の作用評価をより有効に行うことができる。こうした非親水性液体としては、表1〜表7として既に記載の非親水性液体のほか、本発明者らによれば、例えば、1-ethoxy-1,1,2,2,3,3,4,4,4-nonafluorobutane,
1-ethoxy-1,1,2,3,3,3-hexafluoro-2-(trifluoromethyl)propane, 1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-decafluoro-3-methoxy-4-(trifluoromethyl)pentane, 2-(difluoromethoxymethy)-1,1,1,2,3,3,3-heptafluoropentane, 1,1,1,2,2,3,3,4,4- nonafluoro-4-methoxybutane等が挙げられる。
【0055】
また、第2の液体4の他の態様は、第2の液体4が、本評価方法実施時において液体である1又は2以上の非親水性物質を混合した非親水性液体である態様である。すなわち、第2の液体4は、液体である非親水性物質と非親水性液体との混液である。液体である非親水性物質は、非親水性液体に相溶されるため、確度の高い作用評価が可能となる。この態様においても、媒質となる非親水性液体は、上記と同様、非親水性物質よりも優れた生体適合性を有する又は毒性の低い非親水性液体を用いることが好ましい。
【0056】
さらに、第2の液体4の他の態様は、第2の液体4が、本評価方法実施時において液体である1又は2以上の非親水性物質のみからなる液である態様である。すなわち、第2の液体4は、液体である単一の非親水性物質のみからなる液又は2種以上の非親水性物質からなる混液である。液体である非親水性物質自体に細胞10が曝露されるため、確度の高い作用評価が可能となる。
【0057】
(培養工程)
本方法における培養工程は、第1の液体2及び第2の液体4と接触した状態で細胞10を培養する工程である。本培養工程は、かかる接触状態での細胞10の培養を実施できる限りどのような形態で細胞を培養してもよい。例えば、
図1に示すように、第1の液体2及び第2の液体4との界面6において、第1の液体2及び第2の液体4のいずれか又は双方が移動可能な支持体8を足場として、第1の液体2及び第2の液体4と接触した状態で細胞10を培養する工程とすることができる。
【0058】
(第1の液体キャリア及び第2の液体キャリア)
本培養工程において、第1の液体2は、図示はしないが第1の液体2を保持又は流通可能に構成された第1の液体キャリアによって供給されることができる。また、第2の液体4は、図示はしないが第2の液体を保持又は流通可能に構成された第2の液体キャリアによって供給されることができる。
【0059】
第1の液体キャリアは、第1の液体2を貯留する貯留部や第1の液体2が流通可能な流路等のキャビティを有する構造体であってもよい。こうした第1の液体キャリアの形態は、特に限定しないが、第1の液体2の遮断する壁物質を備えた各種形態のキャビティを有している。例えば、容器状体、チューブ状、球状体、任意の3次元形状体等とすることができる。
【0060】
また、第1の液体キャリアは、第1の液体2を保持するゲル状体であってもよい。第1の液体2を保持するゲル状体は、ゲル状体自体が、第1の液体2を保持しているといえるので、第1の液体キャリアは、任意の形態を採ることができる。すなわち、上述したキャビティを有する形態のほか、シート状体、柱状体、球状体、任意の3次元形状体等の中実状体とすることもできる。かかるゲル状体は、一般的に水性ゲル(ヒドロゲル)と称されるものが該当しうる。水性ゲルとしては、例えば、寒天やアガロースゲル等が挙げられる。
【0061】
なお、第1の液体キャリアがゲル状体であるとき、第1の液体キャリアの表面等に細胞を保持することができる。すなわち、ゲル状体の第1のキャリアは、ゲル状体の表面において支持体8としても機能することができる。
【0062】
第1の液体キャリアは、第1の液体2を保持又は流通可能に外部から第1の液体2が供給可能に構成されていてもよい。すなわち、第1の液体キャリアの外部に備えられた第1の液体供給装置とそれに付随する流路系を介して適宜第1の液体2が供給可能に構成されていてもよい。また、第1の液体キャリアは、第1の液体2の排出系を備えていてもよい。
【0063】
第2の液体キャリアも、第1の液体キャリアと同様の態様を採ることができる。なお、第1の液体キャリアが第1の液体2を貯留可能なキャビティを有し、当該キャビティに第2の液体4も貯留可能な容器状体のときには、第1の液体キャリアは第2の液体キャリアでもある。なお、ゲル状体の第2の液体キャリアは、一般的にオルガノゲルと称されるものが該当しうる。第2の液体キャリアは、好ましくは、第2の液体2を直接細胞10に接触させることが可能に液体を保持するキャビティを有する形態である。
【0064】
(支持体)
図1に示すように、支持体8は、本方法に用いる細胞を保持可能な構造を備えることができる。例えば、支持体8は多孔質体とすることができる。多孔質体であると、表面積が大きく、かつ緻密に細胞を保持可能である。多孔質体としては、特に限定するものではないが、例えば、多孔質ガラスやセラミックス、多孔質プラスチック、多孔質ポリテトラフルオロエチレンのほか、ファイバーを要素とする積層体、交絡体、編成体や織成体等が挙げられる。
【0065】
多孔質体である支持体8は、
図1に示すように、支持体8の表面において、細胞がシート状体を形成可能な程度の多孔質性を有することが好ましい。支持体8上に細胞シートを形成することで、細胞10自身が第1の液体2と第2の液体4との相互移動を遮断した状態で、これらの液体を界面6を形成及び維持して細胞10を培養することができるようになる。かかる遮断状態は、細胞10による物理的な被覆度及び機能的なタイトジャンクションに基づくものである。なお、液体の相互移動を遮断した状態とは、必ずしもこれら液体の相互移動を完全に遮断するものでなくてもよく、本評価方法を有用せしめる程度に液体の相互移動が抑制されていればよい。
【0066】
また、このような細胞10自体による液体の相互移動の遮断は、第1の液体2と第2の液体4の比重に関係なく、これらの界面6を細胞10で形成できるようになり、評価形態の自由度が向上する点で好ましい。また、その後の評価工程で、かかる遮断状態の低下を検出することにより、細胞の活性ひいては非親水性物質の細胞に対する作用を容易に評価することができるようになる点で好ましい。このような観点から、細胞10による液体の相互移動の遮断状態の評価又は確認を、培養工程に先立って確認するようにしてもよい。
【0067】
なお、細胞による液体の相互移動の遮断状態は、種々の方法で評価できる。例えば、経上皮電気抵抗値(TER)を測定することによって行うことができる。
【0068】
細胞シートを支持体8の表面に作製する観点からは、多孔質体である支持体8は、その平均細孔径が10μm以下であることが好ましい。10μmを超えると細胞が細孔内にはいってしまい、支持体の表面に細胞シートを形成しにくくなるからである。好ましくは、平均細孔径は、5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。なお、平均細孔径は、公知の方法で測定できる。典型的には、電子顕微強(TEM又はSEM)によって得られる一定面積の領域の画像を複数個取得し、これらの各領域内における細孔径を測定し、これらの細孔径測定値に基づいて、平均細孔径を得ることができる。
【0069】
支持体8は、ゲル状体とすることもできる。ゲル状体は、概してその表面又は内部に細胞を保持可能である。ゲル状体は、水を保持するヒドロゲルであってもよいし、有機溶媒を保持するオルガノゲルであってもよい。
【0070】
支持体8は、第1の液体2及び第2の液体4のいずれか又は双方が移動可能とすることができる。支持体8において液体が移動可能であるとは、支持体8内を液体が移動可能であること及び支持体8の外部から支持体8の内部を通過してその後支持体8の外部に移動可能であることの双方を含んでいる。支持体8がかかる移動性を有することで、支持体8に保持する細胞を第1の液体2と第2の液体4との双方に対して接触状態を維持することができる。
【0071】
支持体8は、第1の液体2の移動性を備えていることが好ましい。これにより、支持体8のどの領域に細胞10を保持していても、細胞10に対して第1の液体2を介して栄養成分が供給される。
【0072】
支持体8は、第2の液体4の移動性を備えていることが好ましい。これにより、支持体8の第1の液体2側で細胞10を保持して培養しても、支持体8を介して栄養成分が補給される。
【0073】
支持体8は、好ましくは、第1の液体2の移動性を有している。また、支持体8は、第1の液体2の移動性と第2の液体4の移動性との双方を備えていることも好ましい。これにより、支持体8は適当な多孔質性と、その表面特性を備えることができる。さらに、支持体8は、第1の液体2の移動性を有するが第2の液体4の移動性を有しないことも好ましい。こうすることで、界面6を維持しやすくなるからである。こうした各種の移動性の形態を有する支持体8は、当業者であれば公知の材料を用いて取得することができる。
【0074】
支持体8を構成する材料としては、細胞保持性や液体の移動性等を考慮して親水性及び/又は疎水性の公知の材料から適宜選択することができる。例えば、細胞が接着性細胞であるときには、当該細胞が接着性を呈する各種公知の細胞接着性物質又は当該物質を含む又はコーティングした材料を用いることができる。こうした接着性物質であって生体由来の物質としては、特に限定しないが、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ナイドジエン、フィブリノーゲン、エラスチン類、プロテオグリカン類等が挙げられる。また、公知の細胞接着性が認められているガラス材料、プラスチック材料等が挙げられる。
【0075】
支持体8は、第1の液体2と第2の液体4との界面6に存在可能であれば、当該界面6に固定されていてもよいし、界面6に浮遊していてもよい。なお、第1の液体2と第2の液体4との界面6は、当該界面6及び当該界面6の近傍を含む概念である。
【0076】
支持体8の形態は特に限定しないで、評価に供する細胞10に付与したい任意の3次元形状とすることができる。例えば、シート状体、管状体、柱状体、球状体(中実状及び中空状)等とすることができる。また、支持体8を界面6に保持するように形態は、特に限定しない。また、支持体8は、評価しようとする細胞10の3次元形態に応じた形状を採りうる。当業者は、支持体8の3次元形態、後述する第1の液体キャリア12、第2の液体キャリア14の形態、及びこれらの液体キャリア12、14に対する支持体8の構成領域等に応じて種々の支持体態様を実現することができる。
【0077】
例示であって限定するものではないが、接着性細胞に関し、
図2〜
図9に示す態様で本培養工程を実施することができる。以下の態様においては、第1の液体2を水を主成分とする液体培地とし、第2の液体4を第1の液体2と相溶しないでかつ第1の液体2よりも比重の大きいフルオロカーボン構造等を有する溶媒として、説明する。
【0078】
(第1の態様)
図2に示すように、本態様では、より比重の大きい第2の液体4を下層とし、より比重の小さい第1の液体2を上層とする二相の界面6近傍に、支持体8の下面に保持された細胞10を備えている。この態様では、第1の液体2及び第2の液体4は、それぞれ第1の液体キャリア12及び第2の液体キャリア14である容器状体内に一括して保持又は流通されている。
【0079】
図2に示すように、本態様では、支持体8は、界面6近傍に浮遊している。支持体8は、第1の液体2の移動性を有するものとし、支持体8の下面、すなわち、第2の液体4側に細胞10を保持して培養することができる。また、細胞10は第2の液体4に曝露されている。このため、第2の液体4に含まれる非親水性物質の細胞10及びシート状の細胞構造体に対する有効な評価が可能となっている。なお、細胞10に対する酸素等の供給は適宜行われる。例えば、第1の液体2から栄養成分や酸素等が供給されうる。なお、第2の液体4を介しても酸素は供給されうる。
【0080】
なお、支持体8が第2の液体4の移動性を有する場合には、細胞10を支持体8の第1の液体2側に保持して培養することもできる。細胞10に第2の液体4が到達しうるからである。また、支持体8が第1の液体2及び第2の液体4の移動性を有する場合には、細胞10を支持体6の内部に保持して培養することもできる。
【0081】
(第2の態様)
図3に示すように、本態様では、第1の液体2をゲル化剤によってゲル化したゲルを第1の液体2を保持する第1の液体キャリア12として用いる。ゲルは、多孔質体であり、また、第1の液体2の移動性を有するようにゲル化されている。したがって、第1の液体キャリア12は第1の液体2の移動性を有する支持体8としても機能している。
【0082】
第2の液体4は、容器状体である第2の液体キャリア14に保持されて、第1の液体2のゲル上に備えられており、細胞10は、第1の液体2のゲルと第2の液体4との界面6において、支持体8としてのゲル表面に保持されている。
【0083】
この態様では、支持体8でありかつ第1の液体キャリア12でもあるゲル上に細胞10を保持して培養することができる。このとき、第1の液体2は第1の液体キャリアであるゲルに保持されてかつゲル内を移動可能である。このため、細胞10は第1の液体2に接触しているため栄養成分が供給されるようになっている。また、細胞10は第2の液体4に曝露されている。このため、第2の液体4に含まれる非親水性物質の細胞10及びシート状の細胞構造体に対する有効な評価が可能となっている。
【0084】
なお、本態様では、第1の液体キャリア12は、第2の液体の移動性を有しないか、又は細胞10の細胞間結合等により第2の液体の移動が遮断されていることが好ましい。本態様では、第1の液体2がゲル化されているため、第1の液体2よりも比重の大きい第2の液体4を上層に備えることができる。
【0085】
また、第2の態様の変形例を
図4に示す。
図4に示すように、この変形例では、所望の3次元形状を有するゲル状体の第1の液体キャリア12を用いる。この第1の液体キャリア12は、その外表面を支持体8とし、細胞を保持する。この第1の液体キャリア12を、第2の液体キャリア14に保持等された第2の液体4に投入し、細胞10を、第2の液体4に曝露させるようにする。
【0086】
この変形例によれば、第2の液体4に含まれる非親水性物質の細胞10及び所望の3次元形状の外皮形態を有する細胞構造体に対する有効な評価が可能となっている。なお、この変形例において、第1の液体キャリア12を、所定の足場材料を元にして構築され、表面のみならず内部にも細胞を備える3次元細胞構造体としてもよい。
【0087】
さらに、第2の態様の他の変形例を
図5に示す。
図5に示すように、この変形例では、内部に第2の液体4を保持又は流通可能な第2の液体キャリア14をキャビティとして備える所望の3次元形状を有するゲル状体の第1の液体キャリア12を用いる。第1の液体キャリア12は、そのキャビティの内表面を支持体8とし、細胞を保持する。この第1の液体キャリア12のキャビティに第2の液体4を保持等させることで、細胞10を、第2の液体4に曝露させるようにする。
【0088】
この変形例によれば、第2の液体4に含まれる非親水性物質の細胞10及び内表面の形態に対応する所望の3次元形状の細胞構造体に対する有効な評価が可能となっている。なお、この変形例において、第1の液体キャリア12を、所定の足場材料を元にして構築され、表面のみならず内部にも細胞を備える3次元細胞構造体としてもよい。
【0089】
(第3の態様)
図6に示すように、本態様では、第1の液体2を保持又は流通可能な容器状体を第1の液体キャリア12として用いる。また、第2の液体4を保持又は流通可能な容器状体を第2の液体キャリア14として用いる。また、第2の液体キャリア14は、その底部を第1の液体2及び第2の液体4の移動性を有する支持体8として備えている。支持体8の表面には、細胞10を保持している。さらに、第1の液体キャリア12のキャビティには、第2の液体キャリア14を収容可能となっている。
【0090】
図6に示すように、第1の液体2を保持する第1の液体キャリア12内に、支持体8上に細胞を保持した第2の液体キャリア14を収容し第2の液体キャリア14に第2の液体を保持させる。これにより、第1の液体2と第2の液体4との界面6に支持体8を備え、支持体8に細胞10を備えるようにすることができる。
【0091】
この態様で細胞10を培養するとき、細胞10は支持体8を介して第1の液体2に接触して栄養成分が供給されるようになっている。また、細胞10は第2の液体4に曝露されている。このため、第2の液体4に含まれる非親水性物質の細胞10及びシート状の細胞構造体に対する有効な評価が可能となっている。
【0092】
なお、本態様では、比重の大きい第2の液体4が上層にあるため、支持体8は、第2の液体4の移動性を備えないものとするか、あるいは、支持体8上の細胞が支持体8を充填するようにして第2の液体4の下方への移動を抑制するようにすることが好ましい。
【0093】
(第4態様)
図7に示すように、本態様では、
図6に示す第3の態様と、第1の液体2及び第2の液体4との互いに置換された状態となっている。本態様は、第2の液体4を保持又は流通可能な容器状体を第2の液体キャリア14として用いる。また、第1の液体2を保持又は流通可能な容器状体を第1の液体キャリア12として用いる。また、第1の液体キャリア12は、その底部を第1の液体2及び第2の液体4の移動性を有する支持体8として備えている。支持体8の下面には、細胞10を保持している。さらに、第2の液体キャリア14のキャビティには、第1の液体キャリア12を収容可能となっている。
【0094】
図7に示すように、第2の液体4を保持する第2の液体キャリア14内に、支持体8の下面に細胞を保持した第1の液体キャリア12を収容し第1の液体キャリア12に第1の液体を保持させる。これにより、第1の液体2と第2の液体4との界面6に支持体8を備え、支持体8に細胞10を備えるようにすることができる。
【0095】
この態様で細胞10を培養するとき、細胞10は支持体8を介して第1の液体2に接触して栄養成分が供給されるようになっている。また、細胞10は第2の液体4に曝露されている。このため、第2の液体4に含まれる非親水性物質の細胞10及びシート状の細胞構造体に対する有効な評価が可能となっている。
【0096】
なお、
図6及び
図7に示す第3及び第4の態様では、それぞれ支持体8の上面及び下面に細胞10を保持して培養するものとしたが、これに限定するものではない。例えば、支持体8が第2の液体4の移動性を備えていれば、界面6が維持される限り、支持体8の下面及び上面に細胞10を保持して培養する形態であってもよい。
【0097】
また、第3及び第4の態様において、第1の液体キャリア12及び第2の液体キャリア14の形態は、それぞれ、これら液体の液液界面と2つの液体との接触状態とを確保可能な範囲で各種形態を採ることができる。すなわち、支持体8を備える第1の液体キャリア12及び第2の液体キャリア14は、底部でなく、その側壁の内表面や外表面を支持体8とすることで、こうした部位に細胞10を保持して培養してもよい。また、細胞10を保持する第1の液体キャリア12及び第2の液体キャリア14は、全体が支持体8として機能するように構成してもよいし、その一部のみが支持体として機能するようにしてもよい。
【0098】
例えば、
図8に示すように、第3の態様の変形例として、第2の液体キャリア14を細長い管状体又は容器状体等とすることができる。この第2の液体キャリア14その側壁を第1の液体の移動性を有する支持体8として用いて、第1の液体キャリア12の内表面において細胞10を保持して培養する。なお、支持体8においては細胞10間接着によりその他の部位においては、第2の液体キャリア14自体の材料によって第2の液体4の移動性が抑制されているものとする。
【0099】
この変形例においては、細胞10は、第2の液体キャリア14の側壁を支持体8としてそのとして、その内表面において培養される。細胞10は、支持体8を介して第1の液体2から栄養成分を補給され、第2の液体4に曝露されている。この変形例によれば、細胞10及び管状構造を有する細胞構造体に対する非親水性物質の作用を有効に評価できる。
【0100】
なお、同様に、第4の態様の変形例として、
図9に示すように、管状体である第1の液体キャリア12の側壁を第1の液体2の移動性を有する支持体8として用いて、側壁外表面において第2の液体4と接触するように細胞10を保持するようにする。なお、
図8と同様に、第1の液体キャリア14の支持体8及びその他の部位においては、第2の液体4の移動性が抑制されているものとする。これにより、細胞10及び管状構造を有する細胞構造体に対する非親水性物質の作用を有効に評価できる。
【0101】
以上説明したように、本評価方法によれば、非親水性物質の細胞10に対する作用を評価することができるとともに、細胞10からなる任意の3次元形状の構造体に対する作用も評価できる。細胞10が構造体を形成するとき、その構造体を維持するための細胞間接着強度や細胞間ストレスによっては、非親水性物質による影響が一般的なシート状体の場合とは異なる可能性もある。したがって、本評価方法は、より実用的な非親水性物質の細胞に対する作用評価が実現できる。
【0102】
本培養工程を実施するのにあたり、細胞10を第1の液体2及び第2の液体4に接触させる順序は、本開示が意図する液体との接触状態が維持される限り、特に限定されないで、上記各種態様及びそれ以外の順序であってもよいし、同時であってもよい。
【0103】
また、本培養工程を実施するのにあたり、細胞10を支持体8に保持する第1の液体キャリア12又は第2の液体キャリア14を準備することが好ましい。かかる液体キャリアを準備する前培養工程は、例えば、以下のように実施できる。
【0104】
まず、第1の液体キャリア12又は第2の液体キャリア14の支持体8の所定部位に細胞10を播種して、当該細胞10に一般的に適用される条件で培養する。培養は、支持体8の全領域を被覆するようにまで行ってもよいし、そうでなくてもよいが、全領域を被覆して緻密な状態にまで培養することで、第2の液体4の移動を抑制可能とすることができ、本培養工程を効率的に実施することができる。
【0105】
本培養工程は、用いる細胞10に適した培養条件(温度、ガス、培地、湿度等)を適用して実施することができる。特に、第1の液体2は、細胞10に好適な培地を用いることが好ましい。
【0106】
(評価工程)
本評価方法は、こうして培養した細胞10に対する非親水性物質の作用を評価する工程を備えることができる。非親水性物質を含有する第2の液体2に曝露された細胞10は、第1の液体2から栄養成分を補給された状態で活性を維持しつつ、非親水性物質による作用を受ける。すなわち、本培養工程は、生体内において細胞10が異物である非親水性物質に曝露される状態を模倣ないし再現したものとなっている。
【0107】
非親水性物質の細胞10に対する作用は、例えば、細胞10の生死を各種方法で測定することによって評価することができる。また、当該作用は、既述の経上皮電気抵抗値(TER)を測定することによっても評価することができる。
【0108】
細胞の生死については、各種方法が公知である。膜電位を測定するなどの電気的方法のほか、ブルーテトラゾリウム等を用いて細胞死を検出する発色方法等の生化学的方法、あるいは顕微鏡を用いるなどの観察方法等が挙げられる。当業者であれば、公知の方法から適当な方法を選択して本評価工程に適用することができる。
【0109】
以上、説明したように、本評価方法によれば、細胞に栄養成分等を補給しつつ、しかも異物に曝露されるという状態を形成できる。すなわち、細胞に対する非親水性物質の作用を、生体内における細胞状態を模倣又は再現した状態で評価することができる。
【0110】
また、本評価方法によれば、細胞に対して栄養成分が補給されているため、長期にわたって非親水性物質の作用を評価することができる。
【0111】
さらに、本評価方法によれば、従来、評価が困難であった非親水性物質を、非親水性液体である第2の液体を媒体として溶解又は分散させて、細胞に対して曝露できる。したがって、非親水性物質の細胞に対する作用をより本質的にかつ的確に評価することができる。
【0112】
以上のことから、本評価方法は、非親水性物質の細胞に対する作用を評価するのに実用的な方法となっている。
【0113】
(細胞を含む構造体)
本開示は、細胞を含む構造体を提供する。本構造体は、第1の液体キャリアと第1の液体キャリアと、第1の液体と第2の液体との界面近傍に配置され、第1の液体及び第2の液体のいずれか又は双方が移動可能な支持体と、第1の液体及び第2の液体に接触した状態で前記支持体の少なくとも一部に保持される細胞と、を備える、構造体とすることができる。
【0114】
こうした構造体によれば、第1の液体と第2の液体との双方に対する細胞の接触状態が確保されている。こうした細胞構造体によれば、第2の液体に接触させつつも細胞の活性を有効に維持することができる。したがって、この構造体は、非親水性物質を非親水性液体である第2の液体を利用した評価に有用な構造体となっている。また、この構造体によれば、所定の3次元形状を有する細胞構造体に対する非親水性物質の作用評価にも有用な構造体となっている。
【0115】
本構造体は、既に本評価方法において説明した第1の液体、第2の液体、第1のキャリア、第2のキャリア及び支持体についての各種態様をそのまま適用できる。なお、既述の各種態様においては、第1の液体及び第2の液体を保持又は流通する状態で説明したが、本構造体は、必ずしも第1の液体及び第2の液体が保持又は流通されていなくてもよい。
【0116】
(評価装置)
本開示は、非親水性物質の細胞に対する作用を評価するための装置も提供する。本装置は、第1の液体キャリアと第1の液体キャリアと、第1の液体と第2の液体との界面近傍に配置され、第1の液体及び第2の液体のいずれか又は双方が移動可能であって細胞を保持可能な支持体と、を備えることができる。
【0117】
こうした評価装置によれば、支持体に細胞を保持させることにより、第1の液体と第2の液体との双方に対する細胞の接触状態が確保することができ、非親水性物質を非親水性液体である第2の液体を利用した評価に有用な構造体を構築できる。
【0118】
本評価装置は、既に本評価方法において説明した第1の液体、第2の液体、第1のキャリア、第2のキャリア及び支持体についての各種態様をそのまま適用できる。なお、既述の各種態様においては、第1の液体、第2の液体を保持又は流通する状態であり、かつ細胞を保持する態様で説明したが、本評価層値は、これらを構成要素とするものではない。
【0119】
(細胞に適合する非親水性物質のスクリーニング方法)
本開示は、細胞に適合する非親水性物質のスクリーニング方法も提供する。本開示のスクリーニング方法は、第1の液体と非親水性物質を含有する第2の液体との界面において、第1の液体及び前記第2の液体のいずれか又は双方が移動可能な支持体を足場として、第1の液体及び第2の液体と接触した状態で細胞を培養する工程と、細胞に対する非親水性物質の作用を評価する工程と、を備え、前記作用に基づいて非親水性物質の前記細胞への適合性を評価することができる。
【0120】
この方法によれば、既に説明したように。生体内における細胞と異物である非親水性物質との接触状態を再現又は模倣できるため、より実用的な細胞適合性のある非親水性物質をスクリーニングできる。
【0121】
本方法においては、既に本評価方法において説明した第1の液体、第2の液体、第1の液体キャリア、第2の液体キャリア及び支持体ほか、本評価方法の培養工程及び評価工程の各種態様を適用することができる。
【0122】
本評価方法によれば、こうして評価した細胞に対する非親水性物質の作用に基づいて非親水性物質の細胞への適合性又は毒性を評価することができる。この評価結果に基づいて、細胞適合性のある非親水性物質をスクリーニングできる。なお、本スクリーニング方法は、毒性を有する非親水性物質もスクリーニングできる。すなわち、本スクリーニング方法は、細胞に対して毒性を有する非親水性物質のスクリーニング方法としても実施できる。
【実施例】
【0123】
以下、本開示に係る実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本開示を説明するものであって、本開示を限定するものではない。
【実施例1】
【0124】
本実施例では、細胞としてヒト気管支上皮細胞Calu−3を用いて、フルオロカーボン構造を有する非親水性液体の当該細胞に対する作用を評価した。評価するための装置として、
図10に示す評価装置20を用いた。
図10に示すように、この装置20は、いずれも上部に開口するキャビティを備えるウェル22と、インサート24とを備え、ウェル22内にインサート24を収容された状態を維持可能に構成されている。インサートの底部には、細胞を保持して培養可能な多孔質の支持体28を備えている。この支持体28は、細胞の増殖培地の媒体である水の移動性を有している。
【0125】
なお、増殖培地が本開示の第1の液体に相当し、フルオロカーボン構造を有する非親水性液体は本開示の第2の液体に相当する。また、ウェル22は、本開示の第1の液体キャビティに相当し、インサート24は、本開示の第2の液体キャビティに相当し、支持体28が本開示の支持体に相当する。
【0126】
まず、インサート24の支持体28上に細胞を播種し、ウェル22内のインサート24以外の空間及びインサート24内のキャビティの双方を本細胞の増殖培地で充填した。この状態の評価装置20を、CO
2インキュベータ内に数日静置することで、支持体28上部前面に及び細胞を緻密に成長・増殖させて前培養工程を実施した。この前培養工程では経時的に経上皮電気抵抗値(TER)を測定し、細胞のインサート24に接触する面におけるバリア状態(被覆度及び機能的なタイトジャンクション)が構築されていることを確認した。
【0127】
次に、
図11に示すような細胞構造体を作製した。すなわち、インサート24内の増殖培地を除去し、替わりにC
6F
6のパーフルオロヘキサン200μlを加えて、細胞をパーフルオロヘキサンに接触した状態とした。この状態で、CO
2インキュベータ内に3時間静置して培養した。その後、インサート24のキャビティからパーフルオロヘキサンC
6F
6を除去して、新たに増殖培地20μlを添加し、CO
2インキュベータ内に24時間培養した。
【0128】
24時間経過後、CO
2インキュベータから取り出した細胞構造体の支持体28上の細胞について、増殖培地を除去後に、再び、経上皮電気抵抗値(TER)を測定し、細胞によるバリア状態の程度を確認した。結果を
図12に示す。
【0129】
また、パーフルオロヘキサンに替えて2種類のハイドロフルオロエーテル(C
4F
9OC
2H
5、CF
9CF
2OCF
2CHF
2)を用いる以外は、上記と同様にして、これらの液体との接触後の細胞のバリア状態を確認した。なお、対照として、親水性液体であるMED(培地)及びリン酸緩衝生理食塩液(PBS)を使用して、同様にTERを測定した。結果を
図12に示す。
【0130】
TERが数値が大きいほど、細胞間のタイトジャンクションが良好であることを意味しており、相対的にその数値が小さい場合には細胞死又は細胞間のタイトジャンクションの破壊が進行したことを意味している。
【0131】
図12に示すように、パーフルオロヘキサンは細胞死等を著しく促進したが、2つのハイドロフルオロエーテル(C
4F
9OC
2H
5、CF
9CF
2OCF
2CHF
2)は、パーフルオロヘキサンよりも細胞死や細胞間タイトジャンクションへの作用が小さく、対照とほぼ同程度であることがわかった。
【0132】
以上のことから、フルオロカーボン構造を有する非親水性液体であっても、その構造や組成によって細胞に対する作用が大きくことなることがわかった。また、フルオロカーボン構造を有する非親水性液体であっても、PBSと同等程度に細胞に対して適合性を有する液体が存在することがわかった。さらに、ハイドロフルオロエーテルが、生体適合性を有する非親水性液体としてスクリーニングすることができることがわかった。
【実施例2】
【0133】
本実施例では、非親水性液体としてハイドロフルオロエーテル(C
4F
9OC
2H
5)を用いて、
被験物質としてのパーフルオロオクタン酸(PFOA)を溶解したPFOAのハイドロフルオロエーテル溶液を、各種のPFOA濃度で調製した(0、0.01、0.1、1及び10g/L)。この溶液は、本開示の第2の液体に相当する。
【0134】
これらの各PFOAのハイドロフルオロエーテル溶液を用いる以外は、実施例1と同様にして前培養工程までを実施した。その後、これらの各溶液を第2の液体として使用して、CO
2インキュベータ内に15時間静置して培養工程を実施した。
【0135】
その後、インサート24のキャビティからパーフルオロヘキサンC
6F
6を除去して、テトラゾリウム塩の一種であるWST−8(2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム)を溶解した培地水溶液200μlを添加し、CO
2インキュベータ内に20分間静置して培養した。
【0136】
その後、細胞構造体のインサート24から培地100μlを採取して、マイクロプレートに移し、波長450nm及び600nmにおける吸光度を測定した。結果を
図13及び
図14に示す。
【0137】
図13はPFOA濃度と吸光度との関係を示し、
図14は、PFOA濃度が0のときの吸光度を1としたときの他のPFOA濃度における相対的吸光度を示す。
図13及び
図14に示すように、PFOA濃度に応じて吸光度は低下し、PFOA濃度が0.1g/Lまではほぼ同程度であったのに対し、PFOAが1g/L以上では、ほとんど吸光度を観察できなかった。すなわち、PFOA濃度が1g/L以上では、細胞を細胞死に至らしめるような作用を及ぼすことがわかった。
【0138】
以上の結果から、PFOAのような
物質であっても、細胞に適合性を有する非親水性液体を媒体として用いることで、細胞を用いてインビトロでかつ濃度依存的に安全に生体適合性(毒性)を評価できることがわかった。また、非親水性液体を利用することで、PFOAのような
細胞毒性が高いと思われる物質であっても、細胞適合性(毒性)を適切に評価できることがわかった。