(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6676933
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】エアバッグ及びエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/231 20110101AFI20200330BHJP
B60R 21/205 20110101ALI20200330BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/205
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-221373(P2015-221373)
(22)【出願日】2015年11月11日
(65)【公開番号】特開2017-87998(P2017-87998A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】古田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】竹林 佑介
【審査官】
神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2014/0225354(US,A1)
【文献】
特開2003−200803(JP,A)
【文献】
特開2010−149594(JP,A)
【文献】
特開2005−247291(JP,A)
【文献】
特開2002−104121(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0046365(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0031725(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 − 21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
助手席とインストルメントパネルとの間で膨張展開する助手席用のエアバッグであって、
エアバッグ本体と、該エアバッグ本体の前方部分の外表面に設けられたパッチクロスとを備え、
前記エアバッグ本体の側面部に設けられた側面パッチクロスにスリットが形成されており、
前記側面パッチクロスは、前記エアバッグ本体と対向する面とは反対側の外表面が、コーティング剤が塗布されたコート面である
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
助手席とインストルメントパネルとの間で膨張展開する助手席用のエアバッグであって、
エアバッグ本体と、該エアバッグ本体の前方部分の外表面に設けられたパッチクロスとを備え、
前記エアバッグ本体の側面部に設けられた側面パッチクロスにスリットが形成されており、
前記側面パッチクロスは、直交する経糸及び緯糸を有した織布よりなり、
前記スリットは、前記経糸及び緯糸のうち、前記側面パッチクロスの車両後方側の側縁部と前記エアバッグ本体とを縫合する縫合部との交差角度の小さいものに沿って形成されている
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項3】
助手席とインストルメントパネルとの間で膨張展開する助手席用のエアバッグであって、
エアバッグ本体と、該エアバッグ本体の前方部分の外表面に設けられたパッチクロスとを備え、
前記エアバッグ本体の側面部に設けられた側面パッチクロスにスリットが形成されており、
前記エアバッグ本体の上面部に上面パッチクロスが設けられ、
前記上面パッチクロスにスリットが形成されている
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項4】
前記スリットは、同一直線上に間隔を空けて複数形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエアバッグ。
【請求項5】
膨張展開時に前記複数のスリット間のブリッジ部が切断されることを特徴とする請求項4に記載のエアバッグ。
【請求項6】
前記スリットは、膨張展開時にインストルメントパネルよりも上位に位置することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエアバッグ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエアバッグと、
前記エアバッグ本体にガスを供給するインフレータと、
を備えることを特徴とするエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の乗員を衝突時等に拘束するためのエアバッグ及びエアバッグ装置に関する。なお、本発明において、前後・上下・左右の方向は、特に断らない限り、車両の前後・上下・左右の方向に対応するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の衝突や車体横転時等に、乗員の周囲各部でエアバッグをインフレータにより膨張させ、乗員の身体を拘束するエアバッグ装置が知られている。例えば、助手席用エアバッグ装置は、インストルメントパネル内に収容され、緊急時にエアバッグを膨張展開して、助手席乗員を拘束する。
【0003】
助手席用エアバッグ装置では、エアバッグの前方部分の外表面にパッチクロスを配置して、エアバッグ前方部分を補強する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−200803号公報
【特許文献2】特開2006−27374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであり、エアバッグの膨張展開時に、エアバッグの外表面に配置されたパッチクロスとエアバッグとを縫合する縫合部への応力を緩和することができるエアバッグ及びエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエアバッグは、助手席とインストルメントパネルとの間で膨張展開する助手席用のエアバッグであって、エアバッグ本体と、該エアバッグ本体の前方部分の外表面に設けられたパッチクロスとを備えたエアバッグにおいて、前記エアバッグ本体の側面部に設けられた側面パッチクロスにスリットが形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の一態様によるエアバッグにおいて、前記スリットは、同一直線上に間隔を空けて複数形成されている。この場合、膨張展開時に前記複数のスリット間のブリッジ部が切断されてもよい。
【0008】
本発明の一態様によるエアバッグにおいて、前記スリットは、膨張展開時にインストルメントパネルの外部に位置する。
【0009】
本発明の一態様によるエアバッグにおいて、前記側面パッチクロスは、前記エアバッグ本体と対向する面とは反対側の外表面が、コーティング剤が塗布されたコート面である。
【0010】
本発明の一態様によるエアバッグにおいて、前記側面パッチクロスは直交する第1の縫い目及び第2の縫い目を有し、前記スリットは、前記第1の縫い目及び前記第2の縫い目のうち、前記側面パッチクロスの車両後方側の側縁部と前記エアバッグ本体とを縫合する縫合部との交差角度の小さい縫い目に沿って形成されている。
【0011】
本発明の一態様によるエアバッグにおいて、前記エアバッグ本体の上面部に上面パッチクロスが設けられ、前記上面パッチクロスにスリットが形成されている。
【0012】
本発明のエアバッグ装置は、本発明によるエアバッグと、前記エアバッグにガスを供給するインフレータと、を備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、エアバッグ本体の側面部に設けられた側面パッチクロスにスリットが形成されているため、エアバッグの膨張展開時における、エアバッグ本体の側面部と側面パッチクロスとを縫合する縫合部への応力を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態に係るエアバッグ装置の側面図である。
【
図2】実施の形態に係るエアバッグの(a)下面図、(b)側面図、及び(c)上面図である。
【
図3】実施の形態に係るエアバッグを非膨張状態で展開した側面図である。
【
図4】別の実施の形態に係るエアバッグの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1〜
図3を参照して、本発明の実施の形態に係るエアバッグ装置について説明する。
図1は、実施の形態に係るエアバッグを膨張展開させた時のエアバッグ装置の側面図である。
図2は、
図1に示したエアバッグを示す図であり、(a)は下面図、(b)は側面図、(c)は上面図である。
図3は、実施の形態に係るエアバッグを膨張させないで展開した時の側面図である。
【0016】
本実施の形態に係るエアバッグ装置は、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグ1と、エアバッグ1にガスを供給するインフレータ2と、エアバッグ1及びインフレータ2を固定するリテーナ3等を備える。このエアバッグ装置は、いわゆる助手席用エアバッグ装置であり、助手席7の前方に配置されたインストルメントパネル5に収容される。エアバッグ1は、乗員P、インストルメントパネル5及びフロントガラス6により囲まれた空間に膨張展開される。
【0017】
インフレータ2は、略円柱形状の外形をなし、エアバッグ1に内包された先端部の側周面にガス噴出口が形成されている。インフレータ2は、リテーナ3に形成された開口部に嵌め込まれてバッグリング等の固定手段によりリテーナ3に固定されている。
【0018】
エアバッグ1は、エアバッグ本体10と、エアバッグ本体10の下面部10bに配置された下面パッチクロス21と、エアバッグ本体10の上面部10cに配置された上面パッチクロス22と、エアバッグ本体10の側面部10dに配置された側面パッチクロス23と、を有し、下面パッチクロス21、上面パッチクロス22及び側面パッチクロス23によりエアバッグ本体10の前方部分の外表面が被覆されている。
【0019】
エアバッグ本体10は、乗員Pのほぼ正面に膨張展開される。エアバッグ本体10の正面部10aは、乗員Pに対向する。エアバッグ本体10の上面部10cは、乗員Pとは反対側の基端部10eから、フロントガラス6に沿って正面部10aの上方まで延びる。下面部10bは、基端部10eからインストルメントパネル5の上面部に沿って延び、さらに正面部10aの下方まで延びる。両側一対の側面部10dは、これら正面部10a、下面部10b、及び上面部10cで囲まれた部分の両側部を覆う。
【0020】
ここで、
図2は、
図1に示したエアバッグ装置からエアバッグ1を取り外して膨張展開させた状態を図示したものである。エアバッグ1はリテーナ3に固定されておらず、エアバッグ1の膨張展開形状は、
図1に示したものと異なった形状となっている
【0021】
エアバッグ本体10は、例えば、正面部10a、下面部10b及び上面部10cを構成するセンターパネル11と、センターパネル11の両側に縫合され、側面部10dを構成する一対のサイドパネル12と、により構成されている。センターパネル11及びサイドパネル12を縫合部13によって縫合し、センターパネル11の両端部を縫合部14によって縫合することにより、袋体が構成される。
【0022】
図2(a)〜(c)の各図において、説明の便宜上、下面パッチクロス21、上面パッチクロス22及び側面パッチクロス23を塗り潰している。なお、エアバッグ本体10の袋体を形成するパネル構成は図示したものに限定されず、従来から使用されているパネル構成を使用することができる。
【0023】
図2(a)の通り、センターパネル11の下面部10bには、下面パッチクロス21が配置されている。下面パッチクロス21は、両側部が縫合部13によってエアバッグ本体10に縫合され、前端部が縫合部14によってエアバッグ本体10に縫合され、後端部が縫合部15によってセンターパネル11に縫合されている。また、センターパネル11の下面部10b及び下面パッチクロス21には、インフレータ2を挿通するインフレータ用開口部18が形成されている。
【0024】
なお、センターパネル11の両端部には、位置合わせ用のタブTが形成されており、このタブTを重ね合わせてピンで固定することによりエアバッグ本体10を固定し、所定の縫合を行うように構成されている。
【0025】
図2(b)の通り、サイドパネル12には、側面パッチクロス23が配置されている。側面パッチクロス23は、
図2(a)及び(c)に示したように、縫合部13によってエアバッグ本体10に縫合されるとともに、
図2(a)〜(c)に示したように、後端部側が縫合部16によってサイドパネル12に縫合されている。サイドパネル12の縫合部16より後方側に、ベントホール19が設けられている。
【0026】
図2(c)の通り、センターパネル11の上面部10cには、上面パッチクロス22が配置されている。上面パッチクロス22は、両側部が縫合部13によってエアバッグ本体10に縫合され、前端部が縫合部14によってエアバッグ本体10に縫合され、後端部が縫合部17によってセンターパネル11に縫合されている。
【0027】
下面パッチクロス21、上面パッチクロス22及び側面パッチクロス23は、例えば、エアバッグ本体10を構成する基布(センターパネル11及びサイドパネル12)と同じ素材により構成される。この基布は、例えば、ポリアミド糸やポリエステル糸等からなる織布であり、一方の面がシリコン等のコーティング剤を塗布したコート面となっている。下面パッチクロス21、上面パッチクロス22及び側面パッチクロス23の外表面、すなわちエアバッグ本体10と対向する面とは反対側の面が、コート面となっている。
【0028】
図3の通り、側面パッチクロス23には、複数のスリット24が間隔を空けて形成されている。これらのスリット24は、同一直線上に配置されている。
【0029】
側面パッチクロス23を構成する織布は、直交する第1の縫い目
(縦糸及び緯糸の一方)及び第2の縫い目
(縦糸及び緯糸の他方)を有しており、スリット24は、第1の縫い目及び第2の縫い目のうち、側面パッチクロス23の車両後方側の側縁部の縫合部16との交差角度の小さい縫い目に沿って形成されている。言い換えれば、スリット24は、第1の縫い目及び第2の縫い目のうち、縫合部16に対して平行に近くなる縫い目に沿って形成されている。
【0030】
複数のスリット24のうち、最も下位に位置するスリット24aの下端は、エアバッグ1が膨張展開した時に、インストルメントパネル5の外部(インストルメントパネル5よりも上位)に位置する。
【0031】
スリット24は、側面パッチクロス23の前後及び左右方向の中間部近辺に形成される。
【0032】
複数のスリット24のうち、最も下位に位置するスリット24aの下端と、最も上位に位置するスリット24bの上端とには、円形孔が形成されていることが好ましい。
【0033】
このようなエアバッグ1のインフレータ用開口部18及びリテーナ3に形成された開口部にインフレータ2を嵌め込み、バッグリング等の固定手段によりインフレータ2をエアバッグ1と共にリテーナ3に固定する。エアバッグ1は折り畳まれ、折り畳み体がリテーナ3内に収容されて、エアバッグ装置が構成される。
【0034】
本実施の形態では、複数の短いスリット24を形成しているため、エアバッグ1の折り畳み時に側面パッチクロス23がスリット24部分から捲れることを防止でき、1本の長いスリットを形成した場合と比較して、エアバッグ1の折り畳みが容易となる。
【0035】
このエアバッグ装置を搭載した自動車が衝突した場合、インフレータ2が作動し、インフレータ2からエアバッグ本体10内にガスが供給され、エアバッグ本体10がインストルメントパネル5から膨出する。エアバッグ本体10の前方部分は、下面パッチクロス21、上面パッチクロス22及び側面パッチクロス23に覆われているため、インストルメントパネル5等の周辺部材から保護されている。また、下面パッチクロス21、上面パッチクロス22及び側面パッチクロス23の外表面がコート面となっているため、エアバッグ1がスムースに展開する。
【0036】
エアバッグ1がインストルメントパネル5から膨出した後、エアバッグ1の膨張展開に伴い、スリット24間のブリッジ部25が切断され、複数のスリット24が接続して、
図1、
図2に示すような1本のスリット26となる。スリット26により、縫合部16への応力が緩和される。
【0037】
スリット26は側面パッチクロス23の縫い目に沿って形成されている。また、スリット26の上端及び下端に形成された円形孔がストッパーとなる。そのため、スリット26を所望の位置に形成することができる。
【0038】
スリット26の下端は、インストルメントパネル5の上面よりも上位に位置しているため、スリット26が広がった場合においても、インストルメントパネル5等の周辺部材とエアバッグ本体10の側面部10dとの間には側面パッチクロス23が介在し、側面部10dが保護される。
【0039】
図4は、別の実施の形態に係るエアバッグの上面図である。
図4に示すように、上面パッチクロス22に1又は複数のスリット27を形成してもよい。スリット27により、エアバッグ1の膨張展開時における縫合部17への応力が緩和される。
【0040】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 エアバッグ
2 インフレータ
3 リテーナ
5 インストルメントパネル
6 フロントガラス
7 助手席
10 エアバッグ本体
11 センターパネル
12 サイドパネル
21 下面パッチクロス
22 上面パッチクロス
23 側面パッチクロス
24、26 スリット
25 ブリッジ部