特許第6677064号(P6677064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6677064
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】歩行者用エアバッグ装置及び自動車
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/36 20110101AFI20200330BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20200330BHJP
【FI】
   B60R21/36
   B60R21/2338
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-88131(P2016-88131)
(22)【出願日】2016年4月26日
(65)【公開番号】特開2017-171269(P2017-171269A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-57132(P2016-57132)
(32)【優先日】2016年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】安部 和宏
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和隆
(72)【発明者】
【氏名】グエン アン キエット
(72)【発明者】
【氏名】武野 大夢
(72)【発明者】
【氏名】松本 康男
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−137252(JP,A)
【文献】 特開2015−157616(JP,A)
【文献】 特開2008−149785(JP,A)
【文献】 特開2010−163015(JP,A)
【文献】 特開2004−299517(JP,A)
【文献】 特開2006−159970(JP,A)
【文献】 特開2008−273250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/36
B60R 21/34
B60R 21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のウィンドシールド及びカウルの少なくとも一部を覆うように左右方向に沿って膨張する主部、及び該主部の左右両端側から後方に延出してAピラーの少なくとも一部を被覆するように膨張するピラー被覆部を有するエアバッグと、
該エアバッグが折り畳まれて収容されたリテーナと、
該エアバッグを膨張させるためのインフレータと、
を備え、
該エアバッグは、膨張した状態において該エアバッグの上面を構成する上側パネル及び下面を構成する下側パネルを有し、
前記主部と前記ピラー被覆部とが連なる部分にパーティションクロスが左右方向に沿って設けられ、該パーティションクロスの上縁は該上側パネルに縫合され、下縁は該下側パネルに縫合され、
該パーティションクロス、該パーティションクロスの右側及び左側の少なくともいずれか1つに、前記主部と前記ピラー被覆部とを連通するガス流路が設けられており、
前記パーティションクロスの上下方向の幅員は、自動車の左右幅方向の中央側ほど短くなっていることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記パーティションクロスにのみ前記ガス流路が設けられており、該ガス流路となるガス通過用の開口に、前記ピラー被覆部から前記主部へのガス流出を阻止する逆止弁が設けられていることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項3】
請求項2において、前記パーティションクロスの上縁又は下縁に切欠き部が設けられ、切欠き部分の上縁と前記上側パネルとの間、又は切欠き部分の下縁と前記下側パネルとの間がガス流路となることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項4】
請求項2において、前記ガス通過用の開口の面積は、前記パーティションクロスの面積の4〜31%であることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1において、前記パーティションクロスの上縁の一部が前記上側パネルに縫合されていない非縫合部となっているか、又は前記パーティションクロスの下縁の一部が前記下側パネルに縫合されていない非縫合部となっており、該非縫合部がガス流路となることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項6】
請求項1において、前記ガス流路は、前記パーティションクロスの右側及び左側の少なくともいずれか一方に設けられており、
該パーティションクロスの上縁又は下縁の長さをA、該上縁又は下縁の一方の端点から前記上側パネル及び前記下側パネルの周縁部を縫合する周縁縫合部までの最短距離をB、該上縁又は下縁の他方の端点から該周縁縫合部までの最短距離をCとした場合、(B+C)/(A+B+C)が0.16〜0.42であることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項7】
請求項6において、前記パーティションクロスにガス通過用の開口が形成されており、該開口に、前記ピラー被覆部から前記主部へのガス流出を阻止する逆止弁が設けられていることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項において、前記パーティションクロスは台形であることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の歩行者用エアバッグ装置を備えた自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のカウル付近の外面に沿ってエアバッグを膨張させることにより歩行者等(歩行者や二輪車乗員など)を受け止めるようにした歩行者用エアバッグ装置に関する。また、本発明は、歩行者用エアバッグ装置を備えた自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行者用エアバッグ装置は、自動車のカウル付近の外面に沿ってエアバッグを膨張させることにより歩行者等(歩行者や自転車等の二輪車乗員など)を受け止めるように構成されている。
【0003】
歩行者用エアバッグ装置のエアバッグが膨張すると、ボンネットフードの後縁部、カウル、ウィンドシールド及び左右のAピラーの少なくとも一部がエアバッグによって覆われる。
【0004】
この歩行者用エアバッグ装置は、折り畳まれたエアバッグを収納するためのリテーナ(ケース)と、エアバッグを膨張させるためのインフレータと、リテーナを閉鎖しているリッド等を備えている。リテーナは車体幅方向に延在した長函状のものである。
【0005】
特許文献1には、歩行者用エアバッグ装置のエアバッグが、フロントウィンドシールドの下部の左右方向に沿った棒状として配置される横膨張部と、横膨張部の両端から後方に延び、左右のフロントピラーの前面側を覆う2つの縦膨張部とを備え、縦膨張部を迅速に膨張展開させる構成が記載されている。縦膨張部は横膨張部よりもインフレータからの膨張用ガスの流入が遅く、縦膨張部を迅速に膨張させるためには、高出力のインフレータが必要であった。
【0006】
また、縦膨張部は、剛性の高いフロントピラーを覆うものであり、歩行者等を受け止めた際に内圧が大きく上昇することが好ましい。特許文献1のエアバッグは、横膨張部と縦膨張部の内圧が全体的にほぼ同等に保たれるため、縦膨張部が歩行者等を受け止めた際に該縦膨張部の内圧を大きく上昇させるためには、極めて高出力のインフレータが必要であった。高出力のインフレータを用いることで、インフレータが大型化し、インフレータ搭載スペースの確保が困難になったり、コスト増加を招いたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−208513号公報
【特許文献2】特開2008−94343号公報
【特許文献3】特開2015−85867号公報
【特許文献4】特開2015−67182号公報
【特許文献5】特開2015−67183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、歩行者等を受け止めたピラー被覆部の内圧が上昇し易く、かつインフレータの出力を抑えることができる歩行者用エアバッグ装置及び自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の歩行者用エアバッグ装置は、自動車のウィンドシールド及びカウルの少なくとも一部を覆うように左右方向に沿って膨張する主部、及び該主部の左右両端側から後方に延出してAピラーの少なくとも一部を被覆するように膨張するピラー被覆部を有するエアバッグと、該エアバッグが折り畳まれて収容されたリテーナと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータと、を備え、該エアバッグは、膨張した状態において該エアバッグの上面を構成する上側パネル及び下面を構成する下側パネルを有し、前記主部と前記ピラー被覆部とが連なる部分にパーティションクロスが左右方向に沿って設けられ、該パーティションクロスの上縁は該上側パネルに縫合され、下縁は該下側パネルに縫合され、該パーティションクロス、該パーティションクロスの右側及び左側の少なくともいずれか1つに、前記主部と前記ピラー被覆部とを連通するガス流路が設けられているものである。
【0010】
本発明の一態様では、前記パーティションクロスにのみ前記ガス流路が設けられており、該ガス流路となるガス通過用の開口に、前記ピラー被覆部から前記主部へのガス流出を阻止する逆止弁が設けられている。
【0011】
本発明の一態様では、前記パーティションクロスの上縁又は下縁に切欠き部が設けられ、切欠き部分の上縁と前記上側パネルとの間、又は切欠き部分の下縁と前記下側パネルとの間がガス流路となる。
【0012】
本発明の一態様では、前記ガス通過用の開口の面積を、前記パーティションクロスの面積の4〜31%としてもよい。
【0013】
本発明の一態様では、前記パーティションクロスの上縁の一部が前記上側パネルに縫合されていない非縫合部となっているか、又は前記パーティションクロスの下縁の一部が前記下側パネルに縫合されていない非縫合部となっており、該非縫合部がガス流路となる。
【0014】
本発明の一態様では、前記ガス流路は、前記パーティションクロスの右側及び左側の少なくともいずれか一方に設けられており、該パーティションクロスの上縁又は下縁の長さをA、該上縁又は下縁の一方の端点から前記上側パネル及び前記下側パネルの周縁部を縫合する周縁縫合部までの最短距離をB、該上縁又は下縁の他方の端点から該周縁縫合部までの最短距離をCとした場合、(B+C)/(A+B+C)が0.16〜0.42である。この場合、前記パーティションクロスにガス通過用の開口が形成され、該開口に、前記ピラー被覆部から前記主部へのガス流出を阻止する逆止弁が設けられていてもよい。
【0015】
本発明の一態様では、前記パーティションクロスの上下方向の幅員は、自動車の左右幅方向の中央側ほど短くなっている。
【0016】
本発明の自動車は、本発明の歩行者用エアバッグ装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の歩行者用エアバッグ装置では、エアバッグの主部とピラー被覆部とが連なる部分にパーティションクロスが設けられ、該パーティションクロス、該パーティションクロスの右側及び左側の少なくともいずれか1ヶ所にガス流路が設けられている。そのため、ピラー被覆部が歩行者等を受け止めた際にガス流路を介してピラー被覆部から主部へ流出するガス量は少なく、ピラー被覆部の内圧を大きく上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置を備えた自動車前部の平面図である。
図2】歩行者用エアバッグ装置の膨張したエアバッグを示す斜視図である。
図3図1のIII-III線に沿う断面図である。
図4図2のIV-IV線に沿う断面図である。
図5図2のV-V線に沿う断面図である。
図6】膨張させずに展開したエアバッグのピラー被覆部の平面図である。
図7】エアバッグ膨張時の内圧の変化の例を示すグラフである。
図8】別の実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置に用いられているパーティションクロスを示す図である。
図9】(a)(b)は図8のIX-IX線に沿う断面図である。
図10】別の実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置に用いられているパーティションクロスを示す図である。
図11】別の実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置に用いられているパーティションクロスを示す図である。
図12】(a)(b)は図11のXII-XII線に沿う断面図である。
図13】別の実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置に用いられているパーティションクロスを示す図である。
図14】別の実施の形態に係るエアバッグのピラー被覆部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。以下の説明において、前後及び左右は、歩行者用エアバッグ装置を搭載した自動車の前後及び左右を表わす。
【0020】
図1は実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置10を搭載した自動車1の前部の平面図であり、エアバッグが展開した状態を示している。図2はこの歩行者用エアバッグ装置のエアバッグの膨張完了時の斜視図であり、図3図1のIII-III線に沿う断面図、図4、5は図2のIV-IV線、V-V線に沿う断面図である。
【0021】
自動車1はフードパネル2、カウル3、ウィンドシールド4、Aピラー5、歩行者用エアバッグ装置10等を備えている。この実施の形態では、歩行者用エアバッグ装置10は、カウル3に設置されているが、これに限定されるものではなく、フードパネル2の後部に取り付けられてもよい。
【0022】
この歩行者用エアバッグ装置10は、エアバッグ11と、折り畳まれたエアバッグ11を収容する函状のリテーナ12と、エアバッグ11を膨張させるためのインフレータ13と、リッド(図示略)等を備えている。
【0023】
エアバッグ11は、フードパネル2の後部からウィンドシールド4の前部(下部)までを覆うように膨張する主部11aと、該主部11aの左右両端側から後方に延出してAピラー5の少なくとも前部を被覆するように膨張するピラー被覆部11b,11bと、該主部11aの下面に連なる下方延出部11cとを有している。主部11a、ピラー被覆部11b,11b及び下方延出部11cは連通している。
【0024】
エアバッグ11が膨張した状態において、主部11aは、自動車1の左端から右端まで連続して延在している。
【0025】
下方延出部11cは、エアバッグ11の膨張状態において、主部11aの下面からリテーナ12内にまで延在している。この実施の形態では、下方延出部11c内にインフレータ13が配置されている。
【0026】
インフレータ13はロッド状であり、一端側にガス噴出口が設けられている。インフレータ13は、長手方向を車体左右方向としている。インフレータ13から突設されたスタッドボルト(図示略)が下方延出部11c及びリテーナ12の底面を貫通し、ナット締めされることにより、インフレータ13がリテーナ12に固定されている。
【0027】
エアバッグ11は基布を縫製することにより構成されている。この実施の形態では、主部11aの上面を構成する基布(パネル)15と、主部11aの下面を構成するパネル16との周縁部が縫合糸14によって縫合されることによりエアバッグ11が構成されている。
【0028】
主部11aにおいて、上側パネル15と下側パネル16とはテザーパネル17によって連結されている。テザーパネル17は、自動車車体の左右方向に延在しており、上縁及び下縁がそれぞれ縫合糸18,19によって上側パネル15及び下側パネル16に縫合されている。
【0029】
テザーパネル17の左右方向の端部と主部11aの左右の側辺部との距離は300mm以下特に250mm以下であることが好ましい。テザーパネル17のパネル15,16を結ぶ上下方向の幅員は80〜220mm特に100〜200mm程度が好ましい。なお、テザーパネル17は一枚物である必要はなく、2枚以上に分割されていてもよい。
【0030】
テザーパネル17の左右方向の両端と主部11aの左右両側端との間には、ガスが通過する間隔があいている。この実施の形態では、テザーパネル17に、ガス通過用の複数の開口17aが設けられているが、この開口17aは省略されてもよい。
【0031】
この実施の形態では、主部11aとピラー被覆部11bとが連なる部分付近に、主部11aとピラー被覆部11bとを区画するパーティションクロス(サイドテザーパネル)20が左右方向(略左右方向)に沿って設けられている。パーティションクロス20は、上縁及び下縁がそれぞれ縫合糸21,22によって、上側パネル15及び下側パネル16に縫着されている。
【0032】
この実施の形態では、パーティションクロス20は、主部11aの自動車後方側の後縁部と平行に、例えば主部11aの後縁部の延長線上に位置するように設けられている。なお、パーティションクロス20は、自動車の左右幅方向の中央側ほど自動車前方となるように設けられていてもよい。
【0033】
この実施の形態では、パーティションクロス20のパネル15,16を結ぶ上下方向の幅員は、自動車の左右幅方向の中央側ほど短くなっており、例えばパーティションクロス20の形状は等脚台形となっている。この台形の脚部がパーティションクロス20の上縁及び下縁に相当し、それぞれ縫合糸21,22によって、上側パネル15及び下側パネル16に縫着されている。
【0034】
この台形の1組の平行な対辺(台形の底)のうち、自動車の左右幅方向の中央側に位置する辺20aの長さ、すなわちパーティションクロス20のうち、自動車の左右幅方向の最も中央側での上下方向の幅員は、50から180mm、特に60から120mm程度が好ましい。
【0035】
台形の1組の平行な対辺のうち、自動車の左右幅方向の外側に位置する辺20bの長さ、すなわちパーティションクロス20のうち、自動車の左右幅方向の最も外側での上下方向の幅員は、80〜220mm、特に100から160mm程度が好ましい。
【0036】
パーティションクロス20の形状は、等脚台形以外の台形でもよいし、矩形でもよい。矩形の場合、上下方向の幅員は、50〜180mm、特に60〜140mm程度が好ましい。
【0037】
パーティションクロス20の辺20aよりも自動車の左右幅方向の中央側、すなわち辺20a、上側パネル15及び下側パネル16によって囲まれる領域がガス流路31となる。また、パーティションクロス20の辺20bよりも自動車の左右幅方向の外側、すなわち辺20b、上側パネル15及び下側パネル16によって囲まれる領域がガス流路32となる。ガス流路31,32は、主部11aとピラー被覆部11bとを連通する連通孔である。
【0038】
図6は、エアバッグ11を膨張させずに展開した時のエアバッグ11の一部(ピラー被覆部11b及びその近傍)の平面図である。パーティションクロス20の上縁(又は下縁)と上側パネル15(又は下側パネル16)とを縫合する縫合部(縫合糸21又は22)の長さをA、縫合糸21(又は22)の自動車の左右幅方向の中央側の端点21aと、上側パネル15及び下側パネル16を縫合する周縁縫合部(縫合糸14)との最短距離をB、縫合糸21(又は22)の自動車の左右幅方向の外側の端点21bと、上側パネル15及び下側パネル16を縫合する周縁縫合部(縫合糸14)との最短距離をCとした場合、ガス流路係数Fc=(B+C)/(A+B+C)を、0.16〜0.42、特に0.24〜0.34程度とすることが好ましい。
【0039】
長さAは、パーティションクロス20の上縁又は下縁の長さということもできる。また、端点21aはパーティションクロス20の上縁又は下縁の自動車の左右幅方向の中央側の端点、端点21bはパーティションクロス20の上縁又は下縁の自動車の左右幅方向の外側の端点ということもできる。長さAは、300から450mm、特に350から400mm程度が好ましい。
【0040】
このエアバッグ11が折り畳まれてリテーナ12に収容され、リッド(図示略)によって該リテーナ12の上面が閉鎖される。エアバッグ11の折り畳み方法は、ロール折り、蛇腹折り、それらの併用など任意である。
【0041】
エアバッグ11を折り畳んだ後、エアバッグ折畳体を布やフィルム等よりなる保形クロス(図示略)によって被包して保形することが好ましい。この保形クロスには、エアバッグ11が膨張するときに開裂するようにミシン目状のスリット等の開裂部が設けられている。
【0042】
この歩行者用エアバッグ装置10を搭載した自動車1が歩行者等と接触してインフレータ13が作動すると、エアバッグ11が図1〜3のように膨張展開し、カウル3、フードパネル2の後部及びウィンドシールド4の前部が主部11aで覆われ、Aピラー5の少なくとも前部及びその近傍がピラー被覆部11bで覆われ、歩行者等が直接にカウル3やAピラー5に当たることが防止される。
【0043】
図7は、エアバッグ11が膨張展開する際の主部11a及びピラー被覆部11bの内圧の変化の一例を示すグラフである。図中破線が主部11aの内圧変化を示し、実線がピラー被覆部11bの内圧変化を示す。
【0044】
主部11aはインフレータ13から供給されたガスにより速やかに膨張展開する。一方、ピラー被覆部11bは、主部11aからガス流路31,32を介して流入したガスにより膨張展開する。そのため、主部11aの内圧は、ピラー被覆部11bの内圧よりも早く上昇し、所望の圧力Pに到達する。
【0045】
ガス流路係数Fcが0.16以上であるため、ガス流路31,32を介して流入したガスにより、ピラー被覆部11bの内圧は、自動車1と接触した歩行者等がピラー被覆部11bに到達するよりも早い所望の時刻Tまでには所望の圧力Pに到達する。
【0046】
また、ガス流路係数Fcが0.42以下であるため、ピラー被覆部11bが、自動車1と接触した歩行者等を受け止めた際にガス流路31,32を介してピラー被覆部11bから主部11aへ流出するガス量は少なく、図7に示すように、ピラー被覆部11bの内圧は主部11aの内圧よりも大きく上昇する。
【0047】
このように、本実施の形態では、ガス流路係数Fcを0.16〜0.42としているため、ピラー被覆部11bの内圧を許容時間内に所望の圧力Pまで上昇させることができる。また、インフレータ13が高出力のものでなくても、歩行者等を受け止めた際のピラー被覆部11bの内圧を上昇し易くすることができる。
【0048】
また、パーティションクロス20のパネル15,16を結ぶ上下方向の幅員は、自動車の左右幅方向の外側ほど長くなっている。そのため、ピラー被覆部11bのうち、剛性の高いAピラー5の直上に位置する左右幅方向の外側のバッグ厚を厚くすることができる。
【0049】
図8に示すように、パーティションクロス20にガス通過用開口23を形成すると共に、ガス通過用開口23を覆うテザー40からなる逆止弁を設けてもよい。テザー40はパーティションクロス20のピラー被覆部11b側の面に設けられ、上縁及び下縁がパーティションクロス20に縫着されている。
【0050】
図9(a)(b)は図8のIX-IX線に沿う断面図であり、図9(a)はピラー被覆部11bの膨張途中の状態を示し、図9(b)はピラー被覆部11bが歩行者等を受け止めた際の状態を示している。
【0051】
図9(a)に示すように、ピラー被覆部11bの膨張時はガス通過用開口23が開くため、ガス流路31,32及びガス通過用開口23を介してピラー被覆部11bにガスが流入し、ピラー被覆部11bを早期に膨張展開することができる。
【0052】
図9(b)に示すように、ピラー被覆部11bが歩行者等を受け止めた際、テザー40はパーティションクロス20に貼りつき、ガス通過用開口23はテザー40で塞がれ、ピラー被覆部11bから主部11aへのガス流出が阻止される。そのため、ピラー被覆部11bの内圧を上昇し易くすることができる。
【0053】
パーティションクロス20にガス通過用開口23を形成する場合は、ガス通過用開口23の開口面積に応じて、ガス流路係数Fcを0.16より小さくしてもよい。
【0054】
上記実施の形態では、パーティションクロス20の左右両側にガス流路31,32を設ける例について説明したが、ガス流路31,32の一方を省略してもよい。
【0055】
図10に示すように、パーティションクロス20の左右両側のガス流路31,32を省略し、主部11aとピラー被覆部11bとを連通する連通孔が、パーティションクロス20に形成されたガス通過用開口23のみとなるようにしてもよい。パーティションクロス20には、ガス通過用開口23を覆うテザー40からなる逆止弁が設けられている。
【0056】
ガス通過用開口23の開口面積は、パーティションクロス20の上縁と上側パネル15とを縫合する縫合部(縫合糸21)と、パーティションクロス20の下縁と下側パネル16とを縫合する縫合部(縫合糸22)とで囲まれるパーティションクロス20の面積の4〜31%、特に4〜7%程度とすることが好ましい。
【0057】
ガス通過用開口23の開口面積がパーティションクロス20の面積の4%以上であるため、ガス通過用開口23を介して流入したガスにより、ピラー被覆部11bの内圧は、自動車1と接触した歩行者等がピラー被覆部11bに到達するよりも早い所望の時刻Tまでには所望の圧力Pに到達する。
【0058】
また、パーティションクロス20には、テザー40からなる逆止弁が設けられているため、ピラー被覆部11bが、自動車1と接触した歩行者等を受け止めた際に、テザー40がパーティションクロス20に貼りついてガス通過用開口23を塞ぎ、ピラー被覆部11bから主部11aへのガス流出が阻止される。また、ガス通過用開口23の開口面積をパーティションクロス20の面積の31%以下とすることで、テザー40からなる逆止弁により、ピラー被覆部11bから主部11aへのガス流出を阻止し易くできる。そのため、ピラー被覆部11bの内圧を上昇し易くすることができる。
【0059】
パーティションクロス20にガス通過用開口23を複数設けてもよい。この場合、複数のガス通過用開口23の開口面積の合計が、パーティションクロス20の面積の4〜31%、特に4〜7%程度となるようにすることが好ましい。それぞれのガス通過用開口23にテザー40からなる逆止弁が設けられる。
【0060】
なお、パーティションクロス20の左右両側のガス流路31,32を省略した場合でも、パーティションクロス20の縫合処理の関係上、パーティションクロス20の左右両側に、主部11aとピラー被覆部11bとを連通するごく小さな連通孔が存在し得るが、ガス通過用開口23と比較すると極めて小さく、この連通孔を介したガスの流出入はほとんどない。
【0061】
図10はガス通過用開口23をパーティションクロス20の上下方向の中間部に設ける構成を示しているが、図11に示すように、ガス通過用開口23をパーティションクロス20の下部に設けてもよい。
【0062】
図12(a)に示すように、パーティションクロス20にガス通過用開口23を設けてもよいし、図12(b)に示すように、切欠き状のガス通過用開口23をパーティションクロス20に設けてもよい。図12(b)に示す構成では、パーティションクロス20の切欠き部分の下縁と、下側パネル16とで囲まれた領域が、主部11aとピラー被覆部11bとを連通する連通孔としてのガス通過用開口23となる。
【0063】
図12(a)に示す構成では、ガス通過用開口23を覆うテザー40の上部が縫合糸41によってパーティションクロス20に縫合され、テザー40の下部が、縫合糸22によってパーティションクロス20と共に下側パネル16に縫合される。
【0064】
図12(b)に示す構成では、ガス通過用開口23を覆うテザー40の上部とパーティションクロス20とが縫合糸41によって縫合され、テザー40の下部と下側パネル16とが、パーティションクロス20と下側パネル16とを縫合する縫合糸22によって縫合されている。
【0065】
ガス通過用開口23は、パーティションクロス20の上部に設けてもよいし、上部と下部の両方に設けてもよい。
【0066】
図13図14に示すように、パーティションクロス20の上縁及び下縁を縫合糸21D,22Dで上側パネル15及び下側パネル16に縫合すると共に、パーティションクロス20の上縁及び下縁の一部を上側パネル15及び下側パネル16に縫合しない非縫合部24、25としてもよい。図13図14に示す例では、パーティションクロス20の上縁及び下縁の中央部を非縫合部24、25としている。非縫合部24、25が、主部11aからピラー被覆部11bへのガス流路となる。
【0067】
非縫合部24、25の位置は、自動車の左右幅方向の内側でもよいし外側でもよい。また、非縫合部24、25のうちのいずれか一方を省略してもよい。
【0068】
上記実施の形態は、いずれも本発明の一例であり、本発明は図示の状態に限定されない。
【符号の説明】
【0069】
1 自動車
2 フードパネル
3 カウル
4 ウィンドシールド
5 Aピラー
10 歩行者用エアバッグ装置
11 エアバッグ
11a 主部
11b ピラー被覆部
11c 下方延出部
12 リテーナ
13 インフレータ
15 上側パネル
16 下側パネル
17 テザーパネル
20 パーティションクロス
21,22 縫合糸
23 ガス通過用開口
図1
図2
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