【実施例1】
【0015】
図1は本発明によるモータ駆動装置を備えた空気調和機の実施例を示すブロック図である。
この空気調和機1は、室内機2と、交流電源4が入力される室外機3とが備えられており、室内機2と室外機3とは通信接続されている。なお、空気調和機1は図示しない圧縮機や熱交換器、冷媒回路、送風ファンなどを備えているが図示と説明とを省略する。
【0016】
室外機3は、交流電源4が入力されて変換された直流電源を出力するコンバータ31と、内部にU相の巻線33U、V相の巻線33V、W相の巻線33Wが巻かれた図示しないステータを備えており、それぞれの巻線の一端が共通に接続されている三相のモータ33と、コンバータ31の出力電圧でこのモータ33を駆動するモータ駆動装置5と、室内機2の指示に従って室外機3を制御する室外機制御部36を備えている。
【0017】
モータ駆動装置5は、トーテムポール型に接続された2個のスイッチング素子(IGBT)を有するアームを3個備え、コンバータ31から出力された直流電圧を三相の交流電圧に変換してモータ33の各巻線に三相の交流電圧を出力するインテリジェントパワーモジュール(インバータ)32と、インテリジェントパワーモジュール32に駆動信号を出力するインバータ制御部35とを備えている。
【0018】
なお、インテリジェントパワーモジュール32とモータ33とを接続する配線を相ラインと呼称する。また、コンバータ31とインテリジェントパワーモジュール32とを接続する電源線のうち正極側をPライン、負極側をNラインとそれぞれ呼称する。また、モータ33の巻線33U、巻線33V、巻線33Wの他端がインテリジェントパワーモジュール32と接続される相ラインを、それぞれU相ライン、V相ライン、W相ラインと呼称する。
【0019】
さらにモータ駆動装置5は、インテリジェントパワーモジュール32とインバータ制御部35の間に設けられ、インテリジェントパワーモジュール32を介してU相ラインとV相ライン、及びV相ラインとW相ライン、及びU相ラインとW相ラインをそれぞれ短絡させることでモータ33が減速するときに発生する回生電力を低減させる回生電力低減部(回生電力低減手段)20と、モータ33の各相ラインに接続されてモータ33の回転位置を検出する回転位置検出部40とを備えている。なお、検出された回転位置は回転位置信号として回生電力低減部20とインバータ制御部35に出力されている。また、室外機制御部36はインバータ制御部35にモータ33の回転数である回転数指令値を出力している。
【0020】
インバータ制御部35は、室外機制御部36が出力する回転数指令信号の指示回転数にモータ33の回転数が近づくように、回転位置検出部40から出力される回転位置信号に基づいて巻線33U、巻線33V、巻線33Wへの通電を切り替える。また、インバータ制御部35はインテリジェントパワーモジュール32の各スイッチング素子をオン、オフ駆動するスイッチング信号のデューティーを制御するPWM制御を実行する。
【0021】
インテリジェントパワーモジュール32は、コンバータ31の出力の正極が接続される入力端32aと、負極が接続される入力端32bと、各アームを駆動する電源であるドライバ駆動電源34が接続される電源端子32cと、内部のIGBTの過熱を報知する温度異常信号が出力される状態端子32gと、各IGBTを駆動する6つのスイッチング信号が入力される信号端子32hと、ブートストラップコンデンサが接続される端子32kと端子32jと端子32iと、モータ33のU相ライン、V相ライン、W相ラインがそれぞれ接続される出力端32dと出力端32eと出力端32fを備えている。
【0022】
そして、ドライバ駆動電源34の正極が電源端子32cに、負極がグランドがそれぞれ接続されている。また、ブートストラップコンデンサ39の正極が端子32kに、負極が出力端32fに接続され、ブートストラップコンデンサ38の正極が端子32jに、負極が出力端32eに接続され、ブートストラップコンデンサ37の正極が端子32iに、負極が出力端32dに接続されている。そして状態端子32gから出力される温度異常信号は回生電力低減部20とインバータ制御部35にそれぞれ出力されている。
【0023】
図2は本発明によるインテリジェントパワーモジュール32と、これに接続されるモータ33とブートストラップコンデンサ37、38、39の接続と、ドライバ駆動電源34の接続を示すブロック図である。モータ33はU相の巻線33U,V相の巻線33V,W相の巻線33Wを備えており、それぞれの巻線の一端が共通に接続されている。また、信号端子32hを介して各IGBTを駆動するスイッチング信号UP,VP,WP,UN,VN,WNが各IGBTを駆動するドライバにそれぞれ入力されている。
【0024】
インテリジェントパワーモジュール32は以下に説明する構成が備えられている。
上アームとしてのIGBT61と下アームとしてのIGBT71とがトーテムポール型に接続されており、IGBT61のエミッタ端子とIGBT71のコレクタ端子とが接続されている。
同様に上アームとしてのIGBT62と下アームとしてのIGBT72とがトーテムポール型に接続されており、IGBT62のエミッタ端子とIGBT72のコレクタ端子とが接続されている。
同様に上アームとしてのIGBT63と下アームとしてのIGBT73とがトーテムポール型に接続されており、IGBT63のエミッタ端子とIGBT73のコレクタ端子とが接続されている。
【0025】
なお、各IGBTのコレクタ端子にはカソード端子が、エミッタ端子にはアノード端子が、それぞれ接続された還流ダイオードが接続されている。さらに上アームの各IGBTのコレクタ端子はPラインに接続され、下アームの各IGBTのエミッタ端子はNライン(グランド)に接続されている。
【0026】
そしてIGBT61のゲート端子には、入力されたスイッチング信号UPでIGBT61を駆動するドライバ64の出力が接続され、IGBT62のゲート端子には、入力されたスイッチング信号VPでIGBT62を駆動するドライバ65の出力が接続され、IGBT63のゲート端子には、入力されたスイッチング信号WPでIGBT63を駆動するドライバ66の出力が接続されている。一方、下アームの各IGBTのゲート端子は下アーム用のドライバ67の出力に接続されている。そして、スイッチング信号UNでIGBT71が、スイッチング信号VNでIGBT72が、スイッチング信号WNでIGBT73が、それぞれ駆動される。
【0027】
各ドライバに電源を供給するため、電源端子32cがドライバ67と、ダイオード51とダイオード52とダイオード53の各アノード端子に接続されている。そして、ダイオード51のカソード端子は抵抗54を介して端子32iとドライバ64に接続され、ダイオード52のカソード端子は抵抗55を介して端子32jとドライバ65に接続され、ダイオード53のカソード端子は抵抗56を介して端子32kとドライバ66に接続されている。
【0028】
一方、インテリジェントパワーモジュール32は温度保護部57を備えており、いずれかのIGBTの温度が許容値以上となると全ての下アームをオフする下アームオフ信号をドライバ67に出力すると共に、状態端子32gからパルス信号である温度異常信号を出力する。
【0029】
以上のようにインテリジェントパワーモジュール32が構成されている。そして、15.7ボルトのドライバ駆動電源34の電圧が電源端子32cを介して各ドライバに印加されると、下アームはスイッチング信号UN,VN,WNに従ってオン又はオフになる。一方、ドライバ駆動電源34の電圧はダイオード51,52,53のアノード端子に供給されており、下アームがオンとなっている間、この下アームと対応する上アームを駆動するための電源を保持するブートストラップコンデンサ37、38、39を予め定めた所定電圧である15ボルト(満充電電圧)まで充電することができる。
【0030】
従って各下アームをオンにすることで、各ブートストラップコンデンサを充電し、下アームがオフとなっても、この充電された電荷を用いて上アームを駆動することができる。ただし、最初に起動する場合は下アームをオンにして各ブートストラップコンデンサを充電してから動作を開始する必要がある。また、インテリジェントパワーモジュール32をインバータとして使用する場合、上下アーム共オンオフに変化するスイッチング信号で駆動されるため、上アームを所定時間、つまり、ブートストラップコンデンサの電圧が上アームを駆動できる最低の電圧である許容放電電圧値未満に低下しない期間で使用しなければならない。
【0031】
図3は本発明による回生電力低減部20を説明するブロック図である。
回生電力低減部20は、ブートストラップコンデンサにおける所定電圧(満充電電圧)から上アームが動作可能な許容放電電圧に低下するまでの時間である最大動作時間が予め記憶された記憶部(記憶手段)41と、上アームがオンした時間の合計である合計オン時間をそれぞれの上アーム毎に算出して記憶部41に記憶し、この記憶された中で最も長い最大合計オン時間を記憶部41から抽出して出力するオン時間算出部(オン時間算出手段)22と、記憶部41から読み出した最大動作時間から、入力された最大合計オン時間を差し引いて、ブートストラップコンデンサの電圧が上アームを駆動できる許容放電電圧値まで低下するまでの残時間を算出する残時間算出部(残時間算出手段)23と備えている。
【0032】
また、回生電力低減部20は、パルス信号である初回タイマー信号をこの算出した残時間だけ出力する初回タイマー部(初回タイマー手段)24と、オア回路(オア手段)25と、モータ33を駆動するためのスイッチング信号UP1,VP1,WP1,UN1,VN1,WN1か、モータ33を停止するためにモータ33の各巻線を短絡させる上アーム信号が入力されるUP2,VP2,WP2の各端子の信号と下アーム信号が入力されるUN2,VN2,WN2の各端子の信号とのいずれか一方を切り換えてスイッチング信号UP,VP,WP,UN,VN,WNとして出力する信号切換部(信号切換手段)21を備えている。
【0033】
また、回生電力低減部20は、モータ33を停止するためにモータ33の各巻線を短絡させる停止処理の時間を管理する停止処理時間管理部(停止処理時間管理手段)26と、入力された回転位置信号から回転数(rpm)を算出して停止処理時間管理部26へ出力する回転数算出部(回転数算出手段)30と、モータ33の停止処理中に上アームをオンさせる上アーム信号を出力する上アームタイマー部(上アームタイマー手段)28と、モータ33の停止処理中に下アームをオンさせる下アーム信号を出力する下アームタイマー部(下アームタイマー手段)29と、上アームタイマー部28と下アームタイマー部29の動作を管理するタイマー管理部(タイマー管理手段)27を備えている。
【0034】
停止処理時間管理部26は、インバータ制御部35が指示する運転停止信号と、インテリジェントパワーモジュール32が出力する温度異常信号と、スイッチング信号UP1と、回転数算出部30が出力する回転数(rpm)が、それぞれ入力されている。一方、停止処理時間管理部26が出力し、回生電力低減処理を実行する期間を示す停止処理信号を、オン時間算出部22と信号切換部21とタイマー管理部27にそれぞれ出力する。
【0035】
また、初回タイマー部24は、初回タイマー信号をオア回路25とタイマー管理部27へそれぞれ出力する。一方、上アームタイマー部28は、タイマー管理部27から出力される上アームの開始信号が入力され、上アームタイマー部28から出力される上アーム信号はオア回路25とタイマー管理部27へそれぞれ出力されている。さらに、オア回路25の出力は信号切換部21のUP2,VP2,WP2の各端子へ出力されている。
【0036】
また、下アームタイマー部29は、タイマー管理部27から出力される下アームの開始信号が入力され、下アームタイマー部29から出力される下アーム信号は信号切換部21のUN2,VN2,WN2の各端子とタイマー管理部27へそれぞれ出力されている。
【0037】
次に回生電力低減部20の各部の動作について説明する。
モータ33を回転させる場合、インバータ制御部35は、インテリジェントパワーモジュール32を介してモータ33の各巻線に電圧を印加するためにオンオフを繰り返すスイッチング信号を連続的に発生させるスイッチング期間と、スイッチングを休止する休止期間を交互に繰り返して発生させている。また、インバータ制御部35から出力されるスイッチング信号UP1,VP1,WP1はそれぞれ120度の位相差を有し、スイッチング信号UN1,VN1,WN1は、それぞれ120度の位相差を有すると共に、スイッチング信号UP1,VP1,WP1に対して、それぞれの信号が180度の位相差を有している。また、上アームがオフとなって休止している時、対応する下アームがオンとなるタイミングが必ず存在するため、このタイミングでブートストラップコンデンサを所定電圧、ここでは満充電電圧まで充電することができる。これらの詳しいタイミングについては後で説明する。
【0038】
オン時間算出部22は、上アームがオフとなる休止期間になってから次に上アームがオンとなるタイミング、つまりスイッチング期間の開始を監視し、これを検出してからスイッチング期間における上アームの合計オン時間を各アーム毎に算出して、それぞれの合計オン時間の値を記憶部41に記憶する。
【0039】
そして停止処理時間管理部26から出力される停止処理信号がローレベルからハイレベルに変化した時、つまり、モータ33の停止処理である回生電力の低減処理が開始された時、オン時間算出部22は、記憶部41から各アーム毎の合計オン時間を読み出す。そして、オン時間算出部22は、回生電力の低減処理の開始時刻からスイッチング期間と同じ時間だけ遡った期間における各上アーム毎の合計オン時間を算出する。そして3種類の上アームのそれぞれの合計オン時間値のうち最も大きい値である最大合計オン時間を残時間算出部23へ出力する。これは合計オン時間値のうち最も大きい値の上アームは、対応するブートストラップコンデンサの電圧が3つのブートストラップコンデンサの中で最も低い、つまり、次に上アームをオンにする場合、3つの上アームの中で最もオンできる時間が短いからである。
【0040】
一方、本実施例ではインバータ制御部35が三相モータを制御している。そして上アームの3つの相のスイッチング信号においてある相が休止期間の場合、他の相が順次スイッチング期間となる。これは2つの上アームの合計オン時間のみを比較して時間が大きい方の値を抽出するだけでよいため、3つの上アームと対応する合計オン時間の大小判別が容易である。
【0041】
残時間算出部23は、記憶部41から最大動作時間を読み出し、この最大動作時間から入力された合計オン時間値を差し引いた残動作時間を算出して初回タイマー部24へ出力する。初回タイマー部24は、この残動作時間だけハイレベルとなる初回タイマー信号をオア回路25とタイマー管理部27と停止処理時間管理部26へ出力する。
【0042】
初回タイマー信号はオア回路25に入力されると、オア回路25は初回タイマー信号がハイレベルとなる期間、信号切換部21のUP2,VP2,WP2の各端子へハイレベルの信号を出力する。一方、この時点で下アームタイマー部29は動作していないため、下アーム信号はローレベルのままである。このため、信号切換部21のUN2,VN2,WN2の各端子はローレベルとなっている。
【0043】
一方、停止処理信号がハイレベルの期間において信号切換部21は、スイッチング信号UP1,VP1,WP1,UN1,VN1,WN1に代えてUP2,VP2,WP2の各端子の信号とUN2,VN2,WN2の各端子の信号をUP信号,VP信号,WP信号,UN信号,VN信号,WN信号としてインテリジェントパワーモジュール32へ出力する。このため、上アームは残時間算出部23で算出された残動作時間の期間だけモータ33の巻線を短絡することになる。
【0044】
このように回生電力低減部20は、モータ33の負荷によって異なるスイッチング信号のパルス幅の時間をオン時間算出部22で常に検出・合計し、3つの上アームのそれぞれ合計オン時間が最も大きい最大オン時間合計を抽出し、これで駆動できる上アームのオン時間(残動作時間)を算出し、この時間だけモータ33の巻線を短絡させる。
【0045】
一方、前述したように、温度保護部57によっていずれかのIGBTの温度異常が検出された場合、温度保護部57が全ての下アームをオフにするため、下アームで巻線の短絡ができない状況が発生する。この状態を温度異常信号で検出した回生電力低減部20は、上アームをオン可能な最大の時間、つまり、ブートストラップコンデンサの電圧が許容放電電圧に低下するまでの時間だけ連続的に上アームをオンとして巻線を短絡させる。これによって回生電力によるPラインとNライン間における異常な電圧上昇を抑制してインテリジェントパワーモジュール32やコンバータ31の回路を保護することができる。
【0046】
一方、タイマー管理部27の許可端子には停止処理信号が入力されており、停止処理信号がハイレベルの期間だけタイマー管理部27が動作するようになっている。また、タイマー管理部27の開始端子には初回タイマー信号が入力されており、この信号がハイレベルからローレベルに変化した時、つまり、初回タイマー部24による最初の上アームのオンが終了した時、タイマー管理部27は下アームタイマー部29のタイマー起動と、このタイマーの終了待ちを実行し、このタイマーが終了した直後に上アームタイマー部28のタイマー起動と、このタイマーの終了待ちを実行する。そして、このタイマーが終了した直後に下アームタイマー部29のタイマー起動と終了待ちを実行し、この2つのタイマー部の交互の動作を停止処理信号がローレベルになるまで繰り返して実行する。
【0047】
タイマー管理部27は上アームタイマー部28にタイマーの開始信号を出力し、上アームタイマー部28はこの開始信号に従って予め規定された上アームタイマー時間だけハイレベルとなる上アーム信号を出力する。この上アーム信号はタイマー管理部27に入力されており、タイマー管理部27は上アーム信号がハイレベルからローレベルになることでタイマーの終了を検出することができる。なお、上アームタイマー時間は、各ブートストラップコンデンサが所定電圧(満充電電圧)から上アームを連続オンすることで許容放電電圧に低下するまでの時間を予め実験的に求めた時間である。なお、上アームタイマー時間は実験的に求めてもよいし、供給電圧や配線インピーダンス、ブートストラップコンデンサの容量から計算で求めてもよい。
【0048】
また、タイマー管理部27は下アームタイマー部29にタイマーの開始信号を出力し、下アームタイマー部29はこの開始信号に従って予め規定された下アームタイマー時間だけハイレベルとなる下アーム信号を出力する。この下アーム信号はタイマー管理部27に入力されており、タイマー管理部27は下アーム信号がハイレベルからローレベルになることでタイマーの終了を検出することができる。なお、下アームタイマー時間は、各ブートストラップコンデンサが許容放電電圧から所定電圧(満充電電圧)に上昇するまでの時間を予め実験的に求めた時間である。なお、下アームタイマー時間は実験的に求めてもよいし、供給電圧や配線インピーダンス、ブートストラップコンデンサの容量から計算で求めてもよい。
【0049】
停止処理時間管理部26は、インバータ制御部35から出力される運転停止信号とインテリジェントパワーモジュール32から出力される温度異常信号がそれぞれ入力されている。運転停止信号は室内機2の指示や室外機制御部36の判断による空気調和機1の運転停止を意味しており、温度異常信号はこのような指示とは無関係にインテリジェントパワーモジュール32の温度異常を意味している。
【0050】
停止処理時間管理部26は、温度異常信号が入力された場合は下アームによる回生電力低減が実行できないと判断し、上アームによる1回のみの巻線短絡処理を実行する。この場合、停止処理時間管理部26は、入力された初回タイマー信号がハイレベルからローレベルに変化した時、上アームによる初回の巻線短絡が完了したと認識して停止処理信号をハイレベルからローレベルにする。
【0051】
一方、停止処理時間管理部26は、温度異常信号が入力さずに運転停止信号のみが入力された場合は下アームによる回生電力低減が使用できると判断し、初回タイマー部24による上アームのオンが終了した後、下アーム/上アームによる交互の巻線短絡処理を実行する。この場合、停止処理時間管理部26は入力された初回タイマー信号を無視する。
また、停止処理時間管理部26は運転停止信号が入力された場合、モータ33の負荷状態と回転数とにより求められる停止時間だけ上アーム/下アームによる交互の巻線短絡処理を実行する。次にこの停止時間の算出方法を説明する。
【0052】
停止処理時間管理部26は、スイッチング信号UP1と回転数信号が入力されており、停止処理時間管理部26は、最新のスイッチング信号UP1のパルス幅(IGBT61がオンとなる時間)と最新の回転数を記憶部41に常に記憶している。そして、停止処理時間管理部26は運転停止信号が入力された時に、直前のスイッチング信号UP1のパルス幅と回転数(rpm)を記憶部41から読み出す。スイッチング信号UP1のパルス幅はPWM制御された結果であり、このパルス幅はモータ33の負荷の大きさを示している。この負荷の大きさである負荷トルク(単位はニュートンメートル)とこのパルス幅との関係を予め実験的に求めてあり、記憶部41に対比表として記憶されている。
【0053】
次に回生電圧を抑制するための巻線の短絡処理時間の算出方法について説明する。
短絡処理時間:t(単位は秒)、
モータ33の慣性モーメント:Jm(単位はキログラム平方メートル)、
モータ33の制動直前の回転速度:N(単位は回転数/毎分)、
負荷トルク:TL(単位はニュートンメートル)と規定した場合、
短絡処理時間: t=Jm×N/(9.55×TL)・・・・・・・・式1
なお、慣性モーメント:Jmはモータ33の仕様書に記載されている値が予め記憶部41に記憶されている。そして停止処理時間管理部26は、回転速度:Nを回転数算出部30から入力し、また、負荷トルク:TLは前述したようにスイッチング信号UP1のパルス幅を記憶部41が記憶している対比表から抽出し、これらを式1に代入して短絡処理時間:tを算出し、この算出した時間だけ停止処理信号をハイレベルにする。
なお、簡易的には短絡処理時間を予め実験で求めたモータ33の最高速からの停止時間としてもよい。
【0054】
次に
図4の説明図を用いて本発明による回生電力低減部20の動作を説明する。
図4の横軸は時間である。
図4の縦軸においてインテリジェントパワーモジュール32に出力される
図4(1)はUP信号、
図4(2)はVP信号、
図4(3)はWP信号、
図4(4)はUN信号、
図4(5)VN信号、
図4(6)はWN信号を示している。
【0055】
さらに、
図4の縦軸において
図4(7)はブートストラップコンデンサ37、
図4(8)はブートストラップコンデンサ38、
図4(9)はブートストラップコンデンサ39、のそれぞれの両端電圧を示している。
【0056】
さらに、
図4の縦軸において
図4(10)は運転停止信号を、
図4(11)は停止処理信号を、
図4(12)は初回タイマー信号を、
図4(13)は上アーム信号を、
図4(14)は下アーム信号を、
図4(15)はインテリジェントパワーモジュール32の入力電圧を、
図4(16)は温度異常信号をそれぞれ示している。なお、t0t〜15は時刻を示している。
まず最初に運転停止信号が出力された場合の動作について説明し、その説明の後で温度異常信号が出力された場合について説明する。
【0057】
t0〜t11の期間におけるUP信号,VP信号,WP信号,UN信号,VN信号,WN信号はインテリジェントパワーモジュール32を介してモータ33を回転させるスイッチング信号であり、運転停止信号、もしくは温度異常信号がローレベルからハイレベルに変化するt11まで出力されている。運転停止信号、もしくは温度異常信号がローレベルの時は信号切換部21が選択するスイッチング信号UP1,VP1,WP1,UN1,VN1,WN1がそのままインテリジェントパワーモジュール32へ出力される。
【0058】
インバータ制御部35はスイッチング信号UP1,VP1,WP1毎にPWM変調されたスイッチング期間の次に、この期間の2倍の期間がローレベルの休止期間として続くように1周期を構成して制御し、各スイッチング信号は位相が120度ごとに順次ずれたタイミングになっている。さらに、スイッチング信号UN1,VN1,WN1も同様に位相が120度ごとに順次ずれたタイミングになっている。そして、インバータ制御部35は、スイッチング信号UP1,VP1,WP1に対してスイッチング信号UN1,VN1,WN1が180度の位相遅れとなるように制御している。
【0059】
このため、例えばUP信号がスイッチングを開始するt8からスイッチングが終了するt10の期間でブートストラップコンデンサ37の電圧は
図4(7)に示すように低下する。一方、VP信号がオフとなったt6〜t10の期間において、この上アームと対応する下アームの信号であるVN信号は、t6〜t7、及びt9〜t10でローレベルとなっており、VP信号で駆動されるIGBT62用のブートストラップコンデンサ38を、少なくともt10までに所定電圧(満充電)まで充電することができる。また、WP信号はt8でスイッチングを終了しており、t8〜t11でブートストラップコンデンサ39をほぼ所定電圧まで充電することができる。
【0060】
オン時間算出部22は、スイッチング信号UP1,VP1,WP1毎に算出した運転停止信号もしくは、温度異常信号の発生直前の所定期間であるオン時間集計期間(スイッチング期間と同じ長さ)における3つの合計オン時間から最も長い最大合計オン時間を抽出する。具体的にはスイッチング期間と同じ時間であるt8.5〜t11の期間におけるUP信号,VP信号,WP信号(スイッチング信号UP1,VP1,WP1)におけるそれぞれの合計オン時間を算出する。この場合、UP信号がt8.5〜t10であり、VP信号がt10〜t11であり、WP信号がゼロ(オン信号なし)であり、UP信号の合計オン時間が一番長い。つまり、上アームの中ではブートストラップコンデンサの電圧が最も低く、次に上アームをオンする場合において、オン時間を3つの上アームの中で最も短くする必要がある。
【0061】
なお、
図4の例の場合、UP信号はt8〜t10で1つのスイッチング期間だけ上アームを使用している。従ってt10の時点ではt8〜t10の合計オン時間と対応するブートストラップコンデンサ37の電圧だけが低下している。一方、本実施例ではt8.5〜t10の期間だけを合計オン時間の比較対象にしており、t8〜t8.5の期間は合計オン時間の対象外となり、この期間の電圧低下分が考慮されていない。一方、t10〜t11はブートストラップコンデンサ37に関しては充電期間中であり、ブートストラップコンデンサ37の電圧が上昇する期間である。従って本実施例では簡易的にこれを相殺と見なして計算の対象から除外する。
【0062】
この電圧低下と充電による電圧上昇の相殺における誤差を低減させるためには、t8〜t8.5の期間の合計オン時間に、予め実験的に求めた誤差を低減させる一定の係数を乗じた値をt8.5〜t10の合計オン時間に加算してもよい。もしくは、t8〜t8.5の期間の合計オン時間から、t10〜t11の電圧上昇の差分と対応する合計オン時間を差し引き、この結果にt8.5〜t10の期間の合計オン時間を加算するようにしてもよい。
【0063】
そして、オン時間算出部22は、このようにして求めたUP信号の合計オン時間と、同様にして求めたVP信号とWP信号の合計オン時間から最も長い最大オン時間合計を抽出し、これを残時間算出部23へ出力し、残時間算出部23がt11以降でUP信号をオンできるt11〜t12の残動作時間を算出して初回タイマー部24へ出力する。初回タイマー部24は、この残作動時間だけ
図4(12)に示すように初回タイマー信号を出力する。
【0064】
運転停止信号もしくは温度異常信号がローレベルからハイレベルに変化したt11以降は停止処理信号がハイレベルになるため、信号切換部21はスイッチング信号UP1,VP1,WP1,UN1,VN1,WN1をUP2,VP2,WP2,UN2,VN2,WN2の各端子に入力されている信号に切り換える。このため、信号切換部21はt11〜t12の期間に初回タイマー信号をUP信号,VP信号,WP信号としてオンの信号(ハイレベルの信号)を出力する。一方、UN2,VN2,WN2の各端子には下アームタイマー部29が未動作のためローレベルが入力されており、信号切換部21はUN信号,VN信号,WN信号をローレベルで出力する。
【0065】
このため、モータ33の各巻線は、初回タイマー信号のハイレベルの期間であるt11〜t12に上アームによって短絡される。これにより
図4(15)に示すように、インテリジェントパワーモジュール32の入力電圧のピークが、回生電圧を短絡しない場合の550ボルトから390ボルトに低減され、コンバータ31やインテリジェントパワーモジュール32内のスイッチング素子や還流ダイオードなどの破損を防止することができる。
【0066】
一方、残動作時間が終了して初回タイマー信号がハイレベルからローレベルに変化するとタイマー管理部27が動作を開始し、下アームタイマー部29から下アームタイマー時間だけハイレベルとなる下アーム信号を出力する。この時、初回タイマー部24と上アームタイマー部28は動作を停止しているため、共に出力信号はローレベルである。このため、信号切換部21はt12〜t13の下アームタイマー時間に、UP信号,VP信号,WP信号をローレベルに、UN信号,VN信号,WN信号をハイレベルにしてそれぞれ出力する。
【0067】
そしてタイマー管理部27は、停止処理信号がハイレベルからローレベルになるt15まで上アームと下アームを交互にオンするように上アーム信号と下アーム信号を交互に出力する。なお、停止処理時間管理部26は、前述した式1を用いて短絡処理時間を求め、運転停止信号がローレベルからハイレベルになった以降、この短絡処理時間だけ停止処理信号をハイレベルにした後ローレベルにする。
【0068】
次に
図4(16)に示す温度異常信号がt11でインテリジェントパワーモジュール32から出力された場合を説明する。この場合、t12までは運転停止信号が停止処理時間管理部26に入力された場合と同じ処理になる。つまり、初回タイマー部24が残動作時間だけ上アームをオンする。
【0069】
一方、温度異常信号が停止処理時間管理部26に入力された場合、t12で初回タイマー信号がハイレベルからローレベルになると、停止処理時間管理部26は、停止処理信号をハイレベルからローレベルにして回生電力低減処理を終了する。これは前述したように、インテリジェントパワーモジュール32の温度異常の場合、下アームによる制御ができないためである。このため、モータ33の制動を最後まで行なうことができないが、上アームによる巻線短絡でインテリジェントパワーモジュール32の入力電圧の上昇を低減させることができる。
【0070】
そして、停止処理時間管理部26は、停止処理信号をハイレベルからローレベルにしてタイマー管理部27の動作を停止させる共に、信号切換部21がスイッチング信号UP1,VP1,WP1,UN1,VN1,WN1を選択して出力する。なお、インバータ制御部35は温度異常信号が入力された時点でインバータの運転を停止させるため、全てのスイッチング信号をローレベルにしている。このため、UP信号,VP信号,WP信号,UN信号,VN信号,WN信号は全てローレベルになる。
【0071】
以上説明したように、温度保護部57により下アームが全てオフとなった状態であっても、回生電力低減手段が上アームを確実にオン可能な残動作時間を算出してこの時間だけ上アームをオンするため、ブートストラップコンデンサの電圧が許容放電電圧未満になることがない。このため、背景技術で説明したように最大負荷を考慮して短めに決定した上アームの動作可能時間よりも長い動作可能時間を求めることができる。
また、残動作時間の算出やタイマー機能をソフトウェアで実現できるため、背景技術で説明した許容放電電圧を検出するための電圧検出回路が不要であるためコストを低減できる。
【0072】
なお、本実施例ではモータ駆動装置5を空気調和機1に適用した例を説明しているが、これに限るものでなく、洗濯機のモータ駆動装置などに適用してもよい。
さらに、本実施例では回生電力低減部20をハードウェアとして説明しているが、これをソフトウェアで実現してもよい。
また、本実施例ではインテリジェントパワーモジュール32の保護機能としてスイッチング素子の温度保護を説明しているが、これに限るものでなく、スイッチング素子の過電流保護機能など、他の保護機能を総合的に備えたものであってもよい。これらの保護機能が動作して、下アームが使用できない場合であっても本発明と同様の効果を得ることができる。