【課題を解決するための手段】
【0007】
而して請求項1はフェライト系快削ステンレス鋼に関するもので、0.003≦C≦0.030、0.05≦Si≦1.00、1.00≦Mn≦2.00、P≦0.05、0.25≦S≦0.40、Cu≦0.50、Ni≦0.50、17.00≦Cr≦25.00、0.50≦Mo≦3.00、0.0020≦O≦0.0500、0.012≦N≦0.050、0.010≦V≦0.050、0.001≦W≦0.020、0.001≦Nb≦0.020、0.001≦Ti≦0.020を含有するとともに、下記の式(1)〜(3)を満足し、
0.006≦([V]+[W]+8[Nb]+15[Ti])/([Cr]+3[Mo])≦0.020・・・式(1)、4.2≦[Mn]/[S]≦6.0・・・式(2)、10≦[S]/[O]≦30・・・式(3)、式(1),式(2),式(3)中[ ]は各元素の含有質量%を示す)
更に、0.05≦Se≦0.30、0.08≦Pb≦0.20、0.08≦Bi≦0.20、0.005≦Te≦0.100の何れか2種以上を含有し,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有していることを特徴とする。
【0008】
請求項2のものは、請求項1において、質量%で、0.0005≦B≦0.0500、0.0005≦Ca≦0.0100、0.0005≦Mg≦0.0100、の何れか1種又は2種以上を更に含有することを特徴とする。
【0009】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、硫化物系介在物の組成が、質量%で、Mn:45〜60%,Cr:5%以上,Mo:0.6%以上を満たし、且つ、前記硫化物系介在物が面積率にして0.2〜2.5%分布していることを特徴とする。
【0012】
以上のような本発明は、Cr,Moに換えて、V,W,Nb,Tiを主な組成とする微細な炭化物を適量分散析出させるように、炭化物形成元素の含有量をバランスさせたことを特徴としている。
フェライト系ステンレス鋼において、所定の面疲労強度を得るためには、所定硬さの炭化物を析出させることが有効である。但し、フェライト系ステンレス鋼の炭化物の主な組成はCr,Moであるため、炭化物が析出すると、その近傍においてCr,Mo欠乏層が生じ、これが腐食の起点となり耐食性が劣化する。
本発明では、Cr,Moよりも炭化物生成傾向が高いV,W,Nb,Tiを添加するとともに、上記式(1)を満足するようにV,W,Nb,Ti及びCr,Moの各元素の含有量をバランスさせることで、V,W,Nb,Ti系の炭化物を析出させて面疲労強度を確保する一方、Cr,Moについては固溶状態を維持させて耐食性の劣化を防止する。
【0013】
更に本発明では、式(2)、式(3)を満たすようにMn,S、Oの各元素の含有量をバランスさせたことを他の特徴としている。
式(2)では、Mn量とS量との比率を規定する。硫化物系介在物中には被削性に優れたMnSと、耐食性に優れたCrSが存在するため、式(2)によるMn量とS量との比率は、被削性及び硫化物系介在物の耐食性に影響する。
一方、式(3)では、S量とO量との比率を規定する。硫化物系介在物は鋼中の酸化物を核として成長するため、S量とO量との比率は、硫化物系介在物の分散性及び大きさに影響する。
本発明では、式(2)、式(3)を満たすようにMn,S、Oの各元素の含有量をバランスさせることで、硫化物系介在物の組成及び形態を制御して、耐食性を維持しつつ被削性を効果的に高めることができる。
【0014】
本発明の請求項1、2何れかの組成に基づいたフェライト系快削ステンレス鋼においては、硫化物系介在物の組成を、Mn:45〜60%,Cr:5%以上,Mo:0.6%以上とし、且つ、この硫化物系介在物を面積率で0.2〜2.5%分布させることで、優れた耐食性と被削性を付与することができる(請求項3)。
【0015】
また本発明のフェライト系快削ステンレス鋼は、熱間圧延時における硫化物系介在物の変形防止効果に優れた元素Se、Pb、Bi、Teの何れか2種以上を含有している。このため、熱間圧延時の硫化物系介在物の変形を抑制して、特性的な異方性、即ち圧延方向とその直角方向とで特性的な差が生じるのを有効に抑制することができる。
【0016】
本願発明のフェライト系快削ステンレス鋼では、熱間圧延を900〜1200℃の範囲で行った後,550〜780℃の温度範囲で10時間以下の焼鈍処理を施すことができ
る。
【0017】
そして本発明の合金組成によれば、前記焼鈍処理後における硫化物系介在物の形状を、円相当径が2〜50μmで、アスペクト比が2〜10とすることができ、優れた快削性を得ることができ
る。
【0018】
次に本発明における各化学成分等の限定理由を以下に説明する。
「請求項1について」
0.003≦C≦0.030
Cは、代表的な固溶強化元素であるが、耐食性及び常温靭性を低下させるといった害が大きいため低い方が望ましい。しかし、極端に低減することは製造コストの上昇を招くため精錬技術を考慮し、0.003〜0.030%とした。
【0019】
0.05≦Si≦1.00
Siは、固溶強化元素であり強度を向上させる。但し、1.00%を超えた添加は熱間加工性を低下させるため、0.05〜1.00%とした。
【0020】
1.00≦Mn≦2.00
Mnは、S、Seと化合物を生成し、被削性を向上させる。この効果を得るため1.00%以上添加する。但し、2.00%を超える添加は、耐食性を低下させると共に、オーステナイト相の生成を促進させるため、その上限を2.00%とした。
【0021】
P≦0.05
Pは不純物となるもので、粒界に偏析し、粒界腐食に対する感受性を高める。また熱間加工性の低下、靭性の低下を招く。このため含有量を0.05%以下に規制する。
【0022】
0.25≦S≦0.40
Sは、快削元素であり、鋼中で主に(Mn、Cr)Sを形成して、切り屑の切れ性を良くし工具寿命を伸ばす。このため0.25%以上添加する。しかし、0.40%を超えた添加は熱間加工性を著しく低下させるので、その上限を0.40%とする。
【0023】
Cu≦0.50
Cuは、耐食性の向上に寄与するが、オーステナイト生成元素であり、フェライト相を不安定にするため、その上限を0.50%とした。
【0024】
Ni≦0.50
Niは、耐食性の向上に寄与するが、オーステナイト生成元素であり、フェライト相を不安定にするため、その上限を0.50%とした。
【0025】
17.00≦Cr≦25.00
Crは、耐食性の確保に必須の元素であり、十分な耐食性を持たせるためには17.00%以上の添加が必要であるが、25.00%を超えるとコストが高くなるため、その範囲を17.00%〜25.00%とした。
【0026】
0.50≦Mo≦3.00
Moは、固溶強化元素であり、強度を向上させる。また耐食性も向上させる。このため0.50%以上添加する。但し、3.00%を超えた添加は熱間加工性を低下させるため、その上限を3.00%とする。
【0027】
0.0020≦O≦0.0500
Oは、被削性を向上させるのに必要な硫化物の形成に関わる元素である。詳しくは、Oは、MnS等硫化物形成の核となる酸化物として分散生成する。MnS等硫化物はその核の存在の下に、核を中心として生成し易い。従ってMnS等硫化物を上手く分散状態で良好に形成するためには一定量のOを必要とする。そのため本発明ではOを0.0020%以上とする。
但し、Oが過剰になると、被削性の向上に有効でない粗大な酸化物が生成し易くなるため、上限を0.0500%とする。
【0028】
0.012≦N≦0.050
Nは、代表的な固溶強化元素であるが、耐食性及び常温靭性を低下させるといった害が大きいため低い方が望ましい。しかし、極端に低減することは製造コストの上昇を招くため精錬技術を考慮し、0.012〜0.050%とする。
【0029】
0.010≦V≦0.050
0.001≦W≦0.020
0.001≦Nb≦0.020
0.001≦Ti≦0.020
V、W、Nb、Tiは炭化物を形成して摺動性を向上させる。但し過剰な添加はコストの増加を招くため、その上限をVで0.050%、W、Nb、Tiで0.020%とする。
【0030】
0.006≦([V]+[W]+8[Nb]+15[Ti])/([Cr]+3[Mo])≦0.020・・・式(1)
V,W,Nb,Ti,Cr,Moは何れも炭化物形成元素である。この式(1)を満たすことでV、W、Nb、Ti系の炭化物を効率的に析出させることができる。特に炭化物形成元素の質量比、即ち、([V]+[W]+8[Nb]+15[Ti])/([Cr]+3[Mo])の値を0.015以上とすることで、良好な面疲労強度を確保することができる。
一方、式中の炭化物形成元素の質量比が0.006未満であると硬さが不足して、面疲労強度が低下する。他方、0.020を越えるとV、W、Nb、Ti系の炭化物の析出量が過多となり硬度が上がって被削性が悪化する。
【0031】
4.2≦[Mn]/[S]≦6.0・・・式(2)
鋼中の硫化物系介在物はMnSを主体とするが、鋼にMnとCrとがSとともに含有されている場合、介在物にはMnSに加えてCrSが含まれる。
但し、MnSの方がCrSよりも生成エネルギーが低いのでMnSが優先的に生成する。ここでMnSは被削性向上効果が大きいが、耐食性は低い。一方、CrSは被削性向上効果はMnSに比べて小さいが、耐食性は高い。
式(2)は、(Mn,Cr)SにおけるMnの比率を規定するもので、この式(2)を満たすことで、切削性と耐食性との両立を図ることができる。
この場合において[Mn]/[S]が4.2未満であると、CrS生成量が適正バランスよりも多くなって、介在物硬さが上昇し、十分な被削性向上効果が得られない。
逆に[Mn]/[S]が6.0を超えて高くなると、CrSが少なくなって硫化物系介在物の耐食性が著しく劣化し、そのことが鋼の耐食性の劣化を招く。
そこで本発明では、[Mn]/[S]を4.2〜6.0の範囲内とする。
【0032】
10≦[S]/[O]≦30・・・式(3)
式(3)は(Mn,Cr)Sの核となる酸化物の分布を規定するものである。[S]/[O]がこの式(3)を満たす範囲内であると(Mn,Cr)Sが粗大粒となることなく、均一に分布するため切削破砕性に優れ、ドリル切削性を向上させることができる。
尚、[S]/[O]が10未満の場合、相対的にOが多くなり酸化物が粗大化し、被削性に有効でない硬質な酸化物が多くなり切削性が悪化する。
逆に30を超えて、相対的にOが過少となると、核となる酸化物が少なくなるため、酸化物を核に生成する(Mn,Cr)Sが粗大化して、切屑が十分に破砕されず、被削性向上の効果が得られない。そこで本発明では、[S]/[O]を10〜30とする。
【0033】
0.05≦Se≦0.30
0.08≦Pb≦0.20
0.08≦Bi≦0.20
0.005≦Te≦0.100
これらSe,Pb,Bi,Teは快削性元素であり、切削性を向上させる。またこれらの元素は硫化物系介在物の周りに存在し、熱間圧延時に溶融して硫化物系介在物と素地との間で潤滑油のように作用する。これにより圧延時に硫化物系介在物が伸長して材料の異方性が大きくなるのを有効に防止することができる。これらの元素は1種添加でも効果あるが、特にこれらの元素を2種以上添加した場合にその効果が大きい。尚、各元素はその上限値を超えて添加されると熱間加工性を著しく低下させるため、Seは0.30%、Pb,Biは0.20%、Teは0.20%を上限とする。
【0034】
「請求項2について」
Sを0.25%以上含有する本発明のステンレス鋼では、熱間加工性の改善にB−Ca−Mgを選択的に添加することが有効である。具体的には、
0.0005≦B≦0.0500
0.0005≦Ca≦0.0100
0.0005≦Mg≦0.0100
の何れか1種又は2種以上含有させれば良い。
但し、いずれの元素も過剰に含有させると熱間加工性を低下させるため、Bは0.0500%、Ca,Mgは0.0100%を上限とする。
【0035】
「請求項3について」
硫化物系介在物の組成が、Mn:45〜60%,Cr:5%以上,Mo:0.6%以上を満たし、且つ、硫化物系介在物が面積率で0.2〜2.5%分布
硫化物系介在物の組成及び面積率を上記のようにすることで、鋼に優れた耐食性と被削性を付与することができる。
硫化物系介在物におけるMn量が45%未満の場合には、MnS量が減少して被削性が悪化する。Mn含有量が60%を超える場合には、CrS量が減少して硫化物系介在物自体が腐食し易くなる。
面積率については、0.2%未満ではそもそも被削性向上の効果が得られない。一方、上限の2.5%を超えると耐食性、疲労強度などの特性が低下する。