(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂>
アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂(以下、単に「変性ポリプロピレン樹脂」ともいう。)は、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種に、アニオン性官能基を有する化合物をグラフト共重合して得ることができる。アニオン性官能基としては、カルボキシル基であることが好ましく、アニオン性官能基を有する化合物としては、特に限定されないが、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。ここで、プロピレン−α−オレフィン共重合体とは、プロピレンを主体としてこれにα−オレフィンを共重合したものである。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどを1種または数種用いることができる。これらの中では、1−ブテンが好ましい。プロピレン−α−オレフィン共重合体のプロピレン成分とα−オレフィン成分との比率には特に制限はないが、プロピレン成分が50モル%以上であることが好ましい。
【0016】
プロピレン−α−オレフィン共重合体の製造方法については特に制限はないが、メタロセン系触媒を用いて重合したプロピレン−α−オレフィン共重合体は、均一な結晶性を有しており、溶剤に対する溶解性も優れており、好ましい。
【0017】
α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物の少なくとも1種としては、特に限定されないが、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸およびこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸、無水イタコン酸がより好ましく、無水マレイン酸がさらに好ましい。具体的には、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン−ブテン共重合体等が挙げられ、これら酸変性ポリオレフィンを1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。グラフト共重合する量は、0.1〜10重量%が好ましく、1〜5重量%がより好ましい。少なすぎると粘着付与剤との相溶性が低下し、接着性が発現しないことがある。また、多すぎるとエマルションの安定性が低下することがある。
【0018】
ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種に、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合する方法としては、溶液法や溶融法などの公知の方法が挙げられる。
【0019】
溶液法としては、例えば次のように行う。すなわち、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を、トルエン等の芳香族系有機溶媒に100〜180℃で溶解させた後、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種を添加し、さらにラジカル発生剤を一括または分割で添加して反応させる。
【0020】
溶融法としては、例えば次のように行う。すなわち、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を、融点以上に加熱溶融した後、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種とラジカル発生剤を添加して反応させる。
【0021】
ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられ、反応温度と分解温度によって選定することができる。
【0022】
アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量は、5000〜200000であるのが好ましい。5000未満だと、凝集力が弱くなり密着性が劣る場合がある。200000を超えると、溶解状態が悪くて水への分散が行えない場合がある。より好ましい重量平均分子量は、30000〜120000である。
【0023】
<粘着付与剤>
本発明で使用される粘着付与剤はアニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂に対して相溶性の高い事が必須の条件である。相溶性が悪い場合、変性ポリプロピレン樹脂が粘着付与剤を内包する事が出来ず、安定なエマルションが形成されないことがある。粘着付与剤のSP値は相溶性を判断するおよその目安となる。変性ポリプロピレン樹脂に対して良好な相溶性を示す粘着付与剤のSP値はHoyの計算式による値で、8.6〜8.8(J/cm
3)
1/2であることが好ましい。Hoyの計算式による粘着付与剤の様な高分子化合物のSP値(δ)は次の様にして求められる事が知られている。
δ(高分子化合物)=ρΣE/M
ここでρ:高分子化合物の密度、M:高分子化合物の繰り返し構造単位の分子量、E:高分子化合物を構成する個々の構造単位のモル凝集エネルギー定数である。Eの数値は種々文献に掲載されている数値を使用する事が出来る。数値が記載されている文献としては例えば、J.Paint Technology vol.42 76−118 (1970)が挙げられる。
また、実際に相溶性を確認する方法としては変性ポリプロピレン樹脂と粘着付与剤を混ぜ合わせて作製した乾燥塗膜の透明性が高いほど相溶性が高いと判断される。透明性は目視で確認することができるが、より正確にはHAZEメーター(1.0以下が好ましく、更に好ましくは0.5以下)等を使用する事で判断できる。或いは上記作製した乾燥フィルムの動的粘弾性特性を測定し、損失弾性率(E”)の主分散ピークが粘着付与剤配合前と比較しブロードになっていなければ相溶性が良好と判断される。
【0024】
粘着付与剤の軟化点は60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましく、160℃以下が好ましく、150℃以下がさらに好ましい。また、数平均分子量は500以上が好ましく、700以上がより好ましく、800以上がさらに好ましく、1800以下が好ましく、1600以下がより好ましく、1500以下がさらに好ましい。500未満であると変性ポリプロピレン樹脂塗膜の物性を低下させたり、塗膜表面にブリードアウトしてしまう場合があり、1800を超えると変性ポリプロピレン樹脂との相溶性が悪くなることがある。
【0025】
本発明で使用される粘着付与剤は特に限定されないが、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、または石油系樹脂から選ばれることが好ましく、なかでもテルペン系樹脂がより好ましい。また、テルペン系樹脂の中では芳香族変性テルペン樹脂が特に好ましい。市販品の具体例としては、ヤスハラケミカル(株)製のYSレジンシリーズ(「YSレジンTO125」、「YSレジンTO115」、「YSレジンTO105」、「YSレジンTO85」、「YSレジンTR105」、「YSレジンLP」、何れもSP値:8.73(J/cm
3)
1/2、「YSポリスターT130」SP値8.81J/cm
3)
1/2)等が挙げられる。
【0026】
粘着付与剤の配合量は、変性プロピレン樹脂100重量部に対して5重量部以上80重量部以下であることが好ましく、より好ましくは10重量部以上70重量部以下、さらに好ましくは15重量部以上65重量部以下、最も好ましくは20重量部以上60重量部以下である。5重量部未満では粘着付与剤の配合効果が得られないことがあり、80重量部超では内包したエマルションのZ平均粒子径が500nmを超えてしまい安定なエマルションが形成されないことがある。
【0027】
<自己乳化型エマルション>
本発明の自己乳化型エマルションは、アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂と粘着付与剤を含有し、(1)アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂が乳化剤の存在無しに水中に分散しており、(2)アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂からなる分散体粒子が粘着付与剤を内包しているものである。
【0028】
変性ポリプロピレン樹脂からなる分散体粒子が粘着付与剤を内包し、微細粒子の状態で均一且つ安定的に水中に分散するため、貯蔵安定性が良好であり、さらにポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂基材に対する密着性、耐水性に優れる。
【0029】
本発明の自己乳化型エマルションにおける、変性ポリプロピレン樹脂と粘着付与剤の内包状態としては、変性ポリプロピレン樹脂のプロピレン鎖部位(疎水性部位)が内側、アニオン性官能基を有する部位(親水性部位)が外側の分散体粒子(ミセル状粒子)となって、変性ポリプロピレン樹脂の内部に粘着付与剤が内包されている。さらに変性ポリプロピレン樹脂の親水性部位が塩基性物質で中和されていると考えられる。このことは、単独では水中に安定して分散、或いは溶解できないため、水中では相分離沈殿してしまう粘着付与剤が、本発明の自己乳化型エマルションでは相分離沈殿する事なく、エマルションが均一安定な状態で存在していることからも推定することができる。また、粘着付与剤の配合量が増えると、一定量までは分散体粒子の粒子径が比例して大きくなっていることからも推定できる。
【0030】
本発明の自己乳化型エマルションは、粘着付与剤が変性ポリプロピレン樹脂からなる分散体粒子に内包されているため、粘着付与剤を乳化分散させるための押出し機や乳化機といった特別な設備が不要であり、しかも乳化剤の存在無しに乳化することができる。本発明で乳化剤の存在が無いとは、変性ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、乳化剤が0.1重量部以下であることが好ましく、0.01重量部以下であることがより好ましく、0重量部であることがさらに好ましい。乳化剤の存在が無いことで、当該エマルションを用いて作製した塗工皮膜はむら等の発生がなく、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂基材に対する密着性、耐水性に優れる。
【0031】
自己乳化型エマルションのZ平均粒子径は、特に限定されないが、500nm以下であることが好ましい。より好ましくは450nm以下であり、さらに好ましくは400nm以下である。500nmを超えると、安定なエマルションが形成されないことがある。下限は特に限定されないが、通常50nm以上である。
【0032】
本発明の自己乳化型エマルションの調製方法の一例を以下に示すが、下記内容に限定されない。すなわち、初めにアニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂と粘着付与剤を所定の比率でエーテル系溶剤、アルコール系溶剤、芳香族系溶剤および水に加熱溶解させ、これに塩基性物質を添加して中和し、冷却した後に、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤および芳香族系溶剤を除去することで得ることができる。
【0034】
まず、アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂と粘着付与剤を所定の比率で、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、芳香族系溶剤および水に加熱溶解させる。
【0035】
エーテル系溶剤としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、テトラヒドロフランが好ましい。
【0036】
アルコール系溶剤としては、特に限定されないが、炭素数1〜7の脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂環式アルコール等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、炭素数3〜5の脂肪族アルコールが好ましく、イソプロピルアルコールがより好ましい。
【0037】
芳香族系溶剤としては、特に限定されないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ソルベントナフサ等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、トルエンが好ましい。
【0038】
使用するエーテル系溶剤、アルコール系溶剤および芳香族系溶剤の割合は、特に限定されないが、重量比で、エーテル系溶剤:アルコール系溶剤:芳香族系溶剤=100:3〜50:3〜50であることが好ましく、より好ましくは100:5〜35:5〜35である。エーテル系溶剤100重量部に対するアルコール系溶剤の割合が50重量部を超えると、製造工程中の高温時でのアニオン性官能基を有する変性ポリオレフィン樹脂の溶解性が低下し、均一な分散ができないことがある。また、芳香族系溶剤の割合が50重量部を超えると、粒子と粒子が凝集して凝集物が多く生成し、均一な分散ができないことがある。また、アルコール系溶剤または芳香族系溶剤の割合が3重量部未満であると、その効果が発現せず、均一な分散ができないことがある。
【0039】
アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂と粘着付与剤を加熱溶解する前の混合系において、アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂と粘着付与剤の合計量、水、ならびにエーテル系溶剤とアルコール系溶剤と芳香族系溶剤との総有機溶剤の割合は、任意に選択することができるが、重量比で、アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂と粘着付与剤の合計量:水:総有機溶剤=100:50〜800:11〜900であるのが好ましく、100:200〜400:43〜233であるのがより好ましい。水または総有機溶剤が多い場合は、変性ポリプロピレン樹脂の水への分散がより容易に起こるが、濃縮に時間を要したり、容積効率が低下するので、経済的に不利となり、実用的ではない。水が少ない場合には、分散出来ない場合が多い。総有機溶剤が少ない場合には、加熱溶解時に著しく粘度が上昇し、均一な溶解ができず、結局、均一な分散ができないことがある。
【0040】
加熱溶解する際の温度は特に制限されないが、50℃以上が好ましい。また、75℃以下であれば、使用する有機溶剤の沸点以下であり、加熱溶解するのに圧力容器が不要で、好ましい。溶解時間も特に制限されないが、通常は1〜2時間で完全に溶解できる。
【0041】
次に、同温度を維持した状態で塩基性物質を添加する。塩基性物質としては、特に限定されないが、モルホリン;アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい塩基性物質は、ジメチルエタノールアミンである。塩基性物質の使用量は、変性ポリプロピレン樹脂のカルボキシル基に対して、1〜5化学当量であるのが好ましく、1.5〜3.5化学当量であるのがより好ましい。本発明の自己乳化型エマルションは、中性からアルカリ性に保持することで、安定性をより維持できる。塩基性物質の添加方法としては、そのまま添加しても良いが、より均一に混合するために水で希釈して添加しても良い。また、塩基性物質を添加する温度および分散時間は、特に制限されないが、溶解温度と同様に50℃〜75℃で、分散に要する時間は1〜2時間が好ましい。
【0042】
次に、得られた分散体から有機溶剤を除去して、自己乳化型エマルションを得る。有機溶剤を除去するには、減圧で留去すればよい。留去する際の減圧度、温度は、特に制限されないが、90〜95KPa(絶対圧力)程度、20〜60℃程度が好ましい。この際、水の一部も留去される。減圧蒸留により有機溶剤と一部の水を留去した後の自己乳化型エマルションの組成(重量比)は、変性ポリプロピレン:塩基性物質:水=1:0.06〜0.33:1.5〜4であるのが好ましい。また減圧留去後の有機溶剤残留量は変性ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、1重量部以下であることが好ましく、0.1重量部以下であることがより好ましく、0重量部であることが特に好ましい。なお、必要に応じて追加量の水を添加することができる。
【0043】
本発明の自己乳化型エマルションには必要に応じて硬化剤を配合する事が出来る。特に限定されないが、例えば水溶性多官能エポキシ樹脂、水溶性多官能カルボジイミド樹脂、多官能イソシアネート化合物の水分散体、多官能シリル基を有する水溶性シランカップリング剤等が挙げられる。これらのうち、水溶性多官能エポキシ樹脂が好ましい。市販品の具体例としてはナガセケムテック(株)製、「デナコール(登録商標)EX−512」、「デナコールEX−521」、「デナコールEX−614B」、「デナコールEX−821」、「デナコールEX−920」等が挙げられる。これら水溶性エポキシ樹脂は本発明の自己乳化型エマルションに対して任意の割合で添加できるが、エマルション中の変性ポリプロピレン樹脂が有する酸価に等量のエポキシ基当量となる様に配合されるのが好ましい。
【0044】
その他、本発明の自己乳化型エマルションには接着性能を低下させない範囲で種々充填剤、顔料、着色剤、酸化防止剤等の種々添加剤を配合しても良い。
【0045】
本発明で得られる自己乳化型エマルションは、ポリオレフィン系樹脂基材に対する密着性に優れているので、塗装、印刷、接着、コーティングの際のプライマーや、塗料、インキ、コーティング剤、接着剤の用途に有用である。
【0046】
ポリオレフィン系樹脂基材としては、従来から公知のポリオレフィン樹脂の中から適宜選択すればよい。例えば、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などを用いることができる。ポリオレフィン系樹脂基材には必要に応じて顔料や種々の添加物を配合してもよい。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中および比較例中に単に「部」とあるのは重量部を示す。また、本発明で採用した測定・評価方法は以下のとおりである。
【0048】
1)エマルション固形分濃度の測定
50mlガラス製秤量瓶にサンプルのエマルション約1gを採り、精秤する。次いでサンプルを採取した秤量瓶を120℃の熱風乾燥機で2時間乾燥させ、取り出した秤量瓶をデシケーターに入れ、室温で30分放置・冷却する。デシケーターから秤量瓶を取り出し、重量を精秤し、熱風乾燥前後の重量変化(下記式)からエマルション固形分濃度の重量%を算出する。
エマルション固形分濃度(重量%)=[(熱風乾燥前のサンプル重量)−(熱風乾燥後のサンプル重量)]/(熱風乾燥前のサンプル重量)×100
【0049】
2)粘着付与剤含有量の定量
上記固形分濃度の測定で得られた乾燥サンプル(樹脂)を重クロロホルムに溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)“ジェミニ−400−MR”を用い、
1H−NMR分析により変性ポリプロピレン樹脂と粘着付与剤の比率を求めた。
【0050】
3)エマルション粘度の測定
東機産業(株)製“Viscometer TV-22”(E型粘度計)を用い、0.6gのサンプルをローターNo.0.8°(=48’)×R24、レンジH、回転数5rpm、25℃の条件で測定した。
【0051】
4)エマルションpHの測定
堀場製作所製“pH meter F−52”を用い、25℃での値を測定した。尚、測定器の校正は和光純薬工業(株)製、フタル酸塩pH標準液(pH:4.01)、中性燐酸塩pH標準液(pH:6.86)、ホウ酸塩pH標準液(pH9.18)を用い、3点測定で実施した。
【0052】
5)エマルションZ平均粒子径の測定
Malvern社製“ゼータサイザーナノ Nano−ZS Model ZEN3600”を用い、0.05g/Lの濃度に調製したサンプルを25℃で3回測定し、その平均値とした。
【0053】
6)エマルションの保存安定性評価
実施例・比較例で調製されたエマルションを40℃のインキュベーターで静置状態で保存し、エマルションの経時外観変化を観察した。長期間(3ヶ月以上)外観に変化がないものほど良好である。結果を表1に記載した。
【0054】
7)オレフィン系基材接着性の評価
実施例・比較例で得られたエマルションにレベリング剤としてダイノール(登録商標)604(エアープロダクツ(株)製)をエマルションに対して0.5重量%配合した。配合物を、(株)パルテック社製2mm厚、25mm×100mmサイズの高密度ポリエチレンテストピースに#16Eのワイヤーバーを用いて、引っ張り試験機のチャックつかみしろとしてテストピース片端約1cmを残して塗工し、100℃の熱風乾燥機で10分乾燥させた。乾燥機から取り出した直後の塗工面に25mm×200mmサイズの60μm厚OPPフィルムの未処理面をチャックつかみしろが同じ方向になる様に貼り合せ、120kg/m
2の荷重を掛けて100℃のオーブンで10分間エージングし、接着サンプルを得た。オーブンから取り出した接着サンプルを室温で一晩放置後、引っ張り試験機(Orientec社製“RTM−100”)を用い剥離試験を実施した。引っ張り条件は試験機のチャックの片方でポリエチレンテストピースの端を、他方でOPPフィルムの端をつかみ、5kgfロードセルを用い、50mm/分の引っ張り速度で上下方向に引いて180°剥離試験を実施した。同試験を4回実施し、測定強度の平均値を剥離強度とした。同時に剥離面を観察し、剥離状態を確認した。
(判定)
◎:3.0N/cm以上(ポリエチレン界面で剥離した部分とOPP界面で剥離した部分が両方混在しており、強い接着強度が得られる。)
○:2.0N/cm以上3.0N/cm未満(ポリエチレン界面剥離、比較的強い接着性が得られる。)
△:1.0N/cm以上2.0N/cm未満(ポリエチレン界面剥離、弱い接着性が得られる。)
×:1.0N/cm未満(ポリエチレン界面剥離、殆ど接着性が得られない。)
【0055】
8)塗膜耐水性の評価
実施例・比較例で得られたエマルションにレベリング剤としてダイノール(登録商標)604(エアープロダクツ(株)製)をエマルションに対して0.5重量%配合した。配合物の塗工液を#40Eワイヤーバーを用いて25μm厚のOPPフィルムに塗布し、熱風乾燥機で120℃、30分間乾燥させた。得られた塗工膜を2.5cm×30cmの短冊状にカットし、シリカゲルを入れたデシケーター内で24時間保存し、乾燥させ、短冊状塗膜(耐水性試験サンプル)を得た。次いで個々の短冊状塗膜を取り出し、密閉性の金属缶に入れて塗膜重量を精秤した。金属缶から短冊状塗膜を取り出し、40℃の温水に5分間浸漬した後、取り出して表面付着水をガーゼで丁寧にふき取り、再度密閉性の金属缶に入れて精秤した。温水浸漬前後の吸水による塗布膜の重量増加率を計算し、耐水性の指標とした。塗布膜の重量増加率により、評価基準を以下の様にした。
○:温水浸漬後の重量増加率 <2.5%
△:温水浸漬後の重量増加率 2.5〜3.5%
×:温水浸漬後の重量増加率 >3.5%
【0056】
実施例1
脱イオン水188g、アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂として、酸変性ポリオレフィン(メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン−1−ブテン共重合体(プロピレン成分76モル%および1−ブテン成分24モル%)、無水マレイン酸のグラフト量:2.4重量%、重量平均分子量:60000、230℃での溶融粘度:1950mPa・s、融点:70℃)50g、ヤスハラケミカル製粘着付与剤(“YSレジンTO125”;変性テルペン樹脂、Hoyの計算式によるSP値8.73(J/cm
3)
1/2)7.5g、テトラヒドロフラン70g、イソプロピルアルコール5gおよびトルエン5gを撹拌機付きフラスコに入れ、70℃に昇温した後、同温度で2時間、加熱溶解した。次に、ジメチルエタノールアミン3.3g(アミノ基当量:0.037当量)を添加し、2時間かけて徐々に40℃まで冷却した。その後、91KPa(絶対圧力)の減圧度で有機溶剤/水を留去し、純白濁色の均一なエマルション(1)を得た。得られたこのエマルション(1)の固形分濃度は35.4重量%、25℃での粘度は36.7mPa・s、pHは8.4、平均粒子径は140nmであった。また、NMRによる粘着付与剤の含有量は仕込み組成比どおり15phr(変性ポリプロピレン樹脂100重量部に対して粘着付与剤15重量部)である事を確認した。エマルション(1)を40℃のインキュベーターに保存し、保存安定性を評価したところ、3ヶ月経過時点で外観に変化は認められなかった。これら結果を表−1にまとめた。また、エマルション(1)を用いて、上記手順に従って接着サンプル(1)及び耐水性試験サンプル(1)を作製し、オレフィン系基材接着性及び耐水性の評価を行った。結果を表−2にまとめた。
【0057】
実施例2
上記実施例1と同様の方法で、ヤスハラケミカル製粘着付与剤(“YSレジンTO125”;変性テルペン樹脂)の添加量のみを15gとして操作し、純白濁色の均一なエマルション(2)を得た。得られたこのエマルション(2)の固形分濃度は32.7重量%、25℃での粘度は10.6mPa・s、pHは8.4、平均粒子径は175nm、粘着付与剤の含有量は仕込み組成比どおり30phr(変性ポリプロピレン樹脂100重量部に対して粘着付与剤30重量部)である事を確認した。エマルション(2)を40℃のインキュベーターに保存し、保存安定性を評価したところ、3ヶ月経過時点で外観に変化は認められなかった。これら結果を表−1にまとめた。また、エマルション(2)を用いて、上記手順に従って接着サンプル(2)及び耐水性試験サンプル(2)を作製し、オレフィン系基材接着性及び耐水性の評価を行った。結果を表−2にまとめた。
【0058】
実施例3
上記実施例1と同様の方法で、ヤスハラケミカル製粘着付与剤(“YSレジンTO125”;変性テルペン樹脂)の添加量のみを20gとして操作し、純白濁色の均一なエマルション(3)を得た。このエマルション(3)の固形分濃度は35.0重量%、25℃での粘度は11.5mPa・s、pHは8.5、平均粒子径は174nm、粘着付与剤含有量は仕込み組成比どおり40phr(変性ポリプロピレン樹脂100重量部に対して粘着付与剤40重量部)であった。エマルションは40℃のインキュベーターに保存し、保存安定性を評価したところ、3ヶ月経過時点で外観に変化は認められなかった。これら結果を表−1にまとめた。また、エマルション(3)を用いて、上記手順に従って接着サンプル(3)及び耐水性試験サンプル(3)を作製し、オレフィン系基材接着性及び耐水性の評価を行った。結果を表−2にまとめた。
【0059】
実施例4
上記実施例1と同様の方法で、ヤスハラケミカル製粘着付与剤(“YSレジンTO125”;変性テルペン樹脂)の添加量のみを25.0gとして操作し、純白濁色の均一なエマルション(4)を得た。このエマルション(4)の固形分濃度は38.1重量%、25℃での粘度は19.7mPa・s、pHは8.4、平均粒子径は175nm、であった。粘着付与剤含有量は仕込み組成比どおり50phr(変性ポリプロピレン樹脂100重量部に対して粘着付与剤50重量部)であった。エマルションは40℃のインキュベーターに保存し、保存安定性を評価したところ、3ヶ月経過時点で外観に変化は認められなかった。これら結果を表−1にまとめた。また、エマルション(4)を用いて、上記手順に従って接着サンプル(4)耐水性試験サンプル(4)を作製し、オレフィン系基材接着性及び耐水性の評価を行った。結果を表−2にまとめた。
【0060】
実施例5
上記実施例1と同様の方法で、ヤスハラケミカル製粘着付与剤として“YSレジンTO105”(変性テルペン樹脂、Hoyの計算式によるSP値8.73(J/cm
3)
1/2)を20g添加して操作し、純白濁色の均一なエマルション(5)を得た。このエマルション(4)の固形分濃度は34.2重量%、25℃での粘度は10.4mPa・s、pHは8.5、平均粒子径は172nmであった。粘着付与剤含有量は仕込み組成比どおり40phr(変性ポリプロピレン樹脂100重量部に対して粘着付与剤40重量部)であった。エマルションは40℃のインキュベーターに保存し、保存安定性を評価したところ、3ヶ月経過時点で外観に変化は認められなかった。これら結果を表−1にまとめた。また、エマルション(5)を用いて、上記手順に従って接着サンプル(5)及び耐水性試験サンプル(5)を作製し、オレフィン系基材接着性及び耐水性の評価を行った。結果を表−2にまとめた。
【0061】
実施例6
上記実施例1と同様の方法で、ヤスハラケミカル製粘着付与剤として“YSポリスターT130”(テルペンフェノール樹脂、Hoyの計算式によるSP値8.81(J/cm
3)
1/2)を30添加して操作し、微濁黄色の均一なエマルション(6)を得た。このエマルション(6)の固形分濃度は34.7重量%、25℃での粘度は16.2mPa・s、pHは8.7、平均粒子径は188nmであった。粘着付与剤含有量は仕込み組成比どおり60phr(変性ポリプロピレン樹脂100重量部に対して粘着付与剤60重量部)であった。エマルションは40℃のインキュベーターに保存し、保存安定性を評価したところ、3ヶ月経過時点で外観に変化は認められなかった。これら結果を表−1にまとめた。また、エマルション(6)を用いて、上記手順に従って接着サンプル(6)及び耐水性試験サンプル(6)を作製し、オレフィン系基材接着性及び耐水性の評価を行った。結果を表−2にまとめた。
【0062】
以下、比較例1はアニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂のエマルション粒子が粘着付与剤を内包しない場合であり、比較例2は乳化剤を使用してアニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂をエマルション化したもので、比較例−1同様に粘着付与剤は内包していない。比較例3はアニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂と粘着付与剤を乳化剤により、同時にエマルション化しようと試み、均一安定なエマルションが形成出来なかった例である。また比較例4は粘着付与剤のみを乳化剤によりエマルション化しようと試み、均一安定なエマルションが得られなかった例である。
【0063】
比較例1
上記実施例1と同様の方法で、粘着付与剤(“YSレジンTO125”;変性テルペン樹脂)のみを添加せずに操作し、純白濁色の均一なエマルション(7)を得た。このエマルション(7)の固形分濃度は30.7重量%、25℃での粘度は24.0mPa・s、pHは8.7、平均粒子径は110nmであった。エマルションは40℃のインキュベーターに保存し、保存安定性を評価したところ、3ヶ月経過時点で外観に変化は認められなかった。これら結果を表−1にまとめた。また、エマルション(7)を用いて、上記手順に従って接着サンプル(7)耐水性試験サンプル(7)を作製し、オレフィン系基材接着性及び耐水性の評価を行った。結果を表−2にまとめた。
【0064】
比較例2
アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂として、酸変性ポリオレフィン(メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン−1−ブテン共重合体(プロピレン成分76モル%および1−ブテン成分24モル%)、無水マレイン酸のグラフト量:2.4重量%、重量平均分子量:60000、230℃での溶融粘度:1950mPa・s、融点:70℃)50g、テトラヒドロフラン150gを撹拌機付きフラスコに入れ、60℃に昇温し、同温度で加熱溶解した。溶解確認後、トリエチルアミン1.8gを添加し、次いで乳化剤として花王(株)製“ネオペレックス(登録商標)G−65”(アルキルベンゼンスルホン酸系;固形分65%)5gを5gのテトラヒドロフランに溶解して添加し、均一に攪拌した。次いで脱イオン水300gを1時間かけて滴下し、60℃で30分攪拌後、40℃まで冷却した。90KPa(絶対圧力)の減圧度で有機溶剤/水を留去し、乳白濁色の均一なエマルション(8)を得た。このエマルション(8)の固形分濃度は28.8重量%、25℃での粘度は8.3mPa・s、pHは8.1、平均粒子径は360nmであった。エマルションは40℃のインキュベーターに保存し、保存安定性を評価したところ、2週間経過時点で沈降成分が観察され、3ヶ月経過時点では固形化した相が相分離して沈降した。これら結果を表−1にまとめた。また、エマルション(8)を用いて、上記手順に従って接着サンプル(8)及び耐水性試験サンプル(8)を作製し、オレフィン系基材接着性及び耐水性の評価を行った。結果を表−2にまとめた。
【0065】
比較例3
比較例2と同様の方法で、アニオン性官能基を有する変性ポリプロピレン樹脂に加えて、ヤスハラケミカル製粘着付与剤(“YSレジンTO125”;変性テルペン樹脂)7.5gを配合し、テトラヒドロフラン150gに加熱溶解したが、脱イオン水滴下中に粗大粒子が多量に発生し、均一な分散体が得られなかった。
【0066】
比較例4(粘着付与剤の乳化剤分散)
ヤスハラケミカル製粘着付与剤(“YSレジンTO125”;変性テルペン樹脂)20gをトルエン17gに60℃加温下で溶解し、乳化剤として花王(株)製“ネオペレックスG−65”(アルキルベンゼンスルホン酸系;固形分65%)3gを3gのテトラヒドロフランに溶解添加した。同温度で脱イオン水30gを20分間で滴下し、30分間同温度で攪拌した後、90KPa(絶対圧力)の減圧度で有機溶剤/水を留去したが、均一な分散体は得られなかった。
【0067】
上記実施例、比較例で試作したエマルションの組成と特性を表−1に、ポリオレフィン系樹脂基材に対する接着特性を評価し、表−2にまとめた。表1,2から分かる様に本発明により、乳化剤を使用する事無く、容易に粘着付与剤を含有した変性ポリプロピレンのエマルションの調製が可能となり、粘着付与剤を配合する事で、特にポリエチレン基材との接着性が飛躍的に改善される。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】