【実施例1】
【0020】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面はシートクッションを備えた車両用シートの斜視図、
図2の(a)〜(f)は高張力部材の形成パターンを示すシートクッションの平面図(但し、高張力部材は後述する表皮材の裏面に設けられるので、図示の便宜上、当該高張力部材を設ける領域にハッチングを施している)、
図3は
図2の(a)のA−A線矢視断面図である。
【0021】
図1において、車両用シート10は、乗員の着座面を形成するシートクッション11と、乗員の背もたれ面を形成するリクライニング可能なシートバック12と、乗員の頭部を保持する高さ調整可能なヘッドレスト13とを備えている。
この実施例の車両用シート10は、バケットシート(セパレートシートと同意)であって乗員の体格に対応して車両前後方向に位置調整可能に構成されている。
【0022】
すなわち、この実施例の車両用シート10はシートクッションフレーム14と車体のフロアパネルとの間に、左右一対のシートスライド機構15,15を備えている。
【0023】
上述のシートスライド機構15は、車体のフロアパネルに固定され車両前後方向に延びるロアレール16と、該ロアレール16内を摺動するスライダ17と、ロアレール16とスライダ17との間に配置され、スライダ17のロアレール16に沿った摺動を許容する摺動許容部材としての複数の鋼球(図示せず)とから構成されている。
【0024】
図1に示すように、シートスライド機構15を構成するスライダ17の前側上部とシートクッションフレーム14の対応部との間は、ロアブラケット18およびアッパブラケット19にて連結されており、同様に、スライダ17の後側上部とシートクッションフレーム14の対応部との間も、ロアブラケット20およびアッパブラケット21にて連結されている。
【0025】
図1に示すように、上述のシートクッション11には、その左右両サイドに上方へ突出して車両前後方向に延びるサイドサポート部11a,11a(いわゆる張出し部)が一体形成されており、左右一対のサイドサポート部11a,11a間には着座部11bが形成されている。
【0026】
同様に、上述のシートバック12には、その左右両サイドに前方へ突出して車両上下方向に延びるサイドサポート部12a,12a(いわゆる張出し部)が一体形成されており、左右一対のサイドサポート部12a,12a間には背もたれ部12bが形成されている。
【0027】
図3に示すように、上述のシートクッション11は、車幅方向中央側の着座部11bおよび車幅方向両サイドのサイドサポート部11a,11aを一体に形成するクッション材30と、このクッション材30の外表面を覆う表皮材31とを備え、上記着座部11b対応位置の表皮材31が着座面32を形成するものである。
【0028】
図2の(a)、
図3に示すように、上述の着座面32は、着座者すなわち着座乗員の左右一対の坐骨結節X1,X2(
図3の仮想線参照)が当接する左右一対の当接位置P1,P2と着座者の左右一対の坐骨結節X1,X2が当接しない非当接領域Y(上記着座面32のうちの当接位置P1,P2を除く全領域)とを有する。
【0029】
図2の(a)に示すように、上述の非当接領域Yにおいて左右一対の当接位置P1,P2から離間して略左右対称(シートクッション11の車幅方向中央を車両前後方向に延びる前後ラインに対して略左右対称)となる領域Y1(
図2の(a)にハッチングを施して示す領域であって、以下単に対称領域Y1と略記する)が、それ以外の領域Y2(非当接領域Yのうち
図2の(a)にハッチングを施して示す領域を除くエリアのことで、以下単にその他領域Y2と略記する)に対して表皮材31の張力が高められている。換言すれば、表皮材31の剛性が高められている。
【0030】
図2の(a)に示す実施例では、次に述べる第1、第2、第3の高張力部材41,42,43により上述の表皮材31の張力を高めるよう構成しており、これらの各高張力部材41,42,43はエラストマ製の弾性メッシュで形成され、当該高張力部材41,42,43は表皮材31の裏面に設けられている。ここで、上述の高張力部材41,42,43としてエラストマ製の弾性メッシュを採用することで、当該弾性メッシュを表皮材31の裏面に溶着固定することができるので、高張力部材取付け用の縫い糸を用いる必要がなく、表皮材31に縫目が形成されることがなく、加えて、弾性メッシュがエラストマ製で伸縮性が高いので、座り心地もよい。
【0031】
図2の(a)に示すように、第1高張力部材41は、上述の左右一対の当接位置P1,P2と離間する着座部11bの後方において車幅方向の略全幅にわたって配置されており、これにより、着座乗員の骨盤が立った状態に維持されやすくなって、着座乗員のアップライト(背筋の起きた状態)の姿勢を促進するよう構成している。
【0032】
同図に示すように、第2高張力部材42は、上述の左右一対の当接位置P1,P2から前方に離間する着座部11bの前後方向中間部において車幅方向の略全幅にわたって配置されており、これにより着座乗員の大腿部付け根を左右均等に下方から支持して、上体姿勢の安定化を図るよう構成している。
【0033】
また、第3高張力部材43は、上述の左右一対の当接位置P1,P2と離間する車幅方向の内外両側方において、着座部11bの前後方向中間部まで後方から前方に向けて前後方向に延びるよう配置されており、これにより、車両の右旋回、左旋回の何れのコーナリング時においても着座乗員の姿勢安定化を図るよう構成している。
【0034】
すなわち、
図2の(a)に示す実施例1では、第1、第2、第3の高張力部材41,42,43が、左右一対の当接位置P1,P2と離間し、当該当接位置P1,P2を左右前後から離間囲繞する閉ループ状に形成されており、つまり、上述の各高張力部材41,42,43で着座乗員の坐骨結節X1,X2が取囲まれるよう形成されており、これにより着座乗員の姿勢安定化を図るよう構成したものである。
【0035】
このように、着座乗員のシートクッション11への接触部分のうち、最も下部の坐骨結節X1,X2の周囲、すなわち、上記対称領域Y1を、表皮材31の張力により左右略均等に支持し、上記張力で
図3に矢印で示す反力を働かせて、着座乗員の尻部のシートクッション11への落込みを抑制するので、当該着座乗員の上体姿勢維持機能が向上するものである(
図3参照)。
【0036】
これに対して、表皮材31の張力を高めた部分が存在しない比較例を
図5に示す。なお、
図5において、
図3と同一の部分には同一符号を付している。
図5に示す比較例においては、表皮材31の坐骨結節X1,X2の周囲、すなわち当接位置P1,P2の周囲に、表皮材31の張力を高めた部分が存在しないので、
図5に下向き矢印で示すように、着座乗員の尻部のシートクッション11への落込みが発生することになる。
なお、
図2において、矢印Fは車両の前方を示す。
【0037】
このように、
図1、
図2の(a)、
図3で示した実施例1のシートクッションは、クッション材30と、該クッション材30の外表面を覆う表皮材31とを備え、上記表皮材31が着座面32を形成するシートクッションであって、上記着座面32は、着座者の左右一対の坐骨結節X1,X2が当接する左右一対の当接位置P1,P2と、着座者の左右一対の坐骨結節X1,X2が当接しない非当接領域Yとを有し、上記非当接領域Yにおいて上記左右一対の当接位置P1,P2から離間した対称領域Y1が、その他領域Y2に対して上記表皮材31の張力が高められているものである(
図2の(a)、
図3参照)。
この構成によれば、着座乗員のシートクッション11への接触部分のうち、最も下部の坐骨結節X1,X2の周囲(すなわち、左右一対の坐骨結節X1,X2が当接しない非当接領域Yにおいて上記左右一対の当接位置P1,P2から離間した対称領域Y1)を、張力が高められた表皮材31により左右略均等に支持して、着座乗員の尻部のシートクッション11への落込みを抑制するので、当該着座乗員の上体姿勢維持機能が向上する。
また、それ以外の部位(その他領域Y2参照)は着座乗員の体型に追従させることができ、座り心地の向上を図ることができる。
【0038】
また、この発明の一実施形態においては、第1高張力部材41により上記表皮材31の張力を高めるよう構成し、当該第1高張力部材41は上記左右一対の当接位置P1,P2と離間する後方において車幅方向の略全幅にわたって配置されたものである(
図2の(a)参照)。
【0039】
この構成によれば、第1高張力部材41が左右一対の上記当接位置P1,P2から後方に離間して車幅方向の略全幅に延びて、当該車幅方向の略全幅にわたって表皮材31の張力が高められているので、着座乗員の骨盤が立った状態に維持されやすくなり、着座乗員のアップライト(背筋の起きた状態)の姿勢を促進できる。
【0040】
さらに、この発明の一実施形態においては、第3高張力部材43により上記表皮材31の張力を高めるよう構成し、当該第3高張力部材43は上記左右一対の当接位置P1,P2と離間する車幅方向内外両側方において前後方向に延びるよう配置されたものである(
図2の(a)参照)。
【0041】
この構成によれば、第3高張力部材43が上記当接位置P1,P2から離間して車幅方向内側と車幅方向外側との両部位において前後方向に延びているので、右旋回、左旋回の何れのコーナリング時においても着座乗員の姿勢が安定する。
【0042】
さらにまた、この発明の一実施形態においては、上記高張力部材41,43は、エラストマ製の弾性メッシュで形成されたものである(
図3参照)。
この構成によれば、エラストマ製弾性メッシュによる高張力部材41,43を、表皮材31に溶着固定することができるので、縫目が形成されることがなく、シートクッション11の目映え向上を図ることができるうえ、弾性メッシュがエラストマ製で伸縮性が高いため、座り心地がよい。
【0043】
加えて、この発明の一実施形態においては、上記高張力部材41,43は、上記表皮材31の裏面に設けられたものである(
図3参照)。
この構成によれば、高張力部材41,43が表皮材31の外表面に露呈しないので、見映えの確保を図ることができる。
【0044】
図3で示した実施例1においては、高張力部材43をエラストマ製の弾性メッシュで形成したが、
図4に示すように、高張力部材43´を不織布で形成してもよい。
【0045】
このように、高張力部材43´を不織布で形成すると、比較的低コストに本発明を実現することができる。なお、
図4で示した実施例においても、その他の構成、作用、効果については、
図3で示した実施例1と同様であるから、
図4において、
図3と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例6】
【0057】
図2の(f)はシートクッション11の実施例6を示す平面図である。
図2の(f)に示す実施例6においては、坐骨結節X1,X2が当接する当接位置P1,P2と離間して、これら左右一対の当接位置P1,P2間に位置して、車両前後方向に延びる第4高張力部材44と、左右一対の当接位置P1,P2と離間する車幅方向の内外両側方において、着座部11bの後端部から前端部にわたって前後方向に延びるように配置された左右一対の第5高張力部材45,45と、を設けている。
【0058】
そして、上述の第4高張力部材44により着座乗員の坐骨結節X1,X2間の中央部を下方から支持して、その上体姿勢の維持を図り、第5高張力部材45により着座乗員の臀部左右乃至大腿部略全体を下方から支持して、車両コーナリング時の着座乗員の姿勢安定化を図るよう構成したものである。
【0059】
このように構成しても、その他の構成、作用、効果については、
図2の(e)で示した実施例5とほぼ同様であるから、
図2の(f)において、
図2の(e)と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0060】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の左右一対の当接位置から離間して略対称となる領域は、実施例の対称領域Y1に対応し、
以下同様に、
それ以外の領域は、その他領域Y2に対応し、
請求項2の高張力部材は、第1高張力部材41に対応し、
請求項3の高張力部材は、第3高張力部材43,43´、第5高張力部材45に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、上記実施例においては、高張力部材にて表皮材31の張力を高めたが、この構成に代えて、クッション材30の弾性力を高めるよう構成してもよい。