(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車体等にメタリック塗装がされたときに陰影感ないしは金属質感が得られるのは、塗装物を視る角度によって明度が変化するフリップフロップ性(以下、「FF性」という。)による。つまり、明(ハイライト)と暗(シェード)のメリハリが強くなるためである。しかし、ペリレンレッド等の赤系顔料を採用した場合、ハイライトにおいて赤色が明るくきらめき感をもって発現するだけでは、意匠性の高い金属調のカラーの実現という観点からすると、必ずしも十分ではない。
【0005】
本発明の課題は、光輝性層と透光性を有する着色層によって赤を発色させるようにした積層塗膜において、赤の発色性を改善し、意匠性が高い金属調カラーを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、光輝性層の反射特性と着色層の分光透過率特性の関連に着目した。
【0007】
ここに開示する積層塗膜は、被塗物の表面に直接又は間接的に形成された光輝材を含有する光輝性層と、該光輝性層の上に重ねられ赤系顔料を含有し透光性を有する着色層とを備え、
上記光輝性層は、上記光輝材として、高反射フレークと低反射フレークを含有し、
上記高反射フレークがアルミフレークであり、上記低反射フレークがステンレスフレーク、酸化クロムフレーク又はカーボンフレークであり、
上記着色層の赤系顔料の平均粒径が2nm以上160nm以下であり、
上記着色層における上記赤系顔料の濃度が2質量%以上16質量%以下であり、
さらに、上記光輝性層は、赤系顔料を含有し、
上記光輝性層は、XYZ表色系の標準白色板で校正したY値に関して、光の入射角(光輝性層の表面の垂線から45゜傾けた角度)を45゜として、受光角(正反射方向から光源側への傾き角度)10゜で測定した反射光のY値をY(10゜)とし、受光角25゜で測定した反射光のY値をY(25゜)としたとき、
Y(10゜)が50以上950以下であり、
Y(25゜)=k×Y(10゜)であって(但し、kは係数である。)、k=0.05以上0.35以下であり、
上記光輝性層に上記着色層が積層された状態で光の入射角45゜及び受光角
25゜で測定した分光反射率を、上記着色層が除かれて上記光輝性層表面を露出させた状態で光の入射角45゜及び受光角
25゜で測定した分光反射率で除することで得られる、当該着色層の絶対値表示の分光透過率スペクトルの620nmでの接線の傾きが0.012nm
−1以上0.03nm
−1であることを特徴とする。
【0008】
ここに、XYZ表色系のY値は明るさ(視感反射率)を表す刺激値である。Y(10゜)はハイライトの輝度感の指標となり、Y(25゜)は、ハイライト方向から少しずれた観察角度において暖色系顔料による色相が明瞭に現れるか否かの指標となる。Y(10゜)が50以上950以下であり、Y(25゜)=k×Y(10゜)のkが0.05以上0.35以下であることにより、光輝性層からの反射光により着色層の顔料を鮮やかに発色し、該顔料による色相がはっきり現れ、FF性も高くなる。
【0009】
そうして、上記着色層の分光透過率スペクトルを得るための分光反射率の測定の受光角は、赤の色相がはっきり出る25゜としている。赤系顔料の場合、分光反射率は590nm〜650nmの波長範囲で立ち上がるから、その波長範囲の中央値620nmでのスペクトルの接線の傾きとしている。
【0010】
本発明者の検討によれば、彩度C
*は上記スペクトルの620nmでの接線の傾きに比例し、傾き0.03nm
−1で彩度C
*がほぼ150(上限)になる。上記実施形態において、当該接線の傾きが0.012nm
−1以上0.03nm
−1であるということは、濁りの少ない、透明性の高い鮮やかな赤の発色が得られるということである。
【0011】
従って、本発明によれば、上記光輝性層の反射特性と上記着色層の分光透過率特性とが相俟って、ハイライトにおいて、赤色が鮮やかに透明感をもって明るく発色する一方、シェード側で明度が落ちることにより、意匠性の高い金属調カラーの実現に有利になる。
【0012】
上記赤系顔料としては、ペリレンレッド、ジブロムアンザスロンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド、キナクリドンレッド、ジケトピロロピロール等の有機顔料を好ましく用いることができる。
【0013】
本発
明では、上記着色層の赤系顔料の平均粒径(個数平均粒径)が2nm以上160nm以下である。
【0014】
顔料粒子の平均粒径が160nm以下であるから、顔料粒子による幾何光学的な散乱やミー散乱がなく、2nm以上であるから、レイリー散乱も避けられ、透明感ある鮮やかな赤の発色に有利になる。また、顔料粒径が小さいことにより、同じ顔料濃度であれば、顔料粒径が大きい場合に比べて、光が着色層を透過するときに顔料粒子に当たって吸収される頻度が高く、従って、光の減衰が大きくなる。そして、光輝性層でハイライト方向に反射される光量は多いため、光の減衰が明度に与える影響は小さいが、シェード方向に反射される光量は少ないため、光の減衰が明度に与える影響が大きい。そのため、上記顔料粒子の小径化により、高FI化が図れ、強い陰影感を得る上で有利になる。
【0015】
なお、FIはX−Rite社のメタリック感指標であるフロップインデックスである。
【0016】
赤系顔料のより好ましい平均粒径は2nm以上100nm以下であり、さらに好ましい平均粒径は2nm以上40nm以下である。
【0017】
本発
明では、上記着色層の赤系顔料濃度が
2質量%以上16質量%以下である。
【0018】
すなわち、着色層の透過特性は該着色層の顔料濃度によって変わる。顔料濃度が薄いと、光輝性層からの反射光、特に拡散反射による光が着色層を透過するときにあまり減衰されず、FIは高くならない。これに対して、顔料濃度が
2質量%以上になると、光が着色層を透過するときに、顔料粒子に吸収され、また、顔料粒子を透過するために光路長が長くなり、シェードの明度が落ちる。その結果、FI値が高くなる。但し、顔料濃度が過度に高くなると、光輝性層からの反射光を顔料粒子が遮蔽する効果が大きくなってFI値が下がるから、顔料濃度の上限は
16質量%が好ましい。
【0019】
本発明の一実施形態では、上記光輝性層は、光の入射角45゜及び受光角110゜で測定した標準白色板に対する反射率の波長450nm〜700nm範囲の平均値が絶対値表示で0.003以上0.045以下である。これにより、高FI化が図れ、強い陰影感を得る上でに有利になる。
【0020】
本発
明では、上記光輝性層は赤系顔料を含有する。
【0021】
これにより、ハイライトにおいて光輝性層の反射光が着色層の顔料を鮮やかに発色させる一方、シェードでは、着色層の顔料と光輝性層の顔料の重なりにより、深みが強くなる。また、光輝性層が顔料を含有することにより、深みを得るために着色層の顔料濃度を高くする必要がなく、着色層の光の透過率が高くすることができる。すなわち、積層塗膜全体しての発色性を損なうことなく、ハイライトで透明感のある鮮やかな色を出すことができ、鮮やかさと深みを高度に両立させる上で有利になる。
【0022】
本発明の一実施形態では、上記
アルミフレークは、粒径が5μm以上15μm以下、厚さが20nm以上200nm以下、表面粗さRaが100nm以下で
あり、上記光輝性層が含有する樹脂に対する上記アルミフレークの比率が8質量%以上20質量%以下である。
【0023】
これにより、光輝性層の上記反射特性(Y(10゜)が50以上950以下で且つY(25゜)/Y(10゜)=0.05〜0.35)の実現に有利になる。
【0024】
本発明の一実施態様では、上記光輝性層の上に透明クリヤ層が直接積層される。透明クリヤ層によって耐酸性や耐擦り傷性を得ることができる。
【0025】
被塗物に上記積層塗膜を備えた塗装物としては、例えば、自動車のボディがあり、また、自動二輪車、その他の乗物のボディであってもよく、或いはその他の金属製品、プラスチック製品であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、
光輝性層が高反射フレークとしてのアルミフレークと低反射フレークとしてのステンレスフレーク、酸化クロムフレーク又はカーボンフレークを含有し、着色層の赤系顔料の平均粒径が2nm以上160nm以下であり、上記着色層における上記赤系顔料の濃度が2質量%以上16質量%以下であり、さらに、上記光輝性層は、赤系顔料を含有し、光輝性層は、Y(10゜)が50以上950以下であり、Y(25゜)はY(10゜)の0.05倍以上0.35倍以下であり、着色層の絶対値表示の分光透過率スペクトルの620nmでの接線の傾きが0.012nm
−1以上0.03nm
−1であるから、当該光輝性層の反射特性と着色層の分光透過率特性とが相俟って、ハイライトにおいて、赤色が鮮やかに透明感をもって明るく発色する一方、シェード側で明度が落ちることにより、意匠性の高い金属調カラーの実現に有利になる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
<積層塗膜の構成例>
図1に示すように本実施形態の自動車の車体11の表面に設けられた積層塗膜12は、光輝性層(第1ベース)14、透光性を有する着色層(第2ベース)15及び透明クリヤ層16を順に積層してなる。車体11の表面にはカチオン電着塗装によって電着塗膜13が形成され、電着塗膜13の上に上記積層塗膜12が設けられている。
【0030】
光輝性層14は、フレーク状光輝材として、高反射フレーク21と、該高反射フレーク21よりも厚さが薄い低反射フレーク22を含有し、顔料として暖色系顔料23を含有し、さらに、紫外線遮蔽材等を含有する。着色層15は、光輝性層14の暖色系顔料23と同系色の暖色系顔料25及び紫外線遮蔽材等を含有する。
【0031】
フレーク状光輝材21,22は、光輝性層14の表面と略平行になるように(光輝性層14の表面に対する光輝材21,22の配向角が3度以下になるように)配向されている。光輝材21,22、顔料23等を含有する塗料を電着塗膜13の上に塗布した後、焼付けによる溶剤の蒸発によって塗膜が体積収縮して薄くなることを利用して、光輝材21,22を配向角が3度以下(好ましくは2度以下)になるように並べる。
【0032】
顔料23,25としては、例えば、ペリレンレッド等の赤系顔料など種々の色相の顔料を採用することができる。特に、顔料25としては、平均粒径2nm以上160nm以下のペリレンレッドを採用することが好ましい。
【0033】
紫外線遮蔽材としては、有機化合物系の紫外線吸収剤、無機化合物系の紫外線散乱剤等を採用することができ、なかでも、酸化鉄など酸化金属のナノ粒子を採用することが好ましい。
【0034】
光輝性層14及び着色層15の樹脂成分としては、例えば、アクリル系樹脂を採用することができ、透明クリヤ層16の樹脂成分としては、例えば、カルボン酸基含有アクリル樹脂、ポリエステル樹脂とエポキシ含有アクリル樹脂の組み合わせ、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂とポリイソシアネートとの組み合わせ等を採用することができる。
【0035】
光輝性層14の顔料濃度は3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、着色層15の顔料濃度は
2質量%以上16質量%以下であることが好ましい。
【0036】
光輝性層14の膜厚は5μm以上8μm以下であること、着色層15の膜厚は8μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0037】
<光輝性層14の反射特性>
金属調カラーを実現するには、ハイライトでの明度が高く、シェードでの明度が低いこと、すなわち、FI値が高いことが積層塗膜12に求められる。ここに、FI値は、
図2に示すように、積層塗膜12の表面に対して光が入射角45゜(該表面の垂線から45゜傾けた角度)入射したときの、受光角(正反射方向から光源側への傾き角度)45゜の反射光(45゜反射光)の明度指数L
*45°と、受光角15゜の反射光(15゜反射光)の明度指数L
*15°と、受光角110゜の反射光(110゜反射光)の明度指数L
*110°とに基いて、次式により求められる値である。
【0038】
FI=2.69×(L
*15°−L
*110°)
1.11/L
*45°
0.86
図3は顔料を含まない光輝性層のXYZ表色系の標準白色板で校正したY値の角度依存特性の一例を示す。
図4にY値の測定方法を示す。光源41の光輝性層15に対する入射角は45゜である。センサ42による受光角は正反射方向を0゜としている。測定には株式会社村上色彩研究所製三次元変角分光測色システムGCMS−4を用いた。受光角10゜で測定した反射光のY値をY(10゜)、受光角25゜で測定した反射光のY値をY(25゜)とすると、
図4の例では、Y(10゜)=510、Y(25゜)=120である。
【0039】
本実施形態では、FI値を高めるために、光輝性層14に所定の反射特性を与えている。すなわち、光輝性層14のY(10゜)を50以上950以下とし、Y(25゜)=k×Y(10゜)(但し、kは係数であり、k=0.05以上0.35以下である)としている。係数kは、受光角が10゜から25゜に変化したときの反射強度の低下率である。ハイライトで明るく、シェード近くになると暗くなる反射特性を得るために、受光角10゜での反射の強さY(10゜)と、受光角25゜になったときの反射強度の低下率kを指標としているものである。
【0040】
そして、光輝性層14については、光の入射角45゜及び受光角110゜(代表的なシェード方向)で測定した標準白色板に対する反射率の波長450nm〜700nm範囲の平均値(これを以下では「受光角110゜での平均反射率」という。)、を、絶対値表示で0.003以上0.045以下(百分率で表せば、0.3%以上4.5%以下)としている。
【0041】
[高反射フレークと低反射フレークの組み合わせ]
光輝性層14に上述の如きの反射特性を得るために、本実施形態では、上述の反射特性が異なる2種類のフレーク、すなわち、高反射フレーク21と低反射フレーク22を採用している。
【0042】
すなわち、アルミフレークのような高反射フレーク21は、ハイライトの明度を高めることに有効であるものの、フレーク表面の微小凹凸による拡散反射やフレークのエッジでの拡散反射があり、さらに、電着塗膜13での拡散反射がある。そのため、高反射フレーク21の濃度調整だけでは、シェードの明度を所期の暗さに調整することができない。そこで、本実施形態では、高反射フレーク21と低反射フレーク22を併用し、低反射フレーク22の光吸収機能及び隠蔽能を利用してシェードの反射特性を調整するようにしている。
【0043】
図5は、光の入射角45゜及び受光角110゜で測定した実施例及び比較例の各光輝性層の標準白色板に対する分光反射率を示す。なお、
図5では反射率を絶対値表示にしており、「1=100%」である。この点は、表1〜表3、
図7及び
図8の反射率、並びに
図9及び
図10の透過率も同じである。分光反射率の測定には、上記村上色彩技術研究所製の変角分光測色システムGCMS−4を用いた。実施例及び比較例の光輝性層の仕様及び平均反射率は表1のとおりである。同表において、アルミフレークが高反射フレーク21に相当し、酸化クロムフレークが低反射フレーク22に相当する。
【0045】
図5によれば、比較例では、分光反射率が580nm付近から立ち上がっており、受光角110゜のシェードでも赤の発色が認められる。これに対して、実施例では、分光反射率が660nm付近から少し高くなっている程度であり、当該シェードでの実質的な発色は認められない。
【0046】
ここに、光輝性層14においては、高反射フレーク21及び低反射フレーク22は、各々の複数枚が光輝性層14の厚さ方向に間隔をおいて重なり合うように設けられている。
図6は、上記実施例に係る光輝性層をその表面側から撮影した写真である。同図の白っぽい粒子はアルミフレークであり、その他の粒子は酸化クロムフレークである。同図から明らかなように、両フレークを光輝性層の底面に投影したとき、該底面に占める両フレークを合わせた投影面積の割合(以下、「投影面積占有率」という。)は100%である。
【0047】
従って、高反射及び低反射の両フレーク21,22の併用では、高反射フレーク21同士の隙間を透過する入射光の多くは、低反射フレーク22に当たって遮蔽されるため、下地(電着塗膜13)による光の反射は殆どなくなる。そして、高反射フレーク21によって拡散反射される光が低反射フレーク22によって遮蔽ないし吸収されることにより、シェードの明度が低下する。
【0048】
ところで、光の反射特性の調整のために、光輝性層14の光輝材としてアルミフレークのみを採用し、光輝性層14と電着塗膜12の間に光を吸収する黒色、その他の暗色下地層(吸収層)設けるようにしてもよい。すなわち、光輝性層14のアルミフレーク濃度を調整し、アルミフレーク間の隙間を透過した光を暗色下地層で吸収するという方式である。この方式の場合、暗色下地層の塗装が必要になるが、反射特性を調整することは可能である。
【0049】
これに対して、本実施形態では、そのような吸収層を設ける代わりに、光輝性層14の光輝材として、反射特性が異なる2種類のフレーク21,22を併用した点に特徴がある。
【0050】
[好ましい高反射フレーク・低反射フレーク]
好ましい高反射フレーク21は、可視光線反射率が90%以上であるアルミフレークである。このような高い反射特性を得るために、アルミフレークは、その平均粒径が5μm以上15μm以下、厚さが20nm以上200nm以下、表面粗さRaが100nm以下であることが好ましい。このような高反射フレーク21の濃度を、光輝性層14が含有する樹脂に対する比率で表して、8質量%以上20質量%以下とすることにより、所期のハイライトの明度を得ている。
【0051】
受光角110゜での平均反射率を0.003以上0.045以下とするために、低反射フレーク22は、その可視光線反射率が高反射フレーク21の1/2以下であることが好ましい。低反射フレーク22は、平均粒径が5μm以上20μm以下とすれば良く、拡散反射を抑える観点から、厚さは10nm以上100nm以下、表面粗さRaは100nm以下であることが好ましい。フレーク状光輝材のエッジでの拡散反射は該フレークの厚さが厚いほど強くなるところ、低反射フレーク22はその厚さが薄いから、当該拡散反射が弱い。よって、シェードの明度の低減に有利になる。
【0052】
図7は反射特性が異なる低反射フレークA〜D各々と、高反射フレークとしての可視光線反射率が90%以上であるアルミフレークとを組み合わせた各ケースにおける、アルミフレークの延べ面積と低反射フレークの延べ面積の合計に占めるアルミフレークの延べ面積の比率(以下、「アルミ面積率」という。)と、光輝性層14の受光角110゜での平均反射率との関係を示す。延べ面積は、光輝性層をその表面からマイクロスコープで拡大して観察し、アルミフレークと低反射フレークを明度で区別し、画像処理によって各フレークの面積の合計を求める方法によって算出した。
【0053】
低反射フレークAは、その可視光線反射率がアルミフレークの3/4であり、クロムフレークに代表されるフレークである。低反射フレークBは、その可視光線反射率がアルミフレークの1/2であり、ステンレスフレークに代表されるフレークである。低反射フレークCは、その可視光線反射率がアルミフレークの1/4であり、酸化クロムフレークに代表されるフレークである。低反射フレークDは、その可視光線反射率がアルミフレークの1/18であり、板状酸化鉄(α−Fe
2O
3)フレークやカーボンフレークに代表されるフレークである。
【0054】
各ケースにおいて、アルミフレーク及び低反射フレークが光輝性層の底面に占める投影面積占有率は100%である。また、アルミフレークと低反射フレークの総量(容積%)を一定にして、アルミフレークと低反射フレークの量を相対的に変化させることにより、アルミ面積率を変化させている。
【0055】
同図によれば、受光角110゜での平均反射率を0.045以下とするためには、低反射フレークの可視光線反射率をアルミフレークの可視光線反射率の1/2以下とする必要があることがわかる。また、可視光線反射率がアルミフレークの可視光線反射率の1/4以下である低反射フレーク(例えば、酸化クロムフレーク)を採用した場合、アルミ面積率を25%以上75%以下にすると、受光角110゜での平均反射率が0.003以上0.045以下になることがわかる。
【0056】
[光輝性層の受光角110゜での平均反射率とFI値との関係]
高反射フレークとしてアルミフレークを採用し、低反射フレークとして酸化クロムフレークを採用し、アルミ面積率を調整することによって、受光角110゜での平均反射率が相違する複数の光輝性層を作成した。それら各光輝性層に着色層を積層してなる複数の塗装板a〜eを作成し、各塗装板のFI値を測定した。
【0057】
いずれの塗装板も、光輝性層には樹脂としてアクリルメラミン樹脂を採用し、顔料としてペリレンレッド(平均粒径200nm)を採用して、顔料濃度は10質量%とした。また、いずれの塗装板も、着色層は同じ構成(ペリレンレッド(平均粒径30nm);5質量%,アクリル樹脂;58質量%,メラミン樹脂;31質量%,添加剤;残部)とした。各塗装板のアルミフレーク量、酸化クロムフレーク量、アルミ面積率及び受光角110゜での平均反射率は表2に示すとおりである。
【0059】
測定結果を
図8に示す。同図によれば、受光角110゜での平均反射率が0.003以上0.045以下であるときにFI値は20以上になっており、その平均反射率が0.005以上0.035以下であるときにはFI値が30以上になっている。
【0060】
<着色層の透過特性>
本実施形態の着色層15は、光の入射角45゜及び受光角25゜における絶対値表示の分光透過率のスペクトルの620nmでの接線の傾きが0.012nm
−1以上0.03nm
−1である。ここに、着色層15の分光透過率は、光輝性層14に着色層15を積層した状態で測定した分光反射率を、着色層15が除かれて光輝性層14表面を露出させた状態で測定した分光反射率で除することで求められるものである。
【0061】
図9及び
図10は実施例及び比較例各々の着色層の分光透過率のスペクトルを示す。分光反射率の測定には、上記村上色彩技術研究所製の変角分光測色システムGCMS−4を用いた。
図9は測定波長範囲420〜740nmの各分光透過率スペクトルであり、
図10は600〜640nm範囲の各分光透過率スペクトルを拡大したものである。実施例及び比較例の積層塗膜の仕様及び当該スペクトルの波長620nmでの接線の傾き及び彩度C
*は表1のとおりである。
【0062】
本発明者の検討によれば、
図11に示すように、彩度C
*は波長620nmでのスペクトルの接線の傾きに比例し、傾き0.02nm
−1で彩度C
*がほぼ100になり、傾き0.03nm
−1で彩度C
*がほぼ150(上限)になる。ここに、
図11に示す接線の傾きと彩度C
*に係る特性は次のようにして求めた。
【0063】
着色層の顔料粒径を種々に変える他は上記実施例と同じ構成の複数の塗装板を作製し、各塗装板の分光スペクトルを測定する。該分光スペクトルから上述のように620nmでの接線の傾きを求めるとともに、等色関数を使ってXYZ表色系のXY及Z値を求める。XYZをL
*a
*b
*に変換し、彩度C
*=√((a
*)
2+(b
*)
2)を求める。
【0064】
上記接線の傾きが0.012nm
−1以上になると、彩度C
*が50以上になっている。また、
図12に示すように、上記接線の傾きは着色層の顔料粒径(平均粒径)に依存する。
図11及び
図12によれば、顔料粒子の平均粒径が2nm以上160nm以下であれば、上記接線の傾きが0.012nm
−1以上0.03nm
−1以下となり、濁りの少ない、透明性の高い鮮やかな赤の発色が得られることがわかる。すなわち、顔料粒子の平均粒径が160nm以下であれば、顔料粒子による幾何光学的な散乱やミー散乱はなく、顔料粒子の平均粒径が2nm以上であれば、レイリー散乱も避けられ、透明感ある鮮やかな赤の発色に有利になる。
<光輝性層の反射特性と着色層の透過特性との組み合わせ>
本発明の重要な特徴の一つは、光輝性層14の反射特性と着色層15の透過特性との組み合わせによって、積層塗膜12の高FI化を図った点にある。すなわち、着色層15の透過特性は、その顔料濃度Cによって変化する。顔料濃度Cが薄い場合は、光輝性層14からの反射光(特に拡散反射光)が着色層15を透過するときにあまり減衰されず、FI値は高くならない。そして、顔料濃度Cが高くなるにしたがって、光が着色層15を透過するときに、顔料粒子に吸収され、また、顔料粒子を透過するために光路長が長くなるため、シェードの明度が落ちる(FI値が高くなる。)。但し、顔料濃度Cが過度に高くなると、顔料粒子による反射光の遮蔽効果が大きくなってFI値が下がる。
【0065】
表3に示すサンプル1〜14の積層塗膜(下地は電着塗膜)を備えた塗装板を作成し、アルミ面積率、Y(10゜)、Y(25゜)、光輝性層の受光角110゜での平均反射率、波長620nmでの分光透過率スペクトルの接線の傾き、FI値、赤の発色の鮮やかさを調べた。発色の鮮やかさは、「◎」、「○」、「△」及び「×」の4段階評価とした。鮮やかさの評価は、「◎」が最も高く、「○」→「△」→「×」の順で段階的に低くなるというものである。
【0067】
図13は、表3の結果に基づいて、FI値のY(10゜)及び着色層の顔料濃度Cに対する依存性をグラフにしたものである。光輝性層14のY(10゜)を50以上950以下とし、Y(25゜)=k×Y(10゜)(但し、kは0.05以上0.35以下である。)としたとき、着色層15の質量%で表した顔料濃度Cが1以上17以下であるときに、FI値を20以上にすることが可能になる。また、Y(10゜)を100以上900以下とし、Y(25゜)=k×Y(10゜)(但し、kは0.05以上0.35以下である。)としたとき、着色層15の顔料濃度Cが3以上12以下であるときに、FI値を30以上にすることが可能になる。
【0068】
<好ましい三条件(Y(10゜)、k及び着色層顔料濃度C)の策定>
試作実験によれば、
図14に示すように、k=0.35であるときは、130≦Y(10゜)≦950であり、且つ質量%で表した顔料濃度Cが5≦C≦17であるときに、FI値が20以上となる。また、150≦Y(10゜)≦900であり、且つ7≦C≦12であるときに、FI値が30以上となる。同図の好ましい範囲を示す図形の頂点a1〜h1に与えた座標(X,Y,Z)は、Y(10゜)、k及びCの3つの変数をX、Y及びZの各座標軸におく三次元直交座標空間の座標を表示したものである。この座標(X,Y,Z)に関しては、
図15及び
図16も同じである。
【0069】
同じく、k=0.2であるときは、
図15に示すように、80≦Y(10゜)≦900であり、且つ3≦C≦15であるときに、FI値が20以上となる。そして、100≦Y(10゜)≦850であり、且つ5≦C≦10であるときに、FI値が30以上となる。
【0070】
同じく、k=0.05であるときは、
図16に示すように、50≦Y(10゜)≦870であり、且つ1≦C≦13であるときに、FI値が20以上となる。そして、70≦Y(10゜)≦800であり、且つ3≦C≦8であるときに、FI値が30以上となる。
【0071】
図17は、Y(10゜)及び係数kの2つの変数を座標軸におく二次元直交座標系に上記
図14〜
図16の頂点a1〜h1,a2〜h2,a3〜h3をプロットして、Y(10゜)と係数kの関係をみたものである。このように、係数kの好ましい範囲はY(10゜)に応じて異なる。
【0072】
図18は、係数k及び顔料濃度Cの2つの変数を座標軸におく二次元直交座標系に上記頂点a1〜h1,a2〜h2,a3〜h3をプロットして、係数kと顔料濃度Cの関係をみたものである。このように、顔料濃度Cの好ましい範囲は係数kに応じて異なる。
【0073】
以上を踏まえると、Y(10゜)、係数k及び顔料濃度Cに関し、FI値が20以上となる範囲は、
図19に示すように、当該Y(10゜)、k及びCの3つの変数をX、Y及びZの各座標軸におく上記三次元直交座標空間で表すことができる。
【0074】
すなわち、
図19に示す多面体の図形は、上記頂点a1〜d1,a2〜d2,a3〜d3を三次元直交座標空間に配置して形成したものである。この多面体は、表4に示す各々4つの頂点を含む合計10個の平面A〜Jで囲まれている。
【0075】
三次元直交座標空間(X,Y,Z)上の平面の式は「αX+βY+γZ+δ=0」で表すことができ、上記10個の平面の式は表4のようになる。
【0077】
A面の式とI面の式は同じであるから、両者は同一平面であり、B面の式とJ面の式も同じであるから、両者は同一平面である。従って、
図19に示す多面体はA面〜H面の計8つの平面で囲まれた八面体であるということができる。また、この八面体では、C面とF面は凹稜角を形成し、D面とG面は凸稜角を形成している。
【0078】
すなわち、
図19に示す多面体は、表3に示す8つの式A〜Hで各々表される平面で囲まれ、且つ式Cで表される面と式Fで表される面が凹稜角を形成し、式Dで表される面と式Gで表される面が凸稜角を形成する八面体であるということができる。そして、Y(10゜)、係数k及び顔料濃度Cが、当該八面体で区画される範囲内に座標(Y(10゜),k,C)が存するという条件を満足する関係にあるとき、FI値が20以上となる。
【0079】
次に、Y(10゜)、係数k及び顔料濃度Cに関し、FI値が30以上となる範囲も、
図20に示すように、当該Y(10゜)、k及びCの3つの変数をX、Y及びZの各座標軸におく上記三次元直交座標空間で表すことができる。すなわち、この多面体の図形は、上記頂点e1〜h1、e2〜h2及びe3〜h3を三次元直交座標空間に配置して形成したものであり、表5に示す各々4つの頂点を含む合計10個の平面A’〜J’で囲まれている。上記10個の平面の式は表5のようになる。
【0081】
A’面の式とI’面の式は同じであるから、両者は同一平面であり、B’面の式とK’面の式も同じであるから、両者は同一平面である。従って、
図20に示す多面体はA’面〜H’面の計8つの平面で囲まれた八面体であるということができる。また、この八面体では、C’面とF’面は凹稜角を形成し、D’面とG’面は凸稜角を形成している。
【0082】
すなわち、
図20に示す多面体は、表2に示す8つの式A’〜H’で各々表される平面で囲まれ、且つ式C’で表される面と式F’で表される面が凹稜角を形成し、式D’で表される面と式G’で表される面が凸稜角を形成する八面体であるということができる。そして、Y(10゜)、係数k及び顔料濃度Cが、当該八面体で区画される範囲内に座標(Y(10゜),k,C)が存するという条件を満足する関係にあるとき、FI値が30以上となる。