特許第6677433号(P6677433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6677433
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法
(51)【国際特許分類】
   F28G 9/00 20060101AFI20200330BHJP
   F28F 19/00 20060101ALI20200330BHJP
   F28F 19/02 20060101ALI20200330BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20200330BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20200330BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20200330BHJP
   B08B 9/032 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   F28G9/00 L
   F28F19/00 511Z
   F28F19/02 501
   C23F11/00 E
   C23F11/00 F
   B08B3/02 Z
   B08B3/08 Z
   B08B9/032 321
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-56370(P2018-56370)
(22)【出願日】2018年3月23日
(65)【公開番号】特開2019-168162(P2019-168162A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2019年10月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関戸 広太
【審査官】 田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−116352(JP,A)
【文献】 特開昭63−258697(JP,A)
【文献】 特開2006−138501(JP,A)
【文献】 特開2007−017056(JP,A)
【文献】 特開2003−320392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28G 9/00
F28F 19/00
F28F 19/02
B08B 3/02
B08B 3/08
B08B 9/032
C23F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油精製プラントにおいて油性流体が流れる熱交換器及び加熱炉の伝熱面内表面汚れを防止する汚れ防止方法であって、停止中の石油精製プラントの熱交換器及び加熱炉の汚れを、溶媒を用いて除去する洗浄工程と、該洗浄工程後または該洗浄工程と同時に有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、カルボン酸重合体及び無機リン酸化合物からなる群より選ばれる1種類以上を含む水溶性の防食剤を用いて防食被膜を形成する被膜形成工程の、2工程を有することを特徴とする汚れ防止方法。
【請求項2】
前記洗浄工程で用いられる溶媒が水性または油性であることを特徴とする請求項1記載の汚れ防止方法。
【請求項3】
前記洗浄工程で用いられる溶媒が水であることを特徴とする請求項1又は2記載の汚れ防止方法。
【請求項4】
前記洗浄工程が、水を溶媒として用いた物理洗浄または化学洗浄のいずれかであることを特徴とする請求項3記載の汚れ防止方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製プラントにおける熱交換器や加熱炉の汚れ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油を精製するための石油精製プラントの蒸留工程では、原油が熱交換器や加熱炉で加熱された後、蒸留塔に送られ蒸留操作が行われる。熱交換器や加熱炉の内部表面では原油が熱履歴を受け、油中に溶解しないアスファルテンやスラッジ等の有機物となり付着する。また、こうした有機物による汚れの他、伝熱面における鉄系金属の腐食生成物も付着する。これらの汚れ付着は熱交換器や加熱炉の熱交換率の低下を引き起こすため、次のような方法で汚れの除去や汚れの付着防止を行っている。例えば、停止中の石油精製プラントにおいては、熱交換器や加熱炉内に軽油を導入して内部に滞留するプロセス油を系外に押し出して置換し、蒸気パージにより軽油を除去した後、高圧水洗浄等の物理洗浄や、薬剤を用いた化学洗浄により熱交換器等の汚れの除去を行っている。また、運転中の石油精製プラントにおいては、原油中に汚れ防止剤を添加し、熱交換器等の汚れの付着防止を行っている。
【0003】
停止中の石油精製プラントの熱交換器や加熱炉内の汚れを除去する具体的な洗浄方法としては、特許文献1では、石油精製プロセスで得られる沸点150〜480℃の軽質油留分からなる洗浄油を洗浄すべき機器内に導入すると共に、循環させながら、その一部を系外へ抜き出し、洗浄油の累積導入量が機器の内容積の1.5倍以上に達した時点で、界面活性剤を機器内へ導入してスラッジを洗浄除去する方法が提案されている。
また、特許文献2では、被精製油の供給を停止したのち石油精製プラントに洗浄用灯軽油留分油を注入し、プラント内の滞油を洗浄用灯軽油留分油で置換し、置換した洗浄用灯軽油留分油はブローすることなくこれに洗浄剤を添加し、この洗浄液で石油精製プラント内を循環洗浄する洗浄方法が提案されている。
さらに、特許文献3では、酵素と界面活性剤を含む水溶液を用いる、石油精製プラントの石油分解プロセスに設置されている塔槽類や熱交換器の洗浄方法が提案されている。
【0004】
運転中の石油精製プラントの熱交換器や加熱炉内の具体的な汚れ防止方法としては、特許文献4では、油中に分散剤を添加することによって、汚れの原因物質となるアスファルテンやスラッジを油中に分散し、付着を防ぐことが行われており、また、アスファルテンの生成を防ぐために、重合防止剤や酸化防止剤や過酸化物分解剤等の連鎖停止剤(ラジカル捕捉剤とも呼ばれている)を添加する方法が提案されている。
さらに、特許文献5では、リン酸エステル系防食剤や多硫化物系防食剤と、分散剤とを併用して腐食生成物の付着を防止する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、分散剤等によるプラント運転中の熱交換器等の汚れ付着防止効果は依然として十分ではなく、また、高圧水洗浄等の物理洗浄及び特許文献1、2、3等の洗浄薬剤を用いた化学洗浄では、熱交換器の鉄系金属表面に堆積した汚れの除去は可能であるが、洗浄後は原油中の硫黄分で鉄系金属表面の腐食が進行し、アスファルテンやスラッジ等の有機物と硫化鉄との複合汚れが付着しやすい状態のままになってしまうという問題があった。
【0006】
本発明者は、停止中の石油精製プラントの熱交換器や加熱炉内を洗浄し汚れを除去した後に、運転開始段階の石油精製プラントの熱交換器及び加熱炉に通油される油性流体に、水溶性防食剤を含む高濃度の汚れ防止剤を添加して、熱交換器及び加熱炉内の清浄な鉄系金属表面に速やかに防食被膜を形成し(この薬剤添加処理を「初期処理」と称する)、プラントが定常運転に達した後は、形成した防食被膜を維持するために水溶性防食剤を含む汚れ防止剤を低濃度で添加する(この薬剤添加処理を「平常処理」と称する)という、二段階の処理工程を含む汚れ防止剤方法が、アスファルテンやスラッジ等の有機物と硫化鉄との複合汚れの付着を効果的に防止できるという予想外の効果を見出した(特願2018−024691号(特許文献6)参照)。
この、従来の技術とは全く異なる技術的思想に基づいて、運転開始〜定常運転段階の石油精製プラントの熱交換器や加熱炉の汚れを防止できることを見出したことは上記の通りであるが、停止中の石油精製プラントの熱交換器や加熱炉内を洗浄し汚れを除去する工程については、充分な検討がされておらず、この新たな汚れ防止剤を適用するに当たっては、従来の適用方法とは異なる、より効果的な適用方法を見出す必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−170590号公報
【特許文献2】特開2003−213470号公報
【特許文献3】米国特許第5686297号
【特許文献4】特開2010−163539号公報
【特許文献5】特許第5914915号公報
【特許文献6】特願2018−024691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑み、停止中の石油精製プラントの熱交換器や加熱炉内の汚れ洗浄工程において、汚れを除去した鉄系金属表面の腐食の進行を抑制し、新たな汚れの付着を防止する方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、停止中の石油精製プラントの熱交換器や加熱炉内の汚れを洗浄し、汚れを除去した鉄系金属表面の腐食の進行を抑制する方法について鋭意研究を行い、溶媒を用いて熱交換器や加熱炉の鉄系金属表面に付着しているアスファルテンやスラッジ等の有機物と硫化鉄との複合汚れを除去する洗浄工程と、該洗浄工程後または該洗浄工程と同時に水溶性の汚れ防止剤を含む溶液を熱交換器及び加熱炉の鉄系金属表面に接触させ、速やかに防食被膜を形成させる被膜形成工程の、2工程を行うことで、汚れを除去した鉄系金属表面の腐食を抑制し、定常運転時においても熱交換器や加熱炉内の汚れ付着を効果的に防止できることを見出した。
このように、本発明者は、先に出願した初期処理工程と平常処理工程の前段階である、プラントを停止して熱交換器や加熱炉内を洗浄し汚れを除去する段階においても、効果的な防食被膜の形成方法を確立したことにより、石油精製プラントに設置された熱交換器や加熱炉の洗浄〜プラントの運転開始〜定常運転までの各段階で鉄系金属表面の防食を切れ目なく継続・維持することができるため、前記鉄系金属表面での硫化鉄の生成・付着を防止し、硫化鉄に前記有機物汚れが結合して汚れが成長することを防止することができる。
【0010】
すなわち、請求項1に係る発明は、石油精製プラントにおいて油性流体が流れる熱交換器及び加熱炉の伝熱面内表面汚れを防止する汚れ防止方法であって、停止中の石油精製プラントの熱交換器及び加熱炉の汚れを、溶媒を用いて除去する洗浄工程と、該洗浄工程後または該洗浄工程と同時に有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、カルボン酸重合体及び無機リン酸化合物からなる群より選ばれる1種類以上を含む水溶性の防食剤を用いて防食被膜を形成する被膜形成工程の、2工程を有することを特徴とする汚れ防止方法である。
【0011】
また、請求項2に係わる発明は、前記洗浄工程で用いられる溶媒が水性または油性であることを特徴とする請求項1記載の汚れ防止方法である。
【0012】
また、請求項3に係わる発明は、前記洗浄工程で用いられる溶媒が水であることを特徴とする請求項1又は2記載の汚れ防止方法である。
【0013】
また、請求項4に係わる発明は、前記洗浄工程が、水を溶媒として用いた物理洗浄または化学洗浄のいずれかであることを特徴とする請求項3記載の汚れ防止方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の汚れ防止方法を停止中の石油精製プラントの熱交換器及び加熱炉に適用することで、熱交換器及び加熱炉に付着している汚れが除去された鉄系金属表面に防食被膜を形成できるため、運転開始後の石油精製プラントにおいても、熱交換器及び加熱炉の鉄系金属表面での硫化腐食の発生を防止できる。このため、硫化腐食によって生じた硫化鉄中に、油中のアスファルテンやスラッジ等の有機物が取り込まれることを防止でき、該有機物と硫化鉄との複合汚れの形成が防止され、伝熱効率の低下が防止される。それにより、熱交換器及び加熱炉の熱交換率を長期にわたって高く維持することができ、ひいては、燃料コストや清掃コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の洗浄工程及び被膜形成工程の作用機構を示す模式図である。
図2】石油精製装置のブロック図である。
図3】実施例に用いた汚れ防止剤を評価するために用いた腐食試験装置の模式図である。
図4】比較例1の付着物のSEM−EDX表面分析チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の汚れ防止方法は、石油精製プラントにおいて油性流体が流れる熱交換器及び加熱炉の表面汚れを防止する汚れ防止方法であって、停止中の石油精製プラントの熱交換器及び加熱炉の汚れを、溶媒を用いて除去する洗浄工程と、該洗浄工程後または該洗浄工程と同時に水溶性の防食剤を用いて防食被膜を形成する被膜形成工程の、2工程を有することを特徴とする。
本発明の洗浄工程及び被膜形成工程の作用機構について、図1の模式図によって説明する。本発明の洗浄工程では、停止中の石油精製プラントの鉄系金属からなる熱交換器1の表面に堆積したアスファルテンやスラッジ等の有機物と硫化鉄との複合汚れ2を、溶媒3を用いて除去をする。その際、前記複合汚れ2を除去することで、鉄系金属からなる熱交換器1の清浄な面が露出した状態となる。ここに水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤4を添加し、被膜形成工程を行うことで、汚れ防止剤4が親水性である鉄系金属からなる熱交換器1(あるいは図示しない加熱炉)の伝熱面に吸着し、熱交換器1の表面を覆うようにして防食被膜5が均一に形成される。そのため、運転中の石油精製プラントにおいても、鉄系金属からなる熱交換器1は防食被膜により硫化腐食を受け難くなる。その結果、硫化鉄が形成し難くなり、前記複合汚れの付着も防止されるため、伝熱効率の低下を防ぐことができる。
【0018】
次に、本発明の汚れ防止方法が適用される代表的な石油精製プラントを図2に示す。この石油精製プラントでは、図示しない原油貯留タンクから供給された原油が予熱交換器21で110〜140℃に加熱され、デソルター22に入る。デソルター22では水分及び無機成分が除去され、油分は予熱交換器23で150〜180℃に加熱された後、プレフラッシュ塔24へ送られ低沸点ガス分が分離される。そして、さらに油分が予熱交換器25によって240〜280℃に加熱され、加熱炉26で350〜380℃に加熱された後、常圧蒸留塔27に送られる。常圧蒸留塔27では沸点の差によって分留された留分が、ポンプ28を介して熱交換器25のシェル側に熱源として送られる。
【0019】
本発明の汚れ防止方法は、この石油精製プロセスに使用される熱交換器21、23、25の防食及び加熱炉26内部の防食において効果を発揮する。例えば、予熱交(予熱交換器)、プレヒータ−、リボイラー等を含む鉄系材質の熱交換器である。これらの熱交換器において、アスファルテンやスラッジ等の有機物と硫化鉄との複合汚れが特に発生し蓄積しやすいのは、約200℃以上の高温部分であることから、石油精製プロセスにおいては、デソルター22より下流側の熱交換器23、25及び加熱炉26の防食において特に効果を発揮する。
【0020】
本発明の汚れ防止方法は、汚れを除去した後の予熱交換器21、23、25や加熱炉26内部の硫化腐食を防止するために、図2中のA点、B点、C点、D点などに水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を添加し、系内を循環させることで、防食被膜を形成させる。
【0021】
以下に本発明における洗浄工程について説明する。
[洗浄工程]
本発明における洗浄工程とは、停止中の石油精製プラントにおいて、伝熱効率の低下の原因となるアスファルテンやスラッジ等の有機物と硫化鉄との複合汚れが堆積している鉄系金属表面に対し、溶媒を用いて該複合汚れを除去し、鉄系金属表面を清浄にする工程である。前記複合汚れを除去することで、上述の被膜形成工程において、鉄系金属表面に均一な防食被膜を形成することができ、鉄系金属表面における硫化鉄が形成し難くなり、伝熱効率の低下の原因となる前記複合汚れの付着を防止することができる。
【0022】
本発明における洗浄工程では、水性または油性の溶媒を用いることができ、アスファルテンやスラッジ等の有機物と硫化鉄との複合汚れを除去できる溶媒であればよい。好ましくは、水性の溶媒を用いた洗浄工程であり、より好ましくは水を溶媒として用いた洗浄工程である。水を溶媒として用いた洗浄工程としては、化学洗浄または物理洗浄が挙げられ、好ましくは化学洗浄である。
【0023】
本発明における化学洗浄とは、石油精製プラントを停止した後、軽油を導入して内部に滞留するプロセス油を系外に押し出して置換し、蒸気パージにより軽油を除去した後に、溶媒を導入して、熱交換器で加熱を行い、溶媒中に洗浄薬剤を添加して洗浄液を調製し、ポンプを用いてこの洗浄液を循環させ、配管内の汚れを除去する洗浄方法である。化学洗浄では、熱交換器を開放しないため、洗浄終了後、直ぐに熱交換器の運転を開始することができ、復旧までにかかる時間を大幅に短縮することができるため、本発明では化学洗浄を用いることが好ましい。
【0024】
化学洗浄で用いられる洗浄薬剤としては、界面活性剤及び酵素等が挙げられる。界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤及び両イオン系界面活性剤の何れもが使用でき、それらを1種又は2種以上の組み合わせで使用する。
【0025】
陰イオン性界面活性剤としては、特に制限はなく、従来公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。この陰イオン性界面活性剤としては、通常の石ケン、スルホネート系、サルフェート系、ホスフェート系などのものが使用される。ここで、石ケンとしては、例えば飽和あるいは不飽和(C6〜C30)脂肪酸塩が挙げられる。スルホネート系陰イオン性界面活性剤としては、例えば直鎖又は分岐鎖アルキル(C8〜C22)ベンゼンスルホン酸塩、長鎖アルキル(C8〜C22)スルホン酸塩、長鎖オレフィン(C8〜C22)スルホン酸塩などが挙げられる。またサルフェート系陰イオン性界面活性剤としては、例えば長鎖モノアルキル(C8〜C22)硫酸エステル塩、ポリオキシエチレン(1〜6モル)長鎖エステル(C8〜C22)エーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレン(1〜6モル)アルキル(C8〜C18)フェニルエーテル硫酸エステル塩などが挙げられ、また、ホスフェート系陰イオン性界面活性剤としては、例えば、長鎖モノアルキル、ジアルキル又はセスキアルキル(各アルキル基の炭素数は8〜22である)リン酸塩、ポリオキシエチレン(1〜6モル)モノアルキル、ジアルキル又はセスキアルキル(各アルキル基の炭素数は8〜22である)リン酸塩などが挙げられる。これらの陰イオン性界面活性剤の対イオンとしての陽イオンは、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンイオンなどである。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウムは第一工業製薬社よりハイテノール08Eの商品名で市販されている。
【0026】
陽イオン性界面活性剤としては、特に制限はなく、従来公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。この陽イオン性界面活性剤としては、例えば長鎖モノ、ジアルキル四級アンモニウム塩、長鎖モノ、ジ、トリアルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩などが挙げられる。
【0027】
非イオン性界面活性剤としては、特に制限はなく、従来公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。この非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン(1〜20モル)長鎖アルキル(第一級又は第二級C8〜C22)エーテル、ポリオキシエチレン(1〜20モル)アルキル(C8〜C18)フェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーなどのオキシアルキレン付加化合物、高級脂肪酸アルカノールアミド又はそのアルキレンオキシド付加物、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0028】
両イオン性界面活性剤としては、特に制限はなく、従来公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。この両イオン性界面活性剤としては、例えばカルボキシベタイン、スルフォベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリン誘導体、アミンオキシドなどが挙げられ、アミンオキシドとしては以下の一般式(1)で示される炭素数7〜21の直鎖アルキル基を有するジメチルアミンオキシドが好ましい。
【化1】
(ここでnは6〜20の整数である。)
【0029】
本発明の洗浄工程において、界面活性剤の添加量は、洗浄水に対して界面活性剤の有効成分(重量)として30〜4000ppm、好ましくは50ppm〜2000ppmである。添加量30ppm未満では洗浄効果が小さく、4000ppmを超えるような多量の添加は、添加に見合うだけの洗浄効果が得られず、コスト高を招来する。
【0030】
酵素としては、枯草菌由来の細菌プロテアーゼ及びアミラーゼ、コウジカビ由来のリパーゼ、セルラーゼ、及びペクチナーゼなどが挙げられ、それらを1種又は2種以上の組み合わせで使用する。
【0031】
本発明の洗浄工程において、酵素の添加量は、洗浄水に対して酵素の有効成分(重量)として1〜200ppm、好ましくは5ppm〜100ppmである。添加量1ppm未満では洗浄効果が小さく、200ppmを超えるような多量の添加は、添加に見合うだけの洗浄効果が得られず、コスト高を招来する。
【0032】
また、米国特許第5686297号で開示されている、前記界面活性剤の中でも両イオン性界面活性剤と前記酵素を用いたZymeFlow洗浄を行うことで、本発明の効果をより引き出すことができる。ZymeFlow洗浄で用いられる薬剤は、United Laboratories International社よりZymeFlow657の商品名で市販されている。ZymeFlow657の添加量は、洗浄水に対して製品(重量)として1000〜30000ppmが好ましい。
【0033】
本発明における、水を溶媒として用いる物理洗浄とは、高圧水洗浄のことであり、石油精製プラントを停止した後、軽油を導入して内部に滞留するプロセス油を系外に押し出して置換し、蒸気パージにより軽油を除去した後、熱交換器のカバー類を外して熱交換チューブのバンドルを引き抜き、高圧水で配管内の汚れを除去する洗浄方法である。カバー類に付着した汚れも高圧水洗浄を行い、洗浄終了後、組立作業等の復旧作業を行って運転を再開する。この復旧作業があるため、化学洗浄に比べて運転再開までに長期間を要する場合がある。
【0034】
また、本発明における洗浄工程では、油性の溶媒に洗浄薬剤を添加した洗浄液による化学洗浄を用いることもできる。この化学洗浄に用いられる油性溶媒の例としては、アルキルベンゼン系の芳香族溶剤や石油精製プロセスで得られる軽質油が挙げられ、それらを1種又は2種以上の組み合わせで使用できる。
【0035】
アルキルベンゼン系の芳香族溶剤は、高沸点の芳香族油を主成分とする鉱物油であり、沸点としては150〜400℃、好ましくは150〜350℃のものが好ましい。このようなアルキルベンゼン系の芳香族溶剤には炭素数9以上、好ましくは9〜12のアルキルベンゼンを主成分とするものが好ましい。このアルキルベンゼン系の芳香族溶剤は1種の芳香族化合物が含まれるものでもよく、アルキル基の炭素数、置換数、位置等の異なる複数の化合物が含まれるものでもよい。このアルキルベンゼン系の芳香族溶剤はJXTGエネルギー社から、ハイゾール100の商品名で市販されている。
【0036】
石油精製プロセスで得られる軽質油としては、灯油、直留軽油、減圧軽油及び分解軽油であり、沸点としては150〜480℃程度が好ましい。
【0037】
また、油性溶媒に添加する洗浄薬剤としては前記の界面活性剤のうち、親油性の界面活性剤を用いることができる。
【0038】
本発明の洗浄工程において、水性または油性溶媒に下述の被膜形成工程で使用する水溶性の防食剤を添加してもよく、水溶性の防食剤としては、有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、カルボン酸重合体及び無機リン酸化合物が挙げられ、これら水溶性の防食剤は単独で添加してもよいし、複数添加してもよい。
【0039】
次に、本発明における被膜形成工程について説明する。
[被膜形成工程]
本発明において、被膜形成工程とは、洗浄工程でアスファルテンやスラッジ等の有機物と硫化鉄との複合汚れを除去した鉄系金属表面に対し、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を接触させて防食被膜を形成する工程である。
水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を接触させ、防食被膜を形成させる方法として特に限定はされないが、通常であれば、鉄系金属表面の前記複合汚れを洗浄液によって除去した後、洗浄液を系外へ排出した後、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤の溶液を系内に入れ、該汚れ防止剤を対象の鉄系金属表面を接触させ防食被膜を形成させる、もしくは洗浄工程の洗浄液中に該汚れ防止剤を添加し、対象の鉄系金属表面を接触させ、防食被膜を形成させる方法が挙げられる。
【0040】
ここで、洗浄工程の洗浄液中に水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を添加する方法は、洗浄工程と同時に水溶性の防食剤を用いて防食被膜を形成する被膜形成工程を行う方法であり、手間が少なく工期の延長も抑えられるため好ましい。この方法においては、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤は、洗浄工程の開始時から洗浄液に添加することもできるが、洗浄が進行して鉄系金属の表面が露出する洗浄工程の後半部に添加する方が防食剤のロスが少なく効果的に防食被膜を形成できるため好ましい。
【0041】
また、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤が添加された溶液は、常に対象の鉄系金属表面に接触していればよく、熱交換器内で溶液が流れている必要はないが、ポンプなどを用いて、前記汚れ防止剤の溶液を循環させながら接触させることが好ましい。前記汚れ防止剤の溶液を循環させることで、Re数が高い高撹拌状態になり、前記汚れ防止剤と対象の鉄系金属表面の接触効率が向上するため、防食被膜がより均一に形成される。
【0042】
本発明の被膜形成工程に用いられる汚れ防止剤としては、水溶性の防食剤を含み、鉄系金属の硫化腐食を防止できるものであればよい。好ましい水溶性の防食剤としては、有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、カルボン酸重合体及び無機リン酸化合物が挙げられる。ここで、水溶性とは水100gに対して25℃において0.1g以上溶解するものとして定義されるが、好ましくは1g以上、さらに好ましくは10g以上である。これらの防食剤は単独で添加してもよいし、複数添加してもよい。
【0043】
有機ホスホン酸とは、分子中に1個以上のホスホノ基を有する有機化合物であり、具体的には1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等が挙げられ、好ましくは1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸である。
【0044】
ホスホノカルボン酸とは、分子中に1個以上のホスホノ基と1個以上のカルボキシル基を有する有機化合物であり、具体的には2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ホスホノポリマレイン酸、ホスホンコハク酸等が挙げられ、好ましくは2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ホスホノポリマレイン酸等が挙げられる。ホスホノカルボン酸はローディア社からBRICORR288の商品名、またBWA社からBELCOR585の商品名で市販されている。
【0045】
ホスフィノポリカルボン酸とは、分子中に1個以上のホスフィノ基と2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、具体的にはアクリル酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸を反応させて得られるポリ(2−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、イタコン酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ[2−カルボキシ−(2−カルボキシメチル)エチル]ホスフィン酸、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と次亜リン酸の反応物等が挙げられる。好ましくはマレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸の反応物やイタコン酸とマレイン酸と次亜リン酸の反応物である。ホスフィノポリカルボン酸は、BWA社よりBELCLENE500、BELSPERSE164、BELCLENE400等の商品名で市販されている。
【0046】
カルボン酸重合体は、モノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ重合体及びその水溶性塩、2種以上の異なるモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体及びその水溶性塩である。
モノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ重合体としては、例えば、アクリル酸重合体、メタクリル酸重合体、マレイン酸重合体、無水マレイン酸重合体の加水分解物、イタコン酸重合体、フマル酸重合体等が挙げられ、2種以上の異なるモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体としては、アクリル酸とマレイン酸の共重合体、アクリル酸とイタコン酸の共重合体、マレイン酸とイタコン酸の共重合体、マレイン酸とフマル酸の共重合体、アクリル酸とイタコン酸とマレイン酸の三元共重合体、アクリル酸とイタコン酸とフマル酸の三元共重合体等が挙げられるが、好ましくは、ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体、及びホモイタコン酸重合体およびイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。
【0047】
ここで、マレイン酸やイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、フマル酸;(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド;炭素数2〜8のオレフィンであるエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2−エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテン等;ビニルアルキルエーテルのビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル;マレイン酸アルキルエステル等が挙げられ、その1種または2種以上が用いられる。
【0048】
マレイン酸系重合体ならびにイタコン酸系重合体の分子量は、重量平均分子量として300〜20000が好ましいが、より好ましくは400〜1000である。
【0049】
無機リン酸化合物は分子中にリン酸基又はリン酸骨格を有する無機化合物であり、具体的には、りん酸やリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩、及びピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等の縮合リン酸塩等が挙げられる。
【0050】
本発明の被膜形成工程において、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤の通常の添加量は、溶媒の容量に対して汚れ防止剤の有効成分(重量)として50〜10000ppm、好ましくは100〜5000ppmである。50ppm未満では汚れ防止効果が小さく、10000ppmを超えるような多量の添加は、コスト高を招来するだけではなく、防食被膜の均一な形成を妨げ、防食効果が低下する場合がある。また、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤の添加は、通常、一括で添加し、循環中に防食剤濃度が低下する場合は一定濃度を維持するために追加添加を行う。
【0051】
本発明の被膜形成工程は、防食被膜を形成させるため、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤と鉄系金属表面とを0.5〜72時間接触させることが好ましく、より好ましくは5〜48時間である。前記汚れ防止剤と鉄系金属表面の接触時間が0.5時間未満であれば、防食被膜の形成が不十分であるため、石油精製プラントの定常運転時の汚れ防止効果が低下する。また、接触時間が72時間以上であれば、防食被膜の均一な形成を妨げ、汚れ防止効果が低下する。
本発明を適用する際、前記汚れ防止剤を含んだ循環液の温度は0℃〜100℃が好ましく、より好ましくは5℃〜50℃である。温度が100℃以上においては、防食被膜の形成速度よりも腐食の進行速度の方が早くなり、0℃以下においては防食被膜の形成速度が遅くなる。
【0052】
本発明の被膜形成工程後は、原油を導入し、石油精製プラントの運転を再開して定常運転に移行するが、特許文献6(特願2018−024691号)のように、導入した原油中に前記被膜形成工程で使用した水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を添加してもよく、また、本発明の効果を妨げなければ、油性の防食剤や、分散剤、金属不活性化剤及び脱酸素剤を添加してもよい。
【0053】
油溶性の防食剤としては、特に限定は無いが、アルキルまたはアルケニルコハク酸およびその誘導体、ポリアルケニルコハク酸イミド類や、リン酸エステル類、アミン類、スルホン酸類等が使用できる。また、これらの防食剤は分散効果を有するものもあるため、分散剤として使用することもできる。特に、熱交換器のシェル側等、Re(レイノルズ数)数が比較的低く、水溶性の防食剤が撹拌混合されにくい条件の防食において、これらの防食剤の併用が効果的である。
【0054】
分散剤としては、特に限定はされないが、一般に潤滑油の添加剤として使用されるポリイソブテニルコハク酸エステル等のカルボン酸エステル類、ポリイソブテニルコハク酸イミド等のイミド類、ポリイソブテニルチオリン酸エステル等のチオリン酸エステル類、リン酸エステル類等が挙げられる。これらの分散剤は、本発明の汚れ防止剤に含有させるほか、別々に添加してもよい。分散剤を併用することにより、プロセス油中のSS(懸濁物質)成分を分散し、熱交換器への付着を防止することができる。
【0055】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、N,N’−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパン、2,5−ジアルキルメルカプト−1,3,4−チアジアゾール等が挙げられる。
脱酸素剤としては、ジエチルヒドロキシルアミン、亜硫酸ナトリウム、ヒドラジン、エリソルビン酸、カルボヒドラジド等が挙げられる。これらは、本発明の汚れ防止剤に含有させるほか、別々に添加してもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例に用いた装置を図3に示す。この装置は、ステンレス製のオートクレーブ31の蓋31aの中心に回転軸32が挿通されており、回転軸32には6枚タービン翼33が取り付けられている。また、回転軸32には軟鉄からなるテストピース34、テストピース35が着脱可能とされている。回転軸32は図示しない撹拌機で回転可能とされている。
【0057】
1.試験−1:水を溶媒とする化学洗浄における汚れ防止方法の評価(その1)
(実施例1)
[汚れ付着処理1]
オートクレーブ31の蓋31aを開けて、原油250mlを入れ、そして回転軸32にあらかじめ重量を測定しておいたテストピース34、テストピース35(材質:軟鉄)を取り付けた後、蓋31aを閉め、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した。撹拌機を駆動して回転軸32を500rpmの撹拌速度で回転させ、オートクレーブ31の周囲を図示しないマントルヒーターによって300℃に加熱し、96時間維持した。その後、室温まで冷却した後、蓋31aを開けてテストピース34、テストピース35を取り出し、オートクレーブ31内の溶液を廃棄し、オートクレーブ31内部をヘキサンで洗浄した。また、取り出したテストピース34、テストピース35をヘキサンで洗浄して原油を洗い流した。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
テストピース34、35をオートクレーブ31の回転軸32に再び取り付けた。オートクレーブ31の内部に、水性の溶媒として温水を250mLと洗浄薬剤としてZymeFlow657(商品名、United Laboratories International社製)を20000ppm(製品換算)となるように添加した後、蓋31aを閉め、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した。撹拌機を駆動して回転軸32を500rpmの撹拌速度で回転させ、オートクレーブ31の周囲を図示しないマントルヒーターによって105℃に加熱し、10時間維持した。その後、室温まで冷却した後、蓋31aを開け、汚れ防止剤として水溶性の防食剤である1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP、Belclene660LA、BWA社製)をオートクレーブ内容液に対して1000ppm(有効成分換算)となるように添加した後、蓋31aを閉め、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した。撹拌機を駆動して回転軸32を500rpmの撹拌速度で回転させ、25℃で48時間撹拌した。撹拌終了後、オートクレーブ31の蓋31aを開けて、オートクレーブ31内の溶液を廃棄し、オートクレーブ31内部を水で洗浄した。
[汚れ付着処理2]
オートクレーブ31の内部に、原油を250mL入れ、蓋31aを閉め、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した。撹拌機を駆動して回転軸32を500rpmの撹拌速度で回転させ、オートクレーブ31の周囲を図示しないマントルヒーターによって300℃に加熱し、96時間維持した。その後、室温まで冷却した後、蓋31aを開けてテストピース34、35を取り出した。
取り出したテストピース34、35をヘキサンで洗浄して原油を洗い流し、乾燥後、重量を測定した。さらにヘキサン洗浄を行ったテストピースを3.5%塩酸に浸漬し、表面の腐食生成物を溶解除去したのち、乾燥後の重量を測定した。
下記式により、テストピース毎の付着量、腐食減量を算出し、テストピース2枚の数値の平均値を試験結果とした。
付着量(%)={(ヘキサン洗浄後重量(g)−塩酸洗浄後重量(g))/テストピース初期重量(g)}×100
腐食減量(%)={(テストピース初期重量(g)−塩酸洗浄後重量(g))/テストピース初期重量(g)}×100
【0058】
(実施例2)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC、Belclene650、BWA社製)に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0059】
(実施例3)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、ビス(ポリ−2−カルボキシエチル)ホスフィン酸(BELSPERSE164、BWA社製)に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0060】
(実施例4)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、ポリマレイン酸(分子量2000、Belclene200LA、BWA社製)に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0061】
(実施例5)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、りん酸(試薬、和光純薬工業社製)に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0062】
(比較例1)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0063】
実施例1〜5と比較例1の結果を表1に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例1〜5のように、水を溶媒とする化学洗浄であるZymeFlow657を用いた洗浄工程において、鉄系金属表面が露出した洗浄工程の後半部で、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を用いて防食被膜形成を行った場合、汚れ付着処理2終了後の腐食減量は8%以下、汚れの付着量は3%以下であるのに対して、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を添加せず防食被膜形成を行わなかった比較例1の腐食減量は13%、汚れの付着量は6%であり、水溶性の防食剤を用いた実施例の方が防食性能に優れ、汚れも少ないことが分かった。以上の結果は、実施例の汚れ防止剤を用いることによって、鉄系金属表面において均一な防食被膜が形成され、その結果、アスファルテン等の有機汚れも付着し難くなったことによるものと考えられる。
なお、比較例1の付着物をSEM−EDXによって表面分析したところ、図4に示すように、鉄及び硫黄が大量に検出されることから、付着物は硫化鉄主体であることが分かった。
【0066】
2.試験−2:水を溶媒とする化学洗浄における汚れ防止方法の評価(その2)
(実施例6)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
洗浄薬剤を、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン150、HLB=18.4、花王社製)に変更し、また、その添加量を、1000ppm(有効成分換算)に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0067】
(実施例7)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸に変更した以外は、実施例6と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0068】
(比較例2)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を添加しなかった以外は、実施例6と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0069】
実施例6、7と比較例2の結果を表2に示した。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例6、7のように、水を溶媒とする化学洗浄である水溶性の界面活性剤を用いた洗浄工程において、鉄系金属表面が露出した洗浄工程の後半部で、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を用いて防食被膜形成を行った場合、汚れ付着処理2終了後の腐食減量は9%以下、汚れの付着量は3%以下であるのに対して、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を添加せず防食被膜形成を行わなかった比較例2の腐食減量は14%、汚れの付着量は7%であり、水溶性の防食剤を用いた実施例の方が防食性能に優れ、汚れも少ないことが分かった。
【0072】
3.試験−3:水を溶媒とする物理洗浄における汚れ防止方法の評価
(実施例8)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ付着処理1終了後に取り出したテストピース34、テストピース35を台座に固定し、汚れ防止剤として水溶性の防食剤である1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸を1000ppm(有効成分換算)となるように添加した高圧水を用いて、圧力:2MPa、洗浄温度:25℃、洗浄時間:10分間、続いて圧力:1MPa、洗浄温度:25℃、洗浄時間:20分間の条件で高圧水洗浄を行った。
[汚れ付着処理2]
テストピース34、35を台座から取り外してオートクレーブ31の回転軸32に再び取り付けた。オートクレーブ31の内部に、原油を250mL入れ、蓋31aを閉め、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した。撹拌機を駆動して回転軸32を500rpmの撹拌速度で回転させ、オートクレーブ31の周囲を図示しないマントルヒーターによって300℃に加熱し、96時間維持した。その後、室温まで冷却した後、蓋31aを開けてテストピース34、35を取り出した。
取り出したテストピース34、35をヘキサンで洗浄して原油を洗い流し、乾燥後、重量を測定した。さらにヘキサン洗浄を行ったテストピースを3.5%塩酸に浸漬し、表面の腐食生成物を溶解除去したのち、乾燥後の重量を測定した。前記の式に従って、付着量(%)と腐食減量(%)を算出した。
【0073】
(実施例9)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸に変更した以外は、実施例8と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例8と同様に試験を行った。
【0074】
(実施例10)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、ビス(ポリ−2−カルボキシエチル)ホスフィン酸に変更した以外は、実施例8と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例8と同様に試験を行った。
【0075】
(実施例11)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、ポリマレイン酸に変更した以外は、実施例8と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例8と同様に試験を行った。
【0076】
(実施例12)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、りん酸に変更した以外は、実施例8と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例8と同様に試験を行った。
【0077】
(比較例3)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、高圧水に添加しなかった以外は、実施例8と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例8と同様に試験を行った。
【0078】
実施例8〜12と比較例3の結果を表3に示した。
【0079】
【表3】
【0080】
実施例8〜12のように、水を溶媒とする物理洗浄である高圧水を用いた洗浄工程において水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を用いて防食被膜形成を行った場合、汚れ付着処理2終了後の腐食減量は8%以下、汚れの付着量は2%以下であるのに対して、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を添加せず防食被膜形成を行わなかった比較例3の腐食減量は13%、汚れの付着量は6%であり、水溶性の防食剤を用いた実施例の方が防食性能に優れ、汚れも少ないことが分かった。
【0081】
4.試験−4:油性溶媒による化学洗浄における汚れ防止方法の評価
(実施例13)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
テストピース34、35をオートクレーブ31の回転軸32に再び取り付けた。オートクレーブ31の内部に、油性の溶媒として軽油80%とアルキルベンゼン系芳香族溶剤であるハイゾール100(商品名、JXTGエネルギー社製)20%の混合溶剤を250mLと、洗浄薬剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム(ハイテノール08E、第一工業製薬社製)を有効成分換算で1000ppmとなるように添加した後、蓋31aを閉め、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した。撹拌機を駆動して回転軸32を500rpmの撹拌速度で回転させ、オートクレーブ31の周囲を図示しないマントルヒーターによって105℃に加熱し、10時間維持した。その後、室温まで冷却した後、蓋31aを開け、汚れ防止剤として水溶性の防食剤である1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸をオートクレーブ内容液に対して1000ppm(有効成分換算)となるように添加した後、蓋31aを閉め、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した。撹拌機を駆動して回転軸32を500rpmの撹拌速度で回転させ、25℃で48時間撹拌した。撹拌終了後、オートクレーブ31の蓋31aを開けて、オートクレーブ31内の溶液を廃棄し、オートクレーブ31内部をヘキサンで洗浄した。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0082】
(比較例4)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を添加しなかった以外は、実施例13と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0083】
(比較例5)
[汚れ付着処理1]
実施例1と同様に試験を行った。
[洗浄工程及び被膜形成工程]
汚れ防止剤である水溶性の防食剤を、油溶性の防食剤である2−エチルヘキシルアシッドホスフェート(JP−508、城北化学工業社製)に変更した以外は、実施例13と同様に試験を行った。
[汚れ付着処理2]
実施例1と同様に試験を行った。
【0084】
実施例13と比較例4、5の結果を表4に示した。
【0085】
【表4】
【0086】
実施例13のように、油を溶媒とする化学洗浄である油溶性の界面活性剤を用いた洗浄工程において、鉄系金属表面が露出した洗浄工程の後半部で、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を用いて防食被膜形成を行った場合、汚れ付着処理2終了後の腐食減量は9%、汚れの付着量は3%であるのに対して、水溶性の防食剤を含む汚れ防止剤を添加せず防食被膜形成を行わなかった比較例4の腐食減量は12%、汚れの付着量は5%であり、また、油溶性の防食剤を用いた比較例5の腐食減量は10%、汚れの付着量は5%であって、どちらの比較例と比べても、水溶性の防食剤を用いた実施例の方が防食性能に優れ、汚れも少ないことが分かった。
【0087】
上記の試験−1〜試験−4の結果から、水性溶媒による化学洗浄、水性溶媒による物理洗浄及び油性溶媒による化学洗浄の何れの洗浄方法であっても、洗浄工程と、水溶性の防食剤を用いて防食被膜を形成する被膜形成工程の、2工程を有する本発明の汚れ防止方法を適用することによって、洗浄によって露出した鉄系金属表面に防食被膜を形成されるため、その後の汚れを防止し、また、腐食を防止することができるという本発明に顕著な効果が明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
石油精製プラントの油性流体が流れる熱交換器及び加熱炉の表面汚れを防止するために、本発明の汚れ防止方法を適用できる。その結果、熱交換器及び加熱炉の伝熱効率の低下につながる汚れ付着を防止でき、プラントの安定操業に寄与する。
【符号の説明】
【0089】
1…熱交換器、2…複合汚れ、3…溶媒、4…汚れ防止剤、5…防食被膜
21、23、25…予熱交換器
22…デソルター、24…プレフラッシュ塔、26…加熱炉、27…蒸留塔、28…ポンプ
31…オートクレーブ、31a…蓋、32…回転軸、33…6枚タービン翼、34、35…テストピース
図1
図2
図3
図4