特許第6677444号(P6677444)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6677444
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20200330BHJP
【FI】
   H02M7/48 F
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-246998(P2014-246998)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-111817(P2016-111817A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年10月4日
【審判番号】不服2019-994(P2019-994/J1)
【審判請求日】2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 啓右
【合議体】
【審判長】 千葉 輝久
【審判官】 仲間 晃
【審判官】 白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−094266(JP,A)
【文献】 特開2013−239547(JP,A)
【文献】 特開2012−195536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ(13)とDCリンク用のフィルムコンデンサ(C)とを備えた電力変換装置(10)であって、
前記インバータ(13)におけるキャリア周波数の2倍の周波数に依存して変動する、前記フィルムコンデンサ(C)から生じる異音のレベルにおける極小値又は該極小値の近傍のキャリア周波数を、前記インバータ(13)のキャリア周波数として用いることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記キャリア周波数は、5kHzから10kHzであることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
インバータ(13)とDCリンク用のフィルムコンデンサ(C)とを備えた電力変換装置(10)の製造方法であって、
前記フィルムコンデンサ(C)から生じる異音レベルの、2倍のキャリア周波数による周波数依存性を取得し、該異音レベルにおける極小値又は該極小値の近傍の周波数と、前記インバータ(13)におけるキャリア周波数とを一致させることを特徴とする電力変換装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記キャリア周波数は、5kHzから10kHzであることを特徴とする電力変換装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DCリンク平滑用コンデンサにフィルムコンデンサを用いる電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1には、DCリンク部の平滑用コンデンサにフィルムコンデンサを用いる場合、インバータのスイッチング周波数(キャリア周波数)が可聴周波数にあると、フィルムコンデンサから騒音(異音)が発生するという課題を挙げている。特許文献1では、フィルムコンデンサの構造及びその構成材料を工夫して異音を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−195536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フィルムコンデンサに、特別な構造又は異音吸収用の材料を用いると、製造工程の追加が必要となったり、使用材料のコストが上昇したりすることは避けられず、異音対策のためにデバイスのコストが大きく上昇するという問題が生じる。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、DCリンク平滑用コンデンサにフィルムコンデンサを用いる電力変換装置における該フィルムコンデンサからの異音を低減できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、インバータ(13)とDCリンク用のフィルムコンデンサ(C)とを備えた電力変換装置(10)を対象とし、インバータ(13)におけるキャリア周波数の2倍の周波数に依存して変動する、フィルムコンデンサ(C)から生じる異音のレベルが相対的に低いキャリア周波数をインバータ(13)のキャリア周波数として用いることを特徴とする。
【0007】
第1の発明では、インバータにおけるキャリア周波数の2倍の周波数に依存して変動する、フィルムコンデンサから生じる異音のレベルが相対的に低いキャリア周波数をインバータのキャリア周波数として用いるため、DCリンク平滑用コンデンサにフィルムコンデンサを用いる電力変換装置における該フィルムコンデンサからの異音を確実に低減することができる。
【0008】
第2の発明は、キャリア周波数が5kHzから10kHzであることを特徴とする。
【0009】
第2の発明では、キャリア周波数をこの範囲に設定すると、スイッチング損失及びリアクトルのエネルギー損失を抑えることができる。
【0010】
第3の発明は、インバータ(13)とDCリンク用のフィルムコンデンサ(C)とを備えた電力変換装置(10)の製造方法を対象とし、フィルムコンデンサ(C)から生じる異音レベルの、2倍のキャリア周波数による周波数依存性を取得し、該異音レベルが相対的に低い周波数とインバータ(13)におけるキャリア周波数とを一致させることを特徴とする。
【0011】
第3の発明では、フィルムコンデンサから生じる異音レベルの、2倍のキャリア周波数による周波数依存性を取得し、該異音レベルが相対的に低い周波数とインバータにおけるキャリア周波数とを一致させるため、DCリンク平滑用コンデンサにフィルムコンデンサを用いる電力変換装置における該フィルムコンデンサからの異音を確実に低減することができる。
【0012】
第4の発明は、キャリア周波数が5kHzから10kHzであることを特徴とする。
【0013】
第4の発明では、キャリア周波数をこの範囲に設定すると、スイッチング損失及びリアクトルのエネルギー損失を抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、DCリンク平滑用コンデンサにフィルムコンデンサを用いる電力変換装置における該フィルムコンデンサからの異音を確実に低減することができる。
【0015】
また、上記第2の発明によれば、スイッチング損失及びリアクトルのエネルギー損失を抑えることができる。
【0016】
また、上記第3の発明によれば、DCリンク平滑用コンデンサにフィルムコンデンサを用いる電力変換装置における該フィルムコンデンサからの異音を確実に低減することができる。
【0017】
また、上記第4の発明によれば、スイッチング損失及びリアクトルのエネルギー損失を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本発明の実施形態1に係る電力変換装置を示す回路図である。
図2図2は本発明の実施形態1に係る電力変換装置を構成するDCリンク平滑用コンデンサに用いるフィルムコンデンサにおける異音レベルの周波数依存性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。
【0021】
図1は、実施形態1に係る電力変換装置(10)の構成例を示している。電力変換装置(10)は、入力交流電圧(この例では、単相の交流電源(20)から供給された電源電圧(Vin)を所定の出力交流電圧に変換して、例えば負荷であるモータ(30)に供給する。ここでは、電力変換装置(10)は、コンバータ回路(11)と、DC(直流)リンク部(12)と、インバータ回路(13)とを備えている。例えば、モータ(30)は、IPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)又はSM(Synchronous Motor)によって構成される。
【0022】
〈コンバータ回路〉
コンバータ回路(11)は、リアクトル(L)を介して交流電源(20)と接続され、該交流電源(20)からの電源電圧(Vin)を全波整流する。ここでは、リアクトル(L)のインダクタンスは、一例として6mHとしている、また、コンバータ回路(11)は、ブリッジ状に結線された4個のダイオード(D1,D2,D3,D4)を有している。すなわち、コンバータ回路(11)は、ダイオードブリッジ回路によって構成されている。
【0023】
〈DCリンク部〉
DCリンク部(12)は、コンバータ回路(11)の一対の出力ノードの間に接続されたコンデンサ(C)を有し、コンバータ回路(11)の出力(すなわち、全波整流された電源電圧(Vin))を入力して直流電圧(Vdc)を生成する。直流電圧(Vdc)は、電源電圧(Vin)の周波数に応じて脈動する。
【0024】
ここで、電源電圧(Vin)の周波数に応じた脈動成分が直流電圧(Vdc)に含まれている理由について説明する。直流リンク部(12)のコンデンサ(C)の容量値は、コンバータ回路(11)の出力をほとんど平滑化することができないものの、インバータ回路(13)のスイッチング動作に起因するリプル電圧(キャリア周波数に応じた電圧変動)を抑制することができるように設定されている。具体的には、コンデンサ(C)は、一般的な電力変換装置においてコンバータ回路(11)の出力の平滑化に用いられる平滑コンデンサ(例えば、電解コンデンサ)の容量値の約0.01倍の容量値(ここでは、例えば20μF程度)を有する小容量のフィルムコンデンサによって構成されている。このようなコンデンサ(C)を用いているため、DCリンク部(12)においてコンバータ回路(11)の出力がほとんど平滑化されず、その結果、電源電圧(Vin)の周波数に応じた脈動成分(具体的には、電源電圧(Vin)の周波数の2倍の周波数を有する脈動成分)が直流電圧(Vdc)に残留することになる。例えば、直流電圧(Vdc)は、その最大値がその最小値の2倍以上になるように脈動している。
【0025】
〈インバータ回路〉
インバータ回路(13)は、その一対の入力ノードがDCリンク部(12)のコンデンサ(C)の両端に接続され、DCリンク部(12)によって生成された直流電圧(Vdc)をスイッチング動作により出力交流電圧に変換してモータ(30)に供給する。ここでは、インバータ回路(13)は、三相の出力交流電圧をモータ(30)に供給するために、ブリッジ結線された6つのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)と、6つの還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)とを有している。詳細には、インバータ回路(13)は、2つのスイッチング素子を直列に接続してなる3つのスイッチングレグを備え、3つのスイッチングレグのそれぞれにおいて、上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点が、モータ(30)の各相のコイル(u相,v相,w相のコイル)と接続されている。また、6つのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、6つの還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)がそれぞれ逆並列に接続されている。
【0026】
〈各種検出部〉
また、本実施形態においては、電力変換装置(10)は、電源位相検出部(51)と、直流電圧検出部(52)とを備えている。
【0027】
電源位相検出部(51)は、電源電圧(Vin)の位相角(電源位相(θin))を検出する。直流電圧検出部(52)は、直流リンク部(12)の直流電圧(Vdc)の電圧値を検出する。
【0028】
−キャリア周波数の選定−
本願発明者の検証によると、図2に示すように、通常のフィルムコンデンサ(C)は、引加される周波数に応じて、異音レベルが最大で40dB程度変動することが分かった。
【0029】
図2において、3種類のサンプルA、B及びCを例に挙げ、縦軸に3Vrmsで低電圧駆動したときの異音レベルをとり、横軸にキャリア周波数をとっている。ここで、キャリア周波数をαとすると、上述した脈動成分によって、フィルムコンデンサ(C)は、該キャリア周波数の2倍の周波数2αで異音を発する。キャリア周波数αは、一例として、5kHz以上且つ10kHz以下の周波数を用いることができる。
【0030】
本実施形態においては、サンプルAのフィルムコンデンサを用いる場合には、キャリア周波数の2倍の周波数2αを、サンプルAのグラフにおける直近の極小値を示す周波数X1に合わせる。同様に、サンプルBのフィルムコンデンサを用いる場合には、周波数2αを、サンプルBのグラフにおける直近の極小値を示す周波数X2に合わせる。また、サンプルCのフィルムコンデンサを用いる場合には、周波数2αを、サンプルCのグラフにおける直近の極小値を示す周波数X3に合わせる。
【0031】
なお、上述した周波数X1、X2及びX3は、必ずしもそれぞれの極小値に一致させる必要はない。すなわち、各極小値に隣接する極大点よりも異音レベルが低い周波数であればよい。この場合、極小点の近傍であればより好ましい。
【0032】
なお、周波数2αは、各サンプルの異音レベルの最小値に合わせるのが理想的ではあるが、周波数2αの直近の極小点よりも離れた最小点にまで設計値の周波数2αを大きくずらすことになると、電力変換装置(10)構成する各回路の動作検証等が必要となり現実的ではない。また、キャリア周波数αを高くし過ぎると、インバータ回路(13)におけるスイッチング損失が大きくなる。一方、キャリア周波数αを低くし過ぎると、高調波フィルタであるリアクトル(L)自体を大きくする必要があり、また、そのエネルギー損失も増大する。
【0033】
従って、本実施形態においては、キャリア周波数の2倍の周波数2αを、異音レベルのグラフにおける直近の極小値を示す周波数に又はその近傍に合わせている。
【0034】
−実施形態1の効果−
実施形態1に係る電力変換装置によると、DCリンク平滑用コンデンサにフィルムコンデンサ(C)を用いる電力変換装置(10)において、該フィルムコンデンサ(C)における異音レベルの周波数依存性を計測し、その異音レベルのグラフにおける、キャリア周波数αの2倍の周波数2αに近い極小値又はその近傍に、周波数2αの値を設定する。これにより、実施形態1に係る電力変換装置(10)は、フィルムコンデンサ(C)を封止する特別な構造又は異音吸収用の材料を用いることなく、該フィルムコンデンサ(C)からの異音を低減することができる。
【0035】
《その他の実施形態》
上記の実施形態1においては、電力変換装置(10)の製造時点で、キャリア周波数αの2倍の周波数2αは、組み込まれたフィルムコンデンサ(C)の異音レベルにおける該周波数2αの直近の極小値又はその近傍に設定されている。
【0036】
本実施形態においては、電力変換装置(10)の動作中に、異音レベルがより低い周波数に調整する。
【0037】
一般に、電力変換装置(10)は、所定の出力値を超えた場合に異音レベルが大きくなる傾向にある。
【0038】
そこで、本実施形態においては、例えば、組み込まれたフィルムコンデンサ(C)の異音レベルにおける該周波数2αの直近の極小値(例えば、図2に示すX1)を、図示しない制御装置のメモリ装置に格納しておく。電力変換装置(10)が所定の出力値を超えた場合には、通常の周波数2αを、メモリ装置から読み出したX1の値に動的に変更する。より詳細には、動作中のキャリア周波数αを(X1)/2の値に変更する。
【0039】
このようにしても、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0040】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物又はその用途の範囲を制限することを意図しない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、DCリンク平滑用コンデンサとしてのフィルムコンデンサからの異音を低減できる電力変換装置に有用である。
【符号の説明】
【0042】
10 電力変換装置
11 コンバータ回路
12 DCリンク部
13 インバータ回路(インバータ)
20 交流電源
30 モータ
C フィルムコンデンサ
L リアクトル
図1
図2