(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6677505
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】管状ライニング材及びその製造方法、並びに管状ライニング材を用いた既設管補修方法
(51)【国際特許分類】
B29C 63/34 20060101AFI20200330BHJP
B29C 70/20 20060101ALI20200330BHJP
B29C 70/30 20060101ALI20200330BHJP
F16L 1/00 20060101ALI20200330BHJP
F16L 55/18 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
B29C63/34
B29C70/20
B29C70/30
F16L1/00 J
F16L55/18 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-252344(P2015-252344)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-114007(P2017-114007A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−006273(JP,A)
【文献】
特開2006−082272(JP,A)
【文献】
特開平07−096545(JP,A)
【文献】
特開平09−072485(JP,A)
【文献】
特開2011−214636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/00−63/48
F16L 1/00− 1/26
F16L 55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂組成物が含浸された繊維マットを巻回して形成された管状のライニング材であって、
前記繊維マットは、硬化性樹脂組成物を除く繊維マットの質量を基準として、65質量%以上が、長さが2〜20cmの繊維から構成されており、
前記長さが2〜20cmの繊維の延在方向が、前記管状ライニング材の軸方向を基準として65〜90°であり、
前記繊維が、ガラス繊維、炭素繊維又はアラミド繊維であることを特徴とする管状ライニング材。
【請求項2】
前記管状ライニング材の外周面上に、さらに、帯状の補強材が前記管状ライニング材の軸方向と平行に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の管状ライニング材。
【請求項3】
帯状の繊維マットに硬化性樹脂組成物を含浸する含浸工程、及び、
前記硬化性樹脂組成物が含浸された帯状の繊維マットを螺旋状に巻回して管状ライニング材を形成する巻回工程、
を含む管状ライニング材の製造方法であって、
前記帯状の繊維マットは、硬化性樹脂組成物を除く繊維マットの質量を基準として65質量%以上が、長さが2〜20cmの繊維から構成されており、
前記巻回工程において、
製造される管状ライニング材において、前記長さが2〜20cmの繊維の延在方向が、前記管状ライニング材の軸方向を基準として65〜90°となるように前記帯状の繊維マットを巻回し、
前記繊維が、ガラス繊維、炭素繊維又はアラミド繊維であることを特徴とする製造方法。
【請求項4】
前記帯状の繊維マットは、前記長さが2〜20cmの繊維が前記帯状の繊維マットの長さ方向に延在した状態で含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記巻回工程の後、
前記管状ライニング材の外周面上に、さらに、帯状の補強材を、前記管状ライニング材の軸方向と平行に配置する補強材配置工程を含むことを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の管状ライニング材を既設管内に導入する導入工程、
前記導入された管状ライニング材を拡径することにより、該管状ライニング材を前記既設管の内面に押圧して密着させる拡径工程、及び、
前記拡径された状態の管状ライニング材を硬化する硬化工程、
を含む既設管補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水管等の管が老朽化した場合等に、管内面を被覆するための管状ライニング材及びその製造方法、並びに管状ライニング材を用いた既設管補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水管等の既設管は長年の使用により劣化し、その耐用年数は一般に約50年とされているため、耐用年数を超えた下水管は年々増加している。特に、老朽化した下水管は変形や亀裂等が生じており、下水の流下機能が低下するだけでなく、下水管周囲の地下水や土砂が下水管内に流入することによって地中に空洞が生じることから地面陥没の原因にもなっている。また、地中に埋設される下水管は地震等の地盤変動による影響を受けやすいこともあり、所定の時期に何らかの補修が必要となるのが現状である。
【0003】
既設管補修方法として既設管の内面にライニング材を被覆する方法が知られている(特許文献1)。この方法では、硬化性樹脂組成物が含浸された繊維マットから形成された管状のライニング材を未硬化状態で既設管内に導入した後、ライニング材の両端部を閉塞して形成された密閉空間に圧縮空気を導入することによりライニング材を既設管の内面に押圧した状態でライニング材を光や熱により硬化させる。これにより、既設管の内側に樹脂製の更生管が形成されることにより既設管が補修される。
【0004】
ライニング材は一般に、ガラス繊維等の繊維で形成した帯状の繊維マットに硬化性樹脂組成物を含浸し、これを螺旋状に巻回して管状に成形することにより製造される(特許文献2)。製造されるライニング材は、その外径が補修対象の管の内径よりもやや小さく形成されている。これにより、上記の圧縮空気の導入により、ライニング材の径を拡大させることにより、既設管の内面に対して密着した更生管を形成することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−123279号公報
【特許文献2】特表平09−509107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のライニング材では径の拡大には限界があり、老朽化して凹凸形状や変形が生じた既設管を補修する場合には、その凹凸形状や変形に十分に対応した更生管を得ることが難しく、シワ等の発生により良好な品質の更生管を得ることが困難であった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、老朽化して凹凸形状や変形が生じた既設管を補修する場合であっても、その形状にフィットし且つシワ等が生じにくい高品質な更生管を形成することができる管状ライニング材及びその製造方法を提供することにある。また、この管状ライニング材を使用して既設管を補修する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の管状ライニング材は、
硬化性樹脂組成物が含浸された繊維マットから形成された管状のライニング材であって、
前記繊維マットは、硬化性樹脂組成物を除く繊維マットの質量を基準として、50質量%以上が、長さが2〜20cmの繊維から構成されていることを特徴とする。
【0009】
従来の管状ライニング材は、これに含まれる繊維マットを構成する繊維の長さが、形成されるライニング材の周長以上(通常50cm以上)の長い繊維で構成されていた。本発明では、繊維マットの半分以上、即ち50質量%以上を構成する繊維の長さが2〜20cmと短い繊維であることにより、ライニング材を拡径する際に、互いの繊維が離れる方向に移動しやすくなり、その分拡径する度合いを大きくすることができる。
【0010】
したがって、拡径する度合いを大きくすることができる分、拡径前のライニング材の径を小さくすることができ、既設管補修作業の作業性が向上する。そして、老朽化により凹凸や変形が生じた既設管を補修する場合に、その箇所に応じた拡径度合いとさせることができるので、凹凸や変形に追従したシワ等の生じていない品質の良好な更生管を形成することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の管状ライニング材は、前記長さが2〜20cmの繊維の延在方向が、前記管状ライニング材の軸方向を基準として65〜90°であることを特徴とする。
【0012】
上述したように、一般に、管状ライニング材は、既設管の内径よりもやや小さく形成して、作業時に拡径される。従来では、長い繊維を使用していたため、管状ライニング材を拡径可能とするためには、繊維が延在する角度を管状ライニング材の軸方向に対して小さくしなければならないという事情があった。この角度が大きいとそれ以上拡径することができなくなるからである。しかしながら、上記角度が小さいほど、形成される更生管は、上下方向の力に対し抵抗力が小さくなるという問題がある。
【0013】
本発明では、長さが2〜20cmの短い繊維が使用されているので、上記角度が65〜90°という大きい角度としても、拡径時には、その短い繊維が互いに離れることで十分に拡径することが可能となっている。そして、繊維がこのような大きい角度で配置されていることにより、形成される更生管は、上下方向の力に対して十分な抵抗力を発揮でき、リングとしての強度を高い水準で確保することが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の管状ライニング材は、前記管状ライニング材の外周面上に、さらに、帯状の補強材が前記管状ライニング材の軸方向と平行に設けられたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、管状ライニング材に対して軸方向の力が加わったとしても、帯状の補強材の存在により、その力に対する抵抗力が発揮されるので、施工時、運搬時、保管時などにおいて、管状ライニング材の管状物としての形状を十分に維持することが可能となる。また、例えば、硬化性樹脂組成物が含浸された繊維マットを螺旋状に巻回して形成された管状のライニング材では、ライニング材の軸方向に対する力が加わると変形し易いことから、上記帯状の補強材の配置はこのようなライニング材に特に有効である。そして、施工後においても、地震等の地殻変動により更生管に軸方向の力が加わった場合にこれに対して優れた抵抗力を発揮することができる。
【0016】
請求項4に記載の管状ライニング材は、前記繊維が、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。これら繊維は強度が高いため、形成される更生管の強度を十分に高くすることができるライニング材を提供することができる。
【0017】
また、上記目的を達成する請求項5に記載の管状ライニング材の製造方法は、
帯状の繊維マットに硬化性樹脂組成物を含浸する含浸工程、及び、
前記硬化性樹脂組成物が含浸された帯状の繊維マットを螺旋状に巻回して管状ライニング材を形成する巻回工程、を含む管状ライニング材の製造方法であって、前記帯状の繊維マットは、硬化性樹脂組成物を除く繊維マットの質量を基準として50質量%以上が、長さが2〜20cmの繊維から構成されていることを特徴とする。
【0018】
帯状の繊維マットを用いてこれを巻回することにより管状ライニング材を製造することが作業性の面で良好であり、また、製造される管状ライニング材は長さが2〜20cmの繊維を50質量%以上含んでいるので、上述したとおり、この管状ライニング材を使用すれば凹凸や変形に追従したシワ等の生じていない品質の良好な更生管を形成することが可能となる。
【0019】
請求項6に記載の方法は、前記巻回工程において、製造される管状ライニング材において、前記長さが2〜20cmの繊維の延在方向が、前記管状ライニング材の軸方向を基準として65〜90°となるように前記帯状の繊維マットを巻回することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、請求項2に記載と同様に、形成される更生管は、上下方向の力に対して優れた抵抗力を有することになり、強度の高い更生管を形成することが可能となる。
【0021】
請求項7に記載の方法は、前記帯状の繊維マットは、前記長さが2〜20cmの繊維が前記帯状の繊維マットの長さ方向に延在した状態で含むことを特徴とする。
【0022】
帯状の繊維マットとして、2〜20cmの繊維がその長さ方向に延在しているものを使用することにより、巻回工程において、製造される管状ライニング材において2〜20cmの繊維が所定の角度となるようにするための角度調整を容易に行うことができる。
【0023】
請求項8に記載の方法は、前記巻回工程の後、前記管状ライニング材の外周面上に、さらに、帯状の補強材を、前記管状ライニング材の軸方向と平行に配置する補強材配置工程を含むことを特徴とする。請求項3と同様に、帯状の補強材を配置することにより、管状ライニング材の管状物としての形状を十分に維持することが可能となる。
【0024】
請求項9に記載の方法は、前記繊維が、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。請求項4と同様に、これら強度の高い繊維を使用することにより、強度の高い更生管を得ることが可能である。
【0025】
さらに、本発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の管状ライニング材を既設管内に導入する導入工程、前記導入された管状ライニング材を拡径することにより、該管状ライニング材を前記既設管の内面に押圧して密着させる工程、及び、前記拡径された状態の管状ライニング材を硬化する硬化工程、を含む既設管補修方法を提供する。本発明の管状ライニング材を用いることにより、既設管の凹凸や変形の形状に追従した、シワ等の生じていない更生管を形成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、管状ライニング材の拡径作業において、従来よりも拡径度合いを大きくすることができる分、拡径前のライニング材の径を小さくすることができるので、作業性を向上させることができるだけでなく、凹凸や変形の生じた既設管を補修する場合に、その箇所に応じた拡径度合いとさせることができるので、凹凸や変形に追従したシワ等の生じていない品質の良好な更生管を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の管状ライニング材の一例を示す斜視図である。
【
図3】管状ライニング材を用いて既設管補修を行う過程を示す概略図である。
【
図4】管状ライニング材の製造過程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の管状ライニング材の一例を示す斜視図である。本実施の形態の管状ライニング材10は、内側から順にインナーフィルム12、硬化性樹脂組成物が含浸された繊維マット14、帯状の補強材16−1、16−2及びアウターフィルム18が設けられている。インナーフィルム12、帯状の補強材16−1、16−2及びアウターフィルム18は必要に応じて設けられるものである。
【0029】
硬化性樹脂組成物が含浸された繊維マット14は、管状ライニング材10の主体を成すものであり、この繊維マットは、硬化性樹脂組成物を除く繊維マットの質量を基準として、50質量%以上、好ましくは65質量%以上、特に好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上が、長さが2〜20cm、好ましくは5〜15cm、特に好ましくは5〜10cmの繊維から構成されている。繊維の太さは特に限定されないが、例えば10〜40μmである。2〜20cmの短い繊維がこの含有量で含まれていることにより、後に詳述するが、既設管の補修作業における拡径工程において、拡径の度合いを大きくすることができる。
【0030】
図2は、繊維マット14のみの側面図(a)及びその部分拡大概略図(b)である。繊維マット14において、上述した長さ2〜20cmの繊維14aの延在方向(図示中A方向)は、管状ライニング材10(即ち、管状の繊維マット14)の軸方向(図示中B方向)を基準として、65〜90°であることが好ましい。このような大きな角度で繊維が延在していることにより、形成される更生管に加わる上下方向の力に対して優れた抵抗力を発揮でき、リングとしての強度を高い水準で維持することができる。
【0031】
このような繊維マット14は、例えば、次のような方法により作製することができる。すなわち、長さ2〜20cmの繊維を複数本撚るなどして組み合わせたストランドを数十本束ねて紐状としたロービングを複数本、更に同方向でまとめて帯状の形状となるように成形する。その際、ロービング同士はその端部が延在方向に直交する方向を基準として同じ位置ではなく、別位置となるようにランダムに配置することが好ましい。これにより、帯状の形状が崩れにくくなるとともに、後述する拡径作業により繊維同士が周方向により離れ易い構造とすることができる。そして、さらにその後、まとめられた帯状の形状を維持するために、長さ2〜20cmの繊維の延在方向とは異なる方向に別のロービングを配置して、その上から例えば霧状の接着剤を吹き付けることなどにより、繊維マット18を形成することができる。帯状の繊維マットは、例えば、螺旋状に巻回することにより管状の繊維マットとすることができる。この場合、硬化性樹脂組成物の繊維マットへの含浸は、巻回前でも巻回後でもよいが、巻回前の方が作業性に優れる点で好ましい。
【0032】
繊維マット14を構成する繊維は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これら繊維は強度が高いため、形成される更生管の強度を十分に高くすることができるライニング材を提供することができる。上記繊維は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
図1に示すインナーフィルム12及びアウターフィルム18は従来から管状ライニング材の製造に用いられているものでよい。例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどを用いることができる。硬化性樹脂組成物が光硬化性樹脂組成物の場合はインナーフィルムは照射する光に対して透過性を有するものを用いる。
【0034】
繊維マット14に含浸される硬化性樹脂組成物は、光で硬化する樹脂組成物でも熱で硬化する樹脂組成物でもよい。いずれの硬化性樹脂組成物でも、ビニルエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の重合性樹脂をスチレン等の溶媒に溶かしたものを使用することができ、光硬化性樹脂組成物の場合はアゾ化合物等の光重合開始剤が配合され、熱硬化性樹脂組成物の場合は熱に反応する有機過酸化物が配合される。繊維マット14と硬化性樹脂組成物の重量割合は、例えば、繊維マットが50〜55質量%で、硬化性樹脂組成物が45〜50質量%である。繊維マット14の重さは、例えば、500〜800g/m
2、好ましくは600〜700g/m
2である。
【0035】
帯状補強材16−1、16−2としては、繊維マット14の軸方向に対して抵抗力を発揮することができるものであればよい。好ましい材料としては、繊維マット、好ましくは硬化性樹脂組成物を含浸した繊維マットである。図示した例では、繊維マット14の外周上の相対する方向の2箇所に帯状補強材16−1、16−2を設けているが、1箇所としてもよいし、3箇所以上としてもよい。帯状補強材16−1、16−2は、管状ライニング材10の軸方向と並行に設けられている。
【0036】
帯状補強材を配置することにより、管状ライニング材10に対して軸方向の力が加わったとしても、帯状補強材16−1、16−2の存在によりその力に対する抵抗力が発揮されるので、施工時、運搬時、保管時などにおいて、管状ライニング材の管状物としての形状を十分に維持することが可能となる。また、例えば、硬化性樹脂組成物が含浸された繊維マットを螺旋状に巻回して形成された管状のライニング材では、ライニング材の軸方向に対する力が加わると変形し易いことから、帯状補強材16−1、16−2の配置はこのようなライニング材に特に有効である。そして、施工後においても、地震等の地殻変動により更生管に軸方向の力が加わった場合にこれに対して優れた抵抗力を発揮することができる。
【0037】
次に、本発明のライニング材を用いた既設管の補修方法について説明する。本発明の既設管の補修方法は、本発明のライニング材を用いればよく、作業自体は従来と同じようにして行えばよい。
図3は、本発明の既設管補修方法の説明図である。
【0038】
本発明の既設管補修方法は、本発明の管状ライニング材10を既設管100内に導入する導入工程、
導入された管状ライニング材10を拡径することにより、管状ライニング材10を既設管100の内面に押圧して密着させる拡径工程、
拡径された状態の管状ライニング材10を硬化する硬化工程、
を含む。
【0039】
本図では、既設管として下水管(下水道本管)を例にとって示している。管状ライニング材10は、既設管100内に導入された後、両端を閉塞部材62−1、62−2で閉塞し、これにより形成された閉塞空間70内に圧縮空気を導入して管状ライニング材50を拡径することにより拡径工程が行われる。
【0040】
その後、ライニング材の内部からライニング材に対して光を照射することより、ライニング材の硬化性樹脂組成物が硬化することにより既設管の内側に樹脂製の更生管が形成される。このようにして本発明の既設管補修方法が行われる。ライニング材のインナーフィルムは必要に応じて引き剥がされる。図示の例は、光硬化性樹脂組成物を使用した管状ライニング材を用いた例であるが、熱硬化性樹脂組成物を使用した管状ライニング材の場合は、光の照射の代わりに蒸気等で加熱を行う。
【0041】
なお、図示中、符号90は下水の流れを堰き止める堰き止め部材である。符号66、72は作業装置であり、作業装置66からホース68を介して空気が管状ライニング材10の内側に供給されるとともに、ホース74から排出されることで、密閉空間70では空気の流れが生じており、可燃性物質の排出が行われている。符号60はライニング材50に光を照射するためのランプ連結体である。硬化工程を終えた後、必要により端部処理を行う等して、既設管100の内側に更生管が形成される。
【0042】
本発明の管状ライニング材10を用いることにより次の効果が奏される。すなわち、従来の管状ライニング材10は、これに含まれる繊維マットを構成する繊維の長さが、少なくとも形成されるライニング材の周長以上(通常50cm以上)の長い繊維で構成されていた。本発明では、繊維マットが、硬化性樹脂組成物を除く繊維マットの質量を基準として50質量%以上が長さが2〜20cmと短い繊維で構成されていることにより、ライニング材を拡径する際に、互いの繊維が離れる方向に移動しやすくなり、その分拡径する度合いを大きくすることができる。
【0043】
したがって、拡径する度合いを大きくすることができる分、拡径前のライニング材の径を小さくすることができることにより作業性が向上するとともに、老朽化して凹凸や変形が生じた既設管を補修する場合に、その箇所に応じた拡径度合いとさせることができるので、凹凸や変形等の形状に追従したシワ等の生じていない品質の良好な更生管を形成することが可能となる。
【0044】
また、一般に、管状ライニング材は、既設管の内径よりもやや小さく形成して、作業時に拡径される。従来では、長い繊維を使用していたため、管状ライニング材を拡径可能とするためには、繊維が延在する角度を管状ライニング材の軸方向に対して小さくしなければならないという事情があった。この角度が大きいとそれ以上拡径することができなくなるからである。しかしながら、上記角度が小さいほど、形成される更生管は、上下方向の力に対し抵抗力が小さくなるという問題がある。
【0045】
本発明では、長さが2〜20cmの短い繊維が使用されているので、上記角度が65〜90°という大きい角度としても、拡径時には、その短い繊維が互いに離れることで十分に拡径することが可能となっている。そして、繊維がこのような大きい角度で配置されていることにより、形成される更生管は、上下方向の力に対して十分な抵抗力を発揮でき、リングとしての強度を高い水準で確保することが可能となる。
【0046】
次に、本発明の管状ライニング材を製造する方法について説明する。
図4はライニング材を製造する過程の一例を示す概略図である。ライニング材の製造にはマンドレル40が使用されてこの上に帯状の繊維マット20が巻回されていく。マンドレル40には、予め、筒状のインナーフィルム12が装着されている。インナーフィルム12は必要に応じて用いられるものであり、製造されるライニング材の内面を保護する役割を有する。
【0047】
本実施の形態では、予め硬化性樹脂組成物が含浸された繊維マット20をインナーフィルム12の外周上に螺旋状に巻回することにより管状物22を形成する。
【0048】
繊維マット20は事前にロール状に保管されており、この巻回工程の際にロール20−1、20−2から繰り出される。本実施の形態では、繊維マットのロール20−1、20−2は、マンドレル40の周りに2つ配置されており、それぞれのロール20−1、20−2から繊維マット20が繰り出されてインナーフィルム12の外周上に巻回される。そして、ロール20−1からの繊維マット20とロール20−2からの繊維マット20が交互に巻回されて、順次重ねられていく。図示した例では2つのロール20−1、20−2をマンドレル40を基準として相対する位置に配置した例を示しているが、繊維マットのロールは1つでもよいし、2個に限らず3個以上配置してもよい。すなわち、ロールは1つでも複数個でもよい。
【0049】
繊維マット20は、上述した長さ2〜20cmの繊維の延在方向が、形成される管状ライニング材の軸方向を基準として65〜90°なるように角度調整されて巻回される。
【0050】
繊維マット20は、長さ2〜20cmの繊維が、繊維マット20の長さ方向に延在して存在していることが好ましい。これにより、所望とする角度への調整を容易に行うことができる。この場合には、帯状の繊維マット20を螺旋状に巻回する際の螺旋角度が65〜85°とされていることが好ましい。螺旋角度とは、
図4上において角度Aで示されるものであり、管状物22の軸方向(即ち、形成される管状ライニング材の軸方向)を基準として、どのくらいの傾きで繊維マット20が巻回されるかを示す角度である。これにより、管状ライニング材において、長さ2〜20cmの繊維が、管状ライニング材の軸方向に対して65〜90°の範囲内とする作業が容易となる。
【0051】
次に、繊維マット20を巻回することにより形成された管状物22の外周上にその軸方向に延びるように帯状補強材16−1、16−2を配置する。図示した例では、2つの帯状補強材16−1、16−2が、マンドレル40を基準として相対する方向に配置されている。帯状補強材を配置することにより、螺旋状に巻回された管状物22の軸方向にかかる力に対して抵抗力が発揮され、ライニング材の形が崩れることを防止することができる。なお、この帯状補強材の配置工程は必要に応じて行われるものである。また、図示した例では、2つの帯状補強材16−1、16−2を配置しているが、帯状補強材は1つでもよく、3つ以上でもよい。帯状補強材の幅は、管状物22の周長に対して、例えば10〜50%である。
【0052】
その後、管状物には更にアウターフィルム18−1、18−2がその外周上に設けられる。図示した例では、2つの帯状のアウターフィルム18−1、18−2が対向するように配置されている。そして、2つの帯状のアウターフィルム18−1、18−2の幅方向端部を熱圧着装置30において熱圧着して互いに融着する。これにより、一体となったアウターフィルム18−1、18−2に、インナーフィルム12、管状物22及び帯状補強材16−1、16−2が内包される。アウターフィルム16−1、16−2の幅は、これらを合計した長さが、管状物22の周長よりも長ければよい。
【0053】
以上により管状のライニング材が製造される。製造されたライニング材は保管及び運搬のために、押し潰されて折りたたまれた状態となる。
【0054】
なお、帯状の繊維マット20における長さ2〜20cmの繊維の延在方向は、帯状の繊維マット20の長さ方向でなくてもよく、その場合には、製造されるライニング材において2〜20cmの繊維の延在方向が、製造される管状ライニング材の軸方向に対して65〜90°となるように螺旋角度を調整すればよい。
【0055】
なお、本発明は上記各実施の形態の構成に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。以下、実施例により本発明を説明する。
【実施例】
【0056】
(1)管状ライニング材1(本発明)の作製
光硬化性樹脂組成物(不飽和ポリエステル樹脂、スチレン及び光重合開始剤を含む)を事前に含浸した帯状のガラス繊維マット(幅840mm、硬化後厚さ0.7mm、ガラス繊維マットの重量650g/m
2、含浸樹脂組成物量600g/m
2)を、
図4に示すように、筒状のインナーフィルム(ポリエチレンフィルム)12で下記表1に示す螺旋角度にて巻回した後、帯状補強材16−1、16−2及びアウターフィルム(ポリエチレンフィルム)18−1、18−2を配置することにより管状ライニング材(厚さ2.8mm)を得た。使用したライニング材は、一本の長さが2〜20cmの範囲内のガラス繊維(太さ20μm)を用いて帯状の繊維マットになるように成形したものである。この繊維マットでは、長さが2〜20cmのガラス繊維が、帯状のマットの長さ方向に延在している。
【0057】
(2)管状ライニング材2(比較例)の作製
上記長さが2〜20cmのガラス繊維に代えて、長さが30cmのガラス繊維を使用したこと以外は、上記(1)と同様にしてライニング材を製造した。
【0058】
(3)評価
上記2つのライニング材1及び2について、凹凸や変形のある管の内側にライニング材を導入し、両端を密閉して内部に圧縮空気を導入することにより、ライニング材を拡径させた。その後、紫外線ランプによりライニング材に紫外線を照射することで、ライニング材を硬化させ、更生管を得た。この更生管についてシワの有無を調べたところ、ライニング材1の更生管はシワが発生しておらず品質が良好であった。一方、ライニング材2の更生管はシワが発生していることが認められた。
【0059】
(4)強度測定
作製したライニング材の両端を密閉した後、圧縮空気を内部に供給することによりライニング材を拡径し、この状態で予めライニング材の内側に導入しておいた紫外線ランプにより、ライニング材の内側から紫外線を照射することにより、ライニング材を硬化させて更生管のサンプルを形成した。このサンプルについて、以下の評価を行った。
【0060】
(1)短期曲げ弾性係数及び長期曲げ弾性係数 JISK 7035に従い、曲げ弾性係数を測定した。短期曲げ弾性係数は、上記更生管のサンプルに所定の荷重を加えた直後に測定した弾性係数である。長期曲げ弾性係数は、上記更生管のサンプルに所定の荷重を加えた後、1万時間経過した後に測定した弾性係数である。
【0061】
(2)短期曲げ強さ
JISK 7035に従い、曲げ強さを測定した。短期曲げ強さは、上記更生管のサンプルに所定の荷重を加えた直後に測定した曲げ強さである。
【0062】
【表1】
【符号の説明】
【0063】
10 管状ライニング材
12 インナーフィルム
14 繊維マット
14a 繊維
16−1、16−2 帯状補強材
18、18−1、18−2 アウターフィルム
20 繊維マット
20−1、20−2 繊維マットのロール
22 管状物
30 熱圧着装置
40 マンドレル
60 光照射装置
62−1、62−2 閉塞部材
100 既設管
102−1、102−2 マンホール