(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6677508
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】メス端子
(51)【国際特許分類】
H01R 13/10 20060101AFI20200330BHJP
H01R 13/11 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
H01R13/10 B
H01R13/11 K
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-253549(P2015-253549)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-117710(P2017-117710A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義貴
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂
(72)【発明者】
【氏名】弓立 隆博
【審査官】
藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−220158(JP,A)
【文献】
特開平11−214058(JP,A)
【文献】
特開2015−216110(JP,A)
【文献】
実開平04−111111(JP,U)
【文献】
特開2012−084338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/10−13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オス端子のオスタブ部が嵌合される端子嵌合空間が形成され、前記端子嵌合空間にバネ接触部が配置され、前記バネ接触部にインデント部が突設され、前記オス端子の嵌合位置では、前記インデント部が前記バネ接触部のバネ力による接触荷重によって前記オスタブ部に接触するメス端子において、
前記バネ接触部には、前記嵌合位置のオス端子のオスタブ部側に向かって突出する補助突部が前記インデント部の少なくともいずれか一方側に設けられ、
前記インデント部と前記補助突部は、前記嵌合位置のオス端子のオスタブ部側に向かってそれぞれ突出するほぼ円弧形状であり、
前記ほぼ円弧形状のインデント部の周面と前記ほぼ円弧形状の補助突部の周面との間に溝が形成されていることを特徴とするメス端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バネ接触部にインデント部が突設されたメス端子に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来例として、特許文献1に開示されたものがある。このメス端子100は、
図7、
図8に示すように、内部に端子嵌合空間102が形成された筒部101を有する。この筒部101の端子嵌合空間102には、バネ接触部103が配置されている。このバネ接触部103にはインデント部104が突設されている。インデント部104の周面で、且つ、挿入されるオス端子110のオスタブ部111が最初に接触する位置には、凹部105が形成されている。この凹部105には、オス端子110の嵌合時に潤滑剤(図示せず)が貯留される。
【0003】
オス端子110とメス端子100が離脱状態にあって、オス端子110のオスタブ部111をメス端子100の筒部101内に挿入すると、オスタブ部111がバネ接触部103と接触し、バネ接触部103が押圧されて弾性変形する。これにより、オスタブ部111の筒部101内への挿入が許容され、
図8の端子嵌合状態となる。筒部101内に嵌合されたオスタブ部111は、バネ接触部103の弾性復帰力を接触荷重としてバネ接触部103及び筒部101の上面に電気的に接続される。バネ接触部103とオスタブ部111の間は、小さい面積であるインデント部104を介して接触するため、強い接触荷重をもって接触される。
【0004】
端子嵌合過程にあって、オスタブ部111の先端は、
図7に示すように、先ず、インデント部104の凹部105の上面位置を通過し、バネ接触部103を撓み変形させつつ端子嵌合空間102に進入する。インデント部104の凹部105上を通過する過程で、凹部105内の潤滑剤(図示せず)がオスタブ部111に付着等し、潤滑剤(図示せず)がインデント部104とオスタブ部111の間に介在される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−210755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来のメス端子100では、インデント部103の凹部105より流出した潤滑剤(図示せず)がインデント部104とオスタブ部111の間に介在(保持)されにくい。つまり、インデント部104は、オスタブ部111との間に介在された潤滑剤(図示せず)を掻き分けるようにしてオスタブ部111の表面を摺動し、掻き分けられた潤滑剤(図示せず)がインデント部104の周面を伝って徐々に離間する方向に流れるためである。潤滑剤(図示せず)がインデント部104とオスタブ部111の間に介在されないと、微摺動による摩耗粉の発生を有効に抑制できないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、オスタブ部とインデント部間の微摺動による摩耗粉の発生を有効に抑制できるメス端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、オス端子のオスタブ部が嵌合される端子嵌合空間が形成され、前記端子嵌合空間にバネ接触部が配置され、前記バネ接触部にインデント部が突設され、前記オス端子の嵌合位置では、前記インデント部が前記バネ接触部のバネ力による接触荷重によって前記オスタブ部に接触するメス端子において、前記バネ接触部には、前記
嵌合位置のオス端子の
オスタブ部側に向かって突出する補助突部が前記インデント部の少なくともいずれか一方側に
設けられ、前記インデント部と前記補助突部は、前記
嵌合位置のオス端子の
オスタブ部側に向かってそれぞれ
突出するほぼ円弧形状であり、前記
ほぼ円弧形状のインデント部
の周面と前記
ほぼ円弧形状の補助突部
の周面との間に溝が形成されていることを特徴とするメス端子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えばオスタブ部やバネ接触部に潤滑剤が塗布された状態で端子嵌合される場合にあって、インデント部は、オスタブ部との摺動時には、オスタブ部との間に介在する潤滑剤を掻き分けるが、掻き分けられた潤滑剤が
ほぼ円弧形状のインデント部の周面
とほぼ円弧形状の補助突部の周面との間に形成された溝に溜まり、この溜まった潤滑剤がインデント部の周面を満たすため、潤滑剤がインデント部とオスタブ部の間に介在(保持)されることになる。以上より、オスタブ部とインデント部間の微摺動による摩耗粉の発生を有効に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態を示し、オス端子が嵌合されていないメス端子の断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態を示し、オス端子が嵌合されたメス端子の断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態の変形例を示し、オス端子が嵌合されたメス端子の断面図である。
【
図4】本発明の参考例を示し、オス端子が嵌合されたメス端子の断面図である。
【
図5】本発明の参考例を示し、(a)はオスタブ部とインデント部の表面凹凸に潤滑剤が介在された状態の模式図、(b)はオスタブ部とインデント部の境界全域に潤滑剤が介在された状態の模式図である。
【
図6】本発明の参考例に対する比較例を示し、(a)はオスタブ部とインデント部の表面凹凸に潤滑剤が介在された状態の模式図、(b)はオスタブ部とインデント部の境界全域に潤滑剤が介在された状態の模式図である。
【
図7】従来例を示し、オス端子が嵌合途中であるメス端子の断面図である。
【
図8】従来例を示し、オス端子が嵌合されたメス端子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1及び
図2は本発明の第1実施形態を示す。メス端子1は、1枚の所定形状の平板な導電性金属板を折り曲げて形成されている。メス端子1は、前方が開口された筒部2を有する。筒部2は、底面壁2aと一対の側面壁2bと上面壁2cより四角形の枠形状に形成されている。筒部2の内部がオス端子10のオスタブ部11の端子嵌合空間3に形成されている。上面壁2cには、2つの受け突部4が端子嵌合空間3に向かって突設されている。2つの受け突部4は、下記するインデント部6を挟む位置に配置されている。
【0013】
筒部2の内部である端子嵌合空間3には、底面壁2aの先端より延設されたバネ接触部5が配置されている。バネ接触部5は、底面壁2aの先端より大きく折り返されることによって端子嵌合空間3に配置されている。バネ接触部5には、2つの受け突部4の間の位置にインデント部6が突設されている。インデント部6は、オスタブ部11が挿入される側に突設されている。インデント部6は、図
2に示すように、
嵌合位置のオス端子10の
オスタブ部11側に向かって突出するほぼ円弧形状である
。
【0014】
バネ接触部5には、オス端子10の嵌合離脱方向fにおけるインデント部6の両側に補助突部7が設けられている。
図2に示すように、各補助突部7は、嵌合位置のオス端子10のオスタブ部11側に向かって突出するほぼ円弧形状である。これら各補助突部7とインデント部6の間には、
ほぼ円弧形状のインデント部6の周面
とほぼ円弧形状の各補助突部7の周面との間を溝内面とする溝8が形成されている。
【0015】
図1に示す端子離脱状態にあって、オス端子10のオスタブ部11をメス端子1の筒部2内に挿入すると、オスタブ部11がバネ接触部5と接触し、バネ接触部5が押圧されて弾性変形する。これにより、オスタブ部11の筒部2内への挿入が許容され、
図2の端子嵌合状態となる。筒部2内に嵌合されたオスタブ部11は、バネ接触部5の弾性復帰力を接触荷重としてバネ接触部5のインデント部6と2つの受け突部4に電気的に接触される。バネ接触部5とオスタブ部11の間は、小さい面積であるインデント部6を介して接触するため、強い接触荷重をもって接触される。
【0016】
上記した嵌合過程にあって、例えばオスタブ部11やバネ接触部5に潤滑剤20(オイル、ワックス、グリース等)が塗布された状態で端子嵌合される場合、オスタブ部11とインデント部6の間に潤滑剤20が介在されるが、インデント部6は、オスタブ部11との間に介在する潤滑剤20を掻き分ける。この掻き分けられた潤滑剤20は、インデント部6の周面を溝内面とする溝8に溜まり、この溜まった潤滑剤20がインデント部6の周面を満たすため、
図2に示すように、潤滑剤20がインデント部6とオスタブ部11の間に介在(保持)されることになる。従って、インデント部6とオスタブ部11間の微摺動による摩耗粉の発生を有効に抑制できる。
【0017】
又、端子嵌合過程においても、上記した理由によって、潤滑剤20がインデント部6とオスタブ部11の間に確実に介在(保持)されるため、磨耗・磨耗粉の発生を抑制できると共に、嵌合抵抗の低減を図ることができる。
【0018】
溝8は、オス端子10の嵌合離脱方向fに対してインデント部6の両側に設けられている。つまり、微摺動が発し易い方向でインデント部6の両側に設けられているため、微摺動による摩耗・摩耗粉の発生を効果的に抑制できる。溝8は、オス端子10の嵌合離脱方向fに対していずれか一方側にのみ設けても良い。
【0019】
(第1実施形態の変形例)
図3は第1実施形態の変形例を示す。この変形例では、メス端子1及びオス端子10の表面には、銀メッキ層(図示省略)が形成されている。他の構成は、前記第1実施形態と同様であるため、同一構成箇所には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0020】
例えばオスタブ部11やバネ接触部5に潤滑剤が塗布されない状態で端子嵌合される場合、
図3に示すように、インデント部6とオスタブ部11間の微摺動により発生した摩耗粉21がインデント部6の周面より外側に拡散することなく、溝8内に貯まる。摩耗粉21は、銀メッキであるため、酸化しない。そのため、電気的接続部位であるインデント部6やオスタブ部11に再付着(再凝縮)し、摩耗の進行が抑制される。
【0021】
このように、電気的接続部位であるインデント部6やオスタブ部11の摩耗の進行を抑制できるため、銀メッキの厚みを薄くでき、低コスト化になる。
【0022】
オスタブ部11やバネ接触部5に潤滑剤が塗布された状態で端子嵌合される場合にあっては、インデント部6とオスタブ部11間の微摺動により発生した摩耗粉と共に潤滑剤が溝8内に貯まることになる。
【0023】
(参考例)
図4は参考例を示す。メス端子1Aは、1枚の所定形状の平板な導電性金属板を折り曲げて形成されている。メス端子1Aは、前方が開口された筒部2を有する。筒部2は、底面壁2aと一対の側面壁2bと上面壁2cより四角形の枠形状に形成されている。筒部2の内部がオス端子10のオスタブ部11の端子嵌合空間3に形成されている。上面壁2cには、2つの受け突部4が端子嵌合空間3に向かって突設されている。2つの受け突部4は、下記するインデント部6を挟む位置に配置されている。
【0024】
筒部2の内部である端子嵌合空間3には、底面壁2aの先端より延設されたバネ接触部5が配置されている。バネ接触部5は、底面壁の先端より大きく折り返されることによって端子嵌合空間3に配置されている。バネ接触部5には、2つの受け突部4の間の位置にインデント部6が突設されている。インデント部6は、
嵌合位置のオス端子10の
オスタブ部11側に向かって突出するほぼ円弧形状である
。
【0025】
メス端子1A及びオス端子10の表面には、メッキ層(図示省略)が形成されている。
インデント部6とオスタブ部11の少なくとも一方には、潤滑剤30が塗布されている。潤滑剤30は、オイル、ワックス、グリース等である。潤滑剤30には、導電材の金属粉31が混入されている。金属粉31は、端子の表面粗さによる凹凸の隙間32(
図5、
図6に示す)に入り込むことができる大きさである。金属粉31は、メッキ材の硬度よりも低い硬度である。
【0026】
メス端子1Aとオス端子10の嵌合動作時にあって、若しくは、端子嵌合状態での微摺動時にあって、潤滑剤30によって磨耗や磨耗粉の発生を抑制できる。
【0027】
インデント部6とオスタブ部11の接触状態としては、インデント部6とオスタブ部11間の境界面の全域に潤滑剤が介在しない場合と、介在する場合が想定される。
【0028】
図5(a)に示すように、インデント部6とオスタブ部11間の境界面の全域に潤滑剤が介在しない場合には、インデント部6とオスタブ部11の表面粗さによる凹凸の隙間32内にのみ金属粉31が混入された潤滑剤30が入り込む。
図5(b)に示すように、インデント部6とオスタブ部11間の境界面の全域に潤滑剤が介在する場合には、境界面の全域には金属粉31が混入された潤滑剤30の膜が形成されると共に、インデント部6とオスタブ部11の表面粗さによる凹凸の隙間32に金属粉31が混入された潤滑剤30が入り込む。
【0029】
いずれの場合にも、参考例では、金属粉31が含まれない潤滑剤33の場合(
図6(a)、(b)に比較例として示す)に較べて、電気抵抗の高い潤滑剤30の体積が減ること、及び、潤滑剤30の体積が減った分だけ電気抵抗の低い金属粉31が入ることによって、電気抵抗率が低減し、接触抵抗が低減する。
【0030】
以上より、磨耗・磨耗粉の発生を抑制できると共に接触抵抗を低減できる端子間構造を提供できる。
【0031】
特に、今後の端子小型化に伴って端子間の接触面積が減少されるが、潤滑剤30に含まれる金属粉31によって端子間の電気抵抗率を低減できるため、接触面積が減少されても接触抵抗を低減できる端子間構造を提供できる。
【符号の説明】
【0032】
1 メス端子
3 端子嵌合空間
5 バネ接触部
6 インデント部
7 補助突部
8 溝
10 オス端子
11 オスタブ部