(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述したように、放射性物質を取り扱う施設での作業員の立ち入りが困難で且つ光学カメラ等での目視が困難な環境において、放射線検出器の線量率出力とその位置座標という限られた測定値から放射能分布の解析を実現できれば、原子力プラント運転中の原子炉格納容器内や福島第一原子力発電所の原子炉建屋内において生じた放射能分布を直ちに観測可能となる。
【0018】
本発明は、そのような困難な環境で、かつ、放射線検出器の線量率出力とその位置座標という限られた測定値しかない状況においても、実機の環境に最適な構成で放射能分布を直ちに解析でき、放射能分布中の主要核種と位置を高精度に解析することができる解析システムに関して種々検討した結果で得た新たな知見に基づいてなされたものである。
【0019】
以下、本発明に係る放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の好適な実施例を、図面を参照して、新たな知見の内容を具体的に説明する。
【0020】
<実施例1>
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例1を、
図1乃至
図7を用いて説明する。まず、システム構成について
図1を用いて説明する。
図1に放射能分布解析システムの構成図を示す。
【0021】
図1に示す実施例1の放射能分布解析システム100は、原子力発電プラントや廃棄物処理施設、加速器施設、放射性物質等管理区域を有する施設などの放射性物質取扱施設における放射能分布を解析するためのシステムであり、放射線検出器101、線量率計102、放射能分布解析装置(解析部)103、放射線検出器移動装置(移動装置)104、位置算出装置(位置算出部)105、表示装置106、第1データベース140を備えている。
【0022】
放射線検出器101は、設置された箇所の雰囲気γ線線量率を計測する機能を有する検出器である。放射線検出器101で使用されるセンサとしては、電離箱式のガスセンサや蛍光体、半導体式の固体センサなど、一般的なセンサを使用することができる。放射線検出器101で得られた出力は電気ケーブルもしくは光ファイバケーブルで線量率計102に伝送される。
【0023】
線量率計102は、放射線検出器101で得られた出力から線量率を導出する。線量率計102における出力は線量率と、線量率を収集した時刻となる。
【0024】
放射線検出器移動装置104は、放射線検出器101を搭載しており、任意の箇所に放射線検出器101を移動させるための装置である。放射線検出器移動装置104は、例えば1対のクローラを備えた小型車両である。なお、クローラを備えた小型車両に限られず、放射線検出器101を移動させることができる任意の移動装置であればよく、例えば車輪を備えた小型の移動体や、動物や昆虫を模した移動体、ドローン等の無人飛行体等とすることが可能である。
【0025】
位置算出装置105は、放射線検出器移動装置104に搭載された放射線検出器101の3次元位置座標を算出する装置であり、例えばGPSや基準点に対する放射線検出器101の移動距離等を求める装置である。位置算出装置105の出力は3次元位置座標とその位置における時刻となる。
【0026】
放射能分布解析装置103は、線量率計102と位置算出装置105との出力を収集し、線量率計102で導出された線量率と位置算出装置105で算出された放射線検出器101の3次元位置座標とを用いて、放射能分布を解析する装置である。以下、
図2乃至
図5を用いて解析方法をより詳細に説明する。
【0027】
図2および
図3に線量率分布の一例を示す。
図2は放射能分布が放射線検出器101の進行方向に存在する場合の線量率分布であり、
図3は存在しない場合の線量率分布であり、放射能分布が堆積している面を基準として、その面と放射線検出器の距離を横軸とし、その距離における線量率を縦軸に示している。
【0028】
放射能分布解析装置103では、まず、線量率計102で導出された線量率から線量率分布を算出する。
【0029】
次に、放射能分布解析装置103は、算出した線量率分布の減衰率を算出する。なお、線量率は、主に立体角と、放射能分布と放射線検出器との間に存在する物質、例えば気中であれば空気、水中であれば水による遮蔽効果によって減衰する。放射能分布と放射線検出器との間に存在する物質は、雰囲気状態を特定することが可能な様々な手段で予め特定しておくことが望まれる。
【0030】
減衰率は、例えば
図2に示すような線量率分布が得られる場合は、線量率をy、放射能分布堆積面と放射線検出器との距離をx、係数をαとすると、指数関数y=αexp(−μx)でフィッティングすることができる。この場合、指数関数の傾きを示すμで減衰率を表現することができる。
【0031】
一方で、放射能分布が放射線検出器101の進行方向に存在しない場合、
図3に示すような線量率分布となる。
図3では、
図2で示した線量率分布116に加え、交点に存在しない場合の線量率分布117を示す。
【0032】
線量率分布が線量率分布117のような形状であったと判断される場合、放射能分布解析装置103は、線量率分布に指数関数をフィッティングさせる際に、この指数関数の変数を三角関数に変換してフィッティングを実現する係数を導出する。そして、フィッティングさせて得られた指数関数の傾きから減衰率を算出する。放射能分布解析装置103は、このフィッティングの際には、後述する第1データベース140に記憶された減衰率と照合を行うことで、予め導出した減衰率が想定される範囲であるかを絞り込むことで、フィッティングに要する時間を短縮する。
【0033】
図3に示すような線量率分布117の場合、立体角の関係から放射能分布堆積面と放射線検出器101との距離が短い領域では減衰率μが小さくなる。この場合には、指数関数の変数xを三角関数に変換する。
【0034】
図4に放射能性物質の集まり114と放射線検出器101との位置関係の一例を示す。
【0035】
図4に示すように放射能分布が放射線検出器101の進行方向に存在しない場合、放射能分布堆積面118に放射性物質の集まり114が堆積しており、放射能分布堆積面と放射線検出器101との距離119、放射能分布堆積面における放射能分布の端部と放射線検出器101との距離120、放射能分布の端部と放射線検出器101との距離121にて位置関係を定めることができる。ここで、放射能分布堆積面と放射線検出器101との距離119は位置算出装置105によって既知とする。
【0036】
このような場合、放射能分布の端部と放射線検出器101との距離121をa、放射能分布堆積面と検出器位置のなす角をθとするとき、フィッティングする指数関数はy=exp(−μx)、指数関数の変数xをx=a・sinθと表現することができる。この三角関数を用いて三角関数のθをパラメータとして線量率分布へフィッティングする。このフィッティングにおいて最適なθを抽出し、最適なθによって指数関数でフィッティングすることで、減衰率μを導出する。
【0037】
次に、放射能分布解析装置103は、算出した減衰率μを用いて放射能分布中の主要核種を解析する。この際、放射能分布解析装置103は、減衰率μの値から放射能分布における線源の主要なγ線エネルギー帯を算出し、算出したγ線エネルギー帯を用いて放射能分布中の主要核種を解析する。
【0038】
より具体的には、得られた減衰率μを第1データベース140における減衰率μの範囲(μ
1<μ
2<…<μ
n<…(n=1,2, …))のいずれかに照合させることで、減衰率μに対応するγ線エネルギー帯を算出する。
【0039】
図5にγ線エネルギーが異なる場合の線量率分布を示す。
【0040】
図5に示すように、減衰率の大きさは線源と放射線検出器101との距離や遮蔽材が同じ場合にはγ線エネルギーに依存する。したがって高エネルギーγ線による線量率分布122は、中エネルギーγ線による線量率分布123、低エネルギーγ線による線量率分布124と比較して減衰率が低くなる。そこで、得られた減衰率から、γ線エネルギー帯と一致する放射性核種を第1データベース140より抽出し、放射能分布中の主要核種とみなす。
【0041】
次に、放射能分布解析装置103は、線量率分布の波形と3次元位置座標と三角関数とを用いて放射能分布が堆積している面における放射線検出器101と放射能分布の端との距離を導出し、そこから放射線検出器101と放射能分布との距離を解析する。
【0042】
ここで、
図4に示す放射能分布堆積面における放射能分布の端部と放射線検出器との距離120をbとすると、b=a・cosθと表現することができる。
【0043】
従って、放射能分布解析装置103は、線量率分布の波形が、
図2に示すような放射能分布が放射線検出器101の進行方向に存在する場合の波形であるときはθ=90°であり、距離bはゼロとする。これに対し、
図3に示すような放射能分布が放射線検出器101の進行方向に存在しない場合は、b=a・cosθの式をそのまま用いて導出する。
【0044】
これまでの解析結果から、放射能分布中の主要核種となる放射性核種、および放射能分布と放射線検出器101との距離120の出力が得られる。以上を持ってひとつの測定点における放射能分布解析処理となる。
【0045】
次に、放射能分布解析装置103は、複数の線量率分布の測定結果と距離と主要核種と3次元位置座標の解析結果を用いて放射能分布を解析する。
【0046】
具体的には、放射能分布解析装置103は、各測定点における放射性核種の出力と距離120の出力とを重畳する。これにより、放射性物質の放射能分布堆積面における2次元分布と、放射能分布中の主要核種を算出する。この算出結果を表示装置106へ出力し、モニタする。
【0047】
表示装置106は、放射能分布解析装置103で解析された放射能分布の解析結果が表示されるモニタなどの表示装置である。
【0048】
第1データベース140は、複数の放射性核種の減衰率μを記憶した放射性核種のデータベースであり、測定環境に存在しうる主要核種を予め抽出したデータを記憶している。記憶している放射性核種としては、例えば、N−16、N−13、F−18、O−19、Co−60、Co−58、Cs−137、Cs−134、Eu−154等が挙げられる。γ線のエネルギー毎に区分すると、高エネルギーγ線を放出する核種としてN−16と設定する場合、中エネルギーγ線放出核種としてはCo−60、O−19、Eu−154が挙げられる。低エネルギーγ線放出核種としてはN−13、F−18、Co−58、Cs−137、Cs−134が挙げられる。
【0049】
次に、本実施例に係る放射能分布解析方法について
図6を参照して説明する。
【0050】
まず、放射能分布解析システム100は解析を開始する(ステップS301)。
【0051】
次に、放射線検出器移動装置104によって放射線検出器101を測定点まで移動させる(ステップS302)。
【0052】
次に、放射能分布解析装置103において線量率分布を測定するか否かを判定する(ステップS303)。測定点が存在するときもしくは更に存在するときは、処理をステップS304に進め、全ての測定点での測定が終了しているときは、処理をステップS317に進める。
【0053】
次に、放射線検出器101によってγ線線量率を測定し、線量率計102によって線量率を導出する。その後、放射線検出器移動装置104によって放射線検出器101を放射能分布が堆積していると想定される方向へ移動させ、再度放射線検出器101によってγ線線量率を測定し、線量率計102によって線量率を導出する、を複数回繰り返して線量率分布を求める(ステップS304)。
【0054】
次に、放射能分布解析装置103において先のステップS304で導出した線量率分布と指数関数(ここでは、y=αexp(−μx)を用いる)とのフィッティングを行う(ステップS305)。
【0055】
次に、放射能分布解析装置103において指数関数y=αexp(−μx)で線量率分布に指数関数がフィッティング可能か否かを判定する(ステップS306)。フィッティング可能であると判定されたときはステップS311に処理を進め、可能でないと判定されたときはステップS307に処理を進める。
【0056】
ステップS306でフィッティングが可能でないと判定されたときは、次に、放射能分布解析装置103において指数関数を変更し(y=exp(−μx))、指数関数の変数を三角関数(x=a・sinθ)に変換する(ステップS307)。
【0057】
次に、放射能分布解析装置103において三角関数の係数θをパラメータとして線量率分布と指数関数とのフィッティングを行う(ステップS308)。
【0058】
次に、放射能分布解析装置103において最適なθを選定する(ステップS309)。
【0059】
次に、放射能分布解析装置103において最適なθにおける指数関数で線量率分布とのフィッティングを行う(ステップS310)。
【0060】
次に、放射能分布解析装置103において減衰率μを導出する(ステップS311)。
【0061】
次に、放射能分布解析装置103においてステップS311で導出した減衰率μを第1データベース140に記憶されている放射性元素ごとの減衰率の範囲(μ
1、μ
2、…、μ
n、…のいずれか)と照合する(ステップS312)。
【0062】
次に、放射能分布解析装置103においてステップS312での照合において用いた第1データベース140中の減衰率の範囲がステップS311で導出した減衰率μと最も近いか否かを判定する(ステップS313)。最も近い(最接)と判定されたときはステップS314に処理を進め、最接でないときは処理をステップS312に戻し、次の放射性元素ごとの減衰率の範囲との照合を行う。
【0063】
次に、放射能分布解析装置103においてステップS313で最も近いと判定された減衰率の範囲のγ線エネルギー帯に属するエネルギーのγ線を放出する放射性元素を主要核種として特定するために、第1データベース140に記憶されたデータを用いて照合する(ステップS314)。
【0064】
次に、放射能分布解析装置103において第1データベース140内の主要核種のγ線エネルギー帯と一致あるいは十分に近いか否かを判定する(ステップS315)。一致あるいは十分に近いと判定されたときは、一致するエネルギー帯を放出する核種を主要核種とみなして処理をステップS316に進める。これに対し十分に近いと判定されなかったときは処理をステップS314に戻し、再度第1データベース140との照合を行い、主要核種を解析する。
【0065】
次に、放射能分布解析装置103において放射能分布と放射線検出器101との距離を算出する(ステップS316)。その後処理をステップS304に戻す。
【0066】
全ての測定点での測定が終了して処理がステップS317に進んだときは、次に、放射能分布解析装置103において各測定点における出力を重畳する(ステップS317)。
【0067】
次に、放射能分布解析装置103において放射能分布の3次元位置と主要核種を算出する(ステップS318)。
【0068】
次に、放射能分布解析装置103の解析結果を表示装置106へ出力する(ステップS319)。
【0069】
その後、放射能分布解析システム100は解析を終了する(ステップS320)。
【0070】
図6のうち、計測工程および線量率分布算出工程はステップS304に相当し、主要核種解析工程はステップS305〜ステップS315に相当し、距離解析工程はステップS316に相当し、放射能分布解析工程はステップS302〜ステップS318に相当する。
【0071】
図7に、放射能分布解析システム100の適用箇所例を示す。ここでは一例として原子力プラント内における放射性物質の集まり114を解析するための構成図を示す。
【0072】
図7において、原子炉建屋107内に原子炉格納容器108、原子炉圧力容器109、原子炉再循環系110、原子炉圧力抑制室111、トーラス室112、貫通部113が配置される。
【0073】
各箇所において放射線検出器101を搭載した放射線検出器移動装置104を投入し、ケーブル115を介して、
図1に示した線量率計102、位置算出装置105等の機能を用いて放射能分布を解析する。
【0074】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0075】
上述した本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例1では、放射線検出器101、線量率計102、放射線検出器移動装置104、位置算出装置105、放射能分布解析装置103および表示装置106を備えた放射能分布解析システム100により、線量率分布や、放射能分布とその主要核種とを解析することができる。そのため、放射能分布やその主要核種がどの放射性物質であるかを表示することができる。これらの効果によって、放射性物質を取り扱う施設の作業員の立ち入りが困難で且つ光学カメラ等での目視が困難な環境であっても、放射線検出器の線量率出力とその位置座標という限られた測定値から放射能分布やその主要核種を従来に比べて速やかに観測することが可能となる。
【0076】
また、放射能分布解析装置103は、線量率分布に指数関数をフィッティングさせて得られた傾きから減衰率μを算出し、減衰率μの値から放射能分布における線源の主要なγ線エネルギー帯を算出し、算出したγ線エネルギー帯を用いて放射能分布中の主要核種を解析することによって、容易に減衰率を導出することができ、また放射能分布の主要核種を解析することができる。これによって、より高い精度をもって放射能分布の主要核種を解析でき、除染等の作業による被ばく低減に貢献することができる。
【0077】
更に、放射能分布解析装置103は、線量率分布に指数関数をフィッティングさせる際に、この指数関数の変数を三角関数に変換してフィッティングを実現する係数を導出した後に、指数関数をフィッティングさせて得られた傾きから減衰率μを算出することで、高精度に線源の主要なγ線エネルギー帯を算出し、放射能分布の主要核種を解析することが可能となる。これによっても、より高い精度をもって放射能分布の主要核種を高精度に解析でき、除染等の作業による被ばく低減に貢献することができる。
【0078】
また、放射能分布解析装置103は、三角関数から、放射能分布が堆積している面における放射線検出器101と放射能分布の端との距離を導出することで、放射能分布堆積面における放射線検出器と放射能分布の端部との距離bを導出することが可能となり、光学カメラ等で目視による放射能分布の確認が困難な状況においても、放射能分布の3次元位置をより高い精度で解析することが可能となる。
【0079】
更に、複数の放射性核種の減衰率μを記憶した第1データベース140を備え、測定された線量率分布とのフィッティングに使用することにより、迅速に放射能分布の解析を実現することができる。これによって、除染等の作業計画の迅速な立案に寄与することができる。
【0080】
<実施例2>
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例2を
図8および
図9を用いて説明する。実施例1と同じ構成には同一の符号を示し、説明は省略する。以下の実施例においても同様とする。
図8は本実施例の放射能分布解析システムの構成図を示す図である。
【0081】
図8に示すように、本実施例の放射能分布解析システム100Aは、実施例1の放射能分布解析システム100の放射線検出器101に、ベータ線遮蔽体150を設けたものである。
【0082】
図9に本実施例の放射能分布解析システム100Aが専ら対象とする、高エネルギーベータ線源を有する放射能分布を測定対象とした場合の線量率分布を示す。
【0083】
高エネルギーベータ線源(例えばSr−90/Y−90)が放射能分布に含まれている場合、ベータ線による線量率を無視できない場合がある。
【0084】
図9では、線量率分布155に示すように、放射能分布と放射線検出器101との距離が近い場合、高エネルギーベータ線源の寄与が無視できない。ここで、ベータ線は、高エネルギーといえどもγ線と比較して飛程が短いため、短い距離で十分減衰する。そこで、高エネルギーベータ線源の影響を最小限にするために、放射線検出器101にベータ線遮蔽体150を設ける。このベータ線遮蔽体150の材質はアクリル等の有機物、SUSや銅、アルミニウム等の金属、酸化アルミニウム等のセラミックが用いられる。これらの材料によって形成されたベータ線遮蔽体150を用いて放射線検出器101を覆うことで、ベータ線の影響がほぼない線量率分布116を得ることができる。
【0085】
その他の構成・動作は前述した実施例1の放射能分布解析システム100と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0086】
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例2においても、前述した放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例1とほぼ同様な効果が得られる。
【0087】
また、放射線検出器101にベータ線遮蔽体150を設けることで、ベータ線寄与の線量率を除去することができるため、高エネルギーベータ線源を含む放射能分布を測定する場合でも、高精度にγ線線量率を測定することができる。これによって、より高精度に放射能分布の解析が可能となり、除染等の作業による被ばく低減により貢献することができるようになる。
【0088】
<実施例3>
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例3を
図10および
図11を用いて説明する。
図10に本実施例の放射能分布解析システムの構成図を示す。
【0089】
図10に示す本実施例の放射能分布解析システム100Bは、線量率の経時変化を観測し、線量率の減衰率を算出することで、測定するガンマ線エネルギー帯を放出する線源の半減期を推定するものである。
【0090】
放射能分布解析装置103Aは、放射線検出器101によって計測された線量率分布の経時変化に基づいて放射能分布中の放射性物質の半減期を推定し、この推定した半減期と減衰率μとを用いて放射能分布中の主要核種を解析する。
【0091】
図11に線量率分布の経時変化を示す。
【0092】
図11に示すように、線量率分布116を測定して一定時間経過した後に再度線量率分布を測定すると、
図11に示す線量率分布125のように線源の半減期に応じた線量率の減衰が見られる。放射能分布解析装置103Aは、ここで得られた線量率の絶対値の減衰率と経過時間から半減期を推定する。そして線量率分布の減衰率μから得られる主要核種の解析において、推定した半減期情報を加える。
【0093】
その他の構成・動作は前述した実施例1の放射能分布解析システム100と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0094】
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例3においても、前述した放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例1とほぼ同様な効果が得られる。
【0095】
また、放射線検出器101によって計測された線量率分布の経時変化に基づいて放射能分布中の放射性物質の半減期を推定し、この推定した半減期と減衰率μとを用いて放射能分布中の主要核種を解析することにより、放射能分布に含まれる主要核種の解析精度を更に向上することができ、除染等の作業による被ばく低減により貢献することができる。
【0096】
<実施例4>
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例4を
図12を用いて説明する。
図12に本実施例の放射能分布解析システムの構成図を示す。
【0097】
図12に示すように、本実施例の放射能分布解析システム100Cは、
図1に示す放射能分布解析システム100に加えて、放出装置126、検出器回収装置127、移動距離補正装置128を備え、放射能分布解析装置103に替わって放射能分布解析装置103Bを備えるものである。
【0098】
放射能分布解析システム100Cは、放射線検出器101、線量率計102、放射能分布解析装置103B、放射線検出器移動装置104、位置算出装置105、表示装置106、第1データベース140、放出装置126、検出器回収装置127、移動距離補正装置128を備えている。
【0099】
放出装置126は、放射線検出器移動装置104に搭載された放射線検出器101を放射線検出器移動装置104からさらに移動させるための装置である。放出装置126は、例えば、放射線検出器101を放射線検出器移動装置104から吊り落としたり、放射線検出器移動装置104から投てきしたりすることで、放射線検出器移動装置104ではアクセスできない領域に放射線検出器101を投入する。
【0100】
検出器回収装置127は、放射線検出器101と線量率計102とを接続する信号ケーブルや放射線検出器101に備えた引き戻し用ケーブルを巻き取ることで放射線検出器101を放射線検出器移動装置104まで回収するための装置である。
【0101】
移動距離補正装置128は、放出装置126による放射線検出器101の放出時のケーブル送り出し量および検出器回収装置127によるケーブル回収時のケーブルの巻き戻し量を測定する装置であり、放出装置126によって放出された放射線検出器101の位置情報を補正する。
【0102】
放射能分布解析装置103Bは、実施例1の放射能分布解析装置103とほぼ同じ機能を有している。更に、移動距離補正装置128で測定された放射線検出器101の回収の際の移動距離を用いて放射線検出器101の3次元位置情報を補正する。
【0103】
その他の構成・動作は前述した実施例1の放射能分布解析システム100と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0104】
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例4においても、前述した放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例1とほぼ同様な効果が得られる。
【0105】
また、放射線検出器101を放射線検出器移動装置104より放出するための放出装置126と、放出装置126によって放出された放射線検出器101を放射線検出器移動装置104まで回収する検出器回収装置127を備えたことにより、放射線検出器移動装置104でアクセスできないエリアに放射線検出器101を配置することできるため、より広範囲での線量率計測が可能となる。また、放射線検出器移動装置104まで放射線検出器101を回収することができる。これらの効果によって、狭隘部分や低所、高所箇所での線量率分布の計測を繰り返し実施することができ、より広範囲での高精度な放射能分布の解析を実現することができる。
【0106】
更に、放出装置126によって放出された放射線検出器101の移動距離を測定する移動距離補正装置128を備え、放射能分布解析装置103Bは、移動距離補正装置128で測定された放射線検出器101の移動距離を用いて放射線検出器101の3次元位置情報を補正することで、放射線検出器の位置情報を高精度に補正することができ、より高い精度で放射線検出器101の3次元位置座標を得ることができる。
【0107】
また、放出装置126は、放射線検出器101を放射線検出器移動装置104から吊り落とすもしくは投てきすることにより、簡易な機構によっても放射線検出器移動装置104でアクセスできないエリアに放射線検出器101を投入することできる。
【0108】
更に、検出器回収装置127は、放射線検出器101と線量率計102とを接続する信号ケーブルもしくは放射線検出器101に備えた引き戻し用ケーブルを用いて放射線検出器移動装置104まで放射線検出器101を回収することで、放射線検出器101の回収が容易になり、放射線検出器移動装置104の小型化が可能となり、より狭隘な部分へのアクセスが可能となる。
【0109】
<実施例5>
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例5を
図13および
図14を用いて説明する。
図13に本実施例の放射能分布解析システムの構成図を示す。
【0110】
図13に示す本実施例の放射能分布解析システム100Dは、複数の指数関数を用いて線量率分布をフィッティングし、2つ以上の減衰率から2つ以上の主要核種を解析(特定)するものである。
【0111】
放射能分布解析装置103Cは、複数の指数関数を用いて線量率分布をフィッティングし、2以上の減衰率μから2以上の主要核種を解析する。
【0112】
図14に複数のγ線エネルギー帯による線量率分布を示す。
【0113】
図14に示すように、異なるγ線エネルギー帯の線源が放射能分布に含まれる場合、線量率分布156は、放射能分布の近傍では低エネルギーγ線の寄与(線量率分布156Aの影響)、遠方では高エネルギーγ線の寄与(線量率分布156Bの影響)が見られる。ここで示した低エネルギーおよび高エネルギーは各々のγ線エネルギーに対する相対的な指標である。
【0114】
図14のように例えば2つの減衰率を有する線量率分布が観測された場合は、線量率分布156Aに対して指数関数でフィッティングを行い、同様に線量率分布156Bに対して先に用いたのとは異なる指数関数でフィッティングを行うことで、2つの減衰率を導出する。得られた減衰率に基づき、2つ以上の主要核種を解析する。
【0115】
その他の構成・動作は前述した実施例1の放射能分布解析システム100と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0116】
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例5においても、前述した放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例1とほぼ同様な効果が得られる。
【0117】
また、複数の指数関数を用いて線量率分布をフィッティングし、2以上の減衰率μから2以上の主要核種を解析することにより、高精度の主要核種の解析が可能となる。これによって、除染等の作業による被ばく低減に更に貢献することができるようになる。
【0118】
なお、ここでは2つの減衰率で説明したが、線量率分布がより複雑である場合は、3つ以上の指数関数を用いて3つ以上の減衰率を用いることができる。
【0119】
<実施例6>
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例6を
図15乃至
図18を用いて説明する。
図15に本実施例の放射能分布解析システムの構成図を示す。
【0120】
図15に示す本実施例の放射能分布解析システム100Eは、放射能分布の形状と線量率分布との関係を記憶した第2データベース145を備え、三角関数x=a・sinθよりb=a・cosθを導出することで、放射能分布堆積面における放射線検出器と放射能分布の端部との距離を導出するものである。
【0121】
図15に示すように、本実施例の放射能分布解析システム100Eは、放射線検出器101、線量率計102、放射能分布解析装置103D、放射線検出器移動装置104、位置算出装置105、表示装置106、第1データベース140に加えて、放射能分布の形状と線量率分布との関係を記憶する第2データベース145を備えている。
【0122】
放射能分布解析装置103Dは、実施例1の放射能分布解析装置103とほぼ同じ機能を有している。更に、放射能分布解析装置103Dは、第2データベース145に記憶された放射能分布の形状と線量率分布との関係も用いて放射能分布を解析する。
【0123】
図16に放射能分布と放射線検出器の位置関係の一例を示す。ここでは放射性物質の集まり132をブロック状の形状とする。この場合、線量率分布は、ブロック状の形状に特有のパターンを示す。そこで、本実施例では、放射能分布解析装置103Dは、指数関数や三角関数に加えて、第2データベース145に記憶された様々な放射能分布の形状と線量率分布との関係と得られた線量率分布との照合を行い、ブロック状の形状に特有のパターンであると特定し、その上で放射線検出器101と放射能分布の端との距離を解析する。
【0124】
図17に放射能分布と放射線検出器の位置関係の他の一例を示す。ここでは放射性物質の集まり133を三角状の形状とする。この場合、線量率分布は、三角状の形状に特有のパターンを示す。そこで、
図16に示すようなステップ状の形状による解析方法と同様に、放射能分布解析装置103Dは、指数関数や三角関数に加えて、第2データベース145に記憶された様々な放射能分布の形状と線量率分布との関係と得られた線量率分布との照合を行い、三角状の形状に特有のパターンであると特定し、その上で放射線検出器101と放射能分布の端との距離を解析する。
【0125】
図18に放射能分布と放射線検出器の位置関係の更に他の一例を示す。ここでは放射性物質の集まり134を半楕円状の形状とする。この場合、線量率分布は、半楕円状の形状に特有のパターンを示す。そこで、
図16や
図17の場合と同様に、放射能分布解析装置103Dは、指数関数や三角関数に加えて、第2データベース145に記憶された様々な放射能分布の形状と線量率分布との関係と得られた線量率分布との照合を行い、半楕円状の形状に特有のパターンであると特定し、その上で放射線検出器101と放射能分布の端との距離を解析する。
【0126】
その他の構成・動作は前述した実施例1の放射能分布解析システム100と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0127】
本発明の放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例6においても、前述した放射能分布解析システムおよび放射能分布解析方法の実施例1とほぼ同様な効果が得られる。
【0128】
また、複数の放射能分布の形状と線量分布との関係を予め記憶する第2データベース145を設けることで、放射能分布をより高精度かつ速やかに解析することができる。
【0129】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。