【実施例1】
【0020】
本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性核種除去システムを、
図1、
図2、
図3および
図4を用いて説明する。
【0021】
本実施例の放射性核種除去システム1は、寿命予測システム2、放射線検出器14、放射線検出信号処理装置15、pH計16および17、流量計18および吸着塔(吸着装置)19を備えている(
図1参照)。吸着塔19内には、多数の吸着剤が充填された吸着剤層20が形成されている。吸着剤層20を形成する吸着剤は、キレート樹脂、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂、またはストロンチウムを吸着するチタンケイ酸塩化合物である。本実施例では、吸着剤層20を形成する吸着剤としてチタンケイ酸塩化合物が用いられる。なお、ストロンチウムの吸着剤としては、チタンケイ酸塩化合物、ゼオライト(特に、A型ゼオライトまたはX型ゼオライト)およびアンチモン酸のいずれかを用いる。
【0022】
廃液タンク(図示せず)に接続された放射性廃液供給管21が、吸着塔19の入口に接続される。廃液排出管22が吸着塔19の出口に接続される。pH計(第2pH測定装置)16および流量計18が、放射性廃液供給管21に設置され、寿命予測システム2に接続される。放射線検出器14が、放射性廃液供給管21に面して配置され、放射線検出信号処理装置15に接続される。放射線検出信号処理装置15は、寿命予測システム2に接続される。pH計(第1pH測定装置)17が、廃液排出管22に設置され、寿命予測システム2に接続される。
【0023】
寿命予測システム2および放射線検出信号処理装置15は、吸着塔19が配置された領域ではなく、この領域から離れた別の建屋内に配置してもよい。この場合には、寿命予測システム2はネットワークを介してpH計16および17、および流量計18にそれぞれ接続される。放射線検出信号処理装置15は別のネットワークを介して放射線検出器14に接続される。
【0024】
寿命予測システム2は、
図2に示すように、メモリであるデータベース3、警報出力装置(破過判定装置)4、寿命予測装置10および表示装置13を有する。放射線検出信号処理装置15、pH計16および17および流量計18は、具体的には、寿命予測システム2のメモリであるデータベース3に接続される。警報出力装置4および寿命予測装置10は、データベース3に接続される。表示装置13は、警報出力装置4および寿命予測装置10に接続される。
【0025】
警報出力装置4は、
図3に示すように、警報生成装置5および放射性核種濃度算出装置9を有し、警報生成装置5はpH判定装置6、放射性核種濃度判定装置7および警報発生装置8を含んでいる。pH判定装置6は、データベース3に接続されてステップS1の処理を実行する情報入力インターフェース(図示せず)に接続される。pH判定装置6および放射性核種濃度判定装置7は、警報発生装置8に接続される。放射性核種濃度算出装置9は、pH判定装置6および放射性核種濃度判定装置7に接続される。
【0026】
寿命予測装置10は、
図4に示すように、吸着塔余力算出装置11および吸着塔寿命予測装置12を含んでいる。吸着塔余力算出装置11は、データベース3および吸着塔寿命予測装置12に接続される。
【0027】
図示されていないが、複数の吸着塔19は、並列に配置され、それぞれの吸着塔4の入口側に、放射性廃液供給管21が分岐して接続される。それぞれの吸着塔19の出口側には、廃液排出管22が分岐して接続される。放射性廃液供給管21の各分岐部および廃液排出管22の各分岐部には、各吸着塔19に対応して開閉弁(図示せず)がそれぞれ設けられる。これらの吸着塔19の一部は、吸着性能が低下した或る吸着塔19の交換用として待機状態にある。
【0028】
放射性核種除去システム1を用いた放射性核種の除去方法を以下に説明する。
【0029】
原子力プラントにおいて発生した放射性廃液が、前述の廃液タンクに貯蔵されている。廃液タンク内の、放射性核種(例えば、Sr−90)を含む放射性廃液が、放射性廃液供給管21を通して複数の吸着塔19の一部に供給される。残りの吸着塔19は、前述したように、待機状態にあり、待機状態の吸着塔19には放射性廃液が供給されない。放射性廃液が吸着塔19内の吸着剤層20を通過するとき、放射性廃液に含まれる放射性核種が、吸着剤層20内の吸着剤に吸着されて除去される。放射性核種が除去されて吸着塔19から排出された廃液は、廃液排出管22を通して廃液貯蔵タンク(図示せず)に導かれ、この廃液貯蔵タンクに保管される。
【0030】
吸着塔19に導かれるために放射性廃液供給管21を流れる放射性廃液のpHおよび流量が、pH計16および流量計18でそれぞれ測定される。pH計16で測定された、吸着塔19に供給される放射性廃液のpH(pH
in)および流量計18で測定されたその放射性廃液の流量Q
nは、寿命予測システム2のデータベース3に入力されて格納される。放射性廃液供給管21を流れる放射性廃液から放出される放射線が放射線検出器14で検出される。この放射線の検出により放射線検出器14から出力された放射線検出信号は、放射線検出信号処理装置15に入力される。放射線検出信号処理装置15は、その放射線検出信号に基づいて吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0を求める。具体的には、放射線検出信号処理装置15は、入力した放射線検出信号のエネルギー(放射線検出器14に入力した放射線のエネルギー)ごとに放射線検出信号をカウントし、放射線エネルギースペクトル情報を作成する。この放射線エネルギースペクトル情報は、放射線エネルギー(横軸)および計数値(縦軸)で示される情報であり、放射性核種で特定される放射線エネルギーに対応する計数値のピークの情報を含んでいる。放射線検出信号処理装置15は、この放射線エネルギースペクトル情報に基づいて、計数値のピークの位置での放射線エネルギーにより放射性核種を特定し、そのピークの計数値に基づいて特定された放射性核種の濃度C
0を求める。放射線検出信号処理装置15で求められた放射性核種濃度C
0は、データベース3に入力されて格納される。吸着塔19から廃液排出管22に排出された廃液のpH(pH
out)が、pH計17によって測定される。pH計17で測定された廃液のpHも、データベース3に入力されて格納される。データベース3に格納される放射性核種濃度、pHおよび流量の各データは、測定日時および測定場所などの情報と対応付けて格納される。
【0031】
放射線検出器14による、吸着塔19に供給される放射性廃液から放出される放射線の検出、および放射線検出器14から出力された放射線検出信号に基づいた、放射線検出信号処理装置15による放射性核種の特定およびこの放射性核種の濃度C
0の算出は、吸着塔19に供給される放射性廃液の水質が変化するとき、特に、吸着塔19に供給される放射性廃液が貯蔵された廃液タンクを変更するときに、少なくとも実施するとよい。
【0032】
放射線検出器14を放射性廃液供給管21に面して配置しないで、吸着塔19に供給する放射性廃液の一部を放射性廃液供給管21からサンプリングし、サンプリングした放射性核種を含む放射性廃液から放出される放射線を放射線検出器で検出してもよい。このとき、放射線検出器から出力される放射線検出信号を入力する放射線検出信号処理装置15が、その放射線検出信号に基づいてサンプリングした放射性廃液の放射性核種濃度C
0、すなわち、吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0を求める。得られた放射性廃液の放射性核種濃度C
0がデータベース3に格納される。なお、放射性廃液供給管21からの放射性廃液のサンプリングは、定期的に行われる。
【0033】
警報出力装置4および寿命予測装置10におけるそれぞれの情報処理について説明する。
【0034】
まず、警報出力装置4における情報処理を、
図3に基づいて説明する。情報を入力する(ステップS1)。警報出力装置4は、或る時間t
nにおける、吸着塔19に供給される放射性廃液のpHであるpH
in(pH計16で測定)、或る時間t
nにおいて吸着塔19から排出される廃液のpHであるpH
out(pH計17で測定)、吸着塔19への放射性廃液の供給開始直後(t
0=0)において吸着塔19から排出される廃液のpHであるpH
out0(pH計17で測定)、吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0、および設定された放射性核種濃度の閾値C
Limitの各データが、データベース3から入力される。なお、放射性核種濃度の閾値C
Limitは、オペレータにより入力装置(例えば、キーボード)によりデータベース3に入力される。
【0035】
警報出力装置4の警報生成装置5ではステップS2,S7およびS8の各処理が実施される。吸着塔の出口側での廃液のpHが、吸着塔の入口側での放射性廃液のpH以下であるかが判定される(ステップS2)。吸着塔19の出口側での廃液のpHであるpH
outが、吸着塔19の入口側での放射性廃液のpHであるpH
in以下であるかを、pH判定装置6が判定する。pH
in≧pH
outを満足するとき、すなわち、ステップS2の判定が「Yes」であるとき、放射性核種が吸着剤層20を破過しており、pH判定装置6が判定信号「Yes」を出力する。
【0036】
吸着剤層20を形成する、ストロンチウムを吸着する吸着剤(例えば、チタンケイ酸塩化合物)がストロンチウムを吸着する原理は、その吸着剤の吸着サイトに保持されている陽イオンを、吸着塔19に供給される放射性廃液に含まれるストロンチウムと交換するイオン交換である。このため、吸着剤に保持される陽イオンの量が減少すると、その陽イオンとストロンチウムとの交換が十分に行われなくなり、吸着剤層20から排出される廃液のストロンチウム濃度が増加する。このとき、同時に、吸着剤は吸着塔19に供給される放射性廃液に含まれる水素イオンと吸着剤に保持される陽イオンを交換しており、吸着剤に保持されている陽イオン量が減少すると、ストロンチウムと同様に、水素イオンと吸着剤に保持されている陽イオンとの交換も十分に行われなくなる。したがって、pH
in≧pH
outを満足するとき、吸着剤層20において放射性核種の破過が生じている。
【0037】
警報情報が出力される(ステップS3)。pH判定装置6から判定信号「Yes」を入力した警報発生装置8は、警報情報を生成し、この警報情報を出力する。警報発生装置8から出力された警報情報は、表示装置13に出力され、表示装置13に表示される。また、警報発生装置8から出力された警報情報は、警報機(図示せず)に入力され、警報機を作動させて警報音を発生させる。
【0038】
吸着塔から排出された廃液の放射性核種濃度が放射性核種濃度の閾値よりも大きいかが判定される(ステップS7)。後述するように、放射性核種濃度算出装置9においてステップS6で算出された放射性核種濃度Cが、前述のステップS1で入力した放射性核種濃度の閾値C
Limitよりも大きいかを、放射性核種濃度判定装置7が判定する。C>C
Limitを満足するとき、すなわち、ステップS7の判定が「Yes」であるとき、放射性核種が吸着剤層20を破過しており、放射性核種濃度判定装置7が判定信号「Yes」を出力する。放射性核種濃度判定装置7から判定信号「Yes」を入力した警報発生装置8は、pH判定装置6から判定信号「Yes」を入力したときと同様に、警報情報を生成し、この警報情報を出力する。なお、放射性核種濃度判定装置7におけるステップS7の判定は、後で詳細に説明するように、ステップS2の判定が「No」であるときに行われる。
【0039】
警報出力装置4の放射性核種濃度算出装置9では、ステップS4,S5およびS6の各処理が実施される。吸着塔への放射性廃液の供給開始直後(t
0=0)において吸着塔から排出される廃液のpHと或る時間t
nにおいて吸着塔から排出される廃液のpHとの差ΔpHを求める(ステップS4)。放射性核種濃度算出装置9は、吸着塔19への放射性廃液の供給開始直後(t
0=0)において吸着塔19から排出される廃液のpHであるpH
out0(第1pH)と或る時間(t
n)において吸着塔19から排出される廃液のpHであるpH
out(第2pH)との差ΔpHを、下記の式(1)を用いて求める。
【0040】
ΔpH=pH
out0−pH
out …(1)
放射性核種濃度比C/C
0を求める(ステップS5)。放射性核種濃度算出装置9は、
図5に示された差ΔpHと放射性核種濃度比C/C
0(第1放射性核種濃度比)の直線の関係から得られた下記の式(2)を用いて放射性核種濃度比C/C
0を求める。すなわち、放射性核種濃度比C/C
0は、ステップS4の工程で求められた差ΔpHを式(2)に代入することによって求められる。
【0041】
C/C
0=a×ΔpH+b …(2)
ここで、aおよびbはそれぞれ定数である。
【0042】
図5に示された差ΔpHと放射性核種濃度比C/C
0の関係は、発明者らが実施した実験によって得られた。この実験の概略を説明する。Cl濃度を6500ppmに希釈した模擬海水にSr−85を添加し、pH3.5に調整することにより模擬汚染水(模擬放射性廃液)を作製した。この模擬汚染水を、ストロンチウムの吸着剤5mLを充填した、直径約1cmのカラムに供給した。このカラムへの模擬汚染水の供給は、SV15h
−1とした。カラムに供給する模擬汚染水のpHおよびカラムから排出された水のpHをそれぞれ測定した。さらに、カラムから排出された水のストロンチウム濃度も合わせて測定した。カラムに供給される模擬汚染水のストロンチウム濃度は、模擬海水に添加されるSr−85の添加量によって決まる。
【0043】
発明者らは、測定された各pHおよびストロンチウム濃度を整理することにより
図5に示す差ΔpHと放射性核種濃度比C/C
0の関係を得ることができた。
図5において、横軸の差ΔpH、はカラムへの模擬汚染水供給開始直後におけるカラムから排出された水のpH(9.82)とそれ以降におけるカラムから排出された水のpHの差分であり、縦軸の放射性核種濃度比C/C
0は、カラムに供給される模擬汚染水のストロンチウム濃度C
0に対するカラムから排出された水のストロンチウム濃度Cの比である。得られた
図5に示された特性に基づいて、差ΔpHと放射性核種濃度比C/C
0の間には相関関係があり、差ΔpHを算出することで、カラム(吸着塔)によるストロンチウムの除去量を把握できることを明らかにした。
【0044】
前述したように、吸着剤に保持されている陽イオン量が減少すると、ストロンチウムと同様に、水素イオンと吸着剤に保持されている陽イオンとの交換も十分に行われなくなる。このため、吸着塔19から排出される廃液のpHが、放射性廃液の吸着塔19への供給を開始した直後から低下するので、差ΔpHと放射性核種濃度比C/C
0の相関関係が、
図5に示すようになる。
【0045】
吸着塔から排出される廃液の放射性核種濃度を求める(ステップS6)。放射性核種濃度算出装置9は、放射線検出信号処理装置15で求められた吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0にステップ5で求めた放射性核種濃度比C/C
0を掛けることによって、吸着塔19から排出される廃液の放射性核種濃度Cを求める。
【0046】
放射性核種濃度算出装置9によるステップS6の工程での演算によって求められた放射性核種濃度Cが、警報生成装置5の放射性核種濃度判定装置7に入力される。放射性核種濃度判定装置7は、前述したように、ステップS7の工程において、入力した放射性核種濃度Cを用いてC>C
Limitを満足するかを判定する。C>C
Limitを満足するとき、前述したように、警報発生装置8は、放射性核種濃度判定装置7から判定信号「Yes」を入力して警報情報を生成し、この警報情報を出力する。
【0047】
C>C
Limitを満足しないとき、すなわち、ステップS7の判定が「No」になったとき、ステップS1の処理が実行され、データベース3から警報出力装置4に、新たなpH
in,pH
out,pH
out0,放射性廃液の放射性核種濃度C
0および放射性核種濃度の閾値C
Limitの各データが入力される。そして、前述したように、ステップS2〜S7の各工程の処理が繰り返される。
【0048】
寿命予測装置10における情報処理を、
図4に基づいて説明する。寿命予測装置10の吸着塔余力算出装置11はステップS8ないしS14の各処理を実行し、寿命予測装置10の吸着塔寿命予測装置12はステップS15の処理を実行する。
【0049】
情報を入力する(ステップS8)。吸着塔余力算出装置11は、或る時間t
nにおけるpH
in、或る時刻(t
n)におけるpH
out、pH
out0、吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0、放射性核種濃度の閾値C
Limit、時間データt
n、および或る時間t
nにおける、吸着塔19に供給される放射性廃液の流量Q
nの各データをデータベース3から入力する。
【0050】
吸着塔への放射性廃液の供給開始直後(t
0=0)において吸着塔から排出される廃液のpHと或る時間t
nにおいて吸着塔から排出される廃液のpHとの差ΔpHを求める(ステップS9)。吸着塔余力算出装置11は、ステップS4と同様に、式(1)を用いて差ΔpHを求める。
【0051】
放射性核種濃度比C/C
0を求める(ステップS10)。吸着塔余力算出装置11は、ステップS5と同様に、式(2)を用いて放射性核種濃度比C/C
0(第1放射性核種濃度比)を求める。
【0052】
放射性核種濃度比C
Limit/C
0を求める(ステップS11)。吸着塔余力算出装置11は、ステップS8で入力した放射性核種濃度の閾値C
Limitを、放射線検出信号処理装置15で求められた吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0で割って放射性核種濃度比C
Limit/C
0(第2放射性核種濃度比)を求める。
【0053】
放射性廃液の処理量V
nを求める(ステップS12)。吸着塔余力算出装置11は、ステップS8で入力した吸着塔19に供給される放射性廃液の流量Q
nを下記の式(3)に代入し、吸着塔19への放射性廃液の供給開始時t
0から或る時間t
nまでの期間における吸着塔19による放射性廃液の処理量V
nを求める。
【0054】
【数1】
【0055】
なお、時間t
0から時間t
nまでの間の時間t
n1の時点で、時間t
0から時間t
n1までの期間における吸着塔19による放射性廃液の処理量V
n1を求め、この処理量V
n1をメモリに記憶している場合には、時間t
n1から時間t
nまでの期間における吸着塔19による放射性廃液の処理量V
n2を求め、処理量V
n1に処理量V
n1を加えて時間t
0から時間t
nまでの期間における処理量V
nを求めてもよい。
【0056】
最大処理量V
Limitを求める(ステップS13)。吸着塔余力算出装置11は、ステップS10で求めた放射性核種濃度比C/C
0,ステップS11で求めた放射性核種濃度比C
Limit/C
0およびステップS12で求めた放射性廃液の処理量V
nを下記の式(4)に代入し、吸着塔19の最大処理量V
Limitを求める。
【0057】
V
Limit=V
n×(C
Limit/C
0)/(C/C
0) …(4)
吸着塔の余力Vを求める(ステップS14)。吸着塔余力算出装置11は、ステップS13で求めた最大処理量V
LimitおよびステップS12で求めた放射性廃液の処理量V
nを下記の式(5)に代入し、或る時間t
nにおける吸着塔19の余力Vを求める。
【0058】
V=V
Limit−V
n …(5)
吸着塔19の余力Vとは、吸着塔19の、放射性核種を吸着する余力のことである。
【0059】
求められた吸着塔19の余力Vが、表示装置13に出力され、表示装置13に表示される。以上により、吸着塔余力算出装置11における処理が終了する。そして、吸着塔寿命予測装置12によるステップS15の処理が実施される。
【0060】
吸着塔の寿命を予測する(ステップS15)。吸着塔寿命予測装置12は、ステップS8で入力した吸着塔19に供給される放射性廃液の流量Q
nおよびステップS14で求めた吸着塔19の余力Vを予測式である式(6)に代入し、吸着塔19の寿命t
Limitを求める。
【0061】
t
Limit=V/Q
n …(6)
求められた吸着塔19の寿命t
Limitが、表示装置13に出力され、表示装置13に表示される。以上により、寿命予測装置10における処理が終了する。
【0062】
寿命予測装置10におけるステップS8ないしS15の各処理が、周期的に繰り返される。
【0063】
本実施例では、ステップS2の判定結果およびステップS7の判定結果のうちの少なくとも一つの判定結果が「Yes」になって警報情報が出力されたとき、破過した吸着塔19の入口側および出口側の前述の各分岐部に設けられた開閉弁が閉じられ、この吸着塔19への放射性廃液の供給が停止される。
【0064】
その後、待機状態にある別の吸着塔19の入口側および出口側の前述の各分岐部に設けられた開閉弁が開けられてこの吸着塔19に放射性廃液が供給され、供給される放射性廃液に含まれる放射性核種がその吸着塔19の吸着剤層20内の吸着剤に吸着されて放射性廃液から除去される。以上のように、破過した吸着塔19が待機状態にある吸着性能が高い吸着塔19に交換され、放射性廃液に含まれる放射性核種の除去が後者の吸着塔19によって継続される。なお、破過した吸着塔19が放射性廃液供給管21の分岐部および廃液排出管22の分岐部から取り外され、吸着剤が充填された新しい吸着塔19が放射性廃液供給管21の分岐部および廃液排出管22の分岐部に接続される。この新しい吸着塔19に対しても、前述したステップS1〜S15の各処理が適用される。
【0065】
破過した吸着塔19を放射性廃液供給管21の分岐部および廃液排出管22の分岐部から取り外す代わりに、この破過した吸着塔19内の吸着剤をその吸着塔19から取り出し、新しい吸着剤をこの吸着塔19内に充填してもよい。
【0066】
本実施例では、pH計17で測定されたpHを用いて吸着塔19の破過を判定している。しかしながら、pH計17が故障するなどの不測の事態がpH計17に生じた場合には、吸着塔19の破過を把握することができなくなる。このため、吸着塔19の破過を常に把握できるように、pH計17のバックアップとして、図示されていないが、別の放射線検出器を、廃液排出管22に面して配置するとよい。廃液排出管22に面している放射線検出器から出力された放射線検出信号を入力する放射線検出信号処理装置15が、吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0を求める場合と同様に、その放射線検出信号に基づいて吸着塔19から排出される廃液の放射性核種濃度を求める。求められた放射性核種濃度が設定濃度を超えたとき、吸着塔19が破過していると判定する。
【0067】
本実施例によれば、pH計17により測定された、吸着塔19への放射性廃液の供給開始直後に吸着塔19から排出される廃液のpH
out0と或る時間経過後にpH計17により測定された、吸着塔19から排出される廃液のpH
outとの差分ΔpH、および放射性廃液の流量に基づいて、寿命予測装置10により吸着塔19の、放射性核種を吸着する余力Vを求め、吸着塔19の余力Vを用いて吸着塔19の寿命t
Limitを予測するので、吸着塔19の寿命を精度良く予測することができる。この結果、吸着塔19を交換する時期を的確に知ることができる。
【0068】
吸着塔19の余力Vを、差分ΔpHに基づいて求められた放射性核種濃度比C/C
0、放射性核種濃度の閾値C
Limit、および吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0に基づいて求められる放射性核種濃度比C
Limit/C
0および吸着塔19による放射性廃液の処理量V
nを用いて求められる吸着塔19による放射性廃液の最大処理量V
Limitに基づいて求めるので、吸着塔19の余力Vを精度良く求めることができる。このような吸着塔19の余力Vは、吸着塔19の寿命予測の精度向上に大きく貢献する。
【0069】
本実施例では、吸着塔19から排出された廃液のpH(pH
out)が吸着塔19に供給される放射性廃液のpH(pH
in)以下になったときに、吸着塔19内の吸着剤層20において放射性核種(例えば、ストロンチウム)が破過したと判定するので、吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度が変化した場合でも、吸着剤層20の破過を把握することができる。また、放射性核種濃度よりも測定が容易なpHを用いて早期に吸着剤の破過を把握することができる。
【0070】
さらに、本実施例では、pH
in≧pH
outを満足しないとき、すなわち、pH
outがpH
inよりも大きいとき、吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性物質濃度Cを求め、この放射性物質濃度Cが放射性核種濃度の閾値C
Limitよりも大きいときに吸着剤層20が破過していると判定する。このため、pH
in≧pH
outを満足しないときでも、吸着剤層20の破過を把握することができる。このため、吸着剤層20の破過を把握する精度が向上する。
【0071】
本実施例では、吸着塔19から排出された廃液のpH(pH
out)が吸着塔19に供給される放射性廃液のpH(pH
in)以下になったとき、吸着剤層20の破過を把握することができるので、ステップS4〜S7の各処理を実施する必要がなくなる。
【0072】
本実施例では、pH
outがpH
in以下であるかの判定(ステップS2の判定)または放射性物質濃度Cが放射性核種濃度の閾値C
Limitよりも大きいかの判定(ステップS7の判定)によって吸着塔19の破過を知ることができるので、吸着塔19の破過を精度良く把握することができる。
【0073】
本実施例では、ストロンチウムを吸着する吸着剤を充填した吸着塔19を記載しているが、放射性廃液に含まれる他の放射性核種を除去するためは、この放射性核種を吸着する吸着剤を充填した別の吸着塔が必要になる。このため、放射性廃液に含まれる複数種類の放射性核種の除去は、それぞれの放射性核種を吸着可能な吸着剤が充填された別々の吸着塔を直列に配置し、直列に配置されたそれらの吸着塔に複数種類の放射性核種を含む放射性廃液を順次供給するとよい。
【実施例2】
【0074】
本発明の好適な他の実施例である実施例2の放射性核種除去システムを、
図6および
図7を用いて説明する。
【0075】
本実施例の放射性核種除去システムは、実施例1の放射性核種除去システム1において寿命予測システム2の警報出力装置4を警報出力装置4Aに替え、寿命予測システム2の寿命予測装置10を寿命予測装置10Aに替えた構成を有する。本実施例の放射性核種除去システムの他の構成は、実施例1の放射性核種除去システム1と同じである。
【0076】
警報出力装置(破過判定装置)4Aは、警報出力装置4において放射性核種濃度算出装置9を放射性核種濃度算出装置9Aに替えた構成を有する。警報出力装置4Aの他の構成は警報出力装置4と同じである。また、寿命予測装置10Aは、寿命予測装置10の吸着塔余力算出装置11を吸着塔余力算出装置11Aに替えた構成を有する。寿命予測装置10Aの他の構成は寿命予測装置10と同じである。
【0077】
実施例1は、吸着塔19への放射性廃液の供給開始直後(t
0=0)において吸着塔19から排出される廃液のpHと或る時間t
nにおいて吸着塔19から排出される廃液のpHとの差ΔpHを求め、差ΔpHから吸着塔19の寿命を予測する。これに対して、本実施例は吸着塔19に供給される放射性廃液のpH(pH
in)および吸着塔19から排出される廃液のpH(pH
out)に基づいて水素イオン量(H)を算出し、水素イオン量から吸着塔19の寿命を予測する。
【0078】
本実施例の放射性核種除去システムを用いた放射性核種の除去方法を以下に説明する。
【0079】
実施例1と同様に、pH計16で測定された放射性廃液のpH(pH
in)、流量計18で測定された放射性廃液の流量、放射性廃液供給管21を流れる放射性廃液が放出する放射線を入射する放射線検出器14から出力された放射線検出信号に基づいて放射線検出信号処理装置15で求められた放射性廃液の放射性核種濃度C
0、および吸着塔19から廃液排出管22に排出された廃液のpH(pH
out)が、測定日時および測定場所などの情報と対応付けてデータベース3に格納される。
【0080】
警報出力装置4Aでは、情報の入力(ステップS8)が実施される。この情報の入力は、実施例1におけるステップS8と同様に、或る時間t
nにおけるpH
in、或る時刻(t
n)におけるpH
out、pH
out0、吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0、放射性核種濃度の閾値C
Limit、時間データt
n、および或る時間t
nにおける、吸着塔19に供給される放射性廃液の流量Q
nの各データがデータベース3から入力される。
【0081】
警報出力装置4Aでは、警報生成装置5のpH判定装置6において前述のステップS2の判定が実施され、pH
in≧pH
outを満足するときに、警報生成装置5の警報発生装置8において前述のステップS3が実施されて警報情報が出力される。
【0082】
pH判定装置6で実施されるステップS2の判定が「No」であるとき、放射性核種濃度算出装置9AにおいてステップS16,S5AおよびS6の各処理が実施される。
【0083】
水素イオン量を求める(ステップS16)。放射性核種濃度算出装置9Aは、吸着塔19への放射性廃液の供給を開始した直後(t
0=0)から或る時間(t
n)までの期間において吸着塔19内の吸着剤層20の吸着剤に吸着された水素イオン量H
nを、下記の式(7)にステップS8で入力したpH
in、pH
outおよび流量Q
nの各データを代入して求める。
【0084】
【数2】
【0085】
放射性核種濃度比C/C
0を求める(ステップS5A)。放射性核種濃度算出装置9Aは、
図8に示された水素イオン量H
nと放射性核種濃度比C/C
0の直線の関係から得られた下記の式(2)を用いて放射性核種濃度比C/C
0を求める。すなわち、放射性核種濃度比C/C
0は、ステップS4の工程で求められた差ΔpHを式(8)に代入することによって求められる。
【0086】
C/C
0=c×H
n+d …(8)
ここで、cおよびdは定数である。
【0087】
図8に示された水素イオン量Hと放射性核種濃度比C/C
0の関係も、発明者らが実施した実験によって得られた。この実験は、
図5に示された差ΔpHと放射性核種濃度比C/C
0の関係を得た実験と同様に行われた。模擬汚染水(模擬放射性廃液)は、Cl濃度を6500ppmに希釈した模擬海水にSr−85を添加し、pH3.5に調整することにより作製した。この模擬汚染水を、
図5に示された結果を得た実験と同様に、ストロンチウムの吸着剤5mLを充填した前述のカラムに、SV15h
−1で供給した。このカラムへの模擬汚染水の供給は、SV15h
−1とした。発明者らは、模擬汚染水が供給されるカラム内の吸着剤に吸着される水素イオン量Hと放射性核種濃度比C/C
0の関係を整理し、
図8に示された結果を得ることができた。結果として、横軸を水素イオン量Hとした場合には、横軸をΔpHとした場合よりも放射性核種濃度比C/C
0との相関係数が高いことが確認された。
図8に示された結果に基づいて、上記の式(8)を得ることができた。
【0088】
吸着塔から排出される廃液の放射性核種濃度を求める(ステップS6)。放射性核種濃度算出装置9Aは、放射線検出信号処理装置15で求められた吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0にステップ5Aで求めた放射性核種濃度比C/C
0を掛けることによって、吸着塔19から排出される廃液の放射性核種濃度Cを求める。
【0089】
吸着塔から排出された廃液の放射性核種濃度が放射性核種濃度の閾値よりも大きいかが判定される(ステップS7)。放射性核種濃度判定装置7は、放射性核種濃度算出装置9Aから入力した廃液の放射性核種濃度Cが前述のステップS8で入力した放射性核種濃度の閾値C
Limitがよりも大きいかを判定する。C>C
Limitを満足するとき、放射性核種濃度判定装置7が判定信号「Yes」を警報発生装置8に出力する。警報発生装置8は、その判定信号「Yes」を入力したとき、警報情報を出力する。
【0090】
C>C
Limitを満足しないとき、ステップS8の処理が実行され、データベース3から警報出力装置4に、新たなpH
in,pH
out,pH
out0,放射性廃液の放射性核種濃度C
0および放射性核種濃度の閾値C
Limitの各データが入力される。そして、前述したように、ステップS2、S16,S5〜S7の各工程の処理が繰り返される。
【0091】
寿命予測装置10における情報処理を、
図7に基づいて説明する。寿命予測装置10Aの吸着塔余力算出装置11AはステップS8,S17およびS10ないしS14の各処理を実行し、寿命予測装置10Aの吸着塔寿命予測装置12はステップS15の処理を実行する。
【0092】
情報を入力する(ステップS8)。吸着塔余力算出装置11Aは、警報出力装置4Aで実施されるステップS8と同様に、或る時間t
nにおけるpH
in、或る時刻(t
n)におけるpH
out、pH
out0、吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0、放射性核種濃度の閾値C
Limit、時間データt
n、および或る時間t
nにおける、吸着塔19に供給される放射性廃液の流量Q
nの各データをデータベース3から入力する。
【0093】
水素イオン量を求める(ステップS17)。吸着塔余力算出装置11Aは、放射性核種濃度算出装置9Aで実施されたステップS16と同様に、式(7)を用いて吸着塔19内の吸着剤層20の吸着剤に吸着された水素イオン量H
nを求める。
【0094】
放射性核種濃度比C/C
0を求める(ステップS10)。吸着塔余力算出装置11Aは、放射性核種濃度算出装置9Aで実施されたステップS5Aと同様に、式(8)を用いて放射性核種濃度比C/C
0を求める。
【0095】
放射性核種濃度比C
Limit/C
0を求める(ステップS11)。吸着塔余力算出装置11Aは、吸着塔余力算出装置11で実施されるステップS11と同様に、放射性核種濃度比C
Limit/C
0を求める。放射性廃液の処理量V
nを求める(ステップS12)。吸着塔余力算出装置11Aは、吸着塔余力算出装置11で実施されるステップS12と同様に、放射性廃液の処理量V
nを求める。最大処理量V
Limitを求める(ステップS13)。吸着塔余力算出装置11Aは、吸着塔余力算出装置11で実施されるステップS13と同様に、最大処理量V
Limitを求める。吸着塔の余力Vを求める(ステップS14)。吸着塔余力算出装置11Aは、吸着塔余力算出装置11で実施されるステップS14と同様に、吸着塔の余力Vを求める。求められた吸着塔19の余力Vが、表示装置13に表示される。以上により、吸着塔余力算出装置11Aにおける処理が終了する。
【0096】
そして、寿命予測装置10Aの吸着塔寿命予測装置12によるステップS15の処理が実施される。吸着塔の寿命を予測する(ステップS15)。この吸着塔寿命予測装置12は、寿命予測装置10の吸着塔寿命予測装置12で実施されるステップS15と同様に、吸着塔19の寿命t
Limitを求める。求められた吸着塔19の寿命t
Limitが表示装置13に表示される。以上により、寿命予測装置10Aにおける処理が終了する。
【0097】
寿命予測装置10AにおけるステップS8,S17およびS10ないしS14の各処理が、周期的に繰り返される。
【0098】
本実施例は、吸着塔19の寿命予測に関する効果を除いて、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例によれば、pH計16により測定された、吸着塔19に供給される放射性廃液のpH
in、pH計17により測定された、吸着塔19から排出される廃液のpH
out、および放射性廃液の流量に基づいて、寿命予測装置10により、吸着塔19内の吸着剤に吸着された水素イオン量H
nを求め、この水素イオン量H
nおよび放射性廃液の流量に基づいて、吸着塔19の、放射性核種を吸着する余力Vを求め、吸着塔19の余力Vを用いて吸着塔19の寿命t
Limitを予測するので、吸着塔19の寿命を精度良く予測することができる。この結果、吸着塔19を交換する時期を的確に知ることができる。
【0099】
吸着塔19の余力Vを、水素イオン量H
nに基づいて求められた放射性核種濃度比C/C
0、放射性核種濃度の閾値C
Limit、および吸着塔19に供給される放射性廃液の放射性核種濃度C
0に基づいて求められる放射性核種濃度比C
Limit/C
0および吸着塔19による放射性廃液の処理量V
nを用いて求められる吸着塔19による放射性廃液の最大処理量V
Limitに基づいて求めるので、吸着塔19の余力Vを精度良く求めることができる。このような吸着塔19の余力Vは、吸着塔19の寿命予測の精度向上に大きく貢献する。特に、放射性核種濃度比C/C
0との相関係数がΔpHよりも高い水素イオン量を用いて放射性核種濃度比C/C
0を求めているので、ΔpHを用いて放射性核種濃度比C/C
0を求める場合に比べて最大処理量V
Limitをより精度良く求めることができ、この最大処理量V
Limitを用いて求められる吸着塔19の余力Vの精度も向上する。このため、吸着塔19の余力Vを用いて予測される吸着塔19の寿命t
Limitの精度もさらに向上する。