(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本実施形態に係るNMR装置について説明する。
図1には、そのNMR装置10が示されている。NMR装置10は、試料中の観測核によって生じたNMR信号を測定する装置である。
【0027】
静磁場発生装置12は静磁場を発生する装置であり、その中央部には、垂直方向に伸びる空洞部としてのボア14が形成されている。NMRプローブ16は、大別して、挿入部18と基部20とによって構成されている。挿入部18は、それ全体として垂直方向に伸長した円筒形状を有し、静磁場発生装置12のボア14内に挿入される。
【0028】
挿入部18におけるプローブヘッド内には検出回路22が設けられている。検出回路22は同調整合回路であり、NMR信号を検出するための検出コイル24、送受信用の結合コイル26、同調用可変コンデンサ、及び、整合用可変コンデンサ等の電子部品を備えている。結合コイル26は、ピックアップコイルや送受信コイルとも称され、照射時間帯(送信期間)において変動磁場を発生させ、観測時間帯(受信期間)において、検出コイル24によって検出されたNMR信号を受信する。同調用可変コンデンサ及び整合用可変コンデンサの各設定値(容量)を変えることにより、検出回路22の特性が最適化される。つまり、同調及び整合が図られる。なお、結合コイル26が用いられず、結線によって検出コイル24による送受信が行われてもよい。
【0029】
分光計28の送信部30は、信号発生器及びパワーアンプ等を備えており、送信信号を生成して出力する。NMR測定モードにおいては、観測対象各種の固有周波数が送信信号の周波数として設定される。送信部30から出力された送信信号は、送受切替器であるデュプレクサ32を介してNMRプローブ16内の検出回路22に送られる。なお、デュプレクサ32は、NMRプローブ16内に配置されてもよい。
【0030】
検出コイル24で検出されたNMR信号(受信信号)は、デュプレクサ32を介して分光計28の受信部34に送られる。受信部34は、直交検波回路やA/D変換器等を含む公知の回路構成を有し、受信信号に対して所定の処理を行う。受信部34で処理された受信信号は、スペクトル処理部36に送られる。スペクトル処理部36は、受信信号に対してFFT処理を実行することにより分光スペクトルを生成し、またそれに対して必要な解析等を実行する。スペクトル処理部36による処理結果は、図示しない表示部に表示される。また、分光計28には、測定対象各種の設定等を行うために利用される入力部が設けられている。なお、スペクトル処理部36は、コンピュータによって構成されてもよい。
【0031】
冷却システム38は、例えば、冷凍機を備え、その冷凍機により冷却したヘリウムガスをNMRプローブ16に供給し、これにより、NMRプローブ16内の被冷却部品を冷却するためのシステムである。例えば、被冷却部品が20K以下に冷却される。
【0032】
図2には、試料室と検出コイルが模式的に示されている。
図2は、試料室等を概略的に示す図である。NMRプローブ16の挿入部18には、試料温調用配管40が設けられている。試料温調用配管40は例えばガラス管であり、ステージ42及びプローブキャップ44を貫通して設けられている。試料温調用配管40内には、試料が収容される試料管46が配置されている。試料及び試料管46の中心が静磁場H
0の中心に一致するように、挿入部18が静磁場発生装置12のボア14内に配置されている。試料温調用配管40内は大気空間であり、試料温調用配管40内の温度は、例えば室温に維持される。これにより、試料は大気空間内に設置され、その温度は室温に維持される。
【0033】
試料温調用配管40と挿入部18の外壁との間に気密室48が形成されている。気密室48内は真空状態に減圧されている。真空減圧下の気密室48内には、検出回路22(検出コイル24としての検出コイル24A,24B、結合コイル26、同調用可変コンデンサ、整合用可変コンデンサ)が設置されている。検出コイル24Aは、平面コイルであり、基板50A上に形成された薄膜の検出回路パターン(電気回路パターン)である。図示されていないが、検出コイル24Bも同様に平面コイルであり、基板50B上に形成された薄膜の検出回路パターンである。検出コイル24A,24Bは、超伝導体によって構成されている。超伝導体として、一例として第二種超伝導体が用いられる。超伝導体の材料として、一例として、YBa2Cu3O7(YBCO、Y123)が用いられるが、もちろん、別の材料が用いられてもよい。検出コイル24A,24Bは一対の検出コイルとして用いられる。基板50A,50Bは、例えばサファイア基板である。基板50A,50Bは、試料及び試料温調用配管40を間にして配置されている。検出コイル24A,24Bが、静磁場発生装置12によって形成された静磁場H
0に対してほぼ平行になるように、又は、所定角度傾斜するように、基板50A,50Bが検出コイル用治具によって保持される。
【0034】
検出コイル24Aは、基板50A上においてコイルパターンとして形成され、インダクタンスLの要素とキャパシタンスCの要素を内包している。図示されていないが、検出コイル24Bも同様に、インダクタンスLとキャパシタンスCを内包する。この構成を採用することにより、LC共振回路が構成される。なお、
図2には、検出コイル24Aの形状が概略的に示されている。本実施形態に係る検出コイルの形状については、
図4を参照して後で詳しく説明する。
【0035】
上記構成において、検出回路22は被冷却部品に相当し、極低温に冷却される。信号のS/Nを向上させるために、可変コンデンサも検出コイル24A,24B及び結合コイル26とともに冷却される。冷却機構として、例えば、特開2014−41103号公報に記載されている冷却システム(クライオスタット冷却システム)を利用することができる。具体的には、ステージ42に接続された熱交換器52に、冷却システム38から冷却されたヘリウムガスが導入され、熱交換器52は極低温(例えば20K以下)に冷却される。これにより、被冷却部品が冷却される。検出コイル24A,24Bが冷却されることにより、検出コイル24A,24Bの電気抵抗が低下し、その結果、NMR測定時における検出感度が向上する。なお、NMRプローブ16には、図示しない温度センサが取り付けられており、その温度センサによって被冷却部品等の温度が検知される。
【0036】
以下、
図3を参照して、比較例に係る検出コイルについて説明する。
図3には、比較例に係る検出コイル54が示されている。比較例に係るNMRプローブにおいては、一対の検出コイル54が、上述した一対の検出コイル24A,24Bとして用いられる。検出コイル54は超伝導体からなり、矩形状の検出回路パターンを有する。図示されていないが、検出コイル54は、インダクタンスLとキャパシタンスCを内包する。検出コイル54は、具体的には、縦成分56と横成分58とからなる。縦成分56は、静磁場発生装置12によって形成された静磁場H
0に対して平行に配置される成分である。横成分58は、静磁場H
0に対して直交して配置される成分である。コイル窓長Lは、検出コイル54の縦幅、つまり縦成分56の幅である。コイル幅Wは、検出コイル54の横幅、つまり横成分58の幅である。一対の検出コイルの間の距離をdとすると、W=d×tan(Ω)であり、Ωは一例として120degである。試料温調用配管40内には、図示しない試料管46に収容された試料が配置されている。試料温調用配管40において検出領域60が、実際にMNR測定の対象となる領域であり、検出領域60に配置された試料からのNMR信号が検出コイル54によって検出される。検出領域60の両側には非検出領域62が設けられている。非検出領域62には、例えばアルミニウム等の磁気シールドが設けられている。それ故、非検出領域62に試料が配置されたとしても、非検出領域62に配置された試料からのNMR信号は検出されない。検出コイル54においては、一例として、検出コイル54のコイル窓長Lと検出領域60の縦幅(静磁場H
0に平行な方向の幅)とが一致している。
【0037】
ここで、検出コイル54の横成分58が試料空間(検出領域60)に近接する場合に発生する3つの事象について説明する。
【0038】
(1)磁場の不均一性
検出コイルが静磁場H
0から角度θ傾いた場合、検出コイルの磁化Mは以下の式(1)で表される。
【数1】
【0039】
ここで、M
1は試料面に平行な磁化成分であり、M
2は試料面に垂直な磁化成分である。角度θは小さいと仮定する。角度θが小さい場合、磁化成分M
2は、Meissner効果によって試料周辺に流れる遮蔽電流が作る見かけ上の磁化と考えることができる。薄材ではM
2≫M
1であり、磁化Mが角度θに大きく依存する。また、角度θによって磁化Mの符号が変わる。つまり、角度θを制御できなければ磁化Mがばらつき、また、角度θによって磁化Mの正負が変わることになる。磁化Mが検出コイルに一様に分布しているとき、横成分58が、試料空間(検出領域60)に大きな不均一磁場を与える。互いに対抗する2つの横成分58が磁極をもった双極子とみなせ、磁極を中心に磁場が分布するからである。それ故、横成分58が試料空間に近接すると、試料空間における磁場の均一性が悪化してしまう。つまり、横成分58を試料空間から遠ざけることにより、試料空間における磁場の不均一性を防止又は抑制することが可能となる。
【0040】
(2)不均一高周波磁場
平面コイルにおいては、コイル窓の上下端付近(横成分58付近)で高周波磁場の均一度が低下する傾向がある。横成分58を試料空間(検出領域60)から遠ざけることにより、高周波磁場の均一性の低下を防止又は抑制することが可能となる。
【0041】
(3)試料誘電損の影響
検出コイルの上下の部分(横成分58)において容量性負荷がかかるように設計することにより、コイル窓の上下の部分に電場が集中し、試料誘電損の影響を受け難くすることができる。容量性負荷がかかった部分を試料空間(検出領域60)から遠ざけることにより、誘電損の影響をより受け難くすることが可能となる。
【0042】
以上のように、検出コイルの横成分を試料空間(検出領域60)から遠ざけることにより、磁場の不均一性を防止又は抑制することが可能となる。また、高周波磁場の均一性の低下を防止又は抑制することが可能となり、誘電損の影響をより受け難くなる。一方、検出コイルの横成分を試料空間(検出領域60)から遠ざけ過ぎると、検出コイルの線路長が長くなるため、その分、試料充填率が低下し、その結果、検出感度が低下する。これに対処するために、本実施形態に係る検出コイルにおいては、横成分の一部が、他の部分よりも検出領域60から遠ざけられた位置に配置される。以下、本実施形態に係る検出コイルについて詳しく説明する。
【0043】
図4には、本実施形態に係る検出コイル64が示されている。本実施形態に係るNMRプローブにおいては、一対の検出コイル64が、上述した一対の検出コイル24A,24Bとして用いられる。検出コイル64は超伝導体からなり、検出回路パターンを有する。図示されていないが、検出コイル64は、インダクタンスLとキャパシタンスCを内包する。検出コイル64は、比較例に係る検出コイル54と比べて、横成分の一部が静磁場H
0の方向に伸びた形状を有する。検出コイル64の縦成分66は、静磁場H
0に対して平行に配置される成分である。コイル窓長Lは、縦成分66の幅であり、比較例に係る検出コイル54の縦幅(縦成分56の幅)と同じである。検出コイル64においては、一例として、検出コイル64のコイル窓長Lと検出領域60の縦幅(静磁場H
0に平行な方向の幅)とが一致している。検出領域60に配置された試料からのNMR信号が検出コイル64によって検出され、非検出領域62に配置された試料からのNMR信号は検出されない。コイル幅Wは、検出コイル64の全体の横幅である。検出コイル64の横成分は、検出領域60から遠ざけられる方向に向けて先細りで先端が平坦な形状を有している。
図4に示す例では、その遠ざけられる方向は、静磁場H
0に平行な方向である。もちろん、その遠ざけられる方向は、静磁場H
0に平行な方向以外の方向であってもよい。検出コイル64の横成分の一部68は、その先端の平坦な部分であり、他の部分70よりも、検出領域60から遠ざけられた位置に配置されている。横成分の一部68は、静磁場H
0に対して直交して配置される成分であり、他の部分70は、静磁場H
0に対して斜めに配置される成分である。
【0044】
横成分の一部68の幅は幅w1である。横成分の一部68は、縦成分66の端部から距離h1離れた位置に配置されている。
図4に示す例では、検出コイル64の一方の横成分の一部68(上側の横成分の一部68)が、静磁場H
0に平行な方向へ縦成分66の端部から距離h1離れた位置に配置され、その一方の横成分に対向する他方の横成分の一部68(下側の横成分の一部68)も同様に、静磁場H
0に平行な方向へ縦成分66の端部から距離h1離れた位置に配置されている。つまり、検出コイル64においては、上側及び下側の両方の横成分の一部68が、比較例に係る検出コイル54と比べて、静磁場H
0に平行な方向に伸びている。もちろん、上側の横成分又は下側の横成分のいずれか一方の横成分の一部68が、縦成分66の端部から距離h1離れた位置に配置されてもよい。例えば、一方の横成分の一部68が、縦成分66の端部から距離h1離れた位置に配置され、他方の横成分の一部68が、比較例に係る検出コイル54と同様に、縦成分66の端部から離れずに配置されてもよい。別の例として、上側及び下側の両方の横成分の一部68が、検出領域60から遠ざけられた位置に配置される場合において、上側の横成分と下側の横成分とで、距離h1が異なっていてもよい。
【0045】
以上のように、検出コイル64の横成分の一部が、検出領域60から遠ざけられた位置に配置されるので、超伝導材料に発生する強いシールド電流の影響を回避することが可能となり、検出領域60における磁場の不均一性を防止又は抑制することが可能となる。また、横成分の全部が検出領域60から遠ざけられる場合と比べて、検出コイル64の線路長が短くなるので、検出コイル64の試料充填率の低下を極力抑えることが可能となる。本実施形態に係る検出コイル64を用いることにより、検出感度を向上させることが可能となる。また、本実施形態によると、一対の検出コイル64を互いに遠ざけて、一対の検出コイル64の間の距離を長くする場合と比べて、試料充填率の低下を抑制することが可能となる。また、検出コイル64の試料充填率の低下を極力抑えつつ、高周波磁場の均一性の低下を防止又は抑制することが可能となり、誘電損の影響をより受け難くすることが可能となる。
【0046】
試料管46の幅を幅φsとすると、幅w1は、1.1φs〜2.0φsであることが好ましい。より好ましくは、幅w1は1.5φsである。幅w1が1.0φs未満の場合、磁場の不均一性を抑制する効果が減少する。幅w1が2.0φsを超えた場合、その分、検出コイル64の線路長が長くなるので、試料充填率が低下し、その結果、検出感度が低下する。幅w1が1.1φs〜2.0φsの場合、磁場の不均一性をより抑制しつつ、試料充填率の低下を極力抑えることが可能となる。
【0047】
距離h1は、検出領域60における磁場の不均一性が防止又は抑制される程度の距離である。一例として、距離h1は以下の式(2)によって表される。単位はミリメートルである。
【数2】
【0048】
Δは一対の検出コイル64の間の距離である。例えば、φs=5mm、Δ=8.2mmのとき、h1≧1.9mmとなる。距離h1を短くするほど、検出コイル64の試料充填率の低下を抑制することが可能となる。
【0049】
以下、具体的な実施例について説明する。検出コイルの超伝導材料としてYBCOを使用した。一例として、L=16mmであり、W=15mmであり、φs=5mmであり、Δ=8.2mmであり、w1=7.3mmである。
【0050】
図5には、比較例に係る検出コイル54を用いたときの試料空間(検出領域60)に発生する磁場の分布が示されている。すなわち、
図5には、h1=0のときの磁場の分布が示されている。符号72で示す四角枠は、検出領域60に対応する領域である。比較例においては、検出領域60の上下端の位置に検出コイル54の横成分58が配置されているため、その上下端の部分(符号74で示す位置)に、14Hz相当の大きな磁場が不均一に分布している。つまり、検出領域60(試料空間)の上下端に不均一な磁場が分布している。
【0051】
図6には、本実施形態に係る検出コイル64を用いたときの試料空間(検出領域60)に発生する磁場の分布が示されている。
図6には、h1=2mmのときの磁場分布が示されている。本実施形態においては、横成分の一部68が、検出領域60の上下端から静磁場H
0に平行な方向へ距離h1離れた位置に配置されている。それ故、検出領域60の上下端から静磁場H
0に平行な方向へ距離h1離れた位置(符号76で示す位置)に、大きな磁場が不均一に分布しているが、検出領域60の上下端の部分においては、磁場が均一に分布している。つまり、検出領域60(試料空間)に均一な磁場が分布している。このように、距離h1を2mm以上にすると、検出領域60(試料空間)において十分な磁場均一性を得ることが可能となる。
【0052】
図7には、検出コイルの線路の幅を1.0mmとしたときの中心軸上の高周波磁場の強度分布が示されている。横軸は、静磁場H
0に平行な方向における距離を示している。縦軸は、高周波磁場の強度を示している。実線78は、h1=2mmのときの強度分布(本実施形態に係る検出コイル64を用いたときの強度分布)を示しており、破線80は、h1=0のときの強度分布(比較例に係る検出コイル54を用いたときの強度分布)を示している。実線78で示すように、本実施形態によると、コイル窓内(コイル窓長Lの範囲内)において、比較例と比べて、高周波磁場の均一性が向上している。特に、検出領域60(試料空間)の上下端における高周波磁場の均一性が向上している。
【0053】
また、非特許文献1に記載された試料充填率について計算したところ、室温プローブにおける試料充填率を基準として1とすると、本実施形態(h1=2mm)の場合の試料充填率η=0.30となり、比較例(h1=0mm)の場合の試料充填率η=0.34となる。比較例の試料充填率は本実施形態の試料充填率よりも高くなるが、
図5を参照して説明したように、試料空間(検出領域60)において磁場が不均一となり、均一な磁場の範囲が本実施形態よりも狭くなる。一方、本実施形態の試料充填率は比較例に係る試料充填率よりも若干低くなるが、
図6を参照して説明したように、試料空間(検出領域60)において磁場が均一となり、均一な磁場の範囲が比較例よりも広くなる。このように、本実施形態によると、検出コイルの試料充填率を極力低下させずに、試料空間(検出領域60)における磁場の不均一性を防止又は抑制することが可能となり、その結果、検出感度を向上させることが可能となる。なお、磁場の不均一性を回避するために、一対の検出コイルの間を広げると、試料充填率η=0.2程度となり、試料充填率が著しく低下し、検出感度が著しく低下する。
【0055】
(変形例1)
図8を参照して、変形例1に係る検出コイルについて説明する。
図8には、変形例1に係る検出コイル82が示されている。参考として、
図8には、上述した実施形態に係る検出コイル64の横成分の一部68が示されている。変形例1に係るNMRプローブにおいては、一対の検出コイル82が、上述した検出コイル24A,24Bとして用いられる。検出コイル82は超伝導体からなり、検出回路パターンを有する。図示されていないが、検出コイル82は、インダクタンスLとキャパシタンスCを内包する。検出コイル82の縦成分84は、静磁場H
0に対して平行に配置される成分である。コイル窓長Lは、縦成分84の幅であり、比較例に係る検出コイル54の縦幅(縦成分56の幅)と同じである。検出コイル82においては、一例として、検出コイル82のコイル窓長Lと図示しない検出領域60の縦幅とが一致している。コイル幅Wは、検出コイル82の全体の横幅である。検出コイル82の横成分86は、図示しない検出領域60から遠ざけられる方向に向けて先細りの形状を有する。
図8に示す例では、その遠ざけられる方向は、静磁場H
0に平行な方向であるが、もちろん、その遠ざけられる方向は、静磁場H
0に平行な方向以外の方向であってもよい。横成分86は、静磁場H
0に対して斜めに配置される成分である。
【0056】
図8に示す例では、検出コイル82の一方の横成分86(上側の横成分86)が、検出領域60から遠ざけられる方向に先細りの形状を有し、検出コイル82の他方の横成分86(下側の横成分86)も同様に、検出領域60から遠ざけられる方向に向けて先細りの形状を有する。つまり、検出コイル82においては、上下の横成分86が、先細りの形状を有する。もちろん、上側の横成分86又は下側の横成分86のいずれか一方の横成分86が、先細りの形状を有していてもよい。別の例として、上側及び下側の両方の横成分86が先細りの形状を有している場合において、上側の横成分86と下側の横成分86とで、その形状が異なっていてもよい。
【0057】
上記の変形例1においても、検出コイル82の横成分86が、検出領域60から遠ざけられた位置に配置されるので、検出領域60における磁場の不均一性を防止又は抑制することが可能となり、また、検出コイル82の試料充填率の低下を極力抑えることが可能となる。これにより、検出感度を向上させることが可能となる。
【0058】
(変形例2)
図9を参照して、変形例2に係る検出コイルについて説明する。
図9には、変形例2に係る検出コイル88が示されている。参考として、
図9には、上述した実施形態に係る検出コイル64の横成分の他の部分70が示されている。変形例2に係るNMRプローブにおいては、一対の検出コイル88が、上述した検出コイル24A,24Bとして用いられる。検出コイル88は超伝導体からなり、検出回路パターンを有する。図示されていないが、検出コイル88は、インダクタンスLとキャパシタンスCを内包する。検出コイル88の縦成分90は、静磁場H
0に対して平行に配置される成分である。コイル窓長Lは、縦成分90の幅であり、比較例に係る検出コイル54の縦幅(縦成分56の幅)と同じである。検出コイル88においては、一例として、検出コイル88のコイル窓長Lと図示しない検出領域60の縦幅とが一致している。コイル幅Wは、検出コイル88の全体の横幅である。検出コイル88の横成分は、検出領域60から遠ざけられる方向に向けて階段状の形状を有している。
図9に示す例では、その遠ざけられる方向は、静磁場H
0に平行な方向である。もちろん、その遠ざけられる方向は、静磁場H
0に平行な方向以外の方向であってもよい。検出コイル88の横成分の一部92は、検出領域60から遠ざけられる方向へ突出しており、他の部分94よりも、検出領域60から遠ざけられた位置に配置されている。横成分の一部92は、静磁場H
0に対して直交に配置される成分であり、他の部分94も同様に、静磁場H
0に対して直交に配置される成分である。横成分の他の部分94は、検出領域60の端部の位置又は近傍に配置される。
【0059】
横成分の一部92の幅は幅w1である。横成分の一部92は、縦成分90の端部から距離h1離れた位置に配置されている。
図9に示す例では、検出コイル88の一方の横成分の一部92(上側の横成分の一部92)が、静磁場H
0に平行な方向へ縦成分90の端部から距離h1離れた位置に配置され、その一方の横成分に対向する他方の横成分の一部92(下側の横成分の一部92)も同様に、静磁場H
0に平行な方向へ縦成分90の端部から距離h1離れた位置に配置されている。つまり、検出コイル88においては、上側及び下側の両方の横成分の一部92が、静磁場H
0に平行な方向に突出している。もちろん、上側の横成分又は下側の横成分のいずれか一方の横成分の一部92が、縦成分90の端部から距離h1離れた位置に配置されてもよい。例えば、一方の横成分の一部92が、縦成分90の端部から距離h1離れた位置に配置され、他方の横成分の一部92が、比較例に係る検出コイル54と同様に、縦成分90の端部から離れずに配置されてもよい。別の例として、上側及び下側の両方の横成分の一部92が、検出領域60から遠ざけられた位置に配置される場合において、上側の横成分と下側の横成分とで、距離h1が異なっていてもよい。
【0060】
上記の変形例2においても、検出コイル88の横成分の一部92が、検出領域60から遠ざけられた位置に配置されるので、検出領域60における磁場の不均一性を防止又は抑制することが可能となり、また、検出コイル88の試料充填率の低下を極力抑えることが可能となる。これにより、検出感度を向上させることが可能となる。また、検出コイル88の横成分の他の部分94が、検出領域60の端部の位置又は近傍に配置されるので、その他の部分94も検出領域60から離れる形状を有している場合と比べて、試料充填率の低下を更に抑えることが可能となる。
【0061】
(変形例3)
図10を参照して、変形例3に係る検出コイルについて説明する。
図10には、変形例3に係る検出コイル96が示されている。参考として、
図10には、上述した実施形態に係る検出コイル64の横成分の他の部分70が示されている。変形例3に係るNMRプローブにおいては、一対の検出コイル96が、上述した検出コイル24A,24Bとして用いられる。検出コイル96は超伝導体からなり、検出回路パターンを有する。図示されていないが、検出コイル96は、インダクタンスLとキャパシタンスCを内包する。検出コイル96の縦成分98は、静磁場H
0に対して平行に配置される成分である。コイル窓長Lは、縦成分98の幅であり、比較例に係る検出コイル54の縦幅(縦成分56の幅)と同じである。検出コイル96においては、一例として、検出コイル96のコイル窓長Lと図示しない検出領域60の縦幅とが一致している。コイル幅Wは、検出コイル96の全体の横幅である。検出コイル96の横成分100は、検出領域60から遠ざけられる方向に向けて伸びた形状を有するとともに、全体として曲線を有する。その曲線の形状は、判楕円の形状であってもよいし、双曲線の形状であってもよい。
図10に示す例では、その遠ざけられる方向は、静磁場H
0に平行な方向である。もちろん、その遠ざけられる方向は、静磁場H
0に平行な方向以外の方向であってもよい。
【0062】
図10に示す例では、検出コイル96の一方の横成分100(上側の横成分100)が、検出領域60から遠ざけられる方向に向けて伸びた形状を有し、検出コイル96の他方の横成分100(下側の横成分100)も同様に、検出領域60から遠ざけられる方向に向けて伸びた形状を有する。つまり、検出コイル96においては、上下の横成分100が検出領域60から遠ざけられる方向に向けて伸びた形状を有する。もちろん、上側の横成分100又は下側の横成分100のいずれか一方の横成分100が、検出領域60から遠ざけられる方向に伸びた形状を有していてもよい。別の例として、上側及び下側の両方の横成分100が検出領域60から遠ざけられる方向に伸びた形状を有している場合において、上側の横成分100と下側の横成分100とで、その形状が異なっていてもよい。
【0063】
上記の変形例3においても、検出コイル96の横成分100が、検出領域60から遠ざけられた位置に配置されるので、検出領域60における磁場の不均一性を防止又は抑制することが可能となり、また、検出コイル96の試料充填率の低下を極力抑えることが可能となる。これにより、検出感度を向上させることが可能となる。
【0064】
なお、上述した実施形態及び変形例1,2に係る検出コイルも、曲線を有していてもよい。例えば、横成分の全部又は一部が曲線を有していてもよい。もちろん、縦成分の全部又は一部が曲線を有していてもよい。
【0065】
また、上述した実施形態及び変形例1,2,3の中から選択した2つの横成分の形状を組み合わせてもよい。例えば、検出コイルにおいて、一方の横成分(上側の横成分)の形状として、実施形態に係る検出コイル64の横成分の形状を採用し、他方の横成分(下側の横成分)の形状として、変形例1に係る検出コイル82の横成分の形状を採用してもよい。もちろん、上述した形状以外の形状が、横成分の形状として採用されてもよい。
【0066】
(変形例4)
上述した実施形態及び変形例1,2,3に係る検出コイルは平面コイルであるが、立体的な形状を有するコイルが検出コイルとして用いられてもよい。
図11には、変形例4に係る検出コイルとして、立体的な形状を有する検出コイル102が示されている。変形例4に係るNMRプローブにおいては、一対の検出コイル102が、上述した検出コイル24A,24Bとして用いられる。検出コイル102は超伝導体からなり、検出回路パターンを有する。図示されていないが、検出コイル102は、インダクタンスLとキャパシタンスCを内包する。検出コイル102の縦成分104は、静磁場H
0に対して平行に配置される成分である。コイル窓長Lは、縦成分104の幅であり、比較例に係る検出コイル54の縦幅(縦成分56の幅)と同じである。検出コイル102においては、一例として、検出コイル102のコイル窓長Lと図示しない検出領域60の縦幅とが一致している。コイル幅Wは、検出コイル102の全体の横幅である。変形例2に係る検出コイル88と同様に、検出コイル102の横成分は、検出領域60から遠ざけられる方向に向けて階段状の形状を有している。変形例2と異なり、
図11に示す例では、その遠ざけられる方向は、静磁場H
0の方向(Z方向)に直交する方向(Y方向)である。その遠ざけられる方向は、静磁場H
0の方向に直交する方向以外の方向であって、静磁場H
0に交差する方向であってもよい。検出コイル102の横成分の一部106は、検出領域60から遠ざけられる方向へ突出しており、他の部分108よりも、検出領域60から遠ざけられた位置に配置されている。横成分の一部106は、静磁場H
0に対して直交に配置される成分であり、他の部分108も同様に、静磁場H
0に対して直交に配置される成分である。横成分の他の部分108は、検出領域60の端部の位置又は近傍に配置される。
【0067】
横成分の一部106の幅はw1である。横成分の一部106は、縦成分104の端部から距離h1離れた位置に配置されている。
図11に示す例では、検出コイル102の一方の横成分の一部106(上側の横成分の一部106)が、静磁場H
0に直交する方向へ縦成分104の端部から距離h1離れた位置に配置され、その一方の横成分に対向する他方の横成分の一部106(下側の横成分の一部106)も同様に、静磁場H
0に直交する方向へ縦成分104の端部から距離h1離れた位置に配置されている。つまり、検出コイル102においては、上側及び下側の両方の横成分の一部106が、静磁場H
0に直交する方向に突出している。もちろん、上側の横成分又は下側の横成分のいずれか一方の横成分の一部106が、縦成分104の端部から距離h1離れた位置に配置されてもよい。例えば、一方の横成分の一部106が、縦成分104の端部から距離h1離れた位置に配置され、他方の横成分の一部106が、縦成分104の端部から離れずに配置されてもよい。別の例として、上側及び下側の両方の横成分の一部106が、検出領域60から遠ざけられた位置に配置される場合において、上側の横成分と下側の横成分とで、距離h1が異なっていてもよい。
【0068】
上記の変形例4においても、検出コイル102の横成分の一部106が、検出領域60から遠ざけられた位置に配置されるので、検出領域60における磁場の不均一性を防止又は抑制することが可能となり、また、検出コイル102の試料充填率の低下を極力抑えることが可能となる。これにより、検出感度を向上させることが可能となる。また、検出コイル102の横成分の他の部分108が、検出領域60の端部の位置又は近傍に配置されるので、その他の部分108も検出領域60から離れる形状を有している場合と比べて、試料充填率の低下を更に抑えることが可能となる。
【0069】
なお、上述した実施形態及び変形例1,3に係る検出コイルにおいても、横成分が静磁場H
0と交差する方向に延在していてもよい。