【実施例1】
【0016】
[ズリ搬出機]
<1>全体の構成(
図1)。
本発明のズリ搬出機10はズリAを搬送するための装置である。
ズリ搬出機10は、本体部11と、履帯部12と、昇降部13と、を少なくとも備える。
ズリ搬出機10は、油圧モータにて本体部11のローラを回転させることで駆動する。ただし、動力源はこれに限られず、他の公知の機構を採用してもよい。
【0017】
<2>本体部。
本体部11は、ズリ搬出機10の主構造である。
本例では、本体部11として、概ね平板状の鋼構造体を採用する。ただし、所定の強度を備えれば鋼製に限られない。
本体部11の前部と後部には、ズリ搬出機10の幅方向に軸支された前ローラ11aと後ローラ11bと、を備える。このほか、中間の任意の部分に補助ローラを設けてもよい。
本体部11の上下前後は履帯部12に被覆される。
本体部11の側方から下方へ昇降部13が突出する。
【0018】
<3>履帯部。
履帯部12は、ズリ搬出機10の自走機能とズリAの搬出機能とを兼ね備える、無限軌道である。
履帯部12は、本体部11の前ローラ11aと後ローラ11bの間に架け渡され、本体部11の上下前後を無端状に被覆する。
履帯部12の幅は本体部11の幅に対応する。
本例では、金属製の履板を連続して無端状にリンク連結し、これをズリ搬出機10の幅方向に二列並列して履帯部12を構成する。
ただし構成や列数はこれに限られず、無限軌道であって、ズリAを搬送可能な一定の剛性を備えさえすれば他の公知の機構を採用してもよい。
【0019】
<4>昇降部。
昇降部13は、伸縮によって本体部11を昇降するための部材である。
本例では、昇降部13として、油圧シリンダを採用する。
本体部11の両側面から下方へ突出するように、本体部11に複数の昇降部13を付設する。
ただし昇降部13の種類と数はこれに限られず、油圧以外の動力シリンダや、他の公知の機構を採用することができる。
【0020】
<5>ズリ搬出機の機能。
本発明のズリ搬出機10は、簡素な構造でありながら自走機能とズリAの搬出機能を併有し、しかも以下のように両機能を容易に切り替え可能である。
昇降部13が短縮した状態において、昇降部13の下端は地盤より上方に位置する。よって履帯部12の底面は地盤に接地している。
この状態で履帯部12を駆動させると、履帯部12は重機のクローラのように機能し、ズリ搬出機10を自走させることができる(走行モード)。また、クローラ構造なので地盤の不陸の影響を受けくい。
一方、複数の昇降部13を同時に伸長すると、昇降部13の下端部が地盤を押圧し、本体部11を持ち上げることで、履帯部12の底面と地盤とを縁切りすることができる。
この状態で履帯部12を駆動させると、履帯部12はベルトコンベアのように機能し、履帯部12の上面に載せたズリAを一方向に搬送することができる(搬送モード)。
このように、昇降部13を伸縮させることで、走行モードと搬送モードをその場で切り替えることができる。
【0021】
[ズリ搬出装置]
<1>全体の構成(
図2)。
本発明のズリ搬出装置1は、トンネル掘削工事において、切羽Bより発生したズリAを、後続工程(吹付工・支保工・ロックボルト工など)に影響しない仮置場1a‘まで搬送するための装置である。
ズリ搬出装置1は、複数のズリ搬出機10を組み合わせて構成する。
すなわち、複数のズリ搬出機10をトンネルの長手方向に連続配置して複数のアレイを構成し、これらのアレイをトンネルの幅方向に並列してズリ搬出装置1を構成する。
各ズリ搬出機10は物理的に連結する必要はないが、ズリAがこぼれ落ちるのを防ぐため、各ズリ搬出機10間に隙間が生じないように近接させる。
各アレイのうち、後述する通行アレイ1bには誘導板20を設ける。
通行アレイ1bの最後部には、車両が乗り上げるためのスロープ30を配置することができる。
また、ズリ搬出装置1の両側辺にはズリAのこぼれ出しを防ぐための側壁を立設してもよい。
【0022】
<2>搬送アレイ。
搬送アレイ1aは、トンネルの長手方向に連続する複数のアレイのうち、ズリAを仮置場1a‘へ搬送するためのアレイである。
搬送アレイ1aは、トンネルの幅方向の一側にズリ搬出機10を単数列または複数列、縦列配置して設定する。
図2の例では、搬送アレイ1aは切羽Bに向かって右側2列、計8台のズリ搬出機10から構成され、その内、坑口側の2台は後述するズリの仮置場1a‘である。
【0023】
<2.1>仮置場。
仮置場1a‘は、ズリAを後続作業に影響しないように一次保管する場所である。
本例では、搬送アレイ1a最後尾の2台のズリ搬出機10を搬送アレイ1a‘とする。ただしこれに限られず、搬送アレイ1aの最後尾にズリAを積載可能な架台や台車などを接続して、これを仮置場1a‘としてもよい。
【0024】
<3>通行アレイ。
通行アレイ1bは、トンネルの長手方向に連続する複数のアレイのうち、ズリAを搬送アレイ1a側へ掃き出して、その上面に作業車の走行経路Cを形成するアレイである。
通行アレイ1bは、トンネルの幅方向における搬送アレイ1aの反対側にズリ搬出機10を単数列または複数列、縦列配置して設定する。
図2の例では、通行アレイ1bは切羽Bに向かって左側2列、計6台のズリ搬出機10から構成される。
通行アレイ1bの坑壁側のズリ搬出機10に、後述する誘導板20を付設する。
【0025】
<4>誘導板。
誘導板20は、通行アレイ1b上を搬送されるズリAを、搬送アレイ1a上に掃い出すための部材である。
本例では、誘導板20として、通行アレイ1bのズリ搬出機10の孔壁側に一端を軸支した長尺状の鋼板を採用する。
誘導板20は、基端部を中心に回動させることで、ズリ搬出機10の側辺に平行する位置(
図4)から、通行アレイ1b上を斜めに横切って他端が搬送アレイ1aに到達する位置(
図2)へ切り替えることができる。
ただし、ズリAを掃い出す手段は誘導板20に限られず、例えば通行アレイ1bのズリ搬出機10と搬送アレイ1aのズリ搬出機10との間に鋼材や鋼板を斜めに掛け渡して、これを誘導板20に代わる掃出手段としてもよい。
【0026】
[施工方法]
<1>全体の構成。
引き続き、本発明のズリ搬出装置を用いたトンネル掘削工事の施工方法について説明する。
本発明の施工方法は、配置工程と、破砕工程と、第一搬送工程と、第二搬送工程と、第三搬送工程と、を少なくとも備える。
なお、上記の工程は、本発明を構成する工程であり、これらの工程の前後には、切羽の削孔工程や、装薬工程、通過工程、吹付け工程、支保工設置工程、ロックボルト打設工程などの公知の工程があるが、ここでは詳述しない。
【0027】
<2>配置工程。
前サイクルのズリAの搬出が終わった状態から説明を始める。
切羽Bとズリ搬出装置1の間には、前サイクルにおける発破により掘削された切羽Bの厚みに相当する間隔が空いている。
各ズリ搬出機10を駆動して切羽B側に前進させることで、ズリ搬出装置1を全体に切羽B側に移動し、切羽B前面の地盤にズリ搬出装置1を配置する。
続いて、各ズリ搬出機10の昇降部13を伸長して、ズリ搬出機10を持ち上げ、ズリ搬出機10の底面と地盤とを縁切りする。これによって、全てのズリ搬出機10が搬送モードとなり、連続ベルトコンベアとして機能する。
誘導板20を、ズリAの掃出し位置、すなわち、誘導板20の基端が通行アレイ1bのズリ搬出機10の孔壁側の側辺に接続し、先端が通行アレイ1bを斜めに横切って搬送アレイ1aに到達する位置に配置する。
【0028】
<3>破砕工程(
図2)。
破砕工程は、切羽Bを破砕する工程である。
発破によって切羽Bを破砕し、切羽B上に残った不安定なズリAを浮石落しする。
発破によって発生したズリAは、切羽B前面に設置したズリ搬出装置1上に堆積する。
【0029】
<4>第一搬送工程(
図3)。
第一搬送工程は、通行アレイ1b上のズリAを坑口側へ搬送し、搬送アレイ1a上に掃い出す工程である。
通行アレイ1bのズリ搬出機10の履帯部12を駆動させることで、切羽B前面のズリAを坑口側へ搬送する。
搬送されたズリAが誘導板20に達すると、ズリAが誘導板20に斜めに押付けられることによって、誘導板20に沿って搬送アレイ1a上へ掃き出される。
ズリAの掃き出し後、誘導板20の先端を坑壁側に回転させて通行アレイ1b上を開放する。
これによって、通行アレイ1b上のズリAは完全に撤去され、通行アレイ1b上に、作業車が通行し作業するための走行経路Cが確保される。
【0030】
<5>第二搬送工程(
図3)。
第二搬送工程は、誘導板20によって搬送アレイ1a上に掃い出されたズリAを、仮置場1a‘へ搬送する工程である。
搬送アレイ1aのズリ搬出機10のうち、誘導板20横のズリ搬出機10を駆動することで、通行アレイ1bから掃い出されたズリAを坑口側の仮置場1a‘へ搬送する。
ズリAを仮置場1a‘上に積み替える際、仮置場1a‘のズリ搬出機10を適宜の速度で駆動させることで、ズリAを仮置場1a’上に均等に敷き均すことができる。
【0031】
<6>第三搬送工程(
図4)。
第三搬送工程は、搬送アレイ1aの切羽B前面のズリAを、仮置場1a‘へ搬送する工程である。
搬送アレイ1aのズリ搬出機10を駆動させることで、搬送アレイ1a上のズリAを坑口側へ搬送し、仮置場1a‘へ積み替える。これによって、切羽B付近に後続作業のための作業空間を確保することができる。
第二搬送工程と同様に、ズリAの積み替え時に仮置場1a‘のズリ搬出機10を駆動させることで、ズリAを仮置場1a’上に敷き均すことができる。
なお、これら第一工程、第二搬送工程、および第三搬送工程は、必ずしもこの順番に行う必要はなく、並行して同時に行ってもよい。
以上の作業により、大量のズリAを円滑に仮置場1a‘まで搬送することができる。
【0032】
<7>通過工程(
図5)。
通過工程は、切羽B付近で後工程を行う作業車を、通行アレイ1b上を走行して切羽Bの前面へ配置する工程である。
第一搬送工程によって、ズリAは搬送アレイ1a上に掃き出され、通行アレイ1b上には平坦な走行経路Cが確保されている。
そこで、後続するモルタル吹付や支保工の建込みなどに使用する作業車を、坑口側から走行経路Cを通過させて切羽Bの前面まで送ることができる。作業車と作業員は切羽B前面のズリ搬出装置1上で作業を行う。
このため、切羽Bにて吹付工や支保工を施工しながら、これと並行してズリAの仮置場1a‘からの搬出、クラッシャによる破砕、坑外への輸送などの各作業を行うことができる。
なお、通過工程は第二搬送工程および第三搬送工程を待たずに、第一搬送工程が完了後、第二搬送工程および第三搬送工程と並行しても行うことができる。
これによって、作業サイクルをさらに短縮することができる。
【0033】
<8>施工効率の比較。
本発明の施工方法による施工効率について従来技術との比較を試算した。
4パターンの断面を有する延長1,000mのトンネル工事において、仮置場へのズリの搬出による、後続工程の待ち時間の短縮率を75%と想定する。
すると、各断面パターンにおける掘削工と支保工のサイクルタイムの合計が、従来の431〜463分/回から、364〜376分/回へと約16〜19%削減される。
これによって、1月あたりの進行長が、69.1〜81.4m/月から、81.9〜100.4mへと、約18〜23%増加する。
最終的に、従来技術において306日かかっていた工期を250日へと、約18%(56日≒2.5か月)短縮することができる。