(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6677666
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】表示装置
(51)【国際特許分類】
G09F 9/00 20060101AFI20200330BHJP
B60R 1/00 20060101ALI20200330BHJP
B60K 37/00 20060101ALI20200330BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
G09F9/00 313
B60R1/00 Z
B60K37/00 A
C08J5/18CES
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-38324(P2017-38324)
(22)【出願日】2017年3月1日
(65)【公開番号】特開2018-144511(P2018-144511A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年8月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】市川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】栗田 隼人
(72)【発明者】
【氏名】松永 有理
【審査官】
川俣 郁子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−143371(JP,A)
【文献】
特開2016−177186(JP,A)
【文献】
特開2008−139833(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3090774(JP,U)
【文献】
特開2016−142798(JP,A)
【文献】
特開2010−215684(JP,A)
【文献】
米国特許第06437035(US,B1)
【文献】
特開2008−302549(JP,A)
【文献】
特開2008−012834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
B60K35/00−37/06
B60R1/00−1/04
1/08−1/12
C08J5/00−5/02
5/12−5/22
G09F9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源を含む表示素子と、前記表示素子と重なり合うように配置されている表面フィルムと、を含み、前記表面フィルムは、300μm以上2mm以下の厚さと、3%以上60%以下の全光線透過率を有し、
前記表面フィルムのJIS K6253に準拠するタイプA硬度(瞬間値)が40以上95以下であるか、またはタイプD硬度(5秒後)が30以上50以下であることを特徴とする、表示装置。
【請求項2】
前記表面フィルムの厚さは300μm以上1mm以下である、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記表面フィルムの全光線透過率は5%以上50%以下である、請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記表面フィルムはオレフィン系熱可塑性エラストマーを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項5】
前記表面フィルムは、200μm以上500μm以下の大きな凹凸の中に、1μm以上10μm以下の微細な凹凸が形成されたシボ形状を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項6】
前記表面フィルムは、JIS Z8741に準拠する60度鏡面光沢度において5%以下の光沢性を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項7】
自動車の内装に組み込まれている、請求項1から6のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項8】
光源を含む表示素子と重なり合うように配置されており、300μm以上2mm以下の厚さと、3%以上60%以下の全光線透過率を有し、
JIS K6253に準拠するタイプA硬度(瞬間値)が40以上95以下であるか、またはタイプD硬度(5秒後)が30以上50以下であることを特徴とする、表面フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車室等において、高級感を出すためにレザーのような外観を呈する装飾パネルが用いられることがある。一方、近年の自動車では、運転席のインストルメントパネルに様々な表示装置や機能部品が設けられている。例えば、従来から存在するスピードメーターやタコメーターや燃料の残量計などの計器類と、エアコンディショナーや窓の開閉やドアロック等のスイッチ群等に加えて、カーナビゲーションシステムの表示部および操作部や、外部モニターや、照明や、装飾部など、多種多様の表示装置や操作部が設けられる。前述したようにレザー状の装飾パネル等が用いられていても、特に運転席や助手席の周囲は、大部分がこれらの表示部や操作部によって占められており、十分な高級感や装飾性が得られにくい。
【0003】
また、建物(オフィスビルやホテルや店舗や一般家庭等)の室内においても、高級感のある壁材等を用いても、室内に多数存在する表示機器やその操作部等によって、壁材の高級感や装飾性が損なわれることがある。
【0004】
特許文献1には、発光素子が設けられている表示領域を含む広い範囲に透過性ウレタン合皮を貼付することによって、発光時には表示部や操作部を視認可能にして、非発光時には全面が透過性ウレタン合皮の皮模様の外観になるようにした発明が開示されている。特許文献2には、芳香族ではなく耐久性を有するポリウレタン樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4900877号公報
【特許文献2】特許5401320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明では、透過性ウレタン合皮を用いているが、その具体的な構成については言及されていない。従って、実際に発光時には表示部や操作部を視認可能にして、非発光時には表示部や操作部を視認できないようにすることは容易ではない。また、透過性ウレタン合皮の触感や耐久性に関しては全く考慮しておらず、高級感に乏しい触感であったり、透過性ウレタン合皮の経年劣化によって見映えが悪くなったりするおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、様々な表示部や操作部の機能を損なうことなく維持しつつ、高い装飾性を得ることができる、信頼性の高い表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の表示装置は、光源を含む表示素子と、表示素子と重なり合うように配置されている表面フィルムと、を含み、表面フィルムは、300μm以上2mm以下の厚さと、3%以上60%以下の全光線透過率を有
し、表面フィルムのJIS K6253に準拠するタイプA硬度(瞬間値)が40以上95以下であるか、またはタイプD硬度(5秒後)が30以上50以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表示装置によると、様々な表示部や操作部の機能を損なうことなく維持しつつ、高い装飾性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態の表示装置を含む車室の内装の、表示装置の発光状態を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す車室の内装の、表示装置の非発光状態示す模式図である。
【
図3】本発明の表示装置の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1,2は、本発明の一実施形態の表示装置を備えた自動車の車室の内装を示す概略図である。運転席および助手席の前方に位置する計器板(インストルメントパネル)の広い範囲(全面に近い範囲)に本発明の表示装置が採用されている。すなわち、
図1,2に示す例では、スピードメーターやタコメーターを含む車両データ表示部1と、カーナビゲーションシステムの表示部(表示部と操作部を兼ねたタッチパネルであってもよい)2と、受信した最新ニュースや天気予報や道路状況やその他の画像等を表示する受信データ表示部(インターネット端末であってもよい)3と、映像を表示するモニター4と、ハザードランプスイッチ5と、エアコンディショナースイッチ6(
図1,2にはエアコンディショナーの送風口12が示されている)とが設けられており、これらは本発明の表示装置を採用したものである。モニター4は、車外の映像を表示したり、テレビ受像器として用いられたりする。また、ピラー部に設けられている警告表示部7と、ドアに設けられている窓開閉スイッチ8およびドアロックスイッチ9と、コンソールに設けられている装飾および照明用パネル10と操作パネル11も、本発明の表示装置を採用している。警告表示部7は、センサー等によって検知した異常や危険を運転者に伝えるものである。装飾および照明用パネル10は、間接照明や発光装飾として用いられる。操作パネル11は、各ドアのロックや窓の開閉を運転席から行うための遠隔スイッチである。これらの表示装置が本発明の表示装置を採用しており、発光時には、
図1に示すように明瞭に表示されるが、非発光時には視認できず、表面フィルムが見える。
【0012】
図1,2に示す車室内に多数採用されている本実施形態の表示装置は、
図3に示すように、光源を含む表示素子100の表面に表面フィルム(シート)101が重ね合わせられた構成を有している。
図1に示すように多数の表示装置が設けられる場合には、
図3に示すように表面フィルム101を共有することができる。すなわち、大面積の表面フィルム101の裏面(外部に露出しない面)の複数個所に表示素子100をそれぞれ取り付けることにより、繋ぎ目がない良好な外観が得られるとともに、製造を容易にして効率を向上させつつコストを抑えることができる。光源を含む表示素子100は、特に限定されるものではなく、液晶素子やエレクトロルミネセンス素子やLED等を含む、従来から公知の構成であってよい。そして、本実施形態の表面フィルム101は、以下に記す特性を有するものである。
材料:オレフィン系熱可塑性エラストマー、または芳香族ではない耐久性ウレタン(芳香族ではない耐久性ウレタンとしては、特許文献2に記載されているポリウレタン樹脂を用いてもよい。)
透過率:全光線透過率
(JIS K7361に準拠する方法にて測定)が3%以上60%以下(好ましくは5%以上50%以下、さらに好ましくは10%以上40%以下)
厚さ:300μm以上2mm以下(好ましくは300μm以上1mm以下)
JIS K6253に準拠するタイプA硬度(瞬間値):40以上95以下
または、タイプD硬度(5秒後):30以上50以下
表面状態:平滑または凹凸形状(凹凸を有する形状の場合には、幾何学形状や皮革様の形状を取っていてもよい。その中でも特に好ましくは200μm以上500μm以下の大きな凹凸の中に、1μm以上10μm以下の微細な凹凸が形成されたシボ形状である。)
JIS Z8741に準拠する60度鏡面光沢度:5%以下(好ましくは3%以下)
【0013】
これらの特性について説明すると、材料としては、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマーの一例であるミラストマー(三井化学株式会社商品名)が好適に用いられ、含有されている微分散ゴム成分によって表示素子100の非発光時の遮光性と良好な触感とを得るとともに、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン樹脂成分によって発光時の透光性を確保している。これらの材料を用いて、3%以上60%以下(好ましくは5%以上50%以下、さらに好ましくは10%以上40%以下)の全光線透過率を実現して、発光時の良好な表示視認性を実現し、かつ、非発光時に表面フィルム101の下に位置する発光素子が透けて見えないよう遮光性も実現している。
【0014】
また、微分散ゴム成分の作用と、ある程度の厚さと、適切な硬度と、シボ形状とによって、本皮に類似した高級感のある触感を実現するとともに、非光沢性(グロスではなくマットな外観)を実現している。厚さと硬度に関しては、前述した好ましい範囲の中で適宜に設定すればよい。
【0015】
表面フィルム(シート)101がオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる場合には、耐摩耗性および耐傷付き性の向上と、触感や光沢調整のために、表面をウレタン系コート剤で薄く(数μ
mから数十μ
mの厚さに)コーティングしていてもよい。
【0016】
表面フィルム101の透過率・触感・耐久性などを補強する目的で、その他の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、カーボンブラックや酸化チタンなどの無機系顔料、有機系顔料、染料、熱安定剤、光安定剤、架橋剤、分散剤、滑材、アンチスリップ剤、核剤、発泡剤、抗菌剤、消臭剤、吸着剤、導電剤、難燃剤など挙げられる。添加剤は、目的に応じて表面フィルム101の主要部分をなす層に添加する代わりに、表面フィルム101の表面に位置するコーティング(コート剤)に添加したり、表面フィルム101の裏面に位置する粘着層や積層体層に添加したりしてもよい。
【0017】
さらに、本実施形態の表面フィルム101によると、優れた耐久性を実現することができる。すなわち、表面フィルム101は、耐熱性、耐光性、耐圧性、耐水性、耐摩耗性、耐擦過性に優れるとともに、へたりやブリードアウトにも強い。具体的には、長期間の使用の後でも、表面状態が変化しにくくシボ形状を保つことができる。表面状態が変化しにくく、ヘタリを生じにくい理由の1つは、架橋ゴムが含まれていることである。また、本実施形態の表面フィルム101は、塩化ビニルのように低分子量の(または揮発性の)可塑剤を多く含まないため、可塑剤が浮き出してべたべたな感触になることが少なく、さらに、一般的なウレタンのような黄変も生じにくい。
【0018】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、架橋ゴム微粒子が含まれることで良好な触感が得られる。そして、透明性および表示視認性の低下を抑えるため、具体的には架橋ゴム微粒子による光の散乱による表示画像の不明瞭さを防ぐために、表面フィルム101の厚みの一部をオレフィン系熱可塑性エラストマーとして、その他の厚みの部分を透明性の高いその他の部材(基材)で構成してもよい。その際のオレフィン系熱可塑性エラストマー層の厚さは、好ましくは10〜200μm以下、より好ましくは、20〜100μmである。このオレフィン系熱可塑性エラストマー層と前述した透明性の高い基材とが積層されて多層構造の表面フィルム101が構成され、透明性の高い基材によって、表面フィルム101の強度の低下が防止される。透明性の高い基材としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリルなどからなるフィルムやシートや板が挙げられる。表面が薄いオレフィン系熱可塑性エラストマーであることにより、高級感のある外観と触感と明瞭性とのバランスに優れ、裏面が透明材料であることにより表示装置からの発光を妨げることが少なく、全体としての強度にも優れる表面フィルム101となる。
【0019】
このように、本実施形態の表示装置によると、表面フィルム101の高級感のある外観と触感を実現できるとともに、発光時の表示が明瞭に視認でき、非発光時には表示素子100が目立たずに前述した表面フィルム101の良好な外観(装飾性)を十分に発揮させることができ、さらに、熱、光、圧力、水分、摩耗、擦れに強く、へたりやブリードアウトや黄変を起こしにいという極めて優れた耐久性を実現できる。このように、様々な観点において優れている表示装置は、従来は実現できておらず、本発明において、前述したように各種の特性を規定することによって初めて実現したものである。
【0020】
本発明の表面フィルム101は、前述したように多層構造であってもよく、オレフィン系熱可塑性エラストマー等からなるフィルムと積層されてそれを支持する基材は、圧電フィルム、ミラーフィルム、導電性フィルム、金属蒸着膜、回路パターンを有するフィルム、タッチパネル等であってよい。表面フィルム101の外観は、前述したようなレザー状に限られず、木目調、壁紙調、メタル調、石目調、タイル調などであってもよい。
【0021】
また、本発明の表面フィルム101は、成形性に優れているという利点をさらに有している。例えば、表示素子100の表面に配置されているガラスや樹脂ガラスと密着させ、加圧しながら真空引きして一体的に成形する際の、熱接着性や曲面追従に特に優れている。すなわち、本発明の表面フィルム101は、任意の表示素子100に隙間なく強固に密着するため、所望の形状の表示装置を形成することが容易にできる。この観点では、表面フィルムは熱可塑性を有する材料から形成されることが好ましい。
【0022】
なお、
図1,2に示すモニター4は、助手席の前方のインストルメントパネル全体を利用した全面モニターにすることも可能であり、車両の後方や死角位置の映像を表示したり、車両の位置を俯瞰的に示したり、追加情報(道路
情報など)を合わせて表示するなどの機能を有していてもよい。装飾および照明用パネル10は、特に停止時のルームランプやマップライトや読書灯や装飾的な間接照明等の照明部材として機能するものであってもよく、発光するカラーのドットやラインによるデザイン的な装飾部材であってもよい。また、装飾および照明用パネル10は、モニター4と同様な映像表示を行って、サブモニターとして機能するようなものであってもよい。
【0023】
本発明の表示装置は、自動車の内装に限られず、建物(オフィスビルやホテルや店舗や一般家庭等)の室内の内装の一部として用いることもできる。さらに、液晶テレビ、照明スイッチ、風呂場のモニター、家具、オーディオ機器、スピーカー、家電製品(炊飯器、電子レンジ、洗濯機、エアコンディショナーのパネル、電話機、リモコン等)など、あらゆる用途に応用可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 車両データ表示部
2 カーナビゲーションシステムの表示部
3 受信データ表示部
4 モニター
5 ハザードランプスイッチ
6 エアコンディショナースイッチ
7 警告表示部
8 窓開閉スイッチ
9 ドアロックスイッチ
10 装飾および照明用パネル
11 操作パネル
12 送風口
100 表示素子
101 表面フィルム