(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Agを2質量%以上3.8質量%以下と、Cuを0.9質量%以上1質量%以下と、Sbを1質量%以上5質量%以下と、NiおよびCoの少なくとも一方を合計で0.05質量%以上0.15質量%以下含み、残部がSnからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
P、Ga、およびGeの少なくとも1種を合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金。
Fe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金。
【背景技術】
【0002】
従来より、プリント配線板やシリコンウエハといった基板上に形成される電子回路に電子部品を接合する際には、ソルダペースト組成物を用いたはんだ接合方法が採用されている。このソルダペースト組成物には鉛を含有するはんだ合金を使用するのが一般的であった。しかし、環境負荷の観点からRoHS指令等によって鉛の使用が制限されたため、近年では鉛を含有しない、所謂鉛フリーはんだ合金によるはんだ接合方法が一般的になりつつある。
この鉛フリーはんだ合金としては、例えばSn−Cu系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Bi系、Sn−Zn系はんだ合金等がよく知られている。その中でもテレビ、携帯電話等に使用される民生用電子機器や自動車に搭載される車載用電子機器には、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金が多く使用されている。
鉛フリーはんだ合金は、鉛含有はんだ合金と比較してはんだ付性が多少劣るものの、フラックスやはんだ付装置の改良によってこのはんだ付性の問題はカバーされている。そのため、例えば車載用電子回路基板であっても自動車の車室内のように寒暖差はあるものの比較的穏やかな環境下に置かれるものにおいては、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部でも大きな問題は生じていない。
しかし近年では、例えば電子制御装置に用いられる電子回路基板のように、エンジンコンパートメントやエンジン直載、モーターとの機電一体化といった寒暖差が特に激しく(例えば−30℃から110℃、−40℃から125℃、−40℃から150℃といった寒暖差)、加えて振動負荷を受けるような過酷な環境下での電子回路基板の配置の検討および実用化がなされている。このような寒暖差が非常に激しい環境下では、実装された電子部品と基板との線膨張係数の差によってはんだ接合部に大きな応力が発生する。冷熱サイクルと共にはんだ接合部に繰り返し生じるこの応力は、はんだ接合部の塑性変形を何度も引き起こす。そのため、繰り返し塑性変形したはんだ接合部は非常に亀裂が生じ易くなり、また発生した亀裂の先端付近のはんだ接合部にはひずみが集中するため、亀裂は横断的にはんだ接合部の深部まで進展し易くなる。また激しい寒暖差に加え電子回路基板に振動が負荷される環境下にあっては、亀裂およびその進展は更に発生し易い。そうして著しく進展した亀裂は電子部品と基板上に形成された電子回路との電気的接続を切断してしまう。
上述する過酷な環境下に置かれる車載用電子回路基板および電子制御装置が増える中で、十分な亀裂進展抑制効果を発揮し得るSn−Ag−Cu系はんだ合金を用いたソルダペースト組成物への要望は、今後ますます大きくなることが予想される。
【0003】
また、車載用電子回路基板に搭載されるQFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)といった電子部品のリード部分には、従来、Ni/Pd/Auめっきされた部品が多用されていた。しかし近年の電子部品の低コスト化や基板のダウンサイジング化に伴い、リード部分をSnめっきに替えた電子部品や下面電極をもつ電子部品の検討および実用化がなされている。
はんだ接合時において、Snめっきされた電子部品は、Snめっきおよびはんだ接合部に含まれるSnとリード部分や前記下面電極に含まれるCuとの相互拡散を発生させ易い。この相互拡散により、前記リード部分および前記下面電極とはんだ接合部の界面付近にて、金属間化合物であるCu
3Sn層が凸凹状に大きく成長する。前記Cu
3Sn層は元々硬くて脆い性質を有する上に、凸凹状に大きく成長したCu
3Sn層は更に脆くなる。そのため、特に上述する過酷な環境下においては、前記界面付近ははんだ接合部と比較して亀裂が発生し易く、また発生した亀裂はこれを起点として一気に進展するため、電気的短絡が生じ易い。
従って、今後は前記のような過酷な環境下でNi/Pd/Auめっきがなされていない電子部品を用いた場合であっても前記界面付近における亀裂進展抑制効果を発揮し得る鉛フリーはんだ合金への要望も大きくなることが予想される。
【0004】
Snを母材とするはんだ合金にAgやBiといった元素を添加して鉛フリーはんだ合金を高強度化する方法はいくつか開示されている(特許文献1から特許文献7)。しかし、鉛フリーはんだ合金の高強度化だけでは一旦はんだ接合部に亀裂が生じた場合、その進展を抑制することは難しい。
【0005】
またBiの添加により高強度化した鉛フリーはんだ合金は延伸性が悪化するというデメリットもある。出願人がBiを添加した従来の鉛フリーはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部を寒暖差の激しい環境下に置いたところ、一定のはんだ接合部の亀裂進展抑制効果は見られたものの、はんだ接合部が電子部品の電極を剥がして短絡させるという現象が起きることを確認した。3.2mm×1.6mmサイズのチップ部品を用いた場合、顕著にこのような現象が観察された。
通常、リフローによるはんだ接合工程における冷却プロセスにおいては、基板の電子回路側から電子部品の電極側へはんだ合金が凝固し、はんだ接合部が形成される。そのため、その残留応力ははんだ接合部の上部に蓄積しやすい。ここで、Biの添加により延伸性が低下した鉛フリーはんだ合金はこの残留応力を緩和することが難しく、特に寒暖差の激しい環境下においては、はんだ接合部の電子部品電極近傍にて深部にまでに達する亀裂が生じ易くなる。その結果、この亀裂近傍の電子部品の電極に応力が集中してしまい、はんだ接合部が電子部品側の電極を剥離してしまうものと推測される。
この現象は、延伸性が良好なSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金では確認されておらず、従ってBiを鉛フリーはんだ合金に添加したことによって生じた弊害であると捉えられる。即ち、鉛フリーはんだ合金の高強度化のみでは電子部品の電極剥離現象の抑制は難しいものと考えられる。
【0006】
またNi/Pd/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合、前記リード部分および前記下面電極とはんだ接合部の界面付近にて、金属間化合物であるCu
3Sn層が凸凹状に大きく成長するため、この界面付近における亀裂進展の抑制は難しい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の鉛フリーはんだ合金、並びに電子回路基板および電子制御装置の一実施形態を詳述する。なお、本発明が以下の実施形態に限定されるものではないことはもとよりである。
【0020】
(1)鉛フリーはんだ合金
本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Agを1重量%以上4重量%以下と、Cuを0.5重量%以上1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、NiおよびCoの少なくとも一方を合計で0.05重量%以上0.25重量%以下含み、実質的に残部がSnからなる。
【0021】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、1重量%以上4重量%以下のAgを含有させることができる。Agを添加することにより、鉛フリーはんだ合金のSn粒界中にAg
3Sn化合物を析出させ、機械的強度を付与することができる。
但し、Agの含有量が1重量%未満の場合、Ag
3Sn化合物の析出が少なく、鉛フリーはんだ合金の機械的強度および耐熱衝撃性が低下するので好ましくない。またAgの含有量が4重量%を超えると、鉛フリーはんだ合金の延伸性が阻害され、これを用いて形成されるはんだ接合部が電子部品の電極剥離現象を引き起こす虞があるので好ましくない。
またAgの含有量を2重量%以上3.8重量%以下とすると、鉛フリーはんだ合金の強度と延伸性のバランスをより良好にできる。
【0022】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、0.5重量%以上1重量%以下のCuを含有させることができる。この範囲でCuを添加することで、電子回路のCuランドに対するCu食われ防止効果を発揮すると共に、Sn粒界中にCu
6Sn
5化合物を析出させることにより鉛フリーはんだ合金の耐熱衝撃性を向上させることができる。なお、本実施形態におけるCuの特に好ましい含有量は、0.5重量%若しくは0.9重量%から1重量%である。
但し、Cuの含有量が0.5重量%未満では十分なCu食われ防止効果が得られず、1重量%を超えるとCu
6Sn
5化合物が接合界面近傍に集中して析出するようになり、接合信頼性が低下すると共に、鉛フリーはんだ合金の延伸性が阻害されるので好ましくない。
また特にCuの含有量が0.5重量%の場合、Cuランドに対するCu食われ防止効果を発揮することができると共に、溶融時の鉛フリーはんだ合金の粘度を良好な状態に保つことができ、リフロー時におけるボイドの発生を抑制し、形成するはんだ接合部の耐熱衝撃性を向上することができる。
さらにCuの含有量が0.9重量%から1重量%の場合、Cuランドに対するCu食われ防止効果を十分に発揮することができると共に、Cuランドから溶融した鉛フリーはんだ合金へのCuの拡散を防止することで電子部品側でのCu
6Sn
5化合物の粗大化が抑制され、はんだ接合部の耐熱衝撃性を向上させることができる。更には、溶融した鉛フリーはんだ合金のSn結晶粒界に微細なCu
6Sn
5が分散することで、Snの結晶方位の変化を抑制し、はんだ接合形状(フィレット形状)の変形を抑制することができる。
なお、鉛フリーはんだ合金にCuを含有させる場合、その量が多いと上述の通り接合界面近傍にCu
6Sn
5化合物が析出し易くなり、接合信頼性や鉛フリーはんだ合金の延伸性を阻害する虞がある。しかし本実施形態に係る鉛フリー合金の構成であれば、Cuの含有量を0.9重量%から1重量%としても当該Cu
6Sn
5化合物の粗大化を抑制すると共にその良好な延伸性を保つことができ、接合信頼性の低下を抑制することができる。
【0023】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、1重量%以上5重量%以下のSbを含有させることができる。この範囲でSbを添加することで、Sn−Ag−Cu系はんだ合金の延伸性を阻害することなくはんだ接合部の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。特にSbの含有量を2重量%以上4重量%以下とすると、亀裂進展抑制効果を更に向上させることができる。
【0024】
ここで、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝されるという外部応力に耐えるには、鉛フリーはんだ合金の靭性(応力−歪曲線で囲まれた面積の大きさ)を高め、延伸性を良好にし、且つSnマトリックスに固溶する元素を添加して固溶強化をすることが有効であると考えられる。そして、十分な靱性および延伸性を確保しつつ、鉛フリーはんだ合金の固溶強化を行うためにはSbが最適な元素となる。
即ち、実質的に母材をSnとする鉛フリーはんだ合金に上記範囲でSbを添加することで、Snの結晶格子の一部がSbに置換され、その結晶格子に歪みが発生する。そのため、このような鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部は、Sn結晶格子の一部のSb置換により前記結晶中の転移に必要なエネルギーが増大してその金属組織が強化される。更には、Sn粒界に微細なSnSb、ε−Ag
3(Sn,Sb)化合物が析出することにより、Sn粒界のすべり変形を防止することではんだ接合部に発生する亀裂の進展を抑制し得る。
【0025】
また、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金に比べ、上記範囲でSbを添加した鉛フリーはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部の組織は、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝した後もSn結晶が微細な状態を確保しており、亀裂が進展しにくい構造であることを確認した。これはSn粒界に析出しているSnSb、ε−Ag
3(Sn,Sb)化合物が寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝した後においてもはんだ接合部内に微細に分散しているため、Sn結晶の粗大化が抑制されているものと考えられる。即ち、上記範囲内でSbを添加した鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部は、高温状態ではSnマトリックス中へのSbの固溶が、低温状態ではSnSb、ε−Ag
3(Sn,Sb)化合物の析出が起こるため、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝された場合にも、高温下では固溶強化、低温下では析出強化の工程が繰り返されることにより、優れた耐冷熱衝撃性を確保し得ると考えられる。
【0026】
さらに、上記範囲でSbを添加した鉛フリーはんだ合金は、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金に対して延伸性を低下させずにその強度を向上させることができるため、外部応力に対する十分な靱性を確保でき、残留応力も緩和することができるため、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝した場合にもはんだ接合部の亀裂抑制および電子部品の電極剥離現象を抑制することができる。
【0027】
但し、Sbの含有量が5重量%を超えると、鉛フリーはんだ合金の溶融温度が上昇してしまい、高温下でSbが再固溶しなくなる。そのため、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝した場合、SnSb、ε−Ag
3(Sn,Sb)化合物による析出強化のみが行われるため、時間の経過と共にこれらの金属間化合物が粗大化し、Sn粒界のすべり変形の抑制効果が失効してしまう。またこの場合、鉛フリーはんだ合金の溶融温度の上昇により電子部品の耐熱温度も問題となるため、好ましくない。
【0028】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、NiおよびCoの少なくとも一方を合計で0.05重量%以上0.25重量%以下含有させることができる。この範囲でNiおよびCoの少なくとも一方を添加することで、本実施形態の鉛フリーはんだを用いてNi/Pd/Auめっきがなされていない電子部品をはんだ接合する場合であっても、Niおよび/またはCoがはんだ接合時に電子部品とはんだ接合部の界面付近に移動して微細な(Cu,Ni)
6Sn
5および/または(Cu,Co)
6Sn
5を形成するため、その界面付近おけるCu
3Sn層の成長が抑制される。これにより、前記界面付近の亀裂進展抑制効果が向上する。
但し、NiおよびCoの少なくとも一方の含有量が0.05重量%未満であると、前記界面付近のNiおよび/またはCoの量が少なくなり、金属間化合物の改質効果が不十分となるため、十分な亀裂抑制効果は得られ難い。またNiおよびCoの少なくとも一方の含有量が0.25重量%を超えると、鉛フリーはんだ合金が酸化し易くなり、その濡れ性が阻害されるので好ましくない。
NiおよびCoの少なくとも一方の好ましい含有量は0.05重量%以上0.25重量%以下であり、より好ましい含有量は0.05重量%以上0.15重量%以下である。
なお、本実施形態に係る鉛フリーはんだ合金は、NiおよびCoの少なくとも一方を0.05重量%以上含有させれば、これらが電子部品とはんだ接合部の界面に微細な(Cu,Ni)
6Sn
5または(Cu,Co)
6Sn
5(両方含有させた場合はその双方)を形成するため、前記亀裂進展抑制効果の向上を実現することができる。
また本実施形態に係る鉛フリーはんだ合金にNiおよびCoの両方を含有させる場合、Coの含有量に対するNiの含有量の質量比(Ni/Co)は、0.25重量%以上4重量%以下であることが好ましい。
更には、本実施形態に係る鉛フリーはんだ合金にNiまたはCoのいずれかを含有させる場合、それぞれの好ましい含有量は0.05重量%から0.25重量%であり、より好ましいその含有量は0.05重量%から0.15重量%である。
【0029】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、6重量%以下のInを含有させることができる。この範囲内でInを添加することにより、Sbの添加により上昇した鉛フリーはんだ合金の溶融温度を低下させると共に亀裂進展抑制効果を向上させることができる。即ち、InもSbと同様にSnマトリックス中へ固溶するため、鉛フリーはんだ合金を更に強化することができるだけでなく、AgSnIn、およびInSb化合物を形成しこれをSn粒界に析出させることでSn粒界のすべり変形を抑制する効果を奏する。
本発明のはんだ合金に添加するInの含有量が6重量%を超えると、鉛フリーはんだ合金の延伸性を阻害すると共に、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝されている間にγ−InSn
4が形成され、鉛フリーはんだ合金が自己変形してしまうため好ましくない。
なお、Inのより好ましい含有量は、4重量%以下であり、1重量%から2重量%が特に好ましい。
【0030】
更に本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、3重量%以下のBiを含有させることができる。本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成であれば、この範囲内でBiを添加することにより、鉛フリーはんだ合金の延伸性に影響を及ぼすことなく、その強度を向上させると共にSb添加により上昇した溶融温度を低下させることができる。即ち、BiもSbと同様にSnマトリックス中へ固溶するため、鉛フリーはんだ合金を更に強化することができる。但し、Biの含有量が3重量%を超えると鉛フリーはんだ合金の延伸性を低下させ、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝された際、当該鉛フリーはんだ合金により形成されたはんだ接合部が電子部品の電極剥離現象を起こし易くなるため好ましくない。
【0031】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、8重量%以下のZnを含有させることができる。この範囲内でZnを添加することにより、鉛フリーはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部の耐クリープ性および亀裂進展抑制効果を向上させると共に、Sb添加により上昇した溶融温度を低下させることができる。即ち、Znの添加により、はんだ接合部/Cu
55Zn
8/Cu
6Sn
5/Cuの界面構造を形成し、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝された際の、はんだ接合部の金属間化合物の成長を抑制することができる。但し、Znの含有量が8重量%を超えると鉛フリーはんだ合金が酸化し易くなり、その濡れ性が阻害されるので好ましくない。
なお、Znのより好ましい含有量は、5重量%以下であり、より好ましい含有量は3重量%以下である。
【0032】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、Fe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を0.001重量%以上0.05重量%以下含有させることができる。この範囲内でFe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を添加することにより、鉛フリーはんだ合金の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。但し、これらの含有量が0.05重量%を超えると鉛フリーはんだ合金の溶融温度が上昇し、またはんだ接合部にボイドが発生し易くなるため好ましくない。
【0033】
更に本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、P、Ga、およびGeの少なくとも1種を0.001重量%以上0.05重量%以下含有させることができる。この範囲内でP、Ga、およびGeの少なくとも1種を添加することにより、鉛フリーはんだ合金の酸化を防止することができる。但し、これらの含有量が0.05重量%を超えると鉛フリーはんだ合金の溶融温度が上昇し、またはんだ接合部にボイドが発生し易くなるため好ましくない。
【0034】
なお、本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、その効果を阻害しない範囲において、他の成分(元素)、例えばCd、Tl、Se、Au、Ti、Si、Al、Mgを含有させることができる。また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、当然ながら不可避不純物も含まれるものである。
【0035】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、実質的にその残部はSnからなることが好ましい。
【0036】
(2)ソルダペースト組成物
本実施形態の電子回路基板および電子制御装置に用いるソルダペースト組成物は、例えば粉末状にした前記鉛フリーはんだ合金とフラックスとを混練しペースト状にすることにより作製される。
【0037】
このようなフラックスとしては、例えば合成樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスが用いられる。
【0038】
前記合成樹脂としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の各種エステル、メタクリル酸の各種エステル、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のエステル、無水マレイン酸のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニルの少なくとも1種のモノマーを重合してなるアクリル樹脂、カルボキシル基を有するロジン系樹脂とダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなる誘導体化合物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびロジン系樹脂等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて用いることができる。
【0039】
前記アクリル樹脂の中でも、特にメタクリル酸と炭素鎖が直鎖状である炭素数2から20の飽和アルキル基を2つ有するモノマーを含むモノマー類とを重合して得られるアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0040】
また前記カルボキシル基を有するロジン系樹脂とダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなる誘導体化合物(以下、「ロジン誘導体化合物」という。)に使用するカルボキシル基を有するロジン系樹脂としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン;水添ロジン、重合ロジン、不均一化ロジン、アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン等のロジン誘導体等が挙げられ、これら以外にもカルボキシル基を有するロジンであれば使用することができる。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0041】
次に前記ダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物としては、例えばダイマージオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルダイマージオールのようなダイマー酸から誘導される化合物であって、その末端にアルコール基を有するもの等が挙げられ、例えばPRIPOL2033、PRIPLAST3197、PRIPLAST1838(以上、クローダジャパン(株)製)等を用いることができる。
【0042】
前記ロジン誘導体化合物は、前記カルボキシル基を有するロジン系樹脂と前記ダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合することにより得られる。この脱水縮合の方法としては一般的に用いられる方法を使用することができる。また、前記カルボキシル基を有するロジン系樹脂と前記ダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合する際の好ましい重量比率は、それぞれ25:75から75:25である。
【0043】
前記合成樹脂の酸価は10mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることが好ましく、その配合量はフラックス全量に対して10重量%以上90重量%以下であることが好ましい。
【0044】
前記チキソ剤としては、例えば水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記チキソ剤の配合量は、フラックス全量に対して3重量%以上15重量%以下であることが好ましい。
【0045】
前記活性剤としては、例えば有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸、有機酸塩、有機アミン塩を配合することができる。更に具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩、酸塩、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記活性剤の配合量は、フラックス全量に対して5重量%以上15重量%以下であることが好ましい。
【0046】
前記溶剤としては、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、グリコールエーテル等を使用することができる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記溶剤の配合量は、フラックス全量に対して20重量%以上40重量%以下であることが好ましい。
【0047】
前記フラックスには、鉛フリーはんだ合金の酸化を抑える目的で酸化防止剤を配合することができる。この酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。その中でも特にヒンダードフェノール系酸化剤が好ましく用いられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記酸化防止剤の配合量は特に限定されないが、一般的にはフラックス全量に対して0.5重量%以上5重量%程度以下であることが好ましい。
【0048】
前記フラックスには、その他の樹脂、並びにハロゲン、つや消し剤および消泡剤等の添加剤を加えてもよい。
前記添加剤の配合量は、フラックス全量に対して10重量%以下であることが好ましい。またこれらの更に好ましい配合量はフラックス全量に対して5重量%以下である。
【0049】
なお、前記フラックスにより形成されるフラックス残渣は、これに−40℃/30分から125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2000サイクル与えた後の接着力を0.2N/mm
2以上に保つことができるものが好ましい。このようなフラックス残渣を形成することのできるフラックスを用いることにより、フラックス残渣が基板とはんだ接合部と電子部品とを強固に接着させ自身が硬化収縮するため、寒暖の差が激しい環境下においてはんだ接合部に亀裂が発生したとしても、発生した亀裂の先端付近に集中するひずみを分散するためその亀裂面の開口を防止することができ、亀裂の進展を抑制することができる。
【0050】
なお、本明細書において、前記フラックス残渣の接着力は、以下の測定方法にて測定される。
フラックスまたはこれを用いたソルダペースト組成物を用いて基板上にチップ部品を表面実装し、当該基板上にフラックス残渣を形成する。当該フラックス残渣は前記基板、前記チップ部品および前記はんだ接合部とに囲まれる空間に介在し、これらに接着するように形成される。
その後、冷熱衝撃試験装置等を用いて前記基板に−40℃/30分から125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2000サイクル与える。
【0051】
そして当該冷熱衝撃試験後の基板上にあるフラックス残渣について、オートグラフ等を用いてその接着力を測定する。測定の条件はJIS規定C60068−2−21に準拠する。測定に用いるジグは端面が平坦で部品寸法と同等以上の幅を持つせん断ジグとする。測定にあたっては、当該せん断ジグを前記冷熱衝撃試験後のチップ部品側面に突き当てて所定のせん断速度にて前記基板に平行な力を加えてその最大試験力を求め、この値を前記チップ部品の面積で除してフラックス残渣の接着力を算出する。この時、せん断高さは部品高さの1/4以下とし、せん断速度は5mm/分とする。
【0052】
前記鉛フリーはんだ合金とフラックスとの配合比率は、はんだ合金:フラックスの比率で65:35から95:5であることが好ましい。より好ましい配合比率は85:15から93:7であり、特に好ましい配合比率は89:11から92:8である。
【0053】
(3)電子回路基板
本実施形態の電子回路基板の構成を
図1を用いて説明する。本実施形態の電子回路基板100は、基板1と、絶縁層2と、電極部3と、電子部品4と、はんだ接合体10とを有する。はんだ接合体10は、はんだ接合部6とフラックス残渣7とを有し、電子部品4は、外部電極5と、端部8を有する。
基板1としては、プリント配線板、シリコンウエハ、セラミックパッケージ基板等、電子部品の搭載、実装に用いられるものであればこれらに限らず基板1として使用することができる。
電極部3は、はんだ接合部6を介して電子部品4の外部電極5と電気的に接合している。またフラックス残渣7は、絶縁層2、はんだ接合部6および電子部品4とに囲まれた空間を充填し、これらに接着するように形成される。更にこれとは別に、フラックス残渣7は絶縁層2、はんだ接合部6、電子部品4の端部8を覆うようにも形成される。
【0054】
このような構成を有する本実施形態の電子回路基板100は、はんだ接合部6が亀裂進展抑制および電極剥離現象抑制効果を発揮する合金組成であるため、はんだ接合部6に亀裂が生じた場合であってもその亀裂の進展を抑制し得ると共に、電子部品4の電極剥離現象をも抑制することができる。
また本実施形態の電子回路基板100は、フラックス残渣7が絶縁層2、はんだ接合部6および電子部品4とをより強固に接着しており、このような構成により、上記亀裂進展および電極剥離現象の抑制効果を更に向上させることができる。
【0055】
このような電子回路基板100は、例えば以下のように作製される。
先ず、所定のパターンとなるように形成された絶縁層2および電極部3を備えた基板1上に、前記ソルダペースト組成物を上記パターンに従い印刷する。
次いで印刷後の基板1上に電子部品4を実装し、これを220℃から260℃の温度でリフローを行う。このリフローにより基板1上にはんだ接合部6およびフラックス残渣7を有するはんだ接合体10が形成されると共に、基板1と電子部品4とが電気的接合された電子回路基板100が作製される。
【0056】
またこのような電子回路基板を組み込むことにより、本実施形態の電子制御装置が作製される。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
フラックスの作製
以下の各成分を混練し、実施例および比較例に係るフラックスを得た。
水添酸変性ロジン(製品名:KE−604、荒川化学工業(株)製) 51重量%
硬化ひまし油 6重量%
エイコサ二酸 5重量%
マロン酸 1重量%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2重量%
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(製品名:イルガノックス245、BASFジャパン(株)製) 1重量%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 34重量%
【0059】
ソルダペースト組成物の作製
前記フラックス11.0重量%と、表1から表5に記載の各鉛フリーはんだ合金の粉末(粉末粒径20μmから36μm)89.0重量%とを混合し、実施例3から6および75、参考例1、2、7から74および76から80(表1から表3)、および比較例1から34(表4から表5)に係る各ソルダペースト組成物を作製した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
(1)はんだ亀裂試験
3.2mm×1.6mmのサイズのチップ部品と、当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよび前記チップ部品を接続する電極(1.6mm×1.2mm)とを備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用意した。
前記ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペースト組成物を印刷し、それぞれ前記チップ部品を搭載した。
その後、リフロー炉(製品名:TNP−538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて前記各ガラスエポキシ基板を加熱してそれぞれに前記ガラスエポキシ基板と前記チップ部品とを電気的に接合するはんだ接合部を形成し、前記チップ部品を実装した。この際のリフロー条件は、プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度を245℃とし、200℃以上の時間が65秒間、220℃以上の時間が45秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度を2℃から8℃/秒とし、酸素濃度は1500±500ppmに設定した。
次に、−40℃(30分間)から125℃(30分間)の条件に設定した冷熱衝撃試験装置(製品名:ES−76LMS、日立アプライアンス(株)製)を用い、冷熱衝撃サイクルを1,000、1,500、2,000、2,500、3,000サイクル繰り返す環境下に前記各ガラスエポキシ基板をそれぞれ曝した後これを取り出し、各試験基板を作製した。
そして、各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol−25、丸本ストルアス(株)、製)を用いて各試験基板に実装された前記チップ部品の中央断面が分かるような状態とし、形成されたはんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かを走査電子顕微鏡(製品名:TM−1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察し、以下の基準にて評価した。その結果を表6から表10に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価チップ数は20個とした。
◎:3,000サイクルまではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,501から3,000サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
△:2,001から2,500サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
×:2,000サイクル未満ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
【0066】
(2)電極剥離試験
冷熱衝撃サイクルを1,000、1,500、2,000、2,500、3,000、3,500サイクル繰り返す環境下に各ガラスエポキシ基板を置く以外ははんだ亀裂試験と同じ条件にて各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol−25、丸本ストルアス(株)製)を用いて各試験基板に実装された前記チップ部品の中央断面が分かるような状態とし、
図2に表すような、はんだ接合部が前記チップ部品の電極を剥離してしまうような現象が発生しているか否かについて走査電子顕微鏡(製品名:TM−1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察し、以下のように評価した。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価チップ数は20個とした。その結果を表6から表10に表す。
◎:3,500サイクルまでチップ部品の電極剥離現象発生せず
○:3,001から3,500サイクルの間でチップ部品の電極剥離現象発生
△:2,001から3,000サイクルの間でチップ部品の電極剥離現象発生
×:2,000サイクル未満でチップ部品の電極剥離現象発生
【0067】
(3)SnめっきQFPにおけるはんだ亀裂試験
26mm×26mm×1.6mmtサイズの0.5mmピッチQFP部品(リード数176ピン、製品名:R5F5630ADDFC、ルネサスエレクトロニクス(株)製)と、当該QFP部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよび前記QFP部品を接続する電極(0.25mm×1.3mmの電極が176個)とを備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用意した。
前記ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペースト組成物を印刷し、それぞれに前記QFP部品を搭載した。その後、冷熱衝撃サイクルを1,000、2,000、3,000サイクル繰り返す環境下に各ガラスエポキシ基板を置く以外ははんだ亀裂試験と同じ条件にて前記ガラスエポキシ基板に冷熱衝撃を与え、各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol−25、丸本ストルアス(株)製)を用いて各試験基板に実装された前記QFP部品の中央断面が分かるような状態とし、はんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かについて走査電子顕微鏡(製品名:TM−1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察し、はんだ母材に発生した亀裂と、はんだ接合部とQFP部品のリードとの界面(の金属間化合物)に発生した亀裂に分けて以下のように評価した。その結果を表6から表10に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価QFP数は20個とし、QFP1個あたり4角の8リードを観察し、合計160リードの断面を確認した。
・はんだ母材に発生した亀裂
◎:3,000サイクルまではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
△:1,001から2,000サイクルの間ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
×:1,000サイクル未満ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
・はんだ接合部とQFP部品のリードとの界面に発生した亀裂
◎:3,000サイクルまで前記界面を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
△:1,001から2,000サイクルの間で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
×:1,000サイクル未満で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
【0068】
(4)SnめっきSONにおけるはんだ亀裂試験
6mm×5mm×0.8tmmサイズの1.3mmピッチSON(Small Outline Non−leaded package)部品(端子数8ピン、製品名:STL60N3LLH5、STMicroelectronics社製)と、当該SON部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよび前記SON部品を接続する電極(メーカー推奨設計に準拠)とを備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用いる以外はSnめっきQFPにおけるはんだ亀裂試験と同じ条件にて各試験基板を作製し、およびはんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かについて走査電子顕微鏡(製品名:TM−1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察した。この観察に基づき、はんだ母材に発生した亀裂と、はんだ接合部とSON部品の電極の界面(の金属間化合物)に発生した亀裂に分けて以下のように評価した。その結果を表6から表10に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価SON数は20個とし、SON1個あたりゲート電極の1端子を観察し、合計20端子の断面を確認した。
・はんだ母材に発生した亀裂
◎:3,000サイクルまではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
△:1,001から2,000サイクルの間ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
×:1,000サイクル未満ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
はんだ接合部とSON部品の電極の界面に発生した亀裂
◎:3,000サイクルまで前記界面を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
△:1,001から2,000サイクルの間で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
×:1,000サイクル未満で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
【0069】
(5)液相線測定
実施例および比較例に係る各鉛フリーはんだ合金について、示差走査熱量測定装置(製品名:EXSTAR DSC6200、セイコーインスツル(株))を用いて液相線温度を測定した。なお、測定条件は、昇温速度を常温から150℃までは10℃/min、150℃から250℃までは2℃/minとし、そのサンプル量を10mgとした。その結果を表6から表10に表す
【0070】
(6)ボイド試験
はんだ亀裂試験と同様の条件にてチップ部品を各ガラスエポキシ基板上に搭載した各試験基板を作製した。そして各試験基板の表面状態をX線透過装置(製品名:SMX−160E、(株)島津製作所製)で観察し、はんだ接合部が形成されている領域に占めるボイドの総面積の割合(ボイドの面積率)を測定した。ボイドの発生状況は各試験基板中40箇所のランドにおけるボイドの面積率の平均値を求めて、以下のように評価した。その結果を表6から表10に表す。
◎:ボイドの面積率の平均値が3%以下であって、ボイド発生の抑制効果が極めて良好
○:ボイドの面積率の平均値が3%超5%以下であって、ボイド発生の抑制効果が良好
△:ボイドの面積率の平均値が5%超10%以下であって、ボイド発生の抑制効果が十分
×:ボイドの面積率の平均値が10%超15%以下であって、ボイド発生の抑制効果が不十分
【0071】
(8)銅食われ試験
銅配線の厚さが35μmのFR4基板を適宣な大きさに裁断した。そしてその銅配線面にプリフラックスを塗布した後、60秒間予備加熱して試験用基板の温度を約120℃にした。次いで、実施例および比較例に係る各鉛フリーはんだ合金を溶融させた噴流はんだ槽を準備し、各試験用基板をこの噴流はんだ槽の噴流口から2mm上部に置いて、墳流している溶融はんだ中に3秒間浸漬させた。この浸漬工程を繰り返し行い、各試験用基板の銅配線のサイズが半減するまでの浸漬回数を測定し、以下のように評価した。その結果を表6から表10に表す。
○:4回以上の浸漬でも銅配線のサイズが半減しない。
×:3回以下の浸漬で銅配線のサイズが半減した。
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
【表10】
【0077】
以上に示す通り、実施例に係る鉛フリーはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部は、寒暖の差が激しく振動が負荷されるような過酷な環境下にあって、且つ、Snめっきの電子部品を用いた場合であっても、その亀裂進展の抑制とはんだ接合部による電子部品の電極剥離現象を抑制することができる。なお、Biを3.0重量%以下配合した場合であっても、延伸性を阻害することなく、亀裂進展と電極剥離現象の抑制効果を発揮し得る。
また特にInを配合した鉛フリーはんだ合金にあっては、亀裂進展抑制および電極剥離現象抑制効果を阻害することなく、その液相線を低下することができる。
従って、このようなはんだ接合部を有する電子回路基板は車載用電子回路基板といった高い信頼性の求められる電子回路基板にも好適に用いることができる。更にこのような電子回路基板は、より一層高い信頼性が要求される電子制御装置に好適に使用することができる。